説明

含フッ素ポリマーの除去方法

【課題】物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物の除去方法を提供する。
【解決手段】含フッ素ポリマーまたはその架橋物が表面に付着した物品を、芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触させて膨潤または溶解させ、その後物品表面から含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマーまたはその架橋物の製造や使用などにおいて、含フッ素ポリマーまたはその架橋物を取り扱う際に、含フッ素ポリマーまたはその架橋物が付着した物品表面から含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーを製造する際、重合容器、貯槽、配管などの製造装置や部材の内面に含フッ素ポリマーが付着することがある。また、含フッ素ポリマーは自動車産業、航空機産業、化学産業、機械関連産業等で使用され、その使用の際、含フッ素ポリマーの貯槽、含フッ素ポリマーを利用する各種製品の製造装置、それらを連結する配管などにおいても、含フッ素ポリマーに接触する面に含フッ素ポリマーが付着することがある。特に、含フッ素ポリマーの溶液や分散液(乳濁液を含む:以下同様)を取り扱う容器や配管の内面、ストレーナーなどの部材の表面に含フッ素ポリマーが付着しやすい。また、含フッ素ポリマーとしては、フッ素ゴムの原料である含フッ素ポリマーやフッ素樹脂塗料に使用される含フッ素ポリマーなどが特に付着性が高い。
【0003】
従来、含フッ素ポリマーが付着した物品から含フッ素ポリマーを除去する方法として、アセトンや酢酸エチル等の有機溶剤を用いた浸漬や拭き取り作業が行われていた。また、付着した含フッ素ポリマーの除去には、ハイドロクロロフルオロカーボンも有機溶剤と同様の方法で使用されていた。これらの有機溶剤は、含フッ素ポリマーへ浸透して含フッ素ポリマーを膨潤させるため、有機溶剤を接触させることにより含フッ素ポリマーを膨潤させて物品表面から含フッ素ポリマーを剥離しやすくする。物品表面の膨潤した含フッ素ポリマーは、拭き取りなどで物品表面から除去することができる。しかし、アセトンや酢酸エチル等の有機溶剤は引火点を有する消防法上の危険物であるため、含フッ素ポリマーの除去には防爆設備が必要であり、取扱いが容易ではない。また、ハイドロクロロフルオロカーボンは不燃性溶剤であるが、オゾン破壊係数を有するため、先進国においては、2020年に全廃されることになっている。
【0004】
溶剤による除去の他には、ブラシで擦る等の物理的効果による除去も行われていた。しかし、ブラシでの除去では、物品表面に固着した含フッ素ポリマーを完全に除去することは困難であり、また、作業者の負担が大きいという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法であって、従来、有機溶剤への浸漬や物理的洗浄で行っていた含フッ素ポリマーまたはその架橋物の除去を、安全かつ容易に行うことができる、物品表面からの含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは含フッ素ポリマーまたはその架橋物が表面に付着した物品を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触することによって、含フッ素ポリマーまたはその架橋物を膨潤または溶解させるという方法で、安全かつ簡便に含フッ素ポリマーまたはその架橋物を物品表面から除去できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記の含フッ素ポリマーまたはその架橋物が表面に付着した物品から含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法である。
[1]物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法であって、前記含フッ素ポリマーまたはその架橋物を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触させ、前記含フッ素ポリマーまたはその架橋物を膨潤または溶解させて除去することを特徴とする含フッ素ポリマーまたはその架橋物の除去方法。
[2]物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物を前記不燃性混合液と接触させて物品表面から除去したのち、物品を含フッ素エーテルですすいで乾燥する、上記[1]に記載の除去方法。
[3]含フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体であり、含フッ素ポリマーの架橋物がテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体の架橋物である、上記[1]または[2]に記載の除去方法。
[4]前記不燃性混合液が、芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの合計量に対して芳香族系炭化水素20〜60質量%および含フッ素エーテル80〜40質量%、不燃性混合液に対して芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの合計量が80〜100質量%、を含有する、上記[1]から[3]のいずれかに記載の除去方法。
[5]含フッ素エーテルが、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルである、上記[1]請求項1から[4]のいずれかに記載の除去方法。
[6]芳香族系炭化水素がトリメチルベンゼンを含む芳香族系炭化水素混合物である、上記[1]から[5]のいずれかに記載の除去方法。
【発明の効果】
【0008】
従来は、有機溶剤への浸漬やブラシでこする等の物理的操作で行っていた物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物の除去を、該物品を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触させ、前記含フッ素ポリマーまたはその架橋物を膨潤または溶解させて除去することにより、従来よりも安全、かつ容易に除去することができる。本発明の方法によれば、例えば、含フッ素ポリマーを含む液体が通過する装置のメンテナンス時に、配管内部やストレーナーに堆積した目詰まりや設備不良の原因となる含フッ素ポリマーを除去する作業の安全性や作業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の除去方法を詳しく説明する。なお、含フッ素ポリマーまたはその架橋物を、以下、特に言及しない限り、「含フッ素ポリマー等」という。
【0010】
含フッ素ポリマーの架橋物としては、含フッ素ポリマーを架橋剤で架橋させた架橋物、硬化性含フッ素ポリマーを硬化剤で硬化させた硬化物などの含フッ素ポリマーを化学反応等で変性した架橋物、または電子線などの高エネルギー線によって含フッ素ポリマーを架橋させた架橋物をいう。物品に付着した含フッ素ポリマーは、上記架橋剤や架橋助剤などの反応性化合物を含む混合物が付着した物品における含フッ素ポリマー、安定剤、充填剤、着色剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤や難燃剤などの非反応性化合物を含む混合物が付着した物品などにおける含フッ素ポリマーであってもよく、物品に付着した含フッ素ポリマー架橋物は、上述の安定剤や充填剤などの非反応性化合物を含む混合物が付着した物品などにおける含フッ素ポリマー架橋物などであってもよい。ただし、物品に付着した含フッ素ポリマー等は、含フッ素ポリマー等の付着性で物品に付着しているものをいう。
【0011】
本発明によれば、例えば、含フッ素ポリマー等を含む液体が通過する装置の配管内部やストレーナーに、ブラシでこすっただけでは容易に除去できない程度に固着・堆積した含フッ素ポリマー等であっても、芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に所定時間接触するのみで、含フッ素ポリマー等が前記不燃性混合液によって膨潤または溶解して含フッ素ポリマー等が物品表面から除去される。また、浸漬のみでは除去できなかった含フッ素ポリマー等も膨潤して物品表面から除去しやすい状態となっているため、浸漬後に軽く拭き取る等の物理的操作で物品から容易に除去できる。
【0012】
本発明において、物品の表面に付着した含フッ素ポリマー等に接触させる液体は芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液である。
【0013】
本発明における不燃性混合液に含まれる含フッ素エーテルとしては、式1で表される化合物が好ましい。
−O−R・・・式1
ただし、R、Rは、各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基を示す。R、Rに含まれるフッ素原子の数が同時に0であることはなく、かつRおよびRに含まれる炭素原子の数の合計は4〜8である。なかでも、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタンが好ましく、さらには、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルが、芳香族系炭化水素との相溶性や熱安定性の点から特に好ましい。これらの含フッ素エーテルは単独でも、2種以上の混合物であってもよい。
【0014】
芳香族系炭化水素としては、含フッ素ポリマー等への膨潤効果が高い、引火点が高い、および式1で示される含フッ素エーテルとの相溶性が高いという観点から、特には炭素数が7〜10であるものが好ましく、さらには炭素数が9〜10であるものが好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン等があげられる。中でも、引火点が高く、式1で表わされる含フッ素エーテルと適度な相溶性を有することからトリメチルベンゼンが好ましい。これらの芳香族系炭化水素は単独でも、2種以上の混合物であってもよい。また、芳香族系炭化水素以外の炭化水素が少量混入していてもよい。本発明における芳香族系炭化水素として、好ましくは、トリメチルベンゼンを含有する芳香族系炭化水素混合物である。このような芳香族系炭化水素混合物としては、トリメチルベンゼンを60質量%以上と他の芳香族系炭化水素40質量%以下を含有する芳香族系炭化水素混合物が好ましく、特にトリメチルベンゼンを80質量%以上含有する芳香族系炭化水素の混合物が好ましい。
【0015】
不燃性混合液中の芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの含有割合は、芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの合計量に対して、含フッ素エーテルが80〜40質量%、芳香族系炭化水素が20〜60質量%であることが好ましい。含フッ素エーテルの含有割合が80質量%以上である場合は、含フッ素ポリマー等の溶解が起こりにくく、物品の表面に付着した含フッ素ポリマー等の除去性能が低下するため、含フッ素エーテルの含有割合は、80質量%以下であることが好ましく、また、含フッ素エーテルの含有割合が40質量%以上である場合は、不燃組成となるために好ましい。さらに、含フッ素エーテルが70〜50質量%、芳香族系炭化水素が50〜30質量%の含有割合の不燃性混合液は、含フッ素ポリマー等への溶解効果が最も高く、除去に必要な時間が短縮され、さらに不燃性であるため、特に好ましい。
【0016】
本発明における不燃性混合液は、芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルのみからなることが好ましいが、不燃組成である限り芳香族系炭化水素および含フッ素エーテル以外の溶媒が含有されていてもよい。このような溶媒としては、例えば、含フッ素ポリマー等と親和性のある有機溶剤が好ましく、テトラヒドロフラン等の複素環式化合物、酢酸エチル等のエステル系化合物、トリクロロエチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、アセトン、4−メチル−2−ペンタノン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、アクリロニトリル、ニトロメタン等の含窒素有機物、ジメチルスルホキシド等の含硫黄有機物が挙げられる。芳香族炭化水素および含フッ素エーテル以外の溶媒が含有される場合は、不燃性混合液全体に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0017】
本発明における物品表面に付着した含フッ素ポリマーは、架橋性の含フッ素ポリマーが好ましい。そのうちでも、架橋剤による架橋によって含フッ素ゴムや含フッ素エラストマーとなりうる含フッ素ポリマーが好ましい。また、架橋性ではない含フッ素ポリマーとしては、熱可塑性の軟質含フッ素ポリマーや非架橋体タイプの含フッ素エラストマーが好ましい。
【0018】
上記のような含フッ素ポリマーは、前記不燃性混合液への接触によって膨潤または溶解しやすいため、除去性が高い。含フッ素ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体、フッ化ビニリデン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体、エチレン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体等が挙げられる。その中でも特に、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体から選ばれる含フッ素ポリマーが、前記不燃性混合液の接触による膨潤や溶解の影響が大きいため、除去性が高い。
【0019】
本発明における含フッ素ポリマーの組成比(モル比)は、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体において、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/プロピレンに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/プロピレンに基づく繰り返し単位/フッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位=40〜60/60〜40/1〜10、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体においてフッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位/ヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位=20/80〜95/5、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/フッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位/ヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位=20〜40/20〜40/20〜40、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/パーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位=40/60〜70/30、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位=40/60〜70/30、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体においてテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位=40〜70/3〜57/3〜57、フッ化ビニリデン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体においてフッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位/パーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位=60/40〜95/5、エチレン/パーフルオロビニルエーテル系共重合体においてエチレンに基づく繰り返し単位/パーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体においてエチレンに基づく繰り返し単位/ヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40であることが好ましい。本発明における含フッ素ポリマーは、さらに上記以外の任意のモノマーに基づく繰り返し単位を有していてもよい。上記以外の任意のモノマーに基づく繰り返し単位は、含フッ素ポリマー等の全繰り返し単位に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。さらに、上記含フッ素ポリマーは、単独でも、2種以上の混合物であってもよい。
【0020】
また、本発明の除去方法において、含フッ素ポリマーが架橋性の含フッ素ポリマーである場合、特に不燃性混合液に溶解しやすく容易に除去可能である。架橋後の含フッ素ポリマーの架橋物である場合、本発明における不燃性混合液への接触によって、含フッ素ポリマーの架橋物が膨張して物品表面から除去しやすくなる。含フッ素ポリマー等は、フルオロアルキル基とアルキル基を有するポリマーであることが好ましく、この場合、芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液と含フッ素ポリマー等が接触することによって、不燃性混合液中の含フッ素エーテルはフルオロアルキル基部分に浸透し、また芳香族系炭化水素がアルキル基部分に浸透して、含フッ素ポリマー等が不燃性混合液に溶解しやすくなる。特にテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体は、特に本発明における不燃性混合液への溶解性が高く、不燃性混合液と接触させることによって、容易に溶解除去できる。
【0021】
架橋剤としては、ポリオール架橋系では、例えば2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル) パーフルオロプロパン等のポリヒドロキシ化合物、パーオキサイド架橋系では、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のパーオキシラジカルおよびポリマーラジカルに対して反応活性を有する化合物がある。架橋助剤としては、ポリオール架橋系では、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩や第4級スルホニウム塩等のオニウム化合物、パーオキサイド架橋系では、有機過酸化物が適宜使用できる。
【0022】
本発明における物品は、不燃性混合液に侵されない材質のものであれば、いずれの物品も用いることができる。例えば、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムあるいはそれらの合金(ステンレス(SUS)など)等や、本発明における不燃性混合液によって膨潤あるいは溶解しない樹脂が挙げられる。物品はこれら材質からなる部材の組み合わせからなる複合体であってもよい。前記物品表面に付着した含フッ素ポリマー等は本発明における不燃性混合液によって、除去可能である。
【0023】
本発明の除去方法によれば、含フッ素ポリマー等が表面に付着した物品がどのような形状のものであっても、含フッ素ポリマー等が不燃性混合液に接触できる限り、含フッ素ポリマー等の除去は可能である。必要により、含フッ素ポリマー等と不燃性混合液の接触を高める前処理を行うことができ、例えば、あらかじめ物品表面に付着した含フッ素ポリマー等に切り目を入れることによって、接触時間を短縮することができる。
【0024】
以下に、本発明の含フッ素ポリマー等の除去方法を、具体的な手順に従い説明する。
【0025】
物品表面に付着した含フッ素ポリマー等の除去方法は、物品表面に付着した含フッ素ポリマー等を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触させることにより行う。不燃性混合液の接触により、少なくとも、物品と含フッ素ポリマー等との接触面の含フッ素ポリマー等が溶解または膨潤することが必要である。例えば、不燃性混合液が接触面に浸透して接触面部分の含フッ素ポリマー等が溶解または膨潤する、非接触面部分の含フッ素ポリマー等から溶解または膨潤して接触面部分の含フッ素ポリマー等まで溶解または膨潤する、などの現象が生じるように、物品と不燃性混合液を接触させる。また、接触面部分の含フッ素ポリマー等が膨潤しても物品表面になお付着している場合には、機械的手段(超音波などによる振動、ブラシや布などを用いた除去、など)によって、膨潤した含フッ素ポリマー等を物品表面から剥離して除去する。
【0026】
含フッ素ポリマー等が付着した物品と不燃性混合液とを接触させる手段としては、物品を不燃性混合液中に浸漬させる手段が好ましい。含フッ素ポリマー等と不燃性混合液の浸漬手段としては、例えば、浸漬槽に不燃性混合液を満たしておき、含フッ素ポリマー等が付着した物品を、含フッ素ポリマー等の付着部分が液面下に位置するように浸漬する。物品表面に付着した含フッ素ポリマー等の除去を効果的に行うために不燃性混合液を撹拌または超音波処理を行ってもよい。
【0027】
含フッ素ポリマー等を浸漬する不燃性混合液の温度は、不燃性混合液が液体である範囲で任意の温度で可能であるが、温度が高い方がより含フッ素ポリマー等が不燃性混合液へ溶解しやすくなるため、常温から不燃性混合液の沸点以下の温度が好ましく、特に不燃性混合液の沸点温度で浸漬させることが好ましい。また、浸漬時の圧力は、特に限定されないが、大気圧以上の圧力で浸漬を行うと、含フッ素ポリマー等への不燃性混合液の浸透が加速されるため、好ましい。
【0028】
上記の条件で物品表面に付着した含フッ素ポリマー等を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に浸漬することによって、含フッ素ポリマー等が不燃性混合液に浸透し、さらに含フッ素ポリマー等が膨潤または溶解して、物品表面から容易に除去できる。浸漬時間は、含フッ素ポリマー等が膨潤または溶解して物品表面から容易に除去できるまでの時間である。含フッ素ポリマー等の付着量、不燃性混合液の組成や、不燃性混合液の温度、超音波等の物理的操作の有無にもよるが、1分〜3日間が好ましい。浸漬のみで除去を行う場合は、含フッ素ポリマー等が十分に溶解するまで浸漬を行う必要があることから、3時間以上浸漬を行うことが好ましい。超音波処理や引き上げ後の拭き取りによって除去を行う場合は、含フッ素ポリマー等が膨潤して物品表面から剥離除去できるようになればよく、作業性の面から15分から3時間が好ましい。なお、一度の浸漬で含フッ素ポリマー等が十分に除去できなかった場合には、使用した不燃性混合液または新しい不燃性混合液に複数回繰り返し浸漬を行うことも可能である。
【0029】
なお、不燃性混合液を用いる場合、含フッ素エーテルと芳香族系炭化水素では、蒸発潜熱の小さな含フッ素エーテルが芳香族系炭化水素よりも多く蒸発するため、浸漬槽の開口部が大きい場合は、不燃性混合液の組成が変化するおそれがある。不燃性混合液の組成が変化する場合には、定期的に不燃性混合液の組成を測定し、一方(通常は含フッ素エーテル)をより多く補充することにより、長期にわたって繰り返し良好な効果が維持できる。また、含フッ素ポリマー等を不燃性混合液へ繰り返し浸漬する場合、不燃性混合液中の含フッ素ポリマー等の濃度が高くなると、含フッ素ポリマー等の溶解効果が低下し、さらに不燃性混合液中に一度溶解した含フッ素ポリマー等が物品に再付着するおそれもある。従って、繰り返し浸漬する場合には、不燃性混合液を交換する、または蒸留によって含フッ素ポリマー等を分離した不燃性混合液を再利用するなどして、不燃性混合液中の含フッ素ポリマー等の濃度を保つことが好ましい。具体的には、不燃性混合液中の含フッ素ポリマー等の濃度は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明において、不燃性混合液に接触させた後の物品表面は、不燃性混合液によって濡れているため、さらに不燃性混合液の乾燥を行うことが好ましい。不燃性混合液の乾燥方法としては、自然放置による乾燥、熱風による乾燥、および含フッ素エーテルなどの低沸点溶媒による液置換とその後の乾燥による乾燥方法が挙げられるが、この中でも含フッ素エーテルによる液置換による乾燥が、安全性や物品の仕上がりの点で特に好ましい。
【0031】
本発明において含フッ素エーテルなどの低沸点溶媒による液置換を「すすぎ」という。具体的には、物品表面に付着した含フッ素ポリマー等を不燃性混合液に接触させ、含フッ素ポリマー等を除去した後の物品を、含フッ素エーテルに浸漬し、物品に付着している不燃性混合液を含フッ素エーテルに置換するすすぎである。前記すすぎに用いる含フッ素エーテルは、前記式1に示す化合物であることが好ましく、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。すすぎ性、液管理の点から含フッ素ポリマー等を除去する際に用いた不燃性混合液に含まれる含フッ素エーテルと同じ組成の含フッ素エーテルを用いることが好ましい。すすぎにおいても、すすぎ性を向上させるために超音波処理や攪拌等の物理的効果を行ってもよい。すすぎ時間は物品表面に付着している不燃性混合液が含フッ素エーテルに置換されるまでの時間であり、1分から15分が好ましい。物品を浸漬する含フッ素エーテルの温度は、含フッ素エーテルが液体である範囲であればよく、10℃から含フッ素エーテルの沸点以下の温度が好ましい。
【0032】
含フッ素ポリマー等を除去した物品を含フッ素エーテルに浸漬した後、さらに含フッ素エーテルの蒸気によるすすぎを行ってもよい。蒸気によるすすぎは、物品の温度が含フッ素エーテルの沸点温度になるまでの時間行うことが好ましく、30秒から15分が好ましい。蒸気によるすすぎの間、物品が含フッ素エーテルの沸点以下の時には、物品表面で含フッ素エーテルの凝縮が起こり、さらに物品表面のすすぎが行われる。例えば、蒸気と接触させる直前の含フッ素エーテルの温度を含フッ素エーテルの沸点より10℃以上低い温度にすると、蒸気の凝縮液によるすすぎ性を高めることができ、より好ましい。また、含フッ素エーテルの沸点温度の物品を引き上げた際には、物品表面に存在する含フッ素エーテルが瞬時に蒸発するため、物品の乾燥が良好に行われる。すすぎ性を維持するために、すすぎに用いる含フッ素エーテル中に含まれる芳香族系炭化水素は、10質量%以下に保つことが好ましい。すすぎに用いる含フッ素エーテルは、蒸留によって芳香族系炭化水素を除去して再使用することが可能である。
【0033】
本発明においては、不燃性混合液を含有させた布による手拭きによって、含フッ素ポリマー等を物品表面から除去する方法も行うことができる。手拭きによる除去を行う場合、含フッ素ポリマー等が膨潤または溶解する量の不燃性混合液によって十分に湿らせた布や不織布等を、物品表面に付着している含フッ素ポリマー等に接触させて、拭き取り等の物理的力を加えて除去することが好ましい。
【0034】
また、本発明の除去方法では、例えば、含フッ素ポリマー等が付着した配管内部に、不燃性混合液を通液することによって、配管内部に付着した含フッ素ポリマー等を除去することも可能である。通液による除去を行う場合、含フッ素ポリマー等が十分に除去される程度の時間、不燃性混合液と付着した含フッ素ポリマー等が接触するように通液することが好ましく、付着量や物品表面への接着の程度等にもよるが、1時間から3日程度が好ましい。また、通液の方法は特に限定されず、ポンプによる送液等を行うことが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例および比較例を説明する。
25×30×2mmのSUS板(SUS 304製)をAFLAS150CS(旭硝子株式会社製)のラテックス溶液(テトラフルオロエチレンとプロピレンの共重合体32〜37%、水58〜63%、t−ブチルアルコール3〜5%、安定剤2%未満)に浸漬後、100℃のオーブンで1時間乾燥させ、含フッ素ポリマーが付着したSUS板を作製した。このSUS板には、約4mgの含フッ素ポリマーが付着していた。このSUS板を各実施例、比較例の条件で除去洗浄を行い、含フッ素ポリマーの除去性を確認した。
なお、試験には、含フッ素エーテルとして、アサヒクリンAE−3000(HFE−347pc−f(1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル)旭硝子株式会社製)、芳香族系炭化水素として、ソルファインTM(トリメチルベンゼン97.5質量%以上含有、昭和電工株式会社製)、比較のため、アセトン、エタノール、アサヒクリンAK−225(HCFC−225、旭硝子株式会社製)、メチレンクロライド(旭硝子株式会社製)を用いた。
【0036】
[実施例1〜5、比較例1〜10]
含フッ素ポリマーが付着したSUS板1枚を、表1に示す各浸漬液20mlに常温で5時間浸漬後に引き上げて物品表面の外観観察を行った後、さらに11時間浸漬後に引き上げて外観観察した後、含フッ素ポリマーが残留しているSUS板の表面を綿棒で軽く拭き取り操作を行った後、物品表面の外観観察を行った。
試験結果を表1に示す。なお、表1に示す試験結果においては、含フッ素ポリマーの除去性は、◎:含フッ素ポリマーが5時間の浸漬で溶解除去できたもの、○:含フッ素ポリマーが16時間の浸漬で溶解除去できたもの、△:含フッ素ポリマーが16時間の浸漬によって膨潤し、引き上げ後の拭き取り操作によって除去できたもの、×:含フッ素ポリマーが膨潤せず、除去できなかったものを示す。なお、実施例1から5、比較例2、4は、浸漬後に含フッ素ポリマーの残留の有無にかかわらず、SUS板の表面が各浸漬液によって濡れていた。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例6〜10、比較例11]
含フッ素ポリマーが付着したSUS板1枚を、表2に示す各浸漬液20mlに常温で16時間浸漬後に、常温のアサヒクリンAE−3000:50mlに1分間超音波処理してすすぎを行った後、さらにアサヒクリンAE−3000の蒸気にて1分間蒸気によるすすぎを行って、SUS板表面の外観観察を行った。
実施例6〜10、比較例11の試験結果を表2に示す。なお、表2に示す試験結果においては、含フッ素ポリマーの除去性は、○:含フッ素ポリマーが溶解除去できたもの、を示す。また、試験操作後のSUS板の乾燥性は、○:乾燥したもの、×:表面が溶剤によって濡れているもの、を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
[実施例11〜15、比較例12〜14]
含フッ素ポリマーが付着したSUS板1枚を、表3に示す各浸漬液50mlに常温で15分浸漬および超音波処理を行った後に、常温のアサヒクリンAE−3000:50ml中に、1分間超音波処理してすすぎを行った後、さらにアサヒクリンAE−3000の蒸気にて1分間蒸気によるすすぎを行い、SUS板表面の外観観察を行った。
実施例11〜15、比較例12〜14の試験結果を表3に示す。なお、表3に示す試験結果においては、含フッ素ポリマーの除去性は、○:含フッ素ポリマーが除去できたもの、×:除去できなかったものを示す。また、試験操作後のSUS板の乾燥性を、○:乾燥したもの、×:表面が溶剤によって濡れているもの、を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
[実施例16〜20、比較例15〜17]
表4に示す各不燃性混合液を十分に含有した不織布を用いて含フッ素ポリマー等が付着したSUS板1枚を手拭きした後、SUS板表面の外観観察を行った。
実施例16〜20、比較例15〜17の試験結果を表4に示す。なお、表4に示す試験結果においては、含フッ素ポリマーの除去性は、○:含フッ素ポリマーが除去できたもの、×:除去できなかったものを示す。
【0043】
【表4】

【0044】
[実施例21〜25、比較例18〜20]
内径20mm、長さ150mmのガラス製チューブの内部に100gの前記AFLAS150CSのラテックス溶液を通液した後、100℃のオーブンで1時間乾燥させて、ガラス製チューブの内部に含フッ素ポリマーが付着したサンプルを作製した。この時ガラス製チューブには、約25mgの含フッ素ポリマーが付着していた。このガラス製チューブ内部に表5に示す各浸漬液300mlをマグネットポンプを用いて、連続的に24時間送液した後、ガラス製チューブ内部の含フッ素ポリマーの除去性を外観観察にて確認した。
実施例21〜25、比較例18〜20の試験結果を表5に示す。なお、表5に示す試験結果においては、含フッ素ポリマーの除去性は、○:含フッ素ポリマーが除去できたもの、×:除去できなかったものを示す。
【0045】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車産業、航空機産業、化学産業、機械関連産業等で使用される部品、製造装置に付着し、目詰まりや設備不良の原因となる含フッ素ポリマー等を部品や装置表面から除去するといった、メンテナンス作業等に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物を除去する方法であって、前記含フッ素ポリマーまたはその架橋物を芳香族系炭化水素および含フッ素エーテルを含有する不燃性混合液に接触させ、前記含フッ素ポリマーまたはその架橋物を膨潤または溶解させて除去することを特徴とする含フッ素ポリマーまたはその架橋物の除去方法。
【請求項2】
物品表面に付着した含フッ素ポリマーまたはその架橋物を前記不燃性混合液と接触させて物品表面から除去したのち、物品を含フッ素エーテルですすいで乾燥する、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
含フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体であり、含フッ素ポリマーの架橋物がテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体の架橋物である、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記不燃性混合液が、芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの合計量に対して芳香族系炭化水素20〜60質量%および含フッ素エーテル80〜40質量%、不燃性混合液に対して芳香族系炭化水素と含フッ素エーテルの合計量が80〜100質量%、を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の除去方法。
【請求項5】
含フッ素エーテルが、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルである、請求項1から4のいずれかに記載の除去方法。
【請求項6】
芳香族系炭化水素がトリメチルベンゼンを含む芳香族系炭化水素混合物である、請求項1から5のいずれかに記載の除去方法。

【公開番号】特開2011−72967(P2011−72967A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229760(P2009−229760)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】