説明

吸引濾過方法及び装置

【課題】高効率な濾過処理を行う。
【解決手段】濾過フィルタ3を用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物6を固体と液体とに分離する吸引濾過方法において、前記混合物6の反吸引側の表面を、フレキシブルで気密性のあるシート7により覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば酸化チタン粒子を製造する際の洗浄濾過工程等に用いられる吸引濾過方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタンがもつ光触媒作用が防臭、抗菌、防汚等のさまざまな環境浄化作用に利用され、注目を集めている。光触媒用途の酸化チタンは、一次粒子の平均粒子径が20〜30nmという非常に微細な粒子であるため、これを溶剤に分散させて作製した分散液の塗布、乾燥により膜状にされて使用されることが多い。光触媒用途の酸化チタンは、一般に紫外線の照射により光触媒作用を発現する。このため、屋内で使用する場合は紫外線ランプが必要になる。この制約を取り除くために、可視光応答型の酸化チタン光触媒が開発されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−322002号公報
【0004】
可視光応答型酸化チタン光触媒は、例えば次のようにして製造される。原料である四塩化チタンは四塩化チタン濃度により性質が変化し、Ti分濃度が9重量%未満では酸化チタンを粒子状に析出し、9〜17重量%の間で透明な水溶液となり、17重量%超ではゲル化する特性を示す。この特性のため、酸化チタンの製造においては、Ti分が9〜17重量%の四塩化チタン水溶液が原料として使用される。この四塩化チタン水溶液は塩酸を含むため、アンモニア水溶液にて中和処理することにより、酸化チタンを生成する。得られた微細粉末を洗浄濾過し、乾燥後に解砕する。こうして得られた酸化チタンの微細粉末を加熱雰囲気で四塩化チタンと水素の混合ガスなどと反応させて可視光化し、その後、再度洗浄濾過、乾燥、熱処理、解砕を行う。同様の製造方法は前記特許文献1にも記載されている。
【0005】
このような可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造においては、四塩化チタン水溶液から製造された酸化チタン粉末が、2度の洗浄濾過処理を受ける。これらの洗浄濾過処理では通常、吸引濾過法が使用される。吸引濾過法は真空濾過法とも呼ばれ、濾過対象物である固体と液体の混合物を、濾過フィルタである濾紙を底に保持した濾過容器内に収容し、その濾過容器内を真空ポンプにて下方へ吸引することにより、濾過容器内の液体を固体から分離除去する(特許文献2)。
【0006】
【特許文献2】特公平7−32845号公報
【0007】
吸引濾過法は、濾過のための圧力が対象物に均一に付加され、圧縮濾過法で問題となる過大圧力の局部付加等が生じない。また本来的に高効率な液体分離法である。ところが、前述した可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造における洗浄濾過工程、特に1回目の洗浄濾過工程では、その優れた濾過機能を十分に発揮できない問題がある。
【0008】
すなわち、2回目の洗浄濾過工程では、加熱により酸化チタンの一次粒子が凝集して粒径が大きい二次粒子に変化しているのに対し、1回目の洗浄濾過工程では、酸化チタン粉末が粒径の小さい1次粒子のままである。このような微細粉末粒子と液体の混合物に対して吸引濾過を行うと、濾過容器内の濾過対象物から水分が十分に除去される前に、その対象物に表面から底面に達する亀裂がしばしば生じる。
【0009】
具体的に説明すると、濾過容器内の濾過対象物は当初、沈降分離により、上の液体層と下のスラリー層とに分かれており、吸引開始と共に先ず液体層が消失する。この段階ではスラリー層はケーキ状になっている。容器内の液体層がなくなり、ケーキ状の対象物に吸引濾過を行うと、その体積減少に伴って表面から底面に達する貫通亀裂が発生する(図2参照)。濾過容器内のケーキ状対象物にこのような貫通亀裂が発生すると、濾過容器内の空気が対象物を素通りして下に引かれ、対象物からの水分除去効率が著しく低下する。また、たとえ長時間の濾過を行っても、それ以上の液体分離が困難であるために、固体の液体含有率を十分に下げることができない。このため、後工程である乾燥工程に長時間を要することが問題となる。また、ケーキ状物質中の残留液が多くなるために、光触媒の性能に悪影響を及ぼすことも危惧される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、吸引濾過の途中で対象物に発生する亀裂に起因する濾過効率の低下を簡単に防止し、もって濾過効率の大幅改善を可能にする吸引濾過方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するために、本発明者は酸化チタン光触媒の製造工程で問題となる洗浄濾過でのケーキ状物質に亀裂が発生する原因について詳細に検討した。その結果、次の事実が判明した。濾過容器内の混合物は、前述したとおり、当初は沈降分離により、上の液体層と下のスラリー層とに分かれており、吸引開始と共に先ず液体層が消失する。液体層が消失するまでは、下のスラリー層における空気通過はない。液体層が消失すると、減圧吸引によってスラリー層の液体含有率が下がってケーキ状になり、ある程度まで液体含有率が低下した時点でケーキ状物質の所々に貫通亀裂が発生し、そこから空気がリークし始める。そのため、貫通亀裂が発生した後はケーキ状物質に対する吸引効果が大幅に低下し、それ以上に液体含有率の低下が進まなくなる。
【0012】
濾過容器内の濾過対象物に、落とし蓋の如く気密性の蓋を被せ、スラリー層への空気侵入を阻止することは、一つの亀裂防止策と考えられる。しかし、その蓋は対象物の堆積減少に伴って容器内を下降する必要がある。また、容器内面との間を気密にシールする必要がある。これらのため、その蓋は、それ自体が気密性を有するだけでなく、容器内面との間の気密性を維持しつつ、濾過容器内を自由に昇降する、シリンダー内のピストンのようなものでなければないない。しかし、そのようなシリンダー構造は、設備を複雑で大がかりなものとし、経済性を悪化させる。また仮に、そのようなシリンダー構造の容器・気密蓋を開発したとしても、吸引に伴って対象物が、剛性のある蓋で上から押圧され、局部的に強く押圧されるなどの問題が生じる。
【0013】
このような状況下で、本発明者は、一つの試みとして、サランラップ(商品名)のような気密性のある薄い樹脂フィルムで濾過容器内の対象物の表面を覆った。その結果、そのフィルムは、大気圧により、水分層が無くなった後のスラリー層の表面全体に、表面形状に沿って完全密着し、容器内面との間のシールを考えずとも、スラリー層への空気侵入が防止され、フィルムから押圧力を受けることにより、水分除去に伴う体積減少(塑性変形)が順調に進み、亀裂の発生が防止されることが判明した。また、対象物がフィルムを介して大気圧で押圧されることにより圧縮濾過の機能が得られること、剛性体で対象物を圧縮するときに問題となる不均一加圧の問題が発生しないことなども合わせて明らかになった。
【0014】
本発明の吸引濾過方法は、かかる知見を基礎として開発されたものであり、濾過フィルタを用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する吸引濾過方法において、前記混合物の反吸引側の表面を、フレキシブルで気密性のあるシートにより覆うものである。
【0015】
また、本発明の吸引濾過装置は、濾過フィルタを用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する吸引濾過装置であって、固体と液体の混合物を濾過フィルタ上に収容する濾過容器と、濾過容器内の濾過フィルタより下の空間を吸引する排気ポンプと、前記混合物の反吸引側の表面を覆うフレキシブルで気密性のあるシートとを具備している。
【0016】
本発明の吸引濾過方法及び装置においては、濾過対象物である混合物の表面を、気密性のあるフレキシブルシートにより覆う。そのシートは吸引濾過に伴って混合物の表面に大気圧で押し付けられる。シートはフレキシブルであるために、混合物の表面形状の変化に追随して全面的に密着し、混合物を押圧する。その結果、塑性変形が進み、亀裂の発生が防止される。また仮に、混合物に表面から裏面にかけて貫通する亀裂が生じた場合にあっても、吸引による負圧がフレキシブルシートに直接加わり、混合物に対するシートの密着性が更に向上する。このため、仮にシートの外縁部がシールされていなくても、そのシートによって亀裂が閉じられ、水分除去が順調に継続される。その結果、塑性変形が更に進み、生じた貫通亀裂が修復される可能性もある。容器内面、好ましくは容器の開口縁部まで含めて混合物をシートで覆うならば、更に効率的な水分除去が行われる。
【0017】
フレキシブルシートは、水分除去に伴って混合物の表面が下がっても、これに追従する。また、大気圧で混合物を押圧し、一種の圧縮濾過機能を発揮するが、剛性体でないため、通常の圧縮濾過で問題となる、混合物を局部的に強く押圧するといった問題を生じない。
【0018】
このフレキシブルシートは、気密性が確保される限り、薄い方が好ましい。フレキシブル性が高いからである。しかし、余りに薄いと、吸引に伴って破損するおそれがある。また、取り扱いが難しくなる。したがって、破損しない範囲内で出来るだけ薄いものを、吸引圧力に応じて選択することが望まれる。
【0019】
代表的なフレキシブルシートは、食品包装等に使用されラップと呼ばれる薄い樹脂フィルムである。この樹脂フィルムは、厚さが10μm程度で、ガス透過度が低く、なかでもサランラップ(商品名)として販売されているポリ塩化ビニリデンフィルムのガス透過度が低い。他のラップ、例えばポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルムは、ポリ塩化ビニリデンフィルムに比べるとガス透過度が高いが、吸引濾過に使用して問題になるほどではない。いずれのラップ類も、前述した酸化チタン光触媒の製造工程での1回目の洗浄濾過に使用して何ら問題のないことを発明者は確認している。
【0020】
他のフレキシブルシートとしては、ゴムシートなどの柔軟性の高い樹脂シートを挙げることができる。樹脂シートは厚みが大きいが、厚みが大きくても柔軟性(フレキシブル度)が高く、機械的強度も高いため、吸引圧力が大きい吸引濾過に適する。前述した酸化チタン光触媒の製造工程での1回目の洗浄濾過にゴムシートを使用した場合は、柔軟性(フレキシブル度)が低く、混合物の表面に対する密着性が十分でないため、吸引ガスの漏れを生じるおそれがある。ケーキ状物質の表面粗さや粒子の大きさ、吸引圧力などを考慮して、使用するフレキシブルシートの種類を選択することが重要である。ちなみに吸引圧力は液体回収タンクを併用するためにその液体の蒸気圧以下の真空度にはならない。したがって、排気ポンプとしてもそれ以上の能力を有する必要はなく、水封式真空ポンプが適当である。水の蒸気圧は25℃で23.8mmHg(=0.031atm)である。
【0021】
吸引濾過の対象物は、前述した酸化チタン光触媒の製造工程での生成物に限定するものではなく、特にその種類を問うものではない。
【0022】
本発明の吸引濾過方法及び装置はバッチ方式だけでなく連続式とすることも可能である。連続式の典型的な吸引濾過装置は、回転方向に区画配列された複数の吸引室を内部に有し、各吸引室が外周側に連通すると共に、外周面に装着された濾過フィルタ上に固体と液体の混合物を付着させて回転する吸引ドラムと、吸引ドラム内の複数の吸引室を吸引排気する排気ポンプと、吸引ドラム外側の所定区間において、ドラム外周面に付着する混合物に接触するように外周面に沿って配設され、吸引ドラムの回転に追従して移動するフレキシブルで気密性のあるシートとを具備する装置であり、シートは定位置で周回するようにドラム外周面に沿って張設された無端ベルトが好ましい。
【0023】
この連続式濾過装置においては、吸引ドラム内に設けられた複数の吸引室が吸引排気されることにより、ドラム表面の濾過フィルタ上に付着する混合物中の液体がドラム内に吸引され分離される。濾過フィルタ上の混合物がシート配設位置を通過するとき、その混合物に、フレキシブルで気密性のあるシートが密着する。これにより、前述した亀裂防止が可能な効率的な水分除去が行われる。その結果、密着シートを併用した効率的な水分除去が連続的に行われる。
【0024】
吸引ドラム内の複数の吸引室は、選択的に吸引排気される構成が好ましい。この構成により、より効率的な濾過操作が可能になる。吸引ドラム外周面の濾過フィルタ上に混合物を供給する手段としては、固体と液体の混合物が収容され、吸引ドラムの回転に伴って前記混合物がドラム表面の濾過フィルタ上に付着するようにドラム下部が浸漬される混合物容器を用いるのが好ましい。この場合、シート配設位置において液体を除去された固体分を濾過フィルタ上から分離除去するために、シート配設位置の回転方向下流側にスクレーパ等の除去手段を設けるのが好ましい。これらにより、より効率的な連続濾過が行われる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の吸引濾過方法及び装置は、吸引濾過により固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する際に、前記混合物の反吸引側の表面を、気密性のあるフレキシブルシートで覆うことにより、吸引濾過の途中で混合物に貫通亀裂が生じるのを防止し、その亀裂を介した吸引効率の低下を阻止する。これにより、濾過の全期間を通して同じ効率で濾過処理を継続でき、濾過効率の大幅改善を図ることができる。また、大気圧がフレキシブルシートを介して対象物に付加されることにより、圧縮濾過の機能も発揮し、この点からも濾過効率の向上を図ることができる。そして何よりも、設備改造等が一切不要で、実施が極めて容易であり、実施に伴う経済性の悪化、作業効率の悪化を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1(a)(b)は本発明の吸引濾過方法の説明図である。
【0027】
本実施形態の吸引濾過方法は、可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造工程における1回目の洗浄濾過処理に使用される。すなわち、可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造では、まずTi分が9〜17重量%の四塩化チタン水溶液とアンモニア水溶液が反応容器内で攪拌されることにより、酸化チタンの微粉末が生成される。酸化チタンの微粉末を含む液体は、次の洗浄濾過工程で酸化チタンと液体に分離される。
【0028】
この洗浄濾過に使用される吸引濾過装置は、図1に示すように、下端部がロート状に絞られた濾過容器1と、濾過容器1の下方に気密に連結された液体回収タンク2とを備えている。濾過容器1は絞り部の上端部(直胴部の下端部)に、濾過フィルタ3を支持する支持部材4を有している。支持部材4は通液を阻害しない構造である。液体回収タンク2は気密タンクであり、内部を真空排気するために、上部から側方に延出する連結管5を介して、図示されない水封式真空ポンプと接続されている。
【0029】
洗浄濾過処理では、まず、濾過容器1の底部に厚い濾紙からなる濾過フィルタ3をセットする。次いで、その濾過容器1内に、処理対象物6である固体と液体の混合物を投入する。更に、濾過容器1の開口部をフレキシブルシート7で覆う。
【0030】
処理対象物6は、ここでは四塩化チタン水溶液をアンモニア水溶液で中和処理することにより生成された酸化チタンの微粉末を含む液体であり、より詳しくは、その液体から上澄み液を除去したものである。濾過容器1内に処理対象物6を投入すると、図1(a)に示すように、沈降分離により、スラリー層6aの上に液体層6bが形成される。
【0031】
液体回収タンク2内を真空排気すると、濾過容器1内の処理対象物6中の液体のみが濾過フィルタ3を通して液体回収タンク2内に流入する。すなわち、処理対象物6中の液体の分離除去が始まり、分離液9が液体回収タンク2内に溜まる。
【0032】
液体層6bが消失するまでは、処理対象物6の上面が水封されているので、スラリー層6a中の水分及び液体層6bが下方の液体タンク2内に効率よく吸い込まれる。吸引濾過が進み、上部の液体層6bが消失すると、図1(b)に示すように、濾過容器1内の処理対象物6は、酸化チタンの微粉末と液体が完全に混合したケーキ状物質のみとなる。また、フレキシブルシート7は、濾過容器1内の処理対象物6の表面全体に密着すると共に、処理対象物6より上の容器内面から開口縁部にかけての部分に密着する。これにより、処理対象物6の上面が容器内面との間を含めて完全にシールされる。
【0033】
フレキシブルシート7なしで吸引濾過を続けると、図2に示すように、ケーキ状の対象物6に表面から裏面に達する吸引方向の貫通亀裂8が発生することは、前述したとおりである。そこで、本実施形態では、ケーキ状の処理対象物6の表面全体を気密性のあるフレキシブルシート7で覆う。フレキシブルシート7は食品包装等に使用される薄い樹脂フィルム(ラップ)であり、吸引濾過により大気圧で対象物6の表面に押し付けられ密着する。その結果、対象物6への空気侵入がなくなり、処理対象物6はフレキシブルシート7を介して大気圧で押圧され、塑性変形する。このため、図2に示す従来法で問題となった貫通亀裂8の発生は防止される。その結果、貫通亀裂8の発生に伴う濾過効率の低下が防止される。
【0034】
吸引濾過を更に続けると、ケーキ状の対象物6からの水分除去が更に進み、体積が減少する。この過程で仮に、表面から裏面に達する吸引方向の貫通亀裂8が発生したとしても、対象物6の表面に密着するフレキシブルシート7によって亀裂8が閉じられているため、亀裂8を通した空引きは発生しない。このため、亀裂8が発生した後も、亀裂8が発生する前と同じ効率が吸引濾過が続けられる。また、対象物6の塑性変形により亀裂8が修復されることもある。これらのため、濾過時間の大幅短縮、最終的な水分除去率の向上が可能となる。
【0035】
図3は本発明の別の実施形態を示す吸引濾過装置の構成図である。
【0036】
本実施形態の吸引濾過装置は、水平な回転軸を有する横型の吸引ドラム10と、吸引ドラム10の外周面全体に装着された濾過フィルタ20と、濾過フィルタ20に当接するフレキシブルシート30と、濾過処理対象物である固体と液体の混合物を収容する混合物容器40とを備えている。
【0037】
吸引ドラム10は、図示されない駆動機構により矢示方向に回転駆動される。この吸引ドラム10は、水平な外筒部11と軸芯部12との間に、回転方向(周方向)に等間隔で区画配列された複数の吸引室13を有している。隣接する吸引室13,13は半径方向の隔壁15により気密に仕切られている。
【0038】
個々の吸引室13の内部は、外筒部11を半径方向に貫通する複数の吸引孔14によりドラム外と連通する一方、中心の軸芯部12に設けられた吸引孔及び図示されない切換え弁機構等を介して、同じく図示されない外部の水封式真空ポンプと接続されている。切換え弁機構により、複数の吸引室13は選択的に吸引排気される。
【0039】
吸引ドラム10の下部は、混合液容器40内の処理対象物50に浸漬されている。この状態で、吸引ドラム10が回転することにより、濾過フィルタ20の外面に対象物50が層状に付着し、容器40内から引上げられる。
【0040】
フレキシブルシート30は、ここではフレキシブルなゴムシートからなる無端ベルトであり、容器40内の対象物50から露出した吸引ドラム上部の外周面に沿って張設されており、より詳しくは、吸引ドラム10の真上部近傍から回転方向上流側にかけての部分において、吸引ドラム10の外周面に沿って湾曲するように複数のローラ31に掛け渡されている。これにより、無端ベルト状のフレキシブルシート30は、容器40内の対象物50より上方において、濾過フィルタ20の表面に層状に付着した対象物50に所定長にわたって当接することになる。
【0041】
フレキシブルシート30の回転方向下流側には、濾過フィルタ20の表面に層状に付着した対象物50を濾過フィルタ20上から強制分離する除去手段60が設けられている。除去手段60は、濾過フィルタ20の表面に層状に付着した対象物50が再度容器40内の対象物50に浸漬する前に濾過フィルタ20から掻き落とすスクレーパである。
【0042】
本実施形態の吸引濾過装置を使用して、容器40内の処理対象物50を濾過処理するには、吸引ドラム10内の複数の吸引室13を選択的に吸引しながら、吸引ドラム10を回転させる。特定の吸引室13に着目するならば、その吸引室13の外周面が無端ベルト状のフレキシブルシート30の下を通過するときにのみ、その吸引室13内が所定圧で吸引排気される。これを全ての吸引室13に対して順番に行う。
【0043】
このような吸引操作を行いながら、吸引ドラム10を回転させることにより、容器40内の対象物50が連続的に濾過処理される。
【0044】
すなわち、吸引ドラム10の回転により、その外周面に装着された濾過フィルタ20が順次容器40内の対象物50に浸漬し、その濾過フィルタ20の表面に対象物50が層状に付着する。濾過フィルタ20が容器40内の対象物50に浸漬する間も、対応する吸引室13を軽度に吸引するならば、濾過フィルタ20への対象物50の付着を促進することができる。
【0045】
濾過フィルタ20の外周面に層状に付着して容器40内から進出した対象物50は、無端状のフレキシブルシート30のところを通過する。このとき、無端状のフレキシブルシート30は、内側の層状の対象物50に接しつつ吸引ドラム10と同期して周回する。また、内側の吸引室13は所定圧で吸引されている。これにより、フレキシブルシート30は、内側を通過する層状の対象物50の表面に吸引密着し、層状の対象物50からの水分除去を促進する。この機能は、図1で示した装置と同じである。
【0046】
フレキシブルシート30のところを通過する間に十分に水分を除去された層状の対象物50は、容器40内の対象物50に再度浸漬する前に、スクレーパ方式の除去手段60により、濾過フィルタ20の外周面から除去される。かくして、容器40内の対象物50が連続的に濾過処理される。
【0047】
吸引タイミングについては、吸引室13の外周面が容器40内の対象物50の表面から出た後、除去手段60により対象物50を除去されるまでの間、吸引室13の吸引を行うこともできる。除去手段60により対象物50を除去されてから、容器40内の対象物50に再度浸漬するまでの間、すなわち濾過フィルタ20上に対象物50が存在しない間は、吸引室13を吸引しないことが重要である。なぜなら、この間の吸引は、空引きとなるからである。
【実施例】
【0048】
可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造工程における1回目の洗浄濾過処理に本発明を適用した。手順は図1で説明したとおりである。対象物は酸化チタン粉末と液体の混合物であり、重量は8.3kg、吸引処理前の液体含有率は94%である。真空ポンプをはアスピレータ使用した。
【0049】
フレキシブルシートを覆わない従来法(図2)で吸引濾過を行った場合は、対象物の最終的な重量は3.0kg、液体含有率は83%であり、所要時間は120分であった。一方、本発明法〔図1(a)(b)〕では、対象物の表面をサランラップ(商品名)として販売されているポリ塩化ビニリデンフィルムで覆った。対象物の最終的な重量は2.5kg、液体含有率は79%であり、所要時間は90分であった。
【0050】
フレキシブルシートをセットするタイミングは、液体層が消失した後、出来るだけ早い段階でもよい。液体層が消失するまでは、液体層によって下方のスラリー層の上面がシールされるからである。この場合、フレキシブルシートをセットするタイミングが遅れると、その間、シートによるシールメリットを享受することができない。また亀裂が発生してしまう危険もある。いずれにしても、濾過効率向上効果が減少する。
【0051】
なお、上記実施例では、可視光応答型酸化チタン光触媒粉末の製造工程における1回目の洗浄濾過処理に本発明を適用したが、本発明はこれに限らず適用可能である。また、上記実施形態では、固体と液体の混合物から液体を分離除去し、固体を回収するのに本発明を用いたが、液体の分離回収に本発明を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)及び(b)は本発明の一実施形態を示す吸引濾過方法の模式説明図である。
【図2】従来法で吸引濾過を行った場合の問題点を示す模式図である。
【図3】本発明の別の実施形態を示す吸引濾過装置の構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 濾過容器
2 液体回収タンク
3 濾過フィルタ
4 支持部材
5 連結管
6 濾過対象物(固体と液体の混合物)
6a スラリー層
6b 液体層
6c ケーキ状物質
7 フレキシブルシート
8 亀裂
9 分離液
10 吸引ドラム
13 吸引室
20 濾過フィルタ
30 フレキシブルシート
40 混合物容器
50 処理対象物
60 分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過フィルタを用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する吸引濾過方法において、前記混合物の反吸引側の表面を、フレキシブルで気密性のあるシートにより覆うことを特徴とする吸引濾過方法。
【請求項2】
請求項1に記載の吸引濾過方法において、前記シートは吸引濾過に伴って混合物の表面に、その形状に沿って密着するフレキシビリティを有する吸引濾過法。
【請求項3】
請求項1に記載の吸引濾過方法において、濾過容器内に収容された混合物の上部から液体層が消失した後の段階で、その混合物の表面をシートで覆う吸引濾過法。
【請求項4】
請求項1に記載の吸引濾過方法において、濾過容器内に収容された混合物をシートで覆う際に、混合物と共に濾過容器の少なくとも内周面をシートで覆う吸引濾過方法。
【請求項5】
濾過フィルタを用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する吸引濾過装置であって、固体と液体の混合物を濾過フィルタ上に収容する濾過容器と、濾過容器内の濾過フィルタより下の空間を吸引排気する排気ポンプと、前記混合物の反吸引側の表面を覆うフレキシブルで気密性のあるシートとを具備する吸引濾過装置。
【請求項6】
濾過フィルタを用いた吸引濾過により、固体と液体の混合物を固体と液体とに分離する吸引濾過装置であって、回転方向に区画配列された複数の吸引室を内部に有し、各吸引室内が外周側に連通すると共に、外周面に装着された濾過フィルタ上に固体と液体の混合物を付着させて回転する吸引ドラムと、吸引ドラム内の複数の吸引室を吸引排気する排気ポンプと、吸引ドラム外側の所定区間において、ドラム外周面に付着する混合物に接触するように外周面に沿って配設され、吸引ドラムの回転に追従して移動するフレキシブルで気密性のあるシートとを具備する吸引濾過装置。
【請求項7】
請求項6に記載の吸引濾過装置において、吸引ドラム内の複数の吸引室は選択的に吸引排気される吸引濾過装置。
【請求項8】
請求項6に記載の吸引濾過装置において、シートは定位置で周回するようにドラム外周面に沿って張設された無端ベルトである吸引濾過装置。
【請求項9】
請求項6に記載の吸引濾過装置において、固体と液体の混合物が収容され、吸引ドラムの回転に伴って前記混合物がドラム表面の濾過フィルタ上に付着するようにドラム下部が浸漬される混合物容器と、シート配設位置において液体を除去された固体分を濾過フィルタ上から分離除去するべく、シート配設位置の回転方向下流側に配設された除去手段とを具備する吸引濾過装置。
【請求項10】
請求項9に記載の吸引濾過装置において、除去手段は掻き落としにより固体分を濾過フィルタ上から分離除去するスクレーパである吸引濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−296140(P2008−296140A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145051(P2007−145051)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】