説明

吸盤および壁面移動機械

【課題】本発明は上記事情に鑑み、窓や壁などに安定して貼りつくことができ、しかも、張り付いたまま移動できる吸盤およびこの吸盤を採用した壁面移動機械を提供することを目的とする。
【解決手段】一の面から凹んだ凹部11hを有する本体部11と、一の面と凹部11hの内底面11sとが、所定の距離よりも接近しないように規制するスペース維持部材15と、を備えており、スペース維持部材15における一の面側に位置する接触面には、摩擦抵抗を低減する摩擦低減部が設けられており、スペース維持部材15は、接触面から凹部11hの内底面11sまでの距離が、本体部11の一の面から凹部11hの内底面までの距離よりも短くなるように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸盤および壁面移動機械に関する。さらに詳しくは、壁や窓ガラスなどの壁面に吸着させることができる吸盤およびこの吸盤を備えた壁面移動機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の窓ガラスや壁面の清掃は、建物の屋上から吊り下げられたゴンドラなどに作業者が乗って、ゴンドラ内から作業者がブラシなどを使って行っていた。
しかし、ゴンドラは、通常、ワイヤーなどによって吊り下げられているだけであり、安定性が低く風が吹いたりすると揺れるので、清掃作業には危険が伴っていた。
かかる事情もあり、壁面や窓ガラスなどの清掃作業を自動で行う機械が求められていた。
【0003】
窓ガラスや壁面の清掃を行う機械として、吸盤などによって窓ガラスや壁面などに張り付いて移動することができるものが研究開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、洗浄機構を装備することにより高層ビル等の壁面を洗浄する壁面移動ロボットが開示されている。この壁面移動ロボットは、ケース本体の壁面対向側の外周縁に沿って略L字状の軟質のゴムシートを装備しており、このゴムシートを壁面に密着させた状態でケース本体内部の空気を排出することによって、本体全体を吸盤として機能させることができるものである。そして、この壁面移動ロボットは、ケース本体内部に駆動輪を備えているので、この駆動輪を作動させることによって、壁面移動ロボットを壁面に取り付けたままで壁面移動ロボットを壁面に沿って移動させることができる。すると、壁面移動ロボットが洗浄機構を備えているので、壁面移動ロボットが壁面に沿って移動すれば、洗浄機構によって壁面を清掃することができる。
また、ゴムシートには、壁面移動ロボットの移動方向と平行(つまり、壁面と平行)となるように配設された軟質性ゴムよりも硬い巻込み防止板が設けられているので、巻込み防止板によってゴムシートの動きが拘束され、ゴムシートがケース本体内部に巻き込まれることを防ぐことができる。具体的には、ゴムシートにおける壁面と垂直な部分が変形したときに、ゴムシートにおいて巻込み防止板を設けている部分が壁面に接触することによって、ゴムシートが必要以上に折れ曲がることを防止することができるので、ゴムシートがケース本体内部に巻き込まれることを防ぐことができる。
【0005】
しかるに、特許文献1の技術では、ゴムシートの変形によって巻込み防止板を設けている部分が壁面と接触すると、ゴムシートと壁面との接触抵抗が大きくなって壁面移動ロボットが壁面を移動するための抵抗が大きくなる。すると、壁面移動ロボットを壁面に沿って移動する際に、大きな駆動力が必要となる。しかも、ゴムシートと壁面との接触抵抗の影響により、壁面移動ロボットのスムースな移動が妨げられるので、壁面移動ロボットの移動速度が低下し壁面を清掃する効率が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−95936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、窓ガラスや壁などに安定して取り付けることができ、しかも、張り付いたままスムースに移動できる吸盤およびこの吸盤を採用した壁面移動機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(吸盤)
第1発明の吸盤は、一の面から凹んだ凹部を有する本体部と、前記一の面と前記凹部の内底面とが、所定の距離よりも接近しないように規制するスペース維持部材と、を備えており、前記スペース維持部材における前記一の面側に位置する接触面には、摩擦抵抗を低減する摩擦低減部が設けられており、前記スペース維持部材は、前記接触面から前記凹部の内底面までの距離が、前記本体部の一の面から前記凹部の内底面までの距離よりも短くなるように配設されていることを特徴とする。
第2発明の吸盤は、第1発明において、前記スペース維持部材が、前記凹部内に設けられていることを特徴とする。
第3発明の吸盤は、第1または第2発明において、前記摩擦低減部は、前記接触面に転動可能に取り付けられたローラであることを特徴とする。
第4発明の吸盤は、第3発明において、前記ローラを3つ備えており、該3つのローラは、各ローラが三角形の頂点に位置するように配設されていることを特徴とする。
第5発明の吸盤は、第1、第2、第3または第4発明において、前記本体部は、前記凹部の開口に基端が取り付けられたリップ部を備えており、該リップ部は、前記凹部の開口から外方に向かって該凹部の壁面とのなす角が鋭角となるように延設されている、ことを特徴とする。
第6発明の吸盤は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記本体部は、前記凹部の内底面を形成する基板部と、該基板部の外周縁に基端が連結された、前記凹部の側壁を形成する側壁部と、を備えており、前記基端部は、前記側壁部に比べて剛性が高くなるように形成されていることを特徴とする。
第7発明の吸盤は、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明において、前記凹部内と連通された吸引通路を備えていることを特徴とする。
(壁面移動機械)
第8発明の壁面移動機械は、壁面を移動する機械であって、ベース部と、該ベース部に設けられた、請求項7記載の吸盤と、該吸盤に設けられた吸引通路を通して、該吸盤の本体部の凹部内の空気を吸引する吸引手段と、前記ベース部に設けられた移動手段と、を備えており、該移動手段は、駆動力を発生する駆動部と、該駆動部の駆動力が伝達され前記壁面を走行する走行部と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
(吸盤)
第1発明によれば、本体部の凹部の開口を壁面などに当てて、凹部内をその内部の気圧が外部よりも低くなるようにすれば、凹部内と外気圧との差圧に起因する力よって、本体部を壁面などに張り付けることができる。このとき、凹部が変形して凹部の内底面が壁面などに近づくが、スペース維持部材の接触面が壁面などに接触すると、それ以上変形しなくなる。しかも、凹部内と外気圧との差圧に起因する力は凹部の開口端面とスペース維持部材の接触面の両方に加わる。すると、凹部の開口端面と壁面などとの間に発生する力が小さくなるので、本体部を壁面などに沿って移動させる際に、凹部の開口端面と壁面などとの間の摩擦抵抗を小さくすることができる。しかも、スペース維持部材の接触面には、摩擦抵抗を低減する摩擦低減部が設けられているので、スペース維持部材が壁面などに沿って移動しても、両者間の摩擦抵抗は小さい。したがって、吸盤を壁面などに貼りつけたまま壁面などに沿って移動させても、吸盤をスムースに移動させることができる。
第2発明によれば、凹部内と外気圧との差圧に起因する力によって、本体部を壁面などに張り付けることができる。スペース維持部材が凹部内に設けられているので、凹部の変形を抑えることができる。
第3発明によれば、摩擦低減部が接触面に転動可能に取り付けられたローラであるので、接触面に沿ってスペース維持部材をスムースに移動させることができる。
第4発明によれば、全てのローラを安定した状態で、壁面などに接触させることができる。
第5発明によれば、リップ部が凹部の開口から外方に向かって凹部の壁面とのなす角が鋭角となるように延設されているので、本体部が壁面に沿って移動した場合において、壁面などの段差などと接触しても、凹部の開口を形成する壁面が凹部内に巻き込まれることを防止することができる。しかも、リップ部と凹部の壁面とのなす角が鋭角となっているので、リップ部が壁面などと接触して移動抵抗となることを防ぐことができる。
第6発明によれば、基板部の剛性が側壁部よりも高いので、凹部内の気圧が外部よりも低くなったときに、基板部は変形せず側壁部のみが変形するから、安定して本体部を壁面などに張り付けることができる。また、凹部内にスペース維持部材を設けた場合に、基板部の剛性が高ければ、安定した状態でスペース維持部材から加わる力を支持することができる。
第7発明によれば、凹部内と連通された吸引通路を備えているので、吸引通路を通して凹部内の空気を吸引することができる。したがって、真空ポンプ等のように凹部内の空気を吸引することができる装置に吸引通路を接続しておけば、本体部を確実に壁面などに張り付けておくことができる。
(壁面移動機械)
第8発明によれば、吸盤が壁面などに接するように壁面移動機械を配置した状態で、吸引手段によって吸盤の本体部の凹部内の空気を吸引すれば、吸盤内が負圧になり、吸盤によって壁面移動機械を壁面などに張り付けることができる。この状態では、吸盤のスペース維持部材の接触面および移動手段の走行部がともに壁面などと接し、しかも、走行部を壁面に押し付ける過剰な力が加わらない。すると、移動手段の駆動部を作動させれば、吸盤によって壁面移動機械を壁面に張り付けた状態のまま、走行部によって壁面移動機械を壁面に沿ってスムースに移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の吸盤10の概略説明図であり、(A)は(B)のA−O−A断面図であり、(B)は吸盤10の底面図である。
【図2】他の実施形態の吸盤10の概略説明図であり、(A)は(B)のA−O−A断面図であり、(B)は吸盤10の底面図である。
【図3】本実施形態の壁面移動機械1の概略底面図である。
【図4】(A)は本実施形態の壁面移動機械1の概略断面図であり、(B)は要部拡大図である。
【図5】他の実施形態の壁面移動機械1の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸盤は、建物の外壁や内壁、天井、窓ガラス、生産プラント、橋梁、船舶、航空機、太陽電池パネル、太陽熱発電における集光ミラー、電光掲示板などの表面(以下、壁面という)に張り付けることができるものであり、壁面に張り付ついた状態で壁面に沿ってスムースに移動できるようにしたことに特徴を有している。
【0012】
本発明の吸盤の用途はとくに限定されないが、例えば、壁面に沿って移動する作業用ロボットを壁面に張り付ける手段として使用することができる。壁面に沿って移動する作業用ロボットは、窓ガラスを掃除する窓ふきロボットなどの作業を行うロボットを挙げることができるが、これに限定されない。
【0013】
(吸盤の説明)
本実施形態の吸盤10について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の吸盤10は、本体部11と、この本体部11に取り付けられたスペース維持部材15とを備えている。
【0014】
(本体部)
まず、本体部11は、一方の面11aから凹んだ凹部11hを備えた略皿状に形成された部材である。例えば、本体部11は、板状の部材を成形して形成したり、矩形の部材を加工して形成したりして製造することができるが、上記のごとき形状に形成されていればよく、その製造方法はとくに限定されない。
【0015】
この本体部11は、略平板状に形成された基板部12と、この基板部12の外周端縁に設けられた側壁部13と、を有しており、基板部12と側壁部13とによって囲まれた空間に凹部11hが形成されている。
【0016】
基板部12は、平面視で略円形に形成された平板状の部分である。この基板部12は、その一方の表面が前記凹部11hの内底面11sとなっている。
【0017】
側壁部13は、その基端が基板部12の外周端縁と連続するように設けられており、その先端に向かうに従って広がっていくように形成されている。つまり、側壁部13は、基端から先端に向かって外方に傾斜した傾斜壁となるように形成されているのである。この側壁部13の先端縁が、上述した一方の面11aに相当する。
【0018】
そして、本体部11は、ゴムなどの弾性を有する素材によって形成されている。具体的にいえば、本体部11は、力が加わるとその力に応じて変形する柔軟性と、力が除去されると元の形状に復帰する復元性と、を有する素材によって形成されている。なお、本体部11の素材は、上記のごとき性質を有する素材であれば、とくに限定されない。
【0019】
以上のごとき構造であるので、凹部11hの開口を壁面に向けて、側壁部13の先端縁が壁面に接触するように本体部11を配置すれば、本体部11と壁面との間に、凹部11hによって外部から遮断された空間を形成することができる。この状態で空間の内部の気圧が外部よりも低くなるようにすれば、側壁部13は基端から先端に向かって広がるように形成されているので、空間内と外気圧との差圧に起因する力(以下、張り付け力という)よって、側壁部13を内方に押す力が発生する。すると、この張り付け力によって、側壁部13は内方に凹むように変形し、側壁部13の先端縁が壁面に押し付けられるから、本体部11を壁面に張り付けることができる。
【0020】
また、基板部12の剛性を側壁部13よりも高くしておけば、凹部11h内の気圧が外部よりも低くなったときに、基板部12は変形せず側壁部13のみを変形させることができる。例えば、側壁部13に柔らかいゴムを使用し基板部12に硬質ゴムを使用すれば、本体部11は、その基本的な形状(つまり略皿形の形状)をある程度維持したまま変形できるので、安定した状態で本体部11を壁面に張り付けることができる。とくに、基板部12の内面または外面に金属板などの曲げ剛性の高い部材(図1の符号11p)を配置しておけば、基板部12の変形をより確実に防ぐことができる。
【0021】
なお、本体部11と壁面との間の空間内部の気圧を外部よりも低くする方法は、とくに限定されない。
例えば、側壁部13の先端縁が壁面に接触するように本体部11を配置した状態から、本体部11を壁面に向かって押す。すると、側壁部13はその基端から先端に向かうに従って広がるように形成されているので、側壁部13は、その先端縁が元の状態よりもさらに外方に広がるように変形する。つまり、本体部11は凹部11hがつぶれるように変形して凹部11hの容積が小さくなり、空間内部の空気が側壁部13の先端縁と壁面との間から洩れる。この状態から本体部11が元の形状に戻ろうとすると、凹部11hがつぶれた状態よりも容積が大きくなるので、空間内部の気圧を外部よりも低くすることができる。
【0022】
また、本体部11に、凹部11h内と連通された吸引通路11rを設けて(図2参照)、この吸引通路から真空ポンプなどによって凹部11h内の空気、つまり、空間の内部の空気を吸引して、空間の内部の気圧を外部よりも低くしてもよい。この場合には、本体部11を壁面に向かって押した場合に比べて、空間内部と外部の気圧差を大きくでき張り付け力を大きくできるから、本体部11を確実に壁面に張り付けておくことができる。
【0023】
(スペース維持部材15)
図1に示すように、本体部11の凹部11h内には、3つのスペース維持部材15が設けられている。このスペース維持部材15は、側壁部13の先端縁が、凹部11hの内底面11sに対して、所定の距離よりも接近しないように規制するものである。具体的には、スペース維持部材15は、その先端から凹部11hの内底面11sまでの距離が、側壁部13の先端縁から凹部11hの内底面11sまでの距離よりも短くなるように配設されている。例えば、側壁部13の先端縁から凹部11hの内底面11sまでの距離L1が3〜7mm、好ましくは5mm程度であれば、スペース維持部材15の先端から凹部11hの内底面11sまでの距離L2は2〜6mm、好ましくは4mm程度となるように配設される。つまり、側壁部13の変形量(L1−L2)が0.5〜2mm、好ましくは1mm程度となるように配設される。
【0024】
各スペース維持部材15の先端には、転動可能にローラ16が取り付けられている。そして、3つのスペース維持部材15は、本体部11の凹部11hの中心軸を中心として、各スペース維持部材15のローラ16が三角形の頂点、好ましくは正三角形の頂点に位置するように配設されている。
しかも、3つのスペース維持部材15は、その先端(ローラ16の表面)がすべて凹部11hの内底面11sから同じ距離となるように配設されている。つまり、3つのスペース維持部材15は、3つの先端を含む面が、凹部11hの内底面11sと平行となるように配設されているのである。
【0025】
以上のごときスペース維持部材15を吸盤10に設けた場合には、以下のごとき効果が得られる。
【0026】
まず、凹部11h内の気圧を外部よりも低くして吸盤10を壁面に張り付けると、側壁部13の先端縁から凹部11hの内底面11sまでの距離が短くなり、やがて3つのスペース維持部材15のローラ16が壁面に接触する。すると、張り付け力は、側壁部13の先端縁だけでなく、3つのスペース維持部材15のローラ16によっても壁面に加わることになる。
このため、張り付け力は、側壁部13の先端縁だけでなく、3つのスペース維持部材15のローラ16を介して壁面に加えられることになる。すると、側壁部13の先端縁から壁面に加わる力が小さくなるので、側壁部13の先端縁と壁面との間に発生する摩擦抵抗を小さくすることができる。
一方、スペース維持部材15は、その先端面に設けられたローラ16によって壁面に接触することになるので、壁面との間に発生する摩擦抵抗は小さい。
したがって、吸盤10を壁面に張り付けた状態で、吸盤10を壁面に沿って移動させた場合、吸盤10と壁面との間に発生する移動抵抗、つまり、側壁部13の先端縁と壁面との間およびスペース維持部材15と壁面との間に発生する摩擦抵抗が小さくなるので、吸盤10を壁面に沿ってスムースに移動させることができる。
【0027】
また、3つのスペース維持部材15は、そのローラ16が三角形の頂点に位置するように配設されている。しかも、3つのスペース維持部材15のローラ16の表面を含む面が、凹部11hの内底面11sと平行となるように配設されているので、吸盤10は、その本体部11の内底面11sが壁面と平行に保たれた状態で壁面に張り付く。すると、側壁部13の先端縁から壁面に加わる力は位置によらずほぼ同じ大きさとなるから、壁面に沿った吸盤10の移動がスムースになる。
【0028】
なお、スペース維持部材15を設けた場合、壁面からの反力がスペース維持部材15を介して本体部10の基板部12に加わる。したがって、スペース維持部材15を設ける場合、基板部12の剛性が高ければ、安定した状態でスペース維持部材15から加わる力を基板部12に支持させることができるので、吸盤10を安定して壁面に張り付けることができる。
【0029】
また、スペース維持部材15を設ける数は3つに限られず、1つまたは2つでもよいし、4つ以上設けてもよい。しかし、スペース維持部材15を3つ設けた場合には、スペース維持部材15が1つまたは2つの場合に比べて壁面との接触点が多くなるので吸盤10の安定性が高くなるという利点が得られる。また、スペース維持部材15を3つ設けた場合には、スペース維持部材15を4つ以上設けた場合に比べてスペース維持部材15の取り付け精度を高めなくても全てのローラを壁面に接触させることができる。すると、吸盤10の製造が容易になるし構造も複雑にならないという利点が得られる。
【0030】
上述したスペース維持部材15のローラ16が、特許請求の範囲にいう摩擦低減部に相当するが、摩擦低減部の構成は上記のごとき構造に限定されず、先端面が壁面に接触したときに、壁面との摩擦抵抗が小さくなるようなっていればよい。例えば、スペース維持部材15の先端面に、ローラに代えてキャスターを設けてもよい。また、図5(A)に示すように、スペース維持部材15の先端面15aが、摩擦低減部として壁面に接触したまま摺動し得る摺動面に形成されていれば、スペース維持部材15と壁面との間の摩擦抵抗を低減することができる。かかる摺動面は、スペース維持部材15の先端面15aに、摩擦係数が小さいPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やポリエチレン、ナイロン樹脂などを設けることによって形成することができる。
【0031】
また、スペース維持部材15を設ける位置もとくに限定されず、上記例では、凹部11h内にスペース維持部材15を設けたが、本体部11の凹部11hの外側にスペース維持部材15を設けてもよい。例えば、図5(B)に示すように、本体部11の基板部12にプレート12pなどを取り付けて、そのプレート12pにスペース維持部材15を取り付けるなどの方法によって、スペース維持部材15を凹部11hの外側に配設することも可能である。
【0032】
さらに、壁面に沿って吸盤10をスムースに移動させる上では、本体部11において、壁面と接触する部分(または接触する可能性がある部分)は摩擦抵抗が小さくなるように形成していることが好ましい。例えば、側壁部13の先端縁の部分に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のコーティングやDLC(ダイヤモンドライクカーボン)または二硫化モリブデンのコーティングなどを施しておけば、壁面との摩擦抵抗を小さくでき、吸盤10をよりスムースに移動させることができる。
【0033】
さらに、スペース維持部材15は、側壁部13の先端縁に張り付け力が発生している状態において、スペース維持部材15と壁面との間に発生する力が、側壁部13の先端縁と壁面との間に発生する力よりも大きくなるように形成されていることが好ましい。つまり、張り付け力によって吸盤10と壁面との間に生じる力を、側壁部13の先端縁よりもスペース維持部材15に多く負担させることができるように形成されていることが好ましい。
なぜなら、側壁部13は壁面との気密性を保つ機能が要求されるため、材料や形状の選択がある程度制約されるが、スペース維持部材15は、張り付け力を支持することができればよいだけであるので、材料や形状などを自由に選択できるからである。つまり、スペース維持部材15には、壁面との摺動性や転動性が高いもの、言い換えれば、壁面との摩擦が小さいものを自由に選択できるので、スペース維持部材15は、壁面との間に発生する力が大きくなっても、壁面との間の摩擦抵抗を小さくすることが可能となる。
そして、側壁部13の先端縁が負担する力に比べて、スペース維持部材15が負担する力を大きくしておけば、張り付け力が強くなっても、吸盤10全体として、壁面との間の摩擦抵抗を小さくすることができ、吸盤10を壁面に沿ってスムースに移動させることができる。
【0034】
なお、スペース維持部材15および側壁部13の先端縁が負担する力の割合はとくに限定されず、吸盤10が壁面に沿って移動させることができるのであればよい。しかし、側壁部13が負担する力は、少なくとも、吸盤10を壁面に沿って移動している状態において、側壁部13の先端縁壁面との間の気密性が維持できる力以上であることが必要である。そして、側壁部13の先端縁が負担する力が、側壁部13の先端縁と壁面との間の気密性を得ることができる必要最低限となっていれば、吸盤10を最もスムースに壁面に沿って移動させることができる。
【0035】
スペース維持部材15および基板部12よりも側壁部13の剛性を低くする方法は、上述したように、スペース維持部材15および基板部12と側壁部13の材料を変える方法に限られない。例えば、側壁部13をベローズ(蛇腹)形状にするなどの方法によって、側壁部13の剛性を低くしてもよい。この場合、基板部12と側壁部13とを一体で成形することが可能となるので、本体部11の製造が容易になるという利点が得られる。なお、基板部12と側壁部13とを一体で成形した場合には、段落0020で記載したように、基板部12をサポートする曲げ剛性の高い部材を設置する方が、より好ましい。
【0036】
(リップ部20)
さらに、吸盤10を壁面に沿って移動させた場合において、本体部11の側壁部13の先端縁が壁面の凹凸などに引っ掛かって、先端縁が凹部11h内に巻き込まれてしまうことを防ぐ上では、側壁部13の先端縁から延びたリップ部20を設けておくことが好ましい。
例えば、図2に示すように、本体部11の側壁部13の先端縁(つまり、凹部11hの開口)に沿って、この先端縁から外方に向かって側壁部13とのなす角が鋭角となるように傾斜壁を延設して、リップ部20とすることができる。リップ部20をかかる形状とすれば、リップ部20の下面を、外方から側壁部13の先端縁に向かう傾斜面とすることができる。すると、吸盤10の移動方向に位置する壁面に凹凸などがあっても、リップ部20の下面がまず凹凸に接触し、吸盤10の移動に伴って、リップ部20の下面は凹凸の表面を滑るよう移動する。すると、凹凸が側壁部13の先端縁の位置に到達しても、側壁部13の先端縁が凹凸に引っ掛かったりすることないから、側壁部13の先端縁を凹凸などがあってもスムースに移動させることができる。したがって、リップ部20を設けておけば、壁面に凹凸などがあっても、側壁部13の先端縁が凹部11h内に巻き込まれてしまうことを防ぐことができる。
【0037】
なお、リップ部20を、その下面が壁面の凹凸の表面に沿ってスムースに移動させる上では、リップ部20はある程度剛性が高い方が好ましく、少なくとも側壁部13よりも剛性の高い素材で形成されていることが好ましい。
また、リップ部20をその下面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のコーティングやDLC(ダイヤモンドライクカーボン)または二硫化モリブデンのコーティングなどを施しておけば、凹凸との摩擦抵抗を小さくできるので、リップ部20を設けたことによる移動抵抗の増加を防ぐことができる。
さらに、リップ部20の上端部には、金属などによって形成された剛性の高いリング21を設けていてもよい。この場合には、リップ部20が凹凸などに接触した際において、凹凸が大きい場合であったとしても、リップ部20が変形することを確実に防止することができ、巻き込みが発生することをより確実に防止することができる。
【0038】
(壁面移動機械)
つぎに、上述したような吸盤10を備え、この吸盤10によって壁面に張り付いたまま壁面を移動する壁面移動機械を説明する。
【0039】
図3において、符号2は、本実施形態の壁面移動機械1は、壁面移動機械1の各装置が取り付けられるフレームとなるベース部を示している。
【0040】
このベース部2には、移動手段5が取り付けられている。
この移動手段5は、車輪6と、この車輪6に駆動力を供給する駆動部7とを備えている。車輪6は、車軸を介してベース部材2に取り付けられており、この車軸は、壁面移動機械1が壁面に張り付いた状態において、壁面と略平行となるように配設されている。駆動部7は、例えば、電動モータとこの電動モータの駆動力を減速して車軸、つまり、車輪6に供給する減速機とを備えているが、車輪6に駆動力を供給できるものであれば、とくに限定されない。
【0041】
また、ベース部2には、その一方の面に、前述した吸盤10が複数設けられている。この吸盤10には、それぞれ凹部11hと外部との間を連通する吸引通路10hが形成されている(図2参照)。この吸引通路10hは、吸盤10の本体部11の凹部11h内の空気を吸引する図示しない吸引手段3と連通されている。吸引手段3はとくに限定されないが、例えば、真空ポンプや真空エジェクタなどを挙げることができる。
【0042】
また、複数の吸盤10は、全て、凹部11hの内底面11sから各吸盤10のスペース維持部材15のローラ16までの距離が同じ距離となるように形成されている。つまり、全ての吸盤10の凹部11hの内底面11sが、ほぼ同一面上に位置するように配設されている。しかも、複数の吸盤10は、いずれもベース部2の一方の面から凹部11hの内底面11sまでの距離が同じになるように配設されている。
そして、全ての吸盤10は、壁面移動機械1を壁面に張り付けたときに、車輪6が壁面と接触する面から凹部11hの内底面11sまでの距離が、凹部11hの内底面11sから各吸盤10のスペース維持部材15のローラ16までの距離と同じ長さになり得るように形成されている(図4(B)参照)。
【0043】
以上のごとき構成であるから、吸盤10が壁面に接するようにベース部2を配置した状態で、吸引手段3によって吸盤10の本体部11の凹部11h内の空気を吸引すれば、凹部11h内が負圧になるから、吸盤10が壁面に張り付き、吸盤10が壁面に張り付く力によって、ベース部2、つまり、壁面移動機械1を壁面に張り付けることができる。
この状態では、吸盤10のスペース維持部材15のローラ16および移動手段5の車輪6がともに壁面と接した状態となり(図4(B)参照)、しかも、車輪6を壁面に押し付ける力が過剰にならない。すると、移動手段5の駆動部7を作動させれば、車輪6と壁面との間に適切な摩擦を発生させることができるので、車輪6の回転によって壁面移動機械1を壁面に沿って移動させることができる。つまり、吸盤10によって壁面移動機械1を壁面に張り付けた状態のまま、車輪6によって壁面移動機械1を壁面に沿ってスムースに移動させることができる。
すると、壁面移動機械1が壁面や窓ガラスなどを清掃するブラシなどを備えていれば、壁面移動機械1が自走することによって、壁面や窓ガラスなどを自動で清掃することができるのである。
【0044】
なお、上記例では、移動手段5の車輪6が特許請求の範囲にいう走行部に相当するが、走行部は車輪に限られず、例えばクローラなどでもよく、とくに限定されない。
【0045】
壁面移動機械1に設けられる吸盤10の数はとくに限定されず、1つでもよいし、2つ以上でもよい。しかし、吸盤10が1つの場合には、その吸盤10の損傷などが原因で張り付け力が失われた場合、移動機械1が落下してしまうなどの問題が生じる可能性がある。したがって、壁面移動機械1を安全に作動させる上では、複数の吸盤10を備えていることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の吸盤は、壁面に張り付いた状態で壁面に沿って移動する移動機械用の吸盤として適している。
【符号の説明】
【0047】
1 壁面移動機械
2 ベース部
3 吸引手段
5 移動手段
6 車輪
7 駆動部
10 吸盤
11 本体部
11r 吸引通路
11h 凹部
11s 内底面
12 基板部
13 側壁部
15 スペース維持部材
16 ローラ
20 リップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の面から凹んだ凹部を有する本体部と、
前記一の面と前記凹部の内底面とが、所定の距離よりも接近しないように規制するスペース維持部材と、を備えており、
前記スペース維持部材における前記一の面側に位置する接触面には、摩擦抵抗を低減する摩擦低減部が設けられており、
前記スペース維持部材は、
前記接触面から前記凹部の内底面までの距離が、前記本体部の一の面から前記凹部の内底面までの距離よりも短くなるように配設されている
ことを特徴とする吸盤。
【請求項2】
前記スペース維持部材が、前記凹部内に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の吸盤。
【請求項3】
前記摩擦低減部は、
前記接触面に転動可能に取り付けられたローラである
ことを特徴とする請求項1または2記載の吸盤。
【請求項4】
前記ローラを3つ備えており、
該3つのローラは、
各ローラが三角形の頂点に位置するように配設されている
ことを特徴とする請求項3記載の吸盤。
【請求項5】
前記本体部は、
前記凹部の開口に基端が取り付けられたリップ部を備えており、
該リップ部は、
前記凹部の開口から外方に向かって該凹部の壁面とのなす角が鋭角となるように延設されている
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の吸盤。
【請求項6】
前記本体部は、
前記凹部の内底面を形成する基板部と、
該基板部の外周縁に基端が連結された、前記凹部の側壁を形成する側壁部と、を備えており、
前記基板部は、
前記側壁部に比べて剛性が高くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の吸盤。
【請求項7】
前記凹部内と連通された吸引通路を備えている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の吸盤。
【請求項8】
壁面を移動する機械であって、
ベース部と、
該ベース部に設けられた、請求項7記載の吸盤と、
該吸盤に設けられた吸引通路を通して、該吸盤の本体部の凹部内の空気を吸引する吸引手段と、
前記ベース部に設けられた移動手段と、を備えており、
該移動手段は、
駆動力を発生する駆動部と、該駆動部の駆動力が伝達され前記壁面を走行する走行部と、を有している
ことを特徴とする壁面移動機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−211667(P2012−211667A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78438(P2011−78438)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(304031900)株式会社未来機械 (5)
【Fターム(参考)】