説明

合成肺サーファクタントペプチド

本発明は、天然のサーファクタントタンパク質であるSP−Bのペプチド類似体、ならびに呼吸窮迫症候群(RDS)および他の呼吸器障害の治療または予防のための製剤の調製におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、天然のサーファクタントタンパク質であるSP−Bのペプチド類似体、ならびに呼吸窮迫症候群(RDS)および他の呼吸器障害の予防および/または治療のための製剤の調製におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト肺は、肺胞と呼ばれる多数の小さな空気嚢から構成され、そこでは、肺の血液と空隙の間でガス交換が行われる。健康な個体では、この交換は、呼気の終わりの肺の虚脱を防ぐタンパク質含有サーファクタント複合体の存在によって媒介されている。
【0003】
肺サーファクタント複合体は、主に脂質で構成され、少量の種々のタンパク質を含む。この複合体が十分なレベルでないと、肺は機能不全に陥る。この症候群は、呼吸窮迫症候群(RDS)と呼ばれ、一般に、早産の乳児に影響を及ぼす。
【0004】
前記症候群は、動物の肺から抽出された、修飾された天然のサーファクタント調製物を用いて効果的に治療される。
【0005】
これらのサーファクタント調製物の主な構成物質は、リン脂質、例えば、一般にジパルミトイル−ホスファチジルコリン(DPPC)として知られている1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、ホスファチジルグリセロール(PG)、ならびに前記調製物のサーファクタント様の活性をもたらす能力を備えていることで知られているサーファクタント疎水性タンパク質BおよびC(SP−BおよびSP−C)である。
【0006】
動物組織由来のサーファクタント調製物の欠点、例えば、製造および滅菌処理の複雑さ、ならびに免疫反応の見込まれる誘導のため、修飾された天然のサーファクタントの組成を模倣する合成サーファクタントが開発されてきた。
【0007】
前記合成サーファクタントは、再構成サーファクタント(reconstituted surfactant)として知られている。
【0008】
しかしながら、臨床的に活性な再構成サーファクタントの開発は、相当量の疎水性SP−BおよびSP−Cタンパク質を天然源から単離するには費用がかかり、しかも多大な労力を要するため、結局は困難であることが分かった。
【0009】
同様に、組換えDNA技術によるこれらのタンパク質の製造には、最適な宿主/ベクター発現系の設計および実現の観点からかなりの努力が必要である。さらに、不要な材料から対象とする発現されたタンパク質を分離および精製するための効果的な単離戦略を開発するために相当な努力を必要とする。
【0010】
特に、SP−Bタンパク質は、高分子量、極端な疎水性、ならびに多数のシステイン残基が天然材料からの単離を介した商業的なその製造または組換えDNA戦略を介したその発現を著しく困難にすることによって特徴付けられる。
【0011】
したがって、医学界では、天然タンパク質の特性を全て模倣することができるタンパク質であるSP−Bの単純であり、容易に調製できる合成類似体が必要とされている。
【0012】
より具体的には、天然タンパク質SP−Cの合成類似体および脂質担体と混合した場合、呼気の終わりに、肺胞の開通性を効果的に維持することができる再構成サーファクタント調製物を生じさせる天然タンパク質SP−Bの合成類似体が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の概要
本発明は、一般式(I)によって表される配列のポリペプチドに関する。
【0014】
XΔLCRALIKR−SEQ−PQLVCRLVLRΦΣn (I)
式中、
Xは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Δは、W、L、nLおよびIからなる群から選択されるアミノ酸残基であり;
SEQは、FNRYLTおよびYNGKからなる群から選択されるアミノ酸配列であり;
Φは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Σは、S、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸残基であり
nは、0または1である。
【0015】
また、本発明は、前記ポリペプチドの医薬として許容される塩、ならびに、例えばアセチル化およびアミド化によりN末端および/またはC末端がブロックされたそれらの誘導体を含む。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、一般式(I)のポリペプチドと混合された脂質担体を含む再構成肺サーファクタント、およびその医薬製剤を提供する。
【0017】
最後に、本発明は、呼吸窮迫症候群および他の呼吸器障害の予防および/または治療のための再構成サーファクタントを調製するための一般式(I)のポリペプチドの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ヒトタンパク質SP−Bのアミノ酸配列を示す。定義 外因性のサーファクタント調製物を用いたインビボでの治療後の呼吸器機能は、2つのパラメータ:i)肺コンプライアンスの指標である1回換気量、およびii)呼気の終わりの肺胞気拡張または開通性の指標、したがって呼気の終わりに肺胞において安定なリン脂質性膜を形成する能力の指標である肺ガス量、を測定することによって決定することができる。
【0019】
タンパク質SP−Bは、「SP18」としても定義されており、17kDaの二量体タンパク質であり、単量体鎖は、79残基のポリペプチドであり、Cys8とCys77、Cys11とCys71、およびCys35とCys46を連結する、3つの鎖内のジスルフィド連結を有する。その天然の形態では、ヒトSP−Bサブユニットは、Cys48で鎖内ジスルフィド連結を有するジスルフィド連結されたホモ二量体として存在する。ヒトSP−Bの単量体鎖の配列は、図に示される。
【0020】
用語「再構成サーファクタント」とは、本明細書中で使用するとき、組換え技術または合成法により作製されたサーファクタントタンパク質のポリペプチド類似体が添加されている脂質担体を意味する。
【0021】
用語「脂質担体」とは、リン脂質、場合によりさらなる脂質成分、例えば、トリアシルグリセロール、遊離脂肪酸および/またはコレステロールなどの中性脂質の混合物を意味する。
【0022】
用語「ポリペプチド」および「ペプチド」とは、本明細書では交換可能に用いられ、隣接する残基のアルファ−アミノ基とカルボキシ基との間のペプチド結合によって、互いに接続された直鎖状の一続きの約60個未満のアミノ酸残基を指す。
【0023】
用語「天然のサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチド類似体」は、ポリペプチドが脂質担体と混合して肺サーファクタント活性を示す限り、天然のタンパク質と比較して、1個または複数のアミノ酸が欠失しているか、または他のアミノ酸によって置換されているアミノ酸配列を有するペプチドを含む。
【0024】
用語「天然のサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチド類似体」は、ポリペプチドが脂質担体と混合して肺サーファクタント活性を示す限り、天然のタンパク質と比較して、1個または複数のアミノ酸が欠失しているか、または他のアミノ酸によって置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0025】
保存的置換を示すポリペプチドは、1個のアミノ酸残基が、生物学的に類似した別の残基によって置換されているポリペプチドである。保存的置換の例には、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどのある疎水性残基による別の疎水性残基の置換、あるいはアルギニンとリジンとの間、またはグルタミン酸とアスパラギン酸との間などのある極性残基による別の極性残基の置換が挙げられる。
【0026】
また、用語「保存的置換」は、得られるポリペプチドも必須のサーファクタント活性を示すという条件で、未置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を使用することを含む。
【0027】
さらに、用語「保存的置換」は、得られるポリペプチドが、二次構造、ならびに親ポリペプチドの必須のサーファクタント活性を維持するという条件で、前述のポリペプチドとは異なる置換を含む。
【0028】
アミノ酸配列は、左端(アミノ末端)に遊離アミノ基を担持するアミノ酸と、右端(カルボキシ末端)に遊離カルボキシル基を担持するアミノ酸を有する、3文字コードに従って示される。
【0029】
本明細書において特定される全てのアミノ酸残基は、天然のL立体配置であり、本明細書において特定される配列は、対応の下記の表に示されるように、アミノ酸残基についての標準的な省略形に従って記載される。
【0030】
【表1】

【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、一般式(I)によって表される配列を有するポリペプチドに関する。
【0032】
XΔLCRALIKR−SEQ−PQLVCRLVLRΦΣn (I)
式中、
Xは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Δは、W、L、nLおよびIからなる群から選択されるアミノ酸残基であり;
SEQは、FNRYLTおよびYNGKからなる群から選択されるアミノ酸配列であり;
Φは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Σは、S、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸残基であり;
nは、0または1である。
【0033】
本発明のポリペプチドは、FNRYLTおよびYNGKからなる群から選択される折り返しモチーフ(turn motif)を形成することができるアミノ酸配列を介して連結されたSP−Bタンパク質のN末端配列8〜17およびC末端配列67〜78を含む。
【0034】
また、前記ポリペプチドは、天然のSP−Bタンパク質の配列のアミノ酸残基のいくつかが置換されおよび/または欠失している、一般式(I)によって包含されるポリペプチドなどの修飾を含む。
【0035】
あるいは、それらは、アミノ末端またはカルボキシ末端で追加のアミノ酸残基をさらに含んでもよい。前記修飾は、ポリペプチドの発現を高めるために利用されてもよく、または「リンカー」配列として利用されてもよいが、好ましくは、本発明のポリペプチドの生物学的活性を減少させず、しかもそれに干渉しない。
【0036】
また、本発明は、前記ポリペプチドの医薬として許容される塩、例えばアセチル化およびアミド化によりNおよび/またはC末端がブロックされたそれらの誘導体を含む。
【0037】
医薬として許容される塩には、例えば、塩酸塩、酢酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩が含まれる。
【0038】
一実施形態では、一般式(I)のポリペプチドは、分子間のジスルフィド連結が4位のCys残基とC末端部分にあるCysとの間にある、ジスルフィド連結された分子の形態であってもよい。
【0039】
一般式(I)の好ましいポリペプチドの第1のグループは、
XおよびΦがともにCであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがFNRYLTであり;
nが0である
ポリペプチドである。
【0040】
好都合には、前記ポリペプチドは、分子間のジスルフィド連結が、1位と27位にある2つのCys残基の間、および/または4位と21位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態であってもよい。
【0041】
一般式(I)の好ましいポリペプチドの第2のグループは、
XおよびΦがともにCであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがYNGKであり;
nが0または1である
ポリペプチドである。
【0042】
好都合には、前記ポリペプチドは、分子間のジスルフィド連結が、1位と25位にある2つのCys残基の間、および/または4位と19位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態であってもよい。
【0043】
一般式(I)の好ましいポリペプチドの第3のグループは、
XがAまたはGであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがFNRYLTであり;
nが0または1であり;
ΦがAまたはGである
ポリペプチドである。
【0044】
好都合には、前記ポリペプチドは、分子間の連結が1位と27位にあるAlaまたはGly残基の間である、環状分子の形態であってもよい。また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と21位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0045】
一般式(I)の好ましいポリペプチド化合物の第4のグループは、
XがAまたはGであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがYNGKであり;
nが0または1であり;
ΦがAまたはGである
ポリペプチドである。
【0046】
好都合には、前記ポリペプチドは、分子間の連結が1位と25位にあるAlaまたはGly残基の間である、環状分子の形態であってもよい。また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と19位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0047】
一般式(I)の好ましいポリペプチドの第5のグループは、
XがKまたはRであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがFNRYLTであり;
nが0または1であり;
ΦがDまたはEである
ポリペプチドである。
【0048】
好都合には、前記ポリペプチドは、連結が1位にあるKまたはR残基と27位にあるDまたはE残基との間である、環状分子の形態であってもよい。連結は、KまたはR残基の遊離アミノ基とDまたはE残基の遊離カルボン酸基との間のアミド共有結合の形態であってもよく、あるいは連結は塩橋の形態下にあってもよい。
【0049】
また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と21位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0050】
一般式(I)の好ましいポリペプチド化合物の第6のグループは、
XがKまたはRであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがYNGKであり;
nが0または1であり;
ΦがDまたはEである
ポリペプチドである。
【0051】
好都合には、前記ポリペプチドは、連結が1位にあるKまたはR残基と25位にあるDまたはE残基との間である、環状分子の形態であってもよい。連結は、KまたはR残基の遊離アミノ基とDまたはE残基の遊離カルボン酸基との間のアミド共有結合の形態であってもよく、あるいは連結は塩橋の形態下にあってもよい。
【0052】
また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と19位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0053】
一般式(I)の好ましいポリペプチドの第7のグループは、
XがDまたはEであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがFNRYLTであり;
nが0または1であり;
ΦがKまたはRである
ポリペプチドである。
【0054】
好都合には、前記ポリペプチドは、連結が1位にあるDまたはE残基と27位にあるKまたはR残基との間である、環状分子の形態であってもよい。連結は、KまたはR残基の遊離アミノ基とDまたはE残基の遊離カルボン酸基との間のアミド共有結合の形態であってもよく、あるいは連結は塩橋の形態下にあってもよい。
【0055】
また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と21位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0056】
一般式(I)の好ましいポリペプチド化合物の第8のグループは、
XがDまたはEであり;
Δが上記で定義される通りであり;
SEQがYNGKであり;
nが0または1であり;
ΦがKまたはRである
ポリペプチドである。
【0057】
好都合には、前記ポリペプチドは、連結が1位にあるDまたはE残基と25位にあるKまたはR残基との間である、環状分子の形態であってもよい。連結は、KまたはR残基の遊離アミノ基とDまたはE残基の遊離カルボン酸基との間のアミド共有結合の形態であってもよく、あるいは連結は塩橋の形態下にあってもよい。
【0058】
また、より好都合には、ジスルフィド連結は4位と19位にある2つのCys残基の間に存在する。
【0059】
一般式(I)によって包含される好ましいポリペプチドは、下記に記載される。
【0060】
【表2】

【0061】
分子間のジスルフィド連結がCys残基の間にあるジスルフィド連結された分子の形態のポリペプチド(Ic)および(Id)は、以下、ox−(Ic)およびox−(Id)ポリペプチドとして示される。
【0062】
本発明のポリペプチドは、リン脂質を含む脂質担体と混合されると、表面張力を0近くの値まで減少し得る再構成サーファクタントを形成する。
【0063】
また、本発明者らは、未熟児の新生児が呼吸終末陽圧(PEEP)を適用されずに処置されるRDSのモデルでは、一般式(I)のポリペプチドは、タンパク質SP−Cの特定の合成類似体および適切な脂質担体と混合されると、修飾された天然のサーファクタントの投与後に到達される程度に匹敵する程度まで、1回換気量によって表される呼吸機能を改善することを見出した。
【0064】
さらに、前記再構成サーファクタント調製物は、呼気の終わりの肺胞開通性の指標である肺ガス量を改善することが分かった。
【0065】
一般式(I)のポリペプチドは、ポリペプチドの分野における当業者に知られている任意の技術によって合成することができる。
【0066】
利用可能な技術の多くは、固相ペプチド合成については、J.M. StewardおよびJ.D. Young, "Solid Phase Peptide Synthesis", W.H. Freeman Co., San Francisco, 1969, ならびにJ. Meienhofer, Hormonal Proteins and Peptides", Vol.2, p. 46, Academic Press (New York), 1983、古典的な溶液合成については、E. SchroderおよびK. Kubke, "The Peptides", Vol. 1, Academic Press (New York), 1965に見出すことができる。また、本発明のポリペプチドは、Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154 (1963)によって当初報告された固相合成技術を用いて調製されてもよい。他のポリペプチド合成技術は、例えば、M. Bodanszkyら, Peptide Synthesis, John Wiley & Sons, 第2版, (1976)、ならびに当業者に知られている他の参考文献に見出すことができる。
【0067】
このような合成において使用するための適切な保護基は、上記のテキスト、ならびにJ. F. W. McOmie, Protective Groups in Organic Chemistry, Plenum Press, New York, NY (1973)に見出されるであろう。
【0068】
一般に、これらの方法は、成長しているペプチド鎖への、1もしくは複数のアミノ酸残基または適切に保護されたアミノ酸残基の連続的な付加を含む。
【0069】
例示として固相合成を用いると、保護されたアミノ酸または誘導体化されたアミノ酸は、その保護されていないカルボキシル基またはアミノ基を介して不活性な固体支持体に結合される。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基は選択的に除去され、適切に保護された相補的な(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列の次のアミノ酸が混ぜられ、固体支持体に既に結合された残基とともにアミド連結を形成するのに適切である条件下で反応される。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基は、この新たに追加されたアミノ酸残基から除去され、その後、次のアミノ酸(適切に保護されている)が追加されるなどである。
【0070】
全ての所望のアミノ酸が適した配列に接続された後、いずれかの残っている末端および側基を保護する基(および固体支持体)は、連続してまたは同時に除去され、最終のポリペプチドを生じさせる。
【0071】
処理していないポリペプチドは、一般に、HPLCによって精製され、凍結乾燥によって単離される。
【0072】
ポリペプチドは、医薬として許容される塩の形態で得られてもよい。場合により、得られた塩は、当業者に周知の手法に従って、適切なイオン交換樹脂が充填されたカラムを用いて、塩の別のタイプに変換することもできる。
【0073】
また、本発明のポリペプチドは、当該技術分野において周知の組換え核酸方法論を用いて調製することもできる。
【0074】
したがって、本発明のポリペプチドをコードするDNA配列、それらを発現することができる組換え発現ベクター、およびその方法は、本発明に含まれる。
【0075】
本発明のポリペプチドをコードするDNA配列は、当業者に周知の化学的技術によって合成されてもよい。次に、DNA断片は、発現ベクターに連結されてもよく、この発現ベクターで形質転換された宿主を使用して、ポリペプチドを製造してもよい。
【0076】
コード配列を化学的に合成することによって、単に、天然のアミノ酸残基配列をコードする塩基を適切な塩基に置換することにより、任意の所望の修飾を行ってもよい。
【0077】
対象とするポリペプチドを発現することができる組換え発現ベクター、ならびに一般式(I)のポリペプチドを製造するためにそれらを使用する方法は、本発明に含まれる。
【0078】
また、本発明には、上記のDNA断片のリボ核酸(RNA)同等物が含まれる。
【0079】
遺伝暗号の周知の重要な特徴はその冗長性である。すなわち、タンパク質を作るために使用されるアミノ酸の大部分に対して、1を超えるコードしているヌクレオチドのトリプレット(コドン)は、特定のアミノ酸残基をコードするかまたは指定することができる。したがって、多数の様々なヌクレオチド配列が、特定のアミノ酸残基配列をコードしてもよい。このようなヌクレオチド配列は、結果として、全ての生物において同じアミノ酸残基配列を生じることができるので、機能的に同等であると考えられる。
【0080】
一般式(I)のポリペプチドは、医薬として適切な脂質担体と混合されて、再構成サーファクタントを形成してもよい。
【0081】
ポリペプチドと脂質担体の重量比は、好都合には、約1:5〜約1:5000、好ましくは約1:10〜約1:2000、より好ましくは約1:50〜約1:1000の範囲である。より好ましい実施形態では、ポリペプチド:脂質担体の重量比は、約1:5〜約1:1000、好ましくは約1:7〜約1:500、より好ましくは約1:10〜約100の範囲である。
【0082】
好都合には、脂質担体は、天然の肺サーファクタント調製物に含まれるリン脂質、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびパルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)などのホスファチジルコリン(PC)、ならびにパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)およびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)などのホスファチジルグリセロール(PG)を含む。
【0083】
好都合に用いることができる他のリン脂質は、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリン(SM)である。
【0084】
特定の実施形態では、脂質担体は、さらなる成分、例えば、トリアシルグリセロール、遊離脂肪酸および/またはコレステロールなどの中性脂質を含んでもよい。
【0085】
再構成サーファクタントは、一般式(I)の1または複数のポリペプチドを含んでもよく、あるいは天然のサーファクタントタンパク質であるSP−Cの合成ペプチド類似体、例えば、WO95/32992、WO00/47623、およびWO03/097695に開示されているものをさらに含んでもよい。
【0086】
本発明のポリペプチドを含む再構成サーファクタントは、前記ポリペプチドの溶液または懸濁液、場合により別のペプチドの溶液または懸濁液と、脂質担体とを混合し、次にこの混合物を乾燥させることによって調製されてもよい。
【0087】
あるいは、この再構成サーファクタントは、当該技術分野において知られている方法に従って、凍結乾燥または噴霧乾燥によって調製されてもよい。
【0088】
前記再構成サーファクタント調製物の投与は、当業者に知られているように、好ましくは気道内導入(注入またはボーラス)によって行われてもよい。あるいは、投与は、エアロゾルまたは噴霧によって行われてもよい。
【0089】
また、本発明は、本発明のポリペプチドを含む再構成サーファクタントを含む医薬組成物に関する。
【0090】
前記組成物は、好都合には、液剤、分散剤、懸濁剤または乾燥粉末剤の形態で投与される。好ましくは、前記組成物は、適切な溶媒または再懸濁媒体に溶解または懸濁させた再構成サーファクタントを含む。
【0091】
好ましくは、前記医薬組成物は、1回使用のガラス製バイアルに含まれる、緩衝化した生理食塩水の懸濁液として提供される。好都合には、再構成サーファクタントの濃度(リン脂質含有量として表される)は、サーファクタント約2〜約160mg/ml、好ましくは10〜100mg/ml、より好ましくは20〜80mg/mlの範囲内である。
【0092】
前記組成物は、カルシウム塩、マグネシウム塩および/またはナトリウム塩(例えば、塩化カルシウムまたは塩化ナトリウム)などの電解質をさらに含んでもよい。
【0093】
また、水性懸濁液の形態である組成物は噴霧によって投与されてもよい。
【0094】
エアロゾル投与において用いられるべきである場合、再構成サーファクタントは、高圧ガスと一緒に微粉化された形態で供給される。有用な高圧ガスは、典型的には、加圧下で液化する周囲条件での気体、例えばヒドロフルオロアルカンである。
【0095】
エアロゾルは、適切なバルブを備えている容器内に充填され、それにより、成分は放出されるまで加圧下で維持されてもよい。
【0096】
本発明のポリペプチドを用いて得られる医薬組成物は、未熟で生まれた乳児における呼吸窮迫症候群(RDS)の治療または予防、あるいは成人におけるRDS(ARDS)、胎便吸引症候群(MAS)、および気管支肺異形成症(BPD)を含むサーファクタントの欠損または機能不全に関連した他の疾患の治療または予防に適切である。
【0097】
また、この医薬組成物は、肺炎、気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、および嚢胞性線維症などの他の呼吸器障害の治療または予防、ならびに漿液性中耳炎(中耳炎)の治療に有用であり得る。
【0098】
下記の例は、本発明をより詳細に説明する。
【0099】
例1−ポリペプチドox−(Ic)の合成および精製
ポリペプチドox−(Ic)は、下記に記載されたスキーム1に従って、Fmoc化学に基づく標準的なSPPS(固相ペプチド合成)法によって調製された。
【0100】
【化1】

【0101】
固相合成後、ジスルフィド架橋のない粗製ペプチドは、標準的な方法によってレジンから開裂され、次にジスルフィド架橋は、2つの異なる酸化工程によって選択的に形成された。
【0102】
ジスルフィド架橋を選択的に形成するために、合成中の4つのシステインの側基に関する明確な保護パターンが選ばれた。スキーム1に示されるプロセスでは、Cys1およびCys27は、SPPS中のFmoc−Cys(Trt)−OHとして導入され、一方、Cys4およびCys21は、対応するAcm−誘導体として対にされた。
【0103】
第1のジスルフィド架橋は空気酸化によって形成され、1つの架橋を有するペプチドはHPLCシステムによって精製され、凍結乾燥によって単離された。第2のジスルフィド架橋はヨウ素酸化によって形成され、最終のペプチドはHPLCシステムによって精製され、凍結乾燥によって単離された。
【0104】
最終のポリペプチドの純度は、C18カラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって確認され、92%であることが分かった。
【0105】
その分子量はESI−MSによって測定された。
【0106】
収量:1.73g(2.4%)。
【0107】
例2−ポリペプチドox−(Id)の合成および精製
ポリペプチドox−(Id)は、下記に記載されたスキーム2に従って、同様に調製された。
【0108】
【化2】

【0109】
Cys1とCys27との間、およびCys4とCys21との間のジスルフィド架橋の導入、精製および単離は、例1に記載されたように行った。
【0110】
最終のポリペプチドの純度は、C18カラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって確認され、86%であることが分かった。
【0111】
その分子量はESI−MSによって測定された。
【0112】
収量:0.81g(2.4%)。
【0113】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
XΔLCRALIKR−SEQ−PQLVCRLVLRΦΣn (I)
(式中、
Xは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Δは、W、L、nLおよびIからなる群から選択されるアミノ酸残基であり;
SEQは、FNRYLTおよびYNGKからなる群から選択されるアミノ酸配列であり;
Φは、C、A、G、K、R、DおよびEからなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり
Σは、S、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸残基であり
nは、0または1の値を有する整数である)
によって表される配列を有するポリペプチド。
【請求項2】
XおよびΦがともにCであり、SEQがFNRYLTであり、nが0である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
分子間のジスルフィド連結が、1位と27位にある2つのCys残基の間、および/または4位と21位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態である、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
XおよびΦがともにCであり、SEQがYNGKであり、nが0である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
分子間のジスルフィド連結が、1位と25位にある2つのCys残基の間、および/または4位と19位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態である、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
XおよびΦがともにAまたはGであり、SEQがFNRYLTである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
XおよびΦがともにAまたはGであり、SEQがYNGKである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
XがKまたはRであり、SEQがFNRYLTであり、ΦがDまたはEである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項9】
XがKまたはRであり、SEQがYNGKであり、ΦがDまたはEである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項10】
XがDまたはEであり、SEQがFNRYLTであり、ΦがKまたはRである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項11】
XがDまたはEであり、SEQがYNGKであり、ΦがKまたはRである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項12】
【表1】

からなる群から選択される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記配列(Ic)
CWLCRALIKRFNRYLTPQLVCRLVLRC
を有するポリペプチドである、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
分子間のジスルフィド連結が、1位と27位にある2つのCys残基の間、および/または4位と21位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態である、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記配列(Id)
CWLCRALIKRYNGKPQLVCRLVLRC
を有するポリペプチドである、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項16】
分子間のジスルフィド連結が、1位と25位にある2つのCys残基の間、および/または4位と19位にある2つのCys残基の間である、ジスルフィド連結された分子の形態である、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のポリペプチドを脂質担体と混合して含む再構成サーファクタント。
【請求項18】
天然のサーファクタントタンパク質であるSP−Cの合成ペプチド類似体をさらに含む、請求項17に記載の再構成サーファクタント。
【請求項19】
前記脂質担体がリン脂質の混合物を含む、請求項17または18に記載の再構成サーファクタント。
【請求項20】
未熟児で生まれた新生児における呼吸窮迫症候群(RDS)、またはサーファクタント欠損もしくは機能不全に関連した他の疾患を予防および/または治療するための薬剤を製造するための請求項1〜16に記載のポリペプチドの使用。
【請求項21】
サーファクタント欠損または機能不全に関連した前記疾患が、成人におけるRDS(ARDS)、胎便吸引症候群(MAS)、および気管支肺異形成症(BPD)を含む、請求項20に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−535721(P2010−535721A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519350(P2010−519350)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005842
【国際公開番号】WO2009/018908
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(304037234)シエシー ファルマセウティチィ ソシエタ ペル アチオニ (24)
【Fターム(参考)】