説明

含フッ素エラストマーブレンド物

【課題】分子量分布の異なる複数の含フッ素エラストマーであって、ロール加工性を改善させながら、低硬度化および低モジュラス化を達成せしめる含フッ素エラストマーブレンド物を提供する。
【解決手段】数平均分子量Mn(液体クロマトグラフ法、展開溶媒テトラヒドロフラン、ポリマー濃度0.5重量%、測定温度35℃)がそれぞれ3,000,000以上の高分子量含フッ素エラストマー5〜60重量%、100,000〜1,000,000の中分子量含フッ素エラストマー20〜80重量%および7,000〜13,000の低分子量含フッ素エラストマー10〜50重量%よりなる含フッ素エラストマーブレンド物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーブレンド物に関する。さらに、詳しくは、低硬度の加硫物を与えるので、シール材成形用途に好適に用いられる含フッ素エラストマーブレンド物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ化ビニリデン単位〔VdF〕、ヘキサフルオロプロピレン単位〔HFP〕および必要によりテトラフルオロエチレン単位〔TFE〕からなる、特定の多ピーク型分子量分布および特定の分子量を有する含フッ素エラストマーは、耐熱性、耐油性、耐化学薬品性にすぐれ、またロール混練による物性変化が少なく、押出加工性にすぐれていると述べられている。
【0003】
そこでは、特許文献2に記載されている、分子量分布を2つ以上のピークからなる多ピーク型にすることにより物性と押出加工性とを両立させる方法において、押出速度や物性のバラツキといった問題を解決するために、その分子量分布が
(a) 多ピーク型である
(b) 最も分子量の高いピークの頂点の分子量が35〜55万である
(c) Mw/Mn比が4〜10である
(d) 極限粘度数が40〜200ml/gである
(e) 分子量5万以下の成分割合と極限粘度数の比が0.15〜0.70である
含フッ素エラストマーが提案されている。
【0004】
これらの特許文献1〜2には、けん濁重合法で得られる、分子量分布の異なる2種の含フッ素エラストマーをブレンドして多ピーク型の分子量分布形状を実現しており、この際特に低分子量の含フッ素エラストマーの分子量調整のため、好ましくはジヨードメタン等のヨウ素含有化合物を用いることが教示されている。そして、押出性の改善が課題であるとされているが、具体的な用途については、自動車用燃料ホースが代表的な用途であると述べられているにすぎない。
【0005】
特許文献3には、VdFとHFPまたはVdF、HFPおよび35重量%以下のTFEからなり、極限粘度数が50〜200ml/g、分子量分布が分子量5万以下のものが20〜70%、分子量100万以上のものが2〜30%である、ダブルピーク型の分子量分布を有する含フッ素エラストマー(ブレンド物ではない)に、架橋剤、加硫促進剤、2価金属の酸化物または水酸化物を配合した低硬度フッ素ゴム加硫組成物が記載されている。そして、防振ゴム用途や弱い締付力でシール性が要求されるシール部品用途に好適に用いられる、JIS A硬度(スプリング式硬度)が50以下の低硬度を達成させている。
【0006】
また、本願出願人の出願に係る発明を記載した特許文献4には、一般式RBrnImで表わされる含ヨウ素臭素化合物の存在下で共重合され、TFE 10〜40モル%、VdF 80〜30モル%およびHFP 10〜30モル%の共重合組成を有し、その極限粘度〔η〕が20〜180m/g、Mw/Mn比が2〜20であり、分子量分布がモノピーク型または多ピーク型である燃料系部品成形用含フッ素エラストマーに、ポリオール加硫剤およびポリアミン系加硫剤の少くとも一種、有機過酸化物および多官能性不飽和化合物を配合した含フッ素エラストマー組成物が記載されている。
【0007】
好ましい分子量分布である多ピーク型の含フッ素エラストマーは、加工性を持たせる低分子量成分と物性を持たせる高分子量成分の2つ以上のピークからなり、さらに少くとも低分子量成分に含ヨウ素臭素化合物由来のヨウ素・臭素基を含むエラストマーが用いられ、実際には乳化重合法でそれぞれ得られた高分子量重合体と低分子量重合体とをブレンドする方法が用いられ、ブレンド方法としては例えばこれらのエラストマーラテックスを、所望の割合で混合し、攪拌した後、食塩水等を添加して凝析させることによって行われている。
【0008】
このようにして得られた多ピーク型含フッ素エラストマーは、燃料系部品成形用としては好適に用いられるが、シール材用途に向けられる場合には、硬度の点でのなお一層の改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−258614号公報
【特許文献2】特開平2−160810号公報
【特許文献3】特開平4−268357公報
【特許文献4】WO 2008/050588
【特許文献5】特開平10−212322号公報
【特許文献6】特開平11−181032号公報
【特許文献7】特開2000−7732号公報
【特許文献8】特開2003−165802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、分子量分布の異なる複数の含フッ素エラストマーであって、ロール加工性を改善させながら、低硬度化および低モジュラス化を達成せしめる含フッ素エラストマーブレンド物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、数平均分子量Mn(液体クロマトグラフ法、展開溶媒テトラヒドロフラン、ポリマー濃度0.5重量%、測定温度35℃)がそれぞれ3,000,000以上の高分子量含フッ素エラストマー5〜60重量%、100,000〜1,000,000の中分子量含フッ素エラストマー20〜80重量%および7,000〜13,000の低分子量含フッ素エラストマー10〜50重量%よりなる含フッ素エラストマーブレンド物によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る含フッ素エラストマーブレンド物は、ポリオール系加硫剤または有機過酸化物系架橋剤で加硫されたとき、ロール加工性にすぐれているばかりではなく、低硬度化および低モジュラス化を達成せしめているので、シール材成形用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
高分子量、中分子量および低分子量の含フッ素エラストマーとしては、フッ化ビニリデンと他の含フッ素単量体、例えばヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルエチルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン等の少くとも一種との共重合体が用いられる。具体的には、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。これらの含フッ素共重合体中、フッ化ビニリデンは約40〜90モル%、好ましくは約50〜80モル%共重合されていることが、低硬度化を達成させる点からみて望ましい。
【0014】
これらの含フッ素エラストマー中には、ヨウ素または臭素含有不飽和化合物を約1モル%以下、好ましくは約0.1〜0.5モル%共重合させて、過酸化物架橋点を形成させることもできる。かかるヨウ素または臭素含有不飽和化合物としては、例えばヨードトリフルオロエチレン、パーフルオロ(2-ヨードエチルビニルエーテル)、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、4-ブロモ-3,3,4,4-テトラフルオロブテン-1、パーフルオロ(2-ブロモエチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0015】
含フッ素エラストマーの数平均分子量Mnの調節は、主に連鎖移動剤および重合開始剤の種類および使用量を調節することによって行われる。
【0016】
連鎖移動剤としては、例えばジメチルエーテル、メチル第3ブチルエーテル、C1〜C6のアルカン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、メタン、酢酸エチル、マロン酸エチル、アセトン等が挙げられる。
【0017】
また、過酸化物架橋点は、共重合反応系に共存させた飽和含ヨウ素化合物または含ヨウ素臭素化合物によっても導入することができ、これらの化合物は連鎖移動剤としても作用する。これらの化合物は、特許文献5〜8の記載にみられるように周知の化合物であり、例えば一般式RInまたはInBrmR(ここで、Rはフルオロ炭化水素基、クロロフルオロ炭化水素基、クロロ炭化水素基または炭化水素基であり、n、mはいずれも1または2である)で表わされる飽和含ヨウ素化合物または脂肪族または芳香族の含ヨウ素臭素化合物を挙げることができる。
【0018】
一方、重合開始剤としては、含フッ素エラストマーが水性分散液として調製され、含フッ素エラストマーの水性分散液同士がブレンドされて含フッ素エラストマーブレンド物を形成させるブレンド方法が好ましいという観点から、各含フッ素エラストマーは乳化重合法によって製造されることが好ましく、そのため重合開始剤としては、水溶性無機過酸化物、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムあるいは水溶性アゾ化合物等が単独で、あるいはこれらと亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の還元剤とのレドックス系として用いられる。
【0019】
乳化重合反応に用いられる連鎖移動剤および重合開始剤の使用量を少なく使用する程、一般には生成含フッ素エラストマーの数平均分子量Mnを大きくできる傾向がみられる。したがって、高分子量含フッ素エラストマーを得るには、連鎖移動剤としてイソプロパノール、飽和含ヨウ素化合物を反応原料全量に対して(以下、同基準)約0.05〜0.15重量%用い、また重合開始剤を反応原料全量に対して(以下、同基準)約0.01〜0.1重量%用い、中分子量含フッ素エラストマーを得るには、連鎖移動剤として約0.15〜0.80重量%用い、また重合開始剤を約0.05〜0.3重量%用い、さらに低分子量含フッ素エラストマーを得るには、連鎖移動剤として飽和含ヨウ素化合物を約7〜12重量%用い、また重合開始剤を約0.1〜0.5重量%用いて、共重合反応が行われる。ただし、これらの数値は一つの例であって、共重合組成その他の重合条件によって変わり得る。
【0020】
乳化重合反応は、水溶性無機過酸化物またはそれと還元剤とのレドックス系を触媒として、仕込み水総重量に対して約0.001〜0.2重量%の割合で一般に用いられる乳化剤としての界面活性剤、例えば
C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
C7F15COONH4
C8F17COONH4
等の界面活性剤の存在下に、一般に圧力約0〜10MPa、好ましくは約0.5〜4MPa、温度約0〜100℃、好ましくは約20〜80℃の条件下で行われる。その際、反応圧力が一定範囲に保たれるように、供給する含フッ素単量体混合物を分添方式で供給することが好ましい。また、重合系内のpHを調節するために、Na2HPO4、NaH2PO4、KH2PO4等の緩衝能を有する電解質物質あるいは水酸化ナトリウムを添加してもよい。
【0021】
乳化重合されて得られた各含フッ素エラストマー水性分散液は、固形分としての含フッ素エラストマーが、高分子量のものが5〜60重量%、好ましくは10〜50重量%、中分子量のものが20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、低分子量のものが10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%の割合となるように互いに水性分散液の状態で混合され、そこにカリミョウバン水溶液、NaCl水溶液、KCl水溶液、CaCl2水溶液等の凝固性無機塩水溶液を添加して共凝析させ、これを水洗、乾燥させて、含フッ素エラストマーブレンド物を得ることができる。
【0022】
ここで、高分子量含フッ素エラストマー、中分子量含フッ素エラストマーおよび低分子量含フッ素エラストマーのブレンド割合が上記の如く限定されるのは、高分子量成分がこれよりも多いと、押出成形時のダイスウェルが大きくなり、一方低分子量成分がこれよりも多いと、凝析時に大きな塊となって水洗が難しくなり、また加硫物性も悪化するという理由による。
【0023】
なお、高分子量、中分子量および低分子量の各含フッ素エラストマーの数平均分子量Mnは、次のような測定条件下で測定された値を示している。
液体クロマトグラフ:島津製作所製品SCL-6B
カラム:昭和電工製品KF-801、KF-802、KF-802.5、KF-805
検出器:島津製作所製SPD-10A
展開溶媒:テトラヒドロフラン
ポリマー濃度:0.5重量%
測定温度:35℃
【0024】
このような測定方法で測定されたMnは、高分子量含フッ素エラストマーにあっては3,000,000以上、好ましくは5,000,000〜10,000,000であり、中分子量含フッ素エラストマーにあっては100,000〜1,000,000であり、また低分子量含フッ素エラストマーにあっては7,000〜13,000、好ましくは8,000〜10,000である。
【0025】
得られた含フッ素エラストマーブレンド物は、架橋性基となるヨウ素基またはヨウ素臭素基を有しない場合には、含フッ素エラストマーの加硫に一般に用いられているポリオール加硫剤および4級オニウム塩加硫促進剤によって共加硫される。また、架橋性基となるヨウ素基またはヨウ素臭素基を含フッ素エラストマー共重合体の分子末端に有する場合には、この種の含フッ素エラストマーの架橋に一般に用いられている有機過酸化物架橋剤および多官能性不飽和化合物共架橋剤によって共架橋される。かかる見地からは、同一加硫または架橋タイプの高分子量、中分子量および低分子量の含フッ素エラストマー同士が用いられることが好ましい。加硫または架橋される含フッ素エラストマーブレンド物中には、必要に応じてカーボンブラック、シリカ等の補強剤または充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、ハイドロタルサイト類縁化合物等の受酸剤等が適宜配合されて用いられる。
【実施例】
【0026】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0027】
実施例1
(1) 容量10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応媒体を仕込んだ。
界面活性剤 C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 8.5g
Na2HPO4・12H2O 5.0g
イオン交換水 5000ml
オートクレーブ内を再び窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応原料を仕込んだ。
フッ素ビニリデン〔VdF〕 380g( 56.0モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 700g( 44.0モル%)
イソプロピルアルコール〔IPA〕 2.0g(0.065重量%)
【0028】
次いで、オートクレーブ内の温度を80℃とした。このとき、32相対バール(32×105相対Pa)の圧力であった。そこに、過硫酸アンモニウム〔APS〕0.5g(0.016重量%)を0.3重量%水溶液として加え、重合反応を開始させた。圧力を、31〜32相対バール(31〜32×105相対Pa)に保ったまま、下記反応原料を加え、80℃で2時間共重合反応させた。
VdF 1200g(77.8モル%)
HFP 800g(22.2モル%)
反応終了後冷却し、未反応残ガスを排出して、7128gの乳化液(水性分散液I;固形分濃度29.4重量%)を得た。
【0029】
この水性分散液Iの一部に、10重量%NaCl水溶液を加えて重合物を凝析させ、それを水洗、乾燥して得られた共重合体について、次の如き方法によって数平均分子量Mnを測定すると、4900×103であった。
液体クロマトグラフ:島津製作所製品SCL-6B
カラム:昭和電工製品KF-801、KF-802、KF-802.5、KF-805
検出器:島津製作所製SPD-10A
展開溶媒:テトラヒドロフラン
ポリマー濃度:0.5重量%
測定温度:35℃
また、この共重合体の共重合組成(19F-NMRによる)を測定すると、VdF77.7モル%、HFP
22.3モル%であった。
【0030】
(2) 上記(1)において、IPA量を5.0g(0.162重量%)に、APS量を3.0g(0.097重量%)にそれぞれ変更し、7128gの乳化液(水性分散液II;固形分濃度29.8重量%、共重合体Mn 185×103、共重合組成 VdF77.4モル%、HFP22.6モル%)を得た。
【0031】
(3) 前記(1)において、IPAの代りにCF3(CF2)4CF2I〔FHI〕270g(8.77重量%)が用いられ、またAPS量を7.0g(0.227重量%)に変更して、7152gの乳化液(水性分散液III;固形分濃度30.2重量%、共重合体Mn 9.4×103、共重合組成 VdF77.9モル%、HFP22.1モル%)を得た。
【0032】
(4) 水性分散液I、II、IIIを20:50:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF77.6モル%、HFP22.4モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)68を有する含フッ素エラストマーAを2015g得た。
【0033】
実施例2
(1) 容量10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応媒体を仕込んだ。
界面活性剤 C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 19.3g
Na2HPO4・12H2O 10.0g
イオン交換水 5200ml
オートクレーブ内を再び窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応原料を仕込んだ。
フッ素ビニリデン〔VdF〕 101g( 34.3モル%)
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 49g( 10.7モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 380g( 55.1モル%)
イソプロピルアルコール〔IPA〕 2.0g(0.074重量%)
【0034】
次いで、オートクレーブ内の温度を80℃とした。このとき、30相対バール(30×105相対Pa)の圧力であった。そこに、過硫酸アンモニウム〔APS〕0.8g(0.030重量%)を0.3重量%水溶液として加え、重合反応を開始させた。圧力を、29〜30相対バール(29〜30×105相対Pa)に保ったまま、下記反応原料を加え、80℃で2時間共重合反応させた。
VdF 1034g(63.5モル%)
TFE 496g(19.5モル%)
HFP 650g(17.0モル%)
反応終了後冷却し、未反応残ガスを排出して、7448gの乳化液(水性分散液IV;固形分濃度28.5重量%、共重合体Mn 4400×103、共重合組成 VdF64.0モル%、TFE19.2モル%、HFP16.8モル%)を得た。
【0035】
(2) 上記(1)において、IPA量を9.0g(0.332重量%)に、APS量を3.0g(0.111重量%)にそれぞれ変更し、7422gの乳化液(水性分散液V;固形分濃度29.2重量%、共重合体Mn 193×103、共重合組成 VdF64.5モル%、TFE19.1モル%、HFP16.4モル%)を得た。
【0036】
(3) 前記(1)において、IPAの代りにCF3(CF2)4CF2I〔FHI〕270g(9.96重量%)が用いられ、またAPS量を9.0g(0.332重量%)に変更して、7522gの乳化液(水性分散液VI;固形分濃度30.4重量%、共重合体Mn 8.8×103、共重合組成 VdF64.4モル%、TFE19.6モル%、HFP16.0モル%)を得た。
【0037】
(4) 水性分散液IV、V、VIを20:50:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF64.3モル%、TFE19.3モル%、HFP16.4モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)71を有する含フッ素エラストマーBを2094g得た。
【0038】
実施例3
(1) 容量10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応媒体を仕込んだ。
界面活性剤 C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 19.3g
Na2HPO4・12H2O 10.0g
イオン交換水 5200ml
オートクレーブ内を再び窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応原料を仕込んだ。
フッ素ビニリデン〔VdF〕 101g( 34.3モル%)
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 49g( 10.7モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 380g( 55.1モル%)
2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン〔BDFE〕 8.3g
オクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン〔DIOFB〕 3.0g(0.111重量%)
【0039】
次いで、オートクレーブ内の温度を80℃とした。このとき、30相対バール(30×105相対Pa)の圧力であった。そこに、過硫酸アンモニウム〔APS〕1.0g(0.037重量%)を0.3重量%水溶液として加え、重合反応を開始させた。圧力を、29〜30相対バール(29〜30×105相対Pa)に保ったまま、下記反応原料を加え、80℃で2時間共重合反応させた。
VdF 1034g(63.5モル%)
TFE 496g(19.5モル%)
HFP 650g(17.0モル%)
反応終了後冷却し、未反応残ガスを排出して、7326gの乳化液(水性分散液VII;固形分濃度30.5重量%、共重合体Mn 3800×103、共重合組成 VdF65.5モル%、TFE19.1モル%、HFP15.4モル%)を得た。
【0040】
(2) 上記(1)において、DIOFB量を15.0g(0.554重量%)に、APS量を3.0g(0.111重量%)にそれぞれ変更し、7326gの乳化液(水性分散液VIII;固形分濃度31.1重量%、共重合体Mn 187×103、共重合組成 VdF64.0モル%、TFE19.5モル%、HFP16.5モル%)を得た。
【0041】
(3) 前記(1)において、BDFEおよびDIOFBの代りにCF3(CF2)4CF2I〔FHI〕270g(9.96重量%)が用いられ、APS量を9.0g(0.332重量%)に変更し、また2重量%NaCl水溶液の代りに2重量%CaCl2水溶液を用いて、7382gの乳化液(水性分散液IX;固形分濃度30.8重量%、共重合体Mn 10.5×103、共重合組成 VdF65.8モル%、TFE19.3モル%、HFP14.9モル%)を得た。
【0042】
(4) 水性分散液VII、VIII、IXを20:50:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF64.8モル%、TFE19.4モル%、HFP15.8モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)73を有する含フッ素エラストマーCを2121g得た。
【0043】
実施例4
(1) 容量10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応媒体を仕込んだ。
界面活性剤 C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 35g
Na2HPO4・12H2O 17g
イオン交換水 5500ml
オートクレーブ内を再び窒素ガスで置換し、脱気した後、下記反応原料を仕込んだ。
フッ素ビニリデン〔VdF〕 550g( 57.0モル%)
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 120g( 8.0モル%)
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 880g( 35.0モル%)
オクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン〔DIOFB〕 3.0g(0.101重量%)
【0044】
次いで、オートクレーブ内の温度を80℃とした。このとき、30相対バール(30×105相対Pa)の圧力であった。そこに、レドックス系を形成させる過硫酸アンモニウム〔APS〕0.5g(0.019重量%)および亜硫酸水素ナトリウム〔SBS〕0.05gを0.3重量%水溶液として加え、重合反応を開始させた。圧力を、29〜30相対バール(29〜30×105相対Pa)に保ったまま、下記反応原料を加え、50℃で2時間共重合反応させた。
VdF 930g(79.6モル%)
TFE 210g(11.5モル%)
FMVE 270g( 8.9モル%)
温度を50℃に保ったまま圧力を1相対バール(1×105相対Pa)迄降下させた後冷却し、未反応残ガスを排出して、8652gの乳化液(水性分散液X;固形分濃度33.4重量%、共重合体Mn 3100×103、共重合組成 VdF70.1モル%、TFE12.4モル%、FMVE17.5モル%)を得た。
【0045】
(2) 上記(1)において、DIOFB量を13.0g(0.439重量%)に、APS量を1.0g(0.037重量%)に、SBS量を0.10gにそれぞれ変更し、8677gの乳化液(水性分散液XI;固形分濃度33.4重量%、共重合体Mn 204×103、共重合組成 VdF69.7モル%、TFE11.7モル%、FMVE18.6モル%)を得た。
【0046】
(3) 前記(1)において、DIOFBの代りにCF3(CF2)4CF2I〔FHI〕270g(9.12重量%)が用いられ、APS量を9.0g(0.334重量%)に、SBS量を0.9gにそれぞれ変更して、8625gの乳化液(水性分散液XII;固形分濃度33.8重量%、共重合体Mn 9.8×103、共重合組成 VdF70.5モル%、TFE12.3モル%、FMVE17.2モル%)を得た。
【0047】
(4) 水性分散液X、XI、XIIを20:50:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF70.0モル%、TFE12.0モル%、FMVE18.0モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)69を有する含フッ素エラストマーDを2778g得た。
【0048】
比較例1
水性分散液IIに、10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF77.4モル%、HFP22.6モル%の共重合組成およびムーニー粘度ML1+10(121℃)70の含フッ素エラストマーEを1974g得た。
【0049】
比較例2
水性分散液Vに、10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF64.5モル%、TFE19.1モル%、HFP16.4モル%の共重合組成およびムーニー粘度ML1+10(121℃)74の含フッ素エラストマーFを2055g得た。
【0050】
比較例3
水性分散液IとIIIとを、70:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF77.8モル%、HFP22.2モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)50を有する含フッ素エラストマーGを2028g得た。
【0051】
比較例4
水性分散液IVとVIとを、70:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF64.1ル%、TFE19.3モル%、HFP16.6モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)55を有する含フッ素エラストマーHを2098g得た。
【0052】
比較例5
水性分散液VIIIに、10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF64.0モル%、TFE19.5モル%、HFP16.5モル%の共重合組成およびムーニー粘度ML1+10(121℃)72の含フッ素エラストマーIを2043g得た。
【0053】
比較例6
水性分散液XIに、10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF69.7モル%、TFE11.7モル%、FMVE18.6モル%の共重合組成およびムーニー粘度ML1+10(121℃)80の含フッ素エラストマーJを2844g得た。
【0054】
比較例7
水性分散液VIIとIXとを、70:30の重量比で混合し、その混合液に10重量%NaCl水溶液を1:1の重量比で加えて、重合物を共凝析させた後、水洗、乾燥して、VdF65.5モル%、TFE19.2モル%、HFP15.3モル%の共重合組成(19F-NMRによる)およびムーニー粘度ML1+10(121℃)53を有する含フッ素エラストマーKを2108g得た。
【0055】
以上の実施例1、2および比較例1〜4で得られた各種含フッ素エラストマー100部(重量、以下同じ)に、
MTカーボンブラック(キャンキャブ製品サーマックスN990) 25部
加硫剤(ビスフェノールAF) 2部
加硫促進剤(ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド) 0.5部
受酸剤(共和化学製品キョウワマグ#150) 3部
受酸剤(近江化学製品Caldic#2000) 5部
を加えて2本ロールミルで混和し、得られた硬化性組成物を180℃で10分間圧縮成形して、シート(厚さ2mm)およびOリング(P24)を成形し、さらに230℃で22時間のオーブン加硫(二次加硫)を行った。
【0056】
また、実施例3、4および比較例5〜7で得られた各種含フッ素エラストマー100部に、
MTカーボンブラック(サーマックスN990) 30部
共架橋剤(日本化成製品TAIC M60;トリアリルイソシアヌレート) 6部
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ 25B-40) 1.4部
ZnO 4部
を加えて2本ロールミルで混和し、得られた硬化性組成物を180℃で10分間圧縮成形して、シート(厚さ2mm)およびOリング(P24)を成形し、さらに230℃で22時間のオーブン加硫(二次加硫)を行った。
【0057】
得られた二次加硫物について、次のような各種試験が行われた。得られた結果は、用いられた含フッ素エラストマーの種類と共に、次の表に示される。
常態物性:JIS K6250、K6253準拠
圧縮永久歪:ASTM D395 Method B準拠
P24 Oリングについて、200℃、70時間および230℃、70時間の値を測 定
ロール加工性:
巻き付き性 ○:ロールによく付着する
△:ロールから若干剥がれる傾向がみられる
×:混練中にロールから剥がれる
しっとり感 ○:生地がしっとりとしていて、ぼそぼそしていない
△:しっとり感に劣り、若干ぼそぼそしている
×:しっとり感がなく、ぼそぼそ感が強い
充填剤練込性 ○:充填剤がロールの下に落ちない
△:充填剤がロールの下に若干落ちる
×:充填剤がロールの下に落ち、頻繁に再投入が必要である

実施例 比較例

〔含フッ素エラストマー〕
種類 A B C D E F G H I J K
〔常態物性〕
硬さ (Duro A) 61 60 65 64 69 69 62 62 72 70 67
100%モジュラス(MPa) 2.8 2.8 3.1 3.9 3.9 3.8 3.1 3.0 4.0 5.7 3.3
破断時強さ (MPa) 14.6 13.9 14.4 17.9 14.5 14.7 15.0 15.2 13.2 18.2 15.5
破断時伸び (%) 300 350 300 280 250 300 280 330 280 230 280
〔圧縮永久歪〕
200℃、70hrs (%) 11 24 39 32 13 25 13 23 42 33 38
230℃、70hrs (%) 29 39 62 57 30 40 32 38 65 61 59
〔ロールの加工性〕
巻き付き性 ○ ○ ○ ○ △ △ ○ ○ △ △ ○
しっとり感 ○ ○ ○ ○ × × △ △ × × △
充填剤練込性 ○ ○ ○ ○ △ △ ○ ○ △ △ ○

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量Mn(液体クロマトグラフ法、展開溶媒テトラヒドロフラン、ポリマー濃度0.5重量%、測定温度35℃)がそれぞれ3,000,000以上の高分子量含フッ素エラストマー5〜60重量%、100,000〜1,000,000の中分子量含フッ素エラストマー20〜80重量%および7,000〜13,000の低分子量含フッ素エラストマー10〜50重量%よりなる含フッ素エラストマーブレンド物。
【請求項2】
高分子量含フッ素エラストマーが10〜50重量%、中分子量含フッ素エラストマー30〜70重量%および低分子量含フッ素エラストマー20〜40重量%よりなる請求項1記載の含フッ素エラストマーブレンド物。
【請求項3】
含フッ素エラストマーがフッ化ビニリデンと他の含フッ素単量体との共重合体である請求項1または2記載の含フッ素エラストマーブレンド物。
【請求項4】
他の含フッ素単量体がヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびクロロトリフルオロエチレンの少くとも一種である請求項3記載の含フッ素エラストマーブレンド物。
【請求項5】
含フッ素エラストマーがフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体である請求項4記載の含フッ素エラストマーブレンド物。
【請求項6】
それぞれ水性分散液として調製された高分子量含フッ素エラストマー、中分子量含フッ素エラストマーおよび低分子量含フッ素エラストマーを混合した後、凝固性無機塩水溶液を加えて共凝析させた重合物が用いられた請求項1記載の含フッ素エラストマーブレンド物。

【公開番号】特開2012−97204(P2012−97204A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246405(P2010−246405)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】