説明

含クロムスラグからのクロム回収方法

【課題】 含クロムスラグ中のクロムを簡便かつ効率的に分離、回収するとともに、回収後のスラグからの6価クロム溶出量を抑制することを可能ならしめる含クロムスラグの処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ステンレス鋼等を製造する過程で発生する、クロム酸化物を1.0質量%以上、かつMgOをクロム酸化物濃度の0.2倍以上を含有するスラグを200μm以下が80質量%以上となるように粉砕し、比重差を利用した方法により粉砕スラグを分別して高比重側スラグを回収することを特徴とする、含クロムスラグからのクロム回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含クロムスラグから有価金属であるクロムを効率的に回収するとともに、スラグからの6価クロム溶出を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼等の製造過程で副産物として発生する含クロムスラグは例えば転炉滓で5%以上高いものでは30%近いクロム酸化物を含有し、有価金属であるクロムを多量含んでいるため、製造コスト削減の点からも資源の有効利用の観点からも精錬後にFe−SiやAl等の還元剤を添加してスラグ中のクロム酸化物を溶鋼中に還元してから出鋼するのが一般的になっている。電気炉を用いてステンレス鋼やフェロクロム等の含クロム鋼を溶製する場合にも、やはり還元期を設けて還元剤によるクロム還元を通常実施している。
【0003】
しかしながら、この還元用のFe−SiやAlも価格が高いため、吹酸中のクロム酸化をできる限り低下させる試みがなされている。例えば、特開昭61−3815号公報(特許文献1)や特開昭61−19716号公報(特許文献2)に開示されているように、吹錬中の送酸速度と攪拌力とを適正に制御することで、クロムの酸化を抑制した精錬方法などが提案されている。しかし、これらの方法を用いても、還元剤使用量をゼロにすることはできない。
【0004】
また、特開昭53−119210号公報(特許文献3)に開示されているように、高価な還元剤を使用せずに含クロムスラグからクロムを回収する手段として、含クロムスラグを冷却固化した後、もしくは、特開平6−73424号公報(特許文献4)のように、含クロムスラグを炉内に残存させたまま、別チャージの溶銑と接触させ、精錬中に溶銑中Cによるスラグ中のクロム酸化物を還元回収する方法が開示されている。
【0005】
これらの方法では、高価な還元剤を使用することなくスラグ中のクロムを回収可能であるが、還元後の低クロム酸化物濃度のスラグを系外に排出するためには、特許文献4のように、精錬途中で一度排滓を実施する必要があり、生産性を圧迫する問題が生じる。また、クロム酸化物とCとの反応は低温では起こりにくく、還元速度が遅いという問題もあった。また、特開平2−258912号公報(特許文献5)に開示されているように、取鍋内で還元剤を吹き込み、スラグ中のクロムを溶鋼中に還元回収する方法も提案されているが、やはり低温での処理であるため、還元速度が遅く、処理後のスラグ中クロム酸化物濃度も高いという問題があった。
【0006】
上記のような還元処理を施しても、還元剤コスト抑制と低温による反応性の悪さから、処理後のスラグ中クロム酸化物濃度は1〜5質量%程度となっている。しかしながら、この1〜5質量%程度のスラグ中クロム酸化物濃度でも、有害な6価クロムが溶出する場合がある。含クロムスラグを土木用埋立材として使用する場合や一般の埋立地に投棄する場合、スラグからの6価クロム溶出による環境汚染を起こさないことが絶対条件であるため、現状は管理型の埋め立て処分となっている場合が多い。
【0007】
また、特開昭63−140044号公報(特許文献6)に開示されているように、含クロムスラグからの6価クロムの溶出防止方法として、例えば溶融状態で排出された含クロムスラグを別の容器に移し、攪拌を付与しつつ還元剤を添加する方法が提案されている。しかしながら、この方法は、通常精錬容器内で行われているFe−Siによる還元処理を別の容器に移して実施しただけの処理であり、依然として2質量%程度以上の酸化クロムが残存していることから、6価クロムの溶出を完全に防止することはできない。
【0008】
また、特開昭60−135533号公報(特許文献7)に開示されているように、スラグからの有価金属の回収方法として、比重選鉱と磁力選鉱を組み合わせた方法も提案されている。しかしながら、本方法では金属部分の回収は回収であるが、スラグ内の特定酸化物の分離回収はできない、という問題があった。
【特許文献1】特開昭61−3815号公報
【特許文献2】特開昭61−19716号公報
【特許文献3】特開昭53−119210号公報
【特許文献4】特開平6−73424号公報
【特許文献5】特開平2−258912号公報
【特許文献6】特開昭63−140044号公報
【特許文献7】特開昭60−135533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、含クロムスラグ中のクロムを簡便かつ効率的に分離、回収するとともに、回収後のスラグからの6価クロム溶出量を抑制することを可能ならしめる含クロムスラグの処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)ステンレス鋼等を製造する過程で発生する、クロム酸化物を1.0質量%以上、かつMgOをクロム酸化物濃度の0.2倍以上を含有するスラグを200μm以下が80質量%以上となるように粉砕し、比重差を利用した方法により粉砕スラグを分別して高比重側スラグを回収することを特徴とする、含クロムスラグからのクロム回収方法にある。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明により、含クロムスラグ中のクロムを簡便かつ効率的に分離、回収するとともに、回収後のスラグからの6価クロム溶出量を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の実施の形態は以下の通りである。
まず、ステンレス鋼等の製造過程で発生したクロム酸化物を1.0質量%以上含有するスラグを、破砕機を用いて200μm以下に粉砕する。その後、粉砕したスラグを比重差を利用した分別方法により、比重の重い部分と軽い部分に分離する。比重の重い部分はクロム酸化物が極めて高い濃度で濃縮されており、ステンレス鋼の製造工程である転炉や電気炉へのリサイクル利用や、クロム原料として再利用が可能となる。また、比重の軽い部分はクロム酸化物濃度が0.1質量%以下まで大幅に低減しており、6価クロム溶出量が普通鋼スラグと同等程度に抑制される。
【0013】
本発明者らが、種々の含クロムスラグをEPMAで調査した結果、スラグ中のクロム酸化物の大部分はMgO・Cr23の結晶相となっており、それ以外の相には殆どクロムを含まないことを見出した。MgO・Cr23の相は原子量が大きく比重が5〜7と大きいのに対し、その他の相はCaOやSiO2を主成分とする相であり比重が1.5〜2.5と小さいことも測定の結果判明し、比重差を利用することで容易に分離できることができる。また、MgO・Cr23の相中のCrは50〜54質量%含まれており、再利用価値が極めて高いこともわかった。本発明は、これらの知見を利用して創案されたものである。
【0014】
含クロムスラグ中のクロム酸化物濃度を1.0質量%以上と限定したのは、1.0質量%未満の場合でもMgO・Cr23の相は存在し、回収することは可能であるが、回収効率が低下し、経済効果が処理コストと見合わないためである。また、スラグ中のMgO濃度をクロム酸化物濃度の0.2倍以上と限定したのは、0.2倍未満の場合には、スラグ中のクロム酸化物全てがMgO・Cr23の結晶相とならず、低比重側の相の中にもクロム酸化物が均一に分散するため、クロムの回収効率が低下するからである。
【0015】
クロムの回収率の点ではMgO濃度は高くても良いが、精錬コストとスラグ処理費の低減の観点から、MgO濃度は30質量%未満が必要である。また、スラグ中のMgO濃度をクロム酸化物濃度の0.26倍以上とすると、低比重側のCr2 3 濃度を極めて低減し、高比重側のMgO・Cr2 3 濃度を極めて高めることができ、好ましい。0.26倍はMgO・Cr2 3 を生成する上での化学量論値である。
【0016】
また、粉砕後のスラグ粒度を200μm以下と限定したのは以下の理由による。
EPMAでの調査の結果、MgO・Cr23の結晶相は最大で約200μmの大きさとなっていることが判明したため、スラグを粉砕後に種々の規格の篩いにかけ、篩い後のスラグの最大粒度とそれを比重選鉱して分離した後の高比重側スラグ相へのクロム回収率を実験的に調査した。結果を図1に示す。スラグ最大粒度が200μmより大きくなると、クロムの回収効率が著しく低下することが明らかになった。これは、粉砕後の粒度が200μmより大きい場合、MgO・Cr23の相とそれ以外のクロムを殆ど含まない相が混在した粒が存在するためと思われる。
【0017】
以上から、クロム回収率を約75%以上を確保するためには、200μm以下のスラグ粒度が80質量%以上必要となる。これは、200μm以下のスラグ最大粒度ではクロム回収率が90%以上であり、スラグ最大粒度が200μmを越える場合はクロム回収率が最低20%程度であるためである。なお、粒度の下限は特に設けないが、粒度を小さくするには粉砕時間や粉砕コストが増加するため、スラグ最大粒度が200μm以下であれば粒度は大きい方が望ましい。また、粉砕したスラグ分離方法としては、比重差を利用したものであれば良く、一般にはエアーテーブルや湿式の比重選鉱法もしくは遠心分離法が使用される。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を具体例に基づき具体的に説明する。
1t規模の試験転炉でステンレス鋼を脱炭処理を施し、一部はその後、Fe−Siによる還元処理も施した転炉スラグを10チャージ分回収し、小型試験機での分別処理を実施した。スラグ中のクロム酸化物濃度は1〜18質量%の間であった。従来の操業からスラグ中クロム酸化物濃度とMgO濃度はある程度予測が可能であるため、スラグ中のMgO濃度がクロム酸化物濃度の0.2倍未満と予測される場合には、転炉内でMgOのレンガ屑を添加して、スラグ中MgO濃度を調整した。
【0019】
このスラグを試験用破砕機を用いて粒度200μm以下に粉砕し、各チャージ200g分を比重選鉱法で分別した。具体的には、内径20cm、高さ1mの円筒の水柱内にスラグを上部から添加し、添加後1分で下部を仕切り、沈殿した高比重側相とその他の低比重側相に分別した。
【0020】
表1に、分別処理を行ったスラグの処理前クロム酸化物濃度、MgO濃度、処理により回収された高比重側相スラグの質量とスラグ中クロム酸化物濃度、およびクロムの回収率を示す。全てのチャージにおいて、高比重側相スラグ中のクロム酸化物濃度は74%以上となっており、90%以上の高いクロム回収率が得られることが確認された。
【0021】
【表1】

また、分別された後の低比重側相のスラグを、環境庁告示46号に則った6価クロムの溶出試験を行った。また、比較例として、比重選鉱法での分別処理前のスラグについても同様の6価クロム溶出試験を実施した。溶出試験の結果を表2に示す。比較例の処理を行わなかったスラグからの6価クロム溶出量は全て環境基準値の0.05mg/lより高くなったのに対し、本発明の実施例である比重選鉱法での分別処理後の低比重側相スラグからの6価クロム溶出量は、全て環境基準値の0.05mg/l未満の溶出量になっていることが確認された。
【0022】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】スラグの粉砕後の粒度とそれを比重選鉱して分離した後の高比重側スラグ相へのクロム回収率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼等を製造する過程で発生する、クロム酸化物を1.0質量%以上、かつMgOをクロム酸化物濃度の0.2倍以上を含有するスラグを200μm以下が80質量%以上となるように粉砕し、比重差を利用した方法により粉砕スラグを分別して高比重側スラグを回収することを特徴とする、含クロムスラグからのクロム回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284727(P2007−284727A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111222(P2006−111222)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】