説明

吸水性に優れたアルミニウム多孔体とその製造方法

【課題】多湿で結露し易い環境下においても過剰な水分を高能率で吸水して基材表面における結露水の発生を抑制するとともに機械的強度が大きく加工性が良好で軽量性や耐候性に優れたアルミニウム多孔体の製造法を提供する。
【解決手段】機械的手段により粉砕され表面に凹凸が形成された粒子径が300μm以下のアルミニウム微粒子3を金型1に充填しアルミニウム微粒子の表面が軟化する550〜600℃の温度範囲において30〜60kg/cmの圧力で押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウムは軽量で加工性や耐食性が良好でしかも人体に対する毒性が少ないため家屋の内装部材を始めとする建築の分野では不可欠な材料として幅広く利用されている。本願発明は吸水性および吸湿性に優れたアルミニウム多孔体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量で機械的強度が優れているだけでなく加工性が優れているため建築物の種々の内装部材として広く利用されている。しかしながら、アルミニウムを始めとする金属部材を建築物の内装部材として使用する場合、気密性が高くしかも材料自体の吸水性が悪いため水分が表面に結露し易くなるという欠点がある。このように金属部材の表面に結露水が付着すると結露した水滴に埃等が付着して菌やカビの発生原因となり衛生の観点から好ましくない。この金属部材の表面に水が結露するのを防ぐために金属部材を多孔体にして吸水性を向上させることが一般に行われている。
【0003】
この金属多孔体を成形する方法としては、金属粉末と有機バインダーとから成形した顆粒を混合して成形した後この顆粒を焼成して有機バインダーを除去する方法(特許文献1)、分解可能な金属粒子を溶射する方法(特許文献2)、多孔性合成樹脂層に微粒子状金属スラリーを浸透したものを乾燥・焼成する方法(特許文献3)、形状の異なる種々の金属微粒子を混合した後、不織布、発泡体、メッシュ体に付着し、これを焼成する方法(特許文献4)、金属粉末を熱間静水圧圧縮で焼結する方法(特許文献5)等の方法が知られている。しかしながら、従来から知られている金属多孔体を製造する方法は製造方法が複雑であるだけでなく吸水性能が低く吸水材としての効果が充分ではなかった。
【特許文献1】特開2006−283104号公報
【特許文献2】特表2004−518816号公報
【特許文献3】特開平10−287903号公報
【特許文献4】特開平07−118706号公報
【特許文献5】特開平08−319678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は多湿で結露し易い環境下においても過剰な水分を高能率で吸水して基材表面の結露水の発生を防ぐことができる金属多孔体を製造するものであるが、特に金属多孔体の素材としてアルミニウムを特定して用いることにより軽量で加工性が良好で腐食性がなく人体に対する毒性も少ない吸水性多孔体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は上記の課題を解決するものとして、第1には、機械的手段により粉砕され表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を該アルミニウム微粒子の表面が軟化する温度範囲で押圧する吸水量が0.025g/cm以上のアルミニウム多孔体の製造方法を提供する。
第2には、粒子径が200μm以下に特定された表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を使用するアルミニウム多孔体の製造方法を提供する。
第3には、粒子径が100μm以下に特定された表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を使用するアルミニウム多孔体の製造方法を提供する。
第4には、表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子に対して加熱温度を550〜600℃の範囲に特定したアルミニウム多孔体の製造方法を提供する。
第5には、表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子に対して押圧する圧力を3.0〜6.0kg/cmに特定するアルミニウム多孔体の製造方法を提供する。
第6には、表面層を形成する多孔体が芯部層を形成する多孔体より空隙率が低く機械的強度が大きい構造である吸水量が少なくとも0.025g/cm以上である2層のアルミニウム多孔体を提供する。
【発明の効果】
【0006】
上記第1のアルミニウム多孔体の製造方法の発明によれば、表面に凹凸が設けられたアルミニウム微粒子をアルミニウム微粒子の表面が軟化する温度範囲で押圧することにより凹凸部の凸部でのみ結合されており従来の金属多孔体に比較して吸水効率がきわめて良好なアルミニウム多孔体の製法を提供できる。
上記第2および第3のアルミニウム多孔体の製造方法の発明によれば、表面に凹凸が設けられたアルミニウム微粒子の粒径を100μm以下および200μm以下に特定することにより、さらに良好な吸水効率を有するアルミニウム多孔体の製法を提供できる。
上記第4のアルミニウム多孔体の発明によれば、アルミニウム微粒子の加熱温度を550〜600℃にすることにより空隙率が高くしかも機械的強度が大きいアルミニウム多孔体の製法を提供できる。
上記第5のアルミニウム多孔体の発明によれば、金型内のアルミニウム微粒子を3.0〜6.0kg/cmで押圧することにより空隙率が高くしかも機械的強度が大きいアルミニウム多孔体の製法を提供できる。
上記第6のアルミニウム多孔体の発明によれば、上記の特定された方法で製造することにより少なくとも吸水量が0.025g/cm以上で機械的強度が大きい2層のアルミニウム多孔体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明はアルミニウム部材をクラッシング法やグラインディング法等の機械的手段を用いて粒径が300μm以下の微粒子に粉砕して表面に凹凸が形成された微粒子を成形するとともに表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子の表面を軟化する温度範囲に保持した状態で押圧するため表面の凹凸が維持された状態で押圧されることになりアルミニウム微粒子の凸部で結合される一方、凹部において空隙が形成されるため空隙率の高い多孔体が生成される。
図1は本願発明の表面に凹凸が形成された微粒子を用いて成形されたアルミニウム多孔体の100倍像の光学顕微鏡写真であるが、この図1の光学顕微鏡写真からも本願発明の方法で成形されたアルミニウム多孔体は三次元の連通孔の割合がきわめて高い多孔体が形成されていることが分かる。
【0008】
また、本願発明のアルミニウム多孔体の成形方法は機械的手段により得られたアルミニウム微粒子を溶解温度より低い軟化する温度領域で押圧するためアルミニウム多孔体を構成するアルミニウムは図2の電子顕微鏡写真(5万倍像)に示されているように針状単結晶(ウイスカー)の構造を有している。
このアルミニウムの針状単結晶(ウイスカー)の生成が本願発明の吸水性の向上にどのような影響を与えているかについては定かでないが本願発明の多孔体を形成するアルミニウムは針状単結晶(ウイスカー)構造を有している。
【0009】
本願発明において用いる成形金型は図3に示されているような金型(1)(2)が好適に使用できる。なお、本願発明で用いる加熱手段としては特に限定されるわけではないが金型内に充填されているアルミニウム微粒子が早く均質に加熱できるという観点から考慮すると赤外線照射や高周波誘導加熱等の加熱手段を用いることが好ましい。本願発明は上記のような特徴を有するが本願発明の表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を用いるアルミニウム多孔体の成形方法を図3および図4を用いて下記に説明する。
【0010】
図3は表面に凹凸が設けられたアルミニウム微粒子(3)を金型(1)(2)内に均等に充填しアルミニウム微粒子の表面温度が550〜650℃になるように加熱している態様を示したものである。すなわちアルミニウム微粒子の表面を融解しないが強い押圧力を付加することによりアルミニウム微粒子が互いに結合できる550〜650℃の温度に加熱する。そしてアルミニウム微粒子の表面が軟化した状態で30〜60kg/cmの圧力で20秒〜120秒程度押圧して成形する。図4は成形後金型から取り出したアルミニウム多孔体(4)の断面を模式的に示したものである。図4の模式図で示されているように本願発明の方法で成形されたアルミニウム多孔体(4)は金型に接している上面層(5)および下面層(6)は強い押圧力が付加されているため空隙率が低いのに対しアルミニウム多孔体の芯層(7)の空隙率は高くなっている。
すなわち、本願発明のアルミニウム多孔体(4)は空隙率が大きい芯層(7)により高い吸水率を保持することができる一方、空隙率が低い上面層(5)および下面層(6)を有することで機械的強度が大きいという特徴を有している。
以下、本願発明のアルミニウム多孔体の成形方法を実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0011】
アルミニウム材をクラッシング法で粉砕して粒子径が300μm以下の微粒子を成形するとともにアルミニウム多孔体におけるアルミニウム微粒子径と吸水性の関係を調べるために、得られたアルミニウム微粒子を100μm以下、200μm以下、300μm以下の3種類の粒度に分別する。また本願発明のアルミニウム微粒子から成形された多孔体と従来のガス溶射法で成形された粒子表面が平滑なアルミニウム微粒子を用いて成形された多孔体の吸水性の違いを比較するためにガス溶射法で成形されたアルミニウム微粒子を別途成形する。
なお、ガス溶射法で成形されたアルミニウム微粒子は径の大きさにより分別することが困難であるため粒径が50〜200μmの混合粒子を使用した。
【0012】
このように成形されたアルミニウム微粒子を(イ)100μm以下(ロ)200μm(ハ)300μm以下(ニ)ガス溶射法(50〜200μm)に区分する。このアルミニウム微粒子を成形面積が918mm×1829mmの金型に均等に充填して赤外線加熱装置を用いて金型内のアルミニウム微粒子の表面温度を600℃程度にするために50秒程度加熱する。アルミニウム微粒子の表面が軟化した状態で1000トン(メートルトン)の圧力で押圧して厚さが2mmのアルミニウム多孔体を成形する。表1は成形されたアルミニウム多孔体を縦10cm×横10cmに切断し大気中で20℃における吸水量(g)を比較したものであるが、表1からも明らかなように本願発明のアルミニウム多孔体は従来のガス溶融法で成形したアルミニウム多孔体に比較して顕著な吸水性であることが示されている。特に、粒子径が100μm以下の場合の吸水性が著しく優れていることが分かる。
【表1】

また、表2は本願発明で成形したアルミニウム多孔板と従来の溶射法で成形したアルミニウム多孔体に1gの水滴を載せて水滴が消失する時間(秒)を比較したものである。表2からも明らかなように本願発明で成形されたアルミニウム多孔体の吸水速度は従来の溶射法で成形したアルミニウム多孔体に比較して吸水速度が速い、特に粒径が100μm以下の場合の吸水速度が著しいことが分かる。
【表2】

本願発明のアルミニウム多孔体の吸水量や吸水速度が従来の溶射法で成形されたアルミニウム多孔体に比較して吸水量や吸水速度が優れている理由やアルミニウムの微粒子の粒径が小さくなるにしたがって吸水量や吸水速度が著しく向上する理由は必ずしも明確にされているわけではないが機械的手法で成形され表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を軟化温度で加熱した状態で押圧することによりアルミニウム多孔体における上面から裏面に連通した空隙容量の生成に大きく寄与しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明で成形されたアルミニウム多孔体の光学顕微鏡100倍像の写真である。
【図2】本願発明で成形されたアルミニウム多孔体の電子顕微鏡5万倍像の写真である。
【図3】本願発明の加圧成形している態様を模式的に示したものである。
【図4】本願発明で成形されたアルミニウム多孔体の断面図を模式的に示したものである。
【符号の説明】
【0014】
1 上金型
2 下金型
3 アルミニウム微粒子
4 アルミニウム多孔体
5 アルミニウム多孔体の上面層
6 アルミニウム多孔体の下面層
7 アルミニウム多孔体の芯層



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的手段により粉砕され表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を該アルミニウム微粒子の表面が軟化する温度範囲で押圧することを特徴とする吸水量が0.025g/cm以上のアルミニウム多孔体の製造方法。
【請求項2】
機械的手段により粉砕された粒子径が200μm以下で表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を該アルミニウム微粒子の表面が軟化する温度範囲で押圧することを特徴とする吸水量が0.04g/cm以上のアルミニウム多孔体の製造方法。
【請求項3】
機械的手段により粉砕された粒子径が100μm以下で表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を該アルミニウム微粒子の表面が軟化する温度範囲で押圧することを特徴とする吸水量が0.065g/cm以上のアルミニウム多孔体の製造方法。
【請求項4】
表面に凹凸が形成されたアルミニウム微粒子を550〜600℃の温度範囲で押圧することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアルミニウム多孔体の製造方法。
【請求項5】
表面に凹凸が設けられたアルミニウム微粒子を30〜60kg/cmで押圧することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアルミニウム多孔体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5に記載のいずれかの方法で製造された2層の多孔体であって、表面層を形成する多孔体が芯部層を形成する多孔体より空隙率が低く機械的強度が大きい構造であることを特徴とする吸水量が少なくとも0.025g/cm以上であるアルミニウム多孔体。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57584(P2009−57584A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223804(P2007−223804)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503406435)有限会社 アウルポ−タ− (3)
【Fターム(参考)】