説明

吸水性樹脂組成物

【課題】吸水性樹脂について、吸収した液体が陽イオンの影響により放出されるのを抑制する。
【解決手段】吸水性樹脂組成物は、吸水性樹脂100gに対し、アルギン酸系化合物を1〜100g含む。利用可能なアルギン酸系化合物はアルギン酸またはアルギン酸塩であり、アルギン酸塩は、例えば、アルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウムである。アルギン酸系化合物は、二種類以上のものが併用されてもよい。この吸水性樹脂組成物は、そのままで、或いは、液体透過性の素材で包装した吸収体として、液体透過性シートと液体不透過性シートとの間に配置され、紙おむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、特に、吸水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料をはじめとする各種の液体を吸収するための吸収性物品は、吸水性樹脂を用いることで液体の吸収量が高められている。ここで用いられる吸水性樹脂は、アクリル酸塩重合体の架橋物や澱粉−アクリル酸塩グラフト共重合体の加水分解生成物の架橋物などを代表的なものとして挙げることができるが、いずれの種類のものについても、吸収する液体の種類にかかわらず、陽イオン、特に多価陽イオンの影響を受け、一旦吸収した液体を放出してしまうという不具合がある。
【0003】
そこで、吸水性樹脂を用いた吸収性物品においては、陽イオンの影響を抑制するための改良が試みられている。例えば、特許文献1には、吸水性樹脂に対し、分子構造中にカルボキシル基やスルホン基などの陽イオンを吸着する官能基を有する有機物からなるイオン捕捉物質を組合わせた体液吸収物品が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の体液吸収物品は、そこで用いられるイオン捕捉物質の具体的な構造が不明であり、また、吸水性樹脂のゲル化物によるベト付き等の不快感を抑えることを目的としたものであって、液戻りの防止を目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−261924号公報(特許請求の範囲並びに段落0005、0006および0017等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、吸水性樹脂について、吸収した液体が陽イオンの影響により放出されるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸水性樹脂組成物は、吸水性樹脂と、アルギン酸およびアルギン酸塩のうちの少なくとも一種のアルギン酸系化合物とを含むものである。
【0008】
この吸水性樹脂組成物は、通常、吸水性樹脂100gに対し、アルギン酸系化合物を1〜100g含む。
【0009】
本発明の吸収体は、本発明の吸水性樹脂組成物を含む吸収材を液体透過性の素材で包装したものである。また、本発明の吸収性物品は、液体透過性シート、液体不透過性シートおよび液体透過性シートと液体不透過性シートとの間に配置された本発明の吸水性樹脂組成物または吸収体を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸水性樹脂組成物は、吸水性樹脂に対してアルギン酸系化合物を組合わせたものであるため、吸収した液体が陽イオンの影響により放出されるのを抑制することができる。
【0011】
本発明の吸収体および吸収性物品は、本発明の吸水性樹脂組成物を用いたものであるため、吸収した液体が陽イオンの影響により放出されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸水性樹脂組成物は、尿や血液等の水性液体をはじめとする各種の液体を吸収するためのものであり、吸水性樹脂とアルギン酸系化合物とを含むものである。
【0013】
ここで用いられる吸水性樹脂は、各種のものであって特に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸塩重合体の架橋物、澱粉−アクリル酸塩グラフト共重合体の加水分解生成物の架橋物、ビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体の架橋物、無水マレイン酸グラフトポリビニルアルコールの架橋物、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸部分中和物架橋体および酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物等が挙げられる。このうち、大量の液体を吸収することができ、多少の荷重をかけても吸収した液体を分子内に安定に保持可能なアクリル酸塩重合体の架橋物を用いるのが好ましい。
【0014】
吸水性樹脂は一般に粉末状や顆粒状のものが好ましく、このような吸水性樹脂は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等の他、各種の重合方法で製造したものを必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調製することができる。
【0015】
一方、アルギン酸系化合物としては、アルギン酸またはその塩が用いられ、二種以上のものを併用することもできる。利用可能なアルギン酸およびその塩の種類は、特に限定されるものではなく、食品添加物や工業用等の各種の用途用として一般に市販されているものを用いることができる。但し、アルギン酸塩は、通常、ナトリウム塩またはカリウム塩を用いるのが好ましい。
【0016】
市販されているアルギン酸としては、例えば、富士化学工業株式会社の「スノーアシッドアルギン」(商品名)などが挙げられる。また、市販されているアルギン酸ナトリウムとしては、例えば、株式会社キミカの各種グレードの「キミカアルギン」(商品名)および富士化学工業株式会社の「スノーアルギンM」(商品名)などが挙げられる。
【0017】
アルギン酸系化合物の形態は、特に限定されるものではないが、通常は粉状または顆粒状のものを用いるのが好ましい。
【0018】
アルギン酸系化合物の使用量は、通常、吸水性樹脂100gに対し、1〜100gに設定するのが好ましく、3〜50gに設定するのがより好ましい。アルギン酸系化合物の使用量が1g未満の場合、陽イオンの影響による液体の保水能の低下抑制効果を吸水性樹脂に対して付与しにくくなる可能性がある。逆に、100gを超える場合は、使用量に見合う効果がなく、却って不経済である。
【0019】
本発明の吸水性樹脂組成物は、通常、吸水性樹脂とアルギン酸系化合物とを混合することで製造することができる。この際、抗菌剤、消臭剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤等の各種の添加剤を併せて混合することもできる。また、吸水性樹脂は、吸水したものであってもよい。
【0020】
本発明の吸収体は、吸収材を液体透過性の素材で包装したものである。ここで用いられる吸収材は、上述の吸水性樹脂組成物を含むものであり、吸水性樹脂組成物の他に、例えば、木材から得られる綿状パルプ、メカニカルパルプ、ケミカルパルプおよびセミケミカルパルプ等のセルロース繊維並びにレーヨンおよびアセテート等の人工セルロース繊維等の親水性繊維をさらに含んでいてもよい。また、吸水性樹脂組成物に含まれる添加剤とは別に、滑剤、酸化剤、還元剤、消臭剤、抗菌剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤等の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。なお、ここで用いられる親水性繊維は、補強材として、ポリアミド、ポリエステルまたはポリオレフィン等の合成樹脂からなる繊維を含有していてもよい。
【0021】
一方、液体透過性の素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル若しくはポリアミド等の合成樹脂からなる不織布または多孔質シート等が用いられる。
【0022】
本発明の吸収性物品は、液体が通過し得る液体透過性シート(トップシート)と、液体が通過しにくい液体不透過性シート(バックシート)との間に上述の吸水性樹脂組成物または吸収体を保持したものである。
【0023】
ここで利用可能な液体透過性シートとしては、例えば、上述の液体透過性の素材等からなるシートが挙げられる。一方、液体不透過性シートとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリアミド等の合成樹脂からなるフイルム並びにこれらの合成樹脂からなるフイルムと不織布との複合材料等からなるシートが挙げられる。
【0024】
吸収性物品は、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料、愛玩動物用のいわゆるペットシート等の日用品、各種の配管やケーブル等の止水材料および土木建築用や工業用の吸水シートまたは養生シート等として用いることができ、用途に応じて大きさや形状を任意に設定することができる。そして、吸収性物品は、使用時において、液体透過性シート側が尿や血液等の体液や浸出水などの液体の発生源側になるようにして用いられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例等によってなんら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
粉末状の吸水性樹脂(住友精化株式会社の商品名「SA50」)2.0gと粉末状のアルギン酸(富士化学工業株式会社の商品名「スノーアシッドアルギン」)0.1gとをミキサーを用いて乾式混合し、吸水性樹脂組成物を調製した。
【0027】
実施例2
アルギン酸の使用量を0.3gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0028】
実施例3
アルギン酸の使用量を0.5gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0029】
実施例4
アルギン酸の使用量を0.7gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0030】
実施例5
アルギン酸の使用量を1.0gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0031】
実施例6
アルギン酸に替えてアルギン酸ナトリウム(富士化学工業株式会社の商品名「スノーアルギンM」)を用いた点を除いて実施例1と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0032】
実施例7
アルギン酸に替えてアルギン酸ナトリウムを用いた点を除いて実施例2と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0033】
実施例8
アルギン酸に替えてアルギン酸ナトリウムを用いた点を除いて実施例3と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0034】
実施例9
アルギン酸に替えてアルギン酸ナトリウムを用いた点を除いて実施例4と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0035】
実施例10
アルギン酸に替えてアルギン酸ナトリウムを用いた点を除いて実施例5と同様に操作し、吸水性樹脂組成物を製造した。
【0036】
評価1
実施例1〜10で得られた吸水性樹脂組成物の全量を人工尿(塩化ナトリウム濃度0.9質量%、塩化マグネシウム濃度0.06質量%、塩化カルシウム濃度0.03質量%)100gに投入し、10分間撹拌した後に目開き75μmのJIS標準篩いを用いてろ過し、10分間静置した。この分離された膨潤物の質量(A)を測定し、次の式により吸水能を算出した。
【0037】
【数1】

【0038】
次に、膨潤物に1.0質量%塩化カルシウム水溶液200gを添加し、5分間静置後に目開き75μmのJIS標準篩いを用いてろ過し、10分間静置した。この分離された膨潤物の質量(B)を測定し、次の式により保水能を算出した。
【0039】
【数2】

【0040】
また、実施例1〜10において用いた吸水性樹脂のみについて、同様にして吸水能および保水能を調べた。以上の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
評価2
評価1で用いたものとは別に調製した実施例1〜10の吸水性樹脂組成物について、評価1と同様にして吸水能を調べた。また、吸水能を調べた後の膨潤物に1.0質量%塩化鉄(FeCl)水溶液300gを添加し、5分間静置後にろ過した。分離された膨潤物を10分間静置した後に質量(B)を測定し、評価1の場合と同様の式により保水能を算出した。
【0043】
また、実施例1〜10において用いた吸水性樹脂のみについて、同様にして吸水能および保水能を調べた。以上の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表1および表2によると、実施例1〜10の吸水性樹脂組成物は、吸水能を維持しつつ、保水能が顕著に高められていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂と、アルギン酸およびアルギン酸塩のうちの少なくとも一種のアルギン酸系化合物とを含む吸水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記吸水性樹脂100gに対し、前記アルギン酸系化合物を1〜100g含む、請求項1に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸水性樹脂組成物を含む吸収材を液体透過性の素材で包装した吸収体。
【請求項4】
液体透過性シートと、
液体不透過性シートと、
前記液体透過性シートと前記液体不透過性シートとの間に配置された請求項1または2に記載の吸水性樹脂組成物と、
を備えた吸収性物品。
【請求項5】
液体透過性シートと、
液体不透過性シートと、
前記液体透過性シートと前記液体不透過性シートとの間に配置された請求項3に記載の吸収体と、
を備えた吸収性物品。

【公開番号】特開2012−153823(P2012−153823A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15290(P2011−15290)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】