説明

合成繊維糸条への処理剤付与装置

【課題】 速度2000m/分以上で高速走行する合成繊維糸条に、均一かつ効率良く処理剤を付着させる処理剤付与装置を提供する。
【解決手段】 2000m/分以上で走行する合成繊維糸条(Y)と接触して処理剤(L)を付与するための処理剤付与ローラ(11A、11B)と、該ローラ(11A、11B)を支承して合成繊維糸条(Y)の走行方向と同方向へ該ローラ(11A、11B)を回転させる回転駆動軸(12A、12B)と、前記ローラ(11A、11B)の下端部が浸漬させられると共に処理剤(L)を貯えた容器(13A、13B)と、該ローラ(11A、11B)の回転に伴い発生する処理剤(L)の流れ方向に対して略直角方向に該ローラ(11A、11B)の下方の該容器(13A、13B)中に立設された邪魔板(18A、18B)と、該容器(13A、13B)中の処理剤(L)の液面レベルを調整する堰(16A、16B)とを含む合成繊維糸条(Y)への処理剤付与装置(1A、1B)であって、更に、この装置はローラ(11A、11B)上に形成される処理剤(L)の液膜の厚さを調整するための膜厚調整部材(17A、17B)を付設する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高速で走行する合成繊維糸条に対して、処理剤を好適に付与するための処理剤付与装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、衣料分野、あるいは産業資材分野の繊維製造工程、特に紡糸工程においては、機能性付与のために種々の処理剤が繊維に付与される。しかも、現在では、生産性を向上させるために、製糸工程を高速化するのに伴い、2000m/分を超えるような高速で走行する糸条に対して、処理剤の付与が行われるようになってきた。
【0003】従来、前記製糸工程において、特に、2000m/分より低い速度で走行する糸条に対しては、図4R>4に例示したようなローラ式処理剤付与装置が主に用いられていた。なお、図4の例は従来のローラ式処理剤付与装置の二つの実施態様を示し、図4(a)は糸条が上から下へ走行する場合の例、図4(b)は糸条が下から上へ走行する場合の例をそれぞれ模式的に示した一部に断面を含む側面図である。
【0004】この図4に例示した従来のローラ式処理剤付与装置100Aと100Bとにおいて、参照符号Yは走行糸条、参照符号Lは該糸条に付与する処理剤、参照符号101Aと101Bとは処理剤付与ローラ、参照符号102Aと102Bとは該ローラ101Aと101Bとをそれぞれ回転させる回転駆動軸、参照符号103Aと103Bとは処理剤Lを溜めるための容器、参照符号104Aと104Bとは処理剤Lを供給するための供給口、そして、参照符号105Aと105Bとは一定レベルに制御された水面からあふれた処理剤を排出する排出口をそれぞれ示す。
【0005】以上のように構成される装置100Aと100Bにおいては、糸条Yが比較的低速で走行するため、処理剤付与ローラ101Aと101Bは、高速で回転させる必要はない。したがって、処理剤付与ローラ101Aと101Bが容器103Aと103B中でそれぞれ回転しても、容器103Aと103B中に貯えられた処理剤Lの流れは余り乱されることがない。
【0006】このため、ローラ101Aと101B上に処理剤膜が均一かつ安定に形成されることとなって、走行糸条Yに対して、均一かつ安定に処理剤を付着させることができる。また、処理剤Lの液面も、それ程乱されないために、供給口104Aと104Bから供給される処理剤Lの余剰分を排出口105Aと105Bからそれぞれ排出することによって、比較的安定した液面レベルを維持している。
【0007】なお、供給口104Aと104Bから供給された処理剤Lの内、糸条Yに付着して糸条と共に持ち去られる分を除いた残余の処理剤は排出口105Aと105Bから排出される。
【0008】このように従来技術においては、処理剤Lの液面調整と処理剤付与ローラ101Aと101Bの回転数とを制御することで処理剤付与ローラ101Aと101Bに塗布する処理剤Lの液膜を調整することができる。このため、低速で走行する糸条Yに対しては、従来、ローラ式処理剤付与装置が採用されてきた。
【0009】しかしながら、高速走行する糸条に対して、低速走行する糸条と同様にして処理剤を付与しようとすると、高速走行する糸条に随伴する随伴気流によって、ローラ101A又は101B上に形成された処理剤膜が乱されるという問題を惹起し、これによって、糸条への処理剤の良好な付与が妨げられるという深刻な問題が生じることとなる。
【0010】また、従来のローラ式処理剤付与装置100A又は100Bでは、糸条の走行速度が高速化するに従って、糸条との擦過損傷を防止することと、処理剤Lの単位時間当りのピックアップ量を増やす必要があることから、ローラ101A又は101Bを高速で回転させる必要が生じる。
【0011】このため、ローラ101A又は101Bの表面に付着する処理剤に大きな遠心力が作用してローラ上の処理剤膜が乱れ、糸条に対する付着する処理剤Lの均一性が悪くなるだけではなく、処理剤Lの飛散が多くなったりして、処理剤Lの損失が多くなって処理剤の歩留まりが低下したりするという大きな問題を有している。
【0012】更に、通常、走行糸条Yに対して均一に処理剤Lを付与するために、ローラ101A又は101Bの表面は平坦面とされている。しかしながら、ローラ101A又は101Bの表面が平坦面である場合、該ローラ表面に形成される処理剤Lの膜は、自身の表面張力によりローラ表面上で凸形状となる。その上、高速回転するローラ101A又は101B上に付着する処理剤Lは、遠心力によりこの凸形状の傾向が更に顕著なものとなる。
【0013】そして、終には、ローラ101A又は101B上に形成される処理剤Lの膜が不安定となって、液膜に割れが生じて筋状となって、処理剤が不安定な偏流を形成する。また、このようにして、ローラ101A又は101B上に形成される処理剤膜に割れが生じると、ローラ101A又は101B上に処理剤Lの良付着部と不良付着部とが形成されることとなり、走行糸条Yに対して、安定かつ均一に処理剤を付着させることが困難となる。
【0014】その上、ローラ回転数の上昇と共に、ローラ101A又は101B上に形成される処理剤Lのピックアップ量が増加し、必然的にその膜厚も厚くなる。このため、走行糸条Yに付与する処理剤Lの量を一定に制御することが一段と困難となる。
【0015】また、糸条Yの走行速度とローラ101A又は101Bの回転速度が上昇して、前述のようにローラ101A又は101B上に余剰の液膜が形成されると、回転するローラ101A又は101Bから飛散する処理剤の量も多くなる。このため、作業環境を悪化させるばかりでなく、処理剤の損失も大きくなって、処理剤の歩留まりも悪化するという問題がある。
【0016】更に、近年において、生産性の向上のために、多数本の糸条を同時に処理する多錘処理することによって、生産の合理化が進んできている。したがって、多数本の糸条に対して、一つの処理剤付与ローラにより同時かつ並列的に処理剤を付与する必要が製糸工程の高速化と共に生じてきた。
【0017】しかしながら、このような処理剤付与ローラでは、多数本の糸条を同時に並行して処理する必要上から、ローラの幅が必然的に広くなるため、処理剤膜をローラ上に均一に形成させることは、より困難となってきている。
【0018】そこで、高速走行する糸条に対して処理剤を良好に付与しようとする際に生じる上記問題点を解決するために各種の提案がなされている。例えば、特開昭62−141114号公報、あるいは実公昭63−11181号公報などでは、前記ローラ式処理剤付与装置と異なる処理剤の付与装置として、ローラ式処理剤付与装置に代えて、ガイド式処理剤付与装置を用いることが提案されている。
【0019】ここで、これらの従来技術について、図5を参照しながら簡単に説明する。なお、図5(a)は、ガイド式処理剤付与装置を模式的に例示した正面図、そして、図5(b)は、模式側断面図である。
【0020】この図5において、参照符号200はガイド式処理剤付与装置のガイド本体、参照符号Yは糸条、参照符号Gは糸条の走行溝、参照符号G1は該走行溝における糸条との接触部、参照符号G2は糸条が接触しないように傾斜して設けられた傾斜部、参照符号201Aと201Bとは前記接触部G1と前記傾斜部G2とに設けられた二つの連通孔、そして、参照符号204は前記連通孔201Aと201Bとへ処理剤を供給する処理剤供給口をそれぞれ示す。
【0021】以上のように構成されるガイド式処理剤付与装置(前記特開昭62−141114号公報に開示されている装置)について説明すると、先ず、前記図5に示すように、処理剤を付与させる糸条Yを下方から上方に向けてガイド本体200に設けられた糸条の走行溝G上を走行させる。そして、走行糸条Yの幅Wよりも狭い幅を有する処理剤の吐出孔201Aの前面全域を通過させることで、走行糸条Yに処理剤を付与しようとするものである。
【0022】また、実公昭63−11181号公報に開示された技術では、前記技術に加えて、走行糸条Yと非接触の傾斜部G1を糸条Yと接触する糸条接触部G2の上方に設け、更に、この傾斜部G1に吐出孔201Bを設けている。その際、この吐出孔201Bと前記吐出孔201Aとを連通させて、処理剤供給口204から供給される処理剤を吐出孔201Aと201Bの両方へ供給することを提案している。
【0023】このようにすることによって、前記吐出孔201Bから処理剤を吐出させ、糸条と非接触の傾斜部G1からも処理剤を走行糸条Yへ付与できるようにして、前記吐出孔201A上を糸条Yが接触して通過する際に生じる悪影響を回避することが提案されている。
【0024】なるほど、これら従来技術で提案されているガイド式処理剤付与装置を使用すれば、糸条に対する処理剤の付着の均一性が向上する。しかしながら、このようなガイド式処理剤付与装置では、固定されたガイド上に糸条を高速走行させることが必須となるために、ガイドとの接触摩擦による糸条の擦過損傷が激しくなり、糸条がダメージを受けて糸条品位及び品質の低下を生ずるという極めて深刻な問題を有している。
【0025】しかも、近年のように、生産性の向上が追求され、更に高速製糸が要求される環境下において、ますます高速化する糸条に対して、このような従来技術を適用して、処理剤を走行糸条に付与することには大きな問題がある。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の従来技術に係わる諸問題に鑑み鋭意検討を行った結果、達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、2000m/分以上の高速で走行する合成繊維糸条に対しても、糸条に擦過損傷を与えることなく、均一かつ付着斑なく処理剤を走行糸条に付着させることにある。
【0027】更に、本発明の他の目的は、高速走行する糸条や多数本の糸条に対しても、処理剤を周囲に飛散させることなく、その故に、処理剤の損失を少なくできて歩留まりを向上させることができる上に、作業環境をも良好に維持できる処理剤付与装置を提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】ここに、本発明の合成繊維糸条への処理剤付与装置として、「高速走行する合成繊維糸条と接触して処理剤を付与するための処理剤付与ローラと、該ローラを支承して合成繊維糸条の走行方向と同方向へ該ローラを回転させる回転駆動軸と、前記ローラの下端部が浸漬させられると共に処理剤を貯えた容器と、該ローラの回転に伴い発生する処理剤の流れ方向に対して略直角方向に該ローラの下方の該容器中に立設された邪魔板と、該容器中の処理剤の液面レベルを調整する堰とを含む合成繊維糸条への処理剤付与装置」が提供される。
【0029】また、本発明の他の合成繊維糸条への処理剤付与装置として、「高速走行する合成繊維糸条と接触して処理剤を付与するための処理剤付与ローラと、該ローラを支承して糸条の走行方向と同方向へ該ローラを回転させる回転駆動軸と、該ローラの下部が処理剤中に浸漬させられると共に該ローラへ塗布する処理剤を貯える容器とを含む処理剤付与装置であって、その際、凹断面形状を有し且つその底部が平坦である処理剤を保持させる溝を前記ローラ上に形成した合成繊維糸条への処理剤付与装置」が提供される。
【0030】このような凹断面形状を有し且つその溝底部が平坦である処理剤溜溝を処理剤付与ローラ上に形成することによって、その表面張力の作用によって処理剤を処理剤付与ローラ上に安定に保持できる。つまり、処理剤溜溝をローラ上に形成することによって、処理剤を保持するための新たな接触面を形成し、これによって、処理剤の表面張力を利用することができ、処理剤の膜がローラ上に安定に形成されることとなる。
【0031】また、本発明の装置においては、「前記膜厚調整部材が、前記処理剤付与ローラの回転表面に対して微小間隙を置いて、該回転表面に対して略平行に設けられたピン又はプレートであること」が好ましい。このようにすることによって、該ローラが高速回転することによってピックアップされる処理剤の膜厚が必要以上に厚くなってしまうという問題と、糸条と該ローラとの間の相対速度差を縮小して糸条の擦過損傷を防止するためには該ローラの回転数を上げなければならないという相反する問題をそれぞれ両立させて解決することができる。
【0032】更に、本発明の装置においては、前記膜厚調整部材が前記処理剤付与ローラの表面と平行に設けられたピン又はプレートであることが、該ローラに処理液膜として持ち去られる膜厚を適正に調整することができるため好ましい。
【0033】また、本発明の装置においては、前記処理剤付与ローラが走行糸条と接触する接触部の材質が表面粗さ(Ra)で0.5S(0.5μm)以上、2.0S(2.0μ)m以下であるセラミックスであって、該ローラの直径が80mm以上、150mm以下であることが好ましい。何故ならば、このような条件を採用することによって、処理剤付与ローラの磨耗の進行を遅らせることができ、更に、走行糸条に擦過損傷などのダメージを与えることなく処理剤を走行糸条に付与できるからである。
【0034】また、本発明の装置においては、前記合成繊維糸条の走行速度V1(m/分)と前記処理剤付与ローラの周速V2(m/分)との比V1/V2が、20≦V1/V2≦800の範囲において前記回転駆動軸の回転数を一定に制御することが、走行糸条に擦過損傷などのダメージを与えることなく処理剤を走行糸条に付与でき好ましい。
【0035】そして、本発明の装置は、従来技術のように糸条の走行速度V1(m/分)が2000m/分未満の低速においても勿論好適に使用することができる。しかし、特に、前記走行速度V1が2000m/分以上、8000m/分以下の高速で走行する合成繊維糸条に対して処理剤を付与するために好適に使用することができる処理剤付与装置として使用することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】本発明の装置は、高速(特に、2000m/分以上)で走行する合成繊維糸条に対して、その製糸工程での使用が好ましくない、と従来はされてきたローラ式の処理剤付与方式を使用して、高速走行する糸条に対して処理剤を付与することを一大特徴とする。なお、本発明を適用する合成繊維としては、特に限定されないが、主にポリエステル繊維、ポリアミド繊維、またはアラミド繊維などを挙げることができる。
【0037】ここで、本発明の装置では、走行糸条に対して大きな抵抗を与えないために、合成繊維糸条の走行方向と同方向へ回転するローラ上に処理剤を膜状に塗布して、走行糸条へ処理剤を付与する。このため、本発明の装置では、従来のガイド式処理剤付与方式のように、処理剤を付与するための固定ガイドを使用することはしない。したがって、本質的に、固定ガイドによって高速走行する糸条が擦過され、損傷を受けるということはない。
【0038】しかしながら、ローラ式処理剤付与方式を単に採用するだけでは、前述のように、糸条の走行速度が高速になればなるほど、処理剤付与ローラ上に処理剤膜が良好に形成されないという問題があることは、既に述べた通りである。そこで、以下に、従来のローラ式処理剤付与方式の問題点を解決する上で本発明が採用した構成について、図面を参照しながら、その実施形態に基づいてその作用と共に詳細に説明する。
【0039】先ず、図1は、本発明の装置を好適に適用できる製糸工程を例示した模式説明図である。この図1において、参照符号21はスピンブロック、参照符号22は紡糸パック、参照符号23は紡糸口金、参照符号24は加熱筒、参照符号25は断熱板、参照符号26は冷却風紡糸筒、参照符号27は冷却筒、そして、参照符号28は引取りローラをそれぞれ示し、これらは溶融紡糸装置2を構成する。
【0040】以上に述べた溶融紡糸工程において、先ず図示しない溶融押出機などを使用して前記ポリエステルなどのポリマーを常法により溶融し、ギヤポンプ等の計量供給手段によってスピンブロック21のパックドームに装着された紡糸パック22へ送る。ついで、この紡糸パック22に設けられた紡糸口金23のポリマー吐出孔群から溶融したポリマーを定量吐出する。
【0041】そして、紡糸口金23の直下に設けた加熱筒24により紡糸口金23面を保温することで、紡出された合成繊維糸条Yが冷却されるのを遅延させるための遅延冷却制御を行い、冷却紡糸筒26から冷却風を紡出された糸条Yに図の矢印方向へ吹き付け、ガラス転移温度以下に一旦冷却する。
【0042】その後、冷却された糸条Yは、処理剤付与装置1Aで紡糸油剤を付与された後、引取りローラ28により引取られた後、第一エアノズル41にて糸条Yを構成する単繊維群に対して単繊維同士を互いに絡ませる第一段の交絡処理が行われる。
【0043】前述のように溶融紡糸された糸条Yは、一対の加熱ローラからなる延伸ローラ群3を多段(本例では4段)に配置した第一〜第四延伸ローラ31〜34へ導かれ、これらの延伸ローラ群3間において多段延伸される延伸工程へと供される。
【0044】その際、前記延伸ローラ群3に導かれた糸条Yは、糸条Yが各延伸ローラ31〜34に接触する時間が十分に確保されるように、これらの延伸ローラ31〜34に数ターン〜20ターン巻回される。そして、このようにして、延伸ローラ群3によって加熱された糸条Yは、各段の延伸ローラ31〜34間でそれぞれ所定の延伸倍率に引き伸ばされる。更に、このようにして、延伸ローラ群3で延伸された糸条Yは、最終的に第二エアノズル42で交絡処理を受けた後、ワインダー5にて巻き取られる。
【0045】なお、この製糸工程の例では、本発明の処理剤付与装置を参照符号1(1Aと1B)で示し、これらは引取りローラ9の上流側位置、そして、第3段目の延伸ローラ33と第4段目の延伸ローラ34との間の位置に、図示したように、それぞれ溶融紡糸工程における油剤付与装置、延伸工程における処理剤付与装置として設けられている。
【0046】以下、前述のような製糸工程などに好適に使用される本発明の処理剤付与装置の実施形態について、詳細かつ具体的に図面を参照しながら説明する。
【0047】図2は、本発明に係わる合成繊維への処理剤付与装置の実施形態を例示した説明図であって、図(a)は糸条が下方から上方へと走行する実施形態例、そして、図(b)は糸条が上方から下方へと走行する実施形態例をそれぞれ示した模式側面図である。
【0048】前記図2において、本発明の処理剤付与装置1Aと1Bとは、参照符号11Aと11Bとで示される処理剤付与ローラ、参照符号12Aと12Bとで示される回転駆動軸、参照符号13Aと13Bとで示される処理剤を貯えるための容器、参照符号14Aと14Bとで示される処理剤の供給口、参照符号15Aと15Bとで示される処理剤の排出口、参照符号16Aと16Bとで示される堰、参照符号17Aと17Bとで示される処理剤の膜厚調整部材、そして、参照符号18Aと18Bとで示される邪魔板をそれぞれ含んで構成される。なお、参照符号Yは走行糸条、そして、参照符号Lは該糸条に付与する処理剤をそれぞれ示している。
【0049】以上のように構成される本発明の処理剤付与装置1Aと1Bにおいて、前記処理剤付与ローラ11Aと11Bは、糸条Yが走行する方向と同じ方向へ回転駆動軸12Aと12Bによってそれぞれ図の矢印方向へ回転させられる。このようにローラ11Aと11Bが回転させられることによって、糸条Yがローラ11Aと11Bによって、擦過されて損傷を受けることを防いでいる。
【0050】また、本発明の処理剤付与装置1Aと1Bの一部を構成する処理剤Lを貯えた容器13Aと13Bには、供給口14Aと14Bから新鮮な処理剤Lが容器13Aと13B中へそれぞれ常時供給される。なお、この容器13Aと13Bには、図示したように堰16Aと16Bがそれぞれ設けられ、この堰16Aと16Bの高さによって、容器13Aと13Bに貯えられる処理液Lの液面が一定のレベルに絶えず維持されるようにされている。
【0051】このようにして、走行糸条Yなどに付着したり、ごく一部が系外に飛散したりすることによって持ち去られた分を除いて、供給口14Aと14Bから供給される残余の処理剤Lは、堰16Aと16Bをオーバーフローしながら、排出口15Aと15Bから排出される。
【0052】このとき、排出口15Aと15Bから排出された余剰の処理剤Lは、フィルターなどによって、異物を除去した後、その剤温度が所定の温度を維持するように温度制御を行いながら、持ち去られた分の処理剤や系外へ蒸発した水分などを追加補給しつつ、再び供給口14Aと14Bから容器13Aと13Bへ循環供給するようにしても良い。
【0053】その際、処理剤Lの粘度が変化すると、ローラ11Aと11Bに塗布される剤のピックアップ量も微妙に変化する。したがって、処理剤Lに係わる、剤温度や水分蒸発などによる剤成分などの条件が変化しないように配慮することが必要である。
【0054】また、本発明の処理剤付与装置において、処理剤Lを貯える前記容器13Aと13Bは、ローラの表面に処理剤Lを付与し、ある程度の厚さを有する液膜を安定に形成させるために、ローラ11Aと11Bの外周の1/8以上を処理剤Lに浸漬するようにすることが好ましい。
【0055】何故ならば、もし、1/8以下とした場合には、ローラ11Aと11Bの表面に付着する処理剤Lの量が少なくなって、糸条Yへの処理剤Lの付与量も非常に低いものとなるからである。なお、ローラ11Aと11Bを処理剤L中に浸漬する外周値の上限は、糸条Yが容器13Aと13B中に貯えられた処理剤L中に浸漬されず、安定に走行できる値とすることはいうまでもない。
【0056】ところで、本発明の処理剤付与装置は、高速(特に、2000m/分以上、7000m/分)で走行する糸条Y対して適用できる。しかし、そのためには、必要とされる所定量の処理剤Lを塗布する必要があり、通常、この量はローラ11Aと11Bの回転数に依存し、目的とする塗布量を得るためにはローラ11Aと11Bの回転数も必然的に高く設定する必要がある。また、糸条Yがローラ11Aと11Bから受ける擦過損傷を防止するためにも、ローラ11Aと11Bの回転数を高くする必要がある。
【0057】しかしながら、ローラ11Aと11Bの回転数を高く設定すると、回転するローラ容器11Aと11Bによって、容器13Aと13B中の処理剤Lは、ローラ11Aと11Bの回転方向に押し流されて回転方向へ移動しようとすると共に、その液面も乱されてしまう。このような現象が生じると、ローラ11Aと11B上に安定した塗布膜を形成させることができなくなることは、言うまでもない。
【0058】そこで、本発明の装置においては、このような回転するローラ11Aと11Bによる処理剤Lの移動という問題に対して、ローラ下部の容器13Aと13B内に数枚の邪魔板18Aと18Bをそれぞれ設置することにより解決される。なお、いうまでもなく、このような邪魔板18Aと18Bを設置することの目的は、ローラ11Aと11Bの回転方向に押し流されて回転方向へ移動しようとする処理剤Lの流れを抑制することにある。
【0059】ここで、このような邪魔板18Aと18Bの設置数は特に限定する必要はないが、通常は4〜10枚設ければよい。また、その時の邪魔板18Aと18Bの間隔としては、5〜10mmが好ましい。更に、邪魔板18A及び18Bとローラ11A及び11Bのそれぞれの間隔は、1〜10mm程度が設置される。
【0060】なお、これらの値は、飽くまでも目安であって、処理剤の種類やその粘度、糸条走行速度、糸条に付与する処理剤の量などの条件によって変化するため、適宜最適な条件を選択して設定することが必要である。
【0061】次に、前記ローラ11A及び11B上の液膜は、このローラ11A及び11Bの回転数が低い限りにおいては、重力によりローラの外周面上を処理剤Lが自然落下して薄膜化され、膜厚が均一化される。しかしながら、ローラ11A及び11Bが高速で回転すると、処理剤Lの自然落下による液膜の安定化ができなくなるため、ローラ11A及び11B上に塗布された液膜は非常に厚くなり乱れる。
【0062】このため、高速で走行する糸条Yがローラ11A及び11Bに接触した時に処理剤Lが飛散したり、あるいは、多錘の糸条Yに対して処理剤を付与する場合においては、処理剤Lの付着量に関して錘間差が発生したりする。
【0063】このような問題を解決するためには、前記ローラ11A及び11B上に形成される余分な処理剤を掻き落として液膜の厚さを最適な値に調整することを目的として、ピンやプレートのような部材からなる膜厚調整部材17A及び17Bを、前記ローラ11A及び11Bの回転表面に対して略水平方向に配置する。
【0064】このようにすることより、該ローラ11A及び11Bを高速回転させた場合でも、このローラ11A及び11B上に薄くかつ均一な液膜を塗布することができ、しかも、このようにして形成された液幕を安定に維持させることができる。
【0065】なお、膜厚調整部材17A及び17Bとして設けられる前記ピン又はプレートの形状は特に限定されるものではないが、ピンの場合には、その形状が円柱状であって、その直径は1〜5mmとすることが処理剤Lの液膜の厚さを均一化できる効果がより発現するために好ましい。
【0066】また、プレートの場合はその板厚を薄くすることが好ましが、必要な剛性を十分維持する範囲であることが要求されるために、板厚を余りにも薄くすることはできないが、これらの条件を満足する範囲の板厚を適宜選択することができる。例えば、前記プレートの板厚としては、0.2〜3mm程度とすることが好ましい。
【0067】ここで、前記膜厚調整部材17A及び17Bの取り付け位置としては、糸条Yの走行方向が上から下の場合には、走行糸条Yと反対側のローラ11Aの近傍に取り付け、糸条Yの走行方向が下から上の場合には、走行糸条側のローラ11Bの近傍に取り付ければよい。すなわち、ローラ11A及び11Bが処理剤Lをピックアップして、ローラ11A及び11Bの表面上に液膜を形成した直後の位置に設けることが好ましい。
【0068】その際、前記膜厚調整部材17A及び17Bと前記ローラ11A及び11Bの設置間隔は微小間隙を置いて設けられることが好ましく、例えば、0.05〜0.5mm間隔をもって設けることが好ましい。
【0069】何故ならば、その間隙が0.05mm以下では、処理剤付与ローラ上の液膜が薄くなりすぎて、処理剤の付着効率が不良となる。一方、0.5mm以上では、ローラ11A及び11B上の液膜が厚くなりすぎ、本発明の目的の効果を得ることができないからである。
【0070】次に、前記処理剤付与ローラ11A及び11Bの表面粗さ(Ra)は0.5μm(0.5S)以上、2.0μm(2.0S)以下が好ましい。何故ならば、2.0μm(2.0S)以上の場合、高速回転するローラ11A及び11Bでは液膜が厚くなりすぎるため、ローラ11A及び11Bの表面に塗布される液膜が不均一化したり、処理剤の飛散量が多くなったりするからである。また、0.5μm(0.5S)以下では、走行糸条Yとの間の摩擦係数が高くなり、走行糸条Yが擦過損傷を受け易くなり、単繊維切れなどによる毛羽の発生が多くなって、得られる糸条の品位が悪化する。
【0071】更に、処理剤付与ローラ11A及び11Bの直径としては、80〜150mmとすることが好ましい。何故ならば、ローラ直径が80mm以下である場合、糸条Yに付与する処理剤Lの付着量を目的とする値にするために、該ローラ11A及び11Bの回転数を更に上げる必要があるからである。
【0072】もし、ローラ11A及び11Bの回転数を余りにも上げることになれば、ローラ11A及び11B上に形成される液膜の厚さが厚くなり過ぎて、前記膜厚調整部材17A及び17Bを使用しても、液膜の厚さを均一に制御することが難しくなる。このため、ローラ11A及び11Bの直径を余りに小さくするのは好ましくない。
【0073】これに対して、ローラ11A及び11Bの直径を150mm以上とすると、主として設置スペースが大きくなるという問題を惹起する。例えば、多錘糸条を同時に処理したり、図1に示すように、溶融紡糸工程と延伸工程とを直結して紡糸延伸同時加工を行ったりするような場合において、限りのある設置スペース内にたくさんの設備を設ける必要が生じる。そして、このように広い設置スペースが必要とされると、設備をコンパクトに効率よく収めることが極めて難しくなるという問題を生じる。
【0074】ところで、通常の製糸工程において、糸条Yの走行速度V1(m/分)は、処理剤Lが付与される位置においては、製糸条件が変更されない限り常に一定とされることは言うまでもない。このとき、糸条Yの前記走行速度V1(m/分)に対して、前記処理剤付与ローラ11A又は11Bの周速V2(m/分)が処理剤Lの膜厚制御と糸条の擦過損傷という問題を解決する上で重要であることは既に述べた。
【0075】そこで、これらの糸条走行速度V1とローラ周速V2とに関して、その好適な関係を検討すると、20≦V1/V2≦800という関係を有することが重要であることが分かった。
【0076】もし、V1/V2が800以上の場合、高速走行する糸条Yに対し、処理剤Lの付与が追従せず、処理剤Lの付着斑を生ずるばかりか、処理剤Lの糸条Yへの付着量は非常に低いもとなる。一方、V1/V2が20以下の場合、ローラ11A又は11Bの表面上に形成された処理剤Lの液膜が厚くなり、処理剤Lの糸条Yへの付着斑が発生するばかりか、処理剤Lの飛散も激しくなる。
【0077】なお、本発明の処理剤付与装置において、処理剤Lの温度を一定に維持するために処理剤Lを貯える容器13A又は13Bに処理剤Lの温度制御装置を設けることが好ましい。一例を示すならば、前期容器13A又は13Bや処理剤Lの供給配管(図示せず)にジャケットを取り付け、このジャケット内に冷却水などの冷媒を流したりすることで、処理剤Lを一定温度に冷却するのが好ましい。
【0078】そして、このようにすることによって、容器13A又は13B内の処理剤Lの温度を30℃以下に維持することが好ましい。何故ならば、もし、容器13A又は13B中の処理剤Lの温度が30℃より高くなると、処理剤Lの性能を低下させるばかりではなく、処理剤L中の水分の蒸発が促進されて処理剤Lの濃度が変化するからである。
【0079】次に、本発明の合成繊維糸条への処理剤付与装置の他の実施形態について、図3を参照しながら以下に具体的に説明する。ここで、図3は、本発明の他の処理剤付与装置1cに係わる実施形態を例示した模式説明図であって、図(a)は模式正面図、そして、図(b)は模式側面図をそれぞれ示している。
【0080】なお、本例は糸条が上方から下方へと走行する場合である。しかしながら、糸条が下方から上方へと走行する場合においても、細部の相違点に関しても本例と先に述べた図2の実施形態例を参考にすれば容易に理解することができると考える。したがって、糸条が下方から上方へと走行する場合の実施形態に関する説明は、説明の重複を避けるために省略したことを付言しておく。
【0081】ここで、図3において使用した参照符号について先ず説明すると、Yは糸条、11cは処理剤付与ローラ、12cは該ローラ11cの回転駆動軸、13cは処理剤を貯える容器、14cは処理剤の供給口、15cは処理剤の排出口、Gはロ―ラ11c上に形成された溝、Aは該溝Gの幅(mm)、そして、Bは該溝Gの深さ(mm)をそれぞれ示している。なお、その他の細部構成は、図2(a)の実施形態例に準拠することとする。
【0082】以上のように構成される本発明の処理剤付与装置1cの実施態様においては、糸条Yの走行方向に凹断面形状を有し、且つ、その底部が平坦である処理剤を保持させる溝Gを設けることが肝要である。
【0083】何故ならば、ローラ11cの外周面が溝Gのない単なる平坦な面である場合、該外周面に付着した処理剤は、ローラ11c上でその表面積を減少させるために、表面張力によって凸形状となろうとするからである。
【0084】その上、高速回転するローラ11cには遠心力が作用するため、この遠心力によって、処理剤がローラ11c上で凸形状になろうとする傾向は、より顕著なものとなる。そして、終には、処理剤膜は、ローラ11c上で割れて、筋状の流れとなってしまう。
【0085】このような現象に対して、前述のような凹断面形状を有する溝Gをローラ11c上に形成することによって、該溝Gの両側面と底面とで表面張力の作用によって処理剤が保持できるのである。つまり、該溝Gを設けることによって、溝Gの底壁面に加えて、新たに出現する該溝Gの両側壁面にも処理剤を接触させることが可能となるのである。
【0086】その結果、処理剤とこれら接触面との間における濡れ面積の増大に伴って、処理剤との濡れ性が向上して、処理剤の液膜がローラ11c上に安定に形成されることとなる。また、処理剤Lの流れは、溝Gという所定の経路に沿って流れることともなって、安定な処理剤からなる液膜をローラ11c上の溝Gに形成させて、これを維持することができる。
【0087】このため、走行する糸条Yに随伴する随伴気流や高速回転に伴う遠心力がローラ11cの外周面に付着した処理剤に作用したとしても、ローラ11c上に形成された処理剤の膜が乱されるのを最小限に止めることができ、処理剤を走行糸条Yに均一に付着させることができる。また、処理剤が溝Gに安定に保持されることとなって、処理剤の周囲への飛散を少なくでき、これと共に、処理剤の損失を少なくすることができるのである。
【0088】また、多錘糸条Yに処理剤を付与するために使用するローラ11cでは、多数本の糸条に対して同時に並列的に処理剤を付与することが必要となるために、ローラ11cの幅が必然的に広くなる。したがって、このような場合においても、ローラ11c上に形成される処理剤の液膜の乱れは顕著になり、糸条Yに対して均一に処理剤を付与することは困難となる。
【0089】しかしながら、このような場合においても、ローラ11c上に凹断面形状を有する溝Gをそれぞれの糸条Yに対応させてそれぞれ形成することによって、該溝Gによって処理剤が安定に保持され、ローラ11cが高速回転しても、均一な液膜をローラ11c上に維持することができる。
【0090】以上に述べた本発明の処理剤付与装置に関して、ローラ11c上に形成する溝Gの幅A(mm)及び深さB(mm)は、適用工程(紡糸工程か、延伸工程か)、糸条Yの条件(種類、繊度、及び単繊維数など)、製糸条件(糸条の張力、処理剤付与ローラへの接触圧力など)、糸条Yの走行速度、ローラ11cの周速、糸条Yの処理剤付着量、そして、処理剤の表面張力(粘度、温度など)などの条件によって大きく異なってくるため、これら条件に合わせて適宜、好ましい設計値を選択すればよいことは、言うまでもない。
【0091】なお、図2に記載されているピンやプレートのような膜厚調整部材17A又は17Bは、このような溝Gをローラ11c上に形成した場合においても、設けることは好ましい実施態様である。
【0092】何故ならば、図3の実施形態例においては、処理剤が該溝G部以外のローラ11cの外周面においても付着しているが、この部分に付着した処理剤は本質的に不要なものであるからである。このため、前述のような膜厚調整部材を設けることで、これらの不要な処理剤を極力取り除くことができる。
【0093】この場合、該膜厚調整部材とローラ11cの回転する外周面との間の距離は、極力小さくすることが好ましい。もし、必要であれば、ローラ11cに接触させてもよく、このような場合には、膜厚調整部材は、ローラ11cと接触してその接圧によって自由回転回転するフリー・ローラによって構成しても良い。
【0094】更に、このような膜厚調整部材を設ける場合においては、この溝G部で形成される処理剤の液膜厚さを積極的に制御するために、溝Gの幅A(mm)と深さB(mm)を調整するようにしても良い。なお、このような溝Gの幅A(mm)と深さB(mm)とは、前述のように糸条Yの条件、糸条Yの走行速度等々によって左右されるため、一律にその値を決定することができないことは言うまでもなく、これらの条件に応じて適宜設定されるべきものである。
【0095】次に、以上に述べた本発明の処理剤付与装置を図1に例示した製糸工程に適用した実験例について説明するが、この実験例に関する説明を通じて、本発明の処理剤付与装置に係わる実施形態を具体的かつ詳細に理解できるものと考える。
【0096】図1に例示した製糸工程において、固有粘度が0.97のポリエステルを公知の溶融押出機(図示せず)に供して溶融させた後、これも公知のギヤポンプなどの計量供給手段(図示せず)によって溶融ポリエステルを一定量に計量しながら、紡糸装置2を構成するスピンブロック21へ供して、紡糸口金パック22に装着された紡糸口金23(吐出孔数が192個)より吐出孔一孔当り2ccで溶融ポリエステルを吐出させ、紡糸温度295℃で定法によって糸条Yとして紡出した。
【0097】そして、紡出糸条Yは、その全周から冷却装置26より吹出される冷却風によって、ガラス転移温度以下に一旦冷却して固化させた後、図2(a)に例示した処理剤付与装置と実質的に同様な構成を有する装置1Aによって、処理剤である紡糸油剤を付与しつつ、引取ローラ28によって、糸条速度1000m/分で引取った。その際、紡糸油剤成分の糸条に対する付着量は、乾燥後の繊維重量に対する重量%で示すと、0.35重量%となるように油剤の付与条件を調整した。
【0098】このとき、前記処理剤付与装置1Aに使用した処理剤付与ローラ11Aは、処理剤付与部の表面粗さ(Ra)が1.0Sであって、その直径が100mmである酸化アルミニュウムからなる材質のものを使用した。その際、前記ローラ11Aの回転数は、200rpm(ローラ11Bの周速V2は63m/分)に設定した。
【0099】また、膜厚調整部材17Bとしては、処理剤の液面から15mm離間させた処理剤付与ローラ11Bに対して0.1mmの微小間隙を有し、かつ、該ローラ11Bの回転する外周面に対して平行に設けられた直径が2mmの円柱ピンを使用した。
【0100】なお、前記紡糸油剤(処理剤)の組成は、グリセリントリオレート:68部、POE(25)硬化ヒマシ油トリステアレート:20部、POE(3)ラウリルアミノエーテル:10部、POE(8)オレイルフォスフェートナトリウム:2部とし、これに水を加えて増量し、その濃度が水に対して10重量%となるように調製したものを使用した。
【0101】そして、引き続き、交絡付与装置41によって交絡を付与した後、220℃に加熱した直径180mmのローラ対からなる4段の延伸加熱ローラ群3にて、0.28秒間加熱接触させながら、延伸倍率4.0で延伸熱処理し、その際、延伸ローラ33と34との間にローラ式処理剤付与装置1Bを設けたが、この処理剤付与部における糸条Yの走行速度は4000m/分であった。
【0102】ここで、前記処理剤付与装置1Bとしては、処理剤付与部の表面粗さ(Ra)が1.0Sであって、その直径が100mmである酸化アルミニュウムからなる材質のものを使用した。その際、前記ローラ11Aの回転数は、180rpm(ローラ11Bの周速V2は57m/分)に設定した。したがって、V1/V2は70であった。
【0103】なお、この処理剤付与部で付与した前記処理剤の組成は、デナコールEX−421(ナガセケムテックス株式会社):50部、ジオクチルアゼレート:15部、POE(5)ラウリルエーテル:25部、POE(10)ラウリルアミノエーテル:7.5部、POE(3)ラウリルサルフェートナトリウム:2.5部とし、これに水を加えて増量し、その濃度が水に対して45重量%となるように調製したものを使用した。
【0104】更に、このように調製した処理剤中に蛍光剤を0.1%含有させ、乾燥後に繊維重量に対して0.25重量%となるように処理剤の付与条件を設定して、前記処理剤付与装置1Bによって処理剤を糸条Yに付与した後、第2交絡付与装置42によって糸条Yを構成するフィラメント間に交絡を付与した後、巻取機5によって4000m/分で巻き取った。そして、最終的に、1100デシテックス、192フィラメントの丸断面のポリエステル繊維からなる処理剤が付与された糸条からなるパッケージを得た。
【0105】ここで、処理剤中に0.1%含有させた蛍光剤は、処理剤の糸条への付着斑を測定することを目的としたものである。即ち、図1のような製糸工程において製糸して得た糸条パッケージから300m/分の速度で糸条を解舒して30分間に渡って蛍光強度測定装置へ連続走行させ、糸条に付着した処理剤中蛍光剤の蛍光強度を連続測定することによって、処理剤の糸条への付着斑を測定することを目的としている。
【0106】このとき、連続測定により得られた蛍光強度の中から蛍光強度の最大値Imaxと最小値Iminを求め、これらImaxとIminから蛍光強度変動率ΔIを下記(1)式によって算出した。
【0107】
ΔI(%)=(Imax−Imin)/(Imax+Imin)/2)……(1)
なお、この(1)式で算出された蛍光強度変動率ΔIの値が小さい程、処理剤の糸条への付着斑が少ないことを意味していることは、言うまでもない。
【0108】以上のようにして本発明の処理剤付与装置を適用した実験では、蛍光強度変動率ΔIの値は12であった。また、処理剤の飛散量を評価するために、前記処理剤付与装置1Bの近傍において、処理剤が飛散する方向に直径5cm丸板を1分間設置した。そして、この丸板に飛散して付着した処理剤の量を目視で評価したところ、飛散量は少なかった。
【0109】次に、本発明の処理剤付与装置1Aと1Bを使用した前記実験例において、本発明の処理剤付与装置1Bを別の本発明の処理剤付与装置1cに代えた以外の条件は、実質的に同様の実験条件で採用した。
【0110】このとき、前記処理剤付与装置1cとしては、処理剤付与ローラ11c上に幅A(mm)が4mm、深さB(mm)が2.5mmの溝Gを形成した以外の詳細条件は、図3(b)に示した従来の処理剤付与装置100Bと実質的に同じものを使用した。得られた結果は、蛍光強度変動率ΔIの値は12であって、処理剤は糸条により均一に付着していることを示していた。このとき、前述と全く同様の方法で評価した目視による処理剤の飛散量は、より少なかった。
【0111】これに対して、処理剤(紡糸油剤)付与装置として、本発明の図2(b)に例示したものに代えて、図4(b)に例示した従来の装置100Bを用いた以外は、前記条件にそのまま準拠して比較実験を行った。この比較実験によって得られた蛍光強度変動率ΔIの値は20であり、また、前記丸板に付着した処理剤の量を目視で評価したところ、飛散量は多かった。
【0112】以上に述べたように本発明の装置は、糸条の走行速度V1が高速領域にあるときは大きな効果を有することが分る。そこで、従来の処理剤付与装置100B適用限界を検討することを目的として、従来の処理剤付与装置100B上での糸条Yの走行速度V1を4000m/分から2000m/分に変更して実験を行った。なお、これ以外の条件は、本発明の処理剤付与装置1Bを適用した実験と実質的に同じ条件とした。
【0113】このとき得られた蛍光強度変動率ΔIの値は30であって、本発明の処理剤付与装置1B上を4000m/分で糸条Yを走行させた場合の前記ΔIの値17と比較しても大きくなっていた。このように、糸条Yの走行速度が2000m/分では、明らかに従来の処理剤付与装置100Bを用いた場合には、処理剤の付着斑が生じていることが分った。
【0114】
【発明の効果】以上に述べた本発明の処理剤付与装置によれば、2000m/分以上の高速で走行する合成繊維糸条に対しても、糸条に擦過損傷を与えることなく、均一かつ付着斑なく処理剤を走行糸条に付着させることができる。
【0115】つまり、本発明の装置は処理剤付与ローラを有するが、この処理剤付与ローラを糸条の走行方向と同一方向へ回転させることによって、擦過によって糸条が受けるダメ―ジを軽減することができる。このため、単繊維切れの発生も抑制されるために、毛羽のような糸欠陥がない品質に優れた糸を製造することができる。
【0116】また、本発明の処理剤付与装置によれば、処理剤付与ローラがどのような回転数で回転したとしても(例え、高速回転したとしても)、従来は、該ローラによってピックアップされる処理剤の液膜の厚さを制御することが非常に困難であったのが、最適な値に制御することができる。
【0117】また、本発明の処理剤付与装置によれば、処理剤付与ローラへ処理剤を供給する際に、邪魔板や堰を設けることによって、液流や液面の乱れを惹起させることなく、回転する該ローラ上に均一かつ安定な処理剤膜を形成させることができる。その上、膜厚制御部材を設けることによって、処理剤付与ローラ上に形成させた膜厚を適正な厚さに制御することができる。このため、走行する糸条に対して、斑なく均一かつ安定に処理剤を付着させることができる。
【0118】更に、本発明の処理剤付与装置によれば、糸条の走行速度の上昇に伴って、処理剤付与ローラも高速に回転したとしても、該ローラ上に溝を形成することによって、処理剤を安定に保持させ、この溝の底部を接触走行する糸条に随伴する随伴気流やローラの遠心力が処理剤に作用したとしても、形成された処理剤の液膜が乱されるという悪影響を最小限にとどめることができる。
【0119】そして、本発明の処理剤付与装置によれば、処理剤が溝に安定に保持されたり、必要以上に余分となる処理剤がローラ上に付着することがなくなったりするため、該ローラ上に付着する処理剤の周囲への飛散を少なくでき、これと共に、処理剤の損失を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置を好適に適用できる製糸工程を例示した模式説明図である。
【図2】本発明に係わる合成繊維への処理剤付与装置の実施形態を例示した説明図であって、図(a)は糸条が下方から上方へと走行する実施形態例、そして、図(b)は糸条が上方から下方へと走行する実施形態例をそれぞれ示した模式側面図である。
【図3】処理剤溜溝を処理剤付与ローラ上に形成した本発明の他の処理剤付与装置に係わる実施形態を例示した模式説明図であって、図(a)は模式正面図、そして、図(b)は模式側面図をそれぞれ示す。
【図4】従来のローラ式処理剤付与装置を例示した模式説明図であって、図(a)は糸条が下方から上方へ走行する実施形態例、図(b)は糸条が上方から下方へ走行する実施形態例をそれぞれ示す。
【図5】従来のガイド式処理剤付与装置を例示した模式説明図であって、図(a)は模式正面図、図(b)は模式側断面図である。
【符号の説明】
1A、1B 処理剤付与装置
11A、11B 処理剤付与ローラ
12A、12B 回転駆動軸
13A、13B 容器
14A、14B 処理剤の供給口
15A、15B 処理剤の排出口
16A、16B 堰
17A、17B 膜厚調整部材(ピン)
18A、18B 邪魔板
Y 糸条
L 処理剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高速走行する合成繊維糸条と接触して処理剤を付与するための処理剤付与ローラと、該ローラを支承して合成繊維糸条の走行方向と同方向へ該ローラを回転させる回転駆動軸と、前記ローラの下端部が浸漬させられると共に処理剤を貯えた容器と、該ローラの回転に伴い発生する処理剤の流れ方向に対して略直角方向に該ローラの下方の該容器中に立設された邪魔板と、該容器中の処理剤の液面レベルを調整する堰とを含む合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項2】 高速走行する合成繊維糸条と接触して処理剤を付与するための処理剤付与ローラと、該ローラを支承して糸条の走行方向と同方向へ該ローラを回転させる回転駆動軸と、該ローラの下部が処理剤中に浸漬させられると共に該ローラへ塗布する処理剤を貯える容器とを含む処理剤付与装置であって、その際、凹断面形状を有し且つその底部が平坦である処理剤を保持させる溝を前記ローラ上に形成した合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項3】 前記処理剤付与ローラに対して微小間隙を置いて設けられた処理剤の膜厚調整部材を有する請求項1又は請求項2記載の合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項4】 請求項3記載の膜厚調整部材が、前記処理剤付与ローラの回転表面に対して微小間隙を置いて、該回転表面に対して略平行に設けられたピン又はプレートである合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項5】 前記処理剤付与ローラの走行糸条との接触部の材質が表面粗さ(Ra)が0.5S(0.5μm)以上、2.0S(2.0μ)m以下であるセラミックスであって、該ローラの直径が80mm以上、150mm以下である請求項1〜4の何れか一項に記載の合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項6】 前記合成繊維糸条の走行速度V1(m/分)と前記処理剤付与ローラの周速V2(m/分)との比V1/V2が、20≦V1/V2≦800の範囲において前記回転駆動軸の回転数を一定に制御する請求項1〜5の何れか一項に記載の合成繊維糸条への処理剤付与装置。
【請求項7】 速度V1(m/分)が2000≦V1≦8000で走行する合成繊維糸条に対して処理剤を付与する請求項1〜6の何れか一項に記載の合成繊維糸条への処理剤付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−183928(P2003−183928A)
【公開日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−381331(P2001−381331)
【出願日】平成13年12月14日(2001.12.14)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】