説明

吸収性樹脂の製法及び吸収性樹脂

【課題】高荷重下での吸収量が高いレベルでバランスが取れた吸収性樹脂の製法を提供。
【解決手段】水溶性のラジカル重合性モノマー(a)と架橋剤(b)を、水の存在下でラジカル重合する吸収性樹脂の製法において、下記一般式(I)または(II)で示される化合物(c)の共存下に重合を行うことを特徴とする吸収性樹脂の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収性能に優れた吸収性樹脂の製法および吸収性樹脂に関する。更に詳しくは、保水性能に優れ、水可溶性成分量が少なく、更に、荷重下における吸収性能にも優れた表面架橋された吸収性樹脂の製法および吸収性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
紙オムツ等の吸収性物品に用いられる吸収性樹脂に対しては、保水量が多いこと、且つ着用者の体重が加わった状態のような荷重下における吸収量と保水量がバランスして高いレベルにあることが要望されている。
保水量を高める方法として、架橋剤(b)の使用量を少なくすることは通常実施されている手段であるが、更に、ラジカル重合性モノマーと架橋剤を含有するモノマー水溶液を水溶液重合するに当たり連鎖移動剤を共存させる方法(特許文献1)が提案されている。
【0003】
一方、荷重下における吸収量を高める方法としては、吸収性樹脂粒子の表面近傍を架橋剤で更に架橋する、いわゆる表面架橋方法が数多く提案されている(特許文献2,3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−179008号公報
【特許文献2】特許第2675729号公報
【特許文献3】EPA618005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の連鎖移動剤を使用する方法は、保水量の向上に関してはある程度の効果が認められるものの、低分子量成分である水可溶性成分量が増加すると言う欠点があった。
又、連鎖移動剤を使用する方法で得られる吸収性樹脂粒子を、更に表面架橋すると、比較的低い荷重下(例えば20g/cm2の荷重下)の吸収量に関してはある程度の吸収効果が認められるものの、高い荷重下(例えば60g/cm2の荷重下)の吸収量に関しては不充分であり、更に水可溶性成分量も低減できないという問題があった。水可溶性成分量が多いと、紙オムツ等の吸収性物品に要求される吸水ゲルのドライ感が低下し、更に吸水ゲル同士がゲルブロッキングを生じやすくなると言う点て好ましくない。
一方、連鎖移動剤を使用しない通常の吸収性樹脂を表面架橋する方法では、荷重下の吸収量は向上するものの、表面架橋によって保水量が大きく低下するという問題があった。
従来は幼児用の紙おむつが吸収性樹脂の主用途であったことから、上記のような吸収性樹脂でも使用可能であったが、大人用紙おむつへの吸収性樹脂の適用が進むにつれて、一度に多量に排泄される尿を効率よく保水する能力と、大人の体重が加わった状態のような高い荷重下での吸収能力とがバランスして高いレベルにある吸収性樹脂の出現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、保水性能に優れ、水可溶性成分量が少なく、且つ保水量と荷重下の吸収量、特に高荷重下での吸収量が高いレベルでバランスが取れた吸収性樹脂を得るべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0007】
即ち本発明は、水溶性または加水分解により水溶性となる1種以上のラジカル重合性モノマー(a)と架橋剤(b)を、水の存在下でラジカル重合する吸収性樹脂の製法において、一般式(I)または(II)で示される化合物(c)の共存下に重合を行うことを特徴とする吸収性樹脂(A1)の製法;この吸収性樹脂(A1)を粒子状とし、架橋剤(d)で表面架橋する吸収性樹脂(A2)の製法;並びに、前記製法で得られた吸収性樹脂(A2)であり、下記(1)〜(5)の要件を満たす吸収性樹脂である。
(1)生理食塩水に対する保水量が35g/g以上;
(2)20g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が30g/g以上;
(3)40g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が20g/g以上;
(4)60g/cm2荷車下における生理食塩本に対する吸収量が15g/g以上;
(5)生理食塩水による3時間抽出後の可溶性成分量が10%以下。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製法によって得られる吸収性樹脂は、保水性能に優れ、水可溶性成分量が少なく、且つ保水量と荷重下の吸収量、特に高荷重下での吸収量が高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、ラジカル重合性モノマー(a)としては、水溶性のラジカル重合性モノマー(a1)、または、加水分解により水溶性となるラジカル重合性モノマー(a2)が使用できる。
水溶性のラジカル重合性モノマー(a1)としては、少なくとも1個の酸基もしくはその塩形成基[カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、燐酸(塩)基等]、水酸基、アミド基、アミノ基、4級アンモニウム塩基等の親水性基を有するラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0010】
カルボン酸(塩)基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸グリコールモノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル、桂皮酸等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;並びに、これらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アミン塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
スルホン酸(塩)基を有するモノマーとしては、例えば、脂肪族または芳香族ビニルスルホン酸(塩)類[例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸類(スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホン酸等]、及びこれらの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等)などが挙げられる。
燐酸(塩)基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル燐酸モノエステル[例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート、フェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェートなど]、(メタ)アクリル酸アルキルホスホン酸類[例えば、2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸(塩)等]などが挙げられる。
【0011】
水酸基を有するモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和アルコール[例えば、(メタ)アリルアルコール等];ポリオール(例えば、アルキレングリコール、グリセリン、ポリオキシアルキレングリコール等)のモノエチレン性不飽和エステルまたはエーテル[例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ−オキシエチレン−オキシプロピレン(ランダムまたはブロック)グリコールモノ(メタ)アリルエーテル(末端の水酸基はエーテル化またはエステル化されていてもよい)等]などが挙げられる。
アミド基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、N−メチルアクリルアミドなど]、N,N’−ジアルキルアクリルアミド[例えば、N,N’−ジメチルアクリルアミド、N,N’−ジ−n−またはi−プロピルアクリルアミドなど]、−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなど];N,N’−ジアミノ基を有するモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和モノ−またはジ−カルボン酸のアミノ基含有エステル、ジアルキルアミノアルキルエステル、ジヒドロキシアルキルアミノアルキルエステル、モルホリノアルキルエステル等[例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルフマレートなど]、複素環式ビニル化合物[例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルビリジンN−ビニルピリジン等のビニルビリジン類、N−ビニルイミダゾール等]などが挙げられる。
【0012】
4級アンモニウム基を有するモノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジアリルアミン等の3級アミン基含有ビニル系モノマーの4級化剤(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等が挙げられる。
【0013】
加水分解により水溶性となるラジカル重合性モノマー(a2)としては、少なくとも1個の加水分解性基(エステル基、ニトリル基、アミド基等)を有するモノマーが挙げられる。エステル基を有するモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和カルボン酸の低級アルキル(C1〜C3)エステル[例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等]、モノエチレン性不飽和アルコールのエステル[例えば、酢酸ビニル、酢酸(メタ)アリル等]などが挙げられる。ニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0014】
これらのうち好ましいものは、水溶性のラジカル重合性モノマー(a1)である。更に好ましいものは、(メタ)アクリル酸(塩)、特にアクリル酸(塩)である。これらラジカル重合性モノマー(a)は単独で使用してもよく、また、必要により2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明において、ラジカル重合性モノマー(a)は水の存在下でラジカル重合される。重合濃度、すなわち、重合液中の(a)の濃度は、重合後の水の蒸発、すなわち乾燥に時間及び重合体の分子量の観点から、重合液の合計質量に基づいて、通常20〜45質量%、好ましくは25〜40質量%、特に好ましくは25〜35質量%である。
【0016】
酸基を含有するラジカル重合性モノマーは、水溶性の塩としても使用でき、その塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウムなどの塩)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウムなどの塩)、アンモニウム塩およびアミン塩(メチルアミン、トリメチルアミンなどのアルキルアミンの塩;トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミンの塩など)およびこれらの2種以上が挙げられる。これらのうちで好ましいものは、ナトリウム塩及びカリウム塩である。
(a1)が酸基を含有するラジカル重合性モノマーの場合、重合後に中和される。その中和度は、通常、重合体中の酸基の50〜80モル%である。この範囲の場合、吸収性樹脂を作業性よく製造でき、更に得られる吸収性樹脂の保水量も向上する。
即ち、該吸収性樹脂(A1)中の酸基の中和度も、通常50〜80モル%である。中和は、吸収性樹脂を製造するいずれの段階で行ってもよく、例えば、ラジカル重合性モノマー(a)の水溶液の段階で中和する、重合生成物である含水ゲル重合体の状態で中和する等の方法がある。また、モノマー(a)の水溶液の段階で一部中和を行い、重合生成物である含水ゲル重合体の状態で更に追加の中和を行うこともできる。好ましくは、得られる重合体が高分子量で水可溶性成分量が少なく、且つ保水量の大きな吸収性樹脂が得られると言う点て、酸基を含有するラジカル重合性モノマーからの重合生成物を含水ゲル重合体の状態で中和する方法である。
【0017】
本発明において、架橋剤(b)としては、2個以上のラジカル重合性二重結合を有する化合物(b1)、ラジカル重合性モノマー(a)の官能基と反応し得る官能基を少なくとも1個有し、且つ少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有する化合物(b2)、ラジカル重合性モノマー(a)の官能基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物(b3)が挙げられる。
2個以上のラジカル重合性二重結合を有する化合物(b1)としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等のビス(メタ)アクリルアミド類;(ポリ)アルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートまたはポリ(メタ)アリルエーテル;ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;テトラアリロキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等のアリロキシアルカン類等が挙げられる。
【0018】
ラジカル重合性モノマー(a)の官能基と反応し得る官能基を少なくとも1個有し、且つ少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有する化合物(b2)としては、カルボン酸(塩)基、ヒドロキシル基、アミノ基等と反応し得る官能基を有するラジカル重合性化合物等が挙げられ、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基を有するラジカル重合性モノマー、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するラジカル重合性モノマー等が例示される。
【0019】
ラジカル重合性モノマー(a)の官能基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物(b3)としては、カルボン酸(塩)基、ヒドロキシル基、アミノ基等と反応し得る官能基を2個以上有する多官能性化合物が挙げられ、グリオキザール;フタル酸、アジピン酸等のポリカルボン酸;(ポリ)アルキレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール;エチレンジアミン等の(ポリ)アルキレンポリアミン;エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル等が例示される。
【0020】
これらのうち好ましいものは、2個以上のラジカル重合性二重結合を有する化合物(b1)であり、更に好ましいものは、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタンである。これら架橋剤(b)は単独で使用してもよく、また、必要により2種以上併用してもよい。
【0021】
架橋剤(b)の使用量は、吸収性樹脂の生産性、水可溶性成分量及び保水量の観点から、ラジカル重合性モノマー(a)の質量に基づいて、通常0.001〜5質量%、好ましくは、0.01〜2質量%である。
【0022】
本発明において、化合物(c)としては、一般式(I)または(II)で示される化合物が挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
式中、R〜Rはそれぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、1〜4の炭素を有するカルボキシル基もしくはその塩形成基である。
【0025】
このような化合物(c)の具体例としては、例えば、S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonate、dibenzyl trithiocarbonate、phenyl dithioaceticacid、methyl dithioaceticacid、dimethyl trithiocarbonate等が挙げられる。
【0026】
これらのうち、好ましいものは、カルボン酸基を有する化合物である。これらの化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
化合物(c)の使用量は、吸収性樹脂(A1)の保水量及びラジカル重合性モノマー(a)の重合速度の観点から、ラジカル重合性モノマー(a)の質量に基づいて、通常0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.3質量%である。
化合物(c)の水性重合液に対する溶解性が低い場合は、界面活性剤等を併用して水性重合液に溶解又は分散させて重合を行うこともできる。
尚、これらの化合物の合成方法については、例えば、Macromoleculues、24、3690(1991)などに紹介されている。
【0027】
本発明における重合方法は、従来から知られている水の存在下で行われるいずれの方法でもよく、例えば、ラジカル重合触媒を用いた水溶液重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法等が挙げられる。また、放射線、電子線、紫外線などを照射して重合を開始させる方法を取ることもできる。これらの内、有機溶媒等を使用する必要がなく、生産コスト面で有利なことから水溶液重合法が好ましい。特に、保水量が大きく、且つ水可溶性成分量の少ない吸収性樹脂が得られ、重合時の温度コントロールが不要である点から、水溶液断熱重合法が好ましい。
【0028】
ラジカル重合触媒を用いて重合する際に用いられる重合触媒としては、従来公知の触媒が使用可能であり、例えば、アゾ化合物[アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド等]、無機過酸化物[過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等]、有機過酸化物[過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート等]及びレドックス触媒[アルカリ金属の亜硫酸塩もしくは重亜硫酸塩、亜硫酸アンモニウム、重亜硫酸アンモニウム、アスコルビン酸などの還元剤とアルカリ金属の過硫酸塩、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、有機過酸化物など酸化剤との組み合わせよりなるもの]等が挙げられる。これらの触媒は、単独で使用してもよく、これらの2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明において、重合条件は特に限定されず、例えば、重合開始温度は使用する触媒の種類によって種々変えることができるが、通常、0〜100℃で、好ましくは5〜80℃である。
ラジカル重合触媒の使用量は、通常、ラジカル重合性モノマー(a)の質量に基づいて、通常0.0005〜5質量%、好ましくは0.001〜2質量%である。
【0030】
重合は必要であれば水と有機溶媒の共存下で行ってもよい。この溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びおよびこれらの2種以上の混合物を挙げることができ、水に対する溶媒の量は質量基準で通常40%以下、好ましくは30%以下である。
重合方法として懸濁重合法または逆相懸濁重合法をとる場合は、必要に応じて、従来公知の分散剤又は界面活性剤の存在下に重合を行う。また、逆相懸濁重合法の場合、従来公知のキシレン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の炭化水素系溶媒を使用して重合を行う。
【0031】
本発明において、必要により、得られた架橋重合体中和物を含水ゲルの状態でカルボン酸(塩)基と反応しうる基を少なくとも2個有する化合物(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジル化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の(ポリ)アルキレンポリアミン類、イオン架橋を形成しうる多価金属化合物類等)で更に均一架橋せしめることもできる。この架橋により、高いゲル強度と、水可溶性成分量の少ない吸収性樹脂が製造できる。
【0032】
本発明において、得られる含水ゲル重合体は、必要により加熱乾燥、粉砕される。乾燥する方法は、80〜230℃での温度の熱風で乾燥する方法、100〜230℃に加熱されたドラムドライヤー等の使用による薄膜乾燥法、(加熱)減圧乾燥法、凍結乾燥法、赤外線による乾燥法など、通常の方法でよい。
吸収性樹脂(A1)の形状については特に限定はなく、不定形破砕状、リン片状、パール状、造粒状などが挙げられる。紙オムツ用途等での繊維状物とのからみが良く、繊維状物からの脱落の心配がないと言う点て、水溶液重合で得られる不定形破砕状が好ましい。
粉砕方法についても特に限定はなく、ハンマー式粉砕機、衝撃式粉砕機、ロール式粉砕機、シェット気流式粉砕機など通常の装置が使用できる。得られた粉砕物は、必要により篩別される。
得られる吸収性樹脂(A1)の平均粒径は、通常100〜600μm、好ましくは200〜500μmである。微粒子の含有量は少ない方が好ましく、通常100μm以下の粒子の含有量は3%以下、好ましくは、150μm以下の粒子の含有量が3%以下である。
【0033】
本発明の方法により得られる吸収性樹脂(A1)は、生理食塩水に対する保水量が50g/g以上であり、且つ生理食塩水による3時間抽出後の水可溶性成分量が10%以下、好ましくは、生理食塩水に対する保水量が55g/g以上、且つ生理食塩水による3時間抽出後の水可溶性成分量は8%以下である。尚、保水量、荷重下における吸収量、水可溶性成分量は後述する方法で測定される。
【0034】
本発明において、得られる吸収性樹脂(A1)を粒子状とし、架橋剤(d)で表面架橋して得られる吸収性樹脂(A2)は本発明の効果を更に向上することができる。
吸収性樹脂(A1)を表面架橋する方法としては、従来公知の方法、例えば、架橋剤(d)、水、溶媒の混合溶液を(A1)と混合し、加熱反応する方法が挙げられる。
架橋剤(d)としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等のポリグリシジル化合物、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール類、エチレンカーボネート類、ボリアミン類等が挙げられる。好ましくは、比較的低い温度で架橋反応を行うことができると言う点で、ポリグリシジル化合物およびボリアミン類である。
これらの架橋剤は単独で使用してもよく、又は、2種以上を併用してもよい。架橋剤(d)の使用量は、表面架橋度及び荷重下における吸収量の向上効果の観点から、(A1)の質量に基づいて、0.005〜5質量%、好ましくは、0.01〜2質量%、特に好ましくは0.05〜1質量%である。
【0035】
表面架橋時の水の使用量は、吸収性樹脂(A1)の質量に基づいて、通常、1〜10質量%、好ましくは、2〜7質量%である。上記範囲の場合、架橋剤(d)の(A1)の粒子内部への浸透度がよくなり、荷重下における吸収量、特に高い荷重下(例えば、60g/cm2)における吸収量の向上効果がよくなる。
本発明において、水と併用して使用される溶媒の種類としては従来公知のものが使用可能であり、架橋剤の(A1)内部への浸透度合い、架橋剤の反応性等を考慮し、適宜選択して使用することができるが、好ましくは、メタノール、ジエチレングリコール等の水に溶解しうる親水性有機溶媒である、このような溶媒は単独で使用してもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
溶媒の使用量は、溶媒の種類により変化させることができるが、吸収性樹脂(A1)の質量に基づいて、通常、1〜10質量%である。また、水に対する溶媒の比率についても任意に変化させることができ、通常質量基準で20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%である。
【0036】
架橋剤(d)と水と溶媒との混合溶液を従来公知の方法で(A1)に添加混合し、加熱反応を行う。反応温度は、通常、100〜230℃、好ましくは、120〜160℃である。反応時間は、反応温度により変化させることができるが、通常3〜60分、好ましくは10〜40分である。この様に表面架橋して得られる粒子状の吸収性樹脂(A2)を更に同種の架橋剤あるいは(A2)で使用したのとは異種の架橋剤で表面架橋することも可能である。
この様に表面架橋して得られる粒子状の吸収性樹脂(A2)は、必要により篩別して粒度調整される。得られた(A2)の平均粒経は、通常100〜600μm、好ましくは200〜500μmである。微粒子の含有量は少ない方が好ましく、100μm以下の粒子の含有量は通常3%以下、好ましくは、150μm以下の粒子の含有量が3%以下である。
【0037】
本発明の表面架橋された粒子状の吸収性樹脂(A2)は、下記(1)〜(5)の要件を満たすことが好ましい。
(1)生理食塩水に対する保水量が35g/g以上
(2)20g/cm2荷重下における生理食塩本に対する吸収量が30g/g以上、
(3)40g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が20g/g以上、
(4)60g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が15g/g以上、
(5)生理食塩水による3時間抽出後の水可溶性成分量が10%以下。
さらに、生理食塩水に対して下記(1)’〜(5)’の要件を満たすことがより好ましい。
(1)’保水量が40g/g以上
(2)’20g/cm2荷重下における吸収量が35g/g以上、
(3)’40g/cm2荷重下における吸収量が25g/g以上、
(4)’60g/cm2荷重下における吸収量が20g/g以上、
(5)’水可溶性成分量が8%以下。
尚、保水量、荷重下における吸収量、水可溶性成分量は後述する方法で測定される。
【0038】
本発明において、必要により本発明の製法の任意の段階で、防腐剤、防かび剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、芳香剤、消臭剤、無機質粉末、有機質繊維状物などを添加することができ、その量は得られた吸収性樹脂(A1)あるいは(A2)の質量に基づいて、通常、5重量%以下である。また、必要により本発明の方法における任意の段階で発泡構造を形成するような処理を行ってもよいし、造粒や成型を行うこともできる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下特に定めない限り、%は重量%を示す。尚、保水量、20g/cm2、40g/cm2、60g/cm2の荷重下における吸収量、水可溶性成分量は以下の方法で測定される。
<保水量>
250メッシュのナイロン網で作成したティーバッグ(縦20cm、横10cm)に吸収性樹脂1.000gを入れ、生理食塩水(NaCl濃度0.90%のイオン交換水溶液)中に60分間浸漬した後、15分間吊るして水切りしてから、ティーバッグごと遠心脱水機に入れて、150Gで90秒間遠心脱水を行い、余剰水を取り除く。遠心脱水後の増加質量を測定し、保水量とした。
<荷重下吸収量>
250メッシュのナイロン網を底面に貼ったプラスチック製円筒(内縁25mm、高さ30mm)内に吸収性樹脂0.160gを入れて均一に均し、この吸収性樹脂の上に外縁25mmでスムーズに円筒内を上下する100gの分銅を乗せる。この時の荷重は約20g/cm2に相当する。
生理食塩水60mlの入ったシャーレー(直径:12cm)の中に吸収性樹脂と分銅の入ったプラスチック円筒をナイロン網側を下面にして浸し、放置する。吸収性樹脂が生理食塩水を吸収して増加した質量を60分後に測定し、その値を吸水剤1g当たりの値に換算して20g/cm2の荷重下における吸収量とした。40g/cm2、60g/cm2の荷重下における吸収量は、各々同じ外径の200g、300gの分銅を使用して同様の測定を行うことによって求められる。
<水可溶性成分量>
300mlのビーカーに吸収性樹脂1.00gを正確に測りとり、生理食塩水を加えて250gとした後、3時間攪拌して水可溶成分を抽出する。濾紙を用いて濾過した濾液20mlをイオン交換水30mlで希釈し、測定溶液とした。この測定溶液を、まず、1/50NのKOH水溶液でpH10まで滴定を行い、その後、1/20NのHCl水溶液でpH2.7まで滴定する。この時の滴定に要した2種の滴定液の量をもとに、分子量と濃度を考慮してボリアクリル酸及びその塩の量を算出し、吸収性樹脂1g当たりの質量%を求めて、水可溶性成分量とした。
【0040】
実施例1[吸収性樹脂(A1)]
アクリル酸200g、S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonate0.12g、架橋剤としてペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー製)0.7g、イオン交換水515gを混合して重合性単量体水溶液を調整し、この混合液を断熱重合可能な重合槽に投入した。溶液中に窒素ガスを導入することにより、溶液中の溶存酸素量を0.2ppm以下、溶液温度を5℃とした。この重合溶液に、0.1%過酸化水素水10g、0.1%アスコルビン酸水溶液5g、1%のV−50(和光純薬工業製アゾ系触媒)水溶液10gを添加した(アクリル酸の濃度:25%)。約20分後に重合開始を示す温度上昇が確認され、約2.5時間後に最高温度に到達し合水ゲル状重合体を得た。この含水ゲル状重合体をミートチョッパーを用いて小片に砕断しながら、50%のNaOH水溶液160部を添加し、重合体中のカルボキシル基の約72モル%をナトリウム塩とした。
この中和された含水ゲルを通気熱風乾燥機(井上金属製)を用い、供給風温150℃、風速1.5m/秒の条件下で通気乾燥したところ、乾燥物の水分含量が4%となるまでに25分を要した(乾燥時間:25分;以下の実施例において、乾燥時間は上記の条件で乾燥したときの乾燥物の含水率が4%となるまでに要する時間を表す)。乾燥物を家庭用ミキサーで粉砕し、篩別して22メッシュの金網(開口径:710μm)を通過し、119メッシュの金網(開口径:125μm)を通過しない部分をとって吸収性樹脂(A11)を得た。吸収性樹脂(A11)の粒径を測定した結果、平均粒径は380μmであり、150μm以下の微粒子を0.8%含有していた。吸収性樹脂(A11)の性能評価結果を表1に示す。
【0041】
実施例2[吸収性樹脂(A1)]
S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonateに代えて、phenyl dithioaceticacidを0.08g用いる以外は実施例1と同様にして吸収性樹脂(A12)を得た。この時の乾燥時間は26.5分であった。吸収性樹脂(A12)の性能評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例3[吸収性樹脂(A1)]
S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonateに代えて、dimethyl trithiocarbonateを同量用いる以外は実施例1と同様にして吸収性樹脂(A13)を得た。この時の乾燥時間は26分であった。吸収性樹脂(A13)の性能評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例4[吸収性樹脂(A1)]
アクリル酸200gと水410gを混合し、外部冷却を行いながら、溶液温度が35℃を越えないようにして、50%NaOH水溶液160gを徐々に添加してアクリル酸の約72モル%を中和した。次いで、S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonate0.12g、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルの10%水溶液を6g添加して混合し、溶液温度を5℃とした。この溶液を断熱重合可能な重合装置に投入し、溶液中に窒素を導入することでこの重合液中の溶存酸素量を0.2ppm以下とした。この重合溶液に0.1%過酸化水素水溶液10g、0.1%アスコルビン酸水溶液5g、1%V−50水溶液10gを添加した。以下、得られた含水ゲル状重合体の中和を行わない以外は、実施例1と同様にして吸収性樹脂(A14)を碍た。 この時の乾燥時間は27.5分であった。 吸収性樹脂(A14)の性能評価結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonateを使用しない以外は実施例1と同様にして比較の吸収性樹脂(1)を得た。この時の乾燥時間は27分であった。比較の吸収性樹脂(1)の性能評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例2
S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonateに代えて次亜燐酸ソーダ1水和物を0.02g使用した以外は実施例1と同様にして比較の吸収性樹脂(2)を得た。この時の乾燥時間は35分であった。比較の吸収性樹脂(2)の性能評価結果を表1に示す。
【0046】
比較例3
S,S’−Bis(α、α’−Dimethyl−α’’−Aceticacid)−trithiocarbonateを使用しない以外は実施例4と同様にして比較の吸収性樹脂(3)を得た。この時の乾燥時間は30.5分であった。比較の吸収性樹脂(3)の性能評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例5[吸収性樹脂(A2)]
吸収性樹脂(A11)100gを攪拌しながら、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.14g、水4g、メタノール6gからなる溶液を添加して混合し、140℃で40分加熱反応を行い、吸収性樹脂(A21)を得た。得られた吸収性樹脂(A21)の性能評価結果を表2に示す。
【0049】
実施例6〜8[吸収性樹脂(A2)]
吸収性樹脂(A11)に代えて、吸収性樹脂(A12)〜(A14)を使用する以外は実施例5と同様にして、吸収性樹脂(A22)〜(A24)を得た。得られた吸収性樹脂(A22)〜(A24)の性能評価結果を表2に示す。
【0050】
比較例4〜6
吸収性樹脂(A11)に代えて比較の吸収性樹脂(1)〜(3)を使用する以外は実施例5と同様にして、比較の吸収性樹脂(4)〜(6)を得た。得られた比較の吸収性樹脂(4)〜(6)の性能評価結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2の結果から、本発明の吸収性樹脂粒子は、比較例に比べて、保水量及び荷重下吸水量が共に優れることがわかる。そして、この結果から、本発明の吸収性樹脂粒子を用いた吸収性物品(紙おむつ等)は、使用者が装着した状態で座ったり横になったような場合でも、漏れが生じにくいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製法により、保水量が大きく、且つ水可溶性成分量の少ない吸収性樹脂(A1)を得ることができる。更に、このような特性を有する吸収性樹脂を生産性よく製造することができる。また、吸収性樹脂(A1)粒子を表面架橋して得られる粒子状の吸収性樹脂(A2)は、高い保水量を示し、且つ荷重下においても高い吸収量を示すことから、保水量と荷重下吸収量とが良好なバランスを保っており、水可溶性成分量も少ない。特に60g/cm2のような高荷重下における吸収性能に優れる特長がある。
以上の効果を奏することから、本発明の方法で得られる吸収性樹脂は、吸収性物品、特に大人用紙おむつに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性または加水分解により水溶性となる1種以上のラジカル重合性モノマー(a)と架橋剤(b)を、水の存在下でラジカル重合する吸収性樹脂の製法において、下記一般式(I)または(II)で示される化合物(c)の共存下に重合を行うことを特徴とする吸収性樹脂の製法。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、カルボキシル基もしくはその塩形成基である。)
【請求項2】
(c)の量が、(a)の量に対し質量基準で0.001〜1質量%である請求項1記載の製法。
【請求項3】
ラジカル重合性モノマー(a)の主成分がアクリル酸であり、該重合後に中和を行う、請求項1または2に記載の製法。
【請求項4】
得られる吸収性樹脂(A1)の生理食塩水に対する保水量が50g/g以上であり、且つ生理食塩水による3時間抽出後の水可溶性成分量が10%以下である請求項1〜3のいずれか記載の製法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製法で得られる吸収性樹脂(A1)を粒子状とし、架橋剤(d)で表面架橋する吸収性樹脂(A2)の製法。
【請求項6】
架橋剤(d)がボリグリシジル化合物である請求項5記載の製法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の製法で得られる吸収性樹脂(A2)であり、下記(1)〜(5)の要件を満たす吸収性樹脂。
(1)生理食塩水に対する保水量が35g/g以上;
(2)20g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が30g/g以上;
(3)40g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が20g/g以上;
(4)60g/cm2荷重下における生理食塩水に対する吸収量が15g/g以上;
(5)生理食塩水による3時間抽出後の水可溶性成分量が10%以下。

【公開番号】特開2012−207139(P2012−207139A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74180(P2011−74180)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(301023009)サンダイヤポリマー株式会社 (57)
【Fターム(参考)】