説明

合成開口光偏向素子

【課題】均一に厚い結晶を作製することが困難な電気光学結晶を用いる場合であっても、入射光のスポットサイズを大きくすることが可能な光デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る光デバイスは、電極23a、23bが形成されたKTN21と、電極24a、24bが形成されたKTN22と、KTN21とKTN22の間に設けられた樹脂25とを備えている。この樹脂25は、入射光26に対して不透明な材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、より詳細には、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プロジェクターをはじめとする映像機器、レーザプリンタ、高分解能な共焦点顕微鏡、バーコードリーダ等において、レーザ光を偏向するための光制御素子に対する要求が高まっている。光を偏向する技術として、ポリゴンミラーを回転させる技術、ガルバノミラーにより光の偏向方向を制御する技術、音響光学効果を利用した光回折技術、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれるマイクロマシーン技術が提案されている。
【0003】
ポリゴンミラーは、多面体の形状を有するミラーを機械的に回転させ、レーザ光の反射方向を連続的に変化させて光を偏向させる。このポリゴンミラーを用いた方法が、レーザプリンタのレーザ光の偏向に利用されている。しかしながら、ポリゴンミラーを用いた方法は、機械的な回転を利用しているため、回転速度に制限がある。すなわち、ポリゴンミラーは、10000rpm以上の回転数を得ることは困難とされており、高速動作が必要な応用には適さない。よって、ポリゴンミラーの回転速度の制限は、プリンタの印刷速度の高速化においてボトルネックとなっている。プリンタの印刷速度をさらに向上させるためには、より高速な光偏向技術が求められる。
【0004】
また、ガルバノミラーは、レーザ光を偏向走査するレーザスキャナ等に利用されている。従来の実用的なガルバノミラーは、例えば、磁界中に配置する可動コイルの代わりになる可動鉄片と、その周囲に2つの永久磁石と4つの磁極を設けた磁性体とにより構成された磁路を有する。この磁性体に巻回した駆動コイルに流す電流の大小及び方向によって、磁極間の磁束を変化させることにより、可動鉄片を介して反射鏡を揺動させ、レーザ光を偏向走査する。ガルバノミラーを用いた方法は、ポリゴンミラーよりも高速な動作が可能である。しかし、従来のガルバノミラーは、駆動コイルが機械巻き等であることから、小型化することが難しい。従って、ガルバノミラーを用いたレーザスキャニングシステム、およびこのシステムを用いるレーザ応用機器のより一層の小型化が難しい。また、消費電力が大きい。さらに、MHz単位の周期で高速動作させることができない。
【0005】
さらに、音響光学効果を利用した光回折型の光偏向器が実用化されている。しかし、この光回折型の光偏向器を用いた方法は、消費電力が大きく、小型化が困難である。また、大きい偏向角を得たり、高速動作を行うことが難しい。また、MEMSを用いた方法は、光偏向素子として微細なミラーを静電的に駆動するため、数十μsecの応答が限界である。
【0006】
このような課題を解決する技術として、電気光学結晶を用いた技術が提案されている。この電気光学結晶を用いた技術は、電気光学結晶の電極に電圧を印加して、電気光学効果によりビームを偏向させるものであるこの結果、数μsec以下の高速応答が可能になる。
【0007】
特許文献1には、上記電気光学結晶を用いた光偏向器が開示されている。
【0008】
図1(a)は、特許文献1に記載された従来の光偏向器の構成を示す側面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す光変調器の光の入射側から見た正面図である。図1(a)および(b)において、電気光学結晶であるKTN(KTa1-xNbx3(0<x<1))11の対向する面にそれぞれ正極12と負極13とが形成されている。ビーム径(以下、「スポットサイズ」とも呼ぶ)Φである入射光14がKTN11に入射すると、該光は電圧の印加により正極12と負極13との間に生じる電界によって偏向され、入射光14の光軸から偏向角θで偏向された出射光15となる。
【0009】
すなわち、特許文献1においては、電気光学結晶であるKTN11に電圧を印加することにより、KTNの内部に空間電荷を生じさせ、入射光14の光軸に対して垂直な断面に電界の傾斜を生じさせる。この電界の傾斜を制御することにより、光偏向器の光の偏向を制御している。
【0010】
このような光偏向器では、Φtanθというパラメータを大きくすることが好ましい。
ここで、はKTN偏向器に入射可能なビーム径であり、θは最大偏向半角である。KTN偏向器に正負両極性で電圧印加する場合には,偏向可能な全角度は2θである。パラメータ“Φtanθ”は解像点数を示す指標である。KTN偏向器の出射端から距離fの位置に、焦点距離fの凸レンズを置いたとする。KTN偏向器から出射したコリメート光は、出射端から2fの位置で集光されることになるが、そのスポットサイズは、波長をλとして概ね2λf/Φで表され、集光点は2f tanθが移動範囲となる。すなわち、移動範囲をスポット径で割った値、Φtanθ/λが、解像点数を表すことになる。λは必要な波長が用途によって変わるが、波長に依存しないΦtanθをKTN偏向器に関わる指標として採用している。
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上から明らかなように、光の偏向技術においては、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いる方式が有力であるが、この方式であっても、より良好に偏向させるためには、まだ改善しなければならない課題が残されている。特に、Φtanθをより大きくすることが望まれているが、従来では、電気光学結晶としてKTNやKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1))を用いる場合、入射できる光のスポットサイズΦに限界があり、Φtanθを大きくするにも限界があった。
【0013】
KTNやKLTNは、成長の際に、温度ゆらぎ等の影響で、厚さ方向に組成のゆらぎが生じやすい材料であり、厚さを大きくした結晶を作製するのが非常に困難な材料である。よって、KTNやKLTNは、均一に厚い結晶を得るのが非常に困難なのである。すなわち、結晶の成長方向と垂直方向には均一に大きな結晶を作製することができるが、結晶の成長方向には、上記ゆらぎの影響などにより、均一に大きくすることが困難となる。
【0014】
従って、図1(b)に示されるように、KTN11の厚さlには限界があるので、光を偏向させるための領域となるKTN11に入射できる光のスポットサイズΦにも大きさの限界がある。よって、上記Φtanθを大きくするのが困難となるのである。よって、大きなスポットサイズの光も入射可能な光偏向器が望まれている。
【0015】
さて、KTNやKLTNは、その2次の電気光学効果が大きいことから、光変調器に用いることも期待されている。
【0016】
このことは、KTNやKLTNに限らず、均一に厚い結晶を作製することが困難な電気光学材料には全て該当することである。
【0017】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、均一に厚い結晶を作製することが困難な電気光学結晶を用いる場合であっても、入射光のスポットサイズを大きくすることが可能な分解能に優れた光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的を達成するために、請求項1記載の発明は、光デバイスであって、電気光学効果を有する第1の電気光学結晶であって、該第1の電気光学結晶の厚さ方向と垂直な第1の面に第1の電極が形成され、該第1の面と対向する第2の面に第2の電極が形成された第1の電気光学結晶と、電気光学効果を有する第2の電気光学結晶であって、該第2の電気光学結晶の厚さ方向と垂直な第1の面に第3の電極が形成され、該第1の面と対向する第2の面に第4の電極が形成された第2の電気光学結晶と、前記第1の電気光学結晶と前記第2の電気光学結晶との間に設けられた、前記光デバイスの動作波長の入射光を前記光デバイスの出射面から出射しない部材であって、前記第1の電極および第2の電極の一方と、前記第3の電極および第4の電極の一方との間に設けられた部材とを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の電気光学結晶と第2の電気光学結晶の厚さは等しいことを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の電極および第2の電極が形成された第1の電気光学結晶と、前記第3の電極および第4の電極が形成された第2の電気光学結晶とは、並列まては直列に電気接続されていることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明は、光デバイスであって、対向する2つの面にそれぞれ電極が形成された2M個(Mは自然数)の電気光学結晶と、前記光デバイスの出射面から、該出射面と対向する入射面から入射した光を出射しない、2M−1個の部材とを備え、前記電気光学結晶の結晶の厚さ方向に沿って、2M−1個の前記部材のうち1個の部材の上面に2M個の前記電気光学結晶のうちの第1の電気光学結晶が設けられ、前記1個の部材の下面に2M個の前記電気光学結晶の第2の電気光学結晶が設けられ、前記第1の電気光学結晶および前記第2の電気光学結晶を起点として、前記1個の部材の上下方向に、前記部材と前記電気光学結晶の順に前記部材と前記電気光学結晶とが設けられ、前記1個の部材から前記上方向に沿ったk番目(kはM−1以下の自然数)の部材の厚さと前記1個の部材の下方向に沿ったk番目の部材の厚さとが等しく、前記第1の電気光学結晶から前記上方向に沿ったk番目の電気光学結晶の厚さと前記第2の電気光学結晶から前記下方向に沿ったk番目の電気光学結晶の厚さとが等しいことを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、2M個の前記電気光学結晶の電極が並列または直列に電気接続されていることを特徴とする。
【0023】
請求項6に記載の発明は、光デバイスであって、電気光学効果を有する第1の電気光学結晶と、電気光学効果を有する第2の電気光学結晶と、前記第1の電気光学結晶と前記第2の電気光学結晶との間に設けられた、前記光デバイスの動作波長の入射光を前記光デバイスの出射面から出射しないような処理を施された金属とを備えることを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明において、前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1)、またはK1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1)であることを特徴とする。
【0025】
請求項8に記載の発明は、半波長板の前後に請求項1乃至7のいずれかに記載の光デバイスを電気光学結晶の軸が直交するように配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、少なくとも2つの電気光学結晶を用い、該2つの電気光学結晶の間に、光デバイスの動作波長の入射光を前記光デバイスの出射面から出射しない部材を設けているので、上記2つの電気光学結晶が、均一に厚い結晶を作製することが困難な場合であっても、均一領域の結晶を直結して、入射光のスポットサイズを大きくすることが可能である。これにより、開口数を大きくすることができ、光デバイスの分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0028】
本発明の一実施形態に係る光デバイスでは、KTNやKLTN等の電気光学効果を有する電気光学結晶をN個(Nは、2以上の整数であり、かつ偶数)用い、N個の電気光学結晶を、厚さ方向が揃うように重ねて配置し、かつそれぞれの電気光学結晶の間には、上記光デバイスの動作波長を有する入射光に対して衝立として機能する材料(部材)を配置して、複数の電気光学結晶からなる合成開口を形成している。
【0029】
なお、本明細書において、「厚さ方向」とは、光偏向器や光変調器等の光デバイスに用いる電気光学結晶の厚さ方向であり、「厚さ」とは、該電気光学結晶の厚さである。該電気光学結晶が成長により作製される場合は、厚さ方向は、結晶を作製する際の、該結晶の成長方向を指し、厚さは、電気光学結晶の厚さ方向における長さを指す。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、光デバイスを構成する電気光学結晶の1つ1つが均一であれば、それら1つ1つの厚さが小さくても、それらの間に衝立として機能する材料を挟むようにして積層させるので、光デバイスの全体の厚さを均一な状態で大きくすることができる。すなわち、均一な結晶作製を考慮して厚さを厚くできなかった電気光学結晶を用いる場合でも、それらをN個用いて合成開口を形成するので、該合成開口は、1つの電気光学結晶の開口よりも大きくなる。よって、該光デバイスに入射する入射光のスポットサイズも大きくすることができる。
【0031】
さて、本発明の一実施形態では、光デバイスの厚さをかせぐためにN個の電気光学結晶を重ねるようにしているが、各電気光学結晶を接続する領域が存在するが、この領域は電気光学結晶ではないので、電気光学結晶の不連続領域となる。従って、入射光のうちこの不連続領域に入射した光は、入射光のうち電気光学結晶に入射した光のように所定の作用(光偏向器の場合は偏向、光変調器の場合は変調)を受けずに出射する、または受けたとしても上記作用と異なる作用を受けて出射されるので望ましくない。しかしながら、本発明の一実施形態では、上記不連続領域を、衝立として機能する材料にしているので、該不連続領域に入射した光の出射を抑えることができる。よって、光デバイスからは望まれた光のみを出射することができるようになる。
【0032】
さらに、本発明の一実施形態にて重要なことは、本発明の光デバイスの出射光の強度分布の中心部分の強度を略ゼロにし、かつ該強度分布を左右対称にすることである。このようにすることで、上記出射光をレンズ等の集光手段にて集光した光のビーム幅の広がりを抑えることができ、良好に集光することができる。
【0033】
本発明の一実施形態では、上記衝立として機能する材料を配置するので、光デバイスから出射した光強度分布には強度が略ゼロになる領域が存在することになるが、この強度が略ゼロになる領域の出現位置は、光デバイスの入射面における、衝立として機能する材料と入射光の入射位置との位置関係によって相対的に決まる。本発明では、強度が略ゼロになる領域を、上記強度分布の中心部分に少なくとも位置させる必要があるが、合成開口を形成するための電気光学結晶の数Nを偶数とすることで、光デバイスの厚さ方向における真ん中には、上記衝立として機能する材料が位置することになり、入射光の中心を、該真ん中に位置する衝立として機能する材料の厚さ方向の中心にくるようにして入射光を入射することにより、簡単に上記強度分布を有する出射光を得ることができる。
【0034】
また、電気光学結晶の数Nを4個以上にする場合は、上記真ん中に位置する衝立として機能する材料から、厚さ方向に沿った第1の方向における電気光学結晶と衝立として機能する材料との配置の仕方と、該厚さ方向に沿った第1の方向と逆方向である第2の方向における電気光学結晶と衝立として機能する材料との配置の仕方とを同じにすることによって、光デバイスの出射光の強度分布を左右対称にすることができる。
【0035】
なお、本発明の一実施形態では、上記衝立として機能する材料としては、例えば、動作波長の入射光に対して不透明な材料(例えば、耐圧特性の高い樹脂、エポキシ、カーボンブラック等)、動作波長の入射光をマスキングするための処理を施した材料(例えば、入射光を吸収する材料が塗布された金属等)等が挙げられる。すなわち、上記衝立として機能する材料は、ある面から入射した入射光を、上記ある面と対向した面から出射しない性質を持った材料、または該出射を起こさないような処理を施された材料であればいずれの材料を用いても良い。
【0036】
さて、本発明の一実施形態は、上述のように、光デバイスに用いる電気光学結晶として、電気光学結晶の厚さを均一に大きくすることが困難な材料を用いる場合に、入射光のスポットサイズを大きくしたい場合に特に有効である。
【0037】
このような結晶の厚さを大きくすることが困難な材料としては、例えば、KTN(KTa1-xNbx3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1))が挙げられる。
【0038】
上記KTN、KLTNは、電界を結晶軸方向に印加すると、大きな二次の電気光学効果を示す。その値は(1200〜8000pm/V)であり、1次の電気光学効果を有する材料であるLiNO(LN)の有する非線形定数30pm/Vに比べて著しく大きい。さらに、KTN、KLTNは、TaとNbの組成比を変化させることにより、常誘電性から強誘電性への相転移温度を、ほぼ絶対零度から400℃まで変化させることが可能である。従って、温度コントローラを用いなくても、動作温度を室温等、所望に設定することができる。このように、KTNやKLTNは、光変調器に対して好ましい材料である。
【0039】
また、KTNやKLTNは、電圧印加によって電子が注入されることにより電界傾斜が発生するので、屈折率の変化量に傾斜を生じさせることができ、光の光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜を生じさせることができる。よって、KTNやKLTNを伝搬する光の進行方向を、屈折率の変化に応じて連続的に変化させることができ、偏向角を累積することができる。このように、KTNやKLTNは、光偏向器に対しても好ましい材料である。
【0040】
このように、KTNやKLTNは、光デバイスとして用いるのに非常に有効であるが、均一に厚い結晶を得るのが非常に困難であり、良好な出力を得つつ入射光のスポットサイズを大きくすることが困難となる。
【0041】
しかしながら、本発明の一実施形態によれば、KTNやKLTNの厚さが薄くても、入射光のスポットサイズを大きくすることができる。すなわち、上述のような合成開口を形成することにより、光デバイスの開口を大きくすることができ、分解能を向上させることができる。
【0042】
(第1の実施形態)
図2は、本実施形態に係る光偏向器の側面図である。図2において、符号20は、KTN21、樹脂25、およびKTN22によって形成された合成開口を有する光偏向器である。KTN21の厚さ方向に垂直な第1の面には、電極23aが形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電極23bが形成されている。KTN22の厚さ方向に垂直な第1の面には、電極24aが形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電極24bが形成されている。KTN21の厚さlとKTN22の厚さlとは等しい。
【0043】
本実施形態では、光偏向器20は、KTN21、22に対してキュリー転移温度近傍などの所定温度で動作させるために、温度コントローラを備えることができる。温度コントローラは、例えば、ペルチェ素子やヒータを用いれば良い。
【0044】
電極23bと電極24aとの間には、厚さlである、入射光26に対して不透明な樹脂25が形成されている。この樹脂25は、空気の絶縁破壊を回避するために耐電圧性が高いのが好ましい。また、樹脂25は、入射光26の波長に応じて決定すれば良く、用いる入射光26に対して不透明である材料であればいずれの材料を用いても良い。
【0045】
KTN21とKTN22との間に設けられた樹脂25は、光変調器20の動作波長の入射光26を光偏向器20の出射面(光偏向器20の、出射光27a、27bが出射される面)から出射しない部材、すなわち、入射光26に対する衝立として機能する。
【0046】
また、本発明の一実施形態において、各電極の材料は、電気光学結晶の電気伝導に寄与するキャリアに対してオーミック接触する材料からなり、例えば、Pt、Co、Ge、Au、Pd、Ni、Ir、Pt、Se、Cs、Rb、K、Sr、Ba、Na、Ca、Li、Y、Sc、La、Mg、As、Ti、Hf、Zr、Mn、In、Ga、Cd、Bi、Ta、Pb、Ag、Al、V、Nb、Zn、Sn、B、Hg、Cr、Si、Sb、W、Mo、Cu、Fe、Ru、Os、Te、Re、Be、Rhのいずれかとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本実施形態では、誘電体であるKTN21を電極23aと電極23bとにより挟んでいるのでコンデンサ(第1のコンデンサと呼ぶ)を形成することになる。同様に、誘電体であるKTN22を電極24aと電極24bとにより挟んでいるのでコンデンサ(第2のコンデンサと呼ぶ)を形成することになる。本実施形態では、第1のコンデンサと第2のコンデンサとを並列に接続するように各電気接続を確立する。図2に示した光偏向器の電気接続の模式図を図3に示す。
【0048】
図3では、図2に示す光変調器は、交流電源31に接続されている。電極付KTN21と電極付KTN22とは並列に接続されているので、電極23aと電極24aとが交流電源31の一方の端子に接続され、電極23bと電極24bとが交流電源31の他方の端子に接続されている。
【0049】
KTN21および22は、その作製の困難性から均一性を保ちながら厚さl、lを厚くするには限界がある。従って、KTN21、22単体では、その開口の大きさにも限界あり、大きなスポットサイズの入射光26には対応できない。これに対して、本実施形態では、KTN21とKTN22とを重ねるようにして光偏向器20の開口を大きくしている。このとき、KTN21とKTN22とは別個の結晶であるので、KTN21とKTN22とを重ね合わせる領域に不連続領域が生じる。本実施形態では、この不連続部分を、光偏向器20の出射光の強度分布のピーク位置にくるようにし、かつ不連続部分を樹脂25として不連続部分の光を遮断するようにしているので、上記光偏向器20の出射光をレンズ等によって集光した際に、ビーム幅の広がりを抑えてガウス状に集光することができる。また、入射光26のうち、不連続部分である樹脂25に入射した光は、該樹脂25から出射しないので、必要な光である出射光27a、27bのみを得ることができる。
【0050】
このように、本実施形態では、出射光を良好なものに保ちながら、光偏向器20の厚さとしてl=l+l+l+α(電極23b、24aの厚さ)を得ることができ、大きなスポットサイズを有する入射光26にも対応することができる。
【0051】
このような構成において、入射光26の、KTN21への入射面積と、KTN22への入射面積とが等しくなるように入射光26を光偏向器20の側面から入射する。本実施形態では、電極23bと電極24aとの厚さを同じにすれば、樹脂25の入射面の厚さ方向における中心に、入射光26の中心がくるように入射することにより、上記入射を簡単に実現することができる。
【0052】
このとき、各電極に電圧を印加して入射光を偏向させる。すなわち、電圧印加により電極23aと電極23bとの間に生じた電界傾斜によって、入射光26のKTN21を通過する部分は偏向され、入射光26の光軸に対して所定の偏向角で偏向した出射光27aとなって出射する。同様に、電圧印加により電極24aと電極24bとの間に生じた電界傾斜によって、入射光26のKTN22を通過する部分も偏向され、上記偏向角で偏向した出射光27bとなって出射する。入射光26のうち、樹脂25に入射した部分は、出射されない。
【0053】
このようにして光偏向器20から出射した直後の出射光27a、27bの強度分布を図4に示す。図4において、符号41は、光偏向器20から出射した直後の強度プロファイルである。符号42は、比較のためのものであり、光偏向器に用いるKTNを、光偏向器20と同一の厚さで単一のKTNであるとして計算した強度プロファイルである。上述のように、樹脂25が入射光26に対する衝立として機能することにより、強度プロファイル41において、中心部分に、強度が略ゼロの領域43が形成されている。さらに、KTN21への入射面積と、KTN22への入射面積とが等しくなるように入射光26を入射しているので、強度プロファイル41の左右は対称となっている。
【0054】
本実施形態では、偶数である2つのKTN21,22を用い、これらの間に樹脂25を配置しているので、合成開口の中心部分に樹脂25を配置することになる。該中心に位置する樹脂25の厚さ方向の中心に入射光26の中心を合わせるように入射光26を入射することで、簡単に強度プロファイル41を得ることができる。
【0055】
強度プロファイル41を有する出射光27a、27bは、レンズ28によって集光される。この集光した光の強度分布を図5(a)に示す。
図5(a)において、符号51は、光偏向器20からの出射光27a、27bをレンズ28によって集光した光の強度プロファイルである。符号52は、比較のためのものであり、光偏向器20と同一の厚さで単一のKTNから出射した光(出射光27a、27bと同一の波長)をレンズ28によって集光したとして計算した強度プロファイルである。強度プロファイル51には、メインピーク53、およびサイドロープ54が見られるが、レンズ28の後にピンホールを配置するなどすることにより、サイドロープ54は簡単に除去することができる。
【0056】
図5(b)は、光偏向器20の後段にピンホールを配置した構成を示す図である。図5(b)において、ピンホールが形成された遮光板56がレンズ28の後段に配置されている。上記ピンホールは、サイドロープ54を切り、メインピーク53の光のみを透過させるためのものである。従って、上記ピンホールを、レンズ28から集光される光のうち、サイドロープ54が遮光されるように配置する。
【0057】
図5(a)から分かるように、本実施形態によれば、するどく立った強度プロファイル51を得ることができ、光偏向器20からの出射光27a、27bを良好に集光することができる。
【0058】
すなわち、本実施形態では、強度プロファイル41の真ん中に強度が略ゼロの領域43が位置するようにしているので、サイドロープ54と、メインピーク53とを良好に分離することができ、集光した光のビーム幅の広がりを抑えることができる。
【0059】
ここで、図6に示すように、光偏向器20から出射した直後の強度分布において、強度が略ゼロの領域が真ん中に無い場合は、図7に示すように、集光した光の強度分布において、サイドロープとメインピークとが一体化するようになり、集光した光のビーム幅が広がってしまい、入射光のビーム変化となる。図7において、符号70は、図6に示す強度分布の出射光を集光した際の強度プロファイルである。
【0060】
本実施形態のように、光偏向器20の出射光の強度分布において、中心部分の強度を略ゼロにすることによって、サイドロープ54とメインピーク53との一体化を抑えることができ、メインピーク53の半値幅を小さくし、良好に集光した光を得ることができる。
【0061】
このように、本実施形態では、入射光26に対する衝立として機能する樹脂25は、入射光26のスポットサイズを大きくする観点からすると、光偏向器20の厚さをかせぐための部材として機能し、良好に集光させるという観点からすると、サイドロープ54とメインピーク53とを良好に分離させ、集光した光のビーム幅の広がりを抑えるように機能する。
【0062】
なお、入射光26の光源としてフェムト秒レーザを用い2光子吸収励起をおこす場合は、光の強度をさらに2乗にするので、図8に示すように、レンズ28によって集光された光の強度分布において、サイドロープ53の影響を小さくすることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、KTN21の厚さlとKTN22の厚さlとを等しくしているが、異なるようにしても良い。これは、本実施形態では、2つのKTN21、22の間に樹脂25を配置する構成であるので、KTN21、22の一方の厚さが薄い場合であっても、薄い方からはみ出ないように入射光26を入射すれば、その出射光の強度分布は、図4に示すように左右対称となるからである。
【0064】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、電極が形成されたKTN等の電気光学結晶を並列に電気接続を行う形態について説明した。しかしながら、本発明では、電気光学結晶に対する電極の配置の仕方、電気接続の仕方は本質ではない。本発明では、スポットサイズを大きくするために、電気光学結晶を衝立として機能する材料を挟むことによって、厚さをかせぐことが重要であり、かつ出射光の強度分布の真ん中の部分では強度をほぼゼロにし、該強度分布を左右対称にすることが重要となる。従って、電気接続は並列に限らず、直列に接続しても、あるいは電気光学結晶毎に外部電源を接続するようにしても良い。
【0065】
本実施形態では、電極が形成された電気光学結晶(コンデンサ)を直列に接続する形態について説明する。なお、本実施形態における作用、効果は第1の実施形態と同様なので省略する。
【0066】
図9は、本実施形態に係る光偏向器の側面図である。図9において、符号90は、KTN91、樹脂95、およびKTN92によって形成された合成開口を有する光偏向器である。KTN91の厚さ方向に垂直な第1の面には、電極93aが形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電極93bが形成されている。KTN92の厚さ方向に垂直な第1の面には、電極94aが形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電極94bが形成されている。電極93bと電極94aとは電気配線96によって電気的に接続され、電極93aが交流電源(不図示)の一方の端子に接続され、電極94bが上記交流電源の他方の端子に接続されている。
【0067】
本実施形態では、光偏向器90は、KTN91、92に対してキュリー転移温度近傍などの所定温度で動作させるために、温度コントローラを備えることができる。温度コントローラは、例えば、ペルチェ素子やヒータを用いれば良い。
【0068】
本実施形態では、誘電体であるKTN91を電極93aと電極93bとにより挟んでいるのでコンデンサ(第3のコンデンサと呼ぶ)を形成することになる。同様に、誘電体であるKTN92を電極94aと電極94bとにより挟んでいるのでコンデンサ(第4のコンデンサと呼ぶ)を形成することになる。本実施形態では、上述のように電極93bと電極94aとを電気配線96によって電気接続しているので、第3のコンデンサと第4のコンデンサとが直列接続されることになる。
【0069】
また、他の例として、図9において電極93b、樹脂95、電極94aの代わりに、光偏向器90への入射光97に対するマスキング処理(入射光97を透過させないようにする処理)を施した金属を用いても良い。このような形態を図10に示す。
【0070】
図10において、符号100は、KTN91、金属101、およびKTN92によって形成された合成開口を有する光偏向器である。図10では、KTN91の第2の面と、KTN92の第1の面との間に、光偏向器100の入射光97に対するマスキング処理が施された金属101が設けられている。
【0071】
上記マスキング処理としては、限定ではないが、例えば、入射光97を吸収する塗料を金属101に塗布する、金属101の入射光97の入射面をミラー構造にして金属101に入射する光を反射させるようにする等、入射光97のうち、金属101に入射した光を光偏向器100の出射面から出射しないようにできればいずれの処理であっても良い。このようなマスキング処理を施すことにより、金属101は、入射光97に対して衝立として機能することになる。
【0072】
図10の構成において、金属101がKTN91、92の双方に対して電極として機能する。すなわち、電極93aと金属101とによりKTN91を挟むことにより、第5のコンデンサが形成されることになり、金属101と電極94bとによりKTN92を挟むことにより、第6のコンデンサが形成されることになる。そして、金属101は、第5のコンデンサ、第6のコンデンサのそれぞれに共通に用いられることになるので、第5のコンデンサと第6のコンデンサとは直列に接続されることになる。
【0073】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態では、電気光学結晶の数が2個の場合の光デバイスの例について説明したが、電気光学結晶の数は2個に限定されるものではなく、総数が2個以上の偶数個であればいずれの個数であっても良い。
【0074】
図11は、電気光学結晶としてのKTNを4つ用いる場合の光偏向器の構成を示す図である。図11に示す光偏向器110は、電極付KTN(コンデンサ)を直列接続する形態である。よって、図9に示した光偏向器をベースに説明する。ただし、図11では、電極93aおよび電極94bは、外部電源に接続されていない。
【0075】
図11において、樹脂95からKTN91に向った第1の厚さ方向に向って、電極93aから順に樹脂111、および厚さ方向に垂直な第1の面に電極114aが形成され、該第1の面に対向する第2の面に電極114bが形成されたKTN113が設けられている。すなわち、隣り合う電気光学結晶であるKTN91とKTN113との間に樹脂111が形成されている。電極93aと電極114bとは電気配線117によって電気的に接続されており、電極114aは、外部電源(不図示)の一方の端子に接続されている。
【0076】
一方、樹脂95からKTN92に向った第2の厚さ方向(第1の厚さ方向とは逆方向)に向って、電極94bから順に樹脂112、および厚さ方向に垂直な第1の面に電極116aが形成され、該第1の面に対向する第2の面に電極116bが形成されたKTN115が設けられている。すなわち、隣り合う電気光学結晶であるKTN92とKTN115との間に樹脂112が形成されている。電極94bと電極116aとは電気配線118によって電気的に接続されており、電極116bは、上記外部電源の他方の端子に接続されている。
【0077】
本発明では、上述したように、光偏向器110からの出射光の強度分布が左右対称になることが重要である。そのために、KTN91の厚さlとKTN92の厚さlとを等しくし、樹脂111の厚さlと樹脂112の厚さlとを等しくし、KTN113の厚さl10とKTN115の厚さl11とを等しくしている。このような関係を満たせば、厚さl(=l)、厚さl(=l)、厚さl10(=l11)はいずれの厚さであっても良い。
【0078】
このように、本実施形態では、光偏向器に用いるKTNの数に制限は無く、2個以上の偶数であればいずれの数であっても良い。
【0079】
また、本実施形態では、電気光学結晶を4つ以上用いる場合について、電極付のKTNを直列に接続する形態について説明したが、電気接続の方法はこれに限定されるものではなく、第1の実施形態で説明したような並列接続であっても良いし、電極付のKTNのそれぞれに別個の電源を接続しても良い。また、第2の実施形態で説明した、入射光に対するマスキング処理を施した金属を用いる形態にも、本実施形態にて説明した電気光学結晶を4つ以上用いる場合を適用できることは言うまでも無い。
【0080】
本発明では、電気接続の仕方に本質があるのではなく、望まれた出射光のみを出射し、該出射光を良好に集光しつつ、スポットサイズの大きな入射光にも対応可能にするために、少なくとも2つ以上であり、かつ総計が偶数の電気光学結晶を用い、それぞれの電気光学結晶の間に、入射光に対して不透明な部材、またはそうなるように処理された部材(入射光に対して衝立として機能する材料)を設けることである。
【0081】
本発明では、スポットサイズの大きい入射光にも対応可能にするため、電極が形成された、KTNやKLTN等の電気光学結晶を少なくとも2つ用い、隣り合う電気光学結晶の間に衝立として機能する材料を挿入する。すなわち、本発明に係る光デバイスは、対向する2つの面にそれぞれ電極が形成された2M個(Mは自然数)の電気光学結晶と、2M−1個の衝立として機能する材料(上記光デバイスの出射面から、該出射面と対向する入射面から入射した光を出射しない)を備えるものである。
【0082】
図16は、本実施形態に係る、2M個の電気光学結晶と2M−1個の衝立として機能する材料とを備える光偏向器の側面図である。図16において、2M個の電極付きの電気光学結晶のうち、第1の電気光学結晶162aと第2の電気光学結晶162bとをそれら厚さ方向が一致するように重ね、かつ上記2つの電気光学結晶の間に、2M−1個の衝立として機能する材料の1個である衝立として機能する材料161を挿入する。
【0083】
そして、本実施形態のように、電気光学結晶を4つ以上用いる場合は、衝立として機能する材料161から第1の電気光学結晶162aに向った第1の方向(電気光学結晶の厚さ方向の上方向)に沿って、該第1の電気光学結晶161aから、衝立として機能する材料および対向する2つの面にそれぞれ電極が形成された電気光学結晶の順番で、M−1個の衝立として機能する材料と、M−1個の電気光学結晶とが設けられている。よって、最も外側には、M個目の電気光学結晶が位置することになる。
【0084】
また、衝立として機能する材料161から第2の電気光学結晶162bに向った第2の方向(電気光学結晶の厚さ方向の下方向)に沿って、該第2の電気光学結晶162から、衝立として機能する材料および対向する2つの面にそれぞれ電極が形成された電気光学結晶の順番で、M−1個の衝立として機能する材料と、M−1個の電気光学結晶とが設けられている。よって、最も外側には、M個目の電気光学結晶が位置することになる。
【0085】
このように、2M−1個の衝立として機能する材料の1個である材料161の上下方向にそれぞれ、電気光学結晶と衝立として機能する材料との順でM個の電気光学結晶とM−1個の衝立として機能する材料が設けられている。
【0086】
すなわち、衝立として機能する材料161の上方向の面には第1の電気光学結晶162aが設けられ、該第1の電気光学結晶162aから上方向に沿って衝立として機能する材料と電気光学結晶とが交互に配置されている。従って、第1の電気光学結晶162aを起点としてk番目(kはM−1以下の自然数)の電気光学結晶は、電気光学結晶164aとなり、上記上方向に沿った最も外側の電気光学結晶がM−1番目の電気光学結晶である電気光学結晶166aとなる。また、衝立として機能する材料161を起点としてk番目の衝立として機能する材料は、材料163aとなり、上記上方向に沿った最も外側の衝立として機能する材料は、M−1番目の衝立として機能する材料である材料165aとなる。
【0087】
一方、衝立として機能する材料161の下方向の面には第2の電気光学結晶162bが設けられ、該第2の電気光学結晶162bから下方向に沿って衝立として機能する材料と電気光学結晶とが交互に配置されている。従って、第2の電気光学結晶162bを起点としてk番目の電気光学結晶は、電気光学結晶164bとなり、上記下方向に沿った最も外側の電気光学結晶がM−1番目の電気光学結晶である電気光学結晶166bとなる。また、衝立として機能する材料161を起点としてk番目の衝立として機能する材料は、材料163bとなり、上記下方向に沿った最も外側の衝立として機能する材料は、M−1番目の衝立として機能する材料である材料165bとなる。
【0088】
さらに、衝立として機能する材料161から上記上方向に沿ったk番目の衝立として機能する材料163aの厚さと、衝立として機能する材料161から上記下方向に沿ったk番目の衝立として機能する材料163bの厚さとは等しい。同様に、第1の電気光学結晶162aから上記上方向に沿ったk番目の電気光学結晶164aの厚さと、第2の電気光学結晶162bから上記下方向に沿ったk番目の電気光学結晶164bの厚さとは等しい。
【0089】
本実施形態では、電気光学結晶を2個以上の偶数個用いているので、光デバイスの厚さ方向の中心には必ず衝立として機能する材料が位置することになり、さらに、各電気光学結晶の厚さおよび衝立として機能する材料の厚さを上述の関係を満たすようにしているので、光デバイスの厚さ方向の中心から上下対称の構成を得ることができ、簡単に出射光の強度分布を左右対称にすることができる。すなわち、上述のように光デバイスの厚さ方向の中心が、対称となるように配置された電気光学結晶と衝立として機能する材料の配置の中心になるので、上記厚さ方向の中心に入射光の中心を合わせるように入射光を入射することで、強度分布が左右対称であり、かつ中心部分の強度が略ゼロの強度分布(例えば、図4や後述する図12(b)〜(d)に示す強度分布)を有する出射光を簡単に得ることができる。
【0090】
図12(a)〜(d)は、電極付のKTNの数を変化させた場合の光デバイスの出射光の強度分布を示す図である。図12(a)は、本発明の合成開口を形成しない、電極付のKTNの数が1個の場合の強度分布を示す図である。図12(b)は、電極付のKTNの数が2個の場合の強度分布を示す図であり、図12(c)は、電極付のKTNの数が4個の場合の強度分布を示す図であり、図12(d)は、電極付のKTNの数が8個の場合の強度分布を示す図であり、図12(b)〜(d)はそれぞれ、本発明の合成開口を形成する場合の強度分布を示す図である。なお、図12(b)〜(d)の各場合において、光の利用効率(入射光のうちどれだけ出射されたか)を全て50%に統一している。
【0091】
図12(b)〜(d)に示す各個数の場合において、用いるKTNの厚さ、および衝立として機能する材料の厚さを等しくしている。よって、図12(b)〜図12(d)に示すように、各強度分布の中心部分の強度は略ゼロとなり、かつ左右対称となる強度分布が得ることができる。
【0092】
図12(a)〜(d)に示す強度分布を有する出射光を、レンズ等によって集光した際の強度分布を図13に示す。図13において、符号131は、図12(b)に示す強度分布を有する光を集光した光の強度プロファイルであり、符号132は、図12(c)に示す強度分布を有する光を集光した光の強度プロファイルであり、符号133は、図12(c)に示す強度分布を有する光を集光した光の強度プロファイルである。
【0093】
なお、図13において、合成開口を形成しない、電極付KTN1個により構成された光デバイスから出射した光の強度分布である、図12(a)の強度分布を有する光を集光した光の強度プロファイルは、強度プロファイル131〜133のそれぞれのメインピークに重なっている。また、図12(a)の強度分布を有する光を集光した光の強度プロファイルでは、サブピークは見られない。
【0094】
一方、強度プロファイル131〜133から分かるように、電極付のKTNの数がいずれであっても、サイドロープは出現するが、メインピークは鋭く立っており、ガウス状に集光させることができる。
【0095】
また、図13から分かるように、電極付のKTNの数を変えても、メインピークの強度とサイドロープの強度との強度比は、ほぼ一定である。よって、本実施形態では、図14からも分かるようにメインピークの強度は、あくまで光の利用効率で決まるものである。
【0096】
ここで、“「利用効率」とは、本実施形態の光偏向器への入射光に対してどれだけ出射したかを示すものであり、1−(出射光量/入射光量)によって求めることができる。
【0097】
図14は、本実施形態に係る光デバイスから出射した光を集光した際の強度分布に出現する、サイドロープとメインピークとの強度比の光利用効率依存性を示す図である。図13において、強度プロファイル131〜133に示されるように、サイドロープの位置は利用する電極付のKTNの数に伴って変化しているが、各強度プロファイルにおけるサイドロープのピーク強度は変化していない。しかしながら、図14から分かるように、サイドロープのメインピークに対する強度比は、光の利用効率が高いほど(衝立として機能する材料の厚さが薄いほど)小さくなっている。従って、光の利用効率が高いほど、すなわち、衝立として機能する材料の厚さが薄いほど、集光後の光の強度プロファイルを元のビームプロファイルに近いガウス状にすることができる。
【0098】
(第4の実施形態)
図15は、本実施形態に係る、二次元偏向を行うための光偏向器の構成を示す模式図である。図15では、光を偏向する領域として、図11に示した光偏向器110を用いるが、本実施形態では光偏向器110を2つ用いるので、該2つを区別するために便宜上、光偏向器110を、光偏向器110aおよび光偏向器110bとして記載する。
【0099】
図15において、光偏向器110aと光偏向器110bとの間には、1/2波長板151が配置されている。本実施形態では、光偏向器110aおよび光偏向器110bがそれぞれ入射した光を偏向するが、二次元偏向を実現するために、光偏向器110aの厚さ方向(光偏向器110aに配置された電極(図15では不図示)の配置方向)と、光偏向器110bの厚さ方向(光偏向器110bに配置された電極(図15では不図示)の配置方向)とを90度回転させている。
【0100】
このような構成において、入射光152が光偏向器110aに入射すると、該光偏向器110aにて所定の角度で偏向して出射され、該出射光は、1/2波長板151に入射する。該入射光は、1/2波長板151にて偏光方向を90度回転し、後段の光偏光器110bに入射する。該入射光は、光偏向器110bにて、上記光偏向器110aにおける偏向方向と垂直の方向に偏向し、出射光(偏向光)153として光偏向器110bから出射する。
【0101】
このように、本実施形態によれば、光偏向器110aおよび110bに印加する電圧を所望に応じて設定することにより、出射光153を、入射光152に対して、所定の2次元の方向に偏向することができる高分解能な偏向器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】(a)は、従来の光偏向器の構成を示す側面図であり、(b)は、(a)に示す光変調器の光の入射側から見た正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光偏向器の側面図である。
【図3】図2に示す光偏向器の電気接続の様子を示す模式図である。
【図4】図2に示す光偏向器から出射光の強度分布を示す図である。
【図5】(a)は、図4に示す強度分布を有する出射光を集光した際の強度分布を示す図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るピンホール付光偏向器の構成を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態の比較のための強度分布を示す図である。
【図7】図6に示す強度分布を有する出射光を集光した際の強度分布を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、2光子吸収励起をおこした場合の、図4に示す強度分布を有する出射光を集光した際の強度分布を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る光偏向器の側面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る光偏向器の側面図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る光偏向器の側面図である。
【図12】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る光デバイスのうち、用いる電極付の電気光学結晶の数を変えた場合の出射光の強度分布を示す図である。
【図13】図12(a)〜(d)に示した強度分布の光を集光した際の強度分布を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る光デバイスから出射した光を集光した際の強度分布に出現する、サイドロープとメインピークとの強度比の光利用効率依存性を示す図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る、二次元光偏向器の構成を示す模式図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る、2M個の電気光学結晶と2M−1個の衝立として機能する材料とを備える光偏向器の側面図である。
【符号の説明】
【0103】
20、90、110 光偏向器
21、22、91、92、113、115 KTN
23a、23b、24a、24b、93a、93b、94a、94b、114a、114b、116a、116b 電極
25、95、111、112 樹脂
26、97 入射光
27a、27b 出射光
56 ピンホール
28 レンズ
96、117、118 電気配線
101 金属
161、163a、163b、165a、165b 衝立として機能する材料
162a、162b、164a、164b、166a、166b 電気光学結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光デバイスであって、
電気光学効果を有する第1の電気光学結晶であって、該第1の電気光学結晶の厚さ方向と垂直な第1の面に第1の電極が形成され、該第1の面と対向する第2の面に第2の電極が形成された第1の電気光学結晶と、
電気光学効果を有する第2の電気光学結晶であって、該第2の電気光学結晶の厚さ方向と垂直な第1の面に第3の電極が形成され、該第1の面と対向する第2の面に第4の電極が形成された第2の電気光学結晶と、
前記第1の電気光学結晶と前記第2の電気光学結晶との間に設けられた、前記光デバイスの動作波長の入射光を前記光デバイスの出射面から出射しない部材であって、前記第1の電極および第2の電極の一方と、前記第3の電極および第4の電極の一方との間に設けられた部材と
を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記第1の電気光学結晶と第2の電気光学結晶の厚さは等しいことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1の電極および第2の電極が形成された第1の電気光学結晶と、前記第3の電極および第4の電極が形成された第2の電気光学結晶とは、並列または直列に電気接続されていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
光デバイスであって、
対向する2つの面にそれぞれ電極が形成された2M個(Mは自然数)の電気光学結晶と、
前記光デバイスの出射面から、該出射面と対向する入射面から入射した光を出射しない、2M−1個の部材とを備え、
前記電気光学結晶の結晶の厚さ方向に沿って、2M−1個の前記部材のうち1個の部材の上面に2M個の前記電気光学結晶のうちの第1の電気光学結晶が設けられ、前記1個の部材の下面に2M個の前記電気光学結晶の第2の電気光学結晶が設けられ、
前記第1の電気光学結晶および前記第2の電気光学結晶を起点として、前記1個の部材の上下方向に、前記部材と前記電気光学結晶の順に前記部材と前記電気光学結晶とが設けられ、
前記1個の部材から前記上方向に沿ったk番目(kはM−1以下の自然数)の部材の厚さと前記1個の部材の下方向に沿ったk番目の部材の厚さとが等しく、
前記第1の電気光学結晶から前記上方向に沿ったk番目の電気光学結晶の厚さと前記第2の電気光学結晶から前記下方向に沿ったk番目の電気光学結晶の厚さとが等しいことを特徴とする光デバイス。
【請求項5】
2M個の前記電気光学結晶の電極が並列または直列に電気接続されていることを特徴とする請求項4に記載の光デバイス。
【請求項6】
光デバイスであって、
電気光学効果を有する第1の電気光学結晶と、
電気光学効果を有する第2の電気光学結晶と、
前記第1の電気光学結晶と前記第2の電気光学結晶との間に設けられた、前記光デバイスの動作波長の入射光を前記光デバイスの出射面から出射しないような処理を施された金属と
を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項7】
前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1)、またはK1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1)であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項8】
半波長板の前後に請求項1乃至7のいずれかに記載の光デバイスを電気光学結晶の軸が直交するように配置したことを特徴とする2次元型光偏向器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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