説明

含フッ素酸フルオリド化合物

【課題】入手容易な原料物質から製造が可能で、その分子内にヨードフェニル基またはブロモフェニル基を有する、新規な含フッ素酸フルオリド化合物を提供する。
【解決手段】一般式


(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、nは0〜130の整数である)で表わされる含フッ素酸フルオリド化合物。この含フッ素酸フルオリド化合物は、エラストマー性高分子化合物の主要原料として好適に利用することができる。また、含フッ素ビニルエーテル化合物の中間体としても利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素酸フルオリド化合物に関する。さらに詳しくは、入手が容易な原料から製造することができ、その分子末端に反応活性部位を有する新規な含フッ素酸フルオリド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子末端に反応活性部位を有する含フッ素酸フルオリド化合物としては、

Y:SO2F、COOH、CONH2、CN、Br、I
l:1〜5
m:1〜5
で表わされる化合物が知られている。
【特許文献1】特開昭61−171706号公報
【特許文献2】USP 3,546,186
【特許文献3】USP 4,281,092
【0003】
かかる化合物は、下記一般式に示されるような含フッ素ビニルエーテル化合物に変換した後、種々の含フッ素不飽和単量体と共重合され、生成する共重合体に、イオン交換能や硬化部位等の機能を付与する。しかしながら、上記含フッ素酸フルオリド化合物を製造するに際して、入手または製造が困難な出発原料を用いる場合が多く、また製造工程において、取り扱いが難しい化学薬品を使う場合もある。

【0004】
これ以外にも、下記のような含フッ素酸フルオリドが知られており、何れもビニルエーテル化合物に変換され、含フッ素エラストマーの架橋部位単量体として用いられる。


【特許文献4】USP 3,467,638
【特許文献5】USP 3,682,872
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、入手容易な原料物質から製造が可能で、その分子内にヨードフェニル基またはブロモフェニル基を有する、新規な含フッ素酸フルオリド化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって、一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、nは0〜130の整数である)で表わされる含フッ素酸フルオリド化合物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の含フッ素酸フルオリド化合物は、入手が容易な原料物質から、平易な反応によって製造し得る。この含フッ素酸フルオリド化合物は、エラストマー性高分子化合物の主要原料として好適に利用することができる。また、含フッ素ビニルエーテル化合物の中間体としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の含フッ素酸フルオリド化合物は、一般式

で表わされる。nは0〜130の整数であるが、この化合物を例えば含フッ素ビニルエーテル化合物の中間体として利用する場合には、含フッ素不飽和単量体との共重合性を考慮して、nが0〜3であることが好ましい。また、後述のようなエラストマー性高分子化合物の主要原料の中間体として用いる場合には、最終製品の機械的強度を考慮して、nが30〜130であることが好ましく、nが50〜130であることがさらに好ましい。Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、特に製造のし易さからは炭素数3の-CF2CF2CF2-基または-CF(CF3)CF2- (ただし、CF3基がオキシフェニル基側)基が好ましい。Xはヨウ素原子または臭素原子である。フェニル基に結合したヨウ素原子または臭素原子の反応性は、条件によって異なることが、一般的にはヨウ素原子の方が高い。
【0009】
含フッ素酸フルオリド化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。






【0010】
かかる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物は、例えば以下のようにして製造することができる。

【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 106巻 5544頁 (1984)
【0011】
前述の如く、上記含フッ素酸フルオリド化合物は、含フッ素ビニルエーテル化合物に変換することができる。かかる化合物は、含フッ素不飽和単量体と共重合され、フッ素樹脂またはフッ素ゴム等の工業的に有用な高分子材料を形成し得る。

また、下記のような芳香族1級または2級アミンと反応させ、

R1:水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基
Z:I、Br
含フッ素ポリエーテル化合物

とすることができる。
【0012】
上記含フッ素ポリエーテル化合物〔(A)成分〕は、以下の各成分とともに硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成し得る。
(A)成分 含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸またはそのエステル化合物 0.1〜10重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
【非特許文献2】Chem. Rev. 95巻 2457頁 (1995)
【実施例】
【0013】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0014】
実施例
含フッ素フルオリド化合物の合成

【0015】
(1)攪拌装置、温度センサおよびガス導入口を備えた内容量500mlのステンレス鋼製圧力容器に、予め乾燥したジメチルスルホキシド150mlおよび4-ヨードフェノールカリウム塩26g(0.1モル)を仕込み、内部を脱気した。次いで、反応容器を-78℃に冷却し、テトラフルオロエチレン10g(0.1モル)および炭酸ガス6g(0.14モル)を順次仕込んだ。攪拌しながら内部の温度をゆっくりと室温まで昇温し、4時間そのままの状態を保った後、さらに50℃で4時間反応を行った。室温に冷却後、残留ガスをパージし、硫酸ジメチルを12g(0.1モル)仕込んだ。内容物を抜き取り、通常の反応処理および精製を行い、次式で表わされるメチルエステル

を22g(収率60%)得た。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -86ppm(CF2OAr)
-121ppm(CF2CO)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 4.0ppm(CH3O)
7.7ppm(Ha)
7.0ppm(Hb)
IR(neat): 1780cm-1(C=O)
【0016】
得られた、メチルエステルをメタノール性水酸化カリウムで加水分解し、カルボン酸カリウム塩

とした後、次の反応に用いた。
【0017】
(2)攪拌装置および冷却還流管を備えた内容量500mlの三口フラスコに上記(1)で得られたカルボン酸カリウム塩120g(0.3モル)、オキシ三塩化リン 32g(0.21モル)およびアセトニトリル200mlを仕込み、10時間加熱還流した。反応混合物をロ過し、ロ液を蒸留して、カルボン酸クロリド

を80g(収率70%)得た。
IR(neat): 1800cm-1(C=O)
【0018】
(3)攪拌装置、滴下ロートおよび減圧口を備えた内容量1Lの四口フラスコに、フッ化ナトリウム63g(1.5モル)およびスルホラン200mlを仕込み、ドライアイス/エタノールコールドトラップを反応容器と真空ポンプの間に設置した。反応容器内を100℃に加熱した後、上記(2)で得られたカルボン酸クロリド 115g(0.3モル)を滴下した。滴下終了後30分間同じ状態を保った。その後、反応容器内を400Paまで減圧し、生成物をコールドトラップに捕集した。その量は、71g(収率65%)であった。これを蒸留により精製し次の反応に用いた。

19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -86ppm(CF2OAr)
-121ppm(CF2CO)
25ppm(COF)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.7ppm(Ha)
7.0ppm(Hb)
IR(neat): 1890cm-1(C=O)
【0019】
このようにして得られた酸フルオリド化合物8.4g、フッ化セシウム3.5gおよびテトラグライム39gからセシウムアルコキシド

のテトラグライム溶液を調製し、次の反応に用いた。
【0020】
(4)攪拌装置、温度センサ、ガス導入口およびドライアイス/エタノール冷却凝縮器を備えた内容量1Lのガラス製反応容器を低温恒温槽に設置し、上記(3)で得られたアルコキシド化合物を23ミリモル含むテトラグライム溶液50gを仕込んだ。内温を-33〜-30℃に調整した後、ガス導入口よりヘキサフルオロプロペンを20g仕込んだ。次に、ヘキサフルオロプロペンオキシドを5g/hrおよびヘキサフルオロプロペンを2g/hrの供給速度で反応容器内に仕込んだ。60時間経過後、ガスの供給を停止し、さらに1時間-33〜-30℃に内温を保った。減圧下でヘキサフルオロプロペンを反応系内より除去した後、室温までゆっくり昇温した。さらに100℃まで昇温し、減圧下でヘキサフルオロプロペンオリゴマーを反応混合物より除去した。このようにして、フッ化セシウム、テトラグライムおよび含フッ素カルボン酸フルオリドからなる混合物を淡黄色粘稠な懸濁液として345g得た。
【0021】
これをさらに150℃に加熱し、フッ化セシウム、テトラグライムおよび含フッ素酸フルオリド化合物の3層に分離させた後、含フッ素酸フルオリド化合物層を分取し、ロ過して、含フッ素酸フルオリド化合物を280g(収率91%)を得た。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): 25ppm(COF)
IR(neat): 1890cm-1(C=O)
1490cm-1(Ar)
【0022】
なお、ヘキサフルオロプロペンオキシドの数平均重合度(nの値)および副生成物であるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーとのモル分率(MF)の定量的な分析は、含フッ素酸フルオリド化合物をメタノールによりエステル体とした後、19F-NMRにより行った。

s=Fa(-131ppm)ピーク積分値
t=Fb(-133ppm)ピーク積分値
u=Fc(-146ppm)ピーク積分値
注) ケミカルシフトはCFCl3基準
MF=1-(s/(2t))=0.85
ヘキサフルオロプロペンオキシド数平均重合度=u/t=72
【0023】
参考例
含フッ素ポリエーテル化合物の合成

実施例で得られた含フッ素カルボン酸フルオリド、フッ化セシウムおよびテトラグライムからなる混合物60g(約4.7ミリモル)を、含フッ素系溶媒(住友3M製品HFE-7100)50mlに溶解し、そこにトリエチルアミン1.0g(1.0ミリモル)およびジエチルエーテル20mlを加えた。これに、p-ヨード-N-メチルアニリン1.6g(7.0ミリモル)を加え、室温で1時間反応を行った。得られた反応混合物を飽和食塩水に加え、分離した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、ロ過した。減圧下でロ液から含フッ素系溶媒およびジエチルエーテルを留去した後、得られた粘稠な液体をジエチルエーテルで数回洗浄し、次いで減圧下でジエチルエーテルを完全に留去した。このようにして、含フッ素ポリエーテル化合物

を僅かに黄色味を帯びた透明な液体として49g(収率80%)得た。E型粘時計(東機産業製TEV-22)により粘度を測定したところ、13Pa・s(25℃)であった。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -123ppm(Fb)
-145ppm(Fc)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.5ppm(Ha、He)
6.6ppm(Hb、Hd)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1703cm-1(C=O)
1490cm-1(Ar)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、nは0〜130の整数である)で表わされる含フッ素酸フルオリド化合物。
【請求項2】
上記一般式において、Rfが-CF2CF2CF2-である請求項1記載の含フッ素酸フルオリド化合物。
【請求項3】
上記一般式において、Rfが-CF2CF(CF3)- (ただし、側鎖CF3基側がオキシフェニル基側)である請求項1記載の含フッ素酸フルオリド化合物。
【請求項4】
上記一般式において、nが30〜130である請求項1記載の含フッ素酸フルオリド化合物。
【請求項5】
上記一般式において、nが0〜3である請求項1記載の含フッ素酸フルオリド化合物。

【公開番号】特開2008−255035(P2008−255035A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97283(P2007−97283)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】