説明

吸収性物品

【課題】保湿効果を有するスキンケア物質を肌に供給できるものでありながら、液残りによる装着感の悪化や肌トラブルの発生を抑制しうる吸収性物品を提供する。
【解決手段】表面シート3の表面に幅1〜10mm、深さ1〜5mmのエンボス加工による凹部3cを有し、この凹部3c内の底部bに保湿剤としてホスホリルコリン基含有重合体が塗布され、凹部3cの上部近傍及び凹部3c外の部分に保湿剤が塗布されておらず、表面シート3が所定レベル以上の圧縮力で厚み方向に圧縮されたとき、凹部3cが潰れてその底部bが肌側に押し上げられ、表面シート3の厚み方向に加わる圧縮力が所定レベル未満のときには、凹部3cの底部bが肌側から遠い位置に保持されるように構成された吸収性物品1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌トラブルを抑制する吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、使い捨て紙おむつなどの吸収性物品は、一般に、ポリエチレンシート又はポリエチレンシートラミネート不織布などの不透液性シートと、不織布又は透液性プラスチックシートなどの透液性表面シートとの間に綿状パルプなどからなる吸収体を介在させた構造を有している。
この種の吸収性物品においても、近年は着用者の肌への優しさを求め、機能性物質、例えばスキンケア物質を表面シート等に添加したものが種々提案されている。例えば、長時間装着してもカブレを起こさないように油溶性ポリフェノールなどの油溶性皮膚収斂剤を用いるもの(特許文献1参照)や、おむつカブレを防止するために、吸収性基材にタンニン、没食子酸などのポリフェノールを保持させたもの(特許文献2参照)、カブレを防止するために、吸収性物品にpH調整剤を塗布したもの(特許文献3参照)、あるいは皮膚との刺激を少なくするためにローション組成物を含有させたもの(特許文献4参照)等が提案されている。
また、本発明者は、化学的或いは物理的刺激に対して敏感なアレルギー体質の人であっても肌トラブルを生じないように、肌接触シートにホスホリルコリン基含有重合体を塗布することを提案した(特許文献5)。ホスホリルコリン基含有重合体は、生体適合物質の一種であるとともに、保湿性、保護被膜形成能力、肌荒れ抑制効果を有するものであり、化学的或いは物理的刺激に対して敏感な人の場合であっても、カブレ、擦れ、肌荒れなどの肌トラブルを効果的に解消することができるため、吸収性物品の保湿剤として特に好ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−12490号公報
【特許文献2】特開平3−268751号公報
【特許文献3】特開平2−1265号公報
【特許文献4】特表2000−505682号公報
【特許文献5】特開2006−271652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、肌接触シートにホスホリルコリン基含有重合体を塗布すると、肌接触シートの親水性が向上し、排泄物の吸収時に肌接触シートに液残り(保水)が発生するということが、その後の研究開発過程で判明した。このような液残りがあると、湿り感やべとつき感が高くなり、装着感が悪化する。また肌接触シートにおける液残りは程度によっては肌トラブルの原因にもなる。
そこで本発明の課題は、保湿効果を有するスキンケア物質を肌に供給できるものでありながら、液残りによる装着感の悪化や肌トラブルの発生を抑制しうる吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりのものである。
<請求項1記載の発明>
肌に接触する肌接触シートの表面に幅1〜10mm、深さ1〜5mmのエンボス加工による凹部を有し、この凹部内の底部に保湿剤としてホスホリルコリン基含有重合体が塗布され、凹部の上部近傍及び凹部外の部分に前記保湿剤が塗布されておらず、
前記肌接触シートが所定レベル以上の圧縮力で厚み方向に圧縮されたとき、前記凹部が潰れてその底部が肌側に押し上げられ、前記肌接触シートの厚み方向に加わる圧縮力が所定レベル未満のときには、前記凹部の底部が肌側から遠い位置に保持されるように構成されている、
ことを特徴とする吸収性物品。
【0006】
(作用効果)
本発明では、肌接触シートの表面に幅1〜10mm、深さ1〜5mmの凹部が形成され、その凹部内の底部に保湿剤が塗布され、凹部の上部近傍及び凹部外の部分に保湿剤が塗布されておらず、装着者が座位をとるなどにより肌接触シートが所定レベル以上の圧縮力で厚み方向に圧縮されたとき、凹部が潰れてその底部が肌側に押し上げられ、凹部の底部が肌に接触することにより肌に保湿剤を供給する。装着者が立位でいる場合等、肌接触シートの厚み方向に加わる圧縮力が所定レベル未満のときには、凹部が全く又は殆ど潰れずにその底部が肌側から遠い位置に保持されて肌と接触しない。よって、保湿効果を有するスキンケア物質を肌に供給できるものでありながら、吸収時に親水性が高くなる保湿剤塗布部位は肌から遠い位置に保持され、従来のように肌接触部分の親水性は高くならない。しかも、肌接触シートのうち凹部の底部の親水性が相対的に高くなり、肌接触シートの液分が凹部の底部へ移行し易くなり、結果的に凹部の底部から肌接触シートの裏面側の部材に移行し易くなる。よって、単に肌接触シートに保湿剤を塗布しない場合と比べても、肌接触シートの液残りによる装着感の悪化防止効果及び肌トラブルの予防効果において遜色がない。
【0007】
<請求項2記載の発明>
前記肌接触シートは、目付け10〜100g/m2且つ厚み0.1〜10mmの不織布、フィルム、又は不織布とフィルムとのラミネートシートである、請求項1記載の吸収性物品。
【0008】
(作用効果)
肌接触シートの素材が本項記載の範囲内にあると、上記本発明の効果を発揮させる上で有利である。
【0009】
<請求項3記載の発明>
前記肌接触シートの凹部は開口面積が3〜400mm2であり、且つ前記肌接触シートの表面に0.1〜10mmの前後方向間隔及び0.1〜10mmの幅方向間隔で散点状に設けられている、請求項1又は2記載の吸収性物品。
【0010】
(作用効果)
本項記載のように、本項記載の寸法の凹部が散点状に設けられていると、肌の所定範囲に満遍なく保湿剤を供給できるため好ましい。
【0011】
<請求項4記載の発明>
前記肌接触シートの一部の領域に設けられた凹部の深さが、前記肌接触シートの他の領域に設けられた凹部の深さよりも深い、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【0012】
(作用効果)
本発明では、肌接触シート表面の部位に応じて凹凸の深さを、例えば身体表面の凹凸に対応させて変化させることができる。具体的には身体表面の凹部と対応する部分では肌接触シートの凹部の深さを浅くし、身体表面の凸部と対応する部分では肌接触シートの凹部の深さを深くするのが好ましい。これにより、本発明の凹部の潰れによる保湿剤供給作用を満遍なく発揮させることができる。
【0013】
<請求項5記載の発明>
透液性の表面シートと、裏面シートとの間に吸収体が介在されてなるものであり、
前記肌接触シートは前記表面シートであり、
前記吸収体における前記肌接触シート側の面に、前記肌接触シートのエンボス加工による凹部が収容される窪み部及び前記肌接触シートのエンボス加工による凹部の底部に当接する膨出部の少なくとも一方が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【0014】
(作用効果)
本項記載のように、吸収体の表面側を肌接触シートである表面シートで覆う構造は、多くの種類の吸収性物品において採用されているものである。本項記載の発明は、この構造を基本とし、吸収体における前記肌接触シート側の面に、肌接触シートの凹部が収容される窪み部及び肌接触シートの凹部の底部に当接する膨出部の少なくとも一方を設けるものである。この場合、吸収体の剛性が高いため、窪み部により肌接触シートの凹部が潰れ難くなり、膨出部により肌接触シートの凹部が潰れ易くなる。よって、例えば吸収体において身体表面の凹部と対応する部分には膨出部を設け、身体表面の凸部と対応する部分には窪み部を設けるのが好ましい。これにより、本発明の凹部の潰れ作用を満遍なく発揮させることができる。
【0015】
<請求項6記載の発明>
前記ホスホリルコリン基含有重合体の、前記塗布部分における単位面積あたりの含有量が固形分換算で0.021g/m2以上とされている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【0016】
(作用効果)
ホスホリルコリン基含有重合体の含有量が本項記載の範囲であれば十分な効果が発揮される。本発明では、ホスホリルコリン基含有重合体の塗布量を増加させても、従来のような液残りは発生し難いため、従来よりも塗布量を増加させることができ、例えば0.35g/m2以上とすることもできる。
【0017】
<請求項7記載の発明>
前記吸収性物品は、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、又は使い捨て紙おむつである請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【0018】
(作用効果)
本発明は、これらの吸収性物品に特に好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり本発明によれば、保湿効果を有するスキンケア物質を肌に供給できるものでありながら、液残りによる装着感の悪化や肌トラブルの発生を抑制しうるようになる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】生理用ナプキンの一部破断斜視図である。
【図2】生理用ナプキンの他例を示す平面図である。
【図3】使い捨ておむつの一部破断斜視図である。
【図4】要部拡大断面図である。
【図5】製造方法を示す概略図である。
【図6】製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、使い捨て紙おむつ等の吸収性物品に用いられるものである。図1は薄型生理用ナプキン1の一部破断斜視図である。この生理用ナプキン1は、不透液性裏面シート2と、透液性表面シート3(以下、単に表面シートという。)との間に、吸収体4または同図に示されるように、クレープ紙5によって囲繞された吸収体4が介在されるとともに、表面シート3と吸収体4との間に親水性の中間シート(セカンドシート)6を配置した構造となっている。吸収体4の周囲においては、不透液性裏面シート2と表面シート3とがホットメルト接着剤等の接着手段によって接合されている。
【0022】
不透液性裏面シート2は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他に防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した上で不織布シート(この場合には、防水フィルムと不織布とで不透液性裏面シートを構成する。)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが好適に用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。
【0023】
吸収体4としては、たとえばパルプ中に高吸水性樹脂を混入したもの、或いはパルプ中に化学繊維を混入させるとともに、高吸水性樹脂を混入したものが使用される。吸収体4は、図示のように、形状保持、および経血等を速やかに拡散させるとともに、一旦吸収した経血等の逆戻りを防止するためにクレープ紙等の吸収シート5によって包むのが望ましい。パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶融パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。
【0024】
高吸水性樹脂としては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。吸水性能を有する高吸水性樹脂は製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸水力と吸水速度の調整が可能である。
【0025】
吸収体4におけるパルプ目付けは50〜600g/m2程度、厚みは1〜50mm程度であるのが望ましい。また、高吸水性樹脂の目付けは1〜600g/m2程度であるのが望ましい。高吸水性樹脂含有率が少な過ぎると、十分な吸収能を与えることができず、多過ぎるとパルプ繊維間の絡み合いが無くなり、ヨレや割れ等が発生し易くなる。
【0026】
表面シート3は、有孔又は無孔の不織布や多孔性プラスチックフィルムシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ、エアスルー法、ポイントボンド法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。又、プラスチックフィルムシートとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル、ナイロン等のポリアミド系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などを好適に使用することができる。
【0027】
特徴的には、表面シート3は、図3に示すように、表面に幅(径)1〜10mm、深さ1〜5mmの凹部3cを有し、この凹部3c内の底部bに保湿剤が塗布され、凹部3cの上部近傍及び凹部3c外の部分に保湿剤が塗布されていないものである。凹部3cの底部b近傍には保湿剤が塗布されていなくても、また塗布されていても良い。凹部3cは、図示形態のように、裏面側に凸部として突出するものが好ましいが、裏面側に突出しなくても良い。
【0028】
このような表面シート3を備えていると、装着者が座位をとるなどにより表面シート3が所定レベル以上の圧縮力で厚み方向に圧縮されたときには、凹部3cが潰れてその底部bが肌側に押し上げられ、凹部3cの底部bが肌に接触することにより肌に保湿剤が転写される。図示形態の場合、凹部3cの潰れは、凹部3cの裏面側突出部分(凸部)が潰れることと同じである。一方、装着者が立位でいる場合等、表面シート3の厚み方向に加わる圧縮力が所定レベル未満のときには、凹部3cが全く又は殆ど潰れずにその底部bが肌から遠い位置に保持されて肌と接触しない。よって、保湿剤を肌に供給できるものでありながら、吸収時に親水性が高くなる保湿剤塗布部位は肌から遠い位置に保持され、従来のように肌接触部分の親水性は高くならない。しかも、表面シート3のうち凹部3cの底部bにおける親水性が相対的に高くなり、表面シート3の液分が凹部3cの底部bへ移行し易くなり、結果的に凹部3cの底部bから表面シート3の裏面側の部材(図示形態では中間シート6、吸収体4)に移行し易くなる。
【0029】
表面シート3に用いる素材としては、目付け10〜100g/m2且つ厚み0.1〜10mm程度の不織布、フィルム、又は不織布とフィルムとのラミネートシートが好ましい。この範囲を外れると表面シート3の圧縮復元性が低くなり、凹部3cが十分に潰れない又は凹部3cが潰れた後に復元しないおそれがある。
【0030】
凹部3cとしては、円形、多角形等の所定形状のものが散点状に設けられているのが好ましく、この場合、凹部3cの開口面積が3〜400mm2であり、且つ0.1〜10mmの前後方向間隔d2及び0.1〜10mmの幅方向間隔d1で設けられているのが好ましい。また、溝状の凹部を縞状又は格子状に設けるのも好ましい形態であり、この場合にも、各溝状部分は0.1〜10mmの前後方向間隔及び/又は0.1〜10mmの幅方向間隔で設けられているのが好ましい。凹部3cは、表面シート3の一部の領域にのみ設けられていても良い。
【0031】
表面シート3に加わる厚み方向の圧縮の程度は、接触する身体表面の部位によって異なるものである。よって、表面シート3の部位に応じて凹凸の深さを変え、身体表面の凹所と対応する部分では表面シート3の凹部3cの深さを浅くし、身体表面の凹所と対応する部分では表面シート3の凹部3cの深さを深くするのが好ましい。例えば女性用の場合、排尿口、排血口、排便口と対応する部分では、それ以外の部分よりも表面シート3の凹部3cを浅くし、男性用の場合には排尿口の部分では凹部をより深くし、排便口と対応する部分では表面シート3の凹部3cをより浅くすると、凹部3cの潰れによる保湿剤供給作用を満遍なく発揮させることができる。
【0032】
また、同様の目的で、後述する図2及び図3に示すように、吸収体4における表面シート3側の面に、表面シート3の凹部3cが収容される窪み部4c及び表面シート3の凹部の底部に当接する膨出部4bの少なくとも一方を設けるのも好ましい形態である。一つの窪み部4cが収容する凹部3cの数及び一つの膨出部4bが当接する凹部3cの数は複数であっても一つであっても良い。このような窪み部4c及び膨出部4bが設けられていると、吸収体4の剛性が相対的に高いため、窪み部4cに収まる凹部3cは潰れ難くなり、膨出部4b上の凹部3cは潰れ易くなる。よって、例えば女性用の場合、吸収体4における排尿口、排血口、排便口と対応する部分には膨出部4bを設け、男性用の場合には吸収体4における排尿口の部分には窪み部4cを設け、排便口と対応する部分には膨出部4bを設けると、凹部の潰れによる保湿剤供給作用を満遍なく発揮させることができる。なお、このような吸収体4の窪み部4c及び膨出部4bは、吸収体4をパルプの積繊体とする場合には積繊時の成形形状を変更するだけで容易に製造できるため、好ましいものである。
【0033】
表面シート3と吸収体4との間に配置される中間シート6は、体液に対して親水性を有するものが好適である。具体的には、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることにより素材自体に親水性を有するものを用いるか、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を親水化剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることができる。ただし、親水性は表面シート3の凸部が最も高く、次いで表面シート3の凹部、中間シート6の順に低くなるのが好ましい。中間シート6は、ホットメルト接着剤や超音波シール、ヒートシール、ヒートエンボス等により表面シート3に接合することができる。
【0034】
本発明の保湿剤としては、ホスホリルコリン基含有重合体が用いられる。ホスホリルコリン基含有重合体は、一分子中に生体膜の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性を有するメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリン(MPC)の重合体(以下、MPCポリマーという。)である。MPCポリマーを皮膚に付着させることによって優れた保湿効果を与えることができ、さらにMPCポリマーが皮膚表面に水和被膜を形成することにより、擦れなどの物理的刺激及び体液などにより化学的刺激をブロックすることができ、カブレやかゆみ、擦れ、肌荒れ等の肌トラブルを効果的に防止することができる。特に、このMPCポリマーは、生体適合性が高いため、アレルギー体質の人であっても同様の効果が望めるようになる。MPCポリマーの塗布部分における単位面積あたりの含有量は、固形分換算で0.021g/m2以上であるのが望ましい。塗布量が少な過ぎると皮膚刺激抑制効果が期待できない。MPCポリマーの塗布量は多いほど好ましいが、費用対効果の観点からは1.0g/m2以下、特に0.5g/m2以下とするのが好ましい。
【0035】
他方、表面シート3の製造方法としては次のような方法が提案される。すなわち、第1の方法は、図5に示すように、外周面に所定パターンの凹凸を有するエンボスロール(凹凸ロールに相当)10と、このエンボスロール10の外周面に当接され、エンボスロール10外周面の凹凸へ押圧される外周面を有するエンボス受けロール(対向ロールに相当)11と、エンボスロール10の外周面に当接される平滑な外周面を有する転写ロール12と、この転写ロール12の外周面に保湿剤を供給する保湿剤供給手段13(図示形態では転写ロールの下部が浸漬される保湿剤液14の貯留部)とを用いるものである。エンボス受けロール11としては、外周面に凹凸を有しないゴムロールや、エンボスロール10の凹凸に嵌合する凹凸を外周面に有するロールを用いることができる。
【0036】
シート素材20はエンボスロール10とエンボス受けロール11との間に挟まれ、エンボスロール10外周面の凹凸により型押しされた後、当該型押し時のシート素材とエンボスロール外周面の凹凸とのフィット状態を維持したまま、エンボスロール10と転写ロール12との間に挟まれ、シート素材20のうちエンボスロール10外周面の凸部と重なる部分のみが転写ロール12の外周面と当接され、保湿剤供給手段13により転写ロール12の外周面に供給された保湿剤がシート素材20のうちエンボスロール10外周面の凸部と重なる部分のみに塗布される。かくして、エンボス加工による凹部の底部のみに保湿剤を塗布したシートを得ることができる。
【0037】
なお、型押し時のシート素材20とエンボスロール10のフィット状態を維持するために、シート素材20のテンションのみでは不十分な場合等、必要に応じて、エンボスロール10の外周面に吸気孔を多数設け、エンボスロール10内部からの吸引によりシート素材20のフィット状態を維持することもできる。また、エンボス受けロール11として、エンボスロール10の凹凸に嵌合する凹凸を外周面に有するロールを用いる場合、このエンボス受けロール11を凹凸ロールとして転写ロール12を当接させ、エンボス受けロール11と転写ロール12との間に型押し後のシート素材を挟み、保湿剤を転写するようにしても良い(図示略)。さらに、転写ロール12としては、次述の第2の方法と同様に、エンボスロール10と対応する所定パターンの凹凸を有するものを用いることもできる。
【0038】
第2の方法は、図6に示すように、外周面に所定パターンの凹凸を有するエンボスロール(凹凸ロールに相当)10と、このエンボスロール10の外周面に当接され、エンボスロール10外周面の凹凸へ押圧される表面を有するエンボス受けロール(対向ロールに相当)11と、エンボスロール10と対応する所定パターンの凹凸を有する転写ロール15と、この転写ロール15の外周面に保湿剤を供給する保湿剤供給手段13(第1の方法と同様)とを用いるものである。
【0039】
シート素材20はエンボスロール10とエンボス受けロール15との間に挟まれ、エンボスロール20外周面の凹凸により型押しされた後、シート素材20の凹凸が転写ロール15外周面の凹凸と一致するように転写ロール15に当接され、保湿剤供給手段13により転写ロール15外周面の凸部に供給された保湿剤のみがシート素材20に塗布される。かくして、エンボス加工による凹部の底部のみに保湿剤を塗布したシートを得ることができる。なお、本第2の方法からも判るとおり、エンボス工程と保湿剤塗布工程とを2工程に分けることができる。
【0040】
(その他)
上記例では、肌との当接面が表面シート3のみである生理用ナプキンについて説明したが、図2に示されるように、表面側両側に、サイド不織布9,9を有するとともに、このサイド不織布によって立体ギャザー7,7が形成されている生理用ナプキン1Aの場合には、表面シート3の裏面側に上記例と同様の保湿剤保持シート6を介在させる他、立体ギャザー7,7及び/又はサイド不織布9,9の裏面側に上記例と同様の保湿剤保持シート6を介在させてもよい。つまり、このような立体ギャザー7,7及びサイド不織布9,9は、表面シート3と異なり、裏面側に吸収体4を有しないものであるが、肌に接触するものであり、本発明の肌接触シートに含まれるものである。これら立体ギャザー7,7及びサイド不織布9,9においても、場合によっては排泄物の液分が浸透する部分となるため、本発明を適用することに技術的意義があるものである。
【0041】
また、上記例では、肌との当接面が表面シート3のみである生理用ナプキンについて説明したが、図2に示されるように、表面側両側に、サイド不織布9,9を有するとともに、このサイド不織布によって立体ギャザー7,7が形成されている生理用ナプキン1Aの場合には、表面シート3に凹凸を設けて上記例と同様に保湿剤を塗布する他、立体ギャザー7,7及び/又はサイド不織布9,9に凹凸を設けて上記例と同様に保湿剤を塗布してもよい。つまり、このような立体ギャザー7,7及びサイド不織布9,9は、表面シート3と異なり、裏面側に吸収体を有しないものであるが、肌に接触するものであり、本発明の肌接触シートに含まれるものである。これら立体ギャザー7,7及びサイド不織布9,9においても、場合によっては排泄物の液分が浸透する部分となるため、本発明を適用することに技術的意義があるものである。
【0042】
また、上記例では、生理用ナプキンを例にとり本発明を適用した場合について述べたが、図3に示されるように、使い捨て紙おむつ1Bに対しても全く同様に適用することが可能である。よって、同図中に同じ符号を付して説明は省略する。さらに図示しないが、本発明は、パンティライナーや失禁パッド等、他の吸収性物品にも適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1…生理用ナプキン、2…不透液性裏面シート、3…透液性表面シート、4…吸収体、5…クレープ紙、6…セカンドシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌に接触する肌接触シートの表面に幅1〜10mm、深さ1〜5mmのエンボス加工による凹部を有し、この凹部内の底部に保湿剤としてホスホリルコリン基含有重合体が塗布され、凹部の上部近傍及び凹部外の部分に前記保湿剤が塗布されておらず、
前記肌接触シートが所定レベル以上の圧縮力で厚み方向に圧縮されたとき、前記凹部が潰れてその底部が肌側に押し上げられ、前記肌接触シートの厚み方向に加わる圧縮力が所定レベル未満のときには、前記凹部の底部が肌側から遠い位置に保持されるように構成されている、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記肌接触シートは、目付け10〜100g/m2且つ厚み0.1〜10mmの不織布、フィルム、又は不織布とフィルムとのラミネートシートである、請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記肌接触シートの凹部は開口面積が3〜400mm2であり、且つ前記肌接触シートの表面に0.1〜10mmの前後方向間隔及び0.1〜10mmの幅方向間隔で散点状に設けられている、請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記肌接触シートの一部の領域に設けられた凹部の深さが、前記肌接触シートの他の領域に設けられた凹部の深さよりも深い、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
透液性の表面シートと、裏面シートとの間に吸収体が介在されてなるものであり、
前記肌接触シートは前記表面シートであり、
前記吸収体における前記肌接触シート側の面に、前記肌接触シートのエンボス加工による凹部が収容される窪み部及び前記肌接触シートのエンボス加工による凹部の底部に当接する膨出部の少なくとも一方が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記ホスホリルコリン基含有重合体の、前記塗布部分における単位面積あたりの含有量が固形分換算で0.021g/m2以上とされている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記吸収性物品は、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、又は使い捨て紙おむつである請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106040(P2012−106040A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−41324(P2012−41324)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【分割の表示】特願2007−169631(P2007−169631)の分割
【原出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】