説明

吸収性物品用表面シートとその製造方法およびそれを用いた吸収性物品

【課題】体液を表面シート上で滞留させたり広げることなく、表面シートから吸収体へとスムーズに移行させることができ、液戻りも少なく、モレ不安やモレを引き起こさない凹凸表面構造を有する吸収性物品用表面シートを提供する。
【解決手段】複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートであって、融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面に位置し、表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在することを特徴とする。この複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートは、表面シートを、複数の凸部を有する部材と、当該複数の凸部に噛み合う複数の凹部を有する部材との間に配置し、当該凸部を当該凹部に押し込むことにより、製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキンや使い捨ておむつのような吸収性物品の表面シートおよびその製造方法ならびにその表面シートを用いた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンボス加工によって形成された多数の熱融着部を有する不織布であって、熱融着部間において不織布を構成する繊維が、不織布の厚さ方向に突出して、上下面それぞれに多数の隆起部を形成している吸収性物品の表面シートが開示されている。また、不織布は上層およびこれに隣接する下層を有しており、潜在捲縮性繊維を50重量%以上含む下層と、実質的に熱収縮性を有しないかまたは潜在捲縮性繊維の捲縮開始温度以下では熱収縮しない熱融着繊維を含む上層を積層し、下層の側からエンボス加工を行い多数の熱融着部によって両ウェブを部分的に接合させて不織布となすと共に、下層における熱融着部の周囲に位置する潜在捲縮性繊維を予備的に捲縮させ、次いで不織布を潜在捲縮性繊維の捲縮開始温度以上の温度で熱処理し下層を収縮させて、上層および下層それぞれを不織布の厚さ方向に突出させ隆起部を多数構成する製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、吸収性物品の表面シートが熱融着性繊維を含み、表面シートの下には熱融着性繊維を含むセカンド層が設けられており、表面シートとセカンド層が一緒に圧縮され、かつ表面シートとセカンド層とが融着されたものが開示されており、その吸収性物品は、表面シートとセカンド層とが加熱されたロール間に挟み込まれてエンボス部が形成され、このときセカンド層の表面に表面がフラットなロールを当て、表面シート側に表面から凸部が形成されたエンボスロールを当てることによって製造されることが記載され(段落[0068])、そのようにして得られたものの断面は、表面シートとセカンド層が融着された融着部が、厚み方向最下部に位置するような、表面側が凹凸、裏面側がフラットな構造であることが図示されている(図4)。
【0004】
【特許文献1】特許第3868892号公報
【特許文献2】特開2004−181086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された吸収性物品の表面シートは、熱融着部に対して不織布の厚み上下方向へ多数の隆起部があり、熱融着部は表面シートの中で最も密度が高い部分となり、隆起部は熱融着部よりも密度が低い部分となる。すなわち、隆起部の頂点が最も密度が低く、熱融着部に近づくに従って次第に密度が高くなる凸凹構造となっている。一方、身体から排出される体液等の液体は、毛細管現象により密度が疎から密へと向かい流れこむ。したがって、そのような構造の不織布を吸収性物品の表面シートとして用いた場合、身体から排出された液体は、最初に隆起部から浸透し、不織布の粗密構造により最も密度の高い熱融着部へと流れ込む。しかしながら、厚み方向の下側に突出した下層側の隆起部は熱融着部よりも密度が低いため、液体を下層側へと移行させることが非常に困難である。よって、体液は熱融着部で溜まってしまい、連続して排出されたり、多量に排出されたときには、上層で体液が溜まり大きく拡散してしまい、肌へのベタつき感を与えたり拡散面積が広がることにより、モレへの不安を生じさせたり、多量に排出されたときには、表面で広がった結果、実際にモレを生じさせてしまう、という課題があった。また、製造方法においても、下層側に潜在捲縮性繊維を含むことが必須となるため、繊維が制約されてしまう、また潜在捲縮性繊維は比較的高価であるため、コストが高くなる、あるいは、上層と下層を重ねてエンボス加工をした後に、さらに下層の潜在捲縮性繊維を熱処理させて繊維を収縮させることが必要になるため、製造ラインが大きくなり煩雑化する、設備コストが高くなる、という課題もあった。
【0006】
特許文献2の図4に記載された構造の吸収性物品は、融着部が厚み方向最下面に位置しているので、融着部が吸収体と接触しており、融着部に流れ込んだ液体は吸収体へとスムーズに移行され、融着部に液体が滞留することがなくなる。しかしながら、非融着部の底部も吸収体と接触しているので、着用者が様々な体勢や行動を行った場合に、吸収性物品に身体からの圧力(=体圧)が加えられ、吸収体には圧力が加えられて、吸収体が液体を放出し、非融着部の底部を通って逆流し、表面シートを広く汚してしまい、モレ不安を抱かせる、または多量に逆流した結果、実際にモレが生じる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートであって、融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面に位置し、表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在することを特徴とする。
また、本発明の吸収性物品用表面シートは、融着圧縮部が非融着圧縮部よりも表面シートの厚み方向下側に位置することを特徴とする。
また、本発明の吸収性物品用表面シートは、表面シートのおもて面において、非融着圧縮部は融着圧縮部より隆起した隆起部を形成しており、融着圧縮部の周縁には融着圧縮部から隆起部へ向けて立ち上がる側壁部が存在し、密度が隆起部の中央部、側壁部、融着圧縮部の順に大きくなっていることを特徴とする。
また、本発明の吸収性物品用表面シートは、非融着圧縮部の厚み方向最上面の密度が、非融着圧縮部の厚み方向内部の密度よりも低いことを特徴とする。
また、本発明の吸収性物品用表面シートは、表面層とセカンド層の2層からなることを特徴とする。
【0008】
本発明は、表面シートを、複数の凸部を有する部材と、当該複数の凸部に噛み合う複数の凹部を有する部材との間に配置し、当該凸部を当該凹部に押し込むことにより、複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートを製造する方法である。
また、本発明の方法は、当該複数の凸部を有する部材と当該複数の凹部を有する部材が、1対の連動するエンボスロールであることを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記の表面シート、吸収体吸収体、および液不透過性の裏面シートからなる吸収性物品であって、当該吸収体吸収体が当該表面シートと当該裏面シートとの間に配置され、当該表面シートの融着圧縮部が当該吸収体吸収体と接するように配置されている、吸収性物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸収性物品用表面シートは、融着圧縮部が厚み方向最下面に位置するので、融着圧縮部が吸収体と接触することができ、表面シートに浸透し融着圧縮部に流れ込んだ液体は吸収体へとスムーズに移行され、かつ表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在するので、吸収性物品に体圧が加えられたときに吸収体に吸収されていた液体が非融着圧縮部の底部を通って逆モレすることも少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を、以下、図面を用いて説明するが、本発明は図面に示されたものに限定されるものではない。
図1は本発明の吸収性物品用表面シートの1つの実施態様の平面図であり、図2はそのA−A′線の部分断面図である。表面シート1は複数の融着圧縮部2を有し、融着圧縮部2は表面シート1の厚み方向最下面に位置し、表面シート1の裏面において融着圧縮部2を取り囲むように凹部3が存在している。
【0012】
図3は、本発明の吸収性物品用表面シートの第2の実施態様の断面図である。この実施態様においては、表面シート1は不織布から構成され、表面シート1の裏面において融着圧縮部2を取り囲むように、表面シート内で最も密度が低い低密度領域4が存在している。
【0013】
図4は、本発明の吸収性物品用表面シートの第3の実施態様の断面図である。この実施態様においては、表面シート1は表面層5とセカンド層6の2層からなり、表面層5とセカンド層6はそれぞれ不織布から構成されている。表面シート1の裏面において融着圧縮部2を取り囲むように凹部3が存在している。
【0014】
図5は、本発明の吸収性物品用表面シートの第4の実施態様の断面図である。この実施態様においては、表面シート1は表面層5とセカンド層6の2層からなり、表面層5とセカンド層6はそれぞれ不織布から構成されている。融着圧縮部2を取り囲むように凹部3が存在しており、融着圧縮部2が非融着圧縮部よりも表面シートの厚み方向下側に位置している。
【0015】
ここで、融着圧縮部が表面シート1の厚み方向最下面に位置するとは、非融着圧縮部の表面シート裏面側の面が、融着圧縮部2の表面シート裏面側の面18を含む平面19よりも厚み方向裏面側に突き出ていない状態をいう。図2〜図5の断面図で説明するならば、非融着圧縮部の表面シート裏面の最下部20は、融着圧縮部2の表面シート裏面側の面18と同じ平面19にあるか(図3および図4)またはそれより表面シートおもて面側にある(図2および図5)。非融着圧縮部の表面シート裏面の最下部20が融着圧縮部2の表面シート裏面側の面18を含む平面19より表面シートおもて面側にあるとは、融着圧縮部2が非融着圧縮部よりも表面シートの厚み方向下側に位置していると言い換えることができ、図2および図5に示されるものはその例である。なお、吸収性物品が生理用ナプキンまたは使い捨ておむつである場合、表面シートおもて面が肌当接面である。
【0016】
本発明の吸収性物品用表面シートの構造を、図4を参照しながら、以下、より詳細に説明する。表面シート1は、表面層5とセカンド層6が重ねられて、融着圧縮部2により表面層5とセカンド層6が接合されている。また、表面シート1は、融着圧縮部2が表面シート1の厚み方向の最下面に位置し、表面層側へ隆起した隆起部7を有し、隆起部7は融着圧縮部2と隣り合う融着圧縮部2の間に位置して、融着圧縮部2と隆起部7が表面シート1の平面方向に交互に繰り返される凹凸構造を有する。また、融着圧縮部2の周縁、断面図では両サイド部分には、融着圧縮部2から隆起部7へ向けて立ち上がる側壁部8を有している。表面シート1の裏面を見ると、融着圧縮部2を取り囲むように凹部3が存在する。ここで、表面シート1における相対的な密度の大小関係は、側壁部8は隆起部の頂上部9よりも密度が高く、融着圧縮部2が表面シート1内で最も密度が高く、頂上部9<側壁部8<融着圧縮部2の密度関係が成立している。表面層5およびセカンド層6を形成する不織布の繊維の向きは、隆起部7の頂上部9では表面シート面(厚さ方向に垂直な平面)方向にほぼ平行に配列しているが、隆起部7の頂上部9から側壁部8を経由して融着圧縮部2へ至るに従って、不織布の繊維の向きは厚み方向に近づいていく。
【0017】
表面シートの平面構造について、以下、説明する。表面シート1における融着圧縮部2の配列については、千鳥状、格子状、直線状、曲線状など、任意のパターンで配列することができる。融着圧縮部2の形状は、円、楕円、正方形、長方形、菱形、星型、ハート型などの任意の形状でかまわない。融着圧縮部2の大きさは、融着圧縮部2の形状が円の場合は直径、楕円の場合は長軸、正方形の場合は1辺、長方形の場合は長辺が、0.5mm〜15mmであることが好ましい。0.5mm未満であると、加工時に破れる虞があり、また表面層5とセカンド層6の接合強度が十分に確保されず、使用中に剥離してしまう虞がある。一方、15mmを超えると、融着圧縮部2が大きすぎて硬さが生じ、吸収性物品の表面シートとして適さない違和感を与える虞がある。また、融着圧縮部2と隣り合う融着圧縮部2の間隔は、2〜20mmであることが好ましい。2mm未満であると、融着圧縮部2と隣り合う融着圧縮部2の間の隆起部7の密度が高くなりすぎるため、液体のスムーズな移行を妨げる虞がある。また、20mmを超えると、間隔がまばら過ぎて、表面層5とセカンド層6の接合強度が十分に確保されず、使用中に剥離してしまう虞がある。また、融着圧縮部2の形状、融着圧縮部2同士の間隔や配列は、必ずしも表面シート1内において全て同じである必要はなく、前記の範囲内であれば、異なる形状やパターンを組み合わせてもよい。
【0018】
表面シートを構成する材料としては、不織布が好ましいが、それに限定されない。表面シートが、表面層とセカンド層の2層からなる場合は、表面層とセカンド層の材料の組み合わせとしては、表面層/セカンド層が、不織布/不織布、多孔性プラスティックシート/不織布、不織布/多孔性プラスティックシートの組み合わせから選択される。不織布としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を素材とし、各樹脂を単独、もしくは芯鞘タイプ、芯鞘の偏芯タイプ、サイドバイサイドタイプの複合の合成繊維としたものを用いることができる。これらの不織布としては、濡れ性をコントロールするために、これらの繊維表面に親水性や撥水性を付着させたり、練りこませたりすることができる。これらの繊維を熱融着、水流交絡、スパンボンド等で単独または複合した不織布を用いる。体液との親水性を考慮した場合、パルプ、化学パルプ、レーヨン、アセテート、天然コットンなどのセルロース系の親水性繊維が含まれているものであってもよい。使用する繊維は1.1〜6.6dtexが好ましく、目付は15〜120g/m2の範囲で調整するのが好ましい。表面層/セカンド層が不織布/不織布の場合は、セカンド層の不織布の密度が表面層の不織布の密度よりも高いことが、液体の移行性を考慮した場合、好ましい。すなわち、液体は密度の高い方へ移行する傾向があるので、表面層の密度よりも高い密度のセカンド層を設けることにより、身体から排出される液体の吸収を促進し、かつ一旦吸収された液体の液戻りを防ぐことができる。表面層やセカンド層は、前記の材料をそれぞれ1層で使用してもよいし、2つ折または3つ折等して2層または3層にして用いてもよいし、4層以上にして用いてもよい。また、表面層とセカンド層の層間において、ホットメルト接着剤を適宜用いてもよい。
【0019】
本発明の吸収性物品用表面シートによると、表面シートは複数の融着圧縮部を有し、この融着圧縮部間に隆起部が存在し、且つ、融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面に位置し、この融着圧縮部の周縁には、融着圧縮部から隆起部へ向けて立上る側壁部を有し、かつ表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在するよう成形されている。前記表面シートにおいて、隆起部は圧縮されていなくて、最も密度が高い部分は融着圧縮部である。また、隆起部から融着圧縮部に向かうに従って、表面シート密度は増大している。前記構造の表面シートを吸収性物品の表面シートとして用いた場合、最も高密度である融着圧縮部が厚み方向最下面に位置するので、吸収体と接触することとなる。前記の構造によって、身体から排出された液体は、最初に最表面の隆起部に接触し、浸透し始め、表面シートの粗密構造に従って、側壁部を経由し融着圧縮部へと流れ込む。ここで、融着圧縮部は表面シートの厚み方向最下面に位置し、吸収体に接触しているため、融着圧縮部に流れ込んだ液体は、吸収体へとスムーズに移行され、融着圧縮部に液体が滞留することがなくなる。また、表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在している。そのため、側壁部に液体が流れ込む時に、それ以外の部位に液体は移行しなくなるため、表面シートの最下点、言い換えれば吸収体に接触する融着圧縮部のみへ必然的に液体が集まることとなり、スムーズかつ効率的に、吸収体へと受け渡すことが可能となり、液体を広げることが無い。引続き繰り返して体液が排出されたときについても、初回の吸収挙動と同じように、隆起部から融着圧縮部、融着圧縮部から吸収体へとスムーズな液体移動が促進され、拡散面積を小さく吸収を完結させることが可能となる。よって、本発明の吸収性物品用表面シートは、体液を表面シート上で滞留させたり広げることなく、表面シートから吸収体へとスムーズに移行させることができるため、モレ不安やモレを引き起こさない表面シートである。
また、好ましい実施態様においては、非融着圧縮部の厚み方向最上面21(すなわち隆起部の頂上部)の密度と非融着圧縮部の厚み方向内部22の密度を比較すると、前者の方が低い。表面シートが表面層とセカンド層の2層からなる場合は、非融着圧縮部の厚み方向最上面21における表面層の密度は、その真下のセカンド層との界面における表面層の密度よりも低い。この実施態様においては、身体から排出された液体は、まず、肌に最も近い非融着圧縮部の厚み方向最上面21に接触し浸透するが、最上面21よりも密度の高い内部22に速やかに移行する。なお、内部22に浸透した液体は、その後、側壁部の方へ移行し、次いで融着圧縮部へ移行する。表面シートが表面層とセカンド層の2層からなる場合は、セカンド層の方が密度が高いので、内部22に浸透した液体はセカンド層に移行し、その後、側壁部を経由して融着圧縮部へ移行する。したがって、この実施態様によれば、液体が表面から速やかに内部に移行するので、表面に液体が滞留せず、表面を快適に保つことができるとともに、液体の総括的な吸収速度も大きくなるという効果がある。
【0020】
ここで、通常は、吸収性物品は、使用者が様々な体勢や行動を行った場合に、吸収性物品に身体からの圧力(すなわち体圧)が加えられ、吸収体には圧力が加えられてしまう。吸収体が液体を放出するが、吸収体は、一般的にパルプ層を主に構成されているが、圧力によりパルプ繊維間が圧縮され、パルプ繊維間に保持している液体が放出され、表面シートを濡れ伝わって、逆流し、表面シートを広く汚してしまい、モレ不安を抱かせる、または多量に逆流した結果、逆流した液体が肌に付着したり、横モレや後モレを引き起こす場合があった。しかしながら、本発明の表面シートにおいては、吸収体が体液を吸収した後に、体圧が吸収性物品に加えられた場合でも、吸収体と表面シートの間に空間(凹部に相当する部分)または低密度領域が存在するため、吸収体から放出された体液が表面シートのおもて面へ逆流するのを防げる。また、融着圧縮部は吸収体に接しているが、融着圧縮部>側壁部>隆起部の密度勾配が成立しているため、吸収体から融着圧縮部を経て表面シートの肌側に液体が移行しにくい。よって、体液を表面シート上で滞留させたり広げることなく、表面層からセカンド層へ、セカンド層から吸収体へとスムーズに移行させることができるだけでなく、一旦吸収体へと吸収させた液体を、表面シートへ戻して広げることが無いため、モレ不安やモレを引き起こすことが少ない。なお、体圧が加わったときの液の吸収体から表面シートへの逆流を防ぐ効果は、融着圧縮部の囲りに低密度領域が存在するときよりも、凹部が存在するときすなわち吸収体と表面シートの間に空間が存在するときの方が、吸収体から放出された体液がその空間に滞留することができるので、大きい。
【0021】
本発明の吸収性物品用表面シートは、表面シートを、複数の凸部を有する部材と、当該複数の凸部に噛み合う複数の凹部を有する部材との間に配置し、当該凸部を当該凹部に押し込むことにより、製造することができる。
【0022】
図5は、本発明の吸収性物品用表面シートを製造するために用いることができる複数の凸部を有する部材10と複数の凹部を有する部材11の断面図、およびそれらの部材を用いた本発明の吸収性物品用表面シートの製造工程の1つの例を示す。複数の凸部を有する部材10と複数の凹部を有する部材11は、好ましくは、1対の連動するエンボスロールであり、一方のエンボスロールに設けられた凸部13がもう一方のエンボスロールの凹部14に噛み合うようになっている。図5の(A)は複数の凸部を有する部材10の凸部13が複数の凹部を有する部材11の凹部14に押し込まれる前の状態を示し、図5の(B)は複数の凸部を有する部材10の凸部13が複数の凹部を有する部材11の凹部14に押し込まれたときの状態を示す。図5の(C)は、エンボスロールを通過した後、まだ搬送張力がかかった状態の表面シートの断面図を示す。図5の(D)は、搬送張力から開放された後の表面シートの断面図を示す。
【0023】
表面シート12を、張力をかけた状態でライン搬送しながら、複数の凸部を有する部材10と複数の凹部を有する部材11の間に挟みこむ。なお、表面シート12が表面層とセカンド層の2層からなる場合は、表面層が複数の凸部を有する部材10に接し、セカンド層が複数の凹部を有する部材11に接するような状態で、挟みこむ。このとき、複数の凸部を有する部材10と複数の凹部を有する部材11は、表面シート12(2層からなる場合は表面層とセカンド層の両方)を十分に軟化させられる温度に加温しておく。複数の凸部を有する部材10の凸部13が複数の凹部を有する部材11の凹部14に押し込まれると、凸部13が表面シート12を、凹部14の中へ押し込みながら腑型し、凸部13の先端15と凹部14の底部16が合わさったときに、表面シート12に温度と圧力が加えられて溶融し、図5の(B)に示すように、もとの表面シート12の最下面よりさらに下へ向かう突出部17を伴う融着圧縮部2が形成される。上記押し込みの工程を通過した表面シート12は、ライン搬送進行方向への張力を受けることにより、図5の(C)に示すような断面形状を有するが、表面シート12は、製造ラインからはずされ、搬送張力から開放されると、図5の(D)に示すように、融着圧縮部2を取り囲むように凹部3または低密度領域が形成される。
また、本発明の方法によれば、表面シートの厚み方向最上面は、押し込みの工程において、張力により、表面シートの厚み方向内部よりも大きく引き伸ばされるので、そして表面シートが不織布からなる場合は不織布を構成する繊維同士が引き伸ばされる方向に引き離されるので、押し込みの工程後の表面シートの非融着圧縮部の厚み方向最上面21の密度は、非融着圧縮部の厚み方向内部22の密度よりも小さくなる。
【0024】
複数の凹部を有する部材の凹部の深さは、0.5〜3.5mmが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mmである。凹部の深さが小さすぎると、得られる表面シートの融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面よりも上(表面シートのおもて面側)になってしまう。逆に、凹部の深さが大きすぎると、融着圧縮部の周縁が破けたりする。
複数の凸部を有する部材の凸部の高さは、複数の凹部を有する部材の凹部の深さよりも加工前の表面シートの厚さ以上大きいことが好ましい。たとえば、凸部の高さは凹部の深さよりも1〜5mm大きいことが好ましく、より好ましくは1.2〜3.0mm大きいことが好ましい。凸部の高さが小さすぎると、融着圧縮部以外の部分も圧縮されてしまう。逆に、凸部の高さが大きすぎると、押し込みの際に十分な圧力をかけることが困難になる。
【0025】
押し込みの際の複数の凸部を有する部材と複数の凹部を有する部材が合わさったときの間隔(クリアランス)は、0.0〜0.1mmが好ましく、より好ましくは0.0〜0.05mmである。クリアランスが開きすぎると融着圧縮できない。
【0026】
複数の凸部を有する部材および複数の凹部を有する部材の好ましい温度は、表面シートを構成する素材によって異なる。表面シートが不織布からなる場合は、105〜140℃が好ましく、より好ましくは115〜130℃である。温度が低すぎると、融着することができない。逆に、温度が高すぎると、硬くなったり、溶けて孔が開いたりする。表面シートがポリエチレンネットからなる場合は、60〜90℃が好ましく、より好ましくは70〜80℃である。温度が低すぎると融着することができない。逆に、温度が高すぎると、溶けて孔が開いてしまう。
【0027】
押し込みの際の圧力は、160〜700MPaが好ましく、より好ましくは250〜520MPaである。圧力が低すぎると、十分に融着圧縮できない。逆に、圧力が高すぎると、エンボスロールが壊れてしまう。
【0028】
本発明の表面シートの製造に用いられる複数の凸部を有する部材および複数の凹部を有する部材としては、ロール形状で回転体で融着圧縮するもののほか、プレートで挟み込んで融着圧縮するものでもよい。また、融着圧縮させる方法としては、複数の凸部を有する部材および複数の凹部を有する部材を表面シートを十分に軟化させられる温度に加温する方法のほか、超音波接合にて融着圧縮させる方法でもよい。
【0029】
表面シートが表面層とセカンド層の2層からなる場合は、1つの工程だけで、表面層とセカンド層を接合させると同時に、融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面に位置する表面シートを得ることができる。また、任意の表面層とセカンド層の2つのシートを1つの加工工程により、凹凸表面構造を有する吸収性物品の表面シートを得ることができるため、高価な材料に制限されることが無いためコストを低減でき、また製造ラインもコンパクトで簡素化でき、設備コストも抑えることができる。
【実施例】
【0030】
実施例
(芯/鞘)=(ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン)の2.6dtexと2.2dtexと(芯/鞘)=(ポリプロピレン/ポリエチレン)の3.3dtexの繊維を混綿し、トータルで30gsmに調整し、エアスルー法にて得られた不織布を表面層として使用し、(芯/鞘)=(ポリプロピレン/ポリエチレン)の2.2dtexと3.3dtexの繊維を混綿し、トータルで38gsmに調整しエアスルー法にて得られた不織布をセカンド層として使用し、表面層とセカンド層の間にホットメルト接着剤を10gsmで1.0mm幅を2.0mmピッチで塗工した。
【0031】
先端が直径1.4mmの円形である高さ2.8mmの円柱状の凸部を、MD方向とCD方向それぞれ6.0mmピッチで千鳥状に周面上に配置した金属ロール(以下、凸部形状金属ロールという。)を複数の凸部を有する部材として用い、複数の凹部を有する部材としては、凸部形状金属ロールと対をなして噛み合うことが可能な金属ロールで、凸部形状金属ロールの円柱状凸部よりも一回り径が大きく、深さが1.4mmの凹部を、凸部形状金属ロールと噛み込ませた時に、凸部形状金属ロール上の円柱状凸部と相対する位置になるように配置されている金属ロール(以下、凹部形状金属ロールという。)を用いた。表面層とセカンド層をホットメルト接着剤にて貼り合せた積層体を、凸部形状金属ロールと凹部形状金属ロールの間に挟み込み、250MPaの圧力を加えて融着圧縮部を形成させた。温度は、凸部形状金属ロール、凹部形状金属ロール共に125℃に加温し、クリアランスは、凸部の先端と凹部の底面が0.0mmになるように設定した。
【0032】
1.4mmφの円形の融着圧縮部が千鳥状に配置され、各融着圧縮部のMD方向とCD方向のピッチが6mmである、複数の融着圧縮部を有する表面シートが得られた。得られた表面シートをMD方向(図1のA−A′線)に切断し、その断面を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図7および図8に示す。
【0033】
得られた表面シートに、吸収体およびバックシートを積層して、長手方向25cmの生理用ナプキンを作成した。作成した生理用ナプキンについて拡散評価を行った。拡散評価は、6mLの人工経血(粘度が22〜26mPa・sの範囲にあるもの)を15mL/分の流量で滴下し、人工経血の拡散領域の縦方向(MD)と横方向(CD)の長さを測定し、それらを掛け合わせた長方形の面積を算出し、拡散面積とした。36個の試料について得られた拡散面積の平均値は694cm2、拡散面積の最小値は428cm2、拡散面積の最大値は868cm2であった。
また、作成した生理用ナプキンについて表面の速乾性評価を行った。表面の速乾性評価は、生理用ナプキンの肌当接面側に、6mLの人工経血を95mL/分の流量で滴下した後、1分後、3分後、5分後および7分後に、カトーテック(株)製フィンガーロボットサーモラボKES−F7を用いて、生理用ナプキンの表面の滴下位置(色の一番濃いところ)のQmax(熱移動速度)を測定する。Qmaxの値が大きいほど濡れを感じる。3つの試料について得られたQmaxの平均値は、1分後に0.208、3分後に0.150、5分後に0.118、そして7分後に0.097であった。
【0034】
比較例
凹部形状金属ロールに代えて、凹部を有しない通常の平らな金属ロールを用い、その他の条件は前述の実施例と同様にして、複数の融着圧縮部を有する表面シートを得た。得られた表面シートをMD方向に切断し、その断面を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図9に示す。その顕微鏡写真によれば、比較例の表面シートの融着圧縮部は、表面シートの厚み方向最下面に位置していないことが分かる。
【0035】
得られた表面シートに、吸収体およびバックシートを積層して、長手方向25cmの生理用ナプキンを作成した。作成した生理用ナプキンについて、実施例と同様に拡散評価を行ったところ、拡散面積の平均値は1440cm2、拡散面積の最小値は1190cm2、拡散面積の最大値は1771cm2であり、経血の平面的な広がりは実施例に比べ大きかった。
また、作成した生理用ナプキンについて、実施例と同様に表面の速乾性評価を行った。3つの試料について得られたQmaxの平均値は、1分後に0.257、3分後に0.191、5分後に0.174、そして7分後に0.148であり、表面の速乾性は実施例に比べ劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の吸収性物品用表面シートの1つの実施態様の平面図である。
【図2】本発明の吸収性物品用表面シートの1つの実施態様の断面図である。
【図3】本発明の吸収性物品用表面シートの別の実施態様の断面図である。
【図4】本発明の吸収性物品用表面シートのさらに別の実施態様の断面図である。
【図5】本発明の吸収性物品用表面シートのさらに別の実施態様の断面図である。
【図6】本発明の吸収性物品用表面シートを製造するために用いることができる複数の凸部を有する部材と複数の凹部を有する部材の断面図、およびそれらの部材を用いた本発明の吸収性物品用表面シートの製造工程の1つの例を示す。
【図7】本発明の実施例において得られた吸収性物品用表面シートの断面の顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例において得られた吸収性物品用表面シートの断面の顕微鏡写真である。
【図9】本発明の比較例において得られた吸収性物品用表面シートの断面の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0037】
1 表面シート
2 融着圧縮部
3 凹部
4 低密度領域
5 表面層
6 セカンド層
7 隆起部
8 側壁部
9 隆起部の頂上部
10 複数の凸部を有する部材
11 複数の凹部を有する部材
12 表面シート
13 凸部
14 凹部
15 凸部の先端
16 凹部の底部
17 突出部
18 融着圧縮部の表面シート裏面側の面
19 融着圧縮部の表面シート裏面側の面を含む平面
20 非融着圧縮部の表面シート裏面の最下部
21 非融着圧縮部の厚み方向最上面
22 非融着圧縮部の厚み方向内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートであって、融着圧縮部が表面シートの厚み方向最下面に位置し、表面シートの裏面において融着圧縮部を取り囲むように凹部または表面シート内で最も密度が低い低密度領域が存在することを特徴とする表面シート。
【請求項2】
融着圧縮部が非融着圧縮部よりも表面シートの厚み方向下側に位置することを特徴とする請求項1に記載の表面シート。
【請求項3】
表面シートのおもて面において、非融着圧縮部は融着圧縮部より隆起した隆起部を形成しており、融着圧縮部の周縁には融着圧縮部から隆起部へ向けて立ち上がる側壁部が存在し、密度が隆起部の中央部、側壁部、融着圧縮部の順に大きくなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面シート。
【請求項4】
非融着圧縮部の厚み方向最上面の密度が、非融着圧縮部の厚み方向内部の密度よりも低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面シート。
【請求項5】
表面シートが表面層とセカンド層の2層からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面シート。
【請求項6】
表面シートを、複数の凸部を有する部材と、当該複数の凸部に噛み合う複数の凹部を有する部材との間に配置し、当該凸部を当該凹部に押し込むことにより、複数の融着圧縮部を有する吸収性物品用表面シートを製造する方法。
【請求項7】
当該複数の凸部を有する部材と当該複数の凹部を有する部材が、1対の連動するエンボスロールであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面シート、吸収体、および液不透過性の裏面シートからなる吸収性物品であって、当該吸収体が当該表面シートと当該裏面シートとの間に配置され、当該表面シートの融着圧縮部が当該吸収体と接するように配置されている、吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−273722(P2009−273722A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128741(P2008−128741)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】