説明

合成的に成長せしめられた炭素繊維を含んでいる修飾されたバイオマス

バイオマス粒子が、該粒子を炭素繊維に結合することによって修飾される。炭素繊維は、バイオマス粒子上にコーティングされることができ、またはバイオマス粒子の内部に埋め込まれることができる。炭素繊維との結合の結果、該粒子はバイオ液体への転化をより受けやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形バイオマス物質を前処理する方法に関する。該前処理は、穏やかな条件下に液体燃料への転化を受けやすい、活性化されたバイオマス物質をもたらす。
【背景技術】
【0002】
容易に利用しやすい原油の供給が次第に減少しているので、他の源からの液体燃料の必要性が増加している。ある種の、炭素に基づいたエネルギー担体物質は豊富に利用可能である。その例は、バイオマス、特に光合成由来の、一般にセルロースおよび/またはリグノセルロースを含んでいるバイオマスを包含する。これらのエネルギー担体物質を液体燃料に転化する方法が開発されている。このような方法の例は、熱分解法および水熱転化法を含む。しかし、これらの方法は比較的厳しい条件を要求し、該条件は高価な装置および高いエネルギー投入量を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、比較的穏やかな条件下に液体燃料への転化をより受けやすいように、増感されて(「活性化されて」)いる固形物質を開発する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、粒子状固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質に関する。炭素繊維は、バイオマス粒子上にコーティングされ、バイオマス粒子の内部に埋め込まれ、またはその双方であることができる。炭素繊維は好ましくはナノファイバーである。
【0005】
好まれるバイオマス物質は、光合成由来のもの、特にセルロースおよび/またはリグノセルロースを含んでいるバイオマス物質である。
【0006】
炭素繊維を結合された固形バイオマス物質は、適当な触媒物質を固形バイオマス物質の粒子上に堆積させ、そして得られた粒子を適当な炭素源に接触させることによって、調製されることができる。別の方法では、炭素繊維が外部で(ex situ)製造され、そしてその後で固形バイオマスと緊密に混合されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
炭素繊維を結合された固形バイオマスは、水熱転化、酵素転化、穏やかな熱転化または接触転化によって、バイオ液体への転化をより受けやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下は、本発明の特定の実施態様の記載であり、実施例の目的としてのみ示される。
【0009】
本発明は、粒子状固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質に関する。炭素繊維は好ましくはナノファイバーである。炭素繊維は、バイオマス粒子上にコーティングされ、バイオマス粒子の内部に埋め込まれ、またはそれらの組み合わせであることができる。
【0010】
好まれるバイオマス物質は、光合成由来のもの、特にセルロースおよび/またはリグノセルロースを含んでいる物質である。その例は、水生植物、たとえば藻類;林業廃棄物、たとえば木材チップおよびおがくず;農業植物廃棄物、たとえばバガス、わら、トウモロコシの穂軸等;いわゆるエネルギー作物、たとえばスイッチグラス;および食用作物、たとえばトウモロコシおよび穀物を含む。
【0011】
炭素繊維との結合の結果、固形バイオマス物質は、たとえばバイオ液体への転化をより受けやすい。たとえば、これらの物質は、水熱転化法において300℃未満、好ましくは240℃未満の温度で、または200℃未満の温度でさえバイオ液体へ転化されることができる。より低い温度で操業されることができることは、有意のコスト節減をもたらす。何故ならば、水熱転化は一般に自然発生圧力において実施されるからである。300℃における飽和水蒸気圧は85バールであり、240℃ではそれは33バールであり、および200℃ではそれは15バールである。したがって、はるかにより低い圧力用に設計された反応器では装置コストがはるかにより低いので、より低い転化温度は有意のコスト節減に結び付く。
【0012】
本発明の他の態様は、固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質を調製する方法において、
a) 粒子形状の固形バイオマス物質を用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマス物質上に、炭素繊維の生成を触媒する能力のある触媒物質の粒子を堆積して、活性化されたバイオマスを形成する段階、および
c) 該活性化されたバイオマスを適当な炭素源に接触させる段階
を含む方法である。
【0013】
他の実施態様では、本発明は、固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質を調製する方法において、
固形バイオマスを炭素ナノファイバーと混合する段階、および
該混合物を機械的に処理して、炭素ナノファイバーを固形バイオマス中に埋め込む段階
を含む方法である。
【0014】
機械的処理の好適な方法は、粉砕、磨砕、混練、およびサンドブラストを包含する。
【0015】
好ましくは、機械的処理段階は、300℃未満、より好ましくは250℃未満の温度で実施される。
【0016】
バイオマス粒子は、好ましくは5mm未満、より好ましくは0.1〜3mmの範囲内の粒子サイズを有する。該粒子は、より大きい片の固形バイオマス、たとえばトウモロコシの鞘、わら、木材チップ等から、公知の手法、たとえば磨砕、粉砕等によって調製される。特に好まれる方法では、バイオマスは、最初に磨砕または粉砕によって約5mmの粒子サイズまで細かく砕かれ、そしてその後流動床、沸騰床、噴流床、または空気輸送装置中で該バイオマスより硬い粒子、たとえば砂を用いる磨耗によってさらにサイズを低減される。
【0017】
バイオマス粒子上への触媒物質の堆積は、触媒技術分野において公知の任意の好適な方法によって行われることができる。好適な方法の例は、含浸およびそれに続く乾燥、その場(in situ)結晶化等を含む。本発明に使用されるのに適した触媒物質は、金属、特に炭化物を生成する能力のある金属、または炭素を溶解する能力のある金属を包含する。好まれるのは、遷移金属、特に(コストの理由から)非貴金属の遷移金属である。本発明に使用されるのに最も好まれるのは、Fe、Co、Ni、Cr、V、Mo、およびこれらの混合物から成る群からの金属である。
【0018】
炭素源は気体または液体であることができる。気体状炭素源の例は、メタン、一酸化炭素、合成ガス(一酸化炭素と水素との混合物)、エチン、エタン、およびこれらの混合物を含む。後続のバイオマスの転化は、液状および/または気体状生成物を製造し、これらは、コストの理由から本発明の方法に炭素源として使用されるのが特に好まれる。
【0019】
本発明者らは理論に拘束されることを望むわけではないが、炭素源からの炭素は触媒物質によって炭化物を生成し、および/または触媒物質中に溶解すると考えられる。炭素は触媒物質中を移動しそして触媒粒子の表面のうちの1、たとえばバイオマス粒子に接触している表面において炭素繊維を生成する。炭素繊維は、バイオマス粒子の表面に沿って成長し、またはバイオマス粒子中に浸透さえして、該粒子の内部に埋め込まれることができる。この工程は、200〜1100℃、好ましくは300〜600℃の範囲内の温度において実施される。
【0020】
本明細書で使用される「炭素繊維を結合され」または「炭素の繊維を結合され」の語は、バイオマス粒子であって、炭素繊維をその表面上にコーティングさせたものおよび/またはその粒子の内部に埋め込ませたもののことをいう。該語は、本明細書に開示された方法によって、または何らかの他の方法によって造られたような粒子を包含する。「コーティングされ(させ)」の語は、該粒子の表面が炭素繊維で完全に被覆されることを要求しない、すなわちそれは単に炭素繊維をその表面に結合させているバイオマス粒子の状態を意味することが理解されよう。炭素繊維は、バイオマス粒子に単一点で、または数点で、またはその全長に沿って結合されることができる。[繊維]の語は、繊維様の構造体、たとえば管も包含する。
【0021】
炭素繊維を結合されたバイオマス粒子は、類似した組成およびサイズの非修飾バイオマス粒子と比較して、たとえばバイオ液体への転化の感受性が増加している。理論に拘束されることを望むわけではないが、この感受性の増加についていくつかの理由がありうると、本発明者らは考える。第一に、炭素繊維は、後続の転化反応に関与することができる触媒活性な部位を提供する。第二に、炭素繊維は、該繊維がその表面に結合されている1または複数の点においてバイオマス粒子の表面を浸透し、それによって該バイオマス粒子を化学反応に、より接近可能にする。この効果は、その内部に炭素繊維を埋め込ませたところの粒子についてさらにより明白である。
【0022】
したがって、本発明の他の態様は、炭素繊維を結合されたバイオマス粒子を、それからバイオ液体を調製するための方法に使用する方法である。好適な方法の例は、水熱転化、熱分解、酵素転化、接触転化、および穏やかな熱転化を含む。穏やかな熱転化は、水素の存在において実施されることができる。
【0023】
特に、本発明の1の態様は、固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維をそれに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、300℃未満の温度において水熱転化に付する段階
を含む方法である。
【0024】
好ましくは、段階c)は240℃未満、より好ましくは200℃未満の温度において実施される。
【0025】
本発明の他の態様は、固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維を当該バイオマスに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、酵素転化に付する段階
を含む方法である。
【0026】
好ましくは、段階b)において炭素繊維は固形バイオマスの内部に埋め込まれる。
【0027】
本発明の他の態様は、固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維を当該バイオマスに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、穏やかな熱転化に付する段階
を含む方法である。
【0028】
好ましくは、段階b)において炭素繊維は固形バイオマスの内部に埋め込まれる。
【0029】
好ましくは、段階c)は水素の存在において実施される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質。
【請求項2】
炭素の繊維が、粒子状バイオマス物質上にコーティングされている、請求項1に従う粒子状固形バイオマス物質。
【請求項3】
炭素の繊維が、粒子状バイオマス物質の内部に埋め込まれている、請求項1に従う粒子状固形バイオマス物質。
【請求項4】
繊維が炭素ナノファイバーである、請求項1〜3のいずれか1項に従うバイオマス物質。
【請求項5】
光合成由来のものである、請求項1〜4のいずれか1項に従うバイオマス物質。
【請求項6】
セルロースおよび/またはリグノセルロースを含んでいる、請求項5に従うバイオマス物質。
【請求項7】
300℃未満の温度において水熱転化を受けやすいものである、請求項1〜6のいずれか1項に従うバイオマス物質。
【請求項8】
240℃未満の温度において水熱転化を受けやすいものである、請求項7に従うバイオマス物質。
【請求項9】
200℃未満の温度において水熱転化を受けやすいものである、請求項7に従うバイオマス物質。
【請求項10】
固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質を調製する方法において、
a) 粒子形状の固形バイオマス物質を用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマス物質上に、炭素繊維の生成を触媒する能力のある触媒物質の粒子を堆積して、活性化されたバイオマスを形成する段階、および
c) 該活性化されたバイオマスを適当な炭素源に接触させる段階
を含む方法。
【請求項11】
固形バイオマス物質であって、炭素の繊維を結合されているバイオマス物質を調製する方法において、
固形バイオマスを炭素ナノファイバーと混合する段階、および
該混合物を機械的に処理して、炭素ナノファイバーを固形バイオマス中に埋め込む段階
を含む方法。
【請求項12】
炭素繊維が、固形バイオマス粒子上にコーティングされる、請求項10に従う方法。
【請求項13】
炭素繊維が、バイオマス粒子の内部に埋め込まれる、請求項10に従う方法。
【請求項14】
触媒物質が、炭化物を生成する能力のある金属、または炭素を溶解する能力のある金属を含んでいる、請求項10、12および13のいずれか1項に従う方法。
【請求項15】
金属が遷移金属である、請求項14に従う方法。
【請求項16】
金属が、非貴金属の遷移金属である、請求項15に従う方法。
【請求項17】
金属が、Fe、Co、Ni、Cr、V、Mo、およびこれらの混合物から成る群から選択される、請求項16に従う方法。
【請求項18】
炭素源が、気体状炭素源を含んでいる、請求項10および12〜16のいずれか1項に従う方法。
【請求項19】
炭素源が、メタン、一酸化炭素、合成ガス、エチン、エタン、およびこれらの混合物から成る群から選択された気体を含んでいる、請求項18に従う方法。
【請求項20】
炭素源が液体を含んでいる、請求項10および12〜16のいずれか1項に従う方法。
【請求項21】
炭素源が、固形バイオマスの分解生成物を含んでいる、請求項10および12〜16のいずれか1項に従う方法。
【請求項22】
固形バイオマスの分解生成物が気体である、請求項21に従う方法。
【請求項23】
固形バイオマスの分解生成物が液体である、請求項22に従う方法。
【請求項24】
固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維を当該バイオマスに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、300℃未満の温度において水熱転化に付する段階
を含む方法。
【請求項25】
段階c)における温度が240℃未満である、請求項24に従う方法。
【請求項26】
段階c)における温度が200℃未満である、請求項25に従う方法。
【請求項27】
固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維を当該バイオマスに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、酵素転化に付する段階
を含む方法。
【請求項28】
炭素繊維が、固形バイオマスの内部に埋め込まれる、請求項27に従う方法。
【請求項29】
固形バイオマス物質からバイオ液体を調製する方法であって、
a) 粒子形状の固形バイオマスを用意する段階、
b) 当該粒子状バイオマスを、炭素繊維を当該バイオマスに結合することによって活性化する段階、および
c) 当該活性化されたバイオマスを、穏やかな熱転化に付する段階
を含む方法。
【請求項30】
炭素繊維が、固形バイオマスの内部に埋め込まれる、請求項29に従う方法。
【請求項31】
転化段階c)が、水素の存在において実施される、請求項29に従う方法。

【公表番号】特表2009−543923(P2009−543923A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519953(P2009−519953)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057249
【国際公開番号】WO2008/006902
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(508328877)バイオイーコン インターナショナル ホールディング エヌ.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】