説明

吸水性物品の製法

【課題】塗布液の塗布工程を有する吸水性物品の製法に関し、物品の品質を保つことと量産性とを両立させる製法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の吸水性物品の製法は、塗布液の基材への塗布工程を有し、該塗布工程は、水平に搬送された基材の基材面に該基材の上方に配置された複数のノズルから塗布液を供給する工程を有し、前記塗布液をポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有するものとし、ノズルからの塗布液の吐出時には、ノズルから吐出された液滴状の塗布液が相互に重ならないようにノズル間隔をノズルの軸間距離を100mm以内で調整し、塗布液の粘度を1〜3mPa・sとなるように調整することで、基材の水平搬送のみで、基材上の塗布された塗布液が、該塗布液のレベリング作用によって平坦化せしめることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を基材に塗布して得られるウレタン樹脂よりなる被膜を有する吸水性物品の製法に関し、該物品を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に塗布液を塗布し、乾燥工程等を得て基材上にウレタン樹脂よりなる吸水性を有する機能性被膜を形成させてなる吸水性物品が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。特許文献1での吸水性物品は、被膜の形成がなければ物品が曇る環境であったとしても、被膜の吸水性を活用することで物品の曇りを抑制し、物品の透視性を確保せしめる。
【0003】
従来から、平板状の基材への塗布方法として、ノズルから塗布液を供給することで、基材に塗布液を塗布する方法が提案されている。特許文献3及び4は、2個以上並んだノズルの開口部から、1〜1000Pa・sの高粘度塗布液を水平に搬送された基材に供給して塗布する方法を開示している。また、特許文献5は、回転するディスク状基材上に複数のノズルから塗布液を基材に供給することで、基材に単位面積当たり均一な量の塗布液を塗布し、次いで基材上に塗布された塗布液をレベリング作用によって平坦化させて被膜を得る方法を開示している。
【特許文献1】特表昭63−500590号公報
【特許文献2】特開2007−76999号公報
【特許文献3】特開2001−137760号公報
【特許文献4】特開2001―137761号公報
【特許文献5】特開2004−73969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸水性物品の量産性を考慮すると、基材上に単位面積当たり均一な量の塗布液の塗布することに向く複数のノズルから塗布液を基材に供給する工程を有する塗布方法は、量産性の観点からは、魅力的な方法である。しかしながら、該方法を採用して吸水性物品を得る場合、種々の考慮すべき事項が存在する。
【0005】
該方法を採用する場合、ノズル位置を固定し、基材は水平方向に搬送する方式を採用することが吸水性物品の量産性の観点から好ましい。塗布液は、複数のノズルから供給されることになるため、基材上に吐出された塗布液が相互に影響しあうことになる。これは、結果的に平坦な被膜を得ることを難しくする。また、基材に塗布された塗布液中の溶媒の乾燥までの間に、基材に塗布された塗布液を平坦化させるために別途機械的操作を設けることは、塗布液の塗布装置を複雑化させ、コスト高につながる。
【0006】
本発明は、該技術的課題の解決を目的とし、塗布液の塗布工程を有する吸水性物品の製法に関し、物品の品質を保つことと量産性とを両立させる製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸水性物品の製法は、基材及び該基材上に形成された吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有する吸水性物品の製法であり、該製法は、塗布液の基材への塗布工程を有し、該塗布工程は、水平に搬送された基材の基材面に該基材の上方に配置され且つ基材の搬送方向に対して基材を垂直に横切る方向に配列された複数のノズルから塗布液を供給する工程を有し、前記塗布液をポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有するものとし、ノズルからの塗布液の吐出時には、ノズルから吐出された液滴状の塗布液が相互に重ならないようにノズル間隔をノズルの軸間距離を100mm以内で調整し、塗布液の粘度を1〜3mPa・sとなるように調整することで、基材の水平搬送のみで、基材上の塗布された塗布液が、該塗布液のレベリング作用によって平坦化せしめることを特徴とする。
【0008】
水平に搬送された基材(好ましくは平板状基材、より好ましくは矩形状の平板状基材)面の上方に配置されたノズルから供給される塗布液の粘度を1〜3mPa・s、好ましく1〜2.5mPa・sと調整し、ノズルからの塗布液の吐出時には、ノズルから吐出された液滴状の塗布液が相互に重ならないようにノズル間隔をノズルの軸間距離を100mm以内で調整することで、基材の水平搬送のみで、基材上の塗布された塗布液が、該塗布液のレベリング作用によって平坦化せしめることに奏功する。
【0009】
塗布液の粘度は、厚い膜厚の被膜表面の平坦度を良くすることに主として作用する。3mPa・s超では、塗布液が基材上に塗布際に塗布液のレベリング作用が低くなる傾向があり、結果、被膜表面の平坦度を低下させることに繋がりやすい。他方、1mPa・s未満では、基材に塗布された塗布液が基材の裏側に廻り込みやすく物品の外観品質の低下に繋がりやすく好ましくない。
【0010】
上記した塗布液の粘度は、周囲の温度環境によっても調整されえる。塗布液の粘度を1〜3mPa・sに調整しやすくするためにも、周囲の温度は、20〜30℃、好ましくは、21〜27℃、さらに好ましくは、23〜25℃とし、塗布液及び塗布液が塗布される基材の温度を一定条件に調整しておくことが好ましい。
【0011】
また、塗布液の粘度を1〜3mPa・sに調整しやすくする方法として、前記溶媒がメチルエチルケトンを有し、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有するものとすることが好ましい。メチルエチルケトンは、粘度が0.4mPa・s(20℃)と低く、これを主として含むものを溶媒とすると、固形分を多く含んだ塗布液の粘度を1〜3mPa・sに調整しやすく好ましい。
【0012】
液体物質は、粘度が低い物質ほど揮発しやすい傾向がある。揮発しやすい物質を溶媒として使用すると、塗布液を基材に塗布した後に溶媒が基材上に保持される時間が短くなり、塗布された塗布液がレベリングされるのに十分な時間が得にくくなる。また、経時による塗布液の固形分濃度の変動が起こりやすく、塗布液の管理も煩雑なものとなりやすい。また、揮発されにくいという条件だけで、溶媒を選定すると、塗布液の粘度を増大させることにつながるので、塗布液を基材に塗布したときに塗布液が塗り広がりにくくなり、表面が平坦な塗膜を得ることが難しくなる。メチルエチルケトンは、粘度が比較的低いにもかかわらず、大気圧下で沸点が80℃と比較的高いので、他の粘度の低い液体物質と比べて、塗布液の固形分濃度の変動が起こりにくい。また、塗布液が基材に塗布された後の溶媒の蒸発が、例えば、塗布環境が20〜30℃の場合でも達成される。これは、塗布液がレベリングされるのに十分な時間を確保しながらであるので、吸水性物品を効率的に生産せしめるためには、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有するものとすることが好ましい。
【0013】
塗布液中の固形分は、厚い膜厚の被膜(例えば、5〜100μm、好ましくは5〜60μm、より好ましくは10〜50μm)を効率良く得ようとする場合には、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜30質量%とするとよい。
【0014】
さらに、本発明の吸水性物品の製法においては、ノズル内の塗布液の水分量を1000ppm以下、好ましくは900ppm、より好ましく800ppm以下に調整することが好ましい。水分量の下限は、特には限定されないが、生産コストを考慮し、100ppm以上、より好ましくは200ppmとしても良い。
【0015】
水分量の調整は、塗布液中のポリイソシアネートと水とが反応して、樹脂化しない不純物を少なくして、より外観品質の優れる吸水性物品を得るために実施した方が好ましいものである。さらに、樹脂化しない不純物を少なくすることは、原料の無駄を少なくするとの観点から好ましいものでもある。
【0016】
塗布液の水分量を調整する方法としては、基材に塗布液を塗布する環境の相対湿度を60〜10%RH、好ましくは55〜30%RH、より好ましくは50〜35%RHに調湿することが好ましい。
【0017】
本発明の吸水性物品の製法において、使用されるノズルの数は基材の面積、又は塗布液が塗布される面積に応じて設定される。生産効率を考慮すると、本発明では、複数のノズルから塗布液を供給し、複数のノズルが基材の搬送方向に対して基材を垂直に横切る方向に配列することが好ましい。
【0018】
さらには、ノズルの下方に基材がないときにはノズルからの塗布液の給液を停止することが好ましい。
【0019】
またさらには、塗布液が界面活性剤を有し、該界面活性剤が固形分に対して、質量比で0.007〜0.0001倍量、好ましくは0.005〜0.001倍量とすることが好ましい。界面活性剤を添加することで、塗布液のレベリング性がさらに向上し好ましい。界面活性剤の含有量を多くすると得られる被膜の品質が、界面活性剤によって影響され、吸水性物品本来の特性が発揮し難くなることがある。他方、界面活性剤の含有量が少ない場合、塗布液のレベリング性向上効果が少ないので、得られる被膜の品質が界面活性剤によって影響されるかもしれないことを考慮すると、前記した範囲に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の吸水性物品の製法は、塗布液の基材への塗布工程を有する製法の生産効率を向上させることに効果を奏す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の吸水性物品の製法の好適な実施態様を図面で説明する。図1は、塗布液3が基材2に供給されているときの断面の要部を示す図である。また、図2は、塗布液3が基材2に供給されているときを上方から見たときの要部を示す図である。また、図3は図2中のa−a’断面の要部、図4は図2中のb−b’断面の要部、図5は図2中のc−c’断面の要部を示している。
【0022】
塗布液3は、例えば、加圧可能なタンク(図示せず)に保持され、配管(図示せず)を通じて、電磁弁5に供給される。そして、電磁弁5に連結され、基材2に対して略垂直に配置されたノズル4から水平方向に搬送された基材2に供給される。ノズル4からの塗布液3のフロー量はノズル1本あたりに0.5〜5g/秒、好ましくは1〜3g/秒、より好ましくは、1.5〜2.5g/秒とすることが好ましい。
【0023】
ノズル4からの塗布液のフロー量調整のために、ノズル4の先端の開口部(ニードル径)は、0.5〜3mm、好ましくは0.8〜2.5mmのものとすることが好ましい。0.5mm未満では、フロー量が小さくなりすぎるため、目標のフロー量が得にくくなる。また、3mm超では、フロー量が大きくなりすぎたり、取り扱う塗布液の粘度が1〜3mPa・sと比較的低いので給液停止時の液止まりが悪くなりやすい。
【0024】
また、ノズル4の先端と基材2との距離は、5〜150mm、好ましくは10〜60mmとすることが好ましい。5mm未満では、基材が搬送機構により搬送される際にノズルと接触して膜品質を低下する恐れがあり、150mm超では、基材に塗布液をフローした際に液の飛び散りの原因となりやすい。ノズル4、及び電磁弁5は、市中から入手できるものを使用してよく、ノズル4は、汎用的に使用されているSUS304製、SUS316製のもの等を使用してもよい。
【0025】
さらにノズル4間の距離は、一定間隔とすることが好ましく、各ノズル4の軸間が5〜100mm、好ましくは10〜60mm、より好ましくは15〜35mmとすることが好ましい。
【0026】
水平方向に搬送された基材2に塗布された塗布液3は、ノズル4から供給後しばらく、図3に示すように液滴状に基材2上に塗着され、液滴状の塗布液31を形成する。その後、各液滴状の塗布液31は、レベリング作用により平坦化されていく。本発明では、液滴状の塗布液は、相互に重ならないように吐出することにより、塗布された塗布液が隣接する塗布された塗布液と接するときには、互いにある程度平坦化された状態で接するようにすることができる。そして、最終的には図5に示すように塗布された塗布液は、一体化され、その表面が平坦化される。
【0027】
基材2は、図示しない搬送機構により搬送され、該搬送機構は、ロールコンベア、ベルトコンベア等で汎用されているものを使用してもよい。基材2の搬送速度は、0.2〜1.4m/s、好ましくは0.2〜0.8m/sとすることが好ましい。0.2m/s未満では、生産タクトが遅くなりコスト高となりやすく、1.4m/s超では、塗膜部近傍での空気の巻き込みにより、膜品質に悪影響(例えば、膜ムラになり平坦度が損なわれる)を及ぼす場合がある。
【0028】
ノズル4からの塗布液のフロー量調整のために、塗布液3のノズル4からの給液時の吐出圧力を0.005〜0.3MPa、好ましくは0.01〜0.2MPa、より好ましくは0.02〜0.1MPaに調整することが好ましい。
【0029】
基材2は、好適には、ガラスによる基材とすることが好ましく、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスや、無アルカリガラス、硼ケイ酸塩ガラス等からなるものを使用でき、自動車用、建築用、及び産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスで、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等に製造されるものを使用することが特に好ましい。ガラス種としては、クリアガラス、グリーンガラス、ブロンズガラス等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、風冷強化ガラス、化学強化ガラス、合わせガラス等を使用できる。
【0030】
基材2としてガラスを使用する場合、基材面にシランカップリング剤からなるプライマー層を形成させてもよい。好ましいシランカップリング剤としてはアミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシランが挙げられる。好ましいのはγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等である。
【0031】
また、ガラスによる基材以外には、アクリルやポリカーボネート等のプラスチック製の基材としてもよい。基材2の板厚は特に制限されないが、0.1mm以上10mm以下が好ましく、特には0.2mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0032】
ウレタン樹脂よりなる吸水性を有する被膜は、ポリオキシアルキレン鎖を含んだウレタン樹脂を有する被膜が使用されることが好ましい。ウレタン樹脂は、ウレタン特有の弾性を有しているので、他の樹脂と比べて、耐磨耗性に優れているからである。経済性を考慮すると被膜は、樹脂単独とすることが好ましい。
【0033】
また、物品の曇りを抑制し、物品の透視性を確保せしめるために、被膜の吸水率を20〜40質量%としたときには、5〜100μm程度の比較的厚い膜厚の被膜とすることが好ましい。
【0034】
ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られ、ポリオールを適宜選択することで被膜の機能を設定でき、ポリイソシアネート、ポリオール、及びその他の化学種、及び/又はそれらの反応物を有する塗布液を基材に塗布し、硬化させることで被膜が得られる。
【0035】
前記ポリイソシアネートには、ジイソシアネート、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及び/又はイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートを使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソフォロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
【0036】
前記ポリイソシアネートのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数は、ポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1倍量〜3倍量、より好ましくは1.2倍量〜2.5倍量となるように調整することが好ましい。1倍量未満の場合は、塗布剤の硬化性が悪化するとともに、形成された膜は軟らかく、耐候性、耐溶剤性、耐薬品性等の耐久性が低下する。一方、3倍量を超える場合は、過剰硬化により、被膜の製造が困難になりやすい。
【0037】
ポリオキシアルキレン鎖を含んだウレタン樹脂とするためのポリオールとして使用されるポリオキシアルキレン系ポリオールのような吸水性ポリオールは、分子内の水酸基がイソシアネートプレポリマーのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生じ、ウレタン樹脂に吸水性の性状を導入することができる。
【0038】
吸水飽和時の被膜の吸水率が、好適には15質量%以上となるように、吸水性ポリオールの使用量を調整し、被膜中の吸水性ポリオール由来の吸水成分量を調整する。該吸水性成分は、オキシアルキレン系のポリオール由来のものを使用でき、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等を有することが好ましく、吸水性に優れるオキシエチレン鎖を有するポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0039】
ポリエチレングリコールを使用する場合は、吸水性と得られる被膜の強度を考慮し、数平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。
【0040】
また、疎水性ポリオールは、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができ、さらに被膜内の網目構造を確保し、水を吸収したオキシエチレン鎖から水を放出するときの水の経路が明確になり、被膜への吸水と脱水がスムーズすることができる。前記疎水性ポリオールにはアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールであることが好ましい。
【0041】
アクリルポリオールの場合、可撓性と耐擦傷性の両方を併せ持ち、被膜の吸水性の機能を低下させにくく、結果、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができる。これに加え、アクリルポリオールは、被膜を形成するための塗布液を基材に塗布した際の膜厚偏差を均一化するレベリング工程を短縮化させるやすい。従って、平坦な膜表面を得るためにはこのアクリルポリオールを使用することが好ましい。
【0042】
前記ポリオキシアルキレン系ポリオール及び前記疎水性ポリオールとの比は、被膜は吸水率が10〜40質量%となるように調整される。例えば、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの場合、質量比で「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=50:50〜70:30」となる成分比とすることが好ましい。
【0043】
疎水性ポリオール由来の疎水成分は、被膜の吸水率が上記した範囲となるように導入し、好ましくは、「JIS K5600(1999年)」に準拠して得られる被膜の鉛筆硬度が被膜の吸水飽和時において、HB乃至Hとなるように導入することが好ましい。これは、被膜の硬度が低いと、被膜の清掃等のための払拭作業性が難しくなるためである。
【0044】
また、前記した清掃等の払拭作業性を考慮すると、両側末端にイソシアネート基と反応可能な官能基を有する直鎖状ポリジメチルシロキサンを被膜中に導入することができる。被膜中に好適に導入される直鎖状ポリジメチルシロキサンは、被膜を形成する樹脂中の架橋単位として導入することができる。
【0045】
該イソシアネート基と反応可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフィノ基、スルホ基等の電気陰性度の大きな酸素、窒素、硫黄に結合した活性水素を含む官能基を使用することができる。この中で、取扱いの容易さ、塗布剤としたときのポットライフ、得られる被膜の耐久性を考慮すると、イソシアネート基と反応可能な官能基としてはヒドロキシ基を使用することが好ましい。
【0046】
また、塗布液のレベリング性を向上させるために導入される界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤等を使用することが好ましい。
【0047】
尚、本発明での述べてきた被膜の吸水率は、次の方法によって測定されたものとして定義される。『相対湿度50%RH、温度55℃の環境で12時間保持後、同湿度にて温度25℃の環境で12時間保持したときの被膜が形成された物品の質量(a)を測定し、被膜に43℃飽和水蒸気を5分間接触させ、その後、すぐに被膜表面の水膜を払拭後に物品の質量(b)を測定し、[b−a]/[a−(ガラス板の質量)]×100(%)の計算式で得られた値を吸水飽和時の吸水率とした。即ち、吸水率は被膜の質量に対する吸水可能な水分量を質量百分率で表したものである。尚、ここでの(a)値は、被膜が吸水していない状態のものに相当する。』
【実施例】
【0048】
実施例1
1.塗布装置の準備
要部が図1及び図2の構造を有する塗布装置1を用意した。ノズル4は、ニードル径が1.4mmのものであり、ノズル4(SUS316製)の軸間の距離を25mmの一定としてノズル4を39個配置した。(ノズル4は、25mm間隔で配置される)また、3mm厚さの基材2がノズル4の下方に来たときに、ノズル4との距離が25mmとなるようにノズル位置を調整した。また、塗布装置1の周囲環境が温度25℃、相対湿度45%RHとなるように調整した。
【0049】
2.塗布液3の準備
イソシアネート基を有するイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプポリイソシアネート(商品名「N3200」住友バイエルウレタン製)を塗布剤Aとした。
【0050】
数平均分子量1000のポリエチレングリコール、及び数平均分子量3000で水酸基価33mgKOH/gのアクリルポリオールを50質量%有する溶液(「デスモフェンA450BA」;住化バイエルウレタン社製)を準備し、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの質量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=60:40」となるように混合し、これを塗布剤Bとした。
【0051】
塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.8倍量となるように、100g質量部の塗布剤Bに対し、33g質量部の塗布剤Aを添加混合し、ウレタン成分総量が27質量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒としてメチルエチルケトンを添加混合した。次いで、界面活性剤(SILWET L-7001、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を固形分に対して0.002倍量を添加して被膜を形成するための塗布剤を調製した。
【0052】
こうして得られた塗布液の溶媒は、メチルエチルケトンと酢酸ノルマルブチルからなるものであり、メチルエチルケトンが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が2.0mPa・sであった。
【0053】
3.基材2の準備
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(LS−3150、信越シリコーン社製)を、90重量%のエタノールと10重量%のイソプロピルアルコールからなる変性アルコール(エキネンF−1、キシダ化学社製)で1重量%となるように溶液を調製した。次に該溶液を吸収したセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M−1、50mm×50mm、小津産業製)で、1000mm×1000mm×3mm(厚さ)の矩形状のフロート法で得られたソーダ石灰珪酸塩ガラスよりなるガラス板の表面を払拭することで該溶液を塗布し、室温状態にて乾燥後、水道水を用いてワイパーで膜表面を水洗することで、基材2を準備した。
【0054】
4.塗布液3の基材2への塗布及び被膜の形成
基材2を、搬送装置(図1及び2では図示されない)によりノズル4が配列された箇所より上流側から投入する。そして、基材2が下流側に約500mm進行すれば、別の基材2を投入する。本実施例では、計10枚の基材2が投入された。基材2を水平方向に速度0.4m/sで搬送させ、ノズル4の下方を通過させる。基材2の下流側辺がノズル4の開口部(ニードル)下方に到達後、基材2が下流方向(基材2の進行方向)に10mm進んだ時点から吐出圧力を0.025〜0.05MPaの範囲で調節してフロー量2.2g/秒となるように塗布液3の給液を開始し、基材2の上流側辺から10mm下流側箇所がノズル4の開口部(ニードル)下方に到達したときに塗布液3の供給を終了させる。この繰り返しにより、投入された基材2に全て塗布液3の塗布を行った。尚、ノズル4からの塗布液3の供給は、電磁弁5での開閉操作により、電磁弁が開のときに塗布液3が基材2上に供給される。
【0055】
基材2は、さらに下流に送られ、120℃で60分間加熱する工程を得て、10枚の吸水性物品を得た。本実施例で得られた各吸水性物品は、呼気を吹きかけても曇らず、また、各物品とも外観に異常がなく、成膜面内の被膜の膜厚も50±3μmであった。
【0056】
実施例2
固形分濃度を24質量%となるように希釈溶媒の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、メチルエチルケトンが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が1.8mPa・sであった。本実施例で得られた各吸水性物品は、呼気を吹きかけても曇らず、また、各物品とも外観に異常がなく、成膜面内の被膜の膜厚も42±3μmであった。
【0057】
実施例3
固形分濃度を20質量%となるように希釈溶媒の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、メチルエチルケトンが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が1.3mPa・sであった。本実施例で得られた各吸水性物品は、呼気を吹きかけても曇らず、また、各物品とも外観に異常がなく、被膜の膜厚も35±3μmであった。
【0058】
実施例4
固形分濃度を16質量%となるように希釈溶媒の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、メチルエチルケトンが83質量%、酢酸ノルマルブチルが17質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が1.3mPa・sであった。本実施例で得られた各吸水性物品は、呼気を吹きかけても曇らず、また、各物品とも外観に異常がなく、被膜の膜厚も23±3μmであった。
【0059】
比較例1
希釈溶媒をメチルエチルケトンの代わりにアセトンとした以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本比較例での塗布液の溶媒は、アセトンが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が1.7mPa・sであった。本比較例で得られた各吸水性物品は、基材2に塗布された塗布液3のレベリングが達成される前に溶媒の蒸発が起こったために、レベリング不足により被膜の平坦化が十分ではなかった。
【0060】
比較例2
固形分濃度を2質量%となるように希釈溶媒の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、メチルエチルケトン94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が0.6mPa・sであった。本比較例で得られた各吸水性物品の被膜の膜厚は4±1μmと薄く、目標の吸水量が得られなかった。また、塗布液3が塗布された面の反対側に塗布液の周り込みが起こっていた。
【0061】
比較例3
希釈溶媒をメチルエチルケトンの代わりに酢酸イソブチルとした以外は、実施例と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、酢酸イソブチルが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が4.0mPa・sであった。本比較例で得られた各吸水性物品は、基材2に塗布された塗布液3のレベリングが不十分で、ライン状の被膜が複数に形成された。
【0062】
比較例4
固形分濃度を35質量%となるように希釈溶媒の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして10枚の吸水性物品を得た。本実施例での塗布液の溶媒は、メチルエチルケトン94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が3.8mPa・sであった。本比較例で得られた各吸水性物品は、基材2に塗布された塗布液3のレベリングが不十分で、ライン状の被膜が複数に形成された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】塗布液3が基材2に供給されているときの断面の要部を示す図である。
【図2】塗布液3が基材2に供給されているときを上方から見たときの要部を示す図である。
【図3】図2中のa−a’断面を示す図である。
【図4】図2中のb−b’断面を示す図である。
【図5】図2中のc−c’断面を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 本発明の塗布装置
2 基材
3 塗布液
31 液滴状の塗布液
32 レベリング作用により平坦化された液滴状の塗布液
33 レベリング作用により表面が平坦化された塗布液
4 ノズル
5 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び該基材上に形成された吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有する吸水性物品の製法であり、該製法は、塗布液の基材への塗布工程を有し、該塗布工程は、水平に搬送された基材の基材面に該基材の上方に配置され且つ基材の搬送方向に対して基材を垂直に横切る方向に配列された複数のノズルから塗布液を供給する工程を有し、前記塗布液をポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有するものとし、ノズルからの塗布液の吐出時には、ノズルから吐出された液滴状の塗布液が相互に重ならないようにノズル間隔をノズルの軸間距離を100mm以内で調整し、塗布液の粘度を1〜3mPa・sとなるように調整することで、基材の水平搬送のみで、基材上の塗布された塗布液が、該塗布液のレベリング作用によって平坦化せしめることを特徴とする吸水性物品の製法。
【請求項2】
前記溶媒がメチルエチルケトンを有し、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有することを特徴とする請求項1に記載の吸水性物品の製法。
【請求項3】
塗布液中の固形分濃度を5〜30質量%とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸水性物品の製法。
【請求項4】
ノズル内の塗布液の水分量を1000ppm以下に調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吸水性物品の製法。
【請求項5】
ノズルの下方に基材がないときにはノズルからの塗布液の給液を停止することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吸水性物品の製法。
【請求項6】
塗布液が界面活性剤を有し、該界面活性剤が固形分に対して0.007〜0.0001倍量であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の吸水性物品の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−233579(P2009−233579A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83186(P2008−83186)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】