説明

吸放湿性布帛

【課題】吸放湿性に優れ、通気度の低下や風合の硬化が少なく、かつ発汗時の快適性に優れる布帛及びその製造方法を提供する。
【解決手段】疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、高吸放湿性有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物をドット状に固着させてなる吸放湿性布帛であって、高吸放湿性有機微粒子が塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなり、(1)高吸放湿性有機微粒子の付着量が0.5〜9.0g/mであり、(2)ドットの面積率が11%から80%であり、(3)且つ1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下である吸放湿性布帛。上記の布帛の片面に、上記の高吸放湿性有機微粒子、高分子バインダー、分散媒を含む樹脂組成物分散液を、上記(1)〜(3)を満たすように、ドット状にプリント、乾燥して固着させる吸放湿性布帛の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿性に優れ、通気度の低下や風合の硬化が少なく、発汗時の快適性に優れる布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、衣料用の布帛としては、親水性繊維である綿100%等で構成された織編物があるが、かかる親水性繊維100%の布帛は、吸湿性には優れるものの、放湿速度が遅く水分を保持するためムレ感を感じるものであった。一方、衣料用布帛として、疎水性繊維であるポリエステル繊維100%等で構成された織編物もあるが、かかる疎水性繊維100%の布帛は、繊維のマイクロ化により吸水速乾性には優れるものの、吸湿性がないため、吸放湿性に乏しくムレ感を解消するには至っていない。
【0003】
また、従来より、生地にドット状に接着剤を塗布したものとして、点接着による接着芯地がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、ドット状に接着剤を塗布する方法が示されているが、これら接着剤の目的は表地と芯地を貼り合わせるためであり、生地と肌間の空間を調湿するために肌側表面に塗布して、発汗時の衣服内湿度を低減する目的のものではなかった。
【0004】
また、布帛の裏面に、撥水剤を含むプリント糊を点状、線状または格子状に付着させ、その他の部分に吸水剤を付着させたことを特徴する繊維製品が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、この繊維製品は、布帛の裏面、すなわち肌に接する面に、撥水部分と吸水部分とを設けることによって、スポーツ衣料、作業着などの着用時の発汗によるベトツキを軽減することを目的としているが、衣服内湿度の低減については記載も示唆もされていない。
【特許文献1】特開平5−230771号公報
【特許文献2】実公平1−21997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吸放湿性に優れ、通気度の低下や風合の硬化が少なく、かつ発汗時の快適性に優れる布帛及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決することができる本願の第1の発明は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、高吸放湿性有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物をドット状に固着させてなる吸放湿性布帛であって、高吸放湿性有機微粒子が塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなり、高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであり、樹脂組成物からなるドットの面積率が11%から80%であり、且つ1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下であることを特徴とする吸放湿性布帛である。
【0007】
第2の発明は、高分子バインダーの付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであることを特徴とする吸放湿性布帛である。
【0008】
第3の発明は、高吸放湿性有機微粒子が、アクリロニトリルを50質量%以上含むアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼン又はトリアリルイソシアヌレート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有することを特徴とする第1または2の発明に記載の吸放湿性布帛である。
【0009】
第4の発明は、20℃、65%RH環境下と35℃、95%RH環境下での吸湿量の差である吸放湿度(△W)が1.5以上であり、且つJIS L1096 A法による通気度が10.0cc/cm/秒以上であることを特徴とする第1または2の発明に記載の吸放湿性布帛である。
【0010】
第5の発明は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子、高分子バインダー、分散媒を含む樹脂組成物分散液を、下記(1)〜(3)を満たすように、ドット状にプリント、乾燥して固着させることを特徴とする吸放湿性布帛の製造方法である。
(1)高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/m
(2)ドット状の樹脂組成物の面積率が11%から80%
(3)1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸放湿性布帛は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、高分子バインダーで固定された、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子を付与しているため、得られた布帛は吸放湿性に優れる。また高吸放湿性有機微粒子を含む樹脂組成物を、布帛の片面(布帛を衣類とした際に肌側となる布帛の表面)のみに、ドット状に固着させているので、布帛の通気度の低下が少なく、また、衣服内の湿度調湿効果が非常に優れている。また、風合の硬化も少ないため、スポーツ等の発汗時の快適性が非常に優れた布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の吸放湿性布帛は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、高吸放湿性有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物をドット状に固着させてなる吸放湿性布帛であって、高吸放湿性有機微粒子が塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなり、高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであり、高分子バインダーの付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであり、樹脂組成物からなるドットの面積率が11%から80%であり、且つ1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下であることを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明の吸放湿性布帛は、布帛衣服とした際に肌側となる布帛の表面に、特定の高吸放湿性有機微粒子と、該有機微粒子を担持する高分子バインダーを含む樹脂組成物をドット状に形成させることで、このドット状部分で吸放湿性を改善し、それ以外の部分で通気度と風合いを維持するという機能を分担させている。
【0014】
また、本発明の吸放湿性布帛は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子、高分子バインダー、分散媒を含む樹脂組成物分散液を、下記(1)〜(3)を満たすように、ドット状にプリント、乾燥して固着させることにより製造される。
(1)高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/m
(2)ドット状の樹脂組成物の面積率が11%から80%
(3)1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いる布帛は、疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛であり、疎水性合成繊維が単独の場合も含まれる。なお、疎水性合成繊維と併用することができる親水性繊維としては、例えば、綿、ウールなどの天然繊維が挙げられる。また、本発明でいう布帛には、織物、編物、不織布などが含まれる。織物としては、例えば、平織、綾織、朱子織、もじり織、ジャカード織、重ね織などが挙げられる。編物としては、例えば、天竺編み、フライス編み、スムース編み、鹿の子編み、ツーウェー編み、ハーフ編み、サテン編みなどが挙げられる。不織布としては、例えば、ニードルパンチ、サーマルボンド、ケミカルボンド、ステッチボンドなどの乾式法、パルプなどの湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法、スパンレース法などによって製造される不織布などが挙げられる。
【0016】
ここで、疎水性合成繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等からなる繊維が例示される。これらの疎水性合成繊維の中でも、ポリエステルが特に好適であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PTT)等のホモポリマー、或いはこれらのブレンドポリマー、またはこれらを主体とする共重合ポリマーからなる繊維が好ましい。また、必要に応じて、これらの繊維中には、二酸化珪素、硫酸バリウム、二酸化チタン、カオリナイト等の艶消材や、カーボンブラックや低融点金属などの導電剤を適当量混合しても構わない。
【0017】
繊維の断面形状に関しても、特に限定されるものではなく、中実断面、中空断面、丸型断面、三角断面、その他異型断面等々何れの断面であっても構わない。また、糸条形態としては、短繊維からなる紡績糸、長繊維マルチフィラメント、長短複合繊維の何れの形態であっても構わない。また、疎水性合成繊維の総繊度、単糸繊度、単糸本数も特に限定されるものではなく、総繊度に関しては、大略33デシテックスから560デシテックスの範囲が、用途に応じて適宜選択される。更に、風合い、目的に応じて、仮撚加工や常温高圧空気流を使用した各種嵩高加工や交絡処理を施すことも可能である。
【0018】
また、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子としては、相対湿度(RH)65%での水分率が30質量%以上の高い吸湿性を備え、しかも、初期吸湿速度が0.8質量%/分以上の高い吸湿速度を有する機能を具備する粒子を選択することが、ムレ感の減少のために好ましい。さらに好ましくは、65%RHでの水分率が40質量%以上、初期吸湿速度が1.0質量%/分以上の有機微粒子である。なお、初期吸湿速度は、70℃、12時間の真空乾燥後、20℃、65%RHのデシケーター中に10分間放置した時の水分率を測定して、1分間当たりの水分率の増加率を算出することにより得られる。
【0019】
ここで、アクリル系重合体とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル酸及びその誘導体を主構成単位として含む重合体である。また、塩型カルボキシル基としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Be,Mg,Ca,Ba等のアルカリ土類金属、Cu,Zn,Al,Mn,Ag,Fe,Co,Ni等の他の金属、NH,アミン等の有機の陽イオンによるものが挙げられ、これらは2種以上混合していても構わない。さらに、架橋構造としては、ヒドラジン、ジビニルベンゼン又はトリアリルシアヌレートの架橋剤由来のものが好適である。
【0020】
高吸放湿性有機微粒子の具体的な例としては、アクリロニトリルを50質量%以上含むアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼン又はトリアリルイソシアヌレート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するものが挙げられる。
【0021】
より具体的には、(a)アクリロニトリルを85質量%以上含むアクリロニトリル系重合体に、窒素含有量の増加が1.0〜15.0質量%となるようヒドラジン処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するアクリル系金属変性粒子、(b)ジビニルベンゼン又はトリアリルイソシアヌレートによる架橋構造が導入され、かつ、アクリロニトリルを50質量%以上含むアクリロニトリル系重合体において、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を2.0mmol/g以上有するアクリル系金属変性粒子などが挙げられる。
【0022】
また、この高吸放湿性有機微粒子は、比表面積が1m/g以上、平均細孔直径が0.005〜1.0μmであるマクロ細孔を有する多孔質吸放湿性重合体からなることが好ましい。このような高吸放湿性有機微粒子は、例えば、下記の2つの方法を用いて製造することができる。
【0023】
(1)アクリロニトリル系重合体とその溶剤から調整された重合体溶液を、該重合体の非溶剤である溶媒中で凝固させることにより、アクリロニトリル系多孔質重合体とし、次いで、ヒドラジン系化合物との反応により架橋を導入し、さらに残存ニトリル基の加水分解反応により塩型カルボキシル基を2.0〜12.0meq/g導入する方法
【0024】
(2)アクリロニトリルを50質量%以上含有する単量体混合物を用い、水系沈殿重合を行って多孔質重合体とし、次いで、ヒドラジン系化合物との反応により架橋を導入し、さらに残存ニトリル基の加水分解反応により塩型カルボキシル基を2.0〜12.0meq/g導入する方法
【0025】
高吸放湿性有機微粒子の平均粒径は、早い吸放湿速度、洗濯耐久性、肌触りの点から、5μm以下が好ましく、更に好ましくは2μm以下である。粒子の平均粒径は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD2000」を使用し、水を分散媒として測定した結果を、体積基準で表し、そのメディアン径をもって平均粒径とする。また、粒子が凝集体の場合、凝集体の1次粒径は電子顕微鏡写真により、1次粒子100個の粒径を測定し、これより平均の値を算出する。
【0026】
本発明では、高吸放湿性有機微粒子は、高分子バインダーに含有させた樹脂組成物の状態で、布帛の表面にドット状に形成される。この際、高吸放湿性有機微粒子の付着量は、布帛の吸湿率と関係する重要な要素である。
20℃、65%RH環境下と30℃、90%RH環境下での吸湿量の差である吸放湿度(△W)が1.5以上という吸放湿効果を発現させるためには、布帛の単位面積に対して0.5〜9.0g/mとなるように、樹脂組成物全体の付着量、または樹脂組成物中の高吸放湿性有機微粒子の含有量を制御する。
【0027】
高吸放湿性有機微粒子の付着量を0.5g/m以上とすることにより、布帛の吸湿性の向上効果が発現する。一方、高吸放湿性有機微粒子の付着量を9.0g/m以下に制御することにより、工業的に安定して樹脂組成物をドット状にプリントすることができる。また、プリント後の皮膜強度の低下も抑えられ、摩擦や洗濯耐久性の低下を防止することができる。
【0028】
また、高分子バインダーは、高吸放湿性有機微粒子を、布帛を構成する繊維の表面に担持するとともに、洗濯時に脱落しない機能が要求される。このような観点から、布帛を構成する繊維の素材に応じて、布帛と密着性に優れ、かつ高吸放湿性有機微粒子と親和性のよい樹脂を選択することが好ましい。
【0029】
例えば、布帛を構成する繊維がポリエステル繊維の場合には、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチルメタクリレート、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、硝化綿樹脂塩酢ビ樹脂などを用いることができる。これらの中でも、アクリル系樹脂、その共重合体は、本発明で用いる、アクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子との親和性に優れ、ポリエステル繊維から構成される布帛との密着性にも優れているため好適である。
【0030】
高分子バインダーは、1種類の樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。高分子バインダーの付着量は、布帛の単位面積に対して0.5〜9.0g/mの範囲が好適である。高分子バインダーの付着量を0.5g/m以上に制御することにより、高吸放湿性有機微粒子を高分子バインダー中に担持させる機能を維持でき、洗濯時の脱落を抑えることができる。一方、高分子バインダーの付着量を9.0g/m以下に制御することにより、風合いが硬くなることを抑制するとともに、布帛の目詰め効果による通気度の低下を抑制し、快適性を維持することができる。
【0031】
さらに、ドット状樹脂組成物を、布帛を構成する繊維により密着させ、洗濯耐久性や耐摩耗性を向上させるために、高分子バインダーに架橋剤を併用し、例えば、触媒の存在下、樹脂組成物を熱処理することで高分子バインダーを架橋させることも可能である。架橋剤の種類としては、高分子バインダーの種類に応じて、適切な架橋剤を選択する。架橋剤としては、例えば、グリオキザール、メラミン樹脂、イソシアネート類などが挙げられる。架橋剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
ローラープリント、スクリーンプリントやロータリープリント等のプリント方法により、布帛の片面に、樹脂組成物をドット状に形成させるに際して、プリント性をよくするために、一般的な糊剤を樹脂組成物に併用することができる。糊剤としては公知のものを使用でき、例えば、トラガントゴム、アラビアゴム、ローカストビーンゴム、シュラツゴム、アルギン酸ナトリウムなどの天然糊剤、メチルセルロース、カルボキシメチルセルローズ、アセチルセルロースなどのセルロース誘導体糊剤、デキストリン、ブリティッシュゴム、酸化デンプン、α−デンプンなどの加工デンプン糊剤、加工ローカストビーンゴム、加工シュラツゴムなどの加工ゴム糊剤、ビニル系誘導体、ポリアクリル酸誘導体、合成ゴムなどの合成糊剤、ターペンなどのエマルジョン糊剤などが利用できる。これらの中で、風合をできるだけ硬くしない点から、乾燥で揮発除去されるエマルジョン糊剤が特に好適である。
糊剤の配合量は、プリントの方式により好適な範囲が異なるが、樹脂組成物の全量に対し1〜80質量%が好ましく、特に好ましくは5〜30質量%である。
【0033】
本発明において、高高吸放湿性有機微粒子、高分子バインダー、必要に応じて糊剤を含む樹脂組成物は、水、有機溶剤、またはそれらの混合液からなる分散媒を用いて分散させ、ドット状に布帛基布にプリントされる。
【0034】
有機溶剤としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ミネラルターペンなどの脂肪族炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。有機溶剤は1種類を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。また、水と有機溶剤とを併用することもできる。分散媒の配合量は、通常、樹脂組成物の全量に対し1〜90質量%、好ましくは30〜70質量%の範囲内で、分散媒の沸点、樹脂組成物の付着量に応じて、適切な範囲を選択すればよい。
【0035】
通気度及び風合をできるだけ維持するために、ドット1個の大きさ、及び単位面積当りのドット数は特に重要である。そのため、本発明では、布帛の単位面積に対するドット部分の占める面積率が11%〜80%になるように制御する。ドット部分の面積率の下限は、吸放湿性とプリント性を両立させ、ドット部分の被膜強度を維持し、摩擦や洗濯耐久性の低下を抑えるために、15%が好ましく、より好ましくは20%、さらに好ましくは30%、特に好ましくは40%とする。一方、ドット部分の面積率の上限は、通気度の低下を抑制して衣服内の発汗時の快適性を維持し、かつ風合いが硬くなるのを抑え快適な着用感を維持するために、75%が好ましく、より好ましくは70%、特に好ましくは65%とする。
【0036】
また、単位面積当りのドット数の下限は、10個/cmであることが、風合いが硬くなるのを抑え、ドレープ性を維持して、仕立て栄えを良好にする上で重要であり、好ましくは20個/cm、さらに好ましくは30個/cm、特に好ましくは40個/cmとなるように、プリント条件を制御する。
一方、風合いの硬化を低減させる観点からは、単位面積当りのドット数は多いほどよい。しかしながら、プリント紗に目詰まりがおきる場合や、グラビア柄の細かくできる技術に限界があるため、単位面積当りのドット数の上限は150個/cmが実用上の限度である。
【0037】
また、ドットの形状は特に制限はなく、丸型、三角、四角等や、花柄や星型でもかまわない。しかしながら、ドットの大きさを小さくできる点から、丸型が好適である。
【0038】
プリントの方法は、例えば、ローラープリント、フラットスクリーンプリント、ロータリスクリーンプリント、転写プリント、グラビアプリント、平板プリントや凸版プリントなどが利用できる。スクリーンを用いて捺染を行う場合、スクリーンのメッシュは、#100〜#1500の範囲が好適である。
【0039】
ドットプリント後の乾燥は、使用する分散媒の沸点、樹脂組成物分散液の固形分濃度、付着量に応じて好適な範囲は異なるが、例えば、100〜130℃の温度で1〜10分間の条件で行う。
【0040】
乾燥後、必要に応じて熱処理を行う。特に、高分子バインダーを、熱反応型の架橋剤を用いて架橋させる際には熱処理は不可欠である。熱処理条件は、高分子バインダーの種類により適宜選択すればよい。例えば、アクリル系バインダーの場合、高温スチーミング法で130〜200℃、5〜15分間蒸熱するか、またはサーモゾル法で180〜210℃、20秒〜2分間、乾熱処理する。
【0041】
さらに必要に応じて、熱処理後に、洗浄を行ってもよい。洗浄は、公知の方法にしたがって実施することができる。例えば、1〜2g/Lの非イオン界面活性剤、3〜5g/Lの水酸化ナトリウム水溶液、2〜3g/Lのハイドロサルファイトを含む70〜80℃の洗浴に、布帛を浸漬する還元洗浄などが挙げられる。
【0042】
本発明の布帛は、衣料品としてのすべての用途に使用することができる。例えば、ウインドブレーカー、パーカー、ジャケット等のトップス、パンツ、スカート等のボトムス、及びコート、ガウン、ドレスなどを含むアウターウエアの他、ランジェリー、ファンデーションなどのインナーウエア、更にはシャツやブラウスなどが挙げられる。また、テント地などのレジャー用品、カーテン、ソファー側地やクッション側地等の生活資材、建築材料やカーシートなど、肌と接触する用途、あるいは空気を介して肌と対面して使用される用途であれば利用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を代表例に用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各性能評価は次の方法により行った。
【0044】
<吸湿率>
下記関係式により、吸湿率Hを算出する。
H(%)={(H1−H0)/H0}×100
ここで、H0は絶乾質量であり、サンプルを105℃で4時間乾燥した後の質量である。また、H1は吸湿質量であり、上記乾燥後に所定の温湿度雰囲気下に24時間以上放置して調湿した後の質量である。温湿度雰囲気としては、衣服内気候に相当する35℃、90%RHと、外気に相当する20℃、65%RHとの2種類の条件で行う。
【0045】
<吸放湿度差(ΔW)>
20℃、65%RH環境下と35℃、90%RH環境下での吸湿量の差であり、下記関係式により算出される。なお、実験回数5回の平均値をもってその測定値とする。
ΔW(%)=(35℃、90%RH環境での吸湿率)
−(20℃、65%RH環境下での吸湿率)
【0046】
<通気度>
1998年度版のJIS−L1096に記載のA法(フラジール法)に基づき、試験片を通過する空気量(cc/cm/秒)を求める(少数点以下1桁まで)。実験回数5回の平均値をもってその測定値とする。なお、測定は20±2℃、65±2%RHの恒温恒湿度環境で実施する。
【0047】
<通気度保持率>
プリント前の生地の通気度に対する、プリント・仕上セット後の生地の通気度の比率を、通気度保持率(%)とする。
【0048】
<有機微粒子及び高分子バインダーの付着量>
プリント前の生地質量とプリント直後(乾燥前)の生地質量から、柄部/地部両方を含むプリント面積に対する樹脂組成物分散液の付着量(g/m)を求める。樹脂組成物分散液中の有機微粒子の含有量を、樹脂組成物分散液の付着量に掛け合せて該有機微粒子の生地への付着量を求める。高分子バインダーの付着量も同様にして算出する。
【0049】
<樹脂組成物の付着部分の面積率>
有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物分散液をプリントして、乾燥後の布帛の表面における樹脂組成物の付着部分をビデオマイクロスコープで撮影する。その写真を画像解析ソフト(SYSMAT社製、SigmaScan)で面積を計算し、単位面積当りのドット部分の面積率(%)を算出する。
【0050】
<単位面積当りの樹脂組成物からなるドットの個数>
予め所望のドット数(個/cm)になるようにデザインして、プリント紗に柄付けする。但し、実際のドット数は、有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物をプリント、乾燥する。次いで、布帛における樹脂組成物の付着部分をビデオマイクロスコープで撮影し、写真から1cmх1cm(1cm)当りの単位面積内のドット数(個)を目視で数える。
【0051】
<発汗時の快適性、及び風合着用感>
実施例及び比較例に記載の加工布帛を用いて、ドレスシャツ地(衿周り42cm、袖丈82cm)を作成する。次いで、28℃60%rhに調湿した環境試験室内で、5人の被験者にドレスシャツを直接、肌の上から着用させ、5分間、座位で安静にしてもらう。その後、トレッドミルに乗って、4.5km/時の速度で20分間歩行させ、歩行終了直前に、蒸れ感と風合着用感のアンケート調査を行う。評価は未加工の布帛を用いて作成したドレスシャツ地と比較して、「かなり蒸れる」を5、「少し蒸れる」を4、「同じ程度」を3、「少し快適」を2、「快適」を1とする、5段階で評価する。風合着用感は、未加工を1として10段階で判定する。(1が柔らかく10が硬い)。蒸れ感及び風合着用感の結果は、被験者5人の平均値で表わす。
【0052】
<10回刷り後プリント目詰り>
実施例及び比較例に記載の樹脂組成物分散液を用いて、10回連続してプリントした後、11回目にプリントした生地にプリント擦れがなければ目詰り○、擦れがあれば目詰り×と判定する。
【0053】
実施例1
(1)高吸放湿性有機微粒子の製造
アクリロニトリル[450質量部]、アクリル酸メチル[40質量部]、p−スチレンスルホン酸ソーダ[16質量部]及び水[1181質量部]をオートクレーブに仕込む。次いで、重合開始剤として、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを単量体全量に対して、0.5質量%添加した後、密閉する。さらに、攪拌下、150℃の温度にて20分間重合せしめる。反応終了後、攪拌を継続しながら約90℃まで冷却し、平均粒子径2μm(光散乱光度計で測定)の原料微粒子の水分散体を得た。
【0054】
この水分散体に浴中濃度が35質量%になるようにヒドラジンを加え、102℃で2.5時間架橋処理を行った。続いて、浴中濃度が10質量%になるようにNaOHを加え、102℃で5時間の加水分解処理を行った。次いで、流水中で透析、脱塩、乾燥後、高吸放湿性有機微粒子を得た。
【0055】
得られた高吸放湿性有機微粒子は、窒素増加量が3.3質量%、塩型カルボキシル基4.3mmol/g、65%RHでの水分率が45質量%、平均粒子径が2μmであった。該有機微粒子を70℃で12時間放置後、65%RH(20℃)のデシケーターに10分間放置した後の水分率は10質量%であり、24時間後は45質量%であった。また、90%RH(20℃)のデシケーターに24時間放置後の水分率は56質量%であり、その後、この有機微粒子を40%RH(20℃)のデシケーターに1時間放置した後の水分率は28質量%であり、吸放湿性を有することが確認された。
【0056】
(2)布帛基布の製造
経糸と緯糸の双方に167dtex/96フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、経糸の織密度が115本/inch、緯糸の織密度が68本/inchのポリエステル繊維100%のポプリンを製織した。このポリエステル仮撚加工糸使いのポプリンを常法でリラックス精練し、プレセット、アルカリ減量加工、染色(白色)の順に後加工して供試料とした。
なお、ポプリンとは、緯糸方向に細い畝(うね)が現れる風合いの柔らかい平織り組織の織物で、緯糸の密度に比べて経糸の密度を1.5〜2倍にした緻密な織物を意味する。
【0057】
(3)布帛基布に付着させる樹脂組成物分散液の調整
(1)で得られた高吸放湿性有機微粒子[15質量部]、高分子バインダーとして、スチレン・アクリル共重合エマルジョン(新中村化学工業(株)製、商品名:NKバインダーR−5HN) [15質量部]、ターペン系エマルジョン糊(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエクステンダーH−5)[50質量部]、イソシアネート系架橋剤(明成化学工業(株)製、商品名:メイカネートMF)[5質量部]、及び水[45質量部]を、ホモミキサーによって均一に混合し、o/w型エマルジョンの樹脂組成物分散液を調製した。この樹脂組成物分散液の粘度は、13,500cps(25℃,6rpm)であった。粘度は粘度計((株)トキメック製、商品名:BM型粘度計)を用いて測定した。
【0058】
(4)樹脂組成物を基布に付着させた吸放湿性布帛の製造
(2)で得られた布帛(基布)に、単位面積(1cm)あたり49個のドット柄に型つけしたスクリーン枠(メッシュ#600)を用いて、表1に記載の樹脂組成物分散液の組成でスクリーン印刷した。その後、120℃で2分間乾燥し、さらに150℃で2分間熱処理した。次いで、仕上セットして本発明の吸放湿性に優れるポリエステル100%の布帛を作成した。
【0059】
得られた吸放湿性布帛の片面にドット状に付着させた樹脂組成物分散液の付着量は29g/mであった。また、有機微粒子の付着量は3.3g/m(計算値)、高分子バインダーの付着量も3.3g/m(計算値)であった。
【0060】
付着部分の特性(有機微粒子と高分子バインダーの付着量、付着部分の面積率、1cm当りのドット数)、及び吸放湿性布帛の評価結果(仕上セット後の布帛の通気度と通気度保持率、吸放湿度差ΔW、発汗時の快適性と風合着用感、及び10回刷り後のプリント目詰まりの判定)を表2に示す。
【0061】
実施例2
実施例1において、有機微粒子の配合量を6質量部に減少させ、かつドットの大きさを1/3に、ドット数を約3倍(144個/cm)に増加させた。そして、分散液の粘度が10,000〜15,000cpsの範囲内に入るように、配合する水の量を調整した。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0062】
実施例3
実施例1において、有機微粒子の配合量を実施例1の2倍(30質量部)に増加させ、かつドットの大きさを変えずに、ドット数を64個/cmに増加させた。それ以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0063】
比較例1
実施例1において、有機微粒子の配合量を1.5質量部に減少させた。それ以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0064】
比較例2
実施例1において、ドットの大きさを変えずに、ドット数を81個/cmに増加させた。それ以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0065】
比較例3
実施例1において、ドット柄でなく、布帛の片面すべてをベタ柄としてプリントした。それ以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0066】
比較例4
実施例1において、ドットの大きさを変えずに、ドット数を9個/cmに減少させた。それ以外実施例2と同様の操作を行った。
【0067】
比較例5
実施例1において、ドットの大きさを10倍に大きくし、かつドット数を9個/cmに減少させた。それ以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0068】
比較例6
実施例1において、表1に示すように、有機微粒子の配合量を40質量部に増加させ、かつドット数を16個/cmに減少させた。それ以外は実施例2と同様の方法で行った。
【0069】
比較例7
実施例1において、表1に示すように、有機微粒子を添加しなかった。それ以外は実施例2と同様の方法で行った。
【0070】
比較例8
実施例1において、ドット状の樹脂組成物を布帛に付着させず、(2)の布帛をそのまま評価に供した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の吸放湿性布帛は、衣服内の湿気を素早く吸って、衣服内気候をコントロールし、ムレ感、ベトツキ感を軽減する上に、通気性を保持して衣服内温度上昇を抑えるとともに、風合の硬化も少ないため、ブラジャー等のインナー、ブラウス等のアウターをはじめスポーツアパレルなど広範な用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、高吸放湿性有機微粒子及び高分子バインダーを含む樹脂組成物をドット状に固着させてなる吸放湿性布帛であって、高吸放湿性有機微粒子が塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなり、高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであり、樹脂組成物からなるドットの面積率が11%から80%であり、且つ1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下であることを特徴とする吸放湿性布帛。
【請求項2】
高分子バインダーの付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/mであることを特徴とする請求項1に記載の吸放湿性布帛。
【請求項3】
前記高吸放湿性有機微粒子が、アクリロニトリルを50質量%以上含むアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼン又はトリアリルイソシアヌレート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有することを特徴とする請求項1または2に記載の吸放湿性布帛。
【請求項4】
20℃、65%RH環境下と35℃、95%RH環境下での吸湿量の差である吸放湿度(△W)が1.5以上であり、かつJIS−L1096のA法による通気度が10.0cc/cm・秒以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸放湿性布帛。
【請求項5】
疎水性合成繊維を60質量%以上含む布帛の片面に、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子、高分子バインダー、分散媒を含む樹脂組成物分散液を、下記(1)〜(3)を満たすように、ドット状にプリント、乾燥して固着させることを特徴とする吸放湿性布帛の製造方法。
(1)高吸放湿性有機微粒子の付着量が布帛の単位面積当たり0.5〜9.0g/m
(2)ドット状の樹脂組成物の面積率が11%から80%
(3)1cm面積当りのドット数が10個以上150個以下

【公開番号】特開2009−155785(P2009−155785A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338900(P2007−338900)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】