説明

合成樹脂製丸形壜体

【課題】 本発明は合成樹脂製の丸形壜体における減圧吸収パネルによる減圧吸収機能を、減圧吸収パネルの面積を広げることなく向上させることを技術的な課題とするものである。
【解決手段】 円筒状の胴部の所定の高さ範囲に複数の減圧吸収パネルを周方向に並列状に陥没形成すると共に、隣接する減圧吸収パネルの間に柱部を縦方向に残存形成した丸形壜体において、減圧吸収パネルの左右側端縁となる、平断面でみて、円弧状の柱部と減圧吸収パネルの左右側端部を陥没状に形成する傾斜面との境界部分に、角取り状に、前記傾斜面に比較して緩やかな傾斜の段部を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製丸形壜体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌を必要とするたとえば果汁飲料やお茶等、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)樹脂製の壜体(ペットボトル)等の合成樹脂製壜体への充填方法として、所謂、高温充填と呼ばれる方法があるが、90℃前後の温度で内容液を壜体に充填し、キャップをして密封後、冷却するものであり、冷却後には壜体内がかなりの減圧状態となる。
【0003】
このため、上記のような高温充填を伴う用途については、胴部に減圧吸収パネルを形成し、減圧に伴う壜体の減容変形を、壜体がいびつに変形した感じを与えることなく、目立たないように吸収(緩和)する機能、所謂、減圧吸収機能を発揮するようにした耐熱ボトルが用いられている。
たとえば、特許文献1には胴部に中心軸に対して軸対称に、6ケの縦長の減圧吸収パネルを凹状に陥没形成した丸形壜体に係る発明が記載されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−63516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、1リッター以下程度の比較的小さな内容量の壜体では、胴部の表面積が小さく、必要な減圧吸収容量に対する減圧吸収パネルの面積の確保が難しくなる。さらに、強度や剛性の面から、あるいはデザイン性を重視して減圧吸収パネルを形成する領域を胴部の下半部の範囲等に限定すると、壜体内部の減圧度を徐々に上げていき、胴部の周壁が局部的に陥没変形あるいは座屈変形した時点における壜体の減容変形量である減圧吸収容量が不足すると云う問題がある。
【0006】
そこで、本発明は合成樹脂製の丸形壜体における減圧吸収パネルによる減圧吸収機能を、減圧吸収パネルの面積の大きさを広げることなく向上させることを技術的な課題とするものである。

【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段の中、本発明の主たる構成は、
円筒状の胴部の所定の高さ範囲に複数の減圧吸収パネルを周方向に並列状に陥没形成すると共に、隣接する減圧吸収パネルの間に柱部を縦方向に残存形成した丸形壜体において、
減圧吸収パネルの左右側端縁となる、平断面でみて、円弧状の柱部と減圧吸収パネルの左右側端部を陥没状に形成する傾斜面との境界部分に、角取り状に、前記傾斜面に比較して緩やかな傾斜の段部を配設する、と云うものである。
【0008】
壜体内の減圧度を上昇させると、陥没状に形成された減圧吸収パネルが柱部との境界部を基端部としてさらに陥没状に変形し減圧吸収機能が発揮される。
そして、上記構成によれば、減圧吸収パネルの左右側端縁に緩やかな傾斜の段部を配設し、この段部を陥没変形の左右の基端部とすることにより、基端部の可動域を大きくすることができ、その結果減圧度の上昇の進行に伴う減圧吸収パネルの陥没変形の変形量を大きくして減圧吸収機能を向上させることができる。
【0009】
本発明の他の構成は、上記主たる構成において、段部を減圧吸収パネルの上端部及び下端部に延設し、段部で減圧吸収パネルを囲うように構成する、と云うものである。
【0010】
上記構成により、段部を、減圧吸収パネルを囲うように配設することにより、減圧吸収パネルの陥没変形をより柔軟に大きく進行させることができ、減圧吸収容量をより減圧吸収機能をさらに向上させることができる。

【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。
本発明の主たる構成を有する丸形壜体にあっては、柱部と減圧吸収パネルの左右側端部を陥没状に形成する傾斜面との境界部分に、角取り状に、前記傾斜面に比較して緩やかな傾斜の段部を配設し、この段部を陥没変形の左右の基端部とすることにより、この基端部の可動域を大きくすることができ、その結果減圧度の上昇の進行に伴う減圧吸収パネルの陥没変形の変形量を大きくして減圧吸収機能を向上させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の丸形壜体の一実施例の正面図である。
【図2】図1の壜体の平面図である。
【図3】(a)は図1中のA−A線、(b)はB−B線、(c)はC−C線に沿った平断面図である。
【図4】丸形壜体の比較例の正面図である。
【図5】(a)は図4中のA−A線、(b)はB−B線、(c)はC−C線に沿った平断面図である。
【図6】(a)は実施例の壜体の、(b)は比較例の壜体の減圧時の減圧吸収パネルの変形態様を説明するための概略図である。
【図7】減圧吸収容量に係る解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1〜3は本発明の合成樹脂製丸形壜体の一実施例を示すものであり、図1は正面図、図2は平面図、図3(a)は図1中のA−A線、(b)はB−B線、(c)はC−C線に沿った平断面図である。この壜体1はPET樹脂製の二軸延伸ブロー成形品であり、口筒部2、肩部3、円筒状の胴部4、底部5を有し、全高さが260mm、直径が83mm、通称容量が1リッターの丸形壜体である。
【0014】
胴部4の上半部には6ケの周溝7が形成されており、下半部には縦長矩形状の6ケの減圧吸収パネル11が並列状に陥没形成され、隣接する減圧吸収パネル11の間には壜体1の剛性や座屈強度を担う6ケの柱部6が縦方向に残存形成されている。
【0015】
そして、各減圧吸収パネル11の周縁部は、図1に示されるように額縁状に段部12が配設されている。
そして減圧吸収パネル11の平断面形状は、図3(b)、(c)に示されるように、段部12、左右側端部を陥没状に形成する傾斜面13、そして底部14から構成されおり、減圧吸収パネル11の左右側端縁では、段部12は、図3(c)中の拡大図で示されるように、平断面でみて、円弧状の柱部6と減圧吸収パネル11の左右側端部を陥没状に形成する傾斜面13との境界部分に、角取り状に、傾斜面13に比較して緩やかな傾斜で配設されている。
【0016】
次に、図4、5は本発明の壜体の作用効果を確認するために用意した比較例の壜体1を示すものであり、図4は正面図、図5(a)は図4中のA−A線、(b)はB−B線、(c)はC−C線に沿った平断面図である。
この比較例の壜体1の形状は、上記実施例の壜体1と比較すると、減圧吸収パネル11の周縁部に段部12を配設していないことを除いて同形状である。
すなわち、比較例の壜体1では図5(c)中の拡大図に示されるように、減圧吸収パネル11の左右側端縁では、平断面でみて、円弧状の柱部6と減圧吸収パネル11の左右側端部を陥没状に形成する傾斜面13が直接交叉している。
【0017】
図7は、上記実施例と比較例の壜体について、壜体の減圧吸収容量に係る解析を実施した結果を示すもので、横軸を減圧度(kPa)、縦軸を吸収容量(ml)としてグラフであり、実施例の壜体の測定結果をTest1の線で示し、比較例の壜体の測定結果をTest2の線で示している。
【0018】
そして、最終的に不正変形が発生する点、図中、S1、S2で示した点における減圧強度と減圧吸収容量は次のようであった。
・実施例の壜体;15.0kPa、52.7ml
・比較例の壜体;11.8kPa、36.4ml
なお、実施例の壜体1では、図7中のS1点で、図1中ハッチングで示した位置、すなわち柱部6の上端部で局所的な変形が発生し、一方、比較例の壜体1では、図7中のS2点で、図4中ハッチングで示した位置、すなわち柱部6の中央高さ位置で局所的な変形が発生する。
【0019】
上記結果から、実施例の壜体は比較例の壜体に対して減圧吸収容量が約45%向上し、本発明における段部12の作用効果が確認された。
また、図7中のTest1の線はTest2の線に比較して横軸に対する立ち上がり角度が大きく、この点から、実施例の壜体では比較例の壜体に比較し減圧度の上昇に伴う壜体の減容変形がより柔軟に進行することが判った。
【0020】
ここで、図6は上記の減圧吸収容量測定試験中における減圧吸収パネルの変形態様を解析した結果を、図1、図4中のC−C線に沿った平断面図で概略的に示したものであり、(a)は実施例の壜体、(b)は比較例の壜体についてのものである。
それぞれ2点鎖線で減圧吸収パネル11の陥没状の変形態様を示しているが、実施例の壜体では、減圧吸収パネル11の左右側端部を陥没状に形成する傾斜面13に比較して緩やかな傾斜の段部12が陥没変形の左右の基端部となるため、この基端部の可動域が大きくなり、比較例の壜体に対して減圧吸収パネル11の陥没変形量を大きくできることが判った。
【0021】
以上、実施例に沿って本願発明の実施の形態とその作用効果について説明したが、本願の実施の形態はこの実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、PET樹脂製の容量が1リッターで、胴部の上半部に周溝を多数配設し、下半部に減圧吸収パネルを配設した丸形壜体の例を示したが、本願発明の作用効果は他の合成樹脂製の壜体、他の容量の壜体部についても十分発揮されるものである。
また、減圧吸収パネルの配設領域についても下半部だけでなく、必要に応じて胴部の全高さ領域に、上半部だけに、さらには上半分と下半部を2段に分けてその双方に配設することもできる。さらに減圧吸収パネルの配設個数やその形状についても使用目的に応じて適宜、設定できるものであり、特に限定されるものでない。
【0022】
また、上記実施例では減圧吸収パネルを囲うようにして段部を周設する構成としたが、段部を左右側端縁だけに配設する構成としても、その減圧吸収容量の向上に係る作用効果は十分に発揮される。
また、段部に係る幅や傾斜の程度等の形状は、減圧吸収容量の向上に係る作用効果、座屈強度、さらには外観デザイン等を考慮して適宜決めることが決めることができる。

【産業上の利用可能性】
【0023】
以上説明したように、本発明の合成樹脂製丸形壜体は減圧吸収パネルによる減圧吸収機能を大幅に向上したものであり、特に小型、あるいは壜体やデザイン面等から減圧吸収パネルの配設可能な面積が限定されるような壜体での幅広い使用展開が期待される。

【符号の説明】
【0024】
1 ;壜体
2 ;口筒部
3 ;肩部
4 ;胴部
5 ;底部
6 ;柱部
7 ;周溝
11;減圧吸収パネル
12;段部
13;傾斜面
14;底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部(4)の所定の高さ範囲に複数の減圧吸収パネル(11)を周方向に並列状に陥没形成すると共に、隣接する減圧吸収パネル(11)の間に柱部(6)を縦方向に残存形成した丸形壜体において、前記減圧吸収パネル(11)の左右側端縁となる、平断面でみて、円弧状の前記柱部(6)と減圧吸収パネル(11)の左右側端部を陥没状に形成する傾斜面(13)との境界部分に、角取り状に、前記傾斜面(13)に比較して緩やかな傾斜の段部(12)を配設したことを特徴とする合成樹脂製丸形壜体。
【請求項2】
段部(12)を減圧吸収パネル(11)の上端部及び下端部に延設し、前記段部(12)で減圧吸収パネル(11)を囲うように構成した請求項1記載の合成樹脂製丸形壜体。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136252(P2012−136252A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289635(P2010−289635)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】