説明

合成繊維用処理剤及び合成繊維の処理方法

【課題】産業資材用合成繊維のように、高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、製糸工程における糸揺れ、毛羽及びタールの発生を抑え、糸強度の低下を防止できる処理剤及び処理方法を提供する。
【解決手段】合成繊維用処理剤として、平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤を所定割合で含有し、且つ平滑剤の少なくとも一部として、複数のイソシアヌル酸誘導体と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、または1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤という)及び合成繊維の処理方法(以下、単に処理方法という)に関する。ポリアミド維維やポリエステル繊維等の合成繊維はその製糸工程で該合成繊維に毛羽等が発生しないようにすることが重要である。なかでも、タイヤコード、ベルト、ホース、シートベルト、エアーバッグ等に使用され、かかる用途との関係で高強度が求められる産業資材用合成繊維は、高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸されるため、製糸工程において糸揺れ、毛羽及びタールが発生し易く、結果として糸強度が低下するので、かかる糸揺れ、毛羽及びタールが発生しないようにすることが特に重要である。このため合成繊維に付着させる処理剤には、該合成繊維が高温且つ高接圧下で製糸される場合であっても、前記のような糸揺れ、毛羽及びタールの発生を抑え、糸強度の低下を防止できるものであることが要求される。本発明は、かかる要求に応える処理剤及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温且つ高接圧下においても合成繊維に平滑性を与え、毛羽等の発生を抑える処理剤として、1)多価アルコールとヒドロキシモノカルボン酸とのエステル化合物のアルキレンオキサイド付加物を必須成分とするアルコール成分と、マレイン酸を必須成分とするカルボン酸成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献1参照)、2)水酸基を有しないジカルボン酸やモノカルボン酸からなるカルボン酸成分と、ひまし油や硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物からなるアルコール成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献2参照)、3)テトラヒドロフランとアルキレンオキサイドとのランダム重合体からなるジオール成分と、ジカルボン酸成分やモノカルボン酸成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献3参照)、4)分子中にポリテトラメチレングリコール残基を有する化合物を含有する処理剤(例えば特許文献4参照)等が提案されている。また高温且つ高接圧下においても合成繊維に耐熱性を与え、タール等の発生を抑える処理剤として、5)多価エステル化合物と、アニオン界面活性剤と、2種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含有するもの(例えば特許文献5参照)、6)チオジプロピオン酸ジアルキル等の含硫黄ジエステル化合物と、ホスフェート化合物と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含有するもの(例えば特許文献6参照)、7)多価エステル化合物と、チオエーテル基を有するエステル化合物と、二級スルホネート化合物と、有機ホスフェート化合物と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含有するもの(例えば特許文献7参照)、8)チオジプロピオン酸ジアルキル等の含硫黄ジエステル化合物と、2種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ホスフェート金属塩とを含有するもの(例えば特許文献8参照)、9)多価エステル化合物と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含有するもの(例えば特許文献9参照)、10)芳香族エステル化合物と、有機カルボン酸と各種酸化防止剤とを含有するもの(例えば特許文献10参照)等が知られている。
【0003】
ところが、これら従来の処理剤には、近年のより過酷な条件下で製糸される合成繊維に対し、前記のような糸揺れ、毛羽及びタールの発生を抑え、糸強度の低下を防止する上で著しく不充分という問題がある。
【特許文献1】特開昭59−223368号公報
【特許文献2】特開昭63−50572号公報
【特許文献3】特開昭63−235576号公報
【特許文献4】特開昭59−59978号公報
【特許文献5】特開昭59−211680号公報
【特許文献6】特開平7−216735号公報
【特許文献7】特開平8−120563号公報
【特許文献8】特開平10−325074号公報
【特許文献9】特開平5−140870号公報
【特許文献10】特開2004−292961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、産業資材用合成繊維のように、高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、製糸工程における糸揺れ、毛羽及びタールの発生を抑え、糸強度の低下を防止できる処理剤及び処理方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤を所定割合で含有し、且つ平滑剤の少なくとも一部として特定のイソシアヌル酸誘導体を所定割合で含有してなる処理剤が正しく好適であり、またかかる処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し所定量となるよう付着させることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成る処理剤であって、平滑剤を全体の5〜75質量%、乳化剤を全体の21〜94質量%及び静電気防止剤を全体の0.1〜10質量%の割合で含有し、且つ平滑剤の少なくとも一部として下記のイソシアヌル酸誘導体を全体の5〜45質量%含有することを特徴とする処理剤に係る。
【0007】
イソシアヌル酸誘導体:トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、イソシアヌル酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物及びイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0008】
また本発明は、前記の本発明に係る処理剤を、熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%となるよう付着させることを特徴とする処理方法に係る。
【0009】
先ず、本発明に係る処理剤について説明する。本発明に係る処理剤は、平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成るものであって、平滑剤の少なくとも一部として特定のイソシアヌル酸誘導体を含有するものである。
【0010】
本発明に係る処理剤の平滑剤に供するイソシアヌル酸誘導体としては、1)トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、2)トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、3)トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、4)イソシアヌル酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、5)トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物、6)イソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物、以上の1)〜6)から選ばれる一つ又は二つ以上が挙げられるが、いずれも完全エステル化合物が好ましく、なかでも2)の完全エステル化合物及び5)の完全エステル化合物がより好ましい。
【0011】
本発明に係る処理剤の平滑剤に供するイソシアヌル酸誘導体において、その原料となる有機モノカルボン酸としては、1)酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソオクタン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸、2)安息香酸、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシベンゼンプロピオン酸等の芳香族モノカルボン酸、3)マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸、ペンタデセニルコハク酸等の炭素数3〜22の脂肪族ジカルボン酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との脂肪族モノエステルモノカルボン酸、4)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との脂肪族モノエステルモノ芳香族カルボン酸、5)チオジプロピオン酸、チオジオクタン酸、チオジラウリン酸、チオジステアリン酸等の炭素数3〜22の含硫黄脂肪族ジカルボン酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との含硫黄脂肪族モノエステルモノカルボン酸等が挙げられるが、なかでも炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数3〜18の脂肪族モノカルボン酸がより好ましい。
【0012】
また本発明に係る処理剤の平滑剤に供するイソシアヌル酸誘導体において、その原料となる1価の脂肪族ヒドロキシ化合物としては、1)ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、2−メチル−ペンチルアルコール、2−エチル−ヘキシルアルコール、2−プロピル−ヘプチルアルコール、2−ブチル−オクチルアルコール等の炭素数1〜26の脂肪族モノアルコール、2)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビタン等の脂肪族多価アルコールと有機モノカルボン酸との脂肪族モノエステルモノオール等が挙げられるが、なかでも炭素数1〜26の脂肪族モノアルコールが好ましく、炭素数4〜18の脂肪族モノアルコールがより好ましい。
【0013】
本発明に係る処理剤の平滑剤に供するイソシアヌル酸誘導体は、いずれも公知の方法で合成できる。例えば、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物は、アルコール成分であるトリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸1モルに対して有機モノカルボン酸を3〜5モル用い、硫酸等の酸性化合物を加え、加温しながら脱水してエステル化させる反応や、ピリジン等の塩基性化合物を加え、クロロホルム等の不活性溶媒中で加温しながらエステル化させる反応により合成できる。トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物は、アルコール成分としてトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸を使用する以外は前記したトリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物と同様の方法で合成できる。トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物及びイソシアヌル酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物も同様の方法で合成できる。
【0014】
また例えば、トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物は、酸成分であるトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸1モルに対して1価の脂肪族ヒドロキシ化合物を3〜5モル用い、硫酸等の酸性化合物を加え、加温しながら脱水してエステル化させる反応や、ピリジン等の塩基性化合物を加え、クロロホルム等の不活性溶媒中で加温しながらエステル化させる反応により合成できる。イソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物は、酸成分としてイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)を使用する以外は前記したトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物と同様の方法で合成できる。
【0015】
本発明の処理剤に供するイソシアヌル酸誘導体以外の平滑剤としては、有機エステル化合物、鉱物油、ポリエーテル、シリコーン化合物等が挙げられるが、有機エステル化合物が好ましく、なかでも脂肪族エステル化合物、芳香族エステル化合物及び動植物油脂類が好ましい。かかる脂肪族エステル化合物としては、1)オクチルステアレート、オレイルラウレート、オレイルオレート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、2)1,6−ヘキサンジオールジデカノエート、トリメチロールプロパンモノオレートジラウレート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、3)ジラウリルアジペート、ジオレイルアゼレート、トリオクチルトリメリテート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族多価カルボン酸との完全エステル化合物等が挙げられ、また芳香族エステル化合物としては、4)ベンジルステアレート、ベンジルラウレート等の芳香族1価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、5)ビスフェノールAジラウレート等の芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、6)ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の脂肪族1価アルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物等が挙げられ、更に動植物油脂類としては、7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油、牛脂等が挙げられる。なかでも2又は3価の脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、脂肪族1価アルコールと2又は3価の脂肪族多価カルボン酸との完全エステル化合物、2又は3価の芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、脂肪族1価アルコールと2又は3価の芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物及び油脂類が好ましい。
【0016】
本発明の処理剤に供する乳化剤としては、各種の非イオン界面活性剤が挙げられる。かかる非イオン界面活性剤としては、1)ポリオキシアルキレンオクチルエーテル、ポリオキシアルキレンオクチルエーテルラウリン酸エステル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイン酸エステル、ポリオキシアルキレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンラウロアミドエーテル等の分子中にポリオキシアルキレン基を有するエーテル型非イオン界面活性剤、2)ソルビタンモノラウラート、ソルビタントリオレアート、ソルビトールテトラオレアート、グリセリンモノオレアート、グリセリンモノラウラート、ジグリセリンジラウラート等の多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、3)ポリオキシアルキレンソルビタントリオレアート、ポリオキシアルキレングリセリンモノラウラート、ポリオキシアルキレンビスフェノールAジラウラート、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油ジラウラート、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油トリオクタノアート等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、4)ジエタノールアミンモノラウロアミド、ジエタノールアミンモノオレオアミド、ジエチレントリアミンジオクチルアミド等のアミド型非イオン界面活性剤、5)ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド、ポリオキシエチレンジエチレントリアミンジラウリルアミド等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤等が挙げられる。なかでも多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤が好ましく、該多価アルコールがグリセリン、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ソルビタン及びソルビトールから選ばれるものであるもの、例えばグリセリン部分エステル、ソルビタン部分エステル、ソルビトール部分エステル、ポリオキシアルキレンソルビタンエステル、ポリオキシアルキレンソルビトールエステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油アルキルエステルがより好ましい。
【0017】
本発明の処理剤に供する静電気防止剤としては、いずれも各種のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらのなかではアニオン界面活性剤が好ましく、かかるアニオン界面活性剤としては、1)トリデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の有機スルホン酸塩、2)ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルナトリウム等の有機硫酸エステル塩、3)オクチルリン酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルリン酸エステルカリウム塩、オレイルリン酸エステル−トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルリン酸エステル−ポリオキシエチレンラウリルアミン塩等の有機リン酸エステル塩、4)オクタン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸カリウム等の有機脂肪酸塩等が挙げられるが、なかでも有機リン酸エステル塩が好ましく、炭素数4〜26の脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル金属塩、炭素数4〜26のポリオキシアルキレン脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル金属塩、炭素数4〜26の脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル有機アミン塩及び炭素数4〜26のポリオキシアルキレン脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル有機アミン塩から選ばれる一つ又は二つ以上がより好ましい。
【0018】
本発明に係る処理剤は、以上説明したイソシアヌル酸誘導体を含む平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成るものであって、イソシアヌル酸誘導体を全体の5〜45質量%、好ましくは全体の7〜35質量%、より好ましくは全体の9〜27質量%、かかるイソシアヌル酸誘導体を含む平滑剤を全体の5〜75質量%、好ましくは全体の7〜75質量%、より好ましくは全体の9〜75質量%、乳化剤を全体の21〜94質量%、好ましくは全体の40〜85質量%、より好ましくは全体の49〜80質量%、静電気防止剤を全体の0.1〜10質量%、好ましくは全体の0.3〜6質量%、より好ましくは全体の0.4〜4質量%含有するものである。
【0019】
本発明に係る処理剤を合成繊維に付着させるに際しては、本発明に係る処理剤と共に、合目的的に他の成分、例えば外観調整剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができるが、その併用量は可及的に少量とする。
【0020】
次に、本発明に係る処理方法について説明する。本発明に係る処理方法は、以上説明したような本発明に係る処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%となるよう付着させる方法である。本発明に係る処理剤を合成繊維に付着させる工程としては、紡糸工程、延伸工程、紡糸と延伸とを同時に行うような工程等が挙げられる。また本発明に係る処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。更に本発明に係る処理剤を合成繊維に付着させる形態としては、水性液、有機溶剤溶液、ニート等が挙げられるが、水性液が好ましく、本発明に係る処理剤の5〜30質量%水性液とするのがより好ましい。本発明に係る処理剤の水性液を付着させる場合も、熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し本発明に係る処理剤として0.1〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%となるよう付着させる。
【0021】
本発明に係る処理方法の適用対象となる合成繊維としては、1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、5)ポリウレタン系繊維等が挙げられ、その種類や用途は制限されないが、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下にさらされる産業資材用合成繊維に適用する場合に効果の発現が高く、なかでもポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維に適用する場合に効果の発現が高い。
【発明の効果】
【0022】
以上説明した本発明には、産業資材用合成繊維のように、高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、製糸工程における糸揺れ、毛羽及びタールの発生を抑え糸強度の低下を防止できるという効果がある。
【0023】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0024】
試験区分1(処理剤の調製)
・実施例1{処理剤(P−1)の調製}
下記のイソシアヌル酸誘導体(K−1)を10部、下記の平滑剤(L−1)を20部、下記の平滑剤(L−2)を10部、下記の乳化剤(E−1)を50部、下記の乳化剤(E−2)を10部、下記の静電気防止剤(S−3)を1部の割合で均一混合して実施例1の処理剤(P−1)を調製した。
イソシアヌル酸誘導体(K−1):トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸トリプロピオナート
平滑剤(L−1):ジオレイルチオジプロピオナート
平滑剤(L−2):ビスフェノールAジラウラート
乳化剤(E−1):硬化ヒマシ油1モルに対してエチレンオキサイド(以下、単にEOという)20モルを付加したポリオキシアルキレン脂肪族多価エステル化合物。
乳化剤(E−2):ヒマシ油1モルに対してEO40モルを付加したポリオキシアルキレンヒマシ油1モルとデカン酸3モルとのエステル化合物。
静電気防止剤(S−3):オレイルリン酸エステルトリエタノールアミン塩
【0025】
・実施例2〜68及び比較例1〜17{処理剤(P−2)〜(P−68)及び処理剤(R−1)〜(R−17)の調製}
処理剤(P−1)と同様にして、処理剤(P−2)〜(P−68)及び処理剤(R−1)〜(R−17)を調製した。以上の各例の処理剤の調製に用いた成分の内容を表1〜表5に、また以上の各例で調製した処理剤の内容を表6〜表14にまとめて示した。

















【0026】
【表1】

【0027】
【表2】












【0028】
【表3】

【0029】
表3において、
化合物の数平均分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8120GPCにて測定した値である。
【0030】
【表4】




【0031】
【表5】







































【0032】
【表6】




【0033】
【表7】




【0034】
【表8】




【0035】
【表9】




【0036】
【表10】




【0037】
【表11】




【0038】
【表12】




【0039】
【表13】




【0040】
【表14】

【0041】
・試験区分2(合成繊維への各処理剤の付着及び評価)
・合成繊維への各処理剤の付着
試験区分1で調製した各処理剤と希釈水又は希釈有機溶剤とを均一混合して10%希釈溶液とした。固有粘度1.10、カルボキシル末端濃度15当量/10gのポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、調製した10%希釈溶液を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた後、ガイドで集束させて表面速度3000m/分の引取りロールで引取り、引き続き240℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率1.7倍となるように延伸し、1670デシテックス192フィラメントの延伸糸を10kg捲きケークとして得た。
【0042】
・処理剤の付着量の測定
JIS−L1073(合成繊維フィラメント糸試験方法)に準拠し、抽出溶剤としてノルマルヘキサン/エタノール(50/50容量比)混合溶剤を用いて、合成繊維に対する処理剤の付着量を測定した。結果を表15〜17にまとめて示した。
【0043】
・糸揺れの評価
前記の紡糸工程において、延伸ロール上で発生する走行糸の揺れ具合を目視にてとらえ、次の基準で評価した。結果を表15〜表17にまとめて示した。
AAA:糸揺れは発生しない。
AA:糸揺れはほとんど発生しない。
A:糸揺れがたまに発生する。
B:糸揺れが頻繁に発生する。
C:糸揺れの発生が激しく、隣り合う糸同士が接触する。
【0044】
・毛羽の評価
前記の紡糸工程において、糸をケークとして巻き取る前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製のDT−105)にて1時間当たりの毛羽数を測定し、次の基準で評価した。結果を表15〜17にまとめて示した。
AAA:測定された毛羽数が0個
AA:測定された毛羽数が1個未満(但し、0を含まない)
A:測定された毛羽数が1〜2個
B:測定された毛羽数が3〜9個
C:測定された毛羽数が10個以上
【0045】
・タール防止性の評価
前記で得たケークから採取した試験糸を、初期張力1kg、糸速度500m/分で、表面温度240℃のホットローラーに巻き付けて走行させ、ホットローラーに発生する12時間後のタールの量を肉眼で観察し、次の基準で評価した。結果を表15〜表17にまとめて示した。
AAA:タールが認められない。
AA:タールが僅かに認められる。
A:タールが少し認められる。
B:タールが明らかに認められる。
C:タールがかなりの量認められる。
【0046】
・糸強度の評価
前記で得たケークから採取した試験糸の強度を、強伸度測定装置(島津製作所社製の島津オートグラフAGS−1KNG)にて測定し、次の基準で評価した。結果を表15〜表17にまとめて示した。
AAA:測定された糸の強度が8.0cN/dtex以上
AA:測定された糸の強度が7.8以上8.0cN/dtex未満
A:測定された糸の強度が7.4以上7.8cN/dtex未満
B:測定された糸の強度が7.0以上7.4cN/dtex未満
C:測定された糸の強度が7.0cN/dtex未満
【0047】
【表15】











【0048】
【表16】













【0049】
【表17】

【0050】
表15〜17において、
付与形態の欄の有機溶剤溶液の有機溶剤は、40℃の粘度が2.0×10−6/sのノルマルパラフィンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成る合成繊維用処理剤であって、平滑剤を全体の5〜75質量%、乳化剤を全体の21〜94質量%及び静電気防止剤を全体の0.1〜10質量%の割合で含有し、且つ平滑剤の少なくとも一部として下記のイソシアヌル酸誘導体を全体の5〜45質量%含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
イソシアヌル酸誘導体:トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、イソシアヌル酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)と有機モノカルボン酸との部分又は完全エステル化合物、トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物及びイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との部分又は完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上。
【請求項2】
イソシアヌル酸誘導体が、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との完全エステル化合物、トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との完全エステル化合物、イソシアヌル酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)と有機モノカルボン酸との完全エステル化合物、トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との完全エステル化合物及びイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
イソシアヌル酸誘導体が、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸と有機モノカルボン酸との完全エステル化合物及びトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌル酸と1価の脂肪族ヒドロキシ化合物との完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
有機モノカルボン酸が炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸であり、また1価の脂肪族ヒドロキシ化合物が炭素数1〜26の脂肪族モノアルコールである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
イソシアヌル酸誘導体以外の平滑剤が、脂肪族エステル化合物、芳香族エステル化合物及び動植物油脂類から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜4のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
脂肪族エステル化合物が、2又は3価の脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物及び脂肪族1価アルコールと2又は3価の脂肪族多価カルボン酸との完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上であり、また芳香族エステル化合物が、2又は3価の芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物及び脂肪族1価アルコールと2又は3価の芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項5記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
乳化剤が、分子中にポリオキシアルキレン基を有するエーテル型非イオン界面活性剤、多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、アミド型非イオン界面活性剤及びポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜6のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
乳化剤が多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤及びポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤から選ばれる一つ又は二つ以上であって、該多価アルコ−ルがグリセリン、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ソルビタン及びソルビトールから選ばれるものである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
静電気防止剤が、有機スルホン酸塩、有機硫酸エステル塩、有機リン酸エステル塩及び有機脂肪酸塩から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜8のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
静電気防止剤が有機リン酸エステル塩から選ばれる一つ又は二つ以上であって、該有機リン酸エステル塩が、炭素数4〜26の脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル金属塩、炭素数4〜26のポリオキシアルキレン脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル金属塩、炭素数4〜26の脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル有機アミン塩及び炭素数4〜26のポリオキシアルキレン脂肪族モノ又はジアルキルリン酸エステル有機アミン塩から選ばれるものである請求項1〜8のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
平滑剤を全体の7〜75質量%、乳化剤を全体の40〜85質量%及び静電気防止剤を全体の0.3〜6質量%の割合で含有し、且つ平滑剤の少なくとも一部としてイソシアヌル酸誘導体を全体の7〜35質量%含有する請求項1〜10のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%となるよう付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項13】
合成繊維用処理剤を5〜30質量%の水性液となし、該水性液を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し合成繊維用処理剤として0.1〜3質量%となるよう付着させる請求項12記載の合成繊維の処理方法。
【請求項14】
合成繊維が産業資材用合成繊維である請求項12又は13記載の合成繊維の処理方法。
【請求項15】
産業資材用合成繊維がポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維である請求項12〜14のいずれか一つの項記載の合成繊維の処理方法。

【公開番号】特開2008−163489(P2008−163489A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351793(P2006−351793)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】