説明

合成樹脂製中空部材

【課題】製造時における環境負荷を小さくすることができる合成樹脂製中空部材を提供する。
【解決手段】多数の円柱状突起部13が形成された凹凸状シート11における円柱状突起部13の開口側に平坦状シート12が融着されている合成樹脂製中空部材において、凹凸状シート11または平坦状シート12の少なくとも一方で、主成分である合成樹脂に、粒径5μm以下であり、かつ、疎水性のデンプンを混入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の円柱状突起部が形成された凹凸状合成樹脂シートの両面に平坦状合成樹脂シートを接合した合成樹脂製中空部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、商品名「プチプチ(登録商標)」として知られる気泡シートや商品名「プラパール(登録商標)」で知られる気泡ボードなどの合成樹脂製中空部材が広く用いられている。合成樹脂製中空部材は、多数の凹凸状突起部が形成された凹凸状シートに平坦状シートが接合され、多数の密閉気泡部が形成されて構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
合成樹脂製中空部材の原料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂用がいられており、これらの合成樹脂は、材料精製時や成形過程に大量のCO2が発生するため、環境負荷が大きいという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は上記点に鑑み、製造時における環境負荷を小さくすることができる合成樹脂製中空部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明は、多数の円柱状突起部(13)が形成された凹凸状シート(11)における前記円柱状突起部(13)の開口側に平坦状シート(12)が融着されている合成樹脂製中空部材であって、前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、主成分である合成樹脂に、粒径5μm以下であり、かつ、疎水性のデンプンを混入されていることを特徴としている。
【0006】
このように、合成樹脂にデンプンを増量剤として混入することで、石油資源の使用量を低減できるので、材料の精製工程やシートの成形工程でのCO2の発生を抑制でき、環境負荷を低減することができる。そして、粒径5μm以下のデンプンを用いることで、一般的に用いられる凹凸状シート(11)の延伸後の厚みよりデンプンの粒径が小さくなり、適切にデンプンを混入させることができる。さらに、疎水性のデンプンを用いることで、デンプンが含有する水分の蒸発で合成樹脂シートが発泡したり、あるいは粘性の増加に起因して成形時にデンプンが焦げ付くといった不具合の発生を回避することができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、複数層から構成されており、他のシートと融着する融着層以外の層に前記デンプンが混入されていることを特徴としている。これにより、合成樹脂製シート同士の接合性の低下を防ぐことができる。さらに、複数層のいずれの層にのみデンプンを混入することで、デンプンを含まない他の層によりガスバリア性を確保することができる。
【0008】
また、請求項3に記載の発明では、前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、3層以上の複数層から構成されており、前記複数層のうち外部に露出しない中間層に前記デンプンが混入されていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項4に記載の発明では、前記疎水性のデンプンは、老化デンプンであることを特徴としており、請求項5に記載の発明では、前記疎水性のデンプンは、酸または塩基で化学修飾されたデンプンであることを特徴としている。
【0010】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図1に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態を示す合成樹脂製気泡シート10の斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の気泡シート10は、多数の凹凸状突起部が形成された凹凸状シート(キャップフィルム)11と、平坦状の平坦状シート(バックフィルム)12とから構成される2層構造となっている。本実施形態の凹凸状シート10には、多数の円柱状突起部がエンボス加工されており、凹凸状シート11の突起部開口側に平坦状シート12が接合されている。これにより、凹凸状シート11と平坦状シート12との間には、空気が密閉された気泡部(密閉突起部)13が形成される。本実施形態の気泡シート10は、柔軟性を有しており、気泡部13により緩衝効果に優れるので、包装材料として好適に用いることができる。
【0013】
本実施形態では、気泡シート10を構成する合成樹脂として、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂を用いている。本実施形態の気泡シート10では、ポリエチレンを用いている。また、合成樹脂製気泡シート10は、本実施形態のように柔軟性が必要とされる場合には単位面積当り重量(目付重量)を35〜200グラム/m2とすることが望ましい。
【0014】
図2は、気泡シート10の断面図である。図2に示すように、凹凸状シート11と平坦状シート12は、複数のフィルムが積層された多層フィルムとして構成されている。本実施形態では、凹凸状シート11、平坦状シート12ともに三層構造のシートとして構成されており、それぞれ表面層11a、12a、中間層11b、12b、融着層11c、12cを有している。
【0015】
凹凸状シート11は、全体の厚みが35μmであり、表面層11aが3.5μm、中間層11bが28μm、融着層11cが3.5μmである。平坦状シート12は、全体の厚みが25μmであり、表面層12aが2.5μm、中間層12bが20μm、融着層12cが2.5μmである。
【0016】
凹凸状シート11および平坦状シート12の表面層11a、12aと融着層11c、12cは、それぞれポリエチレンから構成されている。そして、凹凸状シート11および平坦状シート12の中間層11b、12bは、ポリエチレンと変性ポリエチレンとデンプンとから構成されている。変性ポリエチレンは、ポリエチレンとカルボン酸をグラフト重合させたものである。このように、合成樹脂にデンプンを増量剤として混入することで、石油資源の使用量を低減できるため、材料の精製工程やシートの成形工程でのCO2の発生を抑制でき、環境負荷を低減することができる。
【0017】
中間層11b、12bに混入するデンプンについて説明する。デンプンは、その原料となる植物によって大きさが異なる。例えばジャガイモのデンプンは0.1mm程度であるが、コメのデンプンは数μmである。気泡シート10の気泡部13は、真空成形され薄く伸ばされるため、延伸される前のフィルム厚に比べ、通常20〜25%程度の厚みになる。一般的に用いられる気泡シート10の凹凸状シート11の延伸前の厚みが最小で30μm程度であるため、真空成形後の厚みは7〜8μm程度である。このため、凹凸状シート11に添加されるデンプンの粒径は5μm以下であることが望ましい。粒径が5μm以下のデンプンとしては、例えばコメのデンプンを用いることができる。
【0018】
また、通常デンプンは風乾で20%程度の水分を有し、少し湿った状態での水分は30%に達する。このような水分を含有するデンプンを合成樹脂に混入すると、成形時の加熱で水分が蒸発し、その水蒸気によって発泡し、シート11の美観を損ねる。さらに、20〜30%の水分を有するデンプンを加熱すると、容易にα化する。α化して粘性の高まったデンプンは、合成樹脂に混入されてもその粘性を高めるため、金型内での流れの悪い箇所に滞留してデンプンが高温で焦げるという問題が生じる。このため、本実施形態では、合成樹脂に混入するデンプンとして、風乾で含水率が10%以下の疎水性のデンプンを用いている。疎水性のデンプンとしては、老化デンプン、または酸や塩基で化学修飾を施したデンプンがよい。
【0019】
老化デンプンとは、以下のようなものである。主成分がアミロースとアミロペクチンのデンプンを70℃程度の水に溶かすと、アミロースは完全に溶解する。その溶液を低温で放置すると、アミロペクチンのみが白い沈殿になり、水に溶けなくなる。これを老化デンプンという。また、デンプンを酸または塩基で化学修飾したものとして、極性を有する官能基を付与させたものは、その官能基が疎水性であれば、含水率は大きく下がり、疎水性のデンプンとして使用に耐えることができる。
【0020】
合成樹脂に疎水性のデンプンを混入したもののみの場合、そのデンプン量によっては、真空成形工程などの延伸効果により、デンプンと合成樹脂の界面よりガス漏れを生じる。このような場合、以下の(1)、(2)の一方または両方の手法でガス漏れを防ぐことができる。
【0021】
(1)多層フィルムからなる凹凸状シート11と平坦状シート12の中間層11b、12bにデンプンを混入し、ポリエチレンのみからなる表面層11a、12aまたは融着層11c、12cをガスバリア性を向上させる。(2)デンプン+合成樹脂に相容化剤を加える。相容化剤により、デンプンと合成樹脂の界面の密着度を高めることができ、延伸されてもその界面からのガス漏れを防ぐことができる。相容化剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化してカルボキシル基を持たせたものや合成樹脂にカルボン酸や無水マレイン酸をグラフト重合したものが好ましい。
【0022】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、本発明を柔軟性を有する気泡シート10に適用した例について説明したが、これに限らず、本発明は剛性を有する気泡ボードにも適用可能である。気泡ボードとしては、単位面積当り重量(目付重量)が200グラム/m2〜3000グラム/m2程度のものがよく知られている。気泡ボードは肉厚シートから構成され曲げ剛性を有しており、薄肉シートから構成され柔軟性を有する気泡シートと区別される。気泡ボードは中空構造のため軽量であり、また、耐圧縮性、耐衝撃性、熱遮断効率等に優れているため種々の用途に用いることができ、例えば建設現場等において柱や壁を保護するための養生材等に好適に用いることができる。
【0023】
また、上記実施形態では、凹凸状シート11の一面のみに平坦状シート12が接合された二層品について説明したが、本発明は凹凸状シート11の両面に平坦状シートが接合された三層品に適用することも可能である。
【0024】
また、上記実施形態では、凹凸状シート11と平坦状シート12の双方にデンプンを混入して構成したが、これらのうち一方のみにデンプンを混入するように構成してもよい。
【0025】
また、上記実施形態では、凹凸状シート11と平坦状シート12の双方を三層構造として構成したが、これに限らず、二層以上の複数層構造であればよい。この場合、デンプンは融着層ではない層に混入することで、合成樹脂製シート11、12同士の接合性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】上記実施形態の合成樹脂製気泡シート10の斜視図である。
【図2】上記実施形態の気泡シート10の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10…気泡シート、11…凹凸状シート、11a…表面層、11b…中間層、11c…融着層、12…平坦状シート、12a…表面層、12b…中間層、12c…融着層、13…気泡部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の円柱状突起部(13)が形成された凹凸状シート(11)における前記円柱状突起部(13)の開口側に平坦状シート(12)が融着されている合成樹脂製中空部材であって、
前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、主成分である合成樹脂に、粒径5μm以下であり、かつ、疎水性のデンプンを混入されていることを特徴とする合成樹脂製中空部材。
【請求項2】
前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、複数層から構成されており、他のシートと融着する融着層以外の層に前記デンプンが混入されていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製中空部材。
【請求項3】
前記凹凸状シート(11)または前記平坦状シート(12)の少なくとも一方は、3層以上の複数層から構成されており、前記複数層のうち外部に露出しない中間層に前記デンプンが混入されていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製中空部材。
【請求項4】
前記疎水性のデンプンは、老化デンプンであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の合成樹脂製中空部材。
【請求項5】
前記疎水性のデンプンは、酸または塩基で化学修飾されたデンプンであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の合成樹脂製中空部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−178875(P2009−178875A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18061(P2008−18061)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000199979)川上産業株式会社 (203)
【Fターム(参考)】