説明

同軸飛行時間型質量分析装置

長手軸と、長手軸の両端に第一及び第二イオンミラーを備える同軸飛行時間型質量分析装置。イオンは長手軸からずれた入射軌道に沿って該分析装置に入射し、前記イオンミラーの間を一又は複数回通過した後、イオンは長手軸からずれた出射軌道に沿って出射し、イオン検出器によって検出される。入射及び出射軌道は長手軸から式(I)の角度以下だけずれる。ここで、Dminはイオンミラーの最小横軸寸法であり、Lはイオンミラーの入射口間の距離である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸飛行時間(ToF)型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量フィルタ飛行時間型質量分析装置や四重極イオントラップ飛行時間型質量分析装置を含む飛行時間型質量分析装置は、今では質量分析の分野において広く採用されている。市販されている飛行時間型装置は、最大20kの分解能及び最大3〜5ppmの質量精度を有している。ちなみに、FTICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)装置では、少なくとも100kという、更に高い分解能を得ることができる。このように分解能が高いことの主な利点は質量測定の精度がより高くなるという点にあるが、これは分析される化合物を確実に同定するうえで必要である。
【0003】
とはいえ、非常に高い分解能を有するにもかかわらず、FTICR装置はTOF装置と比較すると多くの不利な面がある。まず、一秒間に記録できるスペクトルの数が少ない。次いで、適度な強度のスペクトルピークを記録するためには、少なくとも100個のイオンが必要である。これらの二つの欠点があることは、検出限界に妥協があることを意味する。FTICR装置の三番目の欠点は、超電導磁石が必要になることである。従って装置が大きくなり、これとともに高い購入コストと高いランニングコストがかかる。これらより、ToF型質量分析装置がもたらす分解能を高めたいという強い動機がある。
【0004】
質量分解能が10-20kの質量分析装置では、得られる質量測定の精度は、較正ピークの強度と同様に、同定されるピークの強度にも強く依存する。
【0005】
理論的に言えば、装置の分解能が15kであれば、5ppmの質量精度を有するために、一つのピークは少なくとも50個のイオンから成らねばならない。1ppmまで質量精度を高めるためには、少なくとも1000個のイオンが必要となる。もし装置の分解能が100kに上げられると、5ppm及び1ppmの質量精度のために求められるイオンの数は、それぞれ1及び20に減少する。
【0006】
しかし実際には、マススペクトルは強い強度や弱い強度のピークを含むものである。広いダイナミックレンジにおいて良好な質量精度を達成するには、高い分解能が求められる。
【0007】
高い分解能は、同重体干渉を防ぐためにも必要である。この種の干渉は混合した複数の検体を同時に分析する際に生じる。この場合、異なるイオン種が非常に接近したm/z値を持つことがあり、スペクトルにおいて両者のピークが重なることがある。もし重なっているピークが分解されなければ、(不所望の混入物質が存在していることによって)検体の測定質量が誤った値になる可能性がある。この影響が特に顕著になるのは、500Daより大きい質量を有するイオンを分析する場合である。この閾値を超えると、同一のm/z値を中心とする数ppmの範囲内に多くの異なる組成が存在するためである。
【0008】
バックグラウンドの化学的ノイズに起因するマトリクス効果も同重体干渉をもたらすことがある。これはとりわけ検体イオンの濃度が低く、検体イオンが広い質量範囲に分布している際に生じる。同重体干渉は、装置の分解能を高めることにより軽減させることが可能である。
【0009】
取得した各スペクトルにおいて高ダイナミックレンジを得ることが望ましい。それにより、スペクトルが忠実度の高いデータ(良好な統計値及び高いSN比)を示すことになり、結果として同じスペクトルを大量に蓄積する必要が無くなる。このような蓄積の必要性を無くすことは実効的な繰り返し速度を高めることに等しく、さらに、生産性を高めるものとなる。
【0010】
最大可能質量精度を得るためには、スペクトルに少なくとも一つの較正ピークが含まれていることが必要である。質量範囲が広いということには、各検体に専用のキャリブラントを用意する必要なく、対応するより広い質量範囲内で未知のピークを検出できるという利点がある。
【0011】
広い質量範囲能力があることの第二の利点は、ペプチドをMS/MS分析する場合にある。ペプチドイオンは、ペプチド鎖において隣接するアミノ酸間の結合においてのみ切れるように開裂する。一連のピークが生成され、これにより該ペプチドのアミノ酸配列が同定可能となる。これらのピークはm/z値の分布が広く、そして、タンパク質を一意に同定する確率は検出されたピークの数に依存するため、有効な質量範囲が広いことには利点がある。
【0012】
ToF型質量分析装置の分解能Rは次式によって与えられる:
【数1】

ここに、Tは、次式によって与えられるイオンの飛行時間を表している:
【数2】

ΔTは単一のm/z種と関連した半値全幅ピーク幅を表しており、Kは初期イオンエネルギー(単位はエレクトロンボルト)、Mはイオン質量(単位はダルトン)、γ=9.979997×107[クーロン/Kg]、Lは飛行経路長、Cは個々のToF装置に関連した無次元定数である。
【0013】
許容できる分解能を提供するためにはToF型質量分析装置はいずれもエネルギー収束を利用しなければならならない。これにより、イオンの飛行時間はエネルギーに依存しなくなる。エネルギー収束のためのイオンミラーの概念が最初に記されたのは、Sov.Phys JETP 1973 P.3745 (Mamyrin)であり、これは、直交排出(or ToF)及び二段式イオンミラーを有するシステムにおける、Dodonovによるエレクトロスプレイイオン化(ESI)を備えた質量分析装置に採用された。Proceedings of 12th International Mass Spectrometry Conference 26-30 Aug 1991 p.153.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在入手可能な商用のor-ToF(直交-ToF)型質量分析装置は本質的には同一の形式であり、10から20kの分解能が達成可能である。より最近では、IT-ToF(イオン−トラップ−TOF)型質量分析装置が開発された。この装置によれば、ToF分析(Michael et al, Rev. Sci. Instrument 63 p.4277)と併用してMSn分析を行うことができる。IT-ToFは単一のイオンミラーを採用し、最大の分解能は15kである。マミリンの二段式イオンミラーはエネルギーの偏差に関連する飛行時間を二次まで補正することができる。この補正は数パーセントの比較的小さなエネルギー範囲に限られるから、イオン源はエネルギーの拡がりが小さな、典型的には拡がりがビームエネルギーの数パーセントであるイオンを出射しなければならない。
【0015】
放物線状のポテンシャル分布を有するイオンミラーは、イオン源とイオン検出器がミラーの入射面に隣接して設けられているという条件の下で、遙かに広いエネルギーの拡がりを有するイオン源からのイオンを時間収束させることができる。US特許4625112号は、線形及び放物線状の電位を組み合わせたイオンミラーについて記している。この種類のミラーはエネルギーの大きな拡がりを受け容れることができ、イオン源と検出器は様々な場所に配置することが可能であるから、一般に実用機器において前記放物面ミラーよりも便利である。
【0016】
これら全ての種類のイオンミラーにおいては、いくつもの因子がΔTに寄与する。これらには、検出器の応答(ΔTdetector)、イオン源におけるイオンの「転回」時間(ΔTturn_around)、電子機器のタイミングパルスジッター(ΔTjitter)、そして電源安定度が含まれる。加えて、質量分析装置の色収差(ΔTchrono_ab)及び球面収差(ΔTsph_ab)からの寄与がある。ΔTは以下のように個々の寄与の観点から表現することができる。
【数3】

【0017】
最高の分解能を得るためには、式(3)における各寄与を出来る限り最小化する必要がある。しかしながら、既知の機器には最小化できる限界が存在しており、工業用のほとんどの機器は既にこの限界付近で動作している。
【0018】
質量分解能を高める一つの可能性は、ToF型質量分析装置におけるイオンの飛行時間Tfを長くすることである。式2は、ToF型質量分析装置におけるイオンのエネルギーKを低下させることによってこれを行えることを示唆している。しかし、これは逆効果を招きかねない。というのは、Kが低下すればΔTsph_abが増加し、1/Kに比例して増加するΔTturn_aroundもまた増加するからである。また、Kには、個々のToF型質量分析装置を動作させるための最適値が存在する(通常5乃至20kVの範囲)。従って、解像度を上げるためにエネルギーKを低下させることはできない。
【0019】
そうなると、別の選択肢は飛行経路の長さLを増加させることである。実用上の理由から、工業用のToF機器の寸法は、2mより小さくなければならない。この問題を解決して適切な物理的サイズの機器を実現するために、多重周回飛行時間(M-ToF)型分析装置の概念が、GB2080021においてWollnikによって提案されている。この分析装置では、イオンが同一の飛行経路に沿って繰り返し前後に反射されるようにイオン飛行経路が効率的に「折り畳まれ」ている。有効に動作するためには、このような分析装置は等時性を有してなければならない。即ち、ある回数通過する度にイオンは時間的に収束する。この分析装置は、イオンが第一の等時地点を介して分析装置に入射し、検出器に衝突する地点である、最後の等時焦点に運ばれるように調整される。しかしながら、GB2080021に記載された形態のM-ToF型分析装置でそのような等時性を保つのは困難である。また、高分解能を得るには、イオンの周回数(通過回数)Nを大きく(つまり、飛行経路を長く)しなければならない。ToF型質量分析装置で記録できるm/z範囲は、周回数Nが増加するにつれて縮小する。これは、従来技術のM-ToF型分析装置における欠点である。取得できる最小のm/zに対する最大のm/zの比は、周回数Nに関する次式によって定義される。
【数4】

そして、要求される分解能が高ければ高いほど、利用できるm/z範囲が狭くなる。多重周回ToF型分析装置の他の形態がToyodaによりJ. Mass Spectrom 2003 38. p.1125に記載されている。このM-ToF分析装置ではイオンは八の字型を描く。周回数とともに分解能は増加し、m/z範囲は小さくなる。この機器において、25周回の後では分解能は23kに達し、501周回の後では分解能は350Kに達する。この非常に高い分解能にもかかわらず、この機器は分解能が高まるとともにm/z範囲が減少して小さくなるという問題を解決できずにおり、そのため、大部分の用途においてあまり有用ではない。さらなる欠点として、上記の多重周回ToF質量分析装置では飛行経路が非常に長いため、従来のToF分析装置よりもずっと低い真空圧が要求される。このように圧力を低くすることは、残留ガス原子による散乱の可能性を低下させるために必要であり、このような散乱が生じると強度損失およびスペクトルピークの広がりをもたらす。Toyodaの機器では、N=500の後、強度が10%未満に落ち込む。
【0020】
M-ToF型分析装置におけるm/z範囲が限られるという問題を解決するために、更に多くのイオンミラーを導入し、イオンを順に反射するようにそれらを配置することにより、飛行経路を折り返すことが可能である。これによって、一次元から二次元の飛行経路の幾つかの折り畳みを実現することができる。この方法では、イオンは分析装置を通る単一の経路を描く。従って、m/z範囲を縮小させずに飛行経路を長くし、以て分解能を高くできる可能性がある。
【0021】
拡張「単一経路」ToF型分析装置の第一の例がHoyes et alによってUS6570152に記載されている。この機器では、一つの大イオンミラーと一つの小イオンミラーが利用され、これらのミラーの間を通過する際にイオンはW字型の軌道を描く。これによって、従来のV字型軌道の分析装置と比較すると、飛行経路が2.5倍に増加する。
【0022】
他にも拡張飛行経路を有する様々な単一経路ToF機器が過去に記載されている。例えば、WO2005/001878は、中間の平面に並んで配置された12のアインツェルレンズを有する二つの平面イオンミラーについて記載している。これらのアインツェルレンズは各反射の後にイオンビームを再収束させ、よってビームが機器内を進行する際に角度発散が生じることを防止する。この再収束は、球面収差が適度な限界内に保たれることを保証するために不可欠である。この分析装置によれば、実証された50kの分解能及び最大m/z範囲において、2×12の反射が可能である。この分析装置の不利な点は、アクセプタンスが低い、即ち、小さな位相空間エミッタンスのイオン雲しか受け容れられないということである。これにより、機器の感度が制限されてしまう。さらに、光学素子の配置が複雑である上、精密な位置合わせが必要であるため、この装置は実際に実現化することが比較的困難であり、また費用がかかる。
【0023】
近年、上述したToyodaのM-ToF型分析装置に基づく、もう一つの拡張単一経路ToF分析装置がSatohらによって提案された(Am. Soc. Mass Spec. December 2005, Volume 16, No. 12, Pages 1969-1975)。この分析装置は、一つの軸に沿って伸張するトロイダルセクタを備える。1ターン毎に50mmの軸方向変位が生じる飛行経路に沿って飛行するような角度でイオンを導入することで、イオンは「らせん」型軌道を描きながら分析装置内を通過する。イオンは合計で軌道を15周し、飛行経路は20mになり、最大m/z範囲の際の分解能は35kになる。しかし、位相空間アクセプタンス領域が比較的小さいため、この機器にも感度に限界があるという問題がある。イオン光学素子をわずかな許容誤差で製造し配置するということも比較的困難で、費用がかかることである。
【0024】
既知のM-ToF分析装置には、イオンを機器に入射して出射させるために電極電圧を切り替えねばならないという一般的な特徴がある。この切替は非常に高速に行わばならず、新たな電圧レベルは非常に短い時間で高い安定性を確立しなければならない。技術的にこれを達成するのは困難であり、電極電圧の安定性はどうしても低くなる。電圧の安定性が低くなると、最終的にはm/z範囲が縮小し、次いでm/z測定の精度に悪影響が及ぶ。
【0025】
例えばGB2080021では、第一等時焦点がイオンミラー内にあるため、可能な最大分解能を達成するために、飛行経路と同軸にイオンミラーを貫通する入射軌道に沿って(すなわち、該ミラーの長手方向軸に沿って)飛行経路内にイオンを導入する必要がある。これには、直前に述べたような切替に伴う問題があり、ΔTに寄与する球面及び色収差の最小化れた値は一般に所望の値よりも大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、共通の長手軸上に対向配置された第一及び第二静電イオンミラーと、
第一等時点を経由する入射軌道に沿ってイオンを前記イオンミラーの一つに供給するイオン源と、
前記イオンミラーの間を少なくとも一度は通過した後のイオンであって、前記イオンミラーの一つにて出射軌道に沿うように反射されたイオンを、第二等時点において又は第二等時点を経由して受容するイオン検出手段と、を備える質量分析装置であって、
前記入射軌道及び前記出射軌道が前記長手軸からtan-1[Dmin/2L]以下の角度だけずれていることを特徴とする同軸飛行時間型質量分析装置が提供される。
ここに、Dminは前記イオンミラーの外形横軸寸法又は最小外形横軸寸法であり、Lは前記イオンミラーの入射口間の距離である。
【0027】
これより、発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は単なる例に過ぎない。説明は以下の添付図面を参照して行う。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好適な実施形態のToF型質量分析装置の断面図。
【図2】(a)ToF型質量分析装置内を1回通過するイオンの軌道、(b)ToF型質量分析装置内を2回往復するイオンの軌道、(c)ToF型質量分析装置内を3回往復するするイオンの軌道。
【図3】図1のToF型質量分析装置において使用されるイオンミラーの構造を示す図。
【図4】(a)イオンミラーの傾斜電極の一つの実施形態の断面図、(b)イオンミラーの傾斜電極の第二の実施形態の断面図、(c)イオンミラーの傾斜電極の第三の実施形態の断面図。
【図5】(a)傾斜電極によって生成された静電場の等電位線を示す図、(b)傾斜電極によって生成された反射及び傾斜場の組み合わせを示す図。
【図6】初期のイオン雲及びToF型質量分析装置内を128回通過したイオン雲の電位及び位相空間を計算したミュレーションの結果。
【図7】(a)第一パラメータセットに関する、転回数Nと分解能の関係を示す図、(b)第二パラメータセットに関する、転回数Nと分解能の関係を示す図。
【図8】追加の等時的無収差湾曲素子を含むToF型質量分析装置の断面図。
【図9】図8の等時的無収差湾曲素子の断面図。
【図10】ToF型質量分析装置が静的(非傾斜)モードである時のイオンの飛行経路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、ToF型質量分析装置1の縦断面図である。この分析装置は、中央部10と、中央部10の両端に、共通の長手軸13の上に対向配置された第一及び第二イオンミラー11、12を含む。中央部10は飛行管又はイオンミラー間の飛行経路を規定するのに適切なあらゆる構造であり、例えば一組の平行な複数の支持ロッドである。
【0030】
この実施形態では、各イオンミラー11及び12は断面が円形であり、イオンミラー内に静電反射場を生成するために個別の直流電圧が印加される同心環リング電極によって構成されている。
【0031】
また、各イオンミラーは長円形の断面形状を有していても良い。更に別の実施形態では、各イオンミラーは一対の平行板電極から成っていてもよい。
【0032】
この分析装置はまた、イオン源S及びイオン検出器Dを含んでいる。イオン源Sは二次元又は三次元イオントラップ、又はMALDIイオン源やESIイオン源といった他の適切な任意のイオン源である。イオン検出器Dは、典型的にはマイクロチャネルプレート検出器であるが、他の形態のイオン検出器を替わりに用いることも可能である。
【0033】
稼働時には、イオン源Sは第一等時点I1を介してイオンを第一イオンミラー11に供給する。イオンは、長手軸13に対してθiの角度だけずれている入射軌道14に沿って第一イオンミラー11に受け入れられる。第一イオンミラー11によって生成される静電反射場は、受けたイオンを第一イオンミラー内の転回点T1において反射し、その受けられたイオンは長手軸13に沿って第二イオンミラー12の方向へ反射される。第二イオンミラー12によって生成される静電反射場は受けたイオンを該イオンミラー内の転回点T2において反射し、その受けられたイオンは長手軸13に対してθ0の角度だけずれている出射軌道15に沿うように反射され、検出器Dの検出面と同一である第二等時点I2にて終了する。
【0034】
上述の実施形態では、イオンはイオンミラー11、12のそれぞれにおいて一度だけ反射される。すなわち、イオンは出射軌道15に沿ってイオン検出器Dに向かう前にイオンミラーの間を一度だけ通過する。
【0035】
本発明の他の実施形態においては、イオンはイオンミラー11、12のそれぞれにおいて複数回反射される。すなわち、イオンは出射軌道15に沿ってイオン検出器Dに向かう前にイオンミラーの間を複数回通過する。このために、イオンミラー11、12のそれぞれは反射角度を選択的に制御するように配置される。より詳細には、イオンレンズ11、12のそれぞれは、二つの異なるモードのうちの一つで選択的に動作することが可能である。第一の「偏向」モードでは、イオンは入射軌道14に沿ってイオンミラー11に入射し、角度θiにて長手軸13に反射される。同様に、長手軸13上を移動するイオンはイオンミラー12によって角度θ0にて出射軌道15へ反射される。一方、第二の「非偏向」モードでは、長手軸13上を移動するイオンは長手軸に沿って逆方向に反射される。
【0036】
各イオンミラーの動作モードを適切に選択することにより、入射軌道14に沿って第一イオンミラー11に入射するイオンを長手軸13へと反射し、イオンミラー間を複数回通過させた後、第二イオンミラー12によって出射軌道15へと反射することができる。これは、第一イオンミラー11で最初にイオンが反射された後に第一イオンミラー11を「偏向」モードから「非偏向」モードへ切り替え、そして、イオンが第二イオンミラー12で最後に反射される直前に第二イオンミラー12を「非偏向」モードから「偏向」モードへ切り替えることで実現できる。両方のイオンミラーが「非偏向」モードで動作している間は、イオンはイオンミラー間を複数回通過することになる。
【0037】
以下に、図3及び図4を参照しつつより詳細に説明するが、前記角度θ及びθ0によるイオンの反射は静電的に実現することもできる。即ち、静電反射場に重畳される静電偏向場を生成することによって実現できる。または、このような反射は磁石的手段を用いて実現することも可能である。即ち、静電反射場に重畳される磁気偏向場を生成することによって実現できる。
【0038】
図2(a)は、イオンミラー11及び12の間を一度だけ通過(即ちN=1)するイオンの飛行経路を概略的に示したものであり、図2(b)及び図2(c)はそれぞれ、イオンミラー11及び12の間を2回通過(即ちN=2)、3回通過(即ちN=3)するイオンの飛行経路を概略的に示したものである。Nが1より大きくなると、飛行経路が長くなるため分解能が高くなる。イオンミラー11、12間の軌道(長手軸13への最初の反射の後であって、出射軌道15へ最後に反射される前のもの)は実質上同軸であるが、図2(b)、図2(c)では、わかりやすくするために分離して描いてある。
【0039】
図1及び図2に関して述べたように、イオンはイオンミラーのうちの一つ(例えばイオンミラー11)へ入射軌道14に沿って入射し、出射軌道15に沿って別のイオンミラー(例えばイオンミラー12)から出射する。しかし、別の構成として、イオンが同一のイオンミラーに入射してそこから出射するように二つのイオンミラーの静電反射場を構成してもよい。
【0040】
図1及び図2に示されるように、二つのイオンミラー11、12の中間であって長手軸13の上に、第三等時点I3が存在している。この実施形態では、三つの等時点I、I、Iの全てが、長手軸13に直交する共通の平面P内に存在する。三つの等時点I、I、Iの全てが、二つのイオンミラー11、12の境界の内側に位置しており、このことによって、従来技術と比較して遙かに低い色収差係数及び球面収差係数を持つ機器が実現している。また、本実施形態では分析装置は、イオンミラー11、12へ印加される電圧を調整する必要無く、あらゆる通過数Nで動作可能である。
【0041】
ToF型質量分析装置内では、イオンの等時性は、入射軌道14及び出射軌道15のそれぞれを長手軸13からずらすθ及びθの影響を受けやすく、θ及びθは次式によって与えられる値を超えないことが望ましいことがわかった:
【数5】

【0042】
上式において、Lは両イオンミラーへの入射口間の距離であり、liはイオンミラー内の転回点間の距離であり、Dminはイオンミラーの外形横軸寸法又は最小外形横軸寸法である。断面が円形のイオンミラーの場合にはDminはイオンミラーの外径であり、断面が長円形のイオンミラーの場合には、Dminはイオンミラーの短軸の外長であり、イオンミラーが平行平板電極による場合には、Dminは平板電極間の距離である。
【0043】
転回点間の距離liはコンピュータシミュレーションにより決定することができる。しかし、実用上は、θ及びθに関するθmaxは次式によって概算することができる:
【数6】

【0044】
もしθ及びθがこの値を超えた場合には、イオンの等時性が著しく劣化し、分解能が低下する可能性があることがわかった。
【0045】
本発明の典型的な実施においては、θmaxは4°であり、θi及びθ0は0.5°〜1.5°の範囲内、好ましくは0.5°である。図1に示される実施形態では、入射軌道と出射軌道はイオンミラー内で長手軸と交わっているが、これは必須ではない。軌道がθi及びθ0の角度で軸と交わる限り、交点はイオンミラーの中または外において、長手軸上のどこであっても構わない。
【0046】
等時点I1及びI2がイオンミラー11、12の境界の外にある場合、角度θi及びθ0がθmaxよりも大きくなる。このことは、イオンが軸から離れてイオンミラー11、12に入射し、あるいはそこから出射することを意味するが、そうすると色収差と球面収差がずっと大きくなり、イオンの等時性が損なわれる結果になる。
【0047】
図3は軸対称イオンミラー11、12の好適な実施形態の斜視図である。このイオンミラーは重ねられた五つの同心リング電極21、22、23、24、25を含んでいる。これら重ねられたリング電極の各々は、異なる直流電圧を各電極に印加できるように、隣接する一又は複数のリング電極とは電気的に絶縁されている。
【0048】
典型的には、各リングはその内表面に金属被膜を有する電気的に絶縁された材料で成る。この電気的に絶縁された材料の熱膨張係数は低いことが望ましく、典型的には1ppm/℃より小さい。適切な材料には石英ガラスが含まれるが、ガラスセラミックZerodur(登録商標)が望ましい。なぜならば、熱膨張係数が非常に低く(<0.2ppm/℃)かつ精確に切削可能であるため、金属被膜用の基板として用いるのに理想的な材料だからである。
【0049】
図3に示されるように、リング電極の一つ(この例では中央電極23)は「傾斜」電極として描かれており、図4(c)において更に詳細に示されている二つの半円部35、36から成る分割構成となっている。別の分割リング構成においては、リング電極23は、図4(a)及び図4(b)に示されているように、四分円31〜34に分割される。
【0050】
この傾斜電極に直流双極電圧を供給すると、イオンミラー内に静電偏向場が生成され、通常の静電反射場に重畳される。図4(a)〜(c)には、電極の各部における双極電圧のそれぞれの極性が示されている。
【0051】
図1及び図2(a)を参照して先述したように、静電偏向場にはイオンを入射軌道14から離脱させて長手軸13へと反射させる効果があり、また、長手軸13から離脱させて出射軌道15へと反射させる効果がある。
【0052】
図1、図2(b)、図2(c)を参照して説明したように、イオンがイオンミラー間を複数回通過することができるように反射角度を制御するために、直流双極電圧を選択的に傾斜電極に印加してもよい。より詳細には、直流双極電圧が(前記「偏向」モードで動作するように)「入」である場合、結果として生じる静電偏向場は、入射軌道14上でイオンミラー11に入射するイオンを長手軸13上へと反射させ、長手軸13上でイオンミラー12に入射するイオンを出射軌道15へと反射させる。直流双極電圧が(前記「非偏向」モードで動作するように)「切」である場合には、静電偏向場は生成されず、長手軸13に沿ってイオンミラーに入射するイオンは偏向されることなく該長手軸13に沿って逆方向に反射される。これによって、前述したように、イオンはイオンミラー間を複数回通過することが可能となる。
【0053】
図5(a)は、傾斜電極23によって生成される等電位を計算した図である。一般的に、傾斜電極23に直流双極電圧を印加することで生成される静電偏向場は通常の静電反射場よりもかなり弱い。図5(b)は、静電反射場と静電偏向場との重畳を示す。この図では、その影響(通例、それは通常の反射場よりもずっと弱い)を示すため、偏向場の効力は意図的に増加されている。
【0054】
傾斜電極へ供給される直流双極電圧は、上述したように、主に静電偏向場を生成するために用いられるが、分析装置の構成要素の小さな位置ずれを補正するのに用いることもできる。
【0055】
先に述べたように、別の実施形態においては、イオンミラーは金属被覆により適切な形状及び大きさを有する電極を構成した二つの絶縁シートから成っていても良い。絶縁シートには、Zerodur(登録商標)ガラスセラミックを用いることもできる。このようにして形成されたイオンミラーは、上述したように動作するために、直流双極電圧が供給される「傾斜」電極も有する。
【0056】
また、イオンミラーは絶縁チューブの内表面に抵抗被膜を堆積させることで形成しても良いし、抵抗ガラス製のチューブを用いることで形成することもできる。所望の静電場は、該チューブのそれぞれの端部に電圧を供給することで生成することができる。チューブの各端部は均一の表面抵抗を有しているため、チューブの内部長に沿った電圧は均一に変化し、よって一様な場を生成する。勿論、内表面に沿って抵抗を変化させることにより、さらに複雑な静電場を生成してもよい。
【0057】
図6は各イオンミラー11、12内の等電位のシミュレーションであり、初期のイオン雲と、ミラー11、12間を128回通過(N=128)した後のイオン雲の「速度−位置」位相空間における分布を示している。
【0058】
このシミュレーションでは、イオンミラー間の長さ(L)は70cmであり、イオン雲はイオンミラー11、12の間の長手軸13の中心に位置する等時点iにおいて開始し、そして終了した。この等時点の位置は、電極における電圧が、幾何学的収差及び色収差が非常に小さくなるように最適化可能であることを意味している。
【0059】
図6が示しているように、初期のイオン雲は中央の等時点において長さが0.05mmであり、128回通過した後の最後のイオン雲はその等時点において長さが0.2mmである。このことは、色収差及び球面収差の複合係数が37ps/転回であることに等しい。これは系の全体における総合時間分散、即ち式7(後述)でのの全ての寄与と比較すると非常に小さい。
【0060】
シミュレーション結果が示すように、最初及び最後の等時点がイオンミラー間の内側に位置している(図1に示す例と同様の)とき、分析装置は、連なったパス間で等時性の低下を相殺するためにミラー11、12の電圧を調節する必要なく、任意の通過回数Nで以て動作可能である。
【0061】
図6が示すように、色収差及び球面収差の複合係数が低下することにより、分析装置全体の分解能が向上し、また、Nの増加にともなう分解能増加率を改善する。上述したように、Nの特定の値に対して得られる特定のm/z範囲は式(4)によって与えられる。例えば、N=5の時、〜250Daのm/z範囲が得られ、この時の最大質量限界は〜1000Daである。
【0062】
図1及び図2に示す構造のToF型質量分析装置の分解能は次式によって与えられる:
【数7】

【0063】
ここにおいて、Nは通過回数、Tlは一回通過あたりの飛行時間、ΔTab_angleはイオンが小さい傾斜角(イオンミラーが「偏向」モードで作動中の時)でイオンミラーに入射し、あるいはそこから出射する時の球面収差及び色収差の複合係数、ΔTab_co_axialはイオンミラー間の反射が同軸(イオンミラーが「非偏向」モードで動作中の時)である時の球面収差及び色収差の複合係数である。
【0064】
L(分析装置の長さ)=2mで、質量が1000Daの一価イオンから成るイオン雲の初期のイオンエネルギー=7kevというパラメータ値を用いる場合、Tl=91μsとなる。
【0065】
残りのパラメータは、次のような値とする:ΔTdetector=1ns;ΔTturn_around=1.1ns;ΔTjitter=0.5ns;ΔTab_angle=0.44ns/反射;ΔTab_co_axial=0.09ns/周回。
【0066】
機器分解能が最高になるのは以下の時である:
【数8】

【0067】
この場合、
【数9】

【0068】
上記のパラメータセットを用いたとき、達成可能な最大の機器分解能は518kである。図7(a)は、上記パラメータセットについて分解能RをNの関数で表したものである。図から分かるとおり、N=5の時、Rは108kである。これは、従来のFTICR型質量分析装置で得られる分解能に近い。
【0069】
図7(b)は以下の(改良された)パラメータセットについて、同様に分解能をNの関数で表した図である。ΔTdetector=0.5ns;ΔTturn_around=0.5ns;ΔTjitter=0.2ns;ΔTab_angle=0.44ns;ΔTab_co_axial=0.09ns。
【0070】
この場合、N=5の時には分解能が276kである。図7(a)、(b)より明らかなように、Nが増加すると、分解能Rは第二の(改良された)パラメータセットの場合において、より早く増加する。
【0071】
図7(a)、(b)のどちらの場合でも、最高の分解能はRNturnsが式(9)によって与えられる場合であり、それは518kである。
【0072】
ある特定のモードで動作させる場合、高性能のイオン源及び/又は検出器を用いることが望ましい。これによって、(ΔTab_angleが比較的小さい故に)比較的少ない回数Nの通過後、高分解能Rが得られる。結果として、分析対象のm/z範囲と分析装置の感度が最大化される。
【0073】
しかしながら、広いm/z範囲又は高感度のいずれかがあまり重要ではない場合、低性能のイオン源及び/又は検出器を用いつつ、通過回数Nを大きくすることで、必要な高分解能を得ることができる。
【0074】
上記形態の代わりに、又はそれに加えて、もし機器の可能な物理的サイズに制限があるならば、分解能を低めにしつつ、前記制限サイズに応じて分析装置の長さを短くすることができる。
【0075】
図1に示す実施形態では、イオン源Sは好ましくはMALDIイオン源であり、検出器Dは比較的小さな断面を有する。この実施形態においては、イオン源Sと検出器Dとを長手軸13に近接して配置することができる。とはいえこれは、別の種類のイオン源に関しては成り立たないことがある。特に、もしイオン源Sが大気圧でイオン化が生じるエレクトロスプレイイオン化(ESI)源であれば、イオン源Sを長手軸13に近接して配置することはできない。この場合には、イオン源Sはイオンをイオンミラー11に輸送するための付加的なイオン送出手段を含む。同様に、イオン検出器Dが付加的なイオン送出手段を含むこともある。図8に示す好ましい実施形態においては、これらのイオン送出手段は等時的無収差湾曲素子を備える。
【0076】
この機器を構成する要素は図1に示すものと同じであり、同一の符号を付してある。この機器はまた、等時的無収差湾曲素子41、42を含んでいる。イオンはイオン源Sから出て、等時点I5を通り、湾曲部41に入る。これらイオンは湾曲部41を出て、等時点Ilを経て入射軌道14に沿ってイオンミラー11に入射する。この場合も、入射軌道14は長手軸13と、θmaxよりも小さな角度θiだけずれている。
【0077】
もう一つのアクロマート湾曲部42は、イオンミラーの間を所望の回数Nだけ通過した後にイオンミラー12から出射するイオンを、等時点I2を経由して検出器Dに輸送する。図1の実施形態のように、出射軌道15は長手軸13と、θmaxよりも小さな角度θ0だけずれている。
【0078】
好ましくは、等時的無収差湾曲素子41、42は静電扇形レンズである。湾曲部41はイオンが確実に等時点Ilを経由してイオンミラー11に入射するようにし、湾曲部42はイオンをイオンミラー12から検出器Dにおける等時点I6へ運ぶ。このようにして、湾曲部41、42は、大きな収差をもたらすことなく、イオンをイオンミラー11、12へ輸送し、またそこから取り出す。
【0079】
湾曲部41、42の特性は十分に確立されている(Wollnik, Charged Particle Optics, Academic Press, 1987, Chapter 4)。湾曲部41、42の静電場は二つの径ρ0とR0によって特徴付けられる。ρ0はビームの軸の半径であって、偏向面の二つの偏向電極の間の中間等電位に位置する。R0は偏向面に垂直な面内で測定された中間等電位の半径である。ρ0及び比R00は所望の収束条件をもたらすために調節可能である。平板電極を有する円筒状扇形レンズ(R0=∞)を用いることで所望の静電場を得ることもできる。この場合、平板電極は円筒状扇形レンズの上下に配置され、適切な電圧が印加される。
【0080】
等時的無収差湾曲素子41、42が適切に設計されているならば、イオンを等時点I5又はI2のそれぞれから等時点I1又はI6へと輸送し、その時のイオン雲又は等時焦点の幅の劣化はごく僅かである。
【0081】
湾曲部41、42は偏向方向及び直交方向において横方向集束特性も備えている。この横方向集束は図9に描かれている。
【0082】
最後に、別の実施形態として、ある特定の種類のイオン源とイオンミラーとを整合させるために、湾曲部41、42を他の更なるイオン光学レンズ素子と組み合わせてもよい。
【0083】
図10は本発明の別の実施形態に係る分析装置を示す。本発明のこの実施形態では、イオンミラー内で純粋な静電場(偏向場は無し)を用いることにより、分析装置内のイオンの飛行経路を延ばすことを可能にしている。この図で示される分析装置の要素は、概して前の実施形態に関して説明した要素と同一である。イオンミラー11、12が傾斜電極23を備えている場合、本実施形態ではこの傾斜電極を単に無効にすればよい。この図では湾曲部41を介してイオンミラー11へ供給され、また湾曲部42を介して検出器Dで受け容れられるイオンが描かれているものの、イオン源S及び検出器Dはこのように配置される必要はない。替わりに、イオン源S及び検出器Dは図1に示すように配置されていてもよい。
【0084】
図10に描かれているように、イオンは、長手軸13に平行であって、かつ横方向にずれた入射軌道14に沿ってイオンミラー11に入射する。イオンミラー11、12における電圧はイオンが図10に示す飛行経路をたどるように最適化される。この図からわかるように、イオンは反射毎にイオンミラー内の異なる位置で転回する。
【0085】
図にはN=2という特定の場合が描かれているが、Nとして他の値を選択してもよい。所望の回数を通過した後、イオンは出射軌道15に沿ってミラー12から出射する。出射軌道15は長手軸13に平行であって、且つ横方向にずれている。出射軌道に沿って飛行するイオンは等時点I2を通過し、湾曲部41を介して検出器Dへ輸送され、等時点I6で検出される。入射軌道14及び出射軌道15は長手軸13から等しい距離だけ離れていても良いし、長手軸13から異なる距離だけずれていても良い。また、軌道14と15のどちらがイオンミラー11、12の一方に入り、どちらがもう一方から出ても構わない。さらに、入射軌道14と出射軌道15は異なったイオンミラーに入る又はそこから出る必要はなく、同一のイオンミラーに入ったり、そこから出たりしても構わない。また、入射軌道14と出射軌道15は中央部10の全長における途中のどの位置に入っても、又はどの位置から出ても良い。
【0086】
図示された実施形態においては、(本明細書において先述したように)イオンミラー11、12は「偏向」モードでは動作しない。しかし、別の実施形態(図示せず)においては、イオンがToFに入射し、ミラー11、12間を所望の回数通過した後、イオンミラー11、12のうちの一つ又は両方が「偏向」モードで動作するように切り替えられてもよい。これによってイオンは、角度θ0だけ長手軸13からずれた出射軌道に沿ってイオンミラーの一つから出る。
【0087】
Nがどのような値であっても、入射軌道14及び出射軌道15の長手軸13からのずれはイオン雲の収差の大きさに強い影響を及ぼすため、最高の分解能を得るためには、このずれを可能な限り小さくすることが望ましい。(これにより、色収差及び球面収差の結合収差が最小化される。)とは言え、もし湾曲部41、42が用いられるならば、このずれはイオン雲が湾曲部41、42を容易に通過できるのに十分でなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の長手軸上に対向配置された第一及び第二静電イオンミラーと、
イオンを、入射軌道に沿って前記イオンミラーの一つに供給するイオン源と、なおここで、イオンは第一等時点を通って供給されるものとする、
前記イオンミラーの間を少なくとも一度は通過した後のイオンであって、前記イオンミラーの一つにて出射軌道に沿うように反射されたイオンを、第二等時点において又は第二等時点を経由して受容するイオン検出手段と、を備える質量分析装置であって、
前記入射軌道及び前記出射軌道が前記長手軸からtan-1[Dmin/2L]以下の角度だけずれていることを特徴とする同軸飛行時間型質量分析装置。
ここに、Dminは前記イオンミラーの外形横軸寸法又は最小外形横軸寸法であり、Lは前記イオンミラーの入射口間の距離である。
【請求項2】
前記各イオンミラーは軸対称イオンミラーであることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記各イオンミラーは断面が長円形であり、Dは該ミラーの短軸の長さであることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記各イオンミラーは一組の平行板から成り、Dは該板間の距離であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項5】
イオンが、前記第一等時点を通って前記第一及び第二静電イオンミラーのうちのいずれか一つに供給され、前記第二等時点を通って前記第一及び第二静電イオンミラーの他方から受容される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記第一及び第二等時点は前記長手軸に直交する共通の面内に存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記第一及び第二イオンミラーの間の前記長手軸上に位置する第三等時点を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記第一、第二、第三等時点は前記長手軸に直交する共通の面内に存在することを特徴とする請求項7に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記イオンミラーの一つがイオンを前記入射軌道から前記長手軸に反射するように配置され、前記イオンミラーの他方がイオンを前記長手軸から前記出射軌道に反射するように配置されていることにより、イオンが該イオンミラー間を一度だけ通過する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記イオンミラーの少なくとも一つが選択的に、イオンが該イオンミラー間を複数回通過するように反射角度を制御するように設定されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記第一及び第二イオンミラーは、前記長手軸に沿ってイオンを繰り返し反射するように配置されており、
該イオンミラーの一つがイオンを前記入射軌道から前記長手軸に選択的に反射するように配置されており、
該イオンミラーの他方がイオンを前記長手軸から前記出射軌道に選択的に反射するように配置されている
ことを特徴とする請求項10に記載の質量分析装置。
【請求項12】
前記各イオンミラーは複数の電極を有しており、
各ミラーの該電極の一つは、作動時に直流双極電圧が選択的に供給された際に、前記長手軸に関してイオンを偏向させるのに有効な静電偏向場を生成する傾斜電極である
ことを特徴とする請求項9又は11に記載の質量分析装置。
【請求項13】
前記電極は絶縁基板に金属被覆を行うことで得られたものであることを特徴とする請求項12に記載の質量分析装置。
【請求項14】
前記電極は絶縁基板に制御された抵抗層(controlled resistive layer)を被覆することで得られたものである
ことを特徴とする請求項12に記載の質量分析装置。
【請求項15】
前記入射軌道及び/又は前記出射軌道のずれ角度は4°以下である、請求項1〜14のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項16】
前記ずれ角度が0.5°〜1.5°の範囲内にある、請求項15に記載の質量分析装置。
【請求項17】
前記ずれ角度が<0.7°である、請求項16に記載の質量分析装置。
【請求項18】
前記入射軌道及び/又は前記出射軌道は前記長手軸からずれており且つ平行である
ことを特徴とする請求項1〜8、及び10のうちのいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項19】
イオンは、前記出射軌道に沿って検出器へ反射される前に、前記イオンミラー間を非同軸軌道上で2回以上通過する
ことを特徴とする請求項18に記載の質量分析装置。
【請求項20】
前記第一及び第二ミラーは複数の電極から成っている
ことを特徴とする請求項18又は19のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項21】
前記電極は絶縁基板に金属被覆を行うことで得られたものである
ことを特徴とする請求項20に記載の質量分析装置。
【請求項22】
前記電極は絶縁基板に制御された抵抗層を被覆することで得られたものである
ことを特徴とする請求項20に記載の質量分析装置。
【請求項23】
前記イオン源及び/又はイオン検出手段は、等時的無収差湾曲素子を含む
ことを特徴とする請求項1〜22のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項24】
前記等時的無収差湾曲素子は静電扇形レンズである
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析装置。
【請求項25】
添付の図面に関連して本書類中に実質的に記載された質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−512631(P2010−512631A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540839(P2009−540839)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004683
【国際公開番号】WO2008/071921
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】