説明

含フッ素多官能エポキシ化合物、これを含む組成物、及び製造方法

【課題】低い屈折率を示しながら反応性希釈剤かつ架橋剤として作用でき、屈折率の調整が容易な、新規の含フッ素多官能エポキシ化合物を提供すること。
【解決手段】式(1)の含フッ素多官能エポキシ化合物。
(Rf−OCH−CH(OR)−CH−O−)−A−(−OR (1)
Rfは直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。ただし、RとRのうち少なくとも2つはグリシジル基を示す。pは1〜19の整数、qは1〜19の整数であり、p+qは2〜20である。Aは、p+q個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素多官能エポキシ化合物、これを含む組成物、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素を含有し、かつ官能基を複数有する化合物(以下、含フッ素多官能化合物という)は、それ自身の重合反応、または、架橋剤との架橋反応により低屈折率の含フッ素重合体を与えることができる。この重合体は防汚性にも優れており、光学材料、反射防止膜、塗料等の分野で利用されている。
【0003】
このような含フッ素多官能化合物として、(メタ)アクリロイル基を1分子中に複数有する化合物が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
一方、従来、フッ素を含有しない反応性希釈剤および架橋剤として、多官能エポキシ化合物が多く知られている。例えば特許文献2および特許文献3では、多官能アルコールを原料として、一分子中に複数のエポキシ基が導入された化合物が開示されている。
【0005】
以上説明した2種類の特徴(含フッ素、多官能エポキシ)を併せ持つ化合物は、低屈折率を有すると共に、反応性希釈剤および架橋剤としての低粘度化および架橋密度向上を達成することができる。そのため、光学分野等での利用が望まれるが、これまでほとんど知られていない。公知例の1つとして特許文献4がある。当該文献では、1分中に複数のエポキシ基を持つ含フッ素多官能化合物が開示されている(請求項2中の式(5)および(6))。この化合物は、エポキシ基を含有するアルコール化合物に対してフッ素含有オレフィンを反応させることで製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−083813号公報
【特許文献2】特開2004−231787号公報
【特許文献3】特開2003−183266号公報
【特許文献4】特開2002−60387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載された含フッ素多官能エポキシ化合物は、アルコール化合物とフッ素含有オレフィンとを当モル量で反応させるものであるために、1分子中に含まれるフッ素含量を調整しにくく、その結果、当該化合物が示す屈折率を調整することが困難であった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、低い屈折率を示すものでありながら反応性希釈剤かつ架橋剤として作用することができ、しかも、屈折率の調整が容易な、新規の含フッ素多官能エポキシ化合物、これを含む組成物、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表わされる含フッ素多官能エポキシ化合物である。
(Rf−OCH−CH(OR)−CH−O−)−A−(−OR (1)
(式(1)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。ただし、RとRのうち少なくとも2つはグリシジル基を示す。pは1〜19の整数、qは1〜19の整数であり、p+qは2〜20である。Aは、p+q個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。)
また本発明は、前記含フッ素多官能エポキシ化合物と、下記一般式(3)で表されるエポキシ化合物と、を含む、組成物でもある。
A−(−OR (3)
(式(3)中、Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。rは2〜20の整数であり、式(1)中のp+qに等しい。Aは、r個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。)
さらに本発明は、ルイス酸触媒の存在下、下記一般式(4)で表される多官能アルコールと、下記一般式(5)で表される含フッ素モノエポキシ化合物とを反応させて下記一般式(6)で表される含フッ素化合物を得る第1工程と、塩基性条件下、下記一般式(6)で表される前記含フッ素化合物にエピハロヒドリンを反応させて前記一般式(1)で表される含フッ素多官能エポキシ化合物を得る第2工程とからなる、含フッ素多官能エポキシ化合物の製造方法でもある。
(HO)−A−(OH) (4)
(式(4)中、A、pおよびqは、式(1)中のものと同じである。)
【0010】
【化1】

【0011】
(式(5)中、Rfは、式(1)中のものと同じである。)
(Rf−OCH−CH(OH)−CH−O−)−A−(−OH) (6)
(式(6)中、A、Rf、pおよびqは、式(4)および式(5)中のものと同じである。)
さらに本発明は、塩基性条件下、前記一般式(6)で表される含フッ素化合物にエピハロヒドリンを反応させて前記一般式(1)で表される含フッ素多官能エポキシ化合物を得ることからなる、含フッ素多官能エポキシ化合物の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素多官能エポキシ化合物は、フッ素を有するものであるために低い屈折率を示すものでありながら、低粘度であるため反応性希釈剤として利用でき、さらに複数のエポキシ基を有するため架橋剤としても利用できる。しかも、製造過程の第一工程で使用する含フッ素モノエポキシ化合物と多官能アルコールとの反応比率を調整することによって、含フッ素多官能エポキシ化合物の屈折率を容易に調整することができる。また、フッ素を有するものであるためフッ素ポリマーとの相溶性が良好である。
【0013】
本発明の組成物は、上記含フッ素多官能エポキシ化合物を含むものであるため上述した利点を有することに加えて、フッ素を含有しないエポキシ化合物を含むものであるためフッ素ポリマー以外の物質との相溶性についても良好である。
【0014】
本発明の製造方法によると、上記含フッ素多官能エポキシ化合物を効率よく簡便に製造することができる。本発明の製造方法は、原料として多官能アルコールを利用するものであるため、原料の選定が容易であると共に、反応比率を変化させることで、化合物の設計を柔軟に行なうことができる。また、2段階で合成を行なうものであるため、最終化合物に未反応の多官能アルコールが混入しにくいため、最終化合物の物性に影響を及ぼすことが少ない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
まず、一般式(1)で表わされる含フッ素多官能エポキシ化合物について説明する。
(Rf−OCH−CH(OR)−CH−O−)−A−(−OR (1)
式(1)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rfが有するフッ素原子の個数は1個以上であれば特に限定されず、所望の屈折率に応じて適宜決定すればよいが、2個以上が好ましい。上限も特に限定されないが、例えば20個以下であり、好ましくは18個以下である。Rfの炭素数は1〜10が好ましく、1〜7がより好ましい。Rfは、入手が容易であることから、下記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基であることが好ましい。
H(CFCH− (2)
(式(2)中、nは2、4、または6を示す。)
式(1)中、Rは水素原子またはグリシジル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。ただし、RとRのうち少なくとも2つはグリシジル基を示す。従って、式(1)で表わされる含フッ素多官能エポキシ化合物は、2個以上のエポキシ基を有する化合物である。また、式(1)の化合物は、水酸基を有する化合物であってもよいし、RとRのすべてがグリシジル基である場合には、水酸基を有しない化合物であってもよい。しかし、最終生成物の物性に悪影響を及ぼさないよう、式(1)の化合物は水酸基を有しないこと、すなわちRとRの全てがグリシジル基であることが好ましい。本願において、グリシジル基は無置換のグリシジル基であってもよいし、少なくとも1つの炭素数1〜6程度の炭化水素基(例えばメチル基)を置換基として有するグリシジル基であってもよい。
【0017】
式(1)中、pは1〜19の整数、qは1〜19の整数であり、p+qは2〜20である。p+q(pとqの合計)は、含フッ素多官能エポキシ化合物の原料である多官能アルコールが有する水酸基の個数を示す。多官能アルコールとは、2個以上の水酸基を有するアルコール化合物を意味する。p+qは、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜6である。特に好ましくは2または3である。製造が容易であるため、pは1であることが好ましい。
【0018】
式(1)中、Aは、p+q個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。ここで、多官能アルコールの脱水酸基残基とは、多官能アルコールの水酸基以外の構造を指し、(p+q)価の残基である。当該残基としては特に限定されないが、例えば、炭化水素基、または、内部にエーテル基を有する炭化水素基である。これら炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、例えば1〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6である。
【0019】
多官能アルコールとしては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。多官能アルコールとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の組成物は、以上説明した含フッ素多官能エポキシ化合物に加えて、下記一般式(3)で表されるエポキシ化合物を含んでもよい。
A−(−OR (3)
(式(3)中、Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。rは2〜20の整数であり、式(1)中のp+qに等しい。Aは、r個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。)
当該エポキシ化合物は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であり、多官能アルコールが有する少なくとも1つの水酸基が、グリシジルエーテル基により置換されている構造を示す。ここで、式(3)のエポキシ化合物における多官能アルコールの脱水酸基残基は、式(1)の含フッ素多官能エポキシ化合物における多官能アルコールの脱水酸基残基と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
本発明の組成物における式(1)の化合物と式(3)の化合物との配合割合は特に限定されない。組成物に要求される屈折率、粘度および反応性、フッ素ポリマー又はそれ以外の物質との相溶性等を考慮して、適宜決定すればよい。
【0022】
本発明の組成物は、後述するように、式(1)の化合物を製造するための方法で製造することができる。また、式(3)の化合物を別途入手し、式(1)の化合物と混合してもよい。
【0023】
次に、本発明の化合物および組成物を製造する方法について説明する。
【0024】
本発明の化合物は、次の2工程により製造することができる。
【0025】
(第一工程)ルイス酸触媒の存在下、下記一般式(4)で表される多官能アルコールと、下記一般式(5)で表される含フッ素モノエポキシ化合物とを反応させて下記一般式(6)で表される含フッ素化合物を得る。
(HO)−A−(OH) (4)
(式(4)中、A、pおよびqは、式(1)中のものと同じである。)
【0026】
【化2】

【0027】
(式(5)中、Rfは、式(1)中のものと同じである。)
(Rf−OCH−CH(OH)−CH−O−)−A−(−OH) (6)
(式(6)中、A、Rf、pおよびqは、式(4)および式(5)中のものと同じである。)
第一工程では、式(4)の多官能アルコールと式(5)の含フッ素モノエポキシ化合物との付加反応により、多官能アルコールが有する少なくとも1つの水酸基にフルオロアルキル基を導入する。この反応はエポキシ基の開環反応を伴い、この開環反応により新たな水酸基が生じる。ただし、式(4)の多官能アルコールが本来有する複数の水酸基のうち少なくとも1つは、式(5)の化合物と反応せずにそのまま残留する。
【0028】
式(4)の多官能アルコールとしては、上述したものが使用できる。
【0029】
式(5)の化合物は、フッ素アルキル基とグリシジル基が酸素結合を介して結合してなるエーテル化合物である。このような化合物は市販されており、市販品を利用できる。
【0030】
第一工程の反応により得られる式(6)で表される含フッ素化合物では、多官能アルコールが有する少なくとも1つの水酸基が、n−プロピルエーテル基に置換されており、少なくとも1つの別の水酸基は置換されずにそのまま残留している。当該n−プロピルエーテル基は、β位に水酸基を有し、γ位にフルオロアルキル基を有する。
【0031】
第一工程の付加反応はルイス酸により触媒される。ルイス酸としては特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、クロム、鉄、銅、パラジウム、スズ、白金、水銀などの金属の塩や、トリフルオロボラン、トリアルコキシボラン、トリアルキルアルミニウムなどの化合物が挙げられる。これらのうち、汎用的に用いられるトリフルオロボラン、四塩化スズなどが好ましい。その使用量は、反応させる化合物の種類および量に応じて適宜設定することができる。例えば、多官能アルコールの水酸基1モルに対して0.0001〜0.01モル程度である。
【0032】
第一工程で反応溶媒は使用しなくてもよい。使用する場合には、多官能アルコールとの溶解性、工業的な入手のし易さ、製造コスト等を考慮して公知の溶媒から選択することができる。使用する場合は、例えば、塩化メチレンなどの塩素系溶媒や、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族系溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等を使用することができる。反応時の温度は適宜設定することができ、例えば、約20〜120℃で反応を行ってもよい。また、反応時間も宜設定することができ、例えば、約1〜12時間反応を行ってもよい。
【0033】
第一工程における式(4)の多官能アルコールと式(5)の含フッ素モノエポキシ化合物との使用割合は特に限定されないが、式(4)の多官能アルコールが有する水酸基の総モル数よりも、式(5)の含フッ素モノエポキシ化合物のモル数が少なくなるよう両化合物を用いる必要がある。これにより、多官能アルコールが有する複数の水酸基のうち少なくとも1つは未反応でそのまま残留する。好ましくは、式(4)の多官能アルコールのモル数よりも、式(5)の含フッ素モノエポキシ化合物のモル数が少なくなるよう両化合物を用いる。これにより、第一工程後、式(4)の多官能アルコールの一部が式(5)の化合物とまったく反応せずに残留し、これが次の工程でエピクロロヒドリンと反応することで、式(3)のエポキシ化合物が生成する。その結果、式(1)の含フッ素多官能エポキシ化合物と式(3)のエポキシ化合物とを含む組成物が得られる(この場合において、式(6)の化合物におけるpは、ほぼ、1である)。具体的には、式(4)の多官能アルコールと式(5)の含フッ素モノエポキシ化合物の使用割合は、0.01〜0.9(モル比)程度が好ましい。第二工程後の最終製品における屈折率を低くしたい場合には、フッ素含量を多くすることが望ましいので、式(5)の化合物の使用割合を多くすればよい。
【0034】
(第二工程)塩基性条件下、下記一般式(6)で表される前記含フッ素化合物にエピハロヒドリンを反応させて前記一般式(1)で表される含フッ素多官能エポキシ化合物を得る。この反応で、式(6)の含フッ素化合物は、単独で用いてもよいし、未反応の式(4)の多官能アルコールとの組成物として用いてもよい。
【0035】
エピハロヒドリンとしては、γ位にハロゲン原子を有するエポキシ化合物であれば特に限定されないが、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、α−、β−、またはγ−メチルエピクロロヒドリン等が挙げられる。なかでも、工業的に入手しやすいためエピクロロヒドリンが好ましい。
【0036】
第二工程における式(6)の含フッ素化合物とエピハロヒドリンとの使用割合は特に限定されない。最終製品におけるエポキシ基の含量を考慮して適宜決定することができる。しかし、最終製品に水酸基が残留しないよう、エピハロヒドリンを、式(6)の含フッ素化合物に含まれる水酸基の合計量と比較して過剰に用いることが好ましい。
【0037】
第二工程は式(6)の前記含フッ素化合物が有する水酸基の水素原子が、エピクロロヒドリンのグリシジル基により置換されることで進行する反応であり、反応系中を塩基性条件下に置くことで進行する。ここで、塩基としては無機塩基を使用することができ、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等を使用することができる。
【0038】
この反応系は油中または水中のいずれで行ってもよいが、好ましくは水中で行なう。反応時の温度は適宜設定することができ、例えば、約40〜80℃で反応を行ってもよい。また反応時間も適宜設定することができ、例えば、約1〜15時間、好ましくは約2〜8時間反応を行なってもよい。
【0039】
本発明は、以上説明した第二工程のみからなる含フッ素多官能エポキシ化合物の製造方法であってもよい。この場合、式(6)で表される前記含フッ素化合物は、前述した方法、または、公知の方法により合成されたものを入手すればよい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
撹拌機と冷却管と温度計を備える反応器に、トリメチロールプロパン35g(0.26モル)を投入し、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.2mlの存在下に、内温を60〜75℃に保ちつつ、含フッ素モノエポキシ化合物E−5644(商品名、ダイキン工業製)50g(0.13モル)を冷却除熱させながら2時間かけて滴下して、エーテル化反応を行った。この際、エーテル化反応の終了は、残存エポキシ化合物量をJIS K−7236に則って測定し、反応が99%以上進行していることを確認した。なお、トリメチロールプロパンが含フッ素モノエポキシ化合物E−5644に対して過剰に存在しているため、トリメチロールプロパンの一部は未反応のままである。
【0042】
引き続き、水酸化ナトリウム0.2gの存在下に、エピクロロヒドリンを固形分が15%となるように調整して大過剰に加え、さらにテトラメチルアンモニウムクロライドをトリメチロールプロパンに対して3倍(重量比)加えた。減圧下で内温を55〜65℃に保ち、あわせて水を除去しながら、49%液体苛性ソーダ69gを4時間かけて滴下して、引き続き1時間の熟成を行った。
【0043】
得られた反応液に対して、生成した塩の濃度が10%である水溶液となるように軟水を加えて撹拌溶解し、エピクロロヒドリン層を分離抽出して、生成塩を除去した。その後、軟水で有機層を洗い、エバポレータにより100℃で減圧濃縮を行って有機層からエピクロロヒドリンを除去して、最終生成物を得た。最終生成物には、新規の含フッ素多官能エポキシ化合物の他、フッ素を含有しないエポキシ化合物(トリメチロールプロパン1分子に対しエピクロロヒドリン3分子が反応した化合物)が含まれる。
【0044】
次に本実施例における新規の含フッ素多官能エポキシ化合物を合成する二段階の反応式を示す。
【0045】
【化3】

【0046】
(実施例2)
含フッ素モノエポキシ化合物E−5644の添加量を100gに変更したこと以外は実施例1と同様に反応を行い、含フッ素多官能エポキシ化合物とフッ素を含有しないエポキシ化合物を含む組成物を得た。
【0047】
(実施例3)
含フッ素モノエポキシ化合物E−5644に代えて、含フッ素モノエポキシ化合物E−5444(商品名、ダイキン工業製)を用いたこと以外は実施例1と同様に反応を行い(多官能アルコールと含フッ素モノエポキシ化合物とのモル比は実施例1と同じである。)、含フッ素多官能エポキシ化合物とフッ素を含有しないエポキシ化合物を含む組成物を得た。
【0048】
次にE−5444の構造式を示す。
【0049】
【化4】

【0050】
(実施例4)
トリメチロールプロパンに代えて1,6−ヘキサンジオールを用いたこと、及び含フッ素モノエポキシ化合物E−5644に代えて含フッ素モノエポキシ化合物E−5244(商品名、ダイキン工業製)を用いたこと以外は実施例1と同様に反応を行い、含フッ素多官能エポキシ化合物とフッ素を含有しないエポキシ化合物を含む組成物を得た。
【0051】
次にE−5244の構造式を示す。
【0052】
【化5】

【0053】
(比較例1)
第一工程のエーテル化反応を行なわず、実施例1の第二工程に準じて、水酸化ナトリウム、エピクロロヒドリン、テトラメチルアンモニウムクロライドを用いてトリメチロールプロパンのエポキシ化反応を行なった。これにより、フッ素を含まない多官能エポキシ化合物を得た。
【0054】
(比較例2)
トリメチロールプロパンに代えて1,6−ヘキサンジオールを用いたこと以外は、比較例1と同様にエポキシ化反応を行い、フッ素を含まない多官能エポキシ化合物を得た。
【0055】
(評価)
実施例1〜4で得られた生成物について、以下の方法により、エポキシ当量、屈折率および粘度の測定を行った。また、比較例1〜2で得られた生成物については屈折率の測定を行った。
【0056】
(エポキシ当量の測定)
JIS−K7236に準拠した過塩素酸を用いた電位差滴定により各生成物のエポキシ当量を測定した。
【0057】
(屈折率の測定)
アッベ屈折計(アタゴ(株)製)により25℃での各生成物の屈折率を測定した。
【0058】
(粘度の測定)
B型粘度計により25℃での各生成物の粘度を測定した。
【0059】
(試験結果)
実施例1〜4についての試験結果を表1に、比較例1〜2についての試験結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜3と比較例1を比較すると、含フッ素モノエポキシ化合物と反応させることでフッ素を導入した実施例1〜3の方が、生成物の屈折率が低くなっている。また、実施例4と比較例2を比較すると、同様に、含フッ素モノエポキシ化合物と反応させることでフッ素を導入した実施例4の方が、生成物の屈折率が低くなっている。以上より、フッ素を導入することで生成物の屈折率が低くなることが確認された。すなわち、実施例1〜4の生成物はいずれも、低い屈折率を示す。これに加えて、低粘度であり、高いエポキシ当量を示す。
【0063】
実施例1と実施例2を比較すると、含フッ素モノエポキシ化合物E−5644の使用量が多い実施例2の方が、生成物の屈折率が低くなっている。このことから、多官能アルコールと含フッ素モノエポキシ化合物の使用比を変更することで、生成物の屈折率を調整できることが分かる。
【0064】
実施例1と実施例3を比較すると、含フッ素モノエポキシ化合物としてフッ素含有量の多いE−5644を用いた実施例1の方が、屈折率が低くなっている。このことから、含フッ素モノエポキシ化合物のフッ素含有量を変更することで、生成物の屈折率を調整できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の含フッ素多官能エポキシ化合物及びこれを含む組成物は、低屈折性、撥水・撥油性、および耐薬品性を有するものであるため、光学レンズ、ホログラム、光記録材料等の光学材料、反射防止膜、塗料等の原料成分として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる含フッ素多官能エポキシ化合物。
(Rf−OCH−CH(OR)−CH−O−)−A−(−OR (1)
(式(1)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示す。Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。ただし、RとRのうち少なくとも2つはグリシジル基を示す。pは1〜19の整数、qは1〜19の整数であり、p+qは2〜20である。Aは、p+q個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、多官能アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、及びソルビトールからなる群より選択される、請求項1に記載の含フッ素多官能エポキシ化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Rfが、下記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基である、請求項1または2に記載の含フッ素多官能エポキシ化合物。
H(CFCH− (2)
(式(2)中、nは2、4、または6を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素多官能エポキシ化合物と、
下記一般式(3)で表されるエポキシ化合物と、を含む、組成物。
A−(−OR (3)
(式(3)中、Rは水素原子またはグリシジル基を示し、少なくとも1つのRはグリシジル基を示す。rは2〜20の整数であり、式(1)中のp+qに等しい。Aは、r個の水酸基を有する多官能アルコールの脱水酸基残基を示す。)
【請求項5】
ルイス酸触媒の存在下、下記一般式(4)で表される多官能アルコールと、下記一般式(5)で表される含フッ素モノエポキシ化合物とを反応させて下記一般式(6)で表される含フッ素化合物を得る第1工程と、
塩基性条件下、前記含フッ素化合物にエピハロヒドリンを反応させて請求項1〜3のいずれかに記載の一般式(1)で表される含フッ素多官能エポキシ化合物を得る第2工程とからなる、含フッ素多官能エポキシ化合物の製造方法。
(HO)−A−(OH) (4)
(式(4)中、A、pおよびqは、式(1)中のものと同じである。)
【化1】


(式(5)中、Rfは、式(1)中のものと同じである。)
(Rf−OCH−CH(OH)−CH−O−)−A−(−OH) (6)
(式(6)中、A、Rf、pおよびqは、式(4)および式(5)中のものと同じである。)
【請求項6】
塩基性条件下、下記一般式(6)で表される含フッ素化合物にエピハロヒドリンを反応させて請求項1〜3のいずれかに記載の一般式(1)で表される含フッ素多官能エポキシ化合物を得ることからなる、含フッ素多官能エポキシ化合物の製造方法。
(Rf−OCH−CH(OH)−CH−O−)−A−(−OH) (6)
(式(6)中、A、Rf、pおよびqは、式(1)中のものと同じである。)