説明

合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備

【課題】簡易な構成によって環境による影響を防止する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備を提供すること。
【解決手段】橋梁の長手方向に敷設された底鋼板3と橋梁の幅方向の両端に起立した側鋼板4とを鋼板型枠5として合成床版コンクリートを打設する際、底鋼板3上を覆うためのものであって、側鋼板4と、長手方向に連続して複数配置された検測棒に固定したレール部材8とによって構成した複数本のレールと、複数本のレールの位置に設けられた複数の縦骨111と、その縦骨111の少なくとも上端部を連結する横骨112とが組まれた骨組み11に、上面及び幅方向の両側面を覆う保護シート12が張られ、縦骨に11は、レール上を転動するローラ部材13が設けられた移動屋根10とを有する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁を構成する合成床版コンクリートの打設に際し、簡易な構成によって環境による影響を防止する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁では、例えば複数本の鋼桁が支承を介して橋脚または橋台によって支持され、鋼桁上に床版が敷設される。その床版は、コンクリート床版の場合、鋼桁上に足場や型枠が設けられ、その型枠内には複数の鉄筋が格子状に配置され、その型枠内へ床版コンクリートが打設される。合成床版の場合、底鋼板及び鋼板型枠に鉄筋を配筋し、その型枠内にコンクリートを打設する。コンクリートの打設後は、一定期間養生マットやブルーシートなどの養生シートが被せられる。
【0003】
ところで日差しの強い季節では、打設されたコンクリートが直射日光を受けて水分が蒸発してしまい、ひび割れが入るなどの問題が生じる。コンクリートは、水和反応で発生する熱によって自然乾燥して固化するが、強い太陽光によって温められ、それによって水分が蒸発してしまうと、異常に乾燥が促進されて不均一な乾燥状態となってしまうからである。そこで、下記特許文献1には、コンクリート基礎の上部にシートを掛けて太陽光を遮り、シートの下側より散水させて蒸発する水分を補給し、コンクリートのひび割れを防ぐことを目的とした散水機能付養生保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−256705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした従来の散水機能付養生保護装置は、橋梁を構成する床版コンクリートに使用するにはコストがかかりすぎてしまう。広い面積を養生シートによって覆わなければならないため装置自体が高価なものになってしまうからである。一方で、養生シートにも様々な種類のものがあるが、水分を保持する機能をもった材質のものなども高価であり、同様にコスト高になってしまう。更に、架設した鋼板パネルを型枠代わりに使用する施工方法では、強い太陽光がコンクリートを直接温めるだけではなく、コンクリートを打設する前の鋼板パネルも熱してしまう。橋梁の施工中、桁の上にはなにも無いため鋼板パネルは異常に温度上昇してしまい、そこにコンクリートが流し込まれることにより内部の水分が蒸発してしまう。従って、こうした問題は養生以前の水分蒸発には対処できない。また、その他にも突然の雷雨などによって逆に水分過多になってしまい所定の品質が得られなくなる問題も生じ得る。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決すべく、簡易な構成によって環境による影響を防止する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備は、橋梁の長手方向に敷設された底鋼板と橋梁の幅方向の両端に起立した側鋼板とを鋼板型枠として合成床版コンクリートを打設する際、前記底鋼板上を覆うためのものであって、前記側鋼板と、前記長手方向に連続して複数配置された検測棒に固定したレール部材とによって構成した複数本のレールと、前記複数本のレールの位置に設けられた複数の縦骨と、その縦骨の少なくとも上端部を連結する横骨とが組まれた骨組みに、上面及び前記幅方向の両側面を覆う保護シートが張られ、前記縦骨には、前記レール上を転動するローラ部材が設けられた移動屋根とを有するものであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備は、前記検測棒の上部には雄ネジが形成され、前記レール部材によるレールは、前記検測棒に貫通された部分が前記雄ネジに螺設した締結ナットによって固定される固定部材と、その固定部材同士を架け渡して配置されたレール棒とからなるものであることが好ましい。
また、本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備は、前記移動屋根が、前記長手方向の端部に開閉可能な保護シートによるカーテンが設けられたものであることが好ましい。
また、本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備は、前記移動屋根が、前記ローラ部材にモータを備えたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単管パイプなどを使用した骨組みに、ホワイトシートなどの保護シートを被せた簡易な構成による移動屋根が底鋼板上を覆うため、強い太陽光による温度上昇を防止してコンクリートの十分な初期強度増進が行われるため、硬化後の自己収縮によるひび割れを抑制した品質の良い合成床版コンクリートの打設が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備の実施形態を移動方向正面から示した概念図である。
【図2】合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備の実施形態を側面から示した概念図である。
【図3】側鋼板に走行用ローラが載せられた状態を示した拡大図である。
【図4】レール部材に走行用ローラが載せられた状態を示した拡大図である。
【図5】図4を矢印A方向から示した図である。
【図6】カーテンを有する移動屋根の実施形態を移動方向正面から示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備について、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1及び図2は、合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備を示した概念図であり、図1は橋梁の長手方向に見た正面図で、図2は橋梁の幅方向に見た側面図である。橋梁は、複数本の鋼桁1が支承を介して橋脚または橋台によって支持され、鋼桁上に床版が敷設される。本実施形態の場合、鋼桁1の上に底鋼板3が張り渡され、側部には側鋼板4が起立して構成している。
【0012】
この橋梁では、底鋼板3と側鋼板4が鋼板型枠5として機能し、そこにコンクリートが打設され合成床版コンクリートが造られる。その際、流し込まれたコンクリートの深さを確認するため、鋼板型枠5の底部に検測棒7が鉛直に突き立てられている。検測棒7は、合成床版コンクリートを打設する範囲全体に渡って設けられており、本実施形態では、幅方向には鋼桁1上の3箇所に配置され、更にその鋼桁1に沿って長手方向にも一定の間隔で直線上に複数設けられている。
【0013】
本実施形態では、こうした鋼板型枠5に対して床版コンクリートを打設する箇所を覆うための移動屋根10が設置される。移動屋根10は、単管パイプを組んだ骨組み11に例えば白色ビニールシート(ホワイトシート)などによる保護シート12が取り付けられ、周りが覆われている。骨組み11は、複数の縦骨111が鉛直方向に配置され、その上端部分或いは中間部が横骨112によって連結されている。
【0014】
縦骨111は、図1に示すように、幅方向に5本が配置されている。これは、後述するように、鋼板型枠5に形成された5本のレール上に配置されているのであって、縦骨111は、更に各レールに沿ってそれぞれ複数本が列になって並べられている。レールは、左右両端の縦骨111が側鋼板4上にあり、その間の縦骨111は検測棒7の位置に配置されている。一方、横骨112は、縦骨111同士を上端部で連結するように、格子状に組まれ、縦骨111と斜交の補助骨113を加え、溶接などによって連結されている。また、骨組み11の強度を上げるため、縦骨111の中間高さでレールに沿って設けられた横骨112が連結されている。
【0015】
こうして単管パイプが組まれた骨組み11には、その上面と幅方向の左右両側に天井と側壁を構成するように保護シート12が張られ、四角いテントが構成されている。保護シート12は、縦骨111及び横骨112の単管パイプに紐などによって結びつけられている。そして、この移動屋根10は、各縦骨111の下端に走行用ローラ13が取り付けられ、橋梁の長手方向に設けられたレール上を移動可能になっている。合成床版コンクリートは、橋梁の全面に一度に打設されるわけではなく、長手方向に複数分割した範囲で施工が行われる。そのため、移動屋根10は、打設箇所に応じて移動できるようにし、一度に行われる面積を覆う大きさを有していれば足りる。
【0016】
走行用ローラ13が転がるレールは、左右両端は側鋼板4であり、その間には検測棒7に対してレール部材8が設けられている。ここで、図3は側鋼板4に走行用ローラ13が載せられた状態を示した拡大図である。また、図4は、レール部材8に走行用ローラ13が載せられた状態を走行方向に見た拡大図であり、図5は、図4をA方向から見た側面の拡大図である。側鋼板4は、鉛直に立った平板であり、橋梁全長に渡って設けられているため、その頂端がレールになって走行用ローラ13が転動可能になっている。
【0017】
鋼板型枠5内には、図1に示す検測棒7が鋼桁1に沿って列をなしている。本実施形態では3列である。そこで、側鋼板4の他にこの検測棒7を利用して3本のレールが設けられている。検測棒7は、本来コンクリートの深さを測るメモリ71が刻まれているだけのものであるが、本実施形態では、その上部に雄ネジ72が切られている。そうした検測棒7には、コの字形の固定金具81が固定され、その上に山形のレール棒82が架け渡されている。
【0018】
固定金具81は、下側に形成された貫通孔を検測棒7が貫通し、雄ネジ72に螺設した一対の締結ナット77によって挟み込まれて固定される。このとき、締結ナット77の螺設位置を調節することにより固定金具81の高さを調整することができる。レール部材8は、レール棒82に対して固定金具81が検測棒7の間隔で一体に溶接され、前述したように、固定金具81を検測棒7に固定することによりレール棒82が所定の高さで一直線に配置される。そうしたレール部材8は、レール棒82が橋梁の長手方向全長に渡って形成されたものであってもよく、または一定の長さに分割されたものであってもよい。
【0019】
本実施形態では、走行用ローラ13がモータ15の出力によって回転し、移動屋根1の自動走行を可能にしている。移動屋根1は、分割して行われる合成床版コンクリートの打設箇所に応じて、数日毎に10〜20m程移動させるだけでよいため、モータ15は、そうした移動屋根1の移動に必要な動力を発生させるものであれば良く、例えば、図1に示すように内側の3本の縦骨111に対応して設けられ、更に長手方向にも両端に、またはバランス良く数カ所に設けるようにしたものでも良い。なお、本実施形態の移動屋根1は、作業者が押して移動させることも可能であるため、必ずしもモータ15によって自動走行させる構成である必要はない。
【0020】
移動屋根1の設置に当たっては、先ず検測棒7に固定金具81を介して固定されたレール棒82が橋梁の長手方向に沿って配置され、両端の側鋼板4とその間の3本のレール棒82によって5本のレールが構成される。そこに走行用ローラ13を介して移動屋根1が移動可能に載せられる。移動屋根1は、コンクリートが鋼板型枠5に流し込まれる前から設置され、保護シート12が打設箇所に太陽光が当たらないように日陰をつくり、底鋼板3の温度上昇を防いでいる。そして、鋼板型枠5内へ床版コンクリートが打設され、一定期間養生マットやブルーシートなどの養生シートが被せられるが、床版コンクリートは、その間も設置された移動屋根1によって日陰になっている。
【0021】
数日かけて行われるコンクリートの打設と養生とによって、橋梁上には所定範囲に合成床版コンクリートがつくられる。その後、移動屋根1は、モータ15の駆動によって回転が走行用ローラ13に与えられ、所定方向に移動することになる。そして、移動先でも移動屋根1が底鋼板3上に日陰をつくり、同じように温度上昇を防止することになる。こうして移動屋根1は、数カ所に渡って順に行われる合成床版コンクリートの打設に応じて移動することになる。
【0022】
よって、本実施形態によれば、日差しの強い夏の時期でも、移動屋根1があることにより温度上昇を防止して、合成床版コンクリートの品質向上や作業の安全を図ることが可能になった。具体的には、底鋼板3の高温化を防止し、そこに打設されるコンクリートの異常凝結を回避することが可能になる。コンクリートの打設後には、その直後の水分蒸発を抑制することでプラスティック収縮ひび割れを抑制することができる。打設後の養生期間中も水分蒸発を抑制することで、乾燥収縮ひび割れを抑制することができ、しかも円滑な水和反応が得られるため合成床版コンクリートの強度を増進させることができる。
【0023】
このように、強い太陽光による温度上昇を防止して十分な初期強度増進が行われるため、硬化後の合成床版コンクリートの自己収縮によるひび割れを抑制することができる。一方、突然の雷雨などによって逆に水分過多になってしまう場合にも、移動屋根1が打設箇所に水が溜まってしまうのを防止することになる。また、打設後の養生においては、従来のような散水機能付養生保護装置や水分蒸発を抑えるための高価な養生シートを使用することもないため、その点でコストを抑えることができる。更に、これまでの作業場は日光を遮るものがなにもないため、作業が長時間になってしまうと暑中において作業員に熱中症を発症するおそれがあったが、移動屋根1によって作業者が日陰で作業できるようになり、熱中症対策にもなる。
【0024】
以上、本発明に係る合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、移動屋根1の前後方向(橋梁の長手方向)には保護シート12が設けられていなかったが、図6に示すようにカーテン21を設けるようにしてもよい。前後方向は作業者が移動屋根1内に出入りするため側面のように保護シート12で塞いでしまうわけにはいかない。しかし、太陽の位置によっては日差しが差し込んでくるため、太陽光を遮ることが望まれる。また、移動屋根1内では作業者が作業を行っているためある程度風の通りを良くすることも望まれる。そこで、太陽光が差し込む時にはカーテン21を閉め、そうでない場合は風が通るようにカーテン21を開けた状態にできるようにする。更に、空気の流れを良くするため、移動屋根1内にサーキュレータを設け、空気を積極的に流すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 鋼桁
3 底鋼板
4 側鋼板
5 鋼板型枠
7 検測棒
8 レール部材
10 移動屋根
11 骨組み
12 保護シート
13 走行用ローラ
81 固定金具
82 レール棒
111 縦骨
112 横骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の長手方向に敷設された底鋼板と橋梁の幅方向の両端に起立した側鋼板とを鋼板型枠として合成床版コンクリートを打設する際、前記底鋼板上を覆うための合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備であって、
前記側鋼板と、前記長手方向に連続して複数配置された検測棒に固定したレール部材とによって構成した複数本のレールと、
前記複数本のレールの位置に設けられた複数の縦骨と、その縦骨の少なくとも上端部を連結する横骨とが組まれた骨組みに、上面及び前記幅方向の両側面を覆う保護シートが張られ、前記縦骨には、前記レール上を転動するローラ部材が設けられた移動屋根と
を有するものであることを特徴とする合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備。
【請求項2】
請求項1に記載する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備において、
前記検測棒の上部には雄ネジが形成され、前記レール部材によるレールは、前記検測棒に貫通された部分が前記雄ネジに螺設した締結ナットによって固定される固定部材と、その固定部材同士を架け渡して配置されたレール棒とからなるものであることを特徴とする合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備において、
前記移動屋根は、前記長手方向の端部に開閉可能な保護シートによるカーテンが設けられたものであることを特徴とする合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備において、
前記移動屋根は、前記ローラ部材にモータを備えたものであることを特徴とする合成床版コンクリートの打設用移動屋根設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144854(P2012−144854A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1818(P2011−1818)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】