説明

吸水型漏水防止マット

【課題】 遮水シートが万が一破損した場合でも廃棄物処分場からの漏水を防ぐことのできる吸水型漏水防止マットを提供すること。
【解決手段】 廃棄物処分場において地盤と遮水シートの間に敷設する吸水型漏水防止マット(10)であって、非透水性シート(12)と、前記非透水性シート(12)の片面に設けられた不織布(14)とからなり、不織布(14)が、高吸水性繊維(16)と該高吸水性繊維(16)と互いに絡合してなる他の合成樹脂繊維(18)からなり、不織布(14)において、厚み方向上部に高吸水性繊維(18)が集まっている吸水型漏水防止マット(10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸水型漏水防止マットに関し、詳しくは廃棄物処分場における地盤と遮水シートの間に敷設する吸水型漏水防止マットに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に形成された穴を利用する埋立型の廃棄物処分場では、この廃棄物処分場から流出(漏出)する汚水によって地下が汚染される可能性がある。このため、廃棄物処分場において、廃棄物を投棄する前に該処分場の底面に遮水シート(漏水検知機能付き)を敷設して汚水の流出(漏出)を防止し、これにより環境保全を図っている。
【0003】
ところが、遮水シートといっても厚さ数mm程度の薄いものであり、投棄物(廃棄物)に混入される鉄鋼製の破片やコンクリート片によって破損したり、あるいは遮水シートが敷設される処分場の地盤が軟弱状態であったり不陸状態である場合は、廃棄物の重みや、重機の走行・旋回によって遮水シートがねじれたり、過度に引っ張られて破損する危険性があった。
【0004】
かかる危険性を防止するに、遮水シートを2層以上の多層構造とする方法が提案された(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−63526号公報
【特許文献2】特開2001−314831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、たとえ遮水シートを多層構造としても、破損そのものを完全に防ぎ切れないというのが実情であり、万が一破損したときの漏水防止の処置方法や破損箇所の修復方法を別途考える必要があった。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、遮水シートが万が一破損した場合でも廃棄物処分場からの漏水を防いだり、遮水シート修復のための時間をかせぐことのできる吸水型漏水防止マットを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の吸水型漏水防止マットは、廃棄物処分場において地盤と遮水シートの間に敷設する吸水型漏水防止マットであって、非透水性シートと、前記非透水性シートの片面に設けられた不織布とを具備し、前記不織布は、高吸水性繊維と、該高吸水性繊維と互いに絡合してなる他の合成樹脂繊維からなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の吸水型漏水防止マットは、請求項1記載の吸水型漏水防止マットにおいて、前記不織布において、厚み方向中央部に前記高吸水性繊維が集まっていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の吸水型漏水防止マットは、請求項1記載の吸水型漏水防止マットにおいて、前記不織布において、厚み方向中央部に前記高吸水性繊維が集まっており、かつ厚み方向上部にも前記高吸水性繊維が前記中央部よりも低密度で含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸水型漏水防止マットによれば、万が一遮水シートが破損しても、漏れた水は、遮水シートの下面側に敷設されている吸水型漏水防止マットにおける高吸水性繊維が吸収するので、漏水(泥水)が直ちに地盤中に拡散する心配はなく、地盤への更なる漏水を防ぐことができる。高吸水性繊維には素材が保有する固有の吸水能力があるが、吸水能力に達するまでにある程度の時間や日数を要するので、その間、地盤への漏水(泥水)の拡散をくい止めることができ、破損した遮水シートを修復する時間をかせぐことができる。
【0011】
高吸水性繊維は吸水することにより膨潤し、体積がかなり大きくなり、遮水シートを下から強く押し上げる。しかも、上からは投棄された廃棄物の重みが加わっているので、破損した遮水シートは上下方向から大きな力が加わり、これによって破損箇所が閉塞される可能性もあるので好都合である。
【0012】
上部にも低密度で高吸水性繊維を含有する場合、当該繊維が水により膨潤して破損箇所の閉塞に働くので、より一層効果的である。
【0013】
また、本発明の吸水型漏水防止マットは非透水性シートを備えている。この非透水性シートを下側(地盤側)にして吸水型漏水防止マットを敷設することにより、地盤からの水や湿気は前記非透水性シートにより遮断されるので、前記高吸水性繊維が地盤からの水や湿気を吸ってしまって、本来の機能を果たさなくなるという心配はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
非透水性シート
本発明で使用可能な非透水性シートの素材の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらは1種のみを単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0015】
この非透水性シートは、後述する不織布の片面に熱融着されているが、前記不織布の上に非透水性シートを熱融着しても良いし、溶融状態にある合成樹脂を前記不織布上に流して(塗布して)フィルム状に形成しても良い。
【0016】
合成樹脂繊維よりなる不織布
不織布を構成する繊維(他の合成樹脂繊維)としては、非(もしくは難)生分解性の繊維であれば特に限定はなく、例えばポリエステル繊維、アクリル樹脂繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維などが挙げられる(長繊維不織布または短繊維不織布、目付:例えば100〜200g/m)。前記繊維は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0017】
(高吸水性繊維(後述)の流出防止)
上記した材質(素材)の長繊維または短繊維を交絡させて後述する高吸水性繊維を(低密度または高密度に)含ませた不織布を本発明の吸水型漏水防止マットにおける厚み方向上部に設けた場合、水を吸水して膨潤し柔らかくなった前記高吸水性繊維の流出を防止することができる。
【0018】
高吸水性繊維
本発明で用いる高吸水性繊維の素材としては特に限定はなく、水に不溶で、かつ水分や湿気を速やかに吸収し、非(もしくは難)生分解性であり、自重の数十倍から百倍近い水分を(例えば吸水倍率10〜400倍)吸収して膨潤する従来公知の素材(デンプン系、セルロース系、その他の多糖類系、及びタンパク質系の天然高分子類並びに、ポリビニルアルコール系、アクリル系、その他の付加重合体、ポリエーテル系、縮合系ポリマー及びその他合成高分子系の合成高分子類)が挙げられる。
【0019】
具体的には、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、デンプン−スチレンスルホン酸グラフト重合体、デンプン−ビニルスルホン酸グラフト重合体、デンプン−アクリルアミドグラフト重合体、セルロース−アクリロニトリルグラフト重合体、セルロース−スチレンスルホン酸グラフト重合体、カルボキシメチルセルロースの架橋体、ヒアルロン酸、アガロース、コラーゲン及びその他のタンパク質、更に、ポリビニルアルコール架橋重合体、PVA吸水ゲル凍結・解凍エラストマー、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、アクリル酸ナトリウム−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル系重合体ケン化物、ヒドロキシエチルメタクリレートポリマー、無水マレイン酸系重合体及び共重体、ビニルピロリドン系重合体及び共重合体、ポリエチレングリコール・ジアクリレート架橋重合体、エステル系ポリマー、アミド系ポリマーなどが挙げられる。
【0020】
高吸水性繊維を不織布に保持させる手段としては、不織布を複数枚使用して間に挟持させる方法、構成繊維に交絡(絡合)させる方法、接着剤を使いて接合する方法などが挙げられるが、これらの方法によって限定されるものではない。
【0021】
なお、発明の効果に支障を来さない範囲で、球状(粒状)、棒状、ペレット状(鱗片状)、長尺状あるいは不定形の塊状などの高吸水性ポリマーが含まれていても良い。
【0022】
高吸水性繊維であれば、不織布を構成する繊維と絡ませて一体化することができるので、別途接着剤を使わずとも保持力が高くなり、こぼれ落ちたり脱落する心配がなく、取扱い面や施工面、及び漏水(汚水)吸収の信頼性の点で好都合である。この場合、高吸水性ポリマーを付着させた繊維を高吸水性繊維とすることもできる。
【0023】
前記不織布において、厚み方向中央部に前記高吸水性繊維が集まっていることが好適である(請求項2、請求項3)。すなわち、高吸水性繊維が集中する部分が、下面を構成する非透水性シートと上部を構成する不織布の間にあり、前記非透水性シートからある程度の距離が設けられていれば、仮に前記非透水性シートが破損し、破損箇所を介して地盤から水分が上がって来た場合でも、この水分を前記高吸水性繊維が吸収してしまうといった心配はなく、肝心な時には既に吸水能力を超えてしまって本来の機能を果たさなくなるという杞憂もない。
【0024】
前述したように、前記不織布において高吸水性繊維が厚み方向中央部に集まっていれば、吸水力が強いため短時間で膨潤し、膨潤した後、水の移動を止めるというメリット(高吸水性繊維が膨潤して繊維間結合力が低下しても上下の不織布が流水を止めるというメリット)がある。
【0025】
高吸水性繊維を不織布の厚み方向所望箇所に集める方法としては特に限定はなく従来公知の方法を利用すればよい。例えば、厚み方向片面側に集める方法としては、所定厚みを有する不織布の上に、高吸水性繊維の多数(あるいは予め不織布にしたもの)を置き、両者をニードルパンチング処理して一体化する方法が挙げられる。また厚み方向中央部に集める方法としては、所定厚みを有する2つの不織布の間に高吸水性繊維の多数(あるいは予め不織布にしたもの)を入れ、3者をニードルパンチング処理して一体化する方法が挙げられる。
【0026】
高吸水性繊維としては、例えばベルオアシス(登録商標、カネボウ合繊社製)、ランシール(登録商標、東洋紡社製)などが市販されており、これらを用いることもできる。
【0027】
その他
吸水型漏水防止マットの厚みとしては、例えば3mm〜30mmであることが好ましい。3mm未満であれば、高吸水性繊維を多く含ませることが出来ず、大きな吸水能力を期待することはできなくなる。30mmを超える場合、施工に支障が生じる可能性があるので好ましくない。
【0028】
吸水型漏水防止マットにおける不織布中の高吸水性繊維の含有率としては10重量%〜90重量%であることが好ましい。10重量%未満の場合、大きな吸水能力を期待することはできなくなる。また、90重量%を超える場合、他の合成樹脂繊維の含有率が低くなり、機械的な強度を保持することが難しくなる可能性がある。吸水型漏水防止マットにおける高吸水性繊維含有率のさらに好ましい範囲は30〜70重量%である。
【実施例】
【0029】
本発明の一実施例を以下、図面に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0030】
図1は本発明の一実施例である吸水型漏水防止マット(10)の断面図を示す。吸水型漏水防止マット(10)は、大きく分けて、熱可塑性樹脂製の非透水性シート(12)と、前記非透水性シート(12)の上面に熱融着された不織布(14)により構成されている。非透水性シート(12)の厚みは、例えば1mm〜3mmであり、不織布(14)の厚みは、例えば5mm〜10mmである。
【0031】
前記不織布(14)は、本実施例において3層構造をなしている。すなわち、高吸水性繊維(16)からなる中間不織層(14a)を挟んで、ポリエステル繊維やアクリル樹脂繊維など他の合成樹脂繊維(18)からなる上部不織層(14b)および下部不織層(14c)が設けられている。なお、上部不織層(14b)は低い密度で高吸水性繊維を含んでおり、また下部不織層(14c)は省略することもできる。これら3層(14a)(14b)(14c)は互いに一体化されているが、その方法としては、例えば次のような手段による(図2参照)。
【0032】
すなわち、多数の高吸水性繊維(16)をそのままの状態で、あるいは予め絡合(交絡)させ不織布状に形成した状態で、他の合成樹脂繊維(18)(ポリエステル繊維など)により形成した不織布(14b)(14c)と合わせて、全体をニードルパンチングにより更に交絡させて一体化させた。ただ、この時のニードルパンチングの回数は、中間不織層(14a)の高吸水性繊維(16)が厚み方向中央部にとどまる程度(つまり、上部不織層(14b)や下部不織層(14c)にあまり分散しない程度)とした。
【0033】
また、上記のようにして得た不織布(14)に非透水性シート(12)を付与する方法としては特に限定はないが、一例を示すと例えば次の方法による。すなわち、図3に示すように、巻回した長尺状の不織布(14)を無端ベルト(M)上で走行させ、走行する不織布(14)の上に溶融状態の合成樹脂(J)を一定量ずつ流し、のち必要であれば冷却する。そして、こうして不織布(14)に非透水性シート(12)を熱接着した長尺物(すなわち本発明の吸水型漏水防止マット(10))を再度巻回する。なお、図示は省略するが、走行する不織布(14)の上に溶融状態の合成樹脂(J)を一定量ずつ流す代わりに、加熱して可塑状態になった非透水性シート(12)を、前記走行する不織布(14)と面接合させ、のち両者を加圧する方法を採っても構わない。
【0034】
このようにして得た本発明の吸水型漏水防止マット(10)を次のようにして用いる。すなわち、図4に示すように、廃棄物処分場の地盤(G)上に本発明の吸水型漏水防止マット(10)を、非透水性シート(12)を下面として敷設する。その上に、遮水シート(S)(従来公知の漏水検知機能付き)を敷設し、必要に応じて遮水シート(S)の上に保護マットを敷設して遮水工を完成させる。
【0035】
本発明の吸水型漏水防止マット(10)が敷設された廃棄物処分場(産業廃棄物処分場、一般廃棄物処分場)において、投棄物(廃棄物)に混入する鉄鋼製の破片やコンクリート片によって遮水シート(S)が万が一破損しても、破損した遮水シート(S)から地盤(G)側に漏れた水は、吸水型漏水防止マット(10)における高吸水性繊維(16)が吸収する。これにより、漏水(泥水)が直ちに地盤(G)中に拡散する心配はなく、地盤(G)の漏水汚染を防ぐことができる。高吸水性繊維(16)には素材が保有する固有の吸水能力があるが、吸水能力に達するまでにある程度の時間や日数を要するので、その間、地盤(G)への漏水(泥水)の拡散をくい止めることができ、破損した遮水シート(S)を修復する時間をかせぐことができる。
【0036】
また、本発明の吸水型漏水防止マット(10)は、上述したように非透水性シート(12)を備えている。この非透水性シート(12)を下側(地盤(G)側)にして吸水型漏水防止マット(10)を敷設することにより、地盤(G)からの水や湿気はこの非透水性シート(12)により遮断されるので、地盤(G)からの水や湿気を前記高吸水性繊維(16)が吸ってしまって、肝心なときに本来の機能を果たさなくなるという心配はない。
【0037】
なお、上記の実施例において、吸水型漏水防止マット(10)における不織布(14)を、厚み方向中央部に高吸水性繊維(16)が集まるように構成したが、これに限らず、不織布(14)における上部不織層(14b)を省略して、厚み方向上部に高吸水性繊維(16)が集まるように不織布(14)を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例である吸水型漏水防止マットの縦断面図である。
【図2】前図の吸水型漏水防止マットの構成を示した分解断面図である。
【図3】不織布に非透水シートを付与する方法を示した略示説明図である。
【図4】廃棄物処分場に吸水型漏水防止マットおよび遮水シートを敷設した状態を示す断面図(丸枠内は一部拡大断面図)である。
【符号の説明】
【0039】
G……地盤
S……遮水シート(漏水検知機能付き)
10……吸水型漏水防止マット
12……非透水性シート
14……不織布
16……高吸水性繊維
18……他の合成樹脂繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物処分場において地盤と遮水シートの間に敷設する吸水型漏水防止マットであり、
非透水性シートと、
前記非透水性シートの片面に設けられた不織布とを具備し、
前記不織布は、高吸水性繊維と、該高吸水性繊維と互いに絡合してなる他の合成樹脂繊維からなることを特徴とする吸水型漏水防止マット。
【請求項2】
前記不織布において、厚み方向中央部に前記高吸水性繊維が集まっていることを特徴とする請求項1に記載の吸水型漏水防止マット。
【請求項3】
前記不織布において、厚み方向中央部に前記高吸水性繊維が集まっており、かつ厚み方向上部にも前記高吸水性繊維が前記中央部よりも低密度で含まれていることを特徴とする請求項1に記載の吸水型漏水防止マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−204986(P2006−204986A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17508(P2005−17508)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(390039114)株式会社田中 (21)
【出願人】(390021669)椿本興業株式会社 (20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】