説明

合金中の微量元素の分析方法

【課題】シリコン含量の多い合金に含まれる微量元素を迅速かつ精度高く分析できる合金中の微量元素の分析方法を提供すること。
【解決手段】水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とし、微量元素とシリコンとを含む合金であって合金全体の質量100質量%中にシリコンが0.5質量%以上含まれている合金中の微量元素を分析する合金中の微量元素の分析方法に、合金を酸処理液とともに加熱して第1の金属を溶解する酸処理工程と、酸処理工程後の処理液にフッ化水素酸を加えてシリコンと微量元素とを溶解するフッ化水素酸処理工程と、フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、を設ける。または、合金を酸処理液およびフッ化水素酸とともに加熱して、酸処理液によって第1の金属を溶解するとともにフッ化水素酸によってシリコンを溶解する酸・フッ化水素酸処理工程と、酸・フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、を設ける。濾過の工程をなくしたことで合金中の微量元素を精度高く分析でき、フッ化水素酸を揮発させる工程をなくしたこと合金中の微量元素を迅速に分析できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを含む合金中の微量元素を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム−シリコン合金などの合金には、微量元素が含まれる。微量元素は、一般に、結晶粒を微細化して合金の強度を向上させる目的でこれらの合金に添加される。例えば、JIS H 1306には、アルミニウム合金に含まれる鉄、銅、マンガン、亜鉛、マグネシウム、クロム、ニッケル、ビスマス、鉛の分析方法が規定されている。この方法では、アルミニウムを塩酸および過酸化水素水によって溶解することで、アルミニウム合金に含まれる微量元素を溶出して原子吸光分析する。塩酸および過酸化水素水による溶解後に不溶解分があれば、濾紙で濾過し、不溶解分(濾過残渣)と濾紙とを灰化し、灰化後の残留成分を硝酸とフッ化水素酸とで溶解する。その後、この溶解液と濾液とを原子吸光分析する。軽金属協会規格(LIS A03)にもアルミニウム合金に含まれる微量元素の分析方法が規定されているが、この方法も、JIS H 1306と同様の方法である。
【0003】
ところで、シリコン含量が大きいアルミニウム−シリコン合金(例えば、合金全体の質量100質量%中にシリコンが0.5質量%以上含まれているもの)に含まれる微量元素をこの方法で分析する場合には、微量元素を精度高く分析できない問題があった。これは、以下の理由による。
【0004】
シリコン含量の多い合金に含まれる微量元素をJIS H 1306やLIS A03に規定されている分析方法で分析する際には、濾過工程が必要になる。例えば、アルミニウム−シリコン合金中のアルミニウムは塩酸および過酸化水素水に溶解するが、シリコンは塩酸および過酸化水素水に不溶である。シリコン含量の多い合金を塩酸および過酸化水素水によって溶解させると、多くの不溶解分が生じる。濾過工程は、この不溶解分を除去するために必要である。しかし、一般的な濾紙には、カルシウムやナトリウム等の微量の不純物が含まれているため、分析試料は濾紙の不純物によって汚染される。このため分析試料を分析する際に全体の信号強度が高くなって、微量元素を精度高く分析できなくなる。
【0005】
合金中のアルミニウム等を酸処理液によって溶解し、さらに、合金中のシリコンをフッ化水素酸によって溶解すれば、濾過の工程を省略しつつ合金中のシリコンを溶解できると考えられる。したがって、これの方法を用いれば、濾紙による分析試料の汚染を抑止しつつ全てまたはほぼ全ての微量元素を溶出でき、合金中の微量元素を精度高く分析できると考えられる。
【0006】
ところで、フッ化水素酸によって合金中のシリコンを完全またはほぼ完全に溶解させるためには、シリコンに対して過剰な量のフッ化水素酸を加える必要がある。このため分析試料には、フッ化水素酸が残存する。分析試料に残存するフッ化水素酸は、ガラスや石英等のSiOを含む材料(以下、単にガラスと呼ぶ)を腐食する。このため、分析試料用の容器やICPや原子吸光などの分析装置には、ガラス以外の材料(フッ素樹脂等)を用いる必要がある。しかし、成形時の精度確保、耐熱性、耐圧性等の理由により、分析試料用の容器や分析装置には、一般に、ガラス製の容器等が用いられている。このため、容器や分析装置の腐食を防止するためには、分析試料からフッ化水素酸を除去する必要がある。
【0007】
分析試料からフッ化水素酸を除去する方法として、フッ化水素酸を揮発させる方法が考えられる。しかし、フッ化水素酸を完全に揮発させるのには長い時間を要するため、この方法によると合金中の微量元素を効率良く測定し難い問題がある。このため、合金中の微量元素を高精度かつ迅速に測定できる分析方法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
JIS H 1306(アルミニウム及びアルミニウム合金の原子吸光分析
方法)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、シリコン含量の多い合金に含まれる微量元素を高精度かつ迅速に分析できる合金中の微量元素の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の合金中の微量元素の分析方法は、水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とし、微量元素とシリコンとを含む合金であって該合金全体の質量100質量%中に該シリコンが0.5質量%以上含まれている合金中の微量元素を分析する方法であって、該合金を酸処理液とともに加熱して該第1の金属を溶解する酸処理工程と、該酸処理工程後の処理液にフッ化水素酸を加えて該シリコンと該微量元素とを溶解するフッ化水素酸処理工程と、該フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて、該処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、を含む前処理工程と、該前処理工程後の処理液から分析試料を調製し、該分析試料の該微量元素を分析する分析工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の合金中の微量元素の分析方法は、水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とし、微量元素とシリコンとを含む合金であって該合金全体の質量100質量%中に該シリコンが0.5質量%以上含まれている合金中の微量元素を分析する方法であって、該合金を酸処理液およびフッ化水素酸とともに加熱して、該酸処理液によって該第1の金属を溶解するとともに該フッ化水素酸によって該シリコンと該微量元素とを溶解する酸・フッ化水素酸処理工程と、該酸・フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて、該処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、を含む前処理工程と、該前処理工程後の残留成分から分析試料を調製し、該分析試料の該微量元素を分析する分析工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の合金中の微量元素の分析方法は、下記の(1)〜(4)の何れかを備えるのが好ましい。(1)〜(4)の複数を備えるのがより好ましい。
【0013】
(1)上記第1の金属は、アルミニウムと鉄との少なくとも一方である。
【0014】
(2)上記酸処理液は、塩酸、硝酸、硫酸、塩酸と硝酸との混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液、から選ばれる1種である。
【0015】
(3)上記酸処理液は、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のある酸と水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸との混合液である。
【0016】
(4)上記微量元素は、ナトリウム、カルシウム、リン、ストロンチウム、ニオブ、チタンから選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の合金中の微量元素の分析方法(以下、単に本発明の分析方法と略する)によると、フッ化水素酸処理工程または酸・フッ化水素酸処理工程後の処理液に残存するフッ化水素酸は、ホウ酸と反応してマスキングされる。このとき処理液とホウ酸との混合液中では下式(1)の反応が生じる。
【0018】
【化1】

【0019】
式(1)で生じたBF(テトラフルオロホウ酸アニオン)は、電気陰性度の高いフッ素によって安定化されているため、ガラスを腐食しない。よって、本発明の分析方法によると、フッ化水素酸を揮発させることなくガラス製の容器や分析装置の腐食を防止できる。よって、本発明の分析方法によると、合金中の微量元素を高精度かつ迅速に測定できる。
【0020】
また、本発明の分析方法によると、酸処理液によって合金中の第1の金属(例えばアルミニウムなど)を溶解し、フッ化水素酸によって合金中のシリコンを溶解する。このため、濾過の工程を省略しつつ合金中のシリコンを溶解でき、濾紙による分析試料の汚染を抑止しつつ全てまたはほぼ全ての微量元素を溶解できる。よって、本発明の分析方法によると、微量元素を精度高く分析できる。
【0021】
また、本発明の分析方法によると、第1の金属としてアルミニウムと鉄との少なくとも一方を含む合金中の微量元素を特に精度高く分析できる。また、本発明の分析方法によると、合金中のナトリウム、カルシウム、リン、ストロンチウム、ニオブ、チタンから選ばれる少なくとも1種からなる微量元素を特に精度高く分析できる。
【0022】
本発明の分析方法において、酸処理液として、塩酸、硫酸、硝酸、塩酸と硝酸との混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液、から選ばれる1種を用いる場合には、合金中の微量元素を信頼性高く溶解させることができ、合金中の微量元素をより精度高く分析できる。
【0023】
本発明の分析方法において、酸処理液として、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のある酸と水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸との混合液を用いる場合には、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸によって第1の金属を溶解するとともに、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のある酸によって合金に含まれる第1の金属以外の金属を溶解できる。このため、この場合には、合金中の微量元素を信頼性高く溶解させることができ、合金中の微量元素をより精度高く分析できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の分析方法は、水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とする合金中の微量元素を分析する方法である。水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属としては、アルミニウム、鉄等が挙げられる。従って、本発明の分析方法はアルミニウム−シリコン合金や、鋳鉄に含まれる微量元素を分析する方法として好ましく用いられる。
【0025】
なお、本発明の分析方法で分析する合金は、合金全体の質量100質量%中に第1の金属が70質量%〜95質量%含まれているものであるのがよい。また、合金全体の質量100質量%中にシリコンが0.5質量%〜20質量%含まれているものであるのがよい。本発明の分析方法によると、これらの合金中の微量元素を精度高く分析できる。
【0026】
本発明の分析方法において、フッ化水素酸処理工程は、酸処理工程の後に行っても良いし、酸処理工程と同時に行っても良い(すなわち酸・フッ化水素酸処理工程)。何れの場合にも、酸処理液によって第1の金属を溶解し、フッ化水素酸によってシリコンを溶解することで、合金中の微量元素を信頼性高く溶解させることができ、合金中の微量元素を精度高く分析できる。なお、フッ化水素酸処理工程と酸処理工程とを同時に行う場合には(酸・フッ化水素酸処理工程)、フッ化水素酸処理工程を酸処理工程の後に行う場合に比べて、反応系中のフッ化水素酸濃度を高くすれば良い。
【0027】
本発明の分析方法における酸処理液としては、第1の金属を溶解させ得るものを用いればよい。第1の金属を溶解させ得る酸処理液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、塩酸と硝酸との混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液等が挙げられる。このうち塩酸や硫酸は、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸(すなわち、酸化力のない酸)であるが、水素よりもイオン化傾向の大きい金属を溶解する。このため、これらの酸は第1の金属を溶解させ得る。また、合金が第1の金属に加えて水素よりもイオン化傾向の小さい金属(例えば銅など)を含む場合には、酸処理液として水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のある酸と水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸との混合液を用いればよい。この種の混合液としては、塩酸と硝酸との混合液(王水を含む)、塩酸と過酸化水素水との混合液等が挙げられる。
【0028】
参考までに、鋳鉄およびアルミニウム−シリコン合金の上記した各種酸処理液に対する溶解性を表す表を表1に示す。なお、塩酸としては濃塩酸と水とを体積比1:1で混合したものを用いた。硝酸としては濃硝酸と水とを体積比1:1で混合したものを用いた。硫酸としては、濃硫酸と水とを体積比1:9で混合したものを用いた。王水としては王水(濃塩酸と濃硝酸とを体積比3:1で混合したもの)と水とを体積比1:1で混合したものを用いた。塩酸と硝酸との混合液としては、濃塩酸と水とを体積比1:1で混合したものと、濃硝酸と、を体積比1:1で混合したものを用いた。塩酸と過酸化水素との混合液としては、濃塩酸と水とを体積比1:1で混合したものと、過酸化水素水と、を体積比1:1で混合したものを用いた。また各酸処理液で各合金を溶解させる作業は、酸処理液および合金をヒータで加熱しつつおこなった。このときのヒータ温度は約400℃であった。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、各酸処理液は、鋳鉄中の鉄(第1の金属)および他の金属を十分に溶解するとともに、アルミニウム−シリコン合金中のアルミニウム(第1の金属)および他の金属を十分に溶解する。なお、アルミニウム−シリコン合金中のカルシウム、リン、ストロンチウムについては、表1に示す各種酸処理液で溶解するが、シリコンが高濃度の場合には、これらの元素が不溶解シリコンの中に取り込まれ、不溶解分となる場合がある。各合金を各酸処理液で溶解した処理液にフッ化水素酸を加えると、シリコンが溶解し、ニオブ、チタン、カルシウム、リン、ストロンチウムなどの微量元素(不溶解分)が溶解した。この結果から、塩酸、硫酸、硝酸、塩酸と硝酸との混合液(王水を含む)、塩酸と過酸化水素水との混合液は、第1の金属を溶解させ得る酸処理液として好ましく用いられることがわかる。
【0031】
本発明の分析方法における分析工程において微量元素を分析する方法としては、原子吸光分析、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析等の一般的な元素分析方法を用いればよい。上述したように、本発明の分析方法における前処理工程は濾紙で濾過する工程を含まないため、これらの分析方法によって微量元素を高精度に分析できる。
【0032】
なお、本発明の分析方法の分析工程においては、ガラス製の容器やガラスを用いた分析装置を用いることができるが、ガラス以外の材料(フッ素樹脂製等)を用いた容器や分析装置を用いても良い。
【0033】
以下、具体例を挙げて本発明の分析方法を説明する。
【実施例】
【0034】
実施例の分析方法では、合金としてアルミニウム−シリコン合金(Hydro Aluminium製 V3046−4)を用いた。この合金は、合金全体の質量100質量%に対して約6.98質量%のシリコンを含む。また、この合金は、合金全体の質量100質量%に対して約88質量%のアルミニウムを含む。さらに、微量元素として、合金全体の質量100質量%に対して約0.0015質量%のカルシウム、0.00177質量%のナトリウム、0.039質量%のストロンチウム、0.0016質量%のリン等を含む。
【0035】
以下、実施例の分析方法を詳しく説明する。
【0036】
(前処理工程 1.酸処理工程)
先ず、合金の切削片0.5gをフッ素樹脂製のビーカーにとった。このビーカーに、濃塩酸と水とを体積比1:1で混合してなる酸処理液20mlを加え、さらに、濃硝酸5mlを徐々に加えた。
【0037】
この処理液を、ヒータにて400〜500℃に加熱した。この工程で合金中のアルミニウムが溶解した。
【0038】
(前処理工程 2.フッ化水素酸処理工程)
酸処理工程後の処理液をヒータからおろし、約50℃にまで放冷した後にフッ化水素酸を1.5ml加えた。その後、処理液を再度ヒータにて400℃に加熱した。この工程で、合金中(処理液中)のシリコンおよび微量元素が溶解した。
【0039】
(前処理工程 3.マスキング工程)
フッ化水素酸処理工程後の処理液をヒータからおろし、約50℃にまで放冷した。その後、処理液に飽和ホウ酸(HBO)溶液を9ml加えた。この工程で、ホウ酸と処理液に残存するフッ化水素酸とが反応し、フッ化水素酸がマスキングされた。
【0040】
(分析工程)
塩溶解工程後の処理液を放冷して100mlに定容し、分析試料を調製した。この分析試料中の微量元素(カルシウム)をICPによって分析(定量)した。ICP用の装置としては、島津製作所製ICPV8100を用いた。分析時の高周波出力は1.2kWであった。プラズマ観測高さは15mmであった。アルゴンガス量は、プラズマ:14L/分、クーラント:1.5L/分、キャリア:0.7L/分であった。分析波長は393.7nmであった。このICPによる分析を10回繰り返した(分析番号1〜10)。分析工程で得られた10回分の分析値(カルシウムの濃度、ppm)を基に、分析値の平均(ppm)、標準偏差、変動係数(標準偏差/相加平均×100、%)を算出した。なお、実施例で用いた合金は、カルシウム濃度(標準値)が15.0ppmになるように製造されたものである。分析工程で得られた分析結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、実施例の分析方法で得られた分析値は、15.0〜16.5ppmであり、分析値の平均は15.8ppmであった。この値は、標準値である15.0ppmとほぼ一致した。また、実施例の分析方法で得られた分析値の変動係数は3.7%と非常に小さい値であった。さらに、実施例の分析方法で得られた分析値を基に、カルシウムの定量下限を算出した。詳しくは、ブランク試料を繰り返し分析した際の標準偏差(σBL)を基に、10×σBLを定量下限とした。算出された定量下限は1ppmと非常に小さい値であった。参考までに、軽金属協会のLIS A04に記載されている共同実験の変動係数は51.9%であり、定量下限は10ppmである。上述したように、実施例の分析方法によると変動係数3.7%、定量下限1ppmで合金中のカルシウムを分析できる。この結果から、実施例の分析方法(すなわち、本発明の合金中の微量元素の分析方法)によると、合金中の微量元素を精度高く分析できることがわかる。
【0043】
なお、実施例の分析方法では、フッ化水素酸処理工程後の処理液に残存するフッ化水素酸をホウ酸によってマスキングしたことで、フッ化水素酸を揮発させる工程を省略できる。このため、実施例の分析方法によると、合金中の微量元素を迅速に分析できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とし、微量元素とシリコンとを含む合金であって該合金全体の質量100質量%中に該シリコンが0.5質量%以上含まれている合金中の微量元素を分析する方法であって、
該合金を酸処理液とともに加熱して該第1の金属を溶解する酸処理工程と、
該酸処理工程後の処理液にフッ化水素酸を加えて該シリコンと該微量元素とを溶解するフッ化水素酸処理工程と、
該フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて、該処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、
を含む前処理工程と、
該前処理工程後の処理液から分析試料を調製し、該分析試料の該微量元素を分析する分析工程と、を備えることを特徴とする合金中の微量元素の分析方法。
【請求項2】
水素よりもイオン化傾向の大きい第1の金属を主成分とし、微量元素とシリコンとを含む合金であって該合金全体の質量100質量%中に該シリコンが0.5質量%以上含まれている合金中の微量元素を分析する方法であって、
該合金を酸処理液およびフッ化水素酸とともに加熱して、該酸処理液によって該第1の金属を溶解するとともに該フッ化水素酸によって該シリコンと該微量元素とを溶解する酸・フッ化水素酸処理工程と、
該酸・フッ化水素酸処理工程後の処理液にホウ酸を加えて、該処理液に残存するフッ化水素酸とホウ酸とを反応させるマスキング工程と、
を含む前処理工程と、
該前処理工程後の残留成分から分析試料を調製し、該分析試料の該微量元素を分析する分析工程と、を備えることを特徴とする合金中の微量元素の分析方法。
【請求項3】
前記第1の金属は、アルミニウムと鉄との少なくとも一方である請求項1または請求項2に記載の合金中の微量元素の分析方法。
【請求項4】
前記酸処理液は、塩酸、硫酸、硝酸、塩酸と硝酸との混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液、から選ばれる1種である請求項1〜請求項3の何れかに記載の合金中の微量元素の分析方法。
【請求項5】
前記酸処理液は、水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のある酸と水素よりもイオン化傾向の小さい金属に対する酸化力のない酸との混合液である請求項1〜請求項4の何れか一つに記載の合金中の微量元素の分析方法。
【請求項6】
前記微量元素は、ナトリウム、カルシウム、リン、ストロンチウム、ニオブ、チタンから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜請求項5の何れか一つに記載の合金中の微量元素の分析方法。

【公開番号】特開2010−197183(P2010−197183A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41708(P2009−41708)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】