説明

含ハロゲン化合物分解剤

【課題】従来に比して大幅に低温で、かつ水を用いない乾式処理で含ハロゲン化合物を分解できる含ハロゲン化合物分解剤を提供する。
【解決手段】
含ハロゲン化合物分解剤として、固体アルカリ剤に、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなることを特徴とする。固体アルカリ剤は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物の中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。酸化物系触媒は固体酸性を示す金属酸化物(すなわち、SiO,TiO,Al,ZrO,La,Y,Cr,ZnO,Sn,V,WO)の中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。また固体酸性を示すゼオライト系鉱物及び粘土系鉱物の中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ハロゲン化合物分解剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層破壊低減のためにフロン類の生産・使用規制が始まる前に生産された冷蔵庫や冷房装置(エアコン)が廃棄されつつある。また、フロン類、ハロン類は、工業製品等の洗浄に多用されている。それらの含ハロゲン化合物は、高い温暖化係数を示す温室効果ガスとして、又、フロン類はさらにオゾン層破壊ガスとしても知られている。以下、フロン類、ハロン類のハロゲンを含む化合物や、ハロゲンガス等を総称して「含ハロゲン化合物」という。
【0003】
このため、使用済みの回収した廃棄含ハロゲン化合物を、効率的に分解処理する方法及び装置が要望されている。そこで、当該要望に応えるべく分解処理装置が、例えば、特許文献1、特許文献2が提案されている。
【特許文献1】特開2004−261726号公報
【特許文献2】特開2001−79344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、含ハロゲン化合物のなかでも、ハロン、SF、CFC12等は分解温度が高く、乾式で分解する場合には、高温(800〜900℃程度)が必要となり、この高温処理によって装置劣化の懸念が大きいことから、安定的かつ多量に分解することが難しい。
【0005】
又、従来、触媒を用いて含ハロゲン化合物を分解する場合には、水蒸気を添加する必要があるため、分解時に有害で腐食性の高いハロゲン化水素が発生して装置の劣化が著しく、大規模な排ガス・廃液処理設備が必要なため、高コストになり、安全かつ経済的な含ハロゲン化合物の分解に課題があつた。
【0006】
本発明の目的は、従来に比して大幅に低温で、かつ水を用いない乾式処理で含ハロゲン化合物を分解できる含ハロゲン化合物分解剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明の含ハロゲン化合物分解剤は、固体アルカリ剤に、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなることを特徴としている。ここで、固体酸性とは、固体でありながらブレンステッド酸またはルイス酸の特性を示すものをいう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固体アルカリ剤に固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなる含ハロゲン化合物分解剤を使用すると、含ハロゲン化合物を乾式で分解する場合、従来に比して400〜600℃の温度において分解が可能となり、この低温処理によって装置劣化を抑制することができ、安定的かつ多量に分解することができる。
【0009】
又、本発明では、従来触媒反応で必要であった水蒸気添加を行う必要がないため、大規模な排ガス・廃液処理が不要となる効果がある。又、水蒸気の添加が必要ないため、含ハロゲン化合物の分解時に有害で腐食性の高いハロゲン化水素が発生しにくく、装置の腐食劣化が少ないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明での含ハロゲン化合物は、フロン類、ハロン類、SF、ハロゲン化炭素(例えば、CCl等)、ハロゲン化窒素(例えばNF等)を含む。
ここで、前記固体アルカリ剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物の中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。
【0011】
又、固体酸性を示す前記酸化物系触媒は、金属酸化物、すなわち、SiO,TiO,Al,ZrO,La,Y,Cr,ZnO,Sn,V,WOの中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。
【0012】
前記金属酸化物の中で、チタニア(TiO)にはアナターゼ型及びルチル型を含む。又、アルミナ(Al)はγ−アルミナ等の高比表面積アルミナが好ましい。ここで、前記金属酸化物において、少なくとも1種とは、2種以上の金属酸化物を排除するものではなく、すなわち、多元酸化物を含んでいてもよく、さらには、他の第3成分を含めてもよい。
【0013】
一方、鉱物系触媒は、固体酸性を示すゼオライト系鉱物及び粘土系鉱物の中から少なくとも1種が選ばれていることが好ましい。 ここで、前記固体アルカリ剤が、例えば、焼成カルサイトの場合、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなる触媒によって、含ハロゲン化合物のハロゲンが反応剤の成分であるCaO(酸化カルシウム)と反応し、腐食性がなく安定な固体化合物になる。例えば、フッ素はCaF(フッ化カルシウム)、臭素はCaBr(臭化カルシウム)、塩素はCaCl(塩化カルシウム)等となる。
【0014】
又、前記固体アルカリ剤が、焼成マグネサイトの場合、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなる触媒により、含ハロゲン化合物のハロゲンが反応剤の成分であるMgO(酸化マグネシウム)と反応し、腐食性がなく安定な固体化合物になる。例えば、フッ素はMgF(フッ化マグネシウム)、臭素はMgBr(臭化マグネシウム)、塩素はMgCl(塩化マグネシウム)等となる。
【0015】
前記固体アルカリ剤が、焼成ドロマイトの場合、その成分であるCaO、MgOが、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなる触媒により、含ハロゲン化合物のハロゲンと反応し、腐食性がなく安定な固体化合物になる。例えば、フッ素はCaF(フッ化カルシウム)、MgF(フッ化マグネシウム)、臭素はCaBr(臭化カルシウム)、MgBr(臭化マグネシウム)、塩素はCaCl(塩化カルシウム)、MgCl(塩化マグネシウム)等となる。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
次に、実施例を説明する。実施例1及び比較例1において、含ハロゲン化合物としてハロン1301の分解をそれぞれ行い、分解率30%での温度を測定した。実施例1と比較例1で使用した条件は、下記の通りである。
【0017】
(実施例1)
含ハロゲン分解剤としては、固体アルカリ剤と酸化物系触媒を使用した例である。
固体アルカリ剤 :焼成ドロマイト
触媒 :γ−アルミナ(γ−Al
固体アルカリ剤と触媒の混合割合: 50:50
(比較例1)
比較例1は、固体アルカリ剤のみを使用した比較例である。
【0018】
固体アルカリ剤 :焼成ドロマイトのみ
(実施例1及び比較例1の測定条件)
連続流通式反応装置の固定床に、前記含ハロゲン分解剤の試料粒を1.0g充填し、4.2vol/%の濃度のハロン1301を乾きガス流量50ml/minで、前記固定床に対してSV(空間速度)=2000(1/h)で通過させ、ハロン1301が30%分解したときの固定床の温度を測定した。なお、実施例1及び比較例1とも、水蒸気は無添加、すなわち無加湿で行った。
【0019】
実施例1では、ハロン1301の30%の分解時の温度は470℃であったのに対して、比較例1では、720℃であった。この結果、実施例1では、比較例1よりも250℃も分解温度が低下し、ハロン1301の分解を水蒸気(すなわち、水)を無添加で行った乾きガス流で行えることが確認できた。
【0020】
(分解生成物の確認)
次に、焼成ドロマイトとγ−アルミナからなる含ハロゲン化合物分解剤を使用してハロン1301を分解し、X線回折分析により分解生成物の確認を行った(図1(a)参照)。なお、このときの測定条件は、分解温度を600℃とし、分解温度以外は、上記実施例1の測定条件と同じガス流量、SV(空間速度)とした。
【0021】
図1(a)に示すように、分解時の温度を600℃としたときにはハロン1301の分解生成物としてCaFが生成されていることが確認できた。なお、この例は実施例2となる。
【0022】
図1(b)には、焼成ドロマイトのみを使用して、温度600℃とし、温度以外は、上記実施例1の測定条件と同じとした場合のX線回折分析により分解生成物の確認を行った結果を示す。この比較例では、ハロン1301が分解していないため、図1(a)と異なり、CaFが生成していないことが確認された。この例は比較例2となる。
【0023】
図1(c)にはハロン1301分解に使用される前の焼成ドロマイトのX線回折分析の結果を示す。図1(c)の結果は図1(b)と同じ結果であることが確認された。
なお、図1(a)〜(c)及び図2(a)〜(c)において、「□」はCaO、「▽」はMgO、「○」はCaCO、「△」はCaFのピークを示している。
【0024】
同様に、図2(a)〜(c)には、図1(a)〜(c)との例とは温度のみを変更して、同様にX線回折分析をかけた結果を示す。
すなわち、この例では焼成ドロマイトとγ−アルミナからなる含ハロゲン化合物分解剤を使用してハロン1301を分解し、X線回折分析により分解生成物の確認を図2(a)に示す。なお、このときの測定条件は、分解温度を400℃とし、分解温度以外は、上記実施例1の測定条件と同じガス流量、SV(空間速度)とした。なお、この例は、実施例1の分解生成物をX線回折分析としたものとなる。
【0025】
図2(a)に示すように、分解時の温度を400℃としたときにはハロン1301の分解生成物としてCaFが生成されていることが確認できた。この例は、実施例1の分解生成物をX線回折分析としたものとなる。
【0026】
図2(b)には、焼成ドロマイトのみを使用して、温度400℃とし、温度以外は、上記実施例1の測定条件と同じとした場合において、X線回折分析により分解生成物の確認を行った結果を示す。この比較例では、ハロン1301が分解していないため、図2(a)と異なり、CaFが生成していないことが確認された。この例は比較例1となる。
【0027】
図2(c)には、ハロン1301分解に使用する前の焼成ドロマイトのX線回折分析の結果を示す。図2(c)の結果は図2(b)と同じで結果であることが確認された。
(触媒と水蒸気との関係)
次に、触媒と水蒸気との関係の有無の確認試験を行った。従来は、700〜900℃の高温の分解温度下で、含ハロゲン化合物を水蒸気共存下で分解している。この水蒸気を入れることにより、含ハロゲン化合物は分解し無害な無機物と強酸が生成されるため、装置の腐食の原因となっている。
【0028】
図3のA〜Fは、γ−アルミナ単独、焼成ドロマイト単独、及びγ−アルミナと焼成ドロマイト(混合比は50:50)のそれぞれにおいて、水蒸気の分量を変えて、ハロン1301の分解率を見たものである。なお、測定条件は下記の通りであり、温度600℃で行った。又、水蒸気を導入する場合はハロン1301のガスとともに水蒸気を導入した。
【0029】
(測定条件)
連続流通式反応装置の固定床に前記含ハロゲン化合物分解剤のうち、固体アルカリ剤又は触媒のうち少なくともいずれか一方の試料粒を1.0g充填し、4.2vol/%の濃度のハロン1301を、ガス流量50ml/minで、前記固定床に対してSV(空間速度)=2000(1/h)で通過させ、ハロン1301の分解率を測定した。なお、水蒸気を入れる場合は水蒸気を下記の量分を入れた上で、測定した。
【0030】
なお、図3中、A〜Fは、下記の通りである。
A: γ−アルミナ(γ−Al) 水蒸気 1.5ml/hr
B: 焼成ドロマイト 水蒸気 1.5ml/hr
C: γ−アルミナ+焼成ドロマイト 水蒸気 なし
D: γ−アルミナ+焼成ドロマイト 水蒸気 1.0ml/hr
E: γ−アルミナ+焼成ドロマイト 水蒸気 1.5ml/hr
F: γ−アルミナ+焼成ドロマイト 水蒸気 2.0ml/hr
図3に示すように、「γ−アルミナ+焼成ドロマイト」の場合、水蒸気を導入したD〜Fと、水蒸気を導入しないCとを比較しても、水蒸気の導入の有無による合理的な規則性がなく、水蒸気は分解反応に関係しておらず、ハロン1301の分解率が変わるものとはならないといえる。
【0031】
(他の実施例と比較例)
次に、ハロン分解率と反応温度と関係を下記の実施例3〜7と比較例3〜7で説明する。
【0032】
実施例3〜7は、焼成ドロマイトに下記の触媒を混合比50:50で混合し、下記の測定条件で、ハロン1301の分解を行ったものである。
実施例3の触媒:γ−アルミナ(γ−Al,3mm顆粒状)
実施例4の触媒:チタニア(TiO:アナターゼ型,2〜4mm粒状)
実施例5の触媒:チタニア(TiO:ルチル型,2〜4mm粒状)
実施例6の触媒:セピオライト(粘土,4mm顆粒状)
実施例7の触媒:石炭灰ゼオライト(3〜4mm顆粒状)
なお、図4では、実施例3〜7は、J,K,L,O,Pで示されている。
【0033】
比較例では、ブランク、硫酸カルシウムのみ、リン酸アルミニウムのみ、焼成カルサイトのみ、焼成ドロマイトのみで分解を行ったものである。
比較例3 :ブランク(アルミナウールのみ)
比較例4 :CaSO(2〜4mm粒状)
比較例5 :AlPO(2〜4mm粒状)
比較例6 :CaO(焼成カルサイトのみ,2〜4mm粒状)
比較例7 :CaO・MgO(軽焼ドロマイトのみ,2〜4mm粒状)
なお、図4では、比較例3〜7は、G,H,I,M,Nで示されている。
【0034】
(測定条件)
ハロン1301を含ハロゲン化合物として使用する。なお、ハロン1301は、分解しにくいことが知られており、このハロン1301が分解できれば、他の含ハロゲン化合物に対しても、同様に有効に分解できることとなる。
【0035】
連続流通式反応装置の固定床に、実施例並びに比較例で記載した試料粒を10〜20mmの試料層高として用意し、4.2vol/%の濃度のハロン1301を、ガス流量50ml/min(ドライガス)で、かつ、水蒸気を1.5ml/hr入れて、前記固定床に対してSV(空間速度)=1331〜2663(1/h)で通過させ、ハロン1301の分解率を測定した。
【0036】
なお、本実施例3〜7においても、水蒸気を導入したのは、比較例3〜7と測定条件を同じにするためである。しかし、前述したように、実施例3〜7で導入した水蒸気は、実施例では触媒があるため、何らハロンの分解反応に関係するものではない。
【0037】
(測定結果)
図4に示すように、実施例3〜7では、温度が400〜550℃辺りから、分解率が急上昇して、分解反応が急速に進むことが分かる。それに対して、比較例3〜7では、400〜550℃では、分解反応率がいずれも数%程度であり、極端に低いことが分かる。又、TiOのアナターゼ型では、350℃辺りから分解反応が急速に進むことがわかる。
【0038】
なお、分解率が30%を越える場合、実用的であることが知られていることから、本実施例3〜7では、400〜600℃の範囲という従来よりも低い温度範囲で分解ができ、実用性の高い、含ハロゲン化合物分解剤となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、焼成ドロマイトとγ−アルミナの混合物における600℃で行われたハロン1301の分解生成物のX線回折分析のチャート、(b)は、焼成ドロマイト単独の反応後のX線回折分析のチャート、(c)は、焼成ドロマイト単独の反応前のX線回折分析のチャート。
【図2】(a)は、焼成ドロマイトとγ−アルミナの混合物における400℃で行われたハロン1301の分解生成物のX線回折分析のチャート、(b)は、焼成ドロマイト単独の反応後のX線回折分析のチャート、(c)は、焼成ドロマイト単独の反応前のX線回折分析のチャート。
【図3】600℃におけるハロン1301の分解率の経時変化のグラフ。
【図4】実施例3〜7、比較例3〜7のハロン分解率と温度の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体アルカリ剤に、固体酸性を示す酸化物系触媒及び鉱物系触媒のうち少なくとも1種が含有されてなることを特徴とする含ハロゲン化合物分解剤。
【請求項2】
前記固体アルカリ剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物の中から少なくとも1種が選ばれていることを特徴とする請求項1に記載の含ハロゲン化合物分解剤。
【請求項3】
前記酸化物系触媒が、固体酸性を示す金属酸化物、すなわち、SiO,TiO,Al,ZrO,La,Y,Cr,ZnO,Sn,V,WOの中から少なくとも1種が選ばれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の含ハロゲン化合物分解剤。
【請求項4】
前記鉱物系触媒が、固体酸性を示すゼオライト系鉱物及び粘土系鉱物の中から少なくとも1種が選ばれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の含ハロゲン化合物分解剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−202091(P2009−202091A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46304(P2008−46304)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】