説明

含水石炭の脱水方法

本発明は、密閉容器中で、含水石炭を加熱温度における飽和水蒸気圧力以上の圧力下で100〜350℃の温度に加熱し、かつ含水石炭に0.01〜20MPaの剪断力を与えることにより含水石炭から脱水する方法である。本発明は、脱水後における水の再吸収が抑制され、かつ脱水後における酸素の吸収が抑制された脱水石炭を得ることができる新規な脱水方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水石炭を脱水する方法、脱水された含水石炭の水スラリーを製造する方法、並びに微粉炭及び成形炭を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含水石炭、例えば褐炭は、高い含水率を有しかつその組織内に比較的大きな孔を多数有している。該含水石炭を利用すべく粉砕及び乾燥を施しても、該孔の大きさ及び数は殆ど変化しない。従って、該含水石炭を乾燥して得た石炭は、貯炭又は輸送中に該孔中に酸素が侵入して緩慢な酸化反応が生じ、自然発火が生ずるという危険性を有している。従って、このような含水石炭は、炭田近隣のごく限られた地域で利用されているのが現状である。
【0003】
含水石炭、例えば褐炭を、4〜17.2MPaの圧力下に250〜350℃の温度で水熱処理して脱水する方法が試みられている(非特許文献1〜4参照)。このような圧力下で水熱処理を実施すれば、褐炭が脱水されると共に石炭中の孔体積が減少することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、孔体積の減少は十分ではなく、上記問題は未だ十分には解決されていない。上記の方法で脱水した石炭と水との混合物(水スラリー)は、輸送に適した、通常の瀝青炭と水との混合物と同程度の粘度にするには、その2〜4倍の水含有量とする必要があり、経済性がない。また、脱水及び脱水に伴う排水の処理コストが嵩むために実用化には至っていない。
【0005】
【非特許文献1】L.Racovalisら著、「Effect of processing conditions on organics in wastewater from hydrothermal dewatering of low−rank coal」、Fuel、第81巻、第1369〜1378頁、2002年
【非特許文献2】George Favasら著、「Hydrothermal dewatering of lower rank coals.1.Effects of process conditions on the properties of dried product」、Fuel、第82巻、第53〜57頁、2003年
【非特許文献3】George Favasら著、「Hydrothermal dewatering of lower rank coals.2.Effects of coal characteristics for a range of Australian and international coals」、Fuel、第82巻、第59〜69頁、2003年
【非特許文献4】George Favasら著、「Hydrothermal dewatering of lower rank coals.3.High−concentration slurries from hydrothermally treated lower rank coals」、Fuel、第82巻、第71〜79頁、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脱水後における水の再吸収が抑制され、かつ脱水後における酸素の吸収が抑制された脱水石炭を得ることができる新規な脱水方法を提供する。従って、該方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む、適切な粘度及び水含有量を有する混合物(水スラリー)、脱水後の自然発火が抑制された脱水された石炭、及び該石炭とビチューメンとを含む混合物から成る成形炭を安価に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
含水石炭、例えば褐炭は多量の水分を含有している。該水は、該石炭組織の孔内に存在している水及びファンデルワールス力で該石炭に結合して存在している水からほぼ構成されている。本発明者はこれらの水を含水石炭から効率的に取り除いて、輸送に適する製品、例えば、水スラリー、水含有量が瀝青炭程度にまで低減された微粉炭及び成形炭を得るべく検討した。その結果、含水石炭を密閉容器中で所定圧力下に所定温度で加熱し、かつ含水石炭に所定の剪断力を与えれば、含水石炭から効率的に水を除去することができるのみならず、脱水後における水の再吸収及び酸素の吸収が抑制されて、上記のような輸送に適する製品を安価に製造し得ることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)密閉容器中で、含水石炭を加熱温度における飽和水蒸気圧力以上の圧力下で100〜350℃の温度に加熱し、かつ含水石炭に0.01〜20MPaの剪断力を与えることにより含水石炭から脱水する方法である。
【0009】
本発明によれば、含水石炭組織の孔中に入り込んだ水及びファンデルワールス力で結合した水を含水石炭から除去すると共に、含水石炭が有する孔組織を破壊すると考えられる。従って、含水石炭の孔体積(空隙率)が大幅に低減され、脱水後における水の再吸収及び酸素の吸収が抑制されるのである。
【0010】
好ましい態様として、
(2)剪断力が密閉容器内に備えられた攪拌羽根により与えられるところの上記(1)記載の方法、
(3)加熱温度が150〜300℃であるところの上記(1)又は(2)記載の方法、
(4)加熱時の圧力が、加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.5MPa以下(但し、最大で17.8MPaである)であるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法、
(5)剪断力が0.1〜10MPaであるところの上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法、
(6)加熱が3分間〜5時間行われるところの上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法、
(7)含水石炭が、含水石炭基準で水を25〜85重量%含む褐炭であるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の方法
を挙げることができる。
【0011】
また、本発明は、
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む混合物を密閉容器中に得て、次いで、該密閉容器中に存在する混合物から水を除去し又は該混合物に水を添加して、該混合物中の水を該混合物基準で30〜50重量%とするところの方法である。
【0012】
好ましい態様として、
(9)水を除去し又は水を添加して得た混合物中の水含有量が、該混合物基準で40〜50重量%であるところの上記(8)記載の方法
を挙げることができる。
【0013】
また、本発明は、
(10)上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む混合物を密閉容器中に得て、次いで、該水を該混合物から除去して、水が除去された石炭を得るところの方法である。
【0014】
好ましい態様として、
(11)水を該混合物から除去して、石炭と水との合計量に対して水を15重量%以下含む石炭を得るところの上記(10)記載の方法、
(12)水を該混合物から除去して、水を実質的に含有しない石炭を得るところの上記(11)記載の方法
を挙げることができる。
【0015】
また、本発明は、
(13)上記(10)〜(12)のいずれか一つに記載の方法により得られた水が除去された石炭に、乾燥石炭基準で1〜25重量%のビチューメンを添加するところの方法である。
【0016】
好ましい態様として、
(14)ビチューメンの量が乾燥石炭基準で5〜20重量%であるところの上記(13)記載の方法、
(15)ビチューメンが天然アスファルト、石油アスファルト又はコールタールであるところの上記(13)又は(14)記載の方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、脱水後における水の再吸収が抑制され、かつ脱水後における酸素の吸収が抑制された脱水石炭を得ることができる新規な脱水方法を提供する。従って、該方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む、適切な粘度及び水含有量を有する混合物(水スラリー)、脱水後の自然発火が抑制された脱水された石炭、及び該石炭とビチューメンとを含む混合物から成る成形炭を安価に製造することができる。また、埋蔵量が多いが含水率が高く、乾燥すると自然発火するために、炭田近隣でしか利用できなかった褐炭などの低品位炭の有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において脱水に付される含水石炭に特に制限はない。例えば、褐炭、亜炭、亜瀝青炭等の低品位の含水石炭が挙げられる。該含水石炭の水含有量は、含水石炭基準で、上限が好ましくは85重量%、より好ましくは70重量%であり、下限が好ましくは25重量%、より好ましくは30重量%、更に好ましくは40重量%である。水含有量が含水石炭基準で40〜70重量%の褐炭が特に好ましく使用される。水含有量が上記上限を超えるものは、下記の粉砕前又は粉砕後に、例えば、ロールプレスなどによる加圧により予め水を除去して上記範囲にしておくことが好ましい。
【0019】
含水石炭は好ましくは所定の粒度に粉砕して使用される。該粒度は、上限が好ましくは200メッシュ、より好ましくは150メッシュ、更に好ましくは100メッシュであり、下限が好ましくは3メッシュ、より好ましくは30メッシュ、更により好ましくは50メッシュである。含水石炭の粒度が上記下限未満では、水スラリーにしたときに石炭が沈降し易くなり、上記上限を超えては、水スラリーの粘度が上昇するほか、粉砕に余分な動力が消費される。
【0020】
本発明においては、該含水石炭は次いで密閉容器に導入されて脱水される。該密閉容器は、含水石炭を加圧下に加熱し得、かつ含水石炭に剪断力を与えることができるものでなければならない。例えば、一軸又は二軸、好ましくは二軸のスクリュー型の攪拌羽根を持つ混練機、又は例えば、挽肉又は魚のミンチを作るためのいわゆるスクリューフィーダーに使用されるスクリューを備えた混練機が使用され得る。該密閉容器はバッチ式又は連続式のいずれのものであってもよい。連続式の密閉容器は、含水石炭の装入及び水を取り除かれた石炭の抜き出し、並びに気体状又は液体状の水の抜き出しを本発明の所定の条件を維持しつつ連続的に実施し得るものであればよい。
【0021】
加熱温度は、上限が350℃、好ましくは300℃、より好ましくは250℃であり、下限が100℃、好ましくは150℃、より好ましくは200℃である。温度が上記上限を超えては装置コストが著しく高くなり、上記下限未満では脱水による本発明の効果が得られない。また加熱時間は、上限が好ましくは5時間、より好ましくは3時間、更に好ましくは1時間、特に好ましくは30分間であり、下限が好ましくは3分間、より好ましくは5分間、更に好ましくは10分間である。該加熱により、含水石炭に含まれる水の1kg当り好ましくは最大2,300kJの熱を与える。
【0022】
加熱中の圧力の下限は、加熱温度における飽和水蒸気圧力以上の圧力、好ましくは加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.1MPa以上の圧力、より好ましくは加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.2MPa以上の圧力である。該圧力を保持することにより、含水石炭から除去された水を液体状態に保つことができ、従って、脱水中に不要な蒸発潜熱を与える必要がない。また、該圧力の上限は、好ましくは加熱温度における飽和水蒸気圧力+1.0MPa、より好ましくは加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.5MPa、更に好ましくは加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.3MPaである。但し、加熱中の最大圧力は加熱温度の最大値350℃における飽和水蒸気圧+1.0MPa(=17.8MPa)が好ましい。上記上限を超えても効果に大きな相違がなく、装置コストが高くなるばかりで好ましくない。加熱中の圧力は、加熱により含水石炭から発生する水蒸気のほか、好ましくは不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン等を使用して調節することかできる。
【0023】
本発明において剪断力は上記の加熱中に含水石炭に与えられる。剪断力の上限は20MPa、好ましくは10MPa、より好ましくは5MPaであり、下限は0.01MPa、好ましくは0.1MPa、より好ましくは1.0MPaである。上記上限を超えては、モーター動力負荷が大きくなり、上記下限未満では、脱水が不十分であると共に、脱水による本発明の効果が得られない。該剪断力は密閉容器内に備えられた攪拌羽根により与えられる。本発明における剪断力は下記のようにして得ることができる。粘度(20℃)が既知の標準物質、例えば、日本グリース株式会社製の粘度校正用標準液(JIS Z8809)JS100粘度86mPa・s、JS14000粘度12Pa・s及びJS160000粘度140Pa・sを夫々、所定の密閉容器、例えば、図2に示す密閉容器(2軸スクリュー型ニーダ、容器内有効容積8リットル、容器内長さ600mm、容器長径160mm、容器短径100mm、攪拌羽根直径96mm、攪拌羽根は一軸当り合計13枚あり、そのピッチは、石炭供給口に最も近い箇所で70mmであり、順次、下流側に向かって4mmづつ減少し、製品取り出し口に最も近い箇所で22mmである)に入れて、温度20℃において、備えられた攪拌羽根を60回転/分で回転して回転軸にかかるトルクを測定する。粘度(20℃)が140Pa・sを超える値については、アスファルトに灯油を混合して調製した混合液(例えば、東機産業株式会社製のBS型粘度計を用いて測定した粘度(20℃)が6400Pa・sである混合液)を使用して上記と同じくトルクを測定する。ここで、上記測定液は、密閉容器内の攪拌羽根全体が該液中に完全につかるまで入れられる。また、密閉容器に測定液を入れない空の状態におけるトルクを測定する(このときの剪断力をゼロとする)。このようにして、粘度既知の各測定液のトルクを読み取り、下記式
【数1】

から剪断力を求めて、例えば図1に示すトルクと剪断力との関係を得る。上記の式中、剪断速度は下記式で表される。下記式においてsin3.5°は、図2に示す装置固有の値である。該値は攪拌羽根の形状により求められ、攪拌羽根の形状により相違する。
【数2】

このように上記の関係から、回転軸にかかるトルクを測定することにより剪断力を求めることができる。例えば、図2に示す密閉容器に関しては図1に示す関係から剪断力を求めることができる。攪拌羽根を備えた密閉容器の軸トルクは装置特有のものであるため、装置が変わればトルクも変化する。従って、使用する装置毎に、上記と同一条件下に図1のようなトルクと剪断力との関係を得なければならない。このようにして、いかなる装置においても、回転軸にかかるトルクを測定することにより、剪断力を求めることができる。
【0024】
上記の本発明の方法によれば、脱水後に密閉容器中に、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む混合物(水スラリー)が得られる。該混合物の水含有量は、使用した含水石炭の水含有量により決定される。該混合物は、輸送して遠隔地において又は輸送せずして炭田の近隣において水スラリーの形態で発電用又はガス化用等に供され得る。利用の形態に応じて該混合物の水含有量を増加又は減少することができる。該混合物の水含有量は、該混合物基準で好ましくは30〜50重量%であり、より好ましくは40〜50重量%である。該濃度にすることにより、該混合物の粘度(20℃)を好ましくは2,000〜4,000センチポイズ(cP=mPa・s)、より好ましくは約1,000センチポイズ(cP=mPa・s)にすることができる。これにより、輸送等の取り扱いに適した水スラリーとすることができる。該混合物の濃度を上記範囲にする方法に特に制限はない。好ましくは、脱水後に密閉容器中に得られた該混合物から水を除去し又は該混合物に水を添加することにより実行される。水は密閉容器中の該混合物から水蒸気として抜き出すことができる。これにより、密閉容器で一段階において、所望の濃度の水スラリーを含水石炭中に含まれている水を使用して製造することができて、装置の簡略化を図ることができる。また、含水石炭から得られた水には使用した含水石炭由来の少量の有機物が含まれている。これが界面活性剤としての働きをすることから、上記の水スラリーへの界面活性剤の添加を省略することもできる。
【0025】
密閉容器中に存在する混合物から、含水石炭から除去された水を除去して、好ましくは該水が実質的に完全に除去された石炭を得ることもできる。ここで、水含有量は、石炭と水との合計量に対して、好ましくは0〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%である。これにより、含水石炭を、瀝青炭程度の水含有量を有する石炭にすることができる。本発明の脱水方法により脱水された石炭は輸送又は貯炭中の自然発火が抑制されている。含水石炭に含まれる水の1kg当り合計で好ましくは最大5,100kJの熱を与えることにより、水が実質的に完全に除去された石炭を得ることができる。
【0026】
本発明においては、上記のようにして得られた水が除去された石炭に、乾燥石炭基準で好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%のビチューメンを添加することができる。ビチューメンを添加された該石炭は、好ましくは成形炭の製造に使用することができる。ビチューメンとしては、好ましくは天然アスファルト、石油アスファルト又はコールタールが使用される。
【0027】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0028】
実施例において使用した含水石炭は褐炭であり、下記の表1の性状を有する。
【0029】
【表1】


【0030】
上記の表1における水分、灰分、揮発分及び固定炭素は工業分析法(JIS M 8812)に基づいて測定したものである。また、孔体積は107℃、1時間乾燥後の石炭(水分0%)を用いてBET法により測定した。
【0031】
トルクの測定は、トルクが140kg・cmを超える際には山崎P−100R式回転トルクメーターを使用し、上記トルク値以下では、山崎SS−50R式回転トルクメーターを使用した。
【実施例1】
【0032】
密閉容器として、図2に示されているような2軸スクリュー型ニーダを使用した。該容器の有効内容積は8リットルである。図2中、1は石炭供給口であり、2はスクリューであり、3はバルブであり、4は蒸気抜きバルブであり、5はアスファルト注入用バルブであり、6は製品取り出し用バルブである。上記の性状を有する褐炭を予め30〜100メッシュに粉砕した。粉砕した褐炭10kgを該容器に仕込んだ。次いで、容器内の圧力を窒素ガスで0.7MPaにした後、スクリューを回転しつつ加熱を開始し、温度を170℃に調節した。該温度に達した後、直ちに容器内の圧力を1MPaに調節し、かつ、攪拌軸にかかるトルクを測定し、図1に示したトルクと剪断力との関係を使用して、剪断力を0.1MPaに調節した。容器内の圧力、温度及び剪断力を上記値に保持しつつ1時間処理して褐炭から水を取り除いた。次いで、環境温度まで冷却してスラリーを取り出した。同一の実験を、加熱時間を3時間及び5時間に変えて実施した。得られた水スラリーの粘度(20℃)及び水含有量を下記の表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2において、スラリー粘度は東機産業株式会社製のBS型粘度計を用いて測定した。水含有量は、水スラリー重量に対する、スラリー媒体としての水の重量を示す。該水含有量は、スラリー媒体としての水重量の測定が不可能なため、同一の粘度(20℃)を有する瀝青炭水スラリーのスラリー媒体としての水含有量と同一であると仮定して求めたものである。
【実施例2】
【0035】
2MPaの圧力下に200℃で1時間加熱したこと及び4MPaの圧力下に250℃で1時間加熱したことを除いて、実施例1と同様にして実施した。得られた水スラリーの粘度(20℃)を下記の表3に示した。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1の結果から処理時間を長くすればより低粘度の水スラリーが得られることが分かった。実施例2の結果から処理温度が高いほどより低粘度の水スラリーが得られることが分かった。また、水スラリー中の媒体としての水の量が増加することから水スラリーの粘度低下に伴い褐炭からの脱水がより進行していることが明らかである。
【0038】
(比較例1)
剪断力を0.001MPaとし、かつ4MPaの圧力下に250℃で1時間加熱したことを除いて、実施例1と同様にして実施した。見かけ上、褐炭からの脱水は生じたものの、該混合物をしばらく放置すると一旦褐炭から取り除かれた水の大部分が再び褐炭内に侵入し、スラリーは適切な性状を有さないものとなった。
【実施例3】
【0039】
特開2000−169274号公報に記載された攪拌羽根を持つ1軸の加圧・加熱型混練装置を使用した。表1に示した褐炭を30〜100メッシュに粉砕した。粉砕した褐炭の15kgを該装置の槽内に仕込んだ。次いで、槽内の圧力を窒素ガスで0.7MPaにした後、スクリューを回転しつつ加熱を開始し、温度を170℃に調節した。該温度に達した後、直ちに槽内の圧力を1MPaに調節し、かつ、攪拌軸にかかるトルクを測定し、予め作成しておいたトルクと剪断力との関係を使用して、剪断力を1MPaに調節した。槽内の圧力、温度及び剪断力を上記値に保持しつつ1時間処理して褐炭から水を取り除いた。次いで、環境温度まで冷却して水スラリーを取り出した。得た水スラリーの粘度(20℃)は900センチポイズ(cP=mPa・s)であった。また、水含有量は実施例1と同様に、得た水スラリーと同等の粘度(20℃)を有する瀝青炭水スラリーのスラリー媒体としての水含有量から推定して44重量%であった。
【実施例4】
【0040】
実施例3と同一にして、粉砕した褐炭を上記装置の槽内に仕込んだ。次いで、槽内の圧力を窒素ガスで約0.79MPaにした後、スクリューを回転して1MPaの剪断力を与えつつ、1時間加熱して温度を170℃にした。該加熱中、槽内の圧力は約0.79MPa(170℃における飽和蒸気圧)に適宜槽上部に取り付けられた蒸気抜きバルブを開いて調節された。温度が170℃に到達した後、上記の温度及び圧力を保ちながら連続的に蒸気抜きバルブを開いて水蒸気を除去した。上記の操作開始から1時間後、温度を170℃に保持しつつ蒸気抜きバルブを全開して容器中に残存する水の全てを蒸発させた。水が取り除かれた後の褐炭の性状を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
上記の処理により褐炭中の水分を著しく低減することができた。加えて、孔体積も著しく低減させ得ることが分かった。これより、自然発火を抑制でき、かつ褐炭から除去された水が再度褐炭の孔内に侵入せず、良好な乾燥した石炭が得られたのである。
【実施例5】
【0043】
実施例4と同一にして実施して、褐炭から水を取り除きかつその水を蒸発せしめた。次いで、温度を170℃に保持したまま、乾燥石炭基準で10重量%の石油系アスファルトを、槽下流側に設けられたアスファルト注入バルブを介して容器内に注入した。次いで、15分間スクリューを回転して混合した後、水が取り除かれた褐炭と石油系アスファルトとの混合物を製品取り出し用バルブから取り出した。次いで、該混合物を圧縮成形機に送り成形炭を製造した。該成形炭の硬さは回転強度60重量%以上(JIS K 2151の6.2)であり、瀝青炭から製造した成形炭とほぼ同等の硬さを有していた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、図2に示したニーダにおけるトルクと剪断力との関係を示した図である。
【0045】
【図2】図2は、実施例において使用した電気加熱式2軸スクリュー型ニーダである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む、適切な粘度及び水含有量を有する混合物(水スラリー)、脱水後の自然発火が抑制された脱水石炭、及び該石炭とビチューメンとを含む混合物から成る成形炭を安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器中で、含水石炭を加熱温度における飽和水蒸気圧力以上の圧力下で100〜350℃の温度に加熱し、かつ含水石炭に0.01〜20MPaの剪断力を与えることにより含水石炭から脱水する方法。
【請求項2】
剪断力が密閉容器内に備えられた攪拌羽根により与えられるところの請求項1記載の方法。
【請求項3】
加熱温度が150〜300℃であるところの請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
加熱時の圧力が、加熱温度における飽和水蒸気圧力+0.5MPa以下(但し、最大で17.8MPaである)であるところの請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
剪断力が0.1〜10MPaであるところの請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
加熱が3分間〜5時間行われるところの請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
含水石炭が、含水石炭基準で水を25〜85重量%含む褐炭であるところの請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む混合物を密閉容器中に得て、次いで、該密閉容器中に存在する混合物から水を除去し又は該混合物に水を添加して、該混合物中の水を該混合物基準で30〜50重量%とするところの方法。
【請求項9】
水を除去し又は水を添加して得た混合物中の水含有量が、該混合物基準で40〜50重量%であるところの請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法により、含水石炭から除去された水と水が除去された石炭とを含む混合物を密閉容器中に得て、次いで、該水を該混合物から除去して、水が除去された石炭を得るところの方法。
【請求項11】
水を該混合物から除去して、石炭と水との合計量に対して水を15重量%以下含む石炭を得るところの請求項10記載の方法。
【請求項12】
水を該混合物から除去して、水を実質的に含有しない石炭を得るところの請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一つに記載の方法により得られた水が除去された石炭に、乾燥石炭基準で1〜25重量%のビチューメンを添加するところの方法。
【請求項14】
ビチューメンの量が乾燥石炭基準で5〜20重量%であるところの請求項13記載の方法。
【請求項15】
ビチューメンが天然アスファルト、石油アスファルト又はコールタールであるところの請求項13又は14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/007783
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511861(P2005−511861)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010207
【国際出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(500052428)
【出願人】(599042566)株式会社ケー・イー・エム (2)
【Fターム(参考)】