説明

含気水中油型乳化食品の製造方法

【課題】耐熱性に優れ、又、微生物に対し静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、マイルドな風味を有する含気水中油型乳化食品の製造方法を提供する。
【解決手段】水相原料と油相原料とが乳化されてなる含気水中油型乳化食品において、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用し、油相60〜75質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がそれぞれ2〜4質量%及び8〜10質量%として予備乳化した後、窒素を混入しつつ仕上げ乳化して水中油型乳化食品の含気率を3〜15%とする含気水中油型乳化食品の製造方法により提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含気水中油型乳化食品の製造方法に関し、詳しくは、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用すること、更に窒素ガスを含気させることにより、耐熱性に優れ、又、微生物に対し静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、マイルドな風味を有する油相60〜75質量%の含気水中油型乳化食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の多様化に伴って、マヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品は、レトルトサラダ、フィリング類、調理パン類及び調味料類等として加熱加工される食品の原料として使用されることが多くなっている。このため、より一層の耐熱性を有し、更に、常温で流通可能なマヨネーズやドレッシング類等が要望されている。
又、近年、加工用のマヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品に対する消費者の嗜好傾向として、従来の酸味・塩味よりもよりマイルドな風味を有し、しかも油相量が75〜60質量%といった従来タイプマヨネーズ〜ライトマヨネーズタイプの範疇のものが好まれている傾向にある。
酸味・塩味を低減してマイルドな風味にしたマヨネーズ、又、油相を低下させてライトマヨネーズタイプにしたものでは、相対的に水相が増加し、水相中の酢酸酸度・食塩濃度が低下するため、常温で流通させる場合、微生物が増殖するおそれがある。 即ち、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度が低下すると、微生物、特に炭酸ガスを発生する耐酸性菌が増殖し易くなり、製品価値を低下させるなどの問題点が出てくる。一方、酸度・食塩濃度を増加させて、耐酸性菌の増殖を抑制しようとすると、酸っぱく、塩っぽいといった味覚上の問題点が出てくる。
【0003】
これらのような要求に対応するために、以下の様な技術が開示されている。
すなわち、酵素処理したリゾ化卵黄と卵白を添加することにより、口当たりの軽いソフト感を有する油相量が75〜85質量%の気泡入り水中油型乳化食品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。 しかしながら、油相量が多く、カロリーを気にする消費者には敬遠される傾向が強く、又、ホスホリパーゼA2処理卵黄は処理工程中で、微生物汚染や風味変化を起こす可能性があり、更にコスト高といった問題点があった。
【0004】
又、卵黄リポ蛋白質、及びpH3.0〜5.0の範囲で酸変性を起こす前記リポ蛋白以外の蛋白質が配合され、製造直後の軽い食感が維持された気泡入り水中油型乳化調味料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。 しかしながら、微生物に対する安定性を殆ど考慮していないこと、更に、前述したホスホリパーゼA2処理卵黄を使用するといった問題点があった。
【0005】
更に、サラダ素材と和えるための水中油型乳化食品であって、食用油脂を72〜92%、リゾ化卵黄を2〜15%、卵白を6〜15含有する気泡入り水中油型乳化食品が提案されている(例えば、特許文献3参照)。 しかしながら、油相量が多く、カロリーを気にする消費者には敬遠される傾向が強く、又、前述したホスホリパーゼA2処理卵黄を使用するといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3856914号公報
【特許文献2】特許公開2000−210048号公報
【特許文献3】特許公開2005−348622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用すること、更に窒素ガスを含気させることにより、耐熱性に優れ、又、微生物に対し静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、マイルドな風味を有する油相60〜75質量%の含気水中油型乳化食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用すること、更に窒素ガスを含気させることにより、耐熱性に優れ、又、微生物に対し静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、マイルドな風味を有する油相60〜75質量%の含気水中油型乳化食品が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、第一の発明は、水相原料と油相原料とが乳化されてなる含気水中油型乳化食品において、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用し、油相60〜75質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がそれぞれ2〜4質量%及び8〜10質量%として予備乳化した後、窒素を混入しつつ仕上げ乳化して水中油型乳化食品の含気率を3〜15%とすることを特徴とする含気水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
【0010】
第二の発明は、卵黄及び卵白からなる液卵をホスホリパーゼA2処理するにあたり、液卵に対し、ホスホリパーゼA2を1,000〜10,000IU/kg添加した後、殺菌処理することによりホスホリパーゼA2処理された前記液卵を乳化剤として用いることを特徴とする含気水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
【0011】
第三の発明は、卵黄及び卵白からなる液卵をホスホリパーゼA2処理するにあたり、酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を500〜10,000IU/kg添加し、2〜10℃にて1〜24時間保存することによって、ホスホリパーゼA2処理された前記液卵を含有する前記水相部を含気水中油型乳化食品に使用することを特徴とする含気水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵素処理したリゾ化卵黄と卵白を添加することにより、口当たりの軽いソフト感を有する油相量が75〜85質量%の気泡入り水中油型乳化食品、卵黄リポ蛋白、及びpH3.0〜5.0の範囲で酸変性を起こす前記以外の蛋白質が配合され製造直後の軽い食感が維持された気泡入り水中油型乳化調味料、及びサラダ素材と和えるための水中油型乳化食品であって、食用油脂を72〜92%、リゾ化卵黄を2〜15%、卵白を6〜15%含有する気泡入り水中油型乳化食品に見られる、油相量が多く、カロリーを気にする消費者には敬遠される傾向があること、又、微生物汚染や風味変化を起こし易い、別途に調製したホスホリパーゼA2処理卵黄を使用すること、更に、微生物の安定性を殆ど考慮していないといった問題点もない。しかも、マイルドな風味を有し、耐熱性に優れているため、レトルトサラダ、フィリング類、調理パン等の加熱加工される食品の原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。第一の発明は、水相原料と油相原料とが乳化されてなる含気水中油型乳化食品において、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用し、油相60〜75質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がそれぞれ2〜4質量%及び8〜10質量%として予備乳化した後、窒素を混入しつつ仕上げ乳化して水中油型乳化食品の含気率を3〜15%とすることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の含気水中油型乳化食品とは、水相と油相とが主に卵黄及び卵白により乳化され、更に含気されたものをいい、代表的なものとしてマヨネーズやドレッシング類などが挙げられる。
【0015】
本発明で使用する卵黄及び卵白からなる液卵としては、割卵して得られる全卵、生卵黄と生卵白の割合を適宜調整した液卵、更にはこれらの凍結品や水戻しした乾燥品等も用いることができる。卵黄/卵白の比率は、8/2〜2/8が好ましく、更に7/3〜3/7がより好ましい。卵黄/卵白の比率が8/2を超えると、水中油型乳化食品中での窒素ガスの含気性が低下し、一方、2/8未満では、乳化性や調製された含気水中油型乳化食品の耐熱性が低下するので、いずれも好ましくない。
【0016】
尚、液卵中には食塩を含有することが好ましいが、3〜15質量%が好ましく、更に、5〜12質量%がより好ましい。液卵中の食塩濃度が3質量%未満では、卵黄中の塩溶解性タンパク(グラニュール区分)が十分に溶解しないため、ホスホリパーゼA2の処理効果が十分に得られないおそれがあり、一方、液卵中の食塩濃度が15質量%を越えると、食塩が溶け残ったり、液卵の粘度が高くなったり過ぎるため、いずれも好ましくない。
【0017】
本発明で使用するホスホリパーゼA2とは、リン脂質の2位の脂肪酸を加水分解する酵素であり、卵黄中のリン脂質は、2位の脂肪酸が加水分解されて、リゾリン脂質へと変換される。このようなホスホリパーゼA2としては、例えばノボザイムズジャパン(株)のホスホリパーゼA2(製品名:「レシターゼ10L」10,000IU/ml)を使用することができ、その他、ジェネンコア協和(株)製の「Lipomod699L」(10,000IU/ml)やサンヨーファイン(株)製の「リゾナーゼ」(10,000IU/ml)等も同様に使用することができる。ここで、IU(International Unit)とは、ホスホリパーゼA2の活性単位を意味し、リン脂質を基質とし、pH8、40℃、Ca2+の存在下の条件で、1分間当り1マイクロモルの脂肪酸を遊離することをさす。
【0018】
本発明において好適に用いられるノボザイムズジャパン(株)製のホスホリパーゼA2について述べると、このホスホリパーゼA2は、ブタの膵臓より抽出精製されたものであって、pH5〜11に活性領域を有するホスホリパーゼであり、かつ、作用至適pHが6〜10であり、作用至適温度が40〜60℃であって、35〜90℃の安定性上限温度を有するものである。しかしながら、作用至適温度が60℃を超えた領域、即ち、60〜70℃付近でも卵黄を基質とした場合、十分な酵素活性を示し、更に、酵素反応は短時間で起こることが把握されている。このため、液卵の殺菌処理を兼ねて、ホスホリパーゼA2処理することが可能であり、これを応用したものが第二の発明に記載した内容である。
【0019】
又、作用至適温度が40℃未満の領域、即ち微生物が殆ど増殖しない2〜10℃付近でも処理時間を長くとれば、十分な酵素活性を示すことも把握されている。このため、含気水中油型乳化食品の酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を添加し、2〜10℃にて1〜24時間保存することにより、液卵をホスホリパーゼA2処理することができる。これを応用したものが第三の発明に記載した内容である。
【0020】
上記、いずれのホスホリパーゼA2処理も液卵の調製工程やマヨネーズの製造工程を利用したものであり、液卵を別途にホスホリパーゼA2処理するよりも、品質上、又、経済上でも好ましい処理方法である。こうして、上記の方法にて、本発明に適するホスホリパーゼA2処理液卵を調製することができる。
【0021】
第二の発明に使用する液卵の詳しい調製方法は以下の通りである。
本発明におけるホスホリパーゼA2の添加量は、液卵1kgに対して、少なくとも1,000IU以上、好ましくは3,000〜10,000IUが適当である。ホスホリパーゼA2の添加量が、1,000IU未満では、含気水中油型乳化食品に十分な耐熱性を付与できない恐れがあり、一方、ホスホリパーゼA2の添加量が10,000IUを超えても、処理効果が向上せず、経済的にも好ましくないため、いずれも好ましくない。 尚、ホスホリパーゼA2を添加した液卵のpHについては、特にpH調整する必要はなく、pH6〜8の範囲で十分な効果を奏する。
【0022】
次に、ホスホリパーゼA2を添加した液卵は殺菌処理されることが不可欠であるが、通常、加塩された液卵は、64〜70℃で3.5〜5分間低温殺菌されるのが一般的である。従来、殺菌処理はサルモネラ菌を低減することが目的であったが、近年、鳥インフルエンザウィルスやコクシエラ菌対策として、殺菌強度を強くした条件で低温殺菌される傾向にある。なお、加熱方法としては、連続式(プレートヒーター、ホールディングチューブ等)とバッチ式の方法が一般的に用いられる。
【0023】
上記の殺菌処理された液卵は、本発明に適したホスホリパーゼA2処理液卵であるが、これは液卵の調製工程に沿って処理されたものであり、従来のホスホリパーゼA2処理卵に見られる、別途に調製されたものではない。
【0024】
本発明の含気水中油型乳化食品において、乳化剤として用いられる液卵以外の水相を構成する原料(水相原料)については、一般にマヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料や、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。通常、用いられる水相原料の例としては、水の他に、卵黄、卵白、食塩・食酢・グルタミン酸ナトリウム等の調味料、酸味料、乳化剤、糖類、澱粉、かんきつ類の果汁、ガム類、香辛料、着香料、着色料などがある。
【0025】
含気水中油型乳化食品中の液卵量は、3〜20質量%が好ましく、更に5〜15質量%がより好ましい。液卵量が3質量%未満では、含気水中油型乳化食品の乳化性、耐熱性及び含気性が十分ではなく、一方、20質量%を越えても添加効果が向上せず、経済的にも好ましくない為、いずれも好ましくない。
【0026】
水相中の酢酸酸度及び食塩濃度は、それぞれ2〜4質量%及び8〜10質量%が好ましく、更にそれぞれ2〜3質量%及び8〜9質量%がより好ましい。酢酸酸度又は食塩濃度が、それぞれ2質量%未満及び食塩濃度が8質量%未満では、特に耐酸性菌が増殖し易く、一方、酢酸酸度及び食塩濃度が、それぞれ4質量%及び10質量%を超えると酸味・塩味が強くなるので、いずれも好ましくない。
【0027】
上記のような静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、含気水中油型乳化食品の風味がマイルドに感じる理由は、窒素ガスが含気されていることによる。即ち、含気水中油型乳化食品を口中に含んだ際、酸味・塩味を感じる舌の部分の知覚が窒素ガスにより減ぜられたことによるものと推測される。含気させるガスの種類としては、窒素ガスが最も適しており、空気や炭酸ガスでは、酸化を促進したり、水相中にガスが溶解したりするなどの欠点があるため、好ましくない。
【0028】
一方、油相を構成する原料(油相原料)としては、通常、食品に添加可能な親油性の物質であれば、特に制限が無く、例えば食用植物油や、親油性のある香辛料等が挙げられる。本発明の液卵は、これら食酢以外の水相成分を溶解する際に、混合溶解される。食用植物油脂としては、常温で液体の菜種油、大豆油、べに花油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0029】
本発明における含気水中油型乳化食品の油相と水相の割合については、油相60〜75質量%に対して、水相25〜40質量%、好ましは、油相63〜72質量%に対し、水相37〜28質量%が適当である。ここで、油相の比率が60質量%未満、水相40質量%を超えると、水相の割合が多くなり過ぎ、酢酸酸度及び食塩濃度が増加して酸味・塩味がより強くなり、窒素ガスで含気しても、含気水中油型乳化食品の酸味・塩味をマイルドにすることができず、一方、油相の比率が75質量%を越え、水相25質量%未満であるとカロリーが高くなり、更に、調製時に転相し易くなるので、いずれも好ましくない。
【0030】
本発明の含気水中油型乳化食品の製造方法では、窒素ガスを含気させる操作以外は、既知の手法により行えばよく、例えば、水以外の水相原料を水等に分散、溶解し、これに油相原料を加えて、一般的な攪拌機、例えば市販の万能型混合攪拌機などにより予備乳化する。エアストーン等を用いて、予備乳化液に細かい窒素ガスを含気させ、次いで、コロイドミル等の乳化機により仕上げ乳化を行う方法、又はコロイドミルのミル入り口部分に窒素ガスを吹き込んで仕上げ乳化を行う方法等により、含気率が3〜15%の含気水中油型乳化食品を製造することができるが、これらの製造方法に限定されるものではない。
【0031】
ここで、含気率とは、一定容積中(室温)での、含気していない水中油型乳化食品の質量を100%とし、含気させることによって減少した質量%と定義する。例えば、100ccの容積を持つ、含気していない水中油型乳化食品の質量を95.0gとし、これを含気させたことにより100ccでの質量が90.0gに変化した場合、含気率は以下の様な計算式により算出され、含気率は5.6%となる。
(95.0−90.0)/95.0×100≒5.6(%)
【0032】
含気水中油型乳化食品の含気率は、3〜15%が好ましく、更に4〜10%がより好ましい。ここで、含気率が3%未満では、含気水中油型乳化食品の酸味・塩味がマイルドに感じられず、一方、含気率が15%以上では、得られた含気水中油型乳化食品の物性がポロポロとしたものになることから、いずれも好ましくない。
【0033】
次に第三の発明で使用される液卵のホスホリパーゼA2処理は、酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を添加し、低温下で保存することにより行われる。即ち、酸性原料を除く水相部に対し、ホスホリパーゼA2の添加量は500〜10,000IU/kgが適当である。ホスホリパーゼA2の添加量が500IU/kg未満では、含気水中油型乳化食品に十分な耐熱性を付与できないおそれがあり、一方、ホスホリパーゼA2の添加量が10,000IU/kgを超えても、処理効果が向上せず、経済的にも好ましくないため、いずれも好ましくない。
【0034】
又、ホスホリパーゼA2が添加された、酸性原料を除く水相部の保存温度は、2〜10℃が好ましく、更に4〜8℃がより好ましい。2℃未満の保存温度では、ホスホリパーゼA2の活性が低下するため、好ましくない。一方、10℃を越える保存温度では、酸性原料を除く水相部の微生物汚染が生じる恐れがあるため、いずれも好ましくない。
【0035】
更に、保存時間は1時間以上、好ましくは3〜24時間が適当である。ホスホリパーゼA2添加量が比較的多い場合は、短時間の保存でよいが、ホスホリパーゼA2添加量の少ない場合は、長時間の保存を要する。なお、保存時間が1時間未満では、ホスホリパーゼA2の活性が十分に得られず、一方、24時間を越えると時間、エネルギー等の処理コストを要したり、又、微生物汚染の生じる恐れがあったりするため、いずれも好ましくない。
【0036】
保存後の酸性原料を除いた水相部は前述した方法にて、含気水中油型乳化食品を製造することができる。即ち、酸性原料及び保存後の酸性原料を除いた水相部を混合し、これに油相原料を加えて、一般的な攪拌機、例えば市販の万能型混合攪拌機などにより予備乳化し、以後の操作は前述した通りである。
【0037】
好ましくは、含気水中油型乳化食品がマヨネーズの日本農林規格(以下、JASと略記する。)に適合している製造方法を提供するものである。マヨネーズのJASでは、「食用植物油(香味食用油を除く。)及び食酢、若しくはかんきつ類の果汁(必須原材料という。)に食塩、糖類、香辛料等を加えて調製し、水中油型に乳化した半固体状で粘度が、30,000CP以上のものを半固体状ドレッシングという。半固体状ドレッシングのうち、卵黄又は全卵を使用し、かつ必須原材料、卵黄、卵白、たん白加水分解物、食塩、糖類、香辛料、調味料(アミノ酸等)及び酸味料以外の原材料を使用していないものであって、原材料に占める食用植物油脂の重量の割合が65%以上のものをマヨネーズという。」と定義している。こうして、マヨネーズのJASに規定された原材料を使用すること及び食用植物油脂の使用量を65%以上にすることでマヨネーズのJASに適合した含気水中油型乳化食品を前述した製造方法により製造することができる。
【0038】
本発明では、液卵の殺菌工程及び水中油型乳化食品の製造工程を利用することにより得られたホスホリパーゼA2処理液卵を主な乳化剤として使用すること、更に窒素ガスを含気させることにより、耐熱性に優れ、又、微生物に対し静菌性のある酢酸酸度及び食塩濃度を有しているにも係わらず、マイルドな風味を有する油相60〜75質量%の含気水中油型乳化食品が得られることを見出し、これらの知見を利用することにより、本発明の含気水中油型乳化食品の製造方法に関する発明を完成することができた。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0040】
実施例1〜6
(1)ホスホリパーゼA2処理液卵の製造例
製造例1[本発明品1の製造]
工業的に得られた卵黄/卵白/食塩=45/45/10の組成の液卵、1kgを調製し、これにノボザイムズジャパン(株)製のホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を1,000IU添加・混合した後、その300gを17cm×29cmのポリエチレン袋に充填した。次いで、充填した液卵を袋全体が均一となるように整えた後、70℃の熱水中にて5分間、殺菌処理を行った。 殺菌処理後は、速やかに1℃の氷水中にて冷却して、13時間保存し、ホスホリパーゼA2処理液卵(本発明品1)を得た。 尚、本製造においてホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を添加した後は、可能な限り速やかに処理した。
【0041】
(2)ホスホリパーゼA2処理した、酸性原料を除く水相部の製造例
製造例2[本発明品2の製造]
下記表1の実施例4に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA4「レシターゼ10L」を1,000IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、ホスホリパーゼA2処理水相(本発明品2)を得た。
製造例3[本発明品3の製造]
下記表1の実施例5に示した配合組成において、製造例2と同様にして、本発明品3を得た。
製造例4[本発明品4の製造]
下記表1の実施例6に示した配合組成において、製造例2と同様にして、本発明品4を得た。
【0042】
(3)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の調製
下記表1に示す処方に従い、製造例1で得られたホスホリパーゼA2処理液卵(本発明品1)を用いて、実施例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
即ち、水相原料である水、水飴、食塩、グルタミン酸ナトリウム、辛子粉、食酢及び上記(1)で得られたホスホリパーゼA2処理液卵を混合溶解して水相を調製し、この水相に油相原料として菜種油を加え予備乳化物を調製した。次いで、仕上げ乳化の際、コロイドミルの入り口部分に窒素ガスを吹き込むことにより、含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。吹き込み圧を変えることにより含気率を調整することができる。
又、下記表1に示す処方に従い、製造例2〜4で得られたホスホリパーゼA2処理した、酸性原料を除く水相部(本発明品2〜4)を用い、上記と同様にして実施例4〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
【0043】
(4)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の含気率の測定
100ccの容器に、含気していない各組成の水中油型乳化食品(マヨネーズ)の予備乳化物を充填し、内容質量g(A)を測定する。同様にして、窒素ガスで含気させた含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の内容質量g(B)を測定する。含気率は、以下の式により、算出した。
含気率(%)=(A−B)/A×100
【0044】
(5)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性の評価
上記(3)で得られた実施例1〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての耐熱性評価を以下のようにして行った。
約20g容のプラスチック容器に、上記(3)で得られた実施例1〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)15gを充填・シールした後、90℃にて30分間加熱した。 冷却後、含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性を次の3段階で評価した。 尚、評価は経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。 結果を表1に示す。
〔耐熱性の評価〕
良好 : 油分離していない。
やや良好 : 僅かな油分離がみられる。
不良 : かなりの油分離がみられる。
この評価において、「良好」と「やや良好」とであれば、耐熱性に優れているということができる。
【0045】
(6)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の風味(酸味・塩味)の評価
上記(3)で得られた実施例1〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の酸味・塩味を次の3段階で評価した。 尚、評価は経験豊かな5名のパネラーによる味覚評価の平均値で示した。 結果を表1に示す。
〔酸味・塩味の評価〕
良好 : 酸味・塩味がマイルドに感じる。
やや良好 : 酸味・塩味がややマイルドに感じる。
不良 : 酸味・塩味をやや強く〜強く感じる。
この評価において、「良好」と「やや良好」とであれば、酸味・塩味がマイルドな風味を有するということができる。
【0046】
(7)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性及び風味の総合評価
上記(5)及び(6)で得られた含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性評価結果及び風味評価結果より、以下のようにして総合評価を行った。 結果を表1に示す。
〔総合評価〕
良好 : 耐熱性及び風味の評価において、共に良好なもの。
やや良好 : 耐熱性及び風味の評価において、良好とやや良好の組み合わせのもの又は共にやや良好なもの。
不良 : 耐熱性及び風味の評価において、いずれかが不良なもの
この評価において、「良好」と「やや良好」とであれば、総合評価で良好ということができる。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から、次のようなことが判った。
殺菌処理を利用することにより、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる本発明の液卵を乳化剤として使用し、油相75、70及び65質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がいずれも、それぞれ2質量%及び8質量%及び含気率が3.1、4.7及び6.8%である実施例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、優れた耐熱性を有し、しかも酸味・塩味がマイルドな風味を有する、総合的に良好な品質を持つものであった。
【0049】
又、酸性原料を除き、卵黄及び卵白からなる液卵を含有する水相部にホスホリパーゼA2を添加した後、低温下にて保存した、本発明の該水相部を使用し、油相75、70及び65質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がいずれも、それぞれ2質量%及び8質量%及び含気率が4.0、6.0及び8.1%である実施例4〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、実施例1〜3と同様に、優れた耐熱性を有し、しかも酸味・塩味がマイルドである風味を有する、総合的に良好な品質を持つものであった。
【0050】
こうして、油相75〜65質量%の含気水中油型乳化食品において、本発明のホスホリパーゼA2処理された液卵を使用し、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度が、いずれも2質量%及び8質量%であっても、含気率が3%以上ならば、酸味・塩味がマイルドであり、しかも優れた耐熱性を有し、総合的に良好な品質を持つものであることが理解された。
【0051】
比較例1〜8
(1)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の調製
下記表2に示す処方に従い、製造例1で得られたホスホリパーゼA2未処理液卵を用い、比較例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
即ち、実施例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の調製の際と同様にして予備乳化物を調製した後、仕上げ乳化の際に窒素ガスを吹き込んで比較例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
次に、下記表2に示す処方に従い、製造例1で得られたホスホリパーゼA2処理液卵(本発明品1)を用いて、比較例4〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
更に、下記表2に示す処方に従い、製造例2〜4で得られたホスホリパーゼA2処理された、酸性原料を除く水相部(本発明品2〜4)を用いて、比較例7〜9の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
【0052】
(2)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の含気率の測定
上記(1)で得られた比較例1〜9の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての含気率の測定を実施例1〜6と同様にして行った。評価結果を表2に示す。
(3)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性の評価
上記(1)で得られた比較例1〜9の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての耐熱性の評価を実施例1〜6と同様にして行った。評価結果を表2に示す。
(4)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の風味(酸味・塩味)の評価
上記(1)で得られた比較例1〜8の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての風味の評価を実施例1〜6と同様にして行った。評価結果を表2に示す。
(5)含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性及び風味の総合評価
上記(3)及び(4)で得られた含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての耐熱性評価結果及び風味評価結果の総合評価を実施例1〜6と同様にして行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から、次のようなことが判った。
ホスホリパーゼA2未処理の卵黄及び卵白からなる液卵を乳化剤として使用し、油相75、70及び65質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がいずれも、それぞれ2質量%及び質量%及び含気率が3.6、4.7及び6.3%である比較例1〜3の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、3%以上の含気率を有し、酸味・塩味はマイルドになるものの、耐熱性は全く劣っていた。こうして、総合的には、不良な品質を持つものであった。
【0055】
又、殺菌処理を利用することにより、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる本発明の液卵を乳化剤として使用し、油相75、70及び65質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がいずれも、それぞれ2質量%及び8質量%及び含気率が1.1、2.0及び1.7%である比較例4〜6の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、優れた耐熱性を有するものの、含気率が3%以下のため、酸味・塩味をマイルドに感じないものであった。こうして、総合的には、不良な品質を持つものであった。
【0056】
更に、酸性原料を除き、卵黄及び卵白からなる液卵を含有する水相部にホスホリパーゼA2を添加した後、低温下にて保存した、本発明の該水相部を使用し、油相75、70及び65質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がいずれも、それぞれ2質量%及び8質量%及び含気率が1.5、1.2及び2.3%である比較例7〜9の含気水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、優れた耐熱性を有するものの、含気率が3%以下のため、酸味・塩味をマイルドに感じないものであった。こうして、総合的は、不良な品質を持つものであった。
【0057】
こうして、油相75〜65質量%並びに水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がそれぞれ、2質量%及び8質量%である水中油型乳化食品(マヨネーズ)において、本発明の液卵又は水相部を使用し、含気率が3%以上となるように窒素ガスを含気させなければ、総合的な評価が不良であることが理解された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相原料と油相原料とが乳化されてなる含気水中油型乳化食品の製造方法において、ホスホリパーゼA2処理された卵黄及び卵白からなる液卵を主な乳化剤として使用し、油相60〜75質量%、水相中の酢酸酸度及び食塩濃度がそれぞれ2〜4質量%及び8〜10質量%として予備乳化した後、窒素を混入しつつ仕上げ乳化して水中油型乳化食品の含気率を3〜15%とすることを特徴とする含気水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項2】
卵黄及び卵白からなる液卵をホスホリパーゼA2処理するにあたり、液卵に対し、ホスホリパーゼA2を1,000〜10,000IU/kg添加した後、殺菌処理することによりホスホリパーゼA2処理された前記液卵を乳化剤として用いることを特徴とする請求項1記載の含気水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項3】
卵黄及び卵白からなる液卵をホスホリパーゼA2処理するにあたり、酸性原料を除く水相部にホスホリパ―ゼA2を500〜10,000IU/kg添加し2〜10℃にて1〜24時間保存することによって、ホスホリパーゼA2処理された前記液卵を含有する前記水相部を使用することを特徴とする請求項1記載の含気水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項4】
含気水中油型乳化食品中の液卵量が、3〜20質量%である請求項1〜3の内の一項に記載の含気水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項5】
液卵の卵黄/卵白の比率が、8/2〜2/8である請求項1〜3の内の一項に記載の含気水中油型乳化食品の製造方法。

【公開番号】特開2010−279282(P2010−279282A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134588(P2009−134588)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】