説明

吸収性物品

【課題】おむつの吸収性能を阻害することなく、排泄物及びそれに由来する刺激物質に対する皮膚の保護性が高い吸収性物品を提供すること。
【解決手段】吸収層4及び裏面層3を有する吸収性物品1において、該吸収性物品1の所定部位に、皮膚に保護膜を形成する薬剤が、排泄物に対する皮膚の保護性及び前記吸収性物品の吸収性能が十分に発現されるような量又は状態下に保持されている。この薬剤は、炭素数4〜22のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排泄物及びそれに由来する刺激物質に対する皮膚の保護性が高い吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
着用者の皮膚のかぶれの防止を目的とした吸収性物品として、例えば特許文献1及び特許文献2に記載のものが知られている。これらの公報には、エモリエント剤を含むローション剤がトップシートに塗られている使い捨ておむつが記載されている。このローション剤は、前記エモリエント剤をトップシートに不動化させる不動化剤を含んでいる。
【0003】
前記公報に記載の使い捨ておむつでは、前記エモリエント剤をトップシートに不動化させるために、該エモリエント剤を前記不動化剤と共に溶融させた後にトップシートに塗工させている。前記不動化剤は炭化水素系の化合物であることから、撥水性ではあるが親油性であり、便中の親油性物質との親和性が高く、トップシートに該親油性物質が残存し易くなる。また、該親油性物質が着用者の肌に接触し易くなり、かぶれを誘発する原因となる。
【0004】
更に、前記不動化剤は撥水性であることから、尿等がトップシートを透過しづらくなり、おむつの吸収性能が阻害される原因ともなる。
【0005】
【特許文献1】特表平10−509895号公報
【特許文献2】特表平10−509896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、おむつの吸収性能を阻害することなく、排泄物及びそれに由来する刺激物質に対する皮膚の保護性が高い吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液保持性の吸収層及び液不透過性の裏面層を有する吸収性物品において、液保持性の吸収層及び液不透過性の裏面層を有する吸収性物品において、該吸収性物品の所定部位に、皮膚に保護膜を形成する薬剤、皮膚を強化させる薬剤又は皮膚と該吸収性物品との摩擦を低減させる薬剤が、排泄物に対する皮膚の保護性及び前記吸収性物品の吸収性能が十分に発現されるような量又は状態下に保持されている吸収性物品を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸収性物品によれば、排泄された液の液流れの発生を防止しつつ、排泄物及びそれに由来する刺激物質に対する皮膚の保護性が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の吸収性物品の好ましい実施形態を、該吸収性物品として使い捨ておむつを例にとり図面を参照して説明する。
【0010】
本実施形態の使い捨ておむつ1は、図1に示すように、液透過性の表面層としての表面材2と、熱可塑性樹脂のシート等からなる液不透過性の裏面層としての裏面材3と、表面材2及び裏面材3間に介在された液保持性の吸収層としての吸収体4とを有して構成されている。吸収体4は、おむつ1の股下領域に対応する領域がくびれた砂時計形状に湾曲形成され、表面材2及び裏面材3も、吸収体4の形状に即しておむつ1の股下領域に対応する領域が湾曲形成されている。そして、吸収体4は、表面材2及び裏面材3によって挟持・固定されている。
【0011】
吸収体4の前後および左右端縁部から外方に延出する表面材2及び裏面材3によって形成される背側および腹側のウエスト部5,5’と一対のレッグ部6,6とには、おむつ1を着用した際に、ウエスト部5,5’とレッグ部6,6とを着用者の身体にフィットさせるための弾性伸縮部材7が、表面材2及び裏面材3によって固定されて設けられている。背側のウエスト部5の幅方向両端にはそれぞれテープファスナー等からなる一対の止着具8が取り付けられており、また、腹側のウエスト部5’における裏面材3上には矩形状のランディングテープ等からなる被着具(図示せず)が貼付されている。そして、本実施形態の使い捨ておむつ1が着用される際に、止着具8が被着具上に止着するようになされている。おむつ1を構成するこれらの部材としては、従来の使い捨ておむつに用いられているものと同様のものが用いられる。
【0012】
吸収体4は、高吸収性ポリマーの粒子及び不織布を有している。高吸収性ポリマーの粒子は不織布の繊維間間隙に保持されている。高吸収性ポリマーの粒子を保持した不織布は、薄葉紙11によってその全面が被覆されている。これによって吸収体4が構成されている。このような構成の吸収体4は、パルプ及び高吸収性ポリマーの粒子を主体として構成される従来の吸収体に比して極めて薄いものとなる。不織布を構成する繊維としては、レーヨン繊維やコットン、酢酸セルロース等の親水性繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系繊維、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニルモノマー重合体の繊維等が挙げられる。これらの繊維のうち疎水性のものは、油剤等の処理により親水化して用いても良い。
【0013】
本実施形態のおむつ1においては、表面材2は2層構造となっており、最上層、即ち皮膚に対向する表層と、該表層に隣接する下層とから構成されている。表層と下層とは一体的になっている。表層及び下層は何れも液透過性となっている。更に、少なくとも下層が親水性となっている。表面材2の液透過性を十分に高める点からは、表層も親水性であることが好ましい。
【0014】
少なくとも下層が親水性となっている2層構造の表面材2の例としては、以下の図2(a)〜図2(f)に示すものなどが挙げられる。
(1)図2(a)に示すように、親水化処理を施した繊維からなるウエブ2a上に、親水化処理が施されているか又は施されていない繊維であって、前記ウエブを構成する繊維と同一又は異なる繊維からなるウエブ2bを積層させて積層ウエブを形成した後、該積層ウエブを熱風処理して得られるエアスルー不織布2c。
(2)図2(b)に示すように、紙や親水性不織布等の予めシート化された親水性基材シート2d上に、例えばホットメルト粘着剤等の接着剤2eによって、スパンボンド、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)、スパンボンド−メルトブローン−メルトブローン−スパンボンド(SMMS)等の疎水性シート2fを接合し一体化させてなるシート2g。
(3)図2(c)に示すように、前記疎水性シート2f上に、例えばホットメルト粘着剤等の接着剤2eを塗工し、更にその上にパルプ繊維やレーヨン繊維等の親水性繊維を散布し、これらの繊維からなる親水性の層2hを形成してなるシート2i。このシートにおいては、前記疎水性シート2fの目から親水性繊維が露出して、液を引き込む。実使用時においては、前記疎水性シート2f側を皮膚側にして使用する。
(4)図2(d)に示すように、前記親水性基材シート2d上に、前記疎水性シート2fを積層し、両者をエンボス処理して一体化させてなるシート2j。
(5)図2(e)に示すように、前記親水性基材シート2d上に、前記疎水性シート2fを積層し、両者を開孔処理して一体化させてなるシート2k。
(6)図2(f)に示すように、前記親水性基材シート2d上に、ホットメルト粘着剤やポリエチレン等の疎水性物質2mを、ストライプ状等の各種パターンで吹き付けて該疎水性物質の層を形成してなるシート2n。
【0015】
前述の親水化処理は、例えば非イオン界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等)などの界面活性剤の付与により行われる。
【0016】
本実施形態のおむつ1においては、表面材2に、所定の薬剤が保持されている。具体的には、表面材2における表層の全体にのみ前記薬剤が保持されている。そして下層には前記薬剤が保持されていない。前記薬剤がこのような状態下に保持されていることによって、前記薬剤の作用による排泄物に対する皮膚の保護性が十分に発現されると共に、前記薬剤を保持させたことに起因する液の吸収阻害が防止されて、おむつ1の吸収性能が十分に発現される。また、このような保持状態は、前記薬剤が、表面材2から着用者の皮膚に移行して付着し得る状態でもある。本実施形態のような前記薬剤の保持状態は、該薬剤として、後述する撥水性及び撥油性の薬剤を用いた場合に特に有効である。本発明において吸収性能が十分に発現されるとは、後述する実施例からも明らかなように、主に、表面材の液透過が阻害されず、表面材上の液流れが起こらないことをいう。
【0017】
前記薬剤としては、(1)皮膚に保護膜を形成する薬剤、(2)皮膚を強化させる薬剤又は(3)皮膚と該吸収性物品との摩擦を低減させる薬剤が用いられる。これらの薬剤は、おむつ1の着用によって、おむつ1から着用者の皮膚へ移行して所定の効能を発揮する。これらの薬剤は、2種以上の組み合わせで用いてもよい。以下、これらの薬剤についてそれぞれ説明する。
【0018】
皮膚に保護膜を形成する前記薬剤(以下、保護膜形成剤という)は、着用者の皮膚へ移行して、皮膚の表面に保護膜を形成し、皮膚を物理的に保護する。保護膜形成剤としては、フッ素系油剤やフッ素系ポリマーなどのフッ素系化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム、オレフィンワックス、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、ワセリン、イソプロピルミリスチル等の脂肪酸エステル、セタノール、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等のグリセリン脂肪酸エステル、植物オイル(オリーブ油等)などが挙げられる。特に、撥水性及び撥油性の薬剤であるフッ素系化合物を用いることが、排泄物、特に便及びそれに由来する親油性刺激物質の、皮膚への付着を効果的に防止し得る点から好ましい。
【0019】
保護膜形成剤として、フッ素系化合物を用いる場合には、該化合物中は、炭素数4〜22のパーフルオロアルキル基、特に炭素数4〜12のパーフルオロアルキル基を有することが、保護膜形成剤の配合安定性の維持、保護膜形成剤の粘度が上昇することに起因する加工性の低下防止、保護膜形成剤の製造経費抑制等の点から好ましい。また、保護膜形成剤は、一般にポリオレフィン系の材料に保持されることが多いことから、前記フッ素系化合物は、前述のパーフルオロアルキル基に加えてアルキル基を有することが、保護膜形成剤の保持性向上の点から好ましい。特に、炭素数4〜22、特に炭素数6〜18のアルキル基を用いると、前記の保持性が一層向上することから好ましい。
【0020】
保護膜形成剤としてフッ素系化合物を用いる場合には、低分子量(例えば分子量100〜1000)の化合物、及びオリゴマーから高分子重合体の範囲の分子量をもつもの(例えば分子量10000〜1000000)の何れを用いることもできる。
【0021】
低分子量のフッ素系化合物としては、フッ素系油剤などが挙げられる。フッ素系油剤としては、フッ素系エステル油剤やフッ素系エーテル油剤などが挙げられる。
【0022】
高分子重合体からなるフッ素系化合物としては、アクリル酸パーフルオロアルキルエステル、メタクリル酸パーフルオロアルキルエステルなどのパーフルオロアルキル基を有する単量体を用いて重合された重合体や、これらの単量体を2種以上用いて共重合された共重合体、又はこれらの単量体とパーフルオロアルキル基を有さない単量体とを用いて共重合された共重合体などが挙げられる。
【0023】
パーフルオロアルキル基を有する単量体としては、以下の式(1)で表されるものが好ましく用いられる。一方、パーフルオロアルキル基を有さない単量体としては、以下の式(2)で表されるものが好ましく用いられる。式(1)及び(2)中、R1はH又はCH3、特にCH3が好ましい。式(1)中、R2はC2〜C4のアルキレン基が好ましく、Rf1はC4〜C22、特にC4〜C12のパーフルオロアルキル基が好ましい。式(2)中、R3はC12〜C22のアルキル基が好ましい。R3の炭素数を調整することで、ポリオレフィン系の材料に対するフッ素系化合物の保持性を向上させることができる。
【0024】
【化1】

【0025】
各種フッ素系化合物のうち、特に配合の安定性、ハンドリーブ性、均一塗工性等の点から、低分子量のフッ素系化合物、とりわけフッ素系油剤を用いることが好ましい。高分子重合体からなるフッ素系化合物を用いる場合には、粘度上昇に起因する薄膜塗工の困難さ、例えば塗工むらや塗工液のぼた落ちを回避するために、塗工時の粘度を10000mPa・s以下とすることが好ましい。
【0026】
皮膚を強化させる前記薬剤(以下、皮膚強化剤)は、着用者の皮膚に移行して、排泄物及びそれに由来する刺激物に対し皮膚を強化するものである。皮膚強化剤としては、天然セラミド、合成セラミド、疑似セラミドなどのセラミド類、植物エキス、収斂剤、角層柔軟化剤〔アルギニン、グアニジン誘導体、例えば、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルグアニジンの有機酸塩(有機酸塩としては、コハク酸、グルコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等)〕、保湿剤〔スクワラン、スクワレン、天然保湿成分(NMF)〕などが挙げられる。特に、バリヤ補強効果の高さとコストの点から、セラミド類、植物エキス、天然保湿成分を用いることが好ましい。
【0027】
セラミド類としては疑似セラミドを用いることが好ましい。この理由は、(1)天然セラミドは抽出が困難であり、かつ不安定であるため、及び(2)合成セラミドは高価であるためである。疑似セラミドとしては保水セラミド及びバリヤセラミドが挙げられる。保水セラミドには、type2セラミドをリード化合物として得られたスクインゴリピッドE及びアクアセラミド等があり、バリヤセラミドには、ο−アシルセラミド(type1セラミド)をリード化合物として得られたもの等がある。
【0028】
一方、植物エキスとしては、オーツ麦エキス、海藻エキス(ヒバマタ)、柚エキス、ハマメリスエキス、ワレモコウエキス、アスナロエキス、アロエエキス、カンゾウ、オウバクエキス、スギナエキス、カミツレエキス、ユーカリエキス、桃エキス等が挙げられる。特に、植物エキスとして、柚エキス、ハマメリスエキス、アスナロエキス、アロエエキス、オウバクエキス、桃エキス及びユーカリエキスのうちの一種以上の物質を用いることで、皮膚の強化効果が一層高くなる。また高吸収性ポリマーの分解も抑制される。これらのうちでも、皮膚の強化効果の更に一層の向上及び高吸収性ポリマーの一層の分解抑制の点から、ハマメリスエキス、アスナロエキス又はユーカリエキスを用いることが好ましい。吸収性物品の製造工程で加熱処理を行う場合に防爆対応を要しない点から、前記植物エキスは、1,3−ブチレングリコール抽出物であることが好ましい。また、1,3−ブチレングリコール抽出物を用いることで、1,3−ブチレングリコールがおむつ1中に共存することになり、吸収性能の劣化が少なくなる。
【0029】
皮膚と吸収性物品との摩擦を低減させる前記薬剤(以下、摩擦低減剤という)は、おむつなどの吸収性物品の着用中における着用者の皮膚と吸収性物品との間の摩擦を低減させるものである。摩擦低減剤としては、有機物質からなる板状結晶体、アシル化タウリン金属塩、例えば、ラウロイル−β−アラニンカルシウム、ラウロイルタウリンカルシウム金属塩、ジステアリルエーテル、セチルリン酸亜鉛ナトリウム、Nε−ラウロイル−L−リジン(製品名;アミホープLL、味の素)、シリコーンビーズ、有機粒子(例えば、ナイロンビーズ、キトサンビーズ、超高分子量ポリエチレン)などが挙げられる。特に、優れた触感、滑らかさを付与することができる点から、有機物質からなる板状結晶体を用いることが好ましい。摩擦低減剤が粉粒体である場合、その粒径は0.05〜50μm、特に1〜20μmであることが好ましい。
【0030】
前記の各薬剤は、表面材2における少なくとも液の主吸収領域に保持されている。「液の主吸収領域」とは、股下部からその前後方向へ延びる領域であり、表面材2における周縁部を除く意味である。勿論、表面材2の全面に亘って前記薬剤が保持されていてもよい。また、必要に応じて配される立体ガード形成用の不織布や、レッグ部及びウエスト部等の、おむつ内面における身体に接触し得る部分であれば、いずれの部分に施しても良い。更に、後述する実施例のように、ストライプ状に施してもよい。
【0031】
前記薬剤は、表面材2の前記主吸収領域において、0.001g/m2〜20g/m2、特に0.02g/m2〜10g/m2の量で塗工されていることが、おむつ1の吸収性能が阻害されずに、経済的に見合う範囲で十分な効果が発現する点、及び触感の点から好ましい。
【0032】
前記薬剤は、例えばこれを水に均一に混合し、得られた水溶液又は水分散液を表面材2に塗布する等の手段によって施される。水溶液又は水分散液における前記薬剤の濃度は0.1〜50重量%、特に3〜20重量%であることが、仕上がりの均一性、加工の容易さ(濃度を高めすぎること、霧状に噴霧した場合、うまく霧にならなかったり、製造設備への付着やボタ落ち等が生じる)の点から好ましい。
【0033】
本実施形態のおむつ1においては、前記薬剤が施されている部位に、肌を滑らかにあるいは乾燥させる目的で、シッカロール、タルク、酸化チタン等の有機又は無機の微粒子を含有させても良い。該微粒子の粒径は0.05〜50μm、特に1〜20μmであることが前記目的が十分に達成される点から好ましい。
【0034】
本発明は、前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態においては2層構造の表面材のうちの表層の全体にのみ前記薬剤を保持させたが、これに代えて表層の表面及びその近傍にのみ前記薬剤を保持させてもよい。また、単層の表面材を用いることもでき、その場合には、表面材の表面及びその近傍にのみ前記薬剤を保持させることで同様の効果を発現させることができる。
【0035】
また吸収体4に、従来のおむつに一般的に用いられているパルプを含有させてもよい。この場合、パルプ100重量部に対し、高吸収性ポリマーの量は5〜300重量部であることが好ましい。
【0036】
また、本発明の吸収性物品は、前述した使い捨ておむつに限られず、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー、おりものシート等の他の吸収性物品にも同様に適用できる。
【実施例】
【0037】
以下の例中、特に断らない限り「%」及び「部」は、それぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0038】
〔実施例1〕
保護膜形成剤としてのパーフルオロヘキシルメチル−1,3ジメチルブチルエーテル(フッ素系エーテル油剤)10部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキシド付加モル数6)20部、及び水100部を混合し、均一混合液とした。
【0039】
芯がポリプロピレンで、鞘がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維(3.3dtex、繊維長51mm)を前記混合液に浸漬し、該複合繊維に該混合液を付着させた。この複合繊維を乾燥させて該複合繊維に前記保護膜形成剤を付着させ且つ該複合繊維を親水化処理剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム70重量%及びモノラウロイルフォスフェ−トカリウム塩30重量%の混合液)で親水化した。このようにして得られた前記複合繊維をカード機にかけて、坪量10g/m2の第1のウエブを得た。
【0040】
これとは別に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキシド付加モル数6)20部及び水100部を混合し、均一な水溶液とした。前記複合繊維と同様の複合繊維を、この水溶液に浸漬し、該複合繊維に該水溶液を付着させた。この複合繊維を乾燥させることで、該複合繊維をポリオキシエチレンラウリルエーテルで親水化した。親水化された前記複合繊維をカード機にかけて、坪量15g/m2の第2のウエブを得た。
【0041】
第2のウエブ上に第1のウエブを重ね合わせ、温度140℃の熱風で処理して、第1のウエブに由来する表層と、第2のウエブに由来する下層とが一体化してなる坪量25g/m2のエアスルー不織布を得た。この不織布においては、第1のウエブに由来する表層の全体に前記保護膜形成剤が付着量0.15g/m2で付着していた。このようにして得られた不織布をおむつの表面材として用いた。
【0042】
NBKP100部及び高吸収性ポリマーの粒子(ポリアクリル酸架橋体)100部を均一に混合した。その混合物を坪量20g/m2の薄葉紙で包み、全体の坪量を300g/m2とし、これをおむつの吸収体として用いた。
【0043】
この吸収体の片面に前記表面材を配し、他の面に裏面材としてポリエチレン製フィルムを配した。更に、公知の止着具、弾性伸縮部材等を配して、図1に示す形態の使い捨ておむつを得た。
【0044】
〔実施例2〕
実施例1で用いた保護膜形成剤に代えて、同様に保護膜形成剤としてのフッ素系ポリマー(単量体としてメタクリル酸パーフルオロオクチルエチルを用いて重合された重合体、数平均分子量18000)を用いた。該フッ素系ポリマーの繊維への付着は、フッ素系ポリマー3重量部、界面活性剤10重量部、水100重量部をホモジナイザーで均一混合、エマルジョン化して、実施例1記載の第1のウェブにスプレー塗工し乾燥した(エマルジョンの均一安定性を確保するために、各成分を塗工直前に調合した。)。そのときの粘度は10mPa・sとした。これ以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。
【0045】
〔実施例3〕
実施例1で調製した混合液に、更にハマメリスエキス1部を加えた混合液を用いる以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。
【0046】
〔実施例4〕
実施例1で調製した混合液に、更にアスナロエキス1部を加えた混合液を用いる以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。
【0047】
〔実施例5〕
実施例3で用いた混合液を、予め製造しておいたエアースルー不織布の表面及びその近傍にのみ、該不織布の長手方向に沿って幅10mm、ピッチ10mmでストライプ状(5本)に塗工した。塗工方法は、グラビア塗工方式で、乾燥後の付着量0.20g/m2となるようにした。これ以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。
【0048】
〔比較例1〕
芯がポリプロピレンで、鞘がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維(3.3dtex、繊維長51mm)をカード機にかけてウエブを形成し、該ウエブを熱風で処理して坪量25g/m2のエアスルー不織布を得た。この不織布の一面に、ポリオレフィンワックス100部とミリスチルイソプロピレート20部との混合物を、該不織布の長手方向に沿って幅10mm、ピッチ10mmでストライプ状(5本)に塗工した。塗工部分における該混合物の坪量は、5g/m2とした。このようにして得られた不織布を、前記混合物が塗工された面を上面にして表面材として用いた。これ以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。
【0049】
〔比較例2〕
実施例1で用いた第1のウエブの坪量を20g/m2に変更したウエブを製造した。このウエブを用い、実施例1と同様の条件でエアスルー不織布を得た。このようにして得られた不織布を表面材として用いた。これ以外は実施例1と同様にして使い捨ておむつを得た。この表面材には、その厚さ方向全域に亘りフッ素系化合物からなる保護膜形成剤が保持されていた。
【0050】
〔性能評価〕
実施例及び比較例で得られた使い捨ておむつについて以下の方法で人工便の付着防止性、おむつかぶれ防止性及び表面材上の液流れ防止性を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
〔人工便の付着防止性〕
15人のモニターの前腕部に、人工便(油性色素1%、オレイン酸1%、ワセリン9%、ポリエチレングリコール89%)1gを付着させた。実施例及び比較例で得られたおむつを、表面材が肌に対向するように、人工便が付着した前腕部に巻き付けた。3時間経過後、おむつをはずし、人工便が付着している部分を市販のおしり拭きで拭き、拭き残しの程度を以下の3点〜1点の基準で評価した。
【0052】
・軽く拭いても拭き残しが無くきれいに拭ける。・・3点
・軽く拭いてやや拭き残しがある。・・・・・・・・2点
・軽く拭くと拭き残しが気になる。・・・・・・・・1点
【0053】
そして、15名中、3点の評価をしたモニターの割合が6割以上を○、6割未満4割以上を△、4割り未満を×とした。前記の点数が大きいほど、付着防止性が高いことを意味する。
【0054】
〔おむつかぶれ防止性〕
15名のモニターにおむつを二週間使用させて、その間のおむつかぶれの程度を以下の基準で評価した。またおむつ使用後の高吸収性ポリマーの溶解の程度を、以下の基準で目視評価した。
【0055】
◎・・かぶれを経験したモニターがいなかった。
○・・1〜2人のモニターがかぶれを経験した。
△・・3人以上5人以下のモニターがかぶれを経験した。
×・・半数以上のモニターがかぶれを経験した。
【0056】
〔液流れ防止性〕
使い捨ておむつを、その表面材が上方を向くように、45度に傾斜した板の上に固定した。おむつの上側の端部から200mm内側の位置に、生理食塩水を50g流し、生理食塩水が表面材上を伝って流れ落ちる距離を測定した。同様の測定を3回繰り返し、各回の距離を測定した。この距離が短い程、液流れ防止性が高いことを意味する。評価は以下の基準で行った。
【0057】
◎・・初回の液流れ距離が60mm以下で、且つ繰り返し測定しても液流れ距離が長くならない。
○・・初回の液流れ距離が60mm超〜100mmで、且つ繰り返し測定しても液流れ距離が長くならない。
△・・初回の液流れ距離は100mm以下であるが、繰り返しの測定により徐々に液流れ距離が長くなる。但し、液流れ距離は200mmを超えず、おむつ端部から液が漏れることはない。
×・・初回又は繰り返しの測定で、液流れ距離が200mmを超え、おむつ端部から液が漏れ出る。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の使い捨ておむつ(本発明品)は、フッ素系化合物からなる保護膜形成剤の作用によって、油性物質を含んでいる人工便の付着防止性に優れることが判る。比較例1のおむつでは、表面材に保持されているポリオレフィンワックスが親油性であることから、人工便の拭き残しが見られ、それに起因して、おむつかぶれが起こることが判る。
【0060】
また、表面材の厚さ方向全域に亘りにフッ素系化合物からなる保護膜形成剤が保持されている比較例2のおむつでは、該フッ素系化合物に起因して液流れが起こり、おむつの吸収性能が阻害されていることが判る。これに対して、フッ素系化合物が、特定の状態下に保持されている実施例のおむつでは、液流れが防止されており、おむつの吸収性能が十分に発現されていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の吸収性物品の一実施形態としての使い捨ておむつを表面材側から見た一部破断平面図である。
【図2】図2(a)〜図2(f)はそれぞれ、少なくとも下層が親水性となっている2層構造の表面材2を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 使い捨ておむつ(吸収性物品)
2 表面材
3 裏面材
4 吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液保持性の吸収層及び液不透過性の裏面層を有する吸収性物品において、該吸収性物品の所定部位に、皮膚に保護膜を形成する薬剤、皮膚を強化させる薬剤又は皮膚と該吸収性物品との摩擦を低減させる薬剤が、排泄物に対する皮膚の保護性及び前記吸収性物品の吸収性能が十分に発現されるような量又は状態下に保持されている吸収性物品。
【請求項2】
前記裏面層と共に前記吸収層を挟持する液透過性の表面層を更に有し、該表面層に前記薬剤が保持されている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記薬剤が前記表面層の表面及びその近傍にのみ保持されている請求項2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記表面層が少なくとも2層構造となっており、最上層の表面及びその近傍にのみ又は該最上層の全体にのみ前記薬剤が保持されており、且つ前記最上層に隣接する下層が親水性である請求項3記載の吸収性物品。
【請求項5】
皮膚に保護膜を形成する前記薬剤が、炭素数4〜22のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物からなる請求項1〜4の何れかに記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記フッ素系化合物が、フッ素系エーテル油剤又はフッ素系エステル油剤からなる請求項5記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−614(P2008−614A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206414(P2007−206414)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【分割の表示】特願2000−402512(P2000−402512)の分割
【原出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】