説明

吐出検査方法、及び、吐出検査用記録媒体

【課題】 無色透明ないしは白色の記録液が所望の位置に着弾しているかを容易に確認できる吐出検査方法及び吐出検査用記録媒体を提供すること。
【解決手段】 無色透明ないしは白色の記録液をインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて、pHに対応した色を呈する吐出検査用記録媒体に付与する工程を有する吐出検査方法であって、前記検査用記録媒体の記録液を受容する受容層が、その膜厚が2μm以上5μm以下であり、かつ、フッソ系界面活性剤を含有することを特徴とする吐出検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式の記録ヘッドからの無色透明ないしは白色の記録液の吐出を検査するための吐出検査方法及び吐出検査用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法では、色材を含有するインクのほかに、無色透明ないしは白色の記録液を使用するインクジェット記録装置も用いられるようになっている。このような記録液は、インクで記録される画像の画質や堅牢性を向上することを主たる目的として使用される。しかし、このような記録液は、インクジェット方式の記録ヘッドから確実に吐出が行われているかの確認を、通常の白色の記録媒体に記録することで行うにしても、得られた描画状態を目視や画像処理装置で確認するのは困難であった。
【0003】
従来、記録液を吐出するノズルに対しても、比較的簡便に検査できる方法が提案されている。インクを吐出するインク吐出部と、記録液を吐出する記録液吐出部とを備えた記録装置において、記録液吐出部から記録媒体に向けて記録液を吐出するとともに、記録液が付着されるべき領域に対して、インクを吐出することが提案されている(特許文献1)。一方、pHに対応した色を呈する検査媒体に吐出し、該検査媒体におきる変色を調べることを特徴とする液滴吐出装置における液滴吐出検査方法が提案されている。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−22216号公報
【特許文献2】特開2004−97909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討の結果、上記で挙げたような従来の技術には以下のような問題があることがわかった。先ず、特許文献1に記載されているように、記録液吐出部から記録媒体に向けて記録液を吐出するとともに、記録液が付着されるべき領域に対してインクを吐出すると、インクとのにじみが生じることで、記録液が吐出されていることは確認できた。しかし、着弾位置が正常かどうかまでの詳細な確認はできないことがわかった。また、特許文献2に記載されているように、pHに対応した色を呈する吐出検査用記録媒体に吐出し、該記録媒体におきる変色を調べることを試みたが、同様に記録液が吐出されていることは確認できた。しかし、着弾位置が正常かどうかまでの詳細な確認はできないことがわかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、無色透明ないしは白色の記録液が所望の位置に着弾しているかを容易に確認できる吐出検査方法及び吐出検査用記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明の吐出検査方法は、無色透明ないしは白色の記録液をインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて、pHに対応した色を呈する吐出検査用記録媒体に付与する工程を有する吐出検査方法であって、前記検査用記録媒体の記録液を受容する受容層が、その膜厚が2μm以上5μm以下であり、かつ、フッソ系界面活性剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無色透明ないしは白色の記録液が所望の位置に着弾しているかを容易に確認できる吐出検査方法及び吐出検査用記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明において「変色」とは、発色及び消色を包含するものである。
【0010】
<吐出検査用記録媒体及び吐出検査方法>
本発明の吐出検査用記録媒体は、フィルムなどの基材上に、pH変化により変色する記録液受容層を設けたものである。フィルムとしては、その上に記録液受容層を形成することができれば、どのようなものを用いてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ジアセテート、セロハン、セルロイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックを使用することができる。本発明においては、これらの中でもポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。
【0011】
記録液受容層としては、バインダーとなる成分にpH変化により変色する物質を混合させて形成された受容層が好ましい。バインダー成分としては、記録液を受容でき、かつ、記録液に対する溶解性ないしは親和性を有する水溶性樹脂や水分散性樹脂が挙げられる。このようなバインダー成分としては、ポリビニルアルコールやそのアニオン、カチオン、又はアセタール変性物、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンなどの変性物、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース変性物、ポリエステルなどの合成樹脂、ゼラチンなどの天然樹脂などが挙げられる。
【0012】
pH変化により変色する物質としては、記録液のpHにより変色を生じる、色素化合物等が好ましい。このような物質としては、ペンタメトキシレッド、キナルジンレッド、2,4−ジニトロフェノール、ヘキサメトキシレッド、ヘプタメトキシレッド、キノリンブルー、o−クレゾールフタレイン、チモールフタレイン、フェノールフタレイン、メチルオレンジ、コンゴーレッド、サリチル酸、α−ナフチルアミン、3,6−ジヒドロキシフタル酸、m−クレゾールパープル、チモールブルー、ジメチルイエロー、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、ニュートラルレッド、フェノールレッド、クレゾールレッド、チモールブルーなどの、酸・アルカリ指示薬が挙げられる。本発明においては、これらの中でもブロモチモールブルーを用いることが特に好ましい。これらの色素化合物の発色機構は、多くの場合、pHの変化によって分子内の発色性構造部分にプロトンの付加又は脱離が起こり、可逆的に変色するものである。
【0013】
記録液受容層を基材上に形成する際には、バインダー成分を含む分散液にpHにより変色する物質を混合したものを塗布して、受容層を形成することができる。記録液受容層の膜厚は2μm以上5μm以下である必要がある。2μm未満であると、記録液受容層を平滑に、かつ、異物やはじきなどのない状態で塗工することが困難であるため好ましくない。一方、5μmを越えると、記録液を付与した吐出検査用記録媒体を目視で確認して吐出状態を確認することができる程度の精細さが得られないため好ましくない。
【0014】
膜厚が2μm以上5μm以下の記録液受容層を基材上に、平滑に、かつ、異物やはじきなどのない状態で塗工するためには、塗工液にフッソ系界面活性剤を含有させる必要がある。このため、本発明の吐出検査用記録媒体のインク受容層は、フッ素系界面活性剤を必須の成分として含有してなる。フッソ系界面活性剤としては、POLYFOX:136A、156A、151N、154N、159(以上、オムノバソリューションズ製)、S−111n、S−113、S−131、S−132、S−141、S−145(以上、AGCセイミケミカル製)、FC−4430、FC−4432(以上、住友スリーエム製)、フタージェント250、251、222F(ネオス製)、メガフィック:F−443、444、445、470、471、475、477、479、494(DIC製)などの市販のものを用いることができる。本発明においては、これらの中でもメガフィック:F−443、444、445を用いることが特に好ましい。
【0015】
本発明の吐出検査方法は、上記で説明した本発明の吐出検査用記録媒体に、無色透明ないしは白色の記録液をインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて、pHに対応した色の変化により吐出状態を検査する方法である。本発明の吐出検査方法では、無色透明ないしは白色の記録液に加えて、色材(染料や顔料)を含有するインクについても、吐出検査用記録媒体に付与したさいのpHによる変色により吐出状態を確認することもできる。
【0016】
<記録液>
以下、本発明の吐出検査用記録媒体及び吐出検査方法で吐出状態を確認する対象である、無色透明ないしは白色の記録液の構成について簡単に説明する。このような記録液は、純水で50倍(質量倍)に希釈した記録液の吸光スペクトルが、400nm乃至800nmの範囲においてピークを有さず、かつ400nm乃至800nmの範囲におけるabs値が1.0以下であることが好ましい。記録液を構成する成分は該記録液を使用する目的にあわせて適宜決定されるが、水、水溶性有機溶剤に加えて、界面活性剤やポリマーなどの添加剤を含有するものが一般的である。記録液のpHは、pHに対応した色の変化により吐出状態を容易に確認できるため、5以上10以下の範囲内であることが好ましい。pHが5未満であると、吐出検査用記録媒体の受容層のpHと近くなるため、色変化が目視でわかりにくくなる場合があり、10を越えると、記録装置の部材が溶解する場合がある。
【実施例】
【0017】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0018】
<塗工液の調製>
ポリビニルアルコール(PVA−235;クラレ製)8部、水92部を混合し、ウオーターバスで70℃に加熱し、3時間撹拌することで、8%PVA235水溶液を得た。また、ブロモチモールブルー(和光純薬製)5部、エタノール35部、水60部を混合して、5%BTB水溶液を得た。8%PVA235水溶液95部、5%BTB水溶液4.95部、フッソ系界面活性剤(POLYFOX154N;オムノバソリューションズ製)0.05部を混合して、塗工液1を得た。また、8%PVA235水溶液95部、5%BTB水溶液5部を混合して、フッソ系界面活性剤を含有しない塗工液2を得た。
【0019】
<吐出検査用記録媒体の作製>
上記で得られた塗工液をそれぞれ、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布、乾燥し、記録液の受容層を形成し、各吐出検査用記録媒体を得た。また、塗工液の塗布速度を変えることで、受容層の膜厚が1.5μm、2μm、5μm、6μmの4通りになるように塗工液を塗工した。作製した各検査用記録媒体は、その表面のpHが4.6であり、薄黄色を呈していた。
【0020】
<ポリマー微粒子の合成>
以下の手順にしたがって、記録液に用いるポリマー微粒子P1を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、133.3部の水を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃に昇温させた。このフラスコに、スチレン32部、アクリル酸2−エチルヘキシル32部、メタクリル酸メチル18部、アクリル酸18部の混合物と0.3部の過硫酸カリウム(重合開始剤)を水16.7部に溶解した液体を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂固形分の含有量が25%、平均粒径が125nmであるポリマー微粒子P1の水分散液を得た。また、ポリマー微粒子P1の合成方法において、反応温度を85℃に、過硫酸カリウムの添加量を1.0部に変更することで、樹脂固形分の含有量が25%、平均粒径が55nmであるポリマー微粒子P2の水分散液を得た。
【0021】
<記録液の調製>
下記の各成分を混合した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過することで、ポリマー微粒子P1を含む記録液1及びポリマー微粒子P2を含む記録液2をそれぞれ調製した。記録液1のpHは8.2であり、白色を呈していた。また、記録液2のpHは8.3、無色透明であり、純水で50倍(質量倍)に希釈した記録液の吸光度を測定した際に、400nm乃至800nmの範囲においてピークを有さず、かつ400nm乃至800nmの範囲におけるabs値が1.0以下であった。
【0022】
(記録液の組成)
・各ポリマー微粒子の水分散液(固形分の含有量25%):8.0%
・グリセリン:7.0%
・ポリエチレングリコール(平均分子量:1,000):5.0%
・トリメチロールプロパン:5.0%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル:3.0%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製):0.5%
・イオン交換水:71.5%。
【0023】
<評価>
上記で得られた記録液1及び2をそれぞれ充填したカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)に搭載した。そして、上記で作製した吐出検査用記録媒体に、各記録液を用いて、PIXUS Pro9500のノズルチェックパターンを記録した。本発明の条件を満足する吐出検査用記録媒体であれば、記録液が付着した領域の表面が黄色から青色に変化するので、その色変化の度合いとノズルチェックパターンのにじみの程度を目視で確認して評価を行った。評価基準は下記の通りであり、評価結果を表1に示す。本発明においては下記の評価基準でB以上が許容できるレベル、Cが許容できないレベルとした。なお、評価結果のXは、塗工液がポリエチレンテレフタレートフィルムにはじかれて塗工できず、評価が行えなかったことを示す。
【0024】
AA:にじみがなく、かつ、色変化も大きく、目視で容易に着弾精度が確認できる
A:にじみはわずかにあるが、隣接するパターンにまでにじみは及んでいなく、かつ、色変化も大きく、目視で着弾精度が確認できる
B:にじみはわずかにあるが、隣接するパターンにまでにじみは及んでいなく、かつ、色変化が小さく、目視で着弾精度が確認しづらい(ルーペ等の拡大鏡を用いれば確認できる)
C:にじみが隣接するパターンにまで及んでおり、かつ、色変化が小さく、目視で着弾精度が確認できない(ルーペ等の拡大鏡を用いても確認できない)。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無色透明ないしは白色の記録液をインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて、pHに対応した色を呈する吐出検査用記録媒体に付与する工程を有する吐出検査方法であって、
前記検査用記録媒体の記録液を受容する受容層が、その膜厚が2μm以上5μm以下であり、かつ、フッソ系界面活性剤を含有することを特徴とする吐出検査方法。
【請求項2】
前記記録液のpHが、5以上10以下である請求項1に記載の吐出検査方法。
【請求項3】
インクジェット記録装置に用いる無色透明ないしは白色の記録液の吐出検査に用いる吐出検査用記録媒体であって、該吐出検査用記録媒体の記録液を受容する受容層が、pHに対応した色を呈することを特徴とする吐出検査用記録媒体。
【請求項4】
前記受容層が、ブロモチモールブルーを含有する請求項3に記載の吐出検査用記録媒体。

【公開番号】特開2011−83996(P2011−83996A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239395(P2009−239395)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】