説明

含浸木材のマイクロ波硬化

含浸木材を硬化させる方法は、木材標本に重合性液体を含浸させる工程と、その木材(標本)を少なくとも1回加熱し、その際、その木材をマイクロ波照射によって70乃至140℃の範囲の温度に加熱してその木材細胞中でポリマーの形成が生じるようにする工程と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸木材のマイクロ波硬化に関する。
【背景技術】
【0002】
加工木材または改質木材(modified wood)の製造は、先ず、例えば低分子量のフラン誘導体の溶液、例えば、フルフラール、フルフリルアルコール ビスヒドロキシメチルフラン(bishydroxymethylfuran、BHF)またはこれらの組合せの溶液のような、適切な量の重合性(重合可能な)液体を、木材試料(specimen)に含浸させることによって、行われる。その含浸の後、その木材試料を加熱し、それによって、その重合性化合物は重合化されて木材細胞中でフランポリマーが形成される。この重合処理(プロセス)を含浸木材の“硬化”(curing)と称する。
【0003】
含浸木材を硬化するためのより効率的な方法に対するニーズ(必要性)が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの観点(特徴)によれば、含浸木材は、マイクロ波照射(microwave radiation)(以下、“MW”と称する)を用いることによって硬化される。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の実施形態において、木材試料は、第1に(先ず)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)、フルフラール(furfural)、ビスヒドロキシメチルフラン(bishydroxymethylfuran、BHF)、またはその他の低分子量の重合性フラン誘導体の溶液を用いる含浸工程(ステップ)を施される。この実施形態の1つの観点(特徴)において、その含浸溶液は、20乃至80%の濃度になるように水またはその他の適切な溶媒(solvent)で希釈されてされてもよく、適切な触媒(catalysts)および/または開始剤(initiators:イニシエータ)をさらに含んでいてもよい。そのような含浸工程は、通常は、“フルセル”(full cell:細胞全体)タイプの含浸工程である。
【0006】
第2に、硬化工程において、その含浸木材は、少なくとも1回のMW(マイクロ波照射)加熱を受けて70乃至140℃の温度にされ、それによって木材細胞中でフランポリマーの形成が生じる。そのマイクロ波硬化工程は、その含浸木材の最適な硬化が確実に得られる回数だけ繰り返され、その木材の最終乾燥を行うこともでき、別の最終乾燥処理の必要性が減少する。本発明の1つの観点によれば、1乃至50回の加熱(の繰り返し)が行われ、本発明の別の観点によれば、10乃至30回の加熱(の繰り返し)が行われる。本発明の1つの観点によれば、マイクロ波硬化に用いられるエネルギは、木材で10乃至200kWh/(m木材)(kWh/m3 wood)の範囲である。その木材における誘導される熱の所要の進入深さに応じて決まる種々の異なるマイクロ波周波数を用いることもできる。
【0007】
本発明の別の実施形態によれば、木材試料は、その加熱工程の前にフィルム(foil:箔、膜、フォイル)で包まれる。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、マイクロ波照射処理は、コンベヤ・ベルト上の製品格付けシステム(product grading system)に含めることができる。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、上述の方法で得ることができる製品が提供される。本発明の1つの観点によれば、上述の方法で得ることができるフランポリマー修飾(modified:改質、加工)木材製品は、10乃至100%の乾燥未処理母材の重量百分率増加(重量パーセント・ゲイン)(利得)で表されるポリマー添加(loading)を有する。これらの修飾(modified:改質、加工)木材製品は、耐久性、硬さ(硬度)、寸法形状安定性(dimensional stability)、および少ない吸湿(吸湿性の減少)が要求されるまたは重要である場合に有用である。
【0010】
次の各例は、その木材のマイクロ波照射によって、その木材にひび割れ(クラック)が生じることのない上述の硬化法を例示するものである。
【0011】

材料および方法
寸法25(r)×25(t)×500(l)mmのかんながけされた(planed:平坦化された)正常な(sound)ヨーロッパ・アカマツ(Scots pine)辺材(sapwood)標本(学名Pinus sylvestris)(複数個)が、評価に用いられた。
【0012】
この研究に用いられた含浸溶液は、触媒として無水マレイン酸(maleic anhydride)およびクエン酸(citric acid)が加えられた26%のフルフリルアルコールの水溶液であった。含浸前のその木材の含水率(moisture content)は、11%であった。
【0013】
含浸の後、その木材を用いて直接的にマイクロ波処理を行った。その複数の標本は、マイクロ波照射下にある期間における不均一な重合化または蒸発を回避するために、任意選択的に(オプションとして)プラスチック・フィルム(箔、膜)で巻くこともできる(巻いてもよい)。
【0014】
マイクロ波(MW)処理に、周波数2.45GHz、電力レベル600W〜1800Wのマグネトロンが使用された。複数の木材標本は、コンベヤ・ベルトを用いてマイクロ波(MW)照射チャンバ(室)内に移送された。そのコンベヤ・ベルトの速度は、10mm/sec乃至34mm/secであった。
【0015】
その複数の木材標本に対して複数回のマイクロ波照射が繰り返された。マイクロ波処理は、その複数の木材標本のエネルギ消費量15〜30kWh/mで、10〜30回繰り返された。その30回繰り返された照射は、適切な条件下で、1時間未満で行うことができた。
【0016】
このようなマイクロ波(MW)処理パラメータで処理された複数の木材標本はひび割れ(クラック)がなく、少ない(減少した)含水率を有し、フルフリルアルコールの重合化によって茶色がかった色を有する。
【0017】
固定度(degree of fixation)は、重合化フルフリルアルコールの量を分析する方法として用いることができる。
【0018】
分析
マイクロ波(MW)処理の後、その複数の木材標本は、浸出試験EN84に従って侵出(leach out:洗出)させて、その水侵出液(water leachate)を、未反応フルフリルアルコールについて分析した。その固定度は、次の式で計算された。
【数1】

ここで、FG=固定度[%]、
W=木材試料中に添加(導入)されたフルフリルアルコールの量[mg/試料]、
l=その侵出液中の非重合化フルフリルアルコールの量[mg/試料]。
【0019】
結果
1回のマイクロ波(MW)処理当たりエネルギ消費15〜30kWh/mで10〜30回の繰り返した後、その先にFA(フルフリルアルコール)含浸された各木材標本は硬化される。それらの標本の色は茶色に変化し、ひび割れが生じず、僅かに乾燥した。
【0020】
その処理されたマツ木材標本は浸出試験EN84に従って侵出した後、その水侵出液を、残留フルフリルアルコールについて、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて分析した。固定度は、式(1)に従って計算された。
【0021】
計算された最小の固定度は、硬化されなかった(非硬化の)標本のものであった。
【0022】
図1は、異なる3種のマイクロ波処理の後の浸出試験(leaching test)(EN84)中のフルフリルアルコール含浸松(マツ)辺材標本(サンプル)の固定度を示している。
【0023】
30回の処理を繰り返したマイクロ波(MW)処理された標本について、95%を超える固定度が算出された(マイクロ波処理3)。
【0024】
その後の活動
硬化材料に関する更なる研究が、オーブンで硬化された標本と比較した、上述のマイクロ波処理による材料特性(菌類に対する耐性(耐菌類性)、膨張/収縮作用、および強度特性)の可能性ある変化の評価が行われる。それらの標本は、マイクロ波処理によって得られる改善された特性を有することができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、異なる3種のマイクロ波処理の後の浸出試験(EN84)中のフルフリルアルコール含浸マツ辺材標本の固定度を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含浸木材を硬化させる方法であって、
a)木材標本に重合性液体を含浸させる工程と、
b)前記木材標本を少なくとも1回加熱し、その際、前記木材をマイクロ波照射によって70乃至140℃の範囲の温度に加熱してその木材細胞中でポリマーの形成が生じるようにする加熱工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
低分子量フラン誘導体を含む溶液を前記木材に含浸させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低分子量フラン誘導体は、フルフラール、フルフリルアルコール、ビスヒドロキシメチルフラン、またはそれらの組み合わせから選ばれたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ波照射は、木材で10乃至200kWh/mの範囲の強度を有するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記木材に対して1乃至50回のマイクロ波処理を繰り返す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記木材に対して10乃至30回のマイクロ波処理を繰り返す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱工程の前に、さらに、前記木材標本をフィルムで巻く工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法によって製造された木材製品。

【公表番号】特表2010−526693(P2010−526693A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508325(P2010−508325)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/NO2008/000165
【国際公開番号】WO2008/140324
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509311805)ケボニー エーエスエー (2)
【氏名又は名称原語表記】KEBONY ASA
【住所又は居所原語表記】Her ya Industripark, Bygg 126, N−3908 Porsgrunn, Norway
【Fターム(参考)】