説明

合成樹脂組成物

【課題】耐熱効果をはじめ、難燃効果、耐候効果、耐摩耗効果、相溶効果などを示す包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を、少量で且つ種類少なく充填して、従来にない高性能な樹脂組成物およびその成形体の製造を可能にする。
【解決手段】シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体を含む包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物と、合成樹脂とを含有してなる合成樹脂組成物およびその成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の合成樹脂に添加剤として包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を添加した合成樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明の合成樹脂組成物は、合成樹脂に、添加剤としてシクロデキストリンとゲスト分子とを含む包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を添加した合成樹脂組成物であり、少量で且つ少ない種類の包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を少量添加することにより、従来にない高性能な材料を実現できる合成樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)は、ポリエチレン(高密度/低密度)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルと並ぶ、5大汎用樹脂の一つとして、家庭用品等に大量に利用されている。
【0003】
さらに、ポリスチレン樹脂には、スチレンのみの重合体で非晶性の無色透明の汎用ポリスチレン(GPPS)、GPPSにゴムを加え耐衝撃性を持たせた耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、水素添加ブロック共重合樹脂(SEBS)、スチレンとアクリロニトリル(AN)を共重合させ、耐薬品性を持たせたスチレン−アクリロニトリル共重合樹脂(SAN)、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)でAS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)樹脂を補強した、代表的な耐候性ゴム補強樹脂であるアクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂(AES)、ゴムによる耐衝撃性とANによる耐薬品性の両方を合わせ持ったアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)があり、自動車用途をはじめ、建材、機器・電気用途、そして、フィルム・シート等に利用されている。
【0004】
これらの合成樹脂には、通常、製品に必要性能を付与するために添加剤・充填材が添加されている。例えば、耐候効果、耐摩耗効果や難燃効果を発揮させるために、低分子化合物などの添加剤やセラミックス系充填材が多く用いられている。これらの添加剤・充填材は、低分子に起因する揮散による配合・造粒・使用時の悪臭、および着色の発生、並びに揮散に伴う製品使用時における添加剤・充填材の効果の低減などの問題があった。また、製品使用時の種々の要求に応えるためには、多くの種類の添加剤・充填材を添加する必要があるという問題があった。
【0005】
これらの問題点を解決するために、種々の新規構造を有する低分子化合物や高分子型添加剤、あるいは樹脂との親和性を良くしたセラミックス系充填材が検討されている。しかしながら、その効果は十分とはいえないのが現状である。
【0006】
一方、シクロデキストリンは、ホスト分子として様々なゲスト分子と包接化合物を形成することが知られている。例えば、シクロデキストリンがポリプロピレンやポリブテンと包接化合物をつくることは知られている(非特許文献1)。
【0007】
また、シクロデキストリンと塩化セチルピリジニウムとの包接化合物を層状粘土鉱物であるモンモリロナイトの有機修飾剤として用い、有機化モンモリロナイトを混合したスチレンのエマルジョン重合法によって調製したポリスチレン/クレイナノコンポジットの耐熱性の向上が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、ポリスチレン/クレイナノコンポジットの力学特性に関して報告はされていない。
【0008】
なお、シクロデキストリン(以降CDと称す)とは、模式的には中空の円錐台形をした環状オリゴ糖であり、その水酸基がすべて環の外側を向いており、外側は親水性、内側は疎水性という異なる性質を示す。このため親水性雰囲気下においては、疎水性分子が環内に入り込むようになっている。このように、環状分子等が他分子を環内に取り込むことを包接という。
【0009】
さらに、耐衝撃性ポリスチレン、水素添加ブロック共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂などのスチレン系樹脂に、シクロデキストリンとゲスト分子との包接化合物を添加した合成樹脂組成物が、合成樹脂組成物の力学特性改善や難燃効果、耐熱効果を示すという報告はなされていない。
【0010】
すなわち、CDを用いる前記いずれの技術においても、CDとゲスト分子との包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物と、合成樹脂との組成物、およびこの組成物の効果についての報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C. C. Rusa et al., Macromolecules 2004, 37, 7992
【非特許文献2】D. R. Yei et al., Polymer 2005, 46, 741
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の実情に鑑みなされたものであり、添加剤として、耐熱効果をはじめ、難燃効果、耐候効果、耐摩耗効果、相溶効果などを示す包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を、少量で且つ種類少なく充填して、従来にない高性能な樹脂組成物およびその成形体の製造を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明である合成樹脂組成物は、シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体を含む包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物と、合成樹脂とを含有してなることを特徴とする。
【0014】
本合成樹脂組成物は、該包接化合物を利用しているので、従来の第4級アルキルアンモニウム塩のような界面活性剤による層状粘土鉱物の有機修飾処理に比べて、少量で且つ種類少ない添加で、高性能な樹脂組成物を製造することができる。
【0015】
本発明でいう合成樹脂とは、ポリスチレン系樹脂であるスチレンを重合して得られる重合体、またはこれを主成分として他のモノマーと共重合した共重合体、あるいはポリオレフィン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリエステルを指す。例えば、ポリスチレン系樹脂の共重合体として、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、水素添加ブロック共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等を指す。また、前記合成樹脂として、廃棄回収された前記合成樹脂も含む。
【0016】
本発明でいう層状粘土鉱物としては、例えば、スメクタイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バーミキュライト、タルク、バイロフィライト、雲母、マガディアイト、アイラライト、カネマイトなどの陽イオン交換能をもつ天然粘土や人工合成粘土を指す。
【0017】
本発明の合成樹脂組成物の好ましい実施形態においては、
前記シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体が、ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を主成分とし前記包接化合物を形成して、
前記包接化合物は、該ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を含有してなり、前記包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物と、合成樹脂とを含有してなることを特徴とする。
【0018】
これにより、これらのハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体が、CDに内包された包接化合物を形成でき、前記包接化合物で有機修飾処理を層状粘土鉱物に施すことにより、有機修飾層状粘土鉱物を形成する。
【0019】
本発明でいうハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体としては、構成成分である陽イオンとして、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロロジニウムカチオンである塩を指す。
【0020】
本発明でいうハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体の具体例としては、構成成分である陽イオンとして、1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−アルキルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、メチル−N-ブチルピリジニウム、1−メチル−3−オクチルピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム、1−エチル−3−ハイドロキシメチルピリジニウム、1−ブチル−1−メチルピロロジニウム、N−メチル−N−ブチルピロロジニウム、N−メチル−N−プロピルピロロジニウム、1−ヘキシル−1−メチルピロロジニウム、1−メチル−1−オクチルピロロジニウム、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムのいずれかで、構成成分である陰イオンとして、コスト面を配慮して、塩化物イオンあるいは臭化物イオンが好ましいが、それ以外の陰イオンからなる前記誘導体でも前記層状粘土鉱物の有機修飾処理を妨げなければ良い。なお、構成成分である陽イオンのアルキル基部分は、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基のいずれかが好ましいが、アルキル鎖における炭素数がより大きい官能基でも良い。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態においては、
前記包接化合物が、前記シクロデキストリンを0.1〜95重量%含有する。
前記CDが、この範囲であれば、この包接化合物を用いることによる効果が認められる。
【0022】
本発明の他の好ましい実施形態においては、
前記合成樹脂組成物が、前記包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を0.01〜30重量%含有する。
【0023】
前記包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物が、この範囲であれば、前記合成樹脂組成物への添加剤としての効果が認められる。
【0024】
本発明の他の好ましい実施形態においては、
前記シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである。
【0025】
α−CDは、繰り返し単位となるグルコピラノースの数が、β−CDおよびγ−CDに比べて少ないので、ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体に対するCDとしての有効性が高い。
【0026】
本発明の他の好ましい実施形態においては、
前記合成樹脂が、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、水素添加ブロック共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ乳酸のそれぞれの群から選ばれる1種または2種以上を含有する。
【0027】
これらの合成樹脂であれば、前記包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を添加剤として有効に用いることができる。
【0028】
また、前記合成樹脂として、廃棄回収された前記合成樹脂でも前記包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を添加剤として有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、添加剤として、耐熱効果をはじめ、難燃効果、耐候効果、耐摩耗効果、相溶効果などを示す包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を、少量で且つ少ない種類の充填で、従来にない高性能な樹脂組成物およびその成形体を製造することができる。
【0030】
この包接化合物は、CDという親水性基とハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体という親油性グループとを併せ持ち、CDの環内にハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体を弱い結合力で包接するいわゆる超分子を形成することにより、CD環の外側に存する水酸基に基づく親水性と、疎水性の環内に包接したハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体に基づく親油性とを併せ持つ一種の「界面活性剤」となっている。このため、この包接化合物は、耐熱効果だけでなく、層状粘土鉱物層間の剥離作用やハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体による合成樹脂との混和性を向上させる作用がある。その結果、本発明の樹脂組成物が、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、水素添加ブロック共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ乳酸等の樹脂をそれぞれ主成分とする場合は、これらの樹脂にハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体とシクロデキストリンとの包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物を充填するに際して、前記包接化合物が合成樹脂中における有機修飾層状粘土鉱物の分散性を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を、実施例を含む実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0032】
本実施の形態の樹脂組成物は、シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体とハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体とを含む包接化合物で有機化処理をした層状粘土鉱物と、合成樹脂とを含有してなる。
【0033】
前記シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体が、ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を主成分とし前記包接化合物として形成され、前記包接化合物は、該ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を含有してなり、前記包接化合物で有機化処理をした層状粘土鉱物であることが好ましい。
【0034】
本実施の形態の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、所定の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤、その他の樹脂を添加してもよい。
【0035】
特に、良好な成形性を確保する観点から、離型剤の添加は効果的である。離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸アミド及びビスアミド、高級脂肪酸の多価アルコールエステル及び高級アルコールエステル、ポリエチレンワックス類等が挙げられる。
【0036】
また、従来から知られた各種難燃剤及び難燃助剤、例えばポリテトラフロロエチレン重合体及び共重合体、シリコンオイル、シリコンレジンを添加することにより、さらに難燃性の向上効果が得られる。
〔樹脂組成物の製造方法〕
本実施の形態の樹脂組成物を製造する方法については、特に限定されるものではないが、一般的には、押出機を用いて溶融混練することにより製造できる。特に、原材料成分を製造工程の途中で添加可能な二軸押出機が、高い生産性を確保し、良質な樹脂組成物を得る観点から好ましい。
〔樹脂組成物を用いた成形品〕
本実施の形態の樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法等の一般的な成形方法により成形品に加工できる。
【0037】
特に、金型表面の温度を、射出樹脂の熱変形温度近傍以上に上げておき、樹脂の射出と保圧工程の間は熱変形温度以上に保ち、保圧工程終了後、短時間で金型温度を下げて、樹脂を冷却し、成形品を取り出すヒートサイクル成形法は、ウェルドラインが目立たず、外観特性が良好な成形品が得られる方法として優れている。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
合成樹脂組成物を形成する合成樹脂として、耐衝撃性ポリスチレン(PSジャパン社製、グレード:H9152、密度1.04 g/cm3、以下HIPSと称す。)を用いた。層状粘土鉱物としてモンモリロナイト(クニミネ工業社製、クニピア−F、陽イオン交換容量115meq/100g)を、界面活性剤として塩化セチルピリジニウム一水和物(ナカライテスク社製、以下CPCと称す。)を、シクロデキストリンとしてα−シクロデキストリン(ナカライテスク社製、以下α−CDと称す。)を用いた。
【0040】
なお、本実施例における各種物性の測定方法を次に示す。
【0041】
広角X線回折は、RINT 2000(理学電機)を用い、X線出力0.8kW(管電圧:40kV、管電流:20mA)で行った。フーリエ変換赤外分光測定(FT-IR)は、FT/IR-460plas(JASCO)を用い、ATR法にて行った。示差熱熱重量測定は、TG/DTA200(エスアイアイ・ナノテクノロジー)を用い、測定温度領域:30℃〜600℃、昇温温度: 10℃/min、窒素ガス雰囲気:200ml/minで行った。動的粘弾性試験は、DMS200(エスアイアイ・ナノテクノロジー)を用い、昇温速度: 2℃/min、測定温度領域:30℃〜190℃、窒素ガス雰囲気:150ml/min、測定周波数:1Hzで行った。三点曲げ試験は、JIS K 7171に準拠して、支点間距離:32mm、たわみ速度:1mm/minで行った。アイゾット衝撃試験は、JIS K 7110に準拠して、ノッチなしで行った。
【0042】
(第1実施形態)
〔包接化合物の作製〕
CDとしてα−CDを、界面活性剤としてCPCを用いて、次のようにして、α−CDとCPCとの包接化合物を作製した。CPC(5.59mmol)及びα−CD(16.8mmol)を別々に蒸留水(80ml)に溶解させ、各水溶液を調整した。これらの水溶液を室温にて混合させた後、8時間、70℃で撹拌した。その後室温で8時間放置した。遠心分離を行い、得られた沈殿物を50℃で真空乾燥し、複合化していないα−CDとCPCを取り除くため蒸留水で洗浄し、遠心分離を行った。得られた粉末を60℃で24時間真空乾燥することにより、α−CDとCPCとの包接化合物を得た。
【0043】
得られた包接化合物の広角X線回折、フーリエ変換赤外分光測定および示差熱熱重量同時測定の結果よりα−CDとCPCとの包接化合物が確認できた。
〔有機修飾モンモリロナイトの調製〕
蒸留水(250ml)にモンモリロナイトを加え、500mlの三口丸底フラスコで24時間膨潤させた。CPCもしくはα−CD/CPCを秤量後、ビーズミルDISPERMAT SL-C-12(VMA-GETZMANN GMBH社製)を用い、4000rpm、30℃、15分間有機修飾剤とモンモリロナイトを撹拌した。その後、水洗、遠心分離した後、沈殿物を凍結乾燥し、有機化モンモリロナイト(以下有機化MMTと称す。)試料を得た。
〔合成樹脂組成物の作製〕
HIPSに対して、有機化MMT充填量が5wt%の割合になるように秤量し、乾式混合を行った。同方向回転二軸混練押出機(テクノベル社製、スクリュー径15mm、L/D=30)を用いて、190℃、150rpmで混練押出を行い、塊状試料を得た。得られた試料を熱プレス成形機で190℃、10分間予熱溶融させた後、190℃、2.2MPaで1分間加圧し、水冷プレス機にて1.0MPa、10分間冷却し、樹脂組成物を作製した。
【0044】
(比較例1)
層状粘土鉱物(MMT)を添加しないことを除いては、第1実施形態と同様にして合成樹脂組成物を作製した。
【0045】
(比較例2)
層状粘土鉱物(MMT)のみを添加することを除いては、第1実施形態と同様にして合成樹脂組成物を作製した。
【0046】
(比較例3)
包接化合物ではなく、界面活性剤CPCのみで有機修飾処理を施した層状粘土鉱物(MMT)を添加することを除いては、第1実施形態と同様にして合成樹脂組成物を作製した。
【0047】
第1実施形態、比較例1、比較例2、及び比較例3の合成樹脂組成物の広角X線回折結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなように、第1実施形態は、比較例2に比べて、合成樹脂組成物中の層状粘土鉱物の層間距離が若干拡大していることが分かる。
【0050】
第1実施形態、比較例1、比較例2、及び比較例3の合成樹脂組成物の熱重量損失測定から得られた熱分解開始温度を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2から明らかなように、第1実施形態は、比較例1、比較例2および3に比べて熱分解開始温度が著しく高く、難燃性が向上していることが分かる。
【0053】
第1実施形態、比較例1、比較例2、及び比較例3の合成樹脂組成物の動的粘弾性測定から得られたガラス転移温度を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3から明らかなように、第1実施形態は、比較例1、比較例2および3に比べてガラス転移温度が若干高くなり、耐熱性が向上していることが分かる。
【0056】
第1実施形態、比較例1、比較例2、及び比較例3の合成樹脂組成物の三点曲げ試験から得られた曲げ弾性率および曲げ強度を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4から明らかなように、第1実施形態は、比較例1、比較例2および3に比べて曲げ弾性率および曲げ強度が著しく高く、曲げ特性が向上していることが分かる。
【0059】
第1実施形態、比較例1、比較例2、及び比較例3の合成樹脂組成物のアイゾット衝撃試験から得られたアイゾット衝撃強度を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表5から明らかなように、第1実施形態は、比較例1と遜色ないアイゾット衝撃強度を示し、比較例2および3に比べてアイゾット衝撃強度が著しく高く、アイゾット衝撃特性が向上していることが分かる。
【0062】
上述した結果から、包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物の添加は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂の大幅な力学特性の改善、および高い耐熱効果と難燃効果を示すことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明を構成する添加剤の包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物における包接化合物が、前述のように超分子「界面活性剤」であるため、親油性ユニットであるハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体中におけるアルキル鎖の適切な選択を行うことで、従来ではできなかった包接化合物で有機修飾処理を施した層状粘土鉱物と他の合成樹脂との高次構造をナノレベルで制御可能となり、耐熱性や耐候性、機械物性等に優れた材料の創出につながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体を含む包接化合物で有機化処理をした層状粘土鉱物と、合成樹脂とを含有してなる、ことを特徴とする合成樹脂組成物。
【請求項2】
前記シクロデキストリンもしくはシクロデキストリン誘導体が、ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を主成分とし前記包接化合物を形成して、
前記包接化合物は、該ハロゲン化アルキルピリニジウム誘導体もしくはハロゲン化アルキルイミダゾリウム誘導体あるいはハロゲン化アルキルピロロジニウム誘導体から選ばれる1種または2種以上を含有してなる、ことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂組成物。
【請求項3】
前記包接化合物が、前記シクロデキストリンを0.1〜95重量%含有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂組成物。
【請求項4】
前記合成樹脂組成物が、前記包接化合物で有機化処理をした層状粘土鉱物を0.01〜30重量%含有する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の合成樹脂組成物。
【請求項5】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリンである、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の合成樹脂組成物。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、水素添加ブロック共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ乳酸のそれぞれの群から選ばれる1種または2種以上を含有する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の合成樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−52013(P2012−52013A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195402(P2010−195402)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】