説明

含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法

【課題】簡便な操作により、高収率の精製が可能な含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】(RfSO)(RfSO)NHで示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、RfSOHで示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留することを特徴とする含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法を選択する。但し、上記Rf、Rfは、RfとRfがいずれもフッ素であることを除き、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基であり、Rfは炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法の改良に関するものであり、特に、含フッ素スルホニルイミド化合物の精製に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含フッ素スルホニルイミド化合物は、イオン導伝材料やイオン液体のアニオン源として有用な物質であることが知られている。また、イオン液体は、特に電池やキャパシタの電解質、反応溶媒や触媒等として期待されており、例えば、フッ素化されたイミド化合物である含フッ素スルホニルイミド酸の塩と、イミダゾリウム臭化物塩のような第4級アミンのハロゲン化物塩とを塩交換することによって得られることが一般に知られている。
【0003】
このような含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法としては、例えば、特許文献1,2が知られている。具体的に、特許文献1には、下記式(A)に示すように、ペルフルオロアルキルスルホンアミド(RfSONH)と、ペルフルオロアルキルスルホニルハライド(RfSOX)と、フッ化カリウム等のフッ素化合物(MF)と、をアセトニトリルなどの有機溶媒下で反応させて、ペルフルオロアルキルスルホンイミド塩((RfSO)(RfSO)N・M)を製造する方法が開示されている。
【0004】
【化1】

上記式(A)において、Rf及びRfはペルフルオロアルキル基等を、Mはアルカリ金属等を、Xはフッ素又は塩素をそれぞれ示している。
【0005】
また、特許文献2には、下記式(B)に示すように、ペルフルオロアルキルスルホンアミドとペルフルオロアルキルスルホニルハライドとを第3級アミンあるいは複素環式アミン(NR)存在下で反応させて、ペルフルオロアルキルスルホンイミド塩((RfSO)(RfSO)N・M)を製造する方法が開示されている。
【0006】
【化2】

上記式(B)において、Rf及びRfはペルフルオロアルキル基等を、R〜Rはアルキル基等をそれぞれ示している。
【0007】
ところで、特許文献3には、含フッ素スルホニルイミド化合物を製造する過程において、スルホン酸化合物が不純物として副生することが開示されている。また、特許文献6には、含フッ素スルホニルイミド塩の製造過程において、少量の水が存在するとスルホン酸塩が副生することが開示されている。このように、実際の含フッ素スルホニルイミド化合物を製造する際には、イミド化反応に使用する原料や溶媒から完全に水を除くことが困難であるため、スルホン酸化合物の副生は避けられないのが現状である。
【0008】
また、スルホンアミド化合物とスルホニルハライドとを反応させて含フッ素スルホニルイミド化合物を製造する場合には、スルホンアミド化合物の製造時に副生したスルホン酸化合物がスルホンアミド化合物と共にイミド化反応に持ち込まれることもある。
【0009】
このように、含フッ素スルホニルイミド化合物の製造においては、その製造過程において不純物であるスルホン酸化合物が副生するため、このスルホン酸化合物の除去等の含フッ素スルホニルイミド化合物の精製が必要となる。
【0010】
このような含フッ素スルホニルイミド化合物の精製方法としては、例えば、特許文献4〜6が知られている。具体的に、特許文献4には、スルホンイミドリチウム塩を1、4−ジオキサンを加え再結晶精製する方法が開示されている。
また、特許文献5には、スルホンイミドアンモニウム塩を水酸化ナトリウム水溶液で再結晶又は洗浄する方法が開示されている。
さらに、特許文献6には、スルホンイミド塩を疎水性有機溶剤と水との混合溶媒と混合して攪拌した後、水層を分離し、有機層を濃縮乾燥させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−288193号公報
【特許文献2】特開平8−81436号公報
【特許文献3】特開2000−302748号公報
【特許文献4】特許第3750179号公報
【特許文献5】特許第3874585号公報
【特許文献6】特開2009−263259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献4に記載された方法では、大量の溶媒(1、4−ジオキサン)を使用し、再結晶を繰り返し行う必要があるため、工業的には有利な方法であるとはいえなかった。
また、特許文献5に記載された方法では、アンモニアが遊離するため、水酸化ナトリウム水溶液の濃度管理が必要であった。また、再結晶を繰り返し行う必要があり、操作が煩雑であるという問題があった。
さらに、特許文献6に記載された方法では、目的物であるスルホンイミド塩の水層へのロスが大きいため、疎水性有機溶剤で繰り返し抽出する必要があった。また、不純物であるスルホン酸塩が有機層に一部混入されるため、水洗を繰り返す必要があった。さらに、可燃性物質を大量に使用するため、安全性の確保が可能な設備が必要であった。
上述のように、含フッ素スルホニルイミド化合物に関して、含フッ素スルホニルイミド塩を用いた種々の精製方法が提案されていたが、いずれも工業的に有利な方法とは言い難いのが現状である。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便な操作により、高収率の精製が可能な含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、含フッ素スルホニルイミド酸とスルホン酸との混合物に水を加えると、スルホン酸が水和物を形成して沸点が大きく上昇するのに対し、含フッ素スルホニルイミド酸は水和物を形成しないことを確認した。そして、沸点の近い含フッ素スルホニルイミド酸とスルホン酸との混合液を水の存在下で蒸留することにより、含フッ素スルホニルイミド酸とスルホン酸とを効率的に分離できることを見出して本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 下記式(1)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、下記式(2)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留することを特徴とする含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
(RfSO)(RfSO)NH ・・・(1)
RfSOH・・(2)
但し、上記式(1)において、Rf、Rfは、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基であり、RfとRfとがいずれもフッ素である組合せを除く。
また、上記式(2)において、Rfは、炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
【0016】
[2] 前記スルホン酸化合物に対してモル比で1倍以上となるように、前記混合物に水を添加することを特徴とする前項[1]に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
【0017】
[3] 下記式(3)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩と、下記式(4)に示されるスルホン酸化合物塩と、の混合物に酸性溶液を添加した後に蒸留することを特徴とする前項[1]又は[2]に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
(RfSO)(RfSO)N・M ・・・(3)
RfSO・M・・(4)
但し、上記式(3)において、Rf、Rfは、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基であり、RfとRfとがいずれもフッ素である組合せを除く。
また、上記式(4)において、Rfは、炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
また、上記式(3)、(4)において、Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびオニウムイオンである。
【0018】
[4] 前記酸性溶液が、硫酸水溶液であることを特徴とする前項[3]に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法によれば、含フッ素スルホニルイミド化合物とスルホン酸化合物とを水の存在下で蒸留することにより、含フッ素スルホニルイミド酸とスルホン酸とを効率的に分離、精製することが可能となる。したがって、簡便な操作により、高収率の精製が可能な含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法について、詳細に説明する。
本発明の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法は、下記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、下記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留するものである。
(RfSO)(RfSO)NH ・・・(5)
RfSOH・・(6)
但し、上記式(5)において、Rf、Rfは、RfとRfがいずれもフッ素であることを除き、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
また、上記式(6)において、Rfは、炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
【0021】
ここで、上記式(5)で表される含フッ素スルホニルイミド化合物であるペルフルオロアルキルスルホンイミドは、RfとRfとが同一の場合(対称構造)として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CFSONH]、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[(CSONH]、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド[(CSONH]、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド[(CSONH]等のペルフルオロアルキルスルホンイミド類が挙げられる。
但し、RfとRfとがいずれもフッ素であるビス(フルオロスルホニル)イミド[(FSONH]は除かれる。
なお、本発明のRf及びRfにおいて、炭素数3又は4の場合には、直鎖状以外に分岐状の構造異性体を含んでいる(以下、同様)。
【0022】
また、RfとRfとが異なる場合(非対称構造)として、トリフルオロ−N−(フルオロスルホニル)メタンスルホニルアミド[(FSO)(CFSO)NH]、ペンタフルオロ−N−(フルオロスルホニル)エタンスルホニルアミド[(FSO)(CSO)NH]、ヘプタフルオロ−N−(フルオロスルホニル)プロパンスルホニルアミド[(FSO)(CSO)NH]、ノナフルオロ−N−(フルオロスルホニル)ブタンスルホニルアミド[(FSO)(CSO)NH]、ペンタフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]エタンスルホニルアミド[(CFSO)(CSO)NH]、ヘプタフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]プロパンスルホニルアミド[(CFSO)(CSO)NH]、ノナフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド[(CFSO)(CSO)NH]、ヘプタフルオロ−N−[(ペンタフルオロエタン)スルホニル]プロパンスルホニルアミド[(CSO)(CSO)NH]、ノナフルオロ−N−[(ペンタフルオロエタン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド[(CSO)(CSO)NH]、ノナフルオロ−N−[(ヘプタフルオロプロパン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド[(CSO)(CSO)NH]等が挙げられる。
【0023】
また、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物であるペルフルオロアルキルスルホン酸としては、トリフルオロメチルスルホン酸(CFSOH)、ペンタフルオロエチルスルホン酸(CSOH)、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸(CSOH)、ノナフルオロブチルスルホン酸(CSOH)が挙げられる。
【0024】
より具体的な方法は、先ず、上述した特許文献1又は2に記載された従来の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法等により、下記式(7)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩を製造する。この製造方法の際に、不純物として下記式(8)に示されるスルホン酸化合物塩が副生する。
(RfSO)(RfSO)N・M ・・・(7)
RfSO・M・・(8)
但し、上記式(7)において、Rf、Rfは、RfとRfがいずれもフッ素であることを除き、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
また、上記式(8)において、Rfは炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
また、上記式(7)、(8)において、Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびオニウムイオンである。
【0025】
ここで、上記式(7)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩であるペルフルオロアルキルスルホンイミド塩は、RfとRfとが同一の場合(対称構造)として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩[(CFSON・M]、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩[(CSON・M]、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド塩[(CSON・M]、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド塩[(CSON・M]等のペルフルオロアルキルスルホンイミド塩類が挙げられる。
但し、RfとRfとがいずれもフッ素であるビス(フルオロスルホニル)イミド塩[(FSON・M]は除かれる。
なお、本発明のRf及びRfにおいて、炭素数3又は4の場合には、直鎖状以外に分岐状の構造異性体を含んでいる(以下、同様)。
【0026】
また、RfとRfとが異なる場合(非対称構造)として、トリフルオロ−N−(フルオロスルホニル)メタンスルホニルアミド塩[(FSO)(CFSO)N・M]、ペンタフルオロ−N−(フルオロスルホニル)エタンスルホニルアミド塩[(FSO)(CSO)N・M]、ヘプタフルオロ−N−(フルオロスルホニル)プロパンスルホニルアミド塩[(FSO)(CSO)N・M]、ノナフルオロ−N−(フルオロスルホニル)ブタンスルホニルアミド塩[(FSO)(CSO)N・M]、ペンタフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]エタンスルホニルアミド塩[(CFSO)(CSO)N・M]、ヘプタフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]プロパンスルホニルアミド塩[(CFSO)(CSO)N・M]、ノナフルオロ−N−[(トリフルオロメタン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド塩[(CFSO)(CSO)N・M]、ヘプタフルオロ−N−[(ペンタフルオロエタン)スルホニル]プロパンスルホニルアミド塩[(CSO)(CSO)N・M]、ノナフルオロ−N−[(ペンタフルオロエタン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド塩[(CSO)(CSO)N・M]、ノナフルオロ−N−[(ヘプタフルオロプロパン)スルホニル]ブタンスルホニルアミド塩[(CSO)(CSO)N・M]等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の上記式(7)で表されるペルフルオロアルキルスルホンイミド塩において、Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびオニウムイオンある。
具体的には、アルカリ金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属元素としては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。
【0028】
また、オニウムイオンとしては、例えば、窒素、硫黄、酸素、リン、セレン、錫、ヨウ素、アンチモン等の孤立電子対を有する元素を含んだ化合物に陽イオン型の原子団が配位して生ずる少なくとも一つの有機基を有するカチオンであればよく、特に制限されない。
【0029】
また、本発明の上記式(8)に示されるスルホン酸化合物塩であるペルフルオロアルキルスルホン酸塩としては、トリフルオロメチルスルホン酸塩(CFSO・M)、ペンタフルオロエチルスルホン酸塩(CSO・M)、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸塩(CSO・M)、ノナフルオロブチルスルホン酸塩(CSO・M)が挙げられる。
【0030】
また、本発明の上記式(8)で表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩において、Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびオニウムイオンである。なお、これらの例については、上記式(7)で例示したものと同じものを示すことができる。
【0031】
次に、上記式(7)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩と、上記式(8)に示されるスルホン酸化合物塩との混合物に酸性溶液を添加して混合液を調整した後、この混合液を蒸留する。
【0032】
本発明の酸性溶液としては、上記式(7)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩及び上記式(8)に示されるスルホン酸化合物塩から、それぞれ上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、を生成することが可能なものであれば、特に限定されるものではない。
【0033】
このような酸性溶液としては、具体的には、例えば、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液が挙げられるが、特に硫酸水溶液を用いることが好ましい。
【0034】
また、酸性溶液の添加量は、調整された混合液中において、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物に対してモル比で1倍以上の水が存在するような量とすることが好ましい。
【0035】
このように、酸性溶液を添加することにより、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留することになる。
【0036】
本発明の蒸留は、分離対象である上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物に応じて、最適な蒸留方法及び温度条件等を適宜選択する。
具体的には、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留する場合、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物が水和物を形成して沸点が大きく上昇するため、これらを考慮した蒸留方法(例えば、減圧蒸留等)や、温度条件を用いる。
【0037】
ところで、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物をそのまま蒸留する場合では、互いの沸点が近いため、蒸留による分離が困難であった。
具体的には、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CFSONH]を、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物としてトリフルオロメチルスルホン酸(CFSOH)を用いた場合には、沸点はそれぞれ163℃、162℃と非常に近いため、高純度で精製することは困難であった。
【0038】
これに対して、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留する場合では、上記スルホン酸化合物が水和物を形成して沸点が大きく上昇する。このため、蒸留温度が低い側に上記含フッ素スルホニルイミド化合物が、高い側に上記スルホン酸化合物が分離され、高純度の含フッ素スルホニルイミド化合物を得ることができる。
具体的には、上記式(5)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CFSONH]を、上記式(6)に示されるスルホン酸化合物としてトリフルオロメチルスルホン酸(CFSOH)を用いた場合には、スルホン酸化合物の水和物の沸点が約260℃に上昇するため、高純度で精製することが可能である。
【0039】
以上説明したように、本発明の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法によれば、含フッ素スルホニルイミド化合物とスルホン酸化合物とを水の存在下で蒸留することにより、含フッ素スルホニルイミド酸とスルホン酸とを効率的に分離、精製することが可能となる。したがって、簡便な操作により、高収率の精製が可能な含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
<(CSONKの合成>
1Lのフラスコに20%アンモニア水500gを仕込み、40℃にてヘプタフルオロプロパンスルホニルフロライド(CSOF)300gを滴下して、ヘプタフルオロプロパンスルホンアミド(CSONH)を合成した。その後、反応液に48%水酸化カリウム(KOH)水溶液280gを加えて、濃縮した。
1Lのフラスコに、濃縮物81gとヘプタフルオロプロパンスルホニルフロライド(CSOF)57gを仕込み、溶媒としてアセトニトリル300gを用いて40℃にて20時間撹拌した。その後不溶物をろ過し、ろ液からアセトニトリルを留去して白色結晶103gを得た。得られた結晶は19F−NMRより、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム塩((CSONK)86gとへプタフルオロプロパンスルホン酸カリウム塩(CSOK)17gの混合物であった。
【0042】
<(CSONHの精製>
この混合物103gと90%硫酸150gを仕込み、100℃、5torrで減圧蒸留を行い、78gのビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド((CSONH)を得た。(収率98%)
得られたビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドの19F−NMRによる測定の結果、へプタフルオロプロパンスルホン酸(CSOH)は検出されなかった。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様の製法で得られたビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム塩((CFSONK)とトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(CFSOK)の混合物(CFSOKを10重量%含有)60gと90%硫酸水溶液153gを加え、130℃、50torrで減圧蒸留を行い、47gのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CFSONH)を得た。(収率99%)
得られたビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの19F−NMRによる測定の結果、トリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)は検出されなかった。
【0044】
(比較例1)
実施例2と同じビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム塩((CFSONK)とトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(CFSOK)の混合物(CFSOKを10重量%含有)60gと100%硫酸138gを加え、130℃、50torrで蒸留を行い、50gの留分を得た。
得られた留分の19F−NMRによる測定の結果、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの他にトリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)が9重量%検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物と、下記式(2)に示されるスルホン酸化合物と、の混合物を水の存在下で蒸留することを特徴とする含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
(RfSO)(RfSO)NH ・・・(1)
RfSOH・・(2)
但し、上記式(1)において、Rf、Rfは、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基であり、RfとRfとがいずれもフッ素である組合せを除く。
また、上記式(2)において、Rfは、炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
【請求項2】
前記スルホン酸化合物に対してモル比で1倍以上となるように、前記混合物に水を添加することを特徴とする請求項1に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
【請求項3】
下記式(3)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物塩と、下記式(4)に示されるスルホン酸化合物塩と、の混合物に酸性溶液を添加した後に蒸留することを特徴とする請求項1又は2に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。
(RfSO)(RfSO)N・M ・・・(3)
RfSO・M・・(4)
但し、上記式(3)において、Rf、Rfは、フッ素又は炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基であり、RfとRfとがいずれもフッ素である組合せを除く。
また、上記式(4)において、Rfは、炭素数1〜4の直鎖状あるいは分岐状のペルフルオロアルキル基である。
また、上記式(3)、(4)において、Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびオニウムイオンである。
【請求項4】
前記酸性溶液が、硫酸水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の含フッ素スルホニルイミド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−246385(P2011−246385A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120658(P2010−120658)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】