説明

含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法

【課題】酸触媒下、α−置換アクリル酸を含フッ素アルケンに直接付加させるエステル系含フッ素レジスト用モノマーの製造において、アルケンの異性化、ジオール体の生成、過付加反応が副反応として進行する中、目的の反応を効率的に進行させ、工業的規模でα−置換アクリル酸エステル系の含フッ素レジスト用モノマー類を製造する方法を提供する。
【解決手段】スルホニル基を有する特定の酸触媒の存在下、α−置換アクリル酸を含フッ素アルケンに直接付加させる。本製造方法によれば、α―置換アクリル酸から一段階の反応で目的とする含フッ素レジスト用モノマー類を効率よく工業的規模で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ArFレーザ用次世代フォトレジストに対応するモノマーとして有用な化合物である式[3]
【化1】

【0002】
で表されるα−置換アクリル酸エステル系の含フッ素レジスト用モノマー類(式中、Rは水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を示し、該アルキル基の一部または全部がフッ素原子によって置換されていてもよい。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の目的化合物である、式[3]で示されるα−置換アクリル酸エステル類は、含フッ素レジスト用モノマーとして有用な化合物(特許文献1)であり、一般的なエステル化合物の合成法により合成できる。具体的には、(A)カルボン酸ハライドとアルコール類の反応、(B)カルボン酸無水物とアルコール類の間の反応、(C)カルボン酸とアルコール類の脱水縮合反応、および(D)カルボン酸エステル類とアルコール類のエステル交換反応、などの手法が挙げられる。
【0004】
特許文献2には、ノルボルナニルアルコールとα−置換アクリル酸クロリドの反応により対応するノルボルナニルエステルを合成できることが記されている。
【0005】
特許文献3には、酸触媒存在下、α―置換アクリル酸無水物とアルコールとを反応させる製造方法が開示されており、良好な選択性で反応が進行するうえ、固体の塩が析出しないことから、溶媒量を削減することができ、生産性を向上させることができる等の記載がある。
【0006】
非特許文献1にはアクリル酸メチルとシクロヘキサノールとのエステル交換反応に付し、アクリル酸シクロヘキシルを合成できることが記されている。
【0007】
特許文献4および特許文献5には、α−置換アクリル酸を、置換ノルボルネンに対して直接作用させると、効率的な付加反応が進行し、目的とするノルボルネン系エステル類が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−307447号公報
【特許文献2】特開2003−040840号公報
【特許文献3】特開2005−179348号公報
【特許文献4】特開2004−175740号公報
【特許文献5】特開2007−091634号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本化学会編,「新実験化学講座(第14巻)有機化合物の合成と反応[II]」,丸善出版株式会社,1977年12月,p.1018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
工業的な規模で上記式[3]の化合物を製造するにあたり、以下のような問題点がある。すなわち、α―置換アクリル酸クロリドを用いる特許文献2に記載の方法において、塩化チオニル等を用いる塩素化によるα―置換アクリル酸クロリドの合成は、酸無水物などが生成することにより選択性が低下してしまうため収率が低く、高価なα―置換アクリル酸を用いる場合はコスト的に不利である。
【0011】
また、特許文献3に記載の方法では、原理的に生成物一当量に対して、一当量のα―置換アクリル酸が副生する。そのため、高価なα―置換アクリル酸を用いる場合はコスト的に不利であり、さらに、製品化にはα―置換アクリル酸の除去も必要であり、必ずしも効率的な製造法ではない。
【0012】
更に、本発明者らは、α―置換アクリル酸とアルコールとの反応で、脱水縮合反応も試みたが、立体障害の大きいα―置換アクリル酸とアルコール同士の反応では、副反応が進行し、良好な結果が得られなかった。
【0013】
これら特許文献1〜3の方法はいずれもアルコール類を反応基質として用いるという特徴がある。つまりこれらの方法を本発明の化合物に適用するには、スキーム1に表すように、式[1]に示される含フッ素アルケン(1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オール;以下、BTHBと略すこともある。)を、ハイドロボレーション、エステル付加反応−エステル加水分解等の手法を用いて対応する含フッ素ジオールへ変換した後、該含フッ素ジオールとアクリル酸、もしくはアクリル酸ハライド、アクリル酸無水物、アクリル酸エステル等を反応させる必要がある。
【化2】

【0014】
これらの手法に対して、特許文献4に記載の方法のように含フッ素アルケン(BTHB)にα―置換アクリル酸を付加させる手法を検討した。この手法によると工程数が少なく、反応効率が高く、工業化向けの手法である。しかしながら当条件では含フッ素アルケンの末端二重結合部位が内部二重結合へと異性化しやすく(参考例1参照)、異性化したものは反応性が低いため、選択的に反応を進めることが困難であることが分かった。
【化3】

【0015】
すなわち、α−置換アクリル酸の含フッ素アルケンへの付加と競争的に含フッ素アルケンの異性化が進行するため、異性化も考慮しつつ付加反応を行う必要がある。本発明者らは、酸触媒の種類をふっての検討を行ったが、酸触媒がメタンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸の場合は、異性化も付加反応も進行しないことが判った(比較例参照)。
【0016】
また、更なる検討の結果、条件によっては、BTHBの加水分解が起こり含フッ素ジオール体(以後、ジオール体、またはiso−BTHBということがある)が生成する場合があることが明らかになった(スキーム3参照)。
【化4】

【0017】
さらに、反応時間とともに生成したα−置換アクリル酸エステルのビニルに対して、もう一分子のα−置換アクリル酸が付加した過付加体を生成することも明らかになった(以後、この反応を過付加反応、この反応で得られた生成物を過付加体ということがある)。
【0018】
上記のように特許文献4の手法は、酸存在下で、α−置換アクリル酸を、含フッ素ノルボルネンに対して直接作用させるものであるが、含フッ素アルケンがノルボルネンであったため異性化を考慮する必要がなかった。
【0019】
本発明は、酸触媒下、α−置換アクリル酸を含フッ素アルケンに直接付加させるエステル系含フッ素レジスト用モノマーの製造であって、含フッ素アルケンの異性化、含フッ素アルケンの加水分解、過付加反応が副反応として進行する中、目的の反応を効率的に進行させ、工業的規模でα−置換アクリル酸エステル系の含フッ素レジスト用モノマー類を製造する方法を提供することにある。なお、これらの問題点をすべて解決する条件は、先行文献には開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、工業的規模での製造に適した含フッ素レジスト用モノマー類の製造法を確立するべく、鋭意検討を行なった。その結果、含フッ素アルケンと、α―置換アクリル酸とを反応させる際に、酸触媒としてスルホニル基を有する特定の酸の存在下でおこなうことにより上記の問題を抑制しつつ効率的に反応が進行し、良好な収率で目的とする含フッ素レジスト用モノマー類が得られることを見出し、本発明の完成に到達した。この反応において含フッ素アルケンの異性化、ジオール体の生成、目的生成物へのα−置換アクリル酸の過付加反応、といった副反応が進行する中、目的とする付加反応を効率よく進行させることは特筆すべきことである。
【0021】
本発明の方法をスキーム4にまとめる。
【化5】

【0022】
すなわち本発明は、
[発明1]式[1]で表される含フッ素アルケン
【化6】

【0023】
と、式[2]で表されるα−置換アクリル酸
【化7】

【0024】
[Rは水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を示し、該アルキル基の一部または全部がフッ素原子によって置換されていてもよい。]
とを、酸触媒の存在下で反応させる式[3]で表される含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法において、
【化8】

【0025】
[Rは式[2]と同様である。]
該当酸触媒が式[4]表されるスルホニル基を有する酸
【化9】

【0026】
[Aは酸素原子又は炭素原子を示し、Rは互いにそれぞれ独立して同一もしくは異なるフッ素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜6の含フッ素アルキル基を示し、nは1又は3の整数を示す。]
であることを特徴とする含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【0027】
[発明2]酸触媒のpKaが−5以下である発明1に記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【0028】
[発明3]反応温度が30℃から200℃であることを特徴とする発明1または2に記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【0029】
[発明4]式[2]で示されるα―置換アクリル酸1モルに対して、式[1]で示される含フッ素アルケンの使用量が2〜10モルであることを特徴とする、発明1乃至3の何れかに記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、アルケンの異性化、ジオール体の生成、過付加反応が副反応として進行する中、目的の反応を効率的に進行させ、工業的規模でα−置換アクリル酸エステル系の含フッ素レジスト用モノマー類を製造できる。また、α―置換アクリル酸から一段階の反応で目的とする含フッ素レジスト用モノマー類を効率よく工業的規模で製造することができるうえ、酸クロリドや酸無水物を経ずに製造できるため、特に高価なα―置換アクリル酸を使用する場合には、コスト的にも優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の方法は、バッチ式反応装置において実施することができる。以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0032】
本発明の製造方法は、上記スキーム4に示すように、特定の酸触媒の存在下、式[1]で表される含フッ素アルカンに式[2]で表されるα―置換アクリル酸を直接付加するものである。
【0033】
しかしながら、本反応には以下のような問題点がある。
【0034】
(1)酸触媒存在下、酸によっては含フッ素アルケンの末端二重結合部位が内部二重結合へと異性化しやすい。内部二重結合は末端二重結合に比べて反応性が低いので、異性体の付加反応の選択性が低下する。
【0035】
(2)BTHBと系内の水が反応してジオール体が生成することにより、目的物への選択率が低下するとともに分離に負荷がかかる。
【0036】
(3)反応時間とともに、目的物生成物のα−置換アクリル酸部位のビニルに対して、もう一分子のα−置換アクリル酸が付加した過付加体が生成する。
【0037】
これらを総合すると、反応にかかるスキーム5のように表される。
【化10】

【0038】
スキーム5において、α−置換アクリル酸の含フッ素アルケン(BTHB)への付加反応の速度定数をk1とし、α−置換アクリル酸の目的生成物への過付加反応の速度定数をk2とし、BTHBからBTHB異性体へ異性化の速度定数をk3、BTHBの加水分解によるジオール体生成の速度定数をk4としたとき、BTHBの異性化及び加水分解を抑えて、効率よく目的生成物に変換するためには、一般には、k1[α-置換アクリル酸]>k3または、k1[α-置換アクリル酸]>k4となるように[α-置換アクリル酸]の濃度が高くなるように設定するのが有効であるが、本反応では、過付加体が生成するため、[α−置換アクリル酸]の濃度を高くすると、最終的に過付加体が増加してしまい好ましくない。したがって、[α-置換アクリル酸]の濃度が低い条件下で、k1>k3またはk1>k4となるような酸触媒があれば有効である。
【0039】
理想的には、k1>>k3またはk1>>k4となるような酸触媒が望ましいが、前述のように付加反応を進行させるような酸触媒は異性化等の副反応も進行させる。
【0040】
本発明の製造方法は、アルケンの異性化、ジオール体の生成、過付加反応が進行する条件下において、目的の反応を効率的に進行させる酸触媒及び好ましい反応条件を特定したものである。
【0041】
以下に具体的な形態を示す。
【0042】
原料の式[1]で表される含フッ素アルケン(1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オール)は公知の方法で合成することができ、例えば、ヘキサフルオロアセトンとプロピレンを活性炭の存在下、接触気相反応させることにより製造できる(特開平5−155795号公報)。
【0043】
本発明に使用する原料の、式[2]で表されるα−置換アクリル酸の置換基Rは水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を示し、該アルキル基の一部または全部がフッ素原子によって置換されていてもよい。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基(CF3−)、ペンタフルオロエチル基(C25−)、CF3CH2−、CF3(CF3)CH−等が挙げられる。これらのうち、反応性の関係で、酸性度の強い酸が好ましく、フッ素原子、フッ素置換されたアルキル基が好適に用いられる。また、原料の入手の関係あるいは他の汎用モノマーとの重合性の関係で、R1は水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基が好ましい。
【0044】
これらのα−置換アクリル酸は公知の方法で合成することができる。R1が水素、メチル基、ハロゲン等の場合は試薬としても容易に入手可能である。また、例えばR1がトリフルオロメチル基の場合は2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対してPdを触媒とするCO挿入反応を行うことにより(Heck反応)、容易に合成できることが知られている(特開昭59−21648号公報)。
【0045】
本発明の反応は酸触媒の共存下行なうが、かかる酸触媒としては式[4]で表されるスルホニル基を有する酸が好適に用いられる。
【化11】

【0046】
[Aは酸素原子又は炭素原子を示し、Rは互いにそれぞれ独立して同一もしくは異なるフッ素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜6の含フッ素アルキル基を示し、nは1又は3の整数を示す。]
式[4]は、Aが酸素原子のときは式[5]で表すこともでき、
【化12】

【0047】
[Rは式[4]と同様である。]
Aが炭素原子のときは式[6]で表すこともできる。
【化13】

【0048】
[Rは式[4]と同様である。]
の含フッ素アルキル基としては、トリフルオロメチル基(CF3−)、ペンタフルオロエチル基(C25−)、CF3CH2−、CF3(CF3)CH−、C37−、CF3(CF2)CH2−およびノナフルオロブチル基(C49−)が挙げられるが、好ましくは、トリフルオロメチル基(CF3−)、ペンタフルオロエチル基(C25−)、ノナフルオロブチル基(C49−)等のパーフルオロアルキル基、更に好ましくは、入手の関係でトリフルオロメチル基(CF3−)がよい。
【0049】
したがって、式[4]の酸としては、フルオロ硫酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン等が挙げられるが、入手の関係で、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンが好ましい。中でもトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンが特に好ましい。
【0050】
また、式[4]で表されるスルホニル基を有する酸のpKaは−5以下であることが好ましいが、−12以下がより好ましく、−17以下が特に好ましい。pKaが−5より大きい場合は、付加反応が進行しないか非常に遅いものであり、好ましくない。pKaの下限は、付加反応が進行する限りにおいては特に限定されないが、当該のスルホニル基を有する酸は酸であることより、当該酸が問題なく製造ができて、且つ問題なく取り扱いできる程度であれば使用できる。
【0051】
本反応に使用する酸触媒の量は、含フッ素アルケン、α−置換アクリル酸、溶媒および酸の種類の組み合わせにより触媒としての効果が変動するため、一義的には決めることができないが、基質のα−置換アクリル酸1モルに対して0.0001〜1モルであり、0.005〜0.5モルが好ましく、0.01〜0.2モルがより好ましい。基質のα−置換アクリル酸1モルに対して酸触媒が0.0001より少ないと、酸を添加する効果がないことから、好ましくない。また、基質のα−置換アクリル酸1モルに対して酸触媒が1モルを超えると経済的に好ましくない。
【0052】
本発明において、α−置換アクリル酸と含フッ素アルケンの混合比は、α−置換アクリル酸1モルに対して2〜10モルであり、3〜6モルが好ましく3.5〜5モルが特に好ましい。α−置換アクリル酸1モルに対して含フッ素アルケンが1モル未満では、含フッ素アルケンの異性化に伴い反応の選択率、目的物の収率共に低下する他、相対的にα−置換アクリル酸が多くなるため過付加体の生成が促進されるので好ましくない。一方、含フッ素アルケンが10モルを超えると経済的に無駄である。
【0053】
本反応は溶媒の非存在下においても進行するが、溶媒を共存させても良い。かかる溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0054】
溶媒を使用する場合の溶媒の使用量は、α−置換アクリル酸1gに対して0.01〜100gであり、1〜30gが好ましく、2〜10gがより好ましい。溶媒量がα−置換アクリル酸1gに対して100gを超えると後処理および回収等の手間から経済的に好ましくない。
【0055】
本発明を実施する際の反応温度は30〜200℃であり、50〜150℃が好ましく、80℃〜130℃がより好ましい。30℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、200℃を超えるとα−置換アクリル酸が重合することから好ましくない。
【0056】
本発明の反応においてα−置換アクリル酸もしくは生成物の含フッ素レジスト用モノマー類が重合することを防止することを目的として重合禁止剤を共存させて行なっても良い。使用する重合禁止剤はメトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、テトラエチルチウラムジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300、Q−1301、2−メトキシフェノチアジンから選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0057】
本発明に使用する重合禁止剤の量は原料のα−置換アクリル酸1モルに対して0.00001〜0.1モルであり、0.00005〜0.05モルが好ましく、0.0001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料のα−置換アクリル酸1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。また重合禁止剤の量が0.00001モルを下回ると、敢えて使用する効果が得られ難い。
【0058】
本発明の反応を行う反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0059】
本発明を実施する方法は限定されるものではないが、望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。反応条件に耐えられる反応器に触媒の酸および、溶媒、原料のα−置換アクリル酸、含フッ素アルケンを加え、外部より加熱して反応を進行させる。サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却するのが好ましい。
【0060】
本発明の方法で製造された式[3]で表される含フッ素レジスト用モノマー類は公知の方法を適用して精製されるが、例えば、水、もしくはアルカリ水溶液で反応液を処理し、分液操作により未反応のα−置換アクリル酸及び使用した酸触媒を除去し、さらに過剰な含フッ素アルケンを留去することで粗有機物が得られる。含フッ素アルケンは生成した含フッ素レジスト用モノマー類と沸点差が大きく、エバポレーター等で容易に分離可能であり、過剰に使用することによる操作の煩雑さは問題とならない。得られた粗有機物はカラムクロマトグラフィーや蒸留等の精製を行うことで高純度の含フッ素レジスト用モノマー類を得ることができる。
【0061】
本反応では含フッ素アルケンにα−置換アクリル酸が付加する反応において、生成物である式[3]で表される含フッ素レジスト用モノマー類は次式[3a]と[3b]
【化14】

【0062】
で表される2つの異性体の混合物として得られる。これらの中で一方の異性体のみを単離する場合はカラムクロマトグラフィー等の手法によれば良い。但し、異性体の単離を行わずに、異性体の混合物として、レジスト用のモノマーに供することも可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するがこれらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物の一部を採取して水で十分洗浄した後、有機成分をガスクロマトグラフィーによって測定して得られた、含フッ素アルケン成分を除く有機成分の「面積%」を表す。
【0064】
[実施例1]
還流冷却器を上部に取りつけた1Lの三つ口フラスコにトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを3.5g(0.0085モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を100.0g(0.7モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを594.3g(2.8モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。3時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は85.1%であった(変換率94.2%を掛け合わせて、見かけの収率は79.9%)。その他に不純物として、原料のα−トリフルオロメチルアクリル酸が6.0%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のα−トリフルオロメチルアクリル酸が付加した化合物(過付加体)が1.1%検出された。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0065】
反応液を冷却後、10%炭酸ナトリウム(Na2CO3)水溶液200gで洗浄した後、含フッ素アルケンの留去を行い、減圧蒸留(1.6ToRR=2kPa)し、80℃〜94℃の留分を集めたところ、176gの含フッ素レジスト用モノマー類が得られた。ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である5,5,5−トリフルオロ−4−ヒドロキシ−4−(トリフルオロメチル)ペンタ−2−イル(2−トリフルオロメチル)アクリレートの異性体混合物の純度は98.5%、その他の不純物が1.5%であった。
【0066】
[実施例2]
還流冷却器を上部に取りつけた100mLの三つ口フラスコにトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを0.8g(0.002モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を14.0g(0.1モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを83.2g(0.4モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。8時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は89.1%であった(変換率93.9%を掛け合わせて、見かけの収率83.7%)。その他に不純物として、原料のα−トリフルオロメチルアクリル酸が6.2%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のα−トリフルオロメチルアクリル酸が付加した化合物が0.5%、更に同定できない不純物が合計で9.5%検出された。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0067】
[実施例3]
還流冷却器を上部に取りつけた100mLの三つ口フラスコにトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを0.29g(0.0007モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を14.0g(0.1モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを41.6g(0.2モル)入れ、150℃のオイルバスにより加熱した。9時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は84.8%であった(変換率77.3%を掛け合わせて、見かけの収率は65.5%)。その他に不純物として、原料のα−トリフルオロメチルアクリル酸が22.9%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のα−トリフルオロメチルアクリル酸が付加した化合物が2.2%、更に同定できない不純物が合計で10%検出された。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0068】
[実施例4]
還流冷却器を上部に取りつけた100mLの三つ口フラスコにトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを0.86g(0.002モル)、メタクリル酸を8.6g(0.1モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを83.2g(0.4モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。7時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は89.0であった(変換率78.9%を掛け合わせて、見かけの収率は70.3%)。その他に不純物として、原料のメタクリル酸が21.3%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のメタクリル酸が付加した化合物が1.3%、更に同定できない不純物が合計で8.1%検出された。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0069】
[実施例5]
還流冷却器を上部に取りつけた100mLの三つ口フラスコにトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを0.86g(0.002モル)、アクリル酸を7.2g(0.1モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを83.2g(0.4モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。10時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は55.2%であった(変換率93.3%を掛け合わせて、見かけの収率51.5%)。その他に不純物として、原料のアクリル酸が6.7%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のメタクリル酸が付加した化合物が2.1%、更に同定できない不純物が合計で39.7%検出された。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0070】
[実施例6]
還流冷却器を上部に取りつけた1Lの三つ口フラスコにトリフロオロメタンスルホン酸を10.0g(0.07モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を100.0g(0.7モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを594.3g(2.8モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。6時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は80.9%であった(変換率83.1%と掛け合わせて、見かけの収率は67.2%)。その他に不純物として、原料のα−トリフルオロメチルアクリル酸が17.4%、さらに生成物のアクリル酸部位のビニル基に一分子のα−トリフルオロメチルアクリル酸が付加した化合物(過付加体)が7.7%、iso−BTHBが1.9%検出された。なお、反応後のBTHBとBTHB異性体の混合比は、約1:2であった。結果を表1に示した。
【0071】
反応液を冷却後、10%炭酸ナトリウム(Na2CO3)水溶液200gで洗浄した後、含フッ素アルケンの留去を行い、減圧蒸留(16ToRR=2kPa)し、80℃〜94℃の留分を集めたところ、120gの含フッ素レジスト用モノマー類が得られた。ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である5,5,5−トリフルオロ−4−ヒドロキシ−4−(トリフルオロメチル)ペンタ−2−イル(2−トリフルオロメチル)アクリレートの異性体混合物の純度は98.5%、その他の不純物が1.5%であった。
【0072】
[実施例7]
還流冷却器を上部に取りつけた1Lの三つ口フラスコにトリフロオロメタンスルホン酸を10.0g(0.07モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を100.0g(0.7モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを297.15g(1.4モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱しながら1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを297.15g(1.4モル)を6時間かけて滴下した。滴下開始から8時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は75.3%であった(変換率82.2%と掛け合わせて見かけの収率は61.9%)。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0073】
[実施例8]
還流冷却器を上部に取りつけた1Lの三つ口フラスコにトリフルオロメタンスルホン酸を10g(0.07モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を100.0g(0.7モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを436.8g(2.1モル)入れ、110℃のオイルバスにより加熱した。6時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は68.8%であった(変換率81.0%と掛け合わせて、見かけの収率55.7%)。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0074】
[実施例9]
還流冷却器を上部に取りつけた1Lの三つ口フラスコに硫酸を9.8g(0.1モル)、α−トリフルオロメチルアクリル酸を100.0g(0.7モル)、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールを594.3g(2.8モル)入れ、120℃のオイルバスにより加熱した。7時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする含フッ素レジスト用モノマー類の異性体混合物の存在量(選択率)は65.3%であった(変換率63.1%と掛け合わせて、見かけの収率41.2%)。副生成物の検出量とともに結果を表1に示した。
【0075】
[比較例1〜5]
還流冷却器を上部に取りつけた100mLの2つ口フラスコにα−置換アクリル酸を10g、1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オールをα−置換アクリル酸に対して任意のモル数入れ、酸触媒(α−置換アクリル酸に対して10wt%)の種類を変えて、任意の温度で実施例1と同様の反応を行った。用いた酸触媒は、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、1、1、1−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルホニル)メタンスルホンアミドで、それぞれ比較例1〜5とした。ガスクロマトグラフィーにより確認したα−置換アクリル酸の変換率および目的物への選択率を表1に示す。
【0076】
[参考例] 酸触媒存在下でのBTHBの異性化
還流冷却器を上部に取りつけた50mLの三つ口フラスコに酸触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸を9.8g(0.1モル)、含フッ素オレフィンとして1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−2−オール(BTHB)を29.7g(0.14モル)入れ、100℃のオイルバスにより加熱した。19時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、BTHBとBTHB異性体の比は8:92であった。
【表1】

【0077】
表1より、トリフルオメチルアクリル酸とBTHBの系において、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを用いた場合(実施例1〜3)は、iso−体の生成および過付加体の生成が抑えられ、しかも、目的物が高い収率で得られることが判った。また、酸触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸を用いた場合(実施例6〜8)は、異性体および過付加体は生成するもののジオール体の生成は抑えられ、目的物が比較的よい収率で得られることが判った。また、酸触媒として硫酸を用いた場合(実施例9)は、ジオール体は生成するものの、異性体および過付加体の生成が抑えられ、目的物が得られることが判った。酸触媒としてpKaが高い酸を用いた場合(比較例1〜5)は、反応が進行しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明で製造される含フッ素レジスト用モノマーはArFレーザ用次世代フォトレジストに対応するモノマーとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表される含フッ素アルケン
【化1】

と、式[2]で表されるα−置換アクリル酸
【化2】

[Rは水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を示し、該アルキル基の一部または全部がフッ素原子によって置換されていてもよい。]
とを、酸触媒の存在下で反応させる式[3]で表される含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法において、
【化3】

[Rは式[1]と同様である。]
該当酸触媒が式[4]表されるスルホニル基を有する酸
【化4】

[Aは酸素原子又は炭素原子を示し、Rは互いにそれぞれ独立して同一もしくは異なるフッ素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜6の含フッ素アルキル基を示し、nは1又は3の整数を示す。]
であることを特徴とする含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【請求項2】
酸触媒のpKaが−5以下である請求項1に記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【請求項3】
反応温度が30℃から200℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。
【請求項4】
式[2]で示されるα―置換アクリル酸1モルに対して、式[1]で示される含フッ素アルケンの使用量が2〜10モルであることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の含フッ素レジスト用モノマー類の製造方法。

【公開番号】特開2010−275298(P2010−275298A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99313(P2010−99313)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】