説明

合成樹脂製の管継手

【課題】TS工法による合成樹脂管との接続において出来るだけ構造が簡単で、かつ接続時、管継手の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しない合成樹脂製の管継手を提供する。
【解決手段】合成樹脂管の開口部に対し接着剤を介して挿入接続される差口を有する合成樹脂製の管継手であって、前記差口は、先端部から後端部に向かって拡径されており、そして先端部の外径より大きく、かつ、後端部の外径より小さい内径を有する前記開口部と挿入接続されるテーパー面を備えており、そして前記テーパー面の後端部は、接続時、接着剤が塗布されて膨潤した前記開口部内周面内へ食い込むことにより、前記差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しない角部が形成されていることを特徴とする前記管継手を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂またはABS樹脂などの合成樹脂からなる管の開口部に対し、接着剤を介して挿入接続される差口を有する合成樹脂製の管継手に関し、特に、接続時、差口に設けられたテーパー面および角部が、接着剤が塗布されて膨潤した開口部の内周面内へ食い込むことにより、差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しないことを特徴とする管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂またはABS樹脂などからなる合成樹脂管は水道管や下水管として広く使用されているが、それらの接続方法の一つとして、差口を有する合成樹脂製の管継手を使用して、接続される合成樹脂管の開口部内周面及び/又は前記管継手の差口外周面に溶剤系接着剤を塗布し、管継手差口を合成樹脂管開口部へ挿入接着する方法が知られている。また、この接続方法は、塩化ビニル管・継手協会などの業界においてTS工法(Taper sized solvent welding method、以下「TS工法」という。 )と呼ばれ、実際の現場で広く活用されている接続方法でもある。
【0003】
例えば、外周面にテーパーが付けられた差口を有するスピゴット、エルボまたはチーズなどの管継手と、これに外接して接続される塩化ビニル樹脂管との接続面に溶剤系接着剤を塗布して管継手差口を塩化ビニル樹脂管開口部へ挿入接着する方法や、一方の塩化ビニル樹脂管にはテーパーが付けられた内周面を有する受口が形成され、これに内接して接続される塩化ビニル樹脂管との接続面に溶剤系接着剤を塗布して両者を挿入接着する方法などがある。
【0004】
ところで、一般に合成樹脂管の外径およびこれに対する肉厚とその許容差は規格化されているため、これと接続可能な差口の形状は前記規格に基づいて各呼び径毎に設計することができる。したがって、実際の施工現場では、接続される合成樹脂管の呼び径が施工記録や実測等により把握できれば、これに対応する呼び径、すなわち、合成樹脂管と接続可能な差口を有する管継手を容易に選ぶことができる。
【0005】
また、TS工法においては、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂管の開口部内周面及び/又は管継手の差口外周面に溶剤系接着剤を塗布すると、接着剤は塩化ビニル樹脂等の溶剤であるため、塗布面が深さ0.1mm程度まで溶解膨潤する。したがって、この状態で合成樹脂管の開口部に管継手の差口を挿入すると、膨潤層が流動して接着剤を塗布せずに差し込んだ場合よりさらに奥方向への挿入が可能となり、合成樹脂管の開口部内周面と管継手の差口外周面とが広い面積で接触して強い接続強度を発現する。また、さらに力を加えて管継手を押し込むと、樹脂の弾性によって管継手の差口はさらに圧縮され、合成樹脂管の開口部はさらに押し拡げられてより強固な接合が可能となる。このように、TS工法は塩化ビニル樹脂など合成樹脂と溶剤系接着剤の特性を巧みに利用した便利な接合方法といえる。
【0006】
しかしながら、従来のTS工法における接合では合成樹脂管の開口部は拡径され、他方、管継手の差口は縮径されており、また、管継手差口の外周面にはテーパーが設けられているため、管継手の差口を合成樹脂管の開口部へ押し込んでそのままの状態で放置しておくと、両者の間に生じた弾性反力により管継手が合成樹脂管から抜け出る方向に移動してしまうという問題がある。
【0007】
このような管継手の移動は、両者の間に十分な接着面積および接着強度が得られないという問題を引き起こし、この結果、接合箇所に曲げ応力などが作用すると、接合部が剥がれて漏れを生じたり、配管状態によっては管継手が合成樹脂管から抜け出して管内の流体が一挙に漏出してしまうという危険性がある。また、管継手の移動を防止するためには、管継手差口を合成樹脂管の開口部へ押し込んだ後、接着剤が硬化して接合強度を発現するまでの間、人の手又は保持具等を用いて管継手を所定の接続位置に保持していなければならいという問題があり、これは施工者にとって非常に煩雑で効率の悪い作業となっていた。
【0008】
このようなTS工法における従来の問題点を解消するため、受口を有する管継手においては、特許文献1、2、3及び4に見られるように管継手受口の内周面に先の尖った突起部や鋸刃状の滑り止めを環状に配置したり、あるいは、それらに加えて管継手の受口を二重管構造とすることにより、接続される合成樹脂管との接触面積や引っ掛かり作用の増大を図り、合成樹脂管が管継手から抜け出るのを防止することが考案されている。
【0009】
また、特許文献5に見られるような差口を有する管継手においては、それ自体は直接管継手の抜け防止を目的とするものではないが、テーパーが付けられた管継手差口の外周面と接続される合成樹脂管の内周面との間に生じた隙間へ積極的に接着剤を充満させることにより、両者の間の接着強度および水密性を高めることが考案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2、3および4に記載の管継手の場合は、管継手の受口内周面に特殊な突起部等を設けたり受口を二重構造に成形しなければならないなど構造が複雑で、しかも、接続される合成樹脂管側の外周部にも前記突起と嵌合する溝部を設けなければならず、製作および施工に多くの手間が掛かるという問題がある。また、特許文献5に記載の管継手の場合は、接着剤の充満量が多くなるように管継手差口と接続管開口部との隙間を大きく(管継手差口のテーパー径を小さく)すると管継手の抜け出しが防止できなくなり、一方、接触面積が大きくなるように管継手差口と接続管開口部との隙間を小さく(管継手差口のテーパー径を大きく)すると、今度は円滑な管継手の挿入ができなくなるという問題があった。
【0011】
【特許文献1】特開平5−71675号公報
【特許文献2】特開平5−71676号公報
【特許文献3】特開平11−344174号公報
【特許文献4】特開2003−322288号公報
【特許文献5】特開2004−138157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑み、TS工法による合成樹脂管との接続において出来るだけ構造が簡単で、かつ接続時、管継手の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しない合成樹脂製の管継手を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の他の目的は、現場施工において切断された粗い精度の端面を有する開口部であっても、水密性を保ちながら接続可能な上記の管継手を提供することにある。したがって、切断された合成樹脂管の開口部端面が必ずしも管軸に対して直交していなくても接着性および水密性を保つことができ、また、開口部の内周面にテーパーが付けられていなくても接続可能な汎用性の高い合成樹脂製の管継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、種々の管継手の構造について鋭意検討を重ねた結果、管継手の差口に特定のテーパー形状等を与えた場合は、接着剤が塗布されることにより溶解膨潤した合成樹脂管の開口部内周面と協働して管継手の差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しないことを見出した。
【0015】
すなわち、塩化ビニル樹脂やABS樹脂などの合成樹脂からなる管は、その内周面に接着剤が塗布されると約0.1mmの深さの溶解膨潤層が形成されるため、これと接続される管継手差口外周面に特定のテーパーを与え、さらにテーパー面後端部に角部を設けた場合は、前記テーパー面の一部分および角部が合成樹脂管開口部内周面に形成された溶解膨潤層へ食い込み、管継手の差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しないことを実験になどにより検証し、本発明を完成するに至った。
【0016】
また、差口のテーパー面の奥側に隣接させて所定の深さ(外周径)を有するネック部を形成させると、かかるネック部が接続される合成樹脂管の接続端面の切断誤差を吸収し、高い接着性および水密性を保ち得ることが判明した。さらに、このネック部は、管継手の差口が接続される合成樹脂管の管軸に対して斜め方向に挿入された場合であっても、合成樹脂管の開口部端面がネック部へ案内されることにより、斜め方向からの管継手の挿入および接着を可能にすることが判明した。
【0017】
具体的には、本発明の管継手は、合成樹脂管の開口部に対し接着剤を介して挿入接続される差口を有する合成樹脂製の管継手であって、前記差口は、先端部から後端部に向かって拡径されており、そして先端部の外径より大きく、かつ、後端部の外径より小さい内径を有する前記開口部と挿入接続されるテーパー面を備えており、そして前記テーパー面の後端部は、接続時、接着剤が塗布されて膨潤した前記開口部内周面内へ食い込むことにより、前記差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しない角部が形成されていることを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、管継手差口に設けられるテーパー面は、管継手差口が接続される合成樹脂管の開口部へスムーズに挿入されるようにガイドするために機能する他、テーパー面が合成樹脂管の内周面により圧接されることにより、両者の強固な接合および水密性を達成するために機能する。また、接続される合成樹脂管の内径に多少の製作誤差が含まれている場合であっても、テーパー面は管継手と合成樹脂管との接着性および水密性を低下させることなくかかる誤差を吸収するように機能する。
【0019】
このため、本発明の管継手に適用されるテーパー面は、接続される合成樹脂管開口部の内径より先端部の外径が小さく、かつ、後端部の外径が大きい、先端部から後端部に向かって拡径されている形状を有することが好ましい。換言すれば、本発明による管継手は接続される合成樹脂管開口部の内径に対応して選択され、かかる開口部の内径がテーパー面先端部の外径と後端部の外径との間の直径となるように選択される。さらに好ましくは、合成樹脂管開口部の内径がテーパー面の中間外径(テーパー面先端部の外径と後端部の外径を加えて2で除した値)と略同一となるように選択される。
【0020】
もし、テーパー面先端部の外径が合成樹脂管開口部の内径と同一またはそれ以上であると、挿入後は管継手の差口が合成樹脂管の開口部に強力に圧接されることにより高い気密性を有することが期待されるが、実際には、例えば塩化ビニル樹脂などの合成樹脂管は硬質であるため、専用の機械を用いたり接続部を加熱などしない限りは管継手の円滑な挿入接着を行うことができなくなる。
【0021】
また、テーパー面後端部の外径が合成樹脂管開口部の内径と同一またはそれ以下であると、挿入後は管継手差口のテーパー面と合成樹脂管開口部の内周面との間に大きな隙間が生じて多量の接着剤を充満させることができるが、実際には、接続時に管継手テーパー面のガイド機能が十分に発揮できなくなり、さらに、管継手と合成樹脂管との間でガタ付きや偏りを生じて両者を精度良く接続することが困難となる結果、接合部の水密性を低下させたり管継手の抜け出しを防止できなくなる。
【0022】
なお、実際の施工現場では、通常、接続される合成樹脂管の外径および内径、許容誤差などは、規格化された製品の呼び径を知ることにより容易に把握できる。したがって、接続される合成樹脂管の呼び径を調べたり実際の管径を実測することにより、これに適合した先端部の外径および後端部の外径を有するテーパー面を備えた管継手を選択することができる。
【0023】
さらに、本発明の管継手では、テーパー面の後端部、すなわち、少なくとも接続される合成樹脂管の内径より大きな外径を有する部分に角部が設けられている。このため、管継手の差口が接着剤が塗布された合成樹脂管の開口部へ挿入されると、テーパー面の一部分および角部が合成樹脂管の開口部内周面に形成された溶解膨潤層へ食い込み、管継手の差口の挿入接着を許容するが抜け方向への移動を完全に阻止することができるようになる。
【0024】
角部は、例えば、テーパー面の後端部において管軸に対して略直交する端面を形成させ、テーパー面とその後端部に設けられた端面を交差させることにより環状に形成さることができる。
【0025】
また、このような角部を有する特定の形状のテーパー面は、管継手差口に複数個配置されていてもよい。このような複数のテーパー面の配置は、管継手が接続される合成樹脂管との接合強度および水密性をより一層向上させるであろう。
【0026】
このように、本発明における管継手の挿入円滑化および抜け出し防止機能は、管継手差口に設けられた特定のテーパー形状が接着剤が塗布されることにより溶解膨潤した合成樹脂管の内周面と協働して初めて達成されるものであるため、両者の材質は塩化ビニル樹脂、ABS樹脂など接着剤により接合が可能であり、かつ、接着剤の塗布によりその表面層の一部が溶解して膨潤層を形成する合成樹脂材料であれば、特に限定されることなく使用することができる。
【0027】
また、本発明の管継手は、上述されたテーパー面および角部を有する差口を端部に備えた合成樹脂製の管状体であればよく、したがって、本発明の管継手には短管、長管、スピゴット、エルボまたはチーズなどのあらゆる形状の管継手が含まれ、さらには、前記差口が管継手の一端部のみならずその両端部に設けられているものであってもよい。
【0028】
さらに、本発明の管継手差口には、テーパー面の奥側に隣接させて、テーパー面先端部の外径以下の外周径を有する環状のネック部をさらに含ませることができる。
【0029】
この場合、環状のネック部は、接続される合成樹脂管の開口部端面が管軸に対して直交するように切断されていない場合であっても、かかる切断誤差を吸収し、差口テーパー面後端部が開口部の端面から外側へはみ出るのを防止する。すなわち、合成樹脂管の開口部端面が現場施工時などにおいて管軸に対して斜めに切断された場合であっても、かかる斜行して切り取られた開口部端面の全周域を管継手差口の根元部分に形成されたネック部上に配置させることができ、この結果、差口テーパー面はすべて合成樹脂管の開口部内部へ挿入配置されて高い接着性および水密性を保つことができるようになる。
【0030】
したがって、管継手差口の根元端、換言すればテーパー面の奥側に隣接させて設けられたネック部は、斜行して切り取られた開口部端面をその上部に配置するためのある程度の(管軸方向の)幅が必要とされるが、実際の現場施工時の切断誤差などを考慮すると、通常は10mm程度の幅があれば殆どの場合対応可能である。
【0031】
さらに、環状のネック部は、管継手の差口が接続される合成樹脂管の管軸に対して斜めに挿入される場合であっても、合成樹脂管の開口部端面がこのネック部へ案内されることにより、斜め方向からの管継手の挿入および接着を可能にする。
【0032】
このため、環状のネック部は、差口テーパー面先端部の外径以下の外径を有する外周面を備えて差口テーパー面の奥側に隣接させて設けられる。その理由は、ネック部の外周径を差口テーパー面先端部の外径より大きく設定すると、ネック部の外周径が接続される合成樹脂管の内径より大きくなってしまう場合に、管継手を斜め方向から挿入できる許容範囲を狭めると共に、合成樹脂管の開口部が管継手のネック部により拡径されるので管継手自体の挿入を極めて困難にするからである。
【0033】
また、差口テーパー面の奥側に隣接させて設けられるネック部は、管継手挿入時、管継手差口テーパー面が合成樹脂管内周面に圧接されながら前進することにより過剰な接着剤をネック部の中へ送り込み、接着剤が管継手外周部へ滲み出るのを防止したり、若しくは、ネック部に滞留する接着剤が硬化することにより管継手および合成樹脂管の接着性および水密性を向上させたりする。
【0034】
なお、環状のネック部は、差口テーパー面の奥側に隣接させて少なくとも1つ配置すれば上記の機能を果たすことができるが、1つの差口テーパー面の奥側に複数個配置してもよく、また、1つの差口に複数のテーパー面を設ける場合は、それぞれのテーパー面の奥側に隣接させて配置してもよい。
【0035】
さらに、本発明の管継手は、接続される合成樹脂管の開口部端面と当接される、管軸に対して略直交する当接面を管継手差口の根元端に配置することができる。
【0036】
管継手差口の根元端に設けられた当接面は、管継手挿入時、合成樹脂管の開口部端面と当接することによりストッパーとして機能する。また、この当接面が合成樹脂管の開口部端面と接着剤を介して接合される場合は、両者の水密性をさらに向上させるために機能することも期待される。
【0037】
さらに、上記当接面には、接続後、ネック部に溜まった接着剤の乾燥を促進させるためのネック部外周面から管継手外周面へ放射状に延びた複数の溝部を配置することができる。
【0038】
当接面に配置された複数の溝部は、接続後、ネック部外周面と管継手外部とを連通させて、ネック部に溜まった接着剤が外部空気に接触することにより接着剤の乾燥を促進させる。したがって、当接面に配置される溝部の形状や数、配置などは特に限定されるものでないが、ネック部内に溜まった接着剤をできるだけ均一に、かつ迅速に乾燥させるためには、複数の溝部をネック部外周面から放射状に配置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の合成樹脂製の管継手によれば、テーパーが付いていない内周面を有する合成樹脂管に対しても容易に挿入接続することができ、それでいて接着剤乾燥前であっても管継手が抜け方向へ移動することがない。また、本発明の管継手によれば、管軸に対して斜めに切断された開口部端面を有する合成樹脂管であっても高い水密性を保ちながら接続することができ、さらには施工現場のスペース上の問題等により、管継手が合成樹脂管の管軸に対して斜めに挿入される場合であってもこれを無理なく挿入接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の一実施形態に係る合成樹脂製の管継手について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、本発明による実施例の理解を容易にするため、差口テーパー面のテーパー角やネック部の深さなどが誇張して描かれていることに留意すべきである。また、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【実施例1】
【0041】
本発明の合成樹脂製の管継手および本発明において使用される合成樹脂管は、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、若しくはこれらの材料と複合化された繊維強化樹脂(FRP)など、接着剤の使用により接続可能であり、かつ、特に接続される合成樹脂管が接着剤の塗布により、その表面層の一部が溶解して膨潤する材料であれば特に限定されることなく使用することができる。
【0042】
図1は、本発明の合成樹脂製管継手1aの一実施例およびこれに接続される合成樹脂管2を示したものであり、両者の管軸a、bに垂直な断面で切り取った断面図である。
【0043】
図1から理解されるように、この管継手1aは管継手本体3と差口4とからなり、差口4の外周部には、先端部40から後端部41に向かって拡径されており、そして先端部40の外径d1より大きく、かつ、後端部41の外径d2より小さい内径d3の開口部5を有する合成樹脂管2と接続されるテーパー面42が形成されている。
【0044】
管継手差口4に設けられるテーパー面42は、管継手差口4が接続される合成樹脂管2の開口部5へスムーズに挿入されるようにガイドするために機能する他、テーパー面42が合成樹脂管の内周面20により圧接されることにより、両者の強固な接合および水密性を達成するために機能する。また、接続される合成樹脂管2の内径d3に多少の製作誤差が含まれている場合であっても、テーパー面42は管継手1aと合成樹脂管2との接着性および水密性を低下させることなくかかる誤差を吸収するように機能する。
【0045】
なお、実際の施工現場では、通常、接続される合成樹脂管2の外径および内径、許容誤差などは、規格化された製品の呼び径を知ることにより容易に把握できる。したがって、接続される合成樹脂管の呼び径を調べたり実際の管径を実測することにより、これに適合した先端部の外径d1および後端部の外径d2を有するテーパー面42を備えた管継手1aを選択することができる。
【0046】
また、実施例1の管継手1aでは、テーパー面42の後端部41、すなわち、少なくとも接続される合成樹脂管2の内径d3より大きな外径を有する部分に、テーパー面42と管軸aに対して略直交する端面43とを交差させることにより環状の角部44が形成されている。
【0047】
図2は、実施例1の管継手1aを合成樹脂管2へ挿入し接続した状態を示す、管軸a、bに垂直な断面で切り取った断面図である。
【0048】
図2に示されるように、管継手1aの差口4が接着剤が塗布された合成樹脂管2の開口部5へ挿入されると、テーパー面42の一部分および角部44が合成樹脂管2の開口部内周面20に形成された溶解膨潤層へ食い込み、管継手1aの差口4の挿入接着を許容するが抜け方向への移動を完全に阻止することができるようになる。
【0049】
さらに、実施例1の管継手差口4は、テーパー面42の奥側に隣接させて、テーパー面先端部40の外径d1以下の外周径d4を有する環状のネック部45を含んでいる(図1参照)。
【0050】
図3は、実施例1の管継手1aが、開口部5の端面50が管軸bに対して斜めに切断された合成樹脂管2に接続された状態(図3(a))、および管継手1aの差口4が、接続される合成樹脂管2の管軸bに対して斜めに挿入された状態(図3(b))を示す側面図および断面図である。
【0051】
環状のネック部45は、図3(a)に示されるように、接続される合成樹脂管2の開口部端面50が管軸bに対して直交するように切断されていない場合であっても、かかる切断誤差を吸収し、差口テーパー面後端部41が開口部5の端面50から外側へはみ出るのを防止する。すなわち、合成樹脂管2の開口部端面50が現場施工時などにおいて管軸bに対して斜めに切断された場合であっても、かかる斜行して切り取られた開口部端面50の全周域を管継手差口4の根元部分に形成されたネック部45上に配置させることができ、この結果、差口テーパー面42はすべて合成樹脂管2の開口部5内部へ挿入配置されて高い接着性および水密性を保つことができるようになる。
【0052】
したがって、管継手差口4の根元端、換言すればテーパー面42の奥側に隣接させて設けられたネック部45は、斜行して切り取られた開口部端面50をその上部に配置するためのある程度の(管軸a方向の)幅wが必要とされるが(図3(a)参照)、実際の現場施工時の切断誤差などを考慮すると、通常は10mm程度の幅があれば殆どの場合対応可能である。
【0053】
また、環状のネック部45は、図3(b)に示されるように、管継手1aの差口4が、接続される合成樹脂管2の管軸bに対して斜めに挿入される場合であっても、合成樹脂管2の開口部端面50がこのネック部45へ案内されることにより、斜め方向からの管継手1aの挿入および接着を可能にする。
【0054】
また、環状のネック部45は、管継手1a挿入時、差口テーパー面42が合成樹脂管内周面20に圧接されながら前進することにより過剰な接着剤をネック部45の中へ送り込み、接着剤が管継手外周部へ滲み出るのを防止したり、若しくは、ネック部45に滞留する接着剤が硬化することにより管継手1aおよび合成樹脂管2の接着性および水密性を向上させたりする。
【0055】
このため、実施例1の管継手1aでは、環状のネック部45は、差口テーパー面先端部40の外径d1以下の外径d4を有する外周面46を形成するようにして、差口テーパー面42の奥側に隣接させて設けられているのが好ましい(図1参照)。
【0056】
なお、環状のネック部45は、差口テーパー面42の奥側に隣接させて少なくとも1つ配置すれば上記の機能を果たすことができるが、1つのテーパー面42の奥側に複数個配置してもよく、また、後述されるように、1つの差口4に複数のテーパー面42を設ける場合は、それぞれのテーパー面42の奥側に隣接させて配置してもよい。
【0057】
また、実施例1の管継手差口4は、接続される合成樹脂管2の開口部端面50と当接される、管軸aに対して略直交する当接面30を含んでいる(図1参照)。
【0058】
管継手差口4の根元端、すなわち、管継手差口4と管継手本体3との境界に設けられた当接面30は、管継手1a挿入時、合成樹脂管2の開口部端面50と当接することによりストッパーとして機能する(図2、3参照)。また、この当接面30が合成樹脂管の開口部端面50と接着剤を介して接合される場合は、両者30、50の水密性をさらに向上させるために機能することも期待される。
【0059】
図4および図5は、本発明による実施例1の管継手1aの作用効果を実証するための実験結果を撮影した写真である。
【0060】
図4は、実施例1の管継手1aと(図4(a))、比較例として、テーパー面を有するがテーパー面後端部に角部およびネック部が設けられていない差口を有する従来型の管継手(図4(b))の外観を示す写真であり、いずれの管継手も呼び径75の塩化ビニル樹脂管との接続に対応している。
【0061】
図5は、上記の管継手に接続される呼び径75の塩化ビニル樹脂管を準備し、この塩化ビニル樹脂管の開口部内周面と、実施例1の管継手1aおよび従来型の管継手の差口外周面(テーパー面)とに同じ量の接着剤を塗布した後、塩化ビニル樹脂管へそれぞれの管継手を挿入し放置した状態を示す写真である。
【0062】
図5(a)から明らかなように、本発明による実施例1の管継手1aでは、挿入後、管継手1aの抜け方向への移動がまったく生じないのに対し、従来型の管継手では、図5(b)に示されるように、挿入後、直ぐに抜け方向へ約7mm移動した。
【0063】
また、図5(c)を参照して理解されるように、本発明による実施例1の管継手1aでは、挿入後、接着剤の外部への滲み出しが一切防止されるのに対し、従来型の管継手では、挿入後、管外周部へ多量の接着剤が滲み出した。
【実施例2】
【0064】
図6は、管継手差口4の根元端に当接面30を有し、さらに前記当接面30にネック部外周面から管継手外周面へ放射状に延びた複数の溝部31を配置した本発明による実施例2の合成樹脂製管継手1bを示した斜視図である。
【0065】
当接面30に配置された複数の溝部31は、接続後、ネック部外周面と管継手外部とを連通させて、ネック部45に溜まった接着剤が外部空気に接触することにより接着剤の乾燥を促進させる。したがって、当接面30に配置される溝部31の形状や数、配置などは特に限定されるものでないが、ネック部45内に溜まった接着剤をできるだけ均一に、かつ迅速に乾燥させるためには、複数の溝部31をネック部外周面から放射状に配置するのが好ましい。
【実施例3】
【0066】
図7は、本発明による実施例3の合成樹脂製管継手1cを示す、一部管軸aに垂直な断面で切り取った断面図である。
【0067】
実施例3の管継手1cは、その差口4の外周部に上述された後端部41a、41b、41cに角部44a、44b、44cを有する複数のテーパー面42a、42b、42cが配置されている。これらのテーパー面42a、42b、43cはすべて同一形状であってもよいが、特に先端のテーパー面42aの奥側に隣接するテーパー面42b、43cは、それぞれ先端部40b、40cから後端部41b、41cに向かって拡径されており、そして少なくとも後端部41b、41cの外径d2b、d2cが接続される合成樹脂管の内径より大きければよい。
【0068】
また、実施例3の管継手1cでは、先述された他の実施例と同様の環状のネック部45が差口テーパー面42cの奥側に隣接させて設けられているが、かかるネック部45はそれぞれのテーパー面42a、42b、42cの奥側に隣接させて複数個配置されていてもよい(図示せず)。
【0069】
実施例3の管継手1cと合成樹脂管を接続した場合の接合構造および接続機能は他の実施例と同様であるので、ここでは繰り返し詳細を述べないが、実施例3の管継手1cのように差口4の外周部に複数個のテーパー面42a、42b、42cが配置されると、管継手1cが接続される合成樹脂管との接合強度および水密性をより一層向上させる。
【実施例4】
【0070】
図8は、本発明による実施例4の合成樹脂製管継手1dを示す、一部管軸aに垂直な断面で切り取った断面図である。
【0071】
実施例4は、上述されたテーパー面42a、42bを有する差口4a、4bを、差口根元端に設けられた当接壁6を境界として管軸aに沿って左右対称に配置した合成樹脂製の管継手1dである。したがって、当接壁6の両側には当接面30a及び30bが形成されており、この当接壁6は、管継手1d挿入時、合成樹脂管の開口部端面と当接することによりストッパーとして機能する。また、この当接壁6が合成樹脂管の開口部端面と接着剤を介して接合される場合は、両者の水密性をさらに向上させるために機能することも期待される。
【0072】
なお、実施例4の管継手1dと合成樹脂管を接続した場合の接合構造および接続機能は他の実施例と同様であるので、ここでは繰り返し詳細を述べない。
【0073】
このように本発明の管継手は、上述されたテーパー面および角部を有する差口を端部に備えた合成樹脂製の管状体であればよく、したがって、本発明の管継手には短管、長管、スピゴット、エルボまたはチーズなどのあらゆる形状の管継手が含まれ、さらには、実施例4の管継手1dのように、差口が管継手の一端部のみならずその両端部に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による合成樹脂製管継手の一実施例およびこれに挿入接続される合成樹脂管を管軸に垂直な断面で切り取った断面図である。
【図2】図1に示される合成樹脂製管継手および合成樹脂管を接続した状態を示す管軸に垂直な断面で切り取った断面図である。
【図3】図1に示される合成樹脂製管継手が、管軸に対して斜めに切断された受口端面を有する合成樹脂管と接続された状態(図3(a))、および管継手の差口4が接続される合成樹脂管の管軸に対して斜めに挿入された状態(図3(b))を示す側面図および断面図である。
【図4】実施例1の管継手と、テーパー面を有するがテーパー面後端部に角部およびネック部が設けられていない差口を有する従来型の管継手の外観を示す写真である。
【図5】図4に示される実施例1の管継手と従来型の管継手を、接着剤を塗布して塩化ビニル樹脂管へ挿入接続した直後の状態を示す写真である。
【図6】管継手差口の根元端に、ネック部外周面から管継手外周面へ放射状に延びた複数の溝部を含む当接面が配置された本発明による実施例2の合成樹脂製管継手を示した斜視図である。
【図7】管継手差口の外周部に複数のテーパー面を備えた本発明による実施例3の合成樹脂製管継手を一部管軸に垂直な断面で切り取った断面図である。
【図8】テーパー面を有する差口を、差口根元端に設けられた当接壁を境界として管軸に沿って左右対称に配置した本発明による実施例4の合成樹脂製管継手を一部管軸に垂直な断面で切り取った断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 合成樹脂製管継手
2 合成樹脂管
3 管継手本体
4 管継手差口
5 開口部
20 内周面
30 当接面
31 溝部
40 テーパー面先端部
41 テーパー面後端部
42 テーパー面
43 端面
44 角部
45 ネック部
46 ネック部外周面
50 開口部端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂管の開口部に対し、接着剤を介して挿入接続される差口を有する合成樹脂製の管継手であって、
前記差口は、先端部から後端部に向かって拡径されており、そして先端部の外径より大きく、かつ、後端部の外径より小さい内径を有する前記開口部と挿入接続されるテーパー面を備えており、そして
前記テーパー面の後端部は、接続時、接着剤が塗布されて膨潤した前記開口部内周面内へ食い込むことにより、前記差口の挿入を許容するが抜け方向への移動を許容しない角部が形成されていることを特徴とする前記管継手。
【請求項2】
前記角部は、前記テーパー面の後端部において、前記テーパー面とその後端部に設けられた管軸に対して略直交する端面が交差することにより環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記テーパー面は、前記差口に複数個配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の管継手。
【請求項4】
前記差口は、前記テーパー面の奥側に隣接させて、前記テーパー面先端部の外径以下の外周径を有する環状のネック部をさらに含んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の管継手。
【請求項5】
前記管継手は、前記差口の根元端に、前記開口部の端面と当接させるための管軸に対して略直交する当接面をさらに含んでいることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の管継手。
【請求項6】
前記当接面は、接続時、前記ネック部に溜まった接着剤の乾燥を促進させるための前記ネック部外周面から前記管継手外周面へ放射状に延びた複数の溝部を有することを特徴とする請求項5に記載の管継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−144874(P2008−144874A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333405(P2006−333405)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】