説明

含フッ素重合体水性分散液

【課題】 金属との接着性にすぐれ、環境にやさしい含フッ素重合体水性分散液を提供する。
【解決手段】 含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体と、多分散度(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで割った値)が1.15以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤とを含む含フッ素重合体水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属との接着性にすぐれた含フッ素重合体水性分散液に関する。さらに詳しくは、含フッ素重合体と、特定の重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を含む含フッ素重合体水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体水性分散液は、塗膜に非汚染付着性や耐候性を与えることから水性塗料の原料として用いることが提案されている。含フッ素重合体水性分散液は、有機溶剤を使用した溶液コーティング材のように多量の溶剤を使用する必要がなく、環境や安全面への配慮に合致したものとして注目され、開発が進められている。
【0003】
含フッ素重合体水性分散液は、耐候性に優れており、また耐熱性、気体不透過性、電気絶縁性等にも優れているので、撥水撥油剤、防汚剤、表面改質剤などとして利用されるようになってきた。
【0004】
含フッ素重合体は非粘着性を特徴とする樹脂であるが故に、含フッ素重合体水性分散液は成膜性や密着性が低いという性質を有している。これらを改善するために含フッ素重合体粒子をアクリル系重合体で改質する試みがなされてきた(例えば特開平3−7784号公報)。しかしながら、従来公知の含フッ素重合体水性分散液では、含フッ素重合体と基材との接着性が十分でなく、その改善が求められている。とくに従来公知の含フッ素重合体水性分散液は、金属基材に対する接着性が乏しく、アルミやSUSなどへ含フッ素重合体を被覆しようとすると、これら金属基材との接着が難しいため、金属基材の表面処理やプライマー処理などの下地処理が必要であった。
【0005】
近年、カメラ、携帯電話、ラップトップコンピュータなどポータブル電子機器が普及する中、小型・軽量で、エネルギー密度が高い二次電池としてリチウムイオン二次電池やニッケル−水素二次電池が実用化されており、これらの高性能電池の電極材料として含フッ素重合体が提案されている(特開平7−73874号公報、特開平10−64548号公報など)。
【0006】
また、分極性電極をイオン透過性のセパレーターを介して対向させ、分極性電極の表面の電解液中に形成される電気二重層に電荷を蓄積する電気二重層キャパシタ(Electric Double Layer Capacitor =EDLC)が知られている。キャパシタは、電気化学反応を伴う二次電池と比べて、長寿命・高出力・低環境負荷といった特長がある。このようなキャパシタの電極用結着剤にフッ素樹脂を使用することが提案されている(特開平10−64517号公報、特開2003−109875号公報)。
【0007】
さらに、含フッ素重合体水性分散液の用途として電極結着剤が提案されている(特開平11−343317号公報)が、含フッ素重合体水性分散液を電極結着剤として使用する場合には、集電体を構成する金属との接着性が電池の性能を左右することになるため、その改善が求められている。
【0008】
その上、従来公知の含フッ素重合体水性分散液は、金属との接着性が十分でないという問題に加えて、電子部品材料にとって不具合が生じる恐れのある金属不純物含量が充分に低い水準にはないか、あるいは使用後に熱分解しにくい成分が多く含まれているといった問題を有していた。
【0009】
【特許文献1】特開平3−7784号公報
【特許文献2】特開平11−343317号公報
【特許文献3】特開平7−73874号公報
【特許文献4】特開平10−64517号公報
【特許文献5】特開2003−109875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、含フッ素重合体水性分散液の金属との接着性を改善するとともに、環境に優しいという特徴をも有する含フッ素重合体水性分散液の開発を目指して、鋭意研究を進めた結果本発明に到達したものである。
本発明は、金属との接着性にすぐれた含フッ素重合体水性分散液を提供する。
本発明はまた、金属との接着性にすぐれ、環境に優しい含フッ素重合体水性分散液を提供する。
本発明はさらに、上記の金属との接着性にすぐれた含フッ素重合体水性分散液から得られる結着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体と、多分散度(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで割った値)が1.15以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤とを含む含フッ素重合体水性分散液。
【0012】
前記含フッ素重合体がポリテトラフルオロエチレンである、前記した含フッ素重合体水性分散液は本発明の好ましい態様である。
【0013】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が、炭素数8〜18の脂肪族アルコールにエチレンオキサイドが5〜20個付加したものである、前記した含フッ素重合体水性分散液は本発明の好ましい態様である。
【0014】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤のアルカリ金属の含有量が30ppm以下である、前記した含フッ素重合体水性分散液は本発明の好ましい態様である。
【0015】
含フッ素重合体100重量部当り、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を2〜15重量部の割合で含有する、前記した含フッ素重合体水性分散液は本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記含フッ素重合体と、前記スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体との割合が、両者の合計を100重量%として、含フッ素重合体が1〜99重量%であり、該重合体が99〜1重量%である、前記した含フッ素重合体水性分散液本発明の好ましい態様である。
【0017】
本発明また、前記した含フッ素重合体水性分散液から得られる結着剤を提供する。
本発明はさらに、前記した結着剤を含む電極を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、金属との接着性にすぐれた含フッ素重合体水性分散液が提供される。
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、金属との接着性にすぐれる上に、界面活性剤の分解がし易いというすぐれた性能を有する水性分散液であって、各種繊維の被覆剤、フイルム原料、塗料原料など広い範囲に適用可能な水性分散液である。
本発明によれば、本発明の含フッ素重合体水性分散液から得られる金属との接着性にすぐれた結着剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体と、多分散度(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで割った値)が1.15以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤とを含む含フッ素重合体水性分散液を提供する。
【0020】
本発明の含フッ素重合体としては、テトラフルオロエチレン、フロロトリフルオロエチレン、又はフッ化ビニリデンの単独重合体またはこれらと他のフッ素含有単量体との共重合体を挙げることができる。含フッ素重合体の具体例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを挙げることができる。これらの中ではとくにPTFE、あるいはテトラフルオロエチレンと少量の他の単量体との共重合であって実質的に溶融加工できない共重合体が好ましい。
【0021】
本発明の含フッ素重合体は、平均粒径が0.1〜0.4μm程度、好ましくは0.2〜0.3μm程度の微粒子であることが望ましい。また、本発明の含フッ素重合体は1〜99重量%の割合で水性分散液に含まれていることが好ましい。
【0022】
本発明の含フッ素重合体水性分散液において、含フッ素重合体とともに用いられる重合体は、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体である。これらの重合体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。中でも柔軟性の観点から、これらのガラス転移点(Tg)は30℃以下、好ましくは10℃以下であることが好ましい。
【0023】
本発明において使用されるスチレン−ブタジエン系共重合体のスチレンとブタジエンの重量比率は、スチレン100に対しブタジエン30−100であることが好ましい。ブタジエンの重量比率が低すぎる場合には、ガラス転移点が上昇し柔軟性が低下する傾向にある。
本発明において、スチレン−ブタジエン系共重合体は水性分散液として用いることが好ましい。
【0024】
本発明において使用されるアクリロニトリル−ブタジエン系共重合体は、アクリロニトリルおよびブタジエンを含む重合体である。アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体の特に好ましい具体例として、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸の共重合体を挙げることができる。アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸の重量比率は、アクリロニトリル約20−30重量%、ブタジエン約70−80重量%、メタクリル酸約2−5重量%であることが好ましい。
本発明において、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体は水性分散液として用いることが好ましい。
【0025】
本発明において使用されるアクリルコポリマーは、通常のアクリルコポリマーを使用することができる。中でもアクリルコポリマーの好ましい例として、アニオン系スチレン変性アクリルを挙げることができるが、特にはグリコールエーテルを含んでいないアニオン系スチレン変性アクリルが好ましい。
本発明において、アクリルコポリマーは水性分散液として用いることが好ましい。
【0026】
本発明において使用されるポリウレタンは、通常のポリウレタンを使用することができる。ポリウレタンの好ましい例として、脂肪族ポリエーテルウレタン、より好ましくはポリテトラメチレンエーテルウレタンを挙げることができる。
本発明において、ポリウレタンは水性分散液として用いることが好ましい。
【0027】
本発明において使用されるフッ素ゴムは、フッ素含有のゴムであって通常フッ素ゴムと呼ばれるものを使用することができる。フッ素ゴムの好ましい例として、四フッ化エチレン−パーフロロメチルビニルエーテル−フッ化ビニリデンの3元共重合体を挙げることができ、中でもフッ素含有量が60〜70重量%であるものが好ましい。
フッ素ゴムは通常架橋してゴムとして使用されるが、本発明のフッ素ゴムは架橋物であってもよいし、架橋前の未架橋物であってもよい。未架橋物である場合、本発明の含フッ素重合体水性分散液中のフッ素ゴムを、必要な時点で架橋させることができる。
本発明において、フッ素ゴムは水性分散液として用いることが好ましい。
四フッ化エチレン−パーフロロメチルビニルエーテル−フッ化ビニリデンの3元共重合体の未架橋物を含む水性分散液は、本発明のフッ素ゴムの好ましい使用形態である。
【0028】
本発明において使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は、式 RO(CHCHO)H(式中、Rは飽和もしくは不飽和の炭化水素基を示す。nはエチレンオキサイドの数(付加モル数)の平均値を示す。)で表される非イオン系界面活性剤である。
【0029】
上記式中、Rは含フッ素重合体粒子の沈降安定性の点から炭素数8〜18、好ましくは10〜16の範囲であることが望ましく、またエチレンオキサイドの平均付加モル数であるnは、熱分解性、沈降安定性、粘度安定性の観点から、5〜20、好ましくは7〜15の範囲が望ましい。
【0030】
該ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値である界面活性剤の多分散度(Mw/Mn)は、1.15以下であることが好ましい。上記界面活性剤の多分散度(Mw/Mn)は、界面活性剤の分子量分布の状態を表す値であり、Mw/Mnが1に近づくほど分子量分布が狭くなることを意味している。
【0031】
界面活性剤の高分子成分が多すぎると分解がしにくいため、界面活性剤を除去する場合に長時間の熱処理または高い温度での熱処理が必要となる傾向にあり、また低分子量成分が多すぎると分散性にあまり寄与せず、曇点が低く低温で粘度上昇が生じるため含フッ素重合体水性分散液が沈降分離し易くなる傾向にあるので、多分散度が上記範囲にあるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は本発明の目的に好適な界面活性剤である。
【0032】
上記した好ましい条件を満たす界面活性剤は、市販の界面活性剤から選ぶことができる。例としてレオコールTDN−90−80(ライオン(株)製、C1327O(CO)H)が挙げられる。そのMw/Mnは1.12である。
【0033】
本発明におけるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は1種または2種以上を混合して使用することも可能である。
【0034】
本発明のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤中に含有されるカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属の総量は30ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは2ppm以下であることが好ましい。アルカリ金属の総量がこの範囲にあると、電池用電極の結着剤として使用する場合、電池特性に悪影響を及ぼすことなく好適に使用することができる。
【0035】
上記のような性状を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は、例えば特開平1−164437号、特開平2−71841号、特開平7−22540号、特開平8−258919号、特開2000−61304号などに開示されている酸化マグネシウム含有固体触媒、好ましくはマグネシウムとアルミニウムと6A族、7A族及び8族から選ばれる少なくとも一種の金属とを含有する複合酸化物触媒を用いて、脂肪族アルコールとエチレンオキサイドを反応させることによって得ることができる。
【0036】
これら酸化マグネシウム含有固体触媒を用いて合成したポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は、エチレンオキサイドの付加モル数の分布が狭いのに加えて、金属等の不純物が非常に少ない。
【0037】
本発明におけるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤の配合量は、含フッ素重合体100重量部に対して2〜15重量部、とくに3〜12重量部であることが好ましい。
【0038】
本発明の含フッ素重合体水性分散液において、含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、スチレン変性アクリル重合体、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種の重合体とを含む固形分の量は、20〜70重量%未満、好ましくは30〜65重量%であることが望ましいが、用途によってこの範囲外の水性分散体とすることは制限されない。
【0039】
本発明の含フッ素重合体水性分散液において、含フッ素重合体と、含フッ素重合体とともに用いられる重合体の重量割合は、両者の混合物を100重量%とした場合、含フッ素重合体が1〜99重量%であり、含フッ素重合体とともに用いられる重合体が99〜1重量%であることが好ましい。
【0040】
本発明の含フッ素重合体水性分散液を得る方法には特に制限がないが、好ましい方法としては、含フッ素重合体を含む水性分散液と、含フッ素重合体とともに用いられる重合体を含む水性分散液を混合する方法を挙げることができる。本発明の含フッ素重合体水性分散液を得る好ましい具体例として、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が添加されているPTFE水性分散液と、SBRの水性分散液を混合することによって含フッ素重合体水性分散液を得る方法を挙げることができる。
【0041】
含フッ素重合体水性分散液を得るためのそれぞれの水性分散液の組成は、目的とする含フッ素重合体水性分散液が得られるように適宜調整することができる。
含フッ素重合体を含む水性分散液としては、含フッ素樹脂を1〜99重量%の割合、好ましくは30〜70重量%の割合で含む水性分散液として使用することができる。
また含フッ素重合体とともに用いられる重合体は、重合体を1〜99重量%の割合で含む水性分散液として使用することが好ましい。
【0042】
上記した水性分散液を混合する方法によって、本発明の含フッ素重合体水性分散液を得る場合、混合後の組成が上記した好ましい範囲となるように、それぞれの水性分散液の組成と、混合割合を調整することが好ましい。
【0043】
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、含フッ素重合体水性分散液に、必要に応じてポリアルキレンオキシドやカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールなどの増粘剤、チキソトロピー付与剤、各種塩類、水溶性溶剤、濃度調整のための水、防腐剤、各種レベリング剤、着色剤、顔料、染料、フィラー、あるいは含フッ素重合体以外の重合体微粒子、その他の成分を含有させて使用することができる。
【0044】
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、金属との接着性にすぐれるほか、界面活性剤の熱分解がし易く環境に優しい水性分散液であるので、広い範囲で用いることができる。たとえば、各種繊維の被覆剤、フイルム原料、塗料原料などとして使用することができる。
【0045】
界面活性剤の熱分解性は、熱重量分析装置(例えば、TGA2050:TA Instruments社製)を使い、界面活性剤(約10mg)を窒素雰囲気中で室温から320℃まで毎分20℃で昇温し、320℃に保持して重量変化を測定することによって確認することができる。界面活性剤が熱により分解されると重量の減少が生じ、分解が終了すると重量の変化が止まるので、この重量変化が止まるまでの時間(分解が終了する時間)を測定して熱分解性とすることができる。その時間が短い程熱分解し易いことを示す。
【0046】
本発明の含フッ素重合体水性分散液を塗布することによって、非汚染付着性および耐候性にすぐれた塗膜がえられるので、各種基材に含フッ素重合体塗膜を形成させるのに用いることができる。本発明の含フッ素重合体水性分散液によって表面に塗膜を形成させる基材の材質は、特に制限されるものではない。特に本発明の水性分散液は金属に対する接着性がすぐれているので、金属製基材には好適に適用される。また、基材の形状にも特に制限はない。基材がシート状であっても、円筒状であっても、一定形状に成形された成形体であってもよい。
【0047】
本発明の含フッ素重合体水性分散液からなる被膜を基材上に形成させる方法としては、分散液を基材表面に塗布する方法が一般的である。本発明の水性分散液は、基材、特に金属との十分な密着性を得ることができ、且つ十分な耐久性を示す含フッ素重合体水性分散液を提供できるので、耐久性が必要とされる用途に好適に用いることができる。
【0048】
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、金属との接着性を活かして金属基材のコーティング材として用いることができる。耐久性のある含フッ素重合体被覆物が得られるので、携帯電話、携帯用パソコンなどの情報通信機器や、デジタルカメラ、家庭用ゲーム機器、ジャー、炊飯器外装などの家庭電気製品の筐体、ジャー炊飯器内釜、電子ジャー内釜、オートベーカリー内釜、鍋、釜などの厨房機器のコーティングに利用することができる。
【0049】
また、本発明の含フッ素重合体水性分散液は、電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電素子用電極の結着剤として好適に使用することができる。結着剤は、本発明の水性分散液の主要な用途の一つである。本発明の含フッ素重合体水性分散液を結着剤として用いると、金属との良好な接着性が得られるので、電極材料が集電体から剥離するのを防止することができ、電極の性能を向上させ、寿命を長く保たせることができる。
【0050】
含フッ素重合体分散液とともに混練して結着させる粉体は、平均粒径が0.01〜1000μm、好ましくは0.01〜100μmの粉末状の物質であり、球状、棒状、フレーク状、不定形など形状にはとらわれない。具体的には、電池用活物質粉末である、カーボン粉末、フッ化カーボン粉末、二酸化マンガン粉末、酸化銀粉末、亜鉛粉末、鉛化合物粉末、ニッケル酸化物粉末、カドミウム系化合物粉末、水素吸蔵合金粉末、リチウム化合物粉末などが挙げられる。これらの粉体と共に、含フッ素重合体水性分散液、および必要に応じて水や水溶性樹脂などを添加し、プロペラ型撹拌機、イカリ型撹拌機、ミキサー、ディゾルバー、ニーダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、コンクリートミキサーなどを用いて混練して所望の粘度の混練物を得る。
【0051】
電池製造プロセスにおいては、混練物を集電体である金網や発泡金属シートなどの空隙部分に塗布および充填する必要があるため、特開平11−343317に記載される様に混練物が比較的柔らかいベースト状またはパテ状となるように配合を調整し、得られた混練物を集電体である金網やパンチドメタルや発泡金属シートなどの多孔質シートに塗布し、乾燥後プレス処理などを行ない、こうして得られた電極シートを切断、曲げ加工などを行ない、電池電極が得られる。
【0052】
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、沈降安定性および粘度安定性においても良好な性質を有することが期待されるので、種々の用途に使用することができるものである。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0054】
(1)含フッ素重合体微粒子の平均粒径
含フッ素重合体微粒子の平均粒径は、マイクロトラックUPA150 Model No.9340(日機装社製)を用いて測定された値を示した。
【0055】
(2)アルミとの接着性
(A)水性分散液の接着性(実施例1−5、比較例1)
(a)試験片の作成
厚さ約20μmのアルミ箔(300×100mm)に、含フッ素重合体水性分散液約0.5mlを滴下し、もう1枚の同じサイズのアルミ箔をその上に重ねて、含フッ素重合体水性分散液をサンドイッチした形のものを作る。その上でステンレス製パイプ(径18mm、長さ225mm、重さ330g)を転がし含フッ素重合体水性分散液を均一に伸ばした。これを幅16mm× 長さ最大100mmの短冊状にカッターで切り取る。この短冊状のものを室温で12時間乾燥した後、電気オーブン(タバイエスペック(株)製 スーパーテンプオーブン 2TPH−201)にて130℃で30分乾燥した後、表1に示す熱処理条件にて熱処理して試験片とする。
(b)アルミ箔の剥離強度測定
各試験片の二枚のアルミ箔を剥離する強度を引張試験機((株)オリエンテック製 テンシロンUTM−1T)で測定する。
【0056】
(B)カーボンペーストの接着性(実施例6−10、比較例2)
(a)試験片の作成
厚さ約20μmのアルミ箔(300×100mm)に、カーボンペーストを約5g塗布し、もう1枚の同じサイズのアルミ箔をその上に重ねて、カーボンペーストをサンドイッチした形のものを作る。これを2本のローラーを有する電動圧延ローラーにかけて、厚みが約100〜150μmになるようプレスする。これを幅16mm× 長さ最大100mmの短冊状にカッターで切り取る。この短冊状のものを室温で12時間乾燥した後、電気オーブン(タバイエスペック(株)製 スーパーテンプオーブン 2TPH−201)にて130℃で30分乾燥して試験片とする。
(b)アルミ箔の剥離強度測定
各試験片の二枚のアルミ箔を剥離する強度を引張試験機((株)オリエンテック製 テンシロンUTM−1T)で測定する。
【0057】
(3)界面活性剤の多分散度(Mw/Mn)
多分散度は、8020システム(東ソー(株)製:検出器:R18021)によって測定を行った。測定条件は以下の通りである。
カラム:TSK G1000HXL+TSK G2500HXL
移動相:THF 0.5ml/min
温度 :40℃
濃度 :1重量%
【0058】
(4)金属含有量
試料(界面活性剤)をPTFE製の容器に採取し、超高純度硝酸を添加し、容器を密閉した後にMW(マイクロ波)分解を行う。分解終了後、放冷し超純水で100倍に希釈してICP−MS法(高周波プラズマ質量分析)により金属成分の定量を行った。尚、内部標準元素としてInを分解液に予め添加した。
ICP−MS装置:横河アナリティカルシステムズ製 HP4500
MW分解装置:CEM社製 MDS2000
【0059】
(原料)
本発明実施例および比較例で用いた原料は下記のとおりである。
(1)PTFE水性分散液
固形分60%、平均粒径は0.24μm、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(レオコールTDN−90−80(ライオン(株)製)をPTFE100重量部に対して5−7重量%含む
(2)SBR水性分散液 ナルスター XR−4071(商品名 日本エイアンドエル(株)製)
(3)NBR水性分散液
Nipol LX550L(商品名 日本ゼオン(株)製)
(4)アクリルコポリマー水性分散液
アニオン系スチレン変性アクリル水性分散液 (ガラス転移点(Tg)8℃)
(5)フッ素系ゴム水性分散液
四フッ化エチレン−パーフロロメチルビニルエーテル−フッ化ビニリデンの3元共重合体の水性分散液。フッ素含有量が60%
(6)ポリウレタン水性分散液
イソホロンジアミンで結合されたポリテトラメチレンエーテルウレタン水性分散液
(7)ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤
レオコールTDN−90−80(商品名 ライオン(株)製)。多分散度(Mw/Mn)は1.12であり、アルカリ金属含有量は0.98ppmである。
【0060】
なお、本発明のガラス転移点は従来公知の方法で測定した値または化学便覧もしくは化学工業便覧などに記載された値を用いるが、複数成分の混合物である物質のガラス転移点は、Foxの式(Fox Equation)を使用して算出したものが表示される。
Foxの式によるガラス移転点(Tg)の計算は下記のとおりである。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg
(式中、Wは成分nの重量比率、Tgは成分nのガラス転移点である。)
【0061】
(実施例1)
PTFE水性分散液に、SBRの水性分散液(濃度48%)をPTFEのポリマー重量に対して、固形分で100%になるように添加し、アンモニア水でpHを9.5〜10.0に調整して含フッ素重合体水性分散液を調製した。得られた含フッ素重合体水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0062】
(実施例2)
実施例1で用いたPTFE水性分散液に、NBRの水性分散液(濃度48%)をPTFEのポリマー重量に対して 固形分で100%になるように添加し、アンモニア水でpHを9.5〜10.0に調整して含フッ素重合体水性分散液を調製した。得られた含フッ素重合体水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0063】
(実施例3)
実施例1で用いたPTFE水性分散液に、スチレン変性アクリルコポリマー水性分散液(濃度48.5%)をPTFEのポリマー重量に対して固形分で100%になるように添加し、アンモニア水でpHを9.5〜10.0に調整して含フッ素重合体水性分散液を調製した。得られた含フッ素重合体水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0064】
(実施例4)
実施例1で用いたPTFE水性分散液に、フッ素系ゴムの水性分散液(濃度25%)をPTFEのポリマー重量に対して固形分で100%になるように添加し、アンモニア水でpHを9.5〜10.0に調整して含フッ素重合体水性分散液を調製した。得られた含フッ素重合体水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0065】
(実施例5)
実施例1で用いたPTFE水性分散液に、ポリウレタン水性分散液(濃度33%)をPTFEのポリマー重量に対して 固形分で100%になるように添加し、アンモニア水でpHを9.5〜10.0に調整して含フッ素重合体水性分散液を調製した。得られた含フッ素重合体水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0066】
(比較例1)
実施例1で用いたPTFE水性分散液について、アルミとの接着性を測定した。結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
(実施例6)
ケッチェンブラック7.7重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.9重量重量%、及び純水91.4重量%を混合してカーボン分散液を作成する。250ccのデスポカップにカーボン分散液25gを入れ、カーボンの重量(固形分)に対して含フッ素重合体の固形分が3倍の重量になる実施例1で調整した含フッ素重合体水性分散液を添加し、薬サジを用いて10分間手で混合してカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
(実施例7)
実施例2で調整した含フッ素重合体水性分散液用を用いた以外は、実施例6と同様にしてカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0070】
(実施例8)
実施例3で調整した含フッ素重合体水性分散液を用いた以外は、実施例6と同様にしてカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
(実施例9)
実施例4で調整した含フッ素重合体水性分散液を用いた以外は、実施例6と同様にしてカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(実施例10)
実施例5で調整した含フッ素重合体水性分散液を用いた以外は、実施例6と同様にしてカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例2)
実施例1で調整した含フッ素重合体水性分散液の代わりに、PTFE水性分散液を用いた以外は、実施例6と同様にしてカーボンペーストを作成した。得られたカーボンペーストについて、アルミとの接着性を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、金属との接着性にすぐれた含フッ素重合体水性分散液が提供される。
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、金属との接着性にすぐれるほか、環境にやさしいというすぐれた性能を有する水性分散液であって、各種繊維の被覆剤、フイルム原料、塗料原料など広い範囲に適用可能な水性分散液である。
本発明によれば、本発明の含フッ素重合体水性分散液から得られる金属との接着性にすぐれた結着剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムから選ばれた少なくとも1種の重合体と、多分散度(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで割った値)が1.15以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤とを含む、含フッ素重合体水性分散液。
【請求項2】
前記含フッ素重合体がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項3】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が、炭素数8〜18の脂肪族アルコールにエチレンオキサイドが5〜20個の割合で付加したものである請求項1または2に記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項4】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤のアルカリ金属の含有量が30ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項5】
含フッ素重合体100重量部当り、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を2〜15重量部の割合で含有する請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項6】
前記含フッ素重合体と、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、アクリルコポリマー、ポリウレタンおよびフッ素系ゴムから選ばれた少なくとも1種の重合体との割合は、両者の合計を100重量%として、含フッ素重合体が1〜99重量%であり、該重合体が99〜1重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素重合体水性分散液。

【公開番号】特開2006−169503(P2006−169503A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264333(P2005−264333)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】