説明

吸水性微粒子及び電線の製造方法

【課題】吸水性ポリマの微粒子化と吸水特性の両立を実現できる吸水性微粒子を提供すると共に、この吸水性微粒子を用いた電線の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤を溶媒に溶解した後に加熱重合し沈殿析出させることにより得た3元共重合体の微粒子を金属水酸化物で中和する方法。及び、得られた吸水性微粒子に水を含浸吸水させた含浸吸水微粒子が添加された紫外線硬化樹脂前駆体を長尺状の導体上に塗布し、前記紫外線硬化樹脂前駆体に紫外線を照射し、前記紫外線硬化樹脂前駆体を硬化させて紫外線硬化樹脂層を形成した後、前記紫外線樹脂層から前記含浸吸水微粒子中の水を乾燥除去製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性微粒子及び電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性ポリマは紙おむつなどの衛生用品や農業用保水材、遮水材など多くの分野に利用されている。吸水性ポリマの吸水スピードや取扱い性を向上させる目的で、ポリマを均一な微粒子状にする方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3などの逆相懸濁重合法を用いた方法がある。この方法では、百マイクロメートル以上の直径を有する、10倍以上の吸水特性を有する樹脂が得られている。
【0004】
さらに、微粒子化する方法として、非特許文献1〜3などに、沈殿重合を用いる方法が提案されている。沈殿重合による方法は、吸水倍率が1倍程度と低いが、粒子径が1〜3μmの間で、極めて均一な粒子を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−12613号公報
【特許文献2】特許第2611125号公報
【特許文献3】特許第2938920号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Journal of Polymer Science: Part A : Polymer Chemistry」,2004,vol.42,p.2833-2844
【非特許文献2】「Journal of Polymer Science: Part A : Polymer Chemistry」,2004,vol.42,p.2823-2832
【非特許文献3】第8回高分子ミクロスフェア討論会(1994年11月9日−11月11日)予稿集,p.83−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、吸水性ポリマを含水させた状態で紫外線硬化樹脂前駆体に分散させ、紫外線により樹脂前駆体を硬化させた後に脱水を行うことで多孔質体を得て、この多孔質体を電線ケーブルの絶縁層に用いることで多孔質体絶縁電線ケーブルを開発した。そこで用いられる吸水性ポリマは微粒子で、かつ、吸水倍率が大きいことが望まれる。
【0008】
先に示したように、逆相懸濁重合を用いた方法では、数ミクロンオーダの粒子を得ることは難く、他方、沈殿重合による方法では、数ミクロンオーダの微粒子である吸水性微粒子を得ることはできるが、吸水特性が不十分であるという問題点を有している。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、吸水性ポリマの微粒子化と吸水特性の両立を実現できる吸水性微粒子を提供すると共に、この吸水性微粒子を用いた電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために創案された本発明は、少なくとも不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤を溶媒に溶解した後に加熱重合し沈殿析出させることにより得た3元共重合体の微粒子を金属水酸化物で中和する吸水性微粒子の製造方法である。
【0011】
前記金属水酸化物は、水酸化ナトリウムであるとよい。
【0012】
前記不飽和有機酸は、アクリル酸またはメタクリル酸であるとよい。
【0013】
前記不飽和アミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドであるとよい。
【0014】
また、本発明は、前記の製造方法により得た吸水性微粒子に水を含浸吸水させた含浸吸水微粒子が添加された紫外線硬化樹脂前駆体を長尺状の導体上に塗布し、前記紫外線硬化樹脂前駆体に紫外線を照射し、前記紫外線硬化樹脂前駆体を硬化させて紫外線硬化樹脂層を形成した後、前記紫外線硬化樹脂層から前記含浸吸水微粒子中の水を乾燥除去する電線の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸水性ポリマの微粒子化と吸水特性の両立を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で合成した吸水性微粒子の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明において、電線を製造するための塗布硬化乾燥装置を示す図である。
【図3】本発明において、吸水性微粒子を用いて製造した電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0018】
本実施の形態に係る吸水性微粒子の製造方法では、主な原料として、不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤、さらに、金属水酸化物を用いる。
【0019】
不飽和有機酸としては、アクリル酸もしくはメタクリル酸が望ましい。
【0020】
不飽和アミドとしては、アクリルアミドもしくはメタクリルアミドが望ましい。
【0021】
架橋剤としては、メチレンビスアクリルアミドやメチレンビスメタクリルアミドなどが望ましい。
【0022】
重合開始剤としては、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル、N,N’−アゾビスイソバレロニトリル、アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾビス系化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物系化合物や、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸系化合物を用いることができる。
【0023】
本発明の合成方法としては、不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤、重合開始剤の混合組成物を適当な溶媒に溶解した後に加熱重合し沈殿析出させる沈殿重合を用いる。
【0024】
使用する溶媒としては、原料には溶解性があり、重合反応後のポリマには不溶であり、沈殿析出させる特性を有することが求められ、例えば、エタノール、メタノール、プロパノールなどのアルコール系溶剤が挙げられる。
【0025】
また、本発明で使用する金属水酸化物としては、有機酸を中和して塩を作ることが必要であり、それによって吸水特性が向上する。金属水酸化物には入手性やコストや吸水性能から水酸化ナトリウムが望ましい。
【0026】
本実施の形態に係る吸水性微粒子の製造方法では、まず、不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤を溶媒に溶解させ、次いで、加熱重合して沈殿析出させることにより3元共重合体の微粒子を合成する。その後、これに金属水酸化物を加えて中和し、吸水性微粒子を得る。
【0027】
こうして得られた吸水性微粒子は、粒子径が数ミクロンオーダと微粒子化されており、しかも吸水特性を有している。
【0028】
次に、この吸水性微粒子を用いた電線の製造方法について説明する。
【0029】
吸水性微粒子に水を含浸吸水させて含浸吸水微粒子とした後、この含浸吸水微粒子を紫外線硬化樹脂前駆体に添加した組成物を調製する。ここで、紫外線硬化樹脂とは、紫外線により硬化するもので、樹脂としてはウレタン系、シリコーン系、ふっ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系など公知の樹脂を選択できるが、紫外線硬化樹脂前駆体を硬化させ、硬化膜としたときの誘電率が4以下、好ましくは3以下となるものが良い。
【0030】
調製した組成物を塗料として長尺状の導体に塗布し、紫外線を照射し塗料を固化させ紫外線硬化樹脂層を形成する。その後、乾燥機を用い、紫外線硬化樹脂層から含浸吸水微粒子中の水を乾燥除去することで空孔を形成させ、導体上に微細な多孔質の絶縁層が形成された電線を製造することができる。
【0031】
以上要するに、本発明によれば、不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤を溶媒に溶解した後に加熱重合し沈殿析出させることにより得た3元共重合体の微粒子を金属水酸化物で中和しているので、吸水性ポリマの微粒子化と吸水特性の両立を実現できる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0033】
(実施例1)
不飽和有機酸であるメタクリル酸(和光特級、和光純薬社製)1.44g、不飽和アミドであるアクリルアミド(和光一級、和光純薬社製)3.56g、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光特級、和光純薬社製)1.14g、重合開始剤であるアゾビス(イソ酪酸)ジメチル(和光一級、和光純薬社製)0.1g、溶媒であるエタノール100gを還流冷却器を付けたセパラブルフラコスに入れ、窒素ガスを液中にバブリングさせ、二枚羽式の攪拌機で300回転/分で攪拌し、水浴中で65℃に加温した。当初無色透明な液は30分後に白濁し、さらに5時間加熱、その後70℃で30分加熱した。加熱と窒素バブリングを停止し1時間放置した後、20mass%の水酸化ナトリウム水溶液2gを滴下し中和を行った。攪拌を停止し、1昼夜静置した。沈殿物を遠心分離機で濃縮し、吸水性ポリマ(吸水性微粒子)を得た。得られたポリマの吸水前の粒子の形状は図1の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真に示すように、0.7μm程度の粒子径が揃ったものであった。また、この吸水性微粒子は5倍量の水を加えても流動することが無く、5倍量の吸水性能を有することが確認できた。
【0034】
(実施例2)
不飽和有機酸であるメタクリル酸2.5g、不飽和アミドであるアクリルアミド2.5g、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.57g、重合開始剤であるアゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.1g、溶媒であるエタノール100gの組成で、実施例1と同様の装置及び方法で沈殿重合を実施した。加熱と窒素バブリングを停止し1時間放置した後、20mass%の水酸化ナトリウム水溶液5gを滴下し中和を行った。得られた吸水性ポリマ(吸水性微粒子)は、1μm程度の粒子径が揃ったものであった。また、この吸水性微粒子は8倍量の水を加えても流動することが無く、8倍量の吸水性能を有することが確認できた。
【0035】
(実施例3)
まず、H−MDI変性ポリエチレングリコールアジペートジメタクリレートオリゴマ(UA−4002HM、新中村化学)100質量部、モノマとしてシクロペンタニルアクリレート(FA−513AS、日立化成工業)55質量部、光開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE184、チバスペシャリティケミカルズ)3質量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO、チバスペシャリティケミカルズ)4.5質量部、酸化防止剤として2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035、チバスペシャリティケミカルズ)0.15質量部、安定剤としてヒドロキノン0.15質量部を混練機に投入し混練し、紫外線硬化樹脂前駆体を用意した。
【0036】
次に、実施例2で得た吸水性微粒子に8倍量の水を加えて含浸吸水微粒子とし、これを液状の紫外線硬化樹脂前駆体に50mass%加えた組成物をアプリケータで塗布した後、紫外線を照射し硬化させて膜を形成した。さらに110℃で30分膜を加熱して水を除去し、膜厚100μmで平均孔径2μmの多孔質の膜を得た。
【0037】
(実施例4)
実施例2で得た吸水性微粒子に8倍量の水を加えて含浸吸水微粒子とし、これを液状の紫外線硬化樹脂前駆体に50mass%加えた組成物を塗料として用い、図2に示すような、電線導体送出し機2、塗布ダイス3、紫外線ランプ4(メタルハライドランプ1kW)、乾燥機5(250℃熱風方式1秒加熱)、電線巻取り機6(100m/分)からなる塗布硬化乾燥装置1を用いて電線を作製した。
【0038】
ここで、図3に示すように、導体8としては、25μm径の銅線7本の撚線を使用し、絶縁層9の厚さが40μmの電線7を得た。得られた絶縁層9は、平均粒径2μmの気泡が全絶縁体層の体積中で50%を有していた。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同様な組成、方法で沈殿重合を実施した。水酸化ナトリウム水溶液での中和を行わずに、合成を終了し、1昼夜静置した。沈殿物を遠心分離機で濃縮し、吸水性微粒子を得た。得られた微粒子は1μm程度の粒子径が揃ったものであったが、1倍量の水も吸水できす、吸水特性が劣っていた。
【符号の説明】
【0040】
1 塗布硬化乾燥装置
2 電線導体送出し機
3 塗布ダイス
4 紫外線ランプ
5 乾燥機
6 電線巻取り機
7 電線
8 導体
9 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも不飽和有機酸、不飽和アミド、架橋剤および重合開始剤を溶媒に溶解した後に加熱重合し沈殿析出させることにより得た3元共重合体の微粒子を金属水酸化物で中和することを特徴とする吸水性微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属水酸化物は、水酸化ナトリウムである請求項1に記載の吸水性微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和有機酸は、アクリル酸またはメタクリル酸である請求項1又は2に記載の吸水性微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記不飽和アミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである請求項1乃至3のいずれかに記載の吸水性微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の吸水性微粒子の製造方法により得た吸水性微粒子に水を含浸吸水させた含浸吸水微粒子が添加された紫外線硬化樹脂前駆体を長尺状の導体上に塗布し、前記紫外線硬化樹脂前駆体に紫外線を照射し、前記紫外線硬化樹脂前駆体を硬化させて紫外線硬化樹脂層を形成した後、前記紫外線樹脂層から前記含浸吸水微粒子中の水を乾燥除去することを特徴とする電線の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184386(P2012−184386A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50298(P2011−50298)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】