説明

吸着フィルター原紙及びその製造方法

【課題】活性炭素繊維の脱落が少なく、通気性が良好であり、加熱による収縮の少ない吸着フィルター原紙、及び、該原紙を高い生産性で製造することができる吸着フィルター原紙の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%と多分岐状合成パルプ20〜70質量%とを含有し、坪量が20〜200g/m2であり、ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーターを用い、設定圧力125Paで測定した通気度が50cm3/(cm2・s)以上であることを特徴とする吸着フィルター原紙、及び、繊維成分として活性炭素繊維と多分岐状合成パルプを含むパルプスラリーを、湿式抄紙法により抄紙し、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させることにより、繊維を融着させることを特徴とする吸着フィルター原紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着フィルター原紙及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、通気性が良好であり、加熱による収縮の少ない吸着フィルター原紙、及び、該原紙を高い生産性で製造することができる吸着フィルター原紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭素繊維含有シートの製造方法としては、活性炭素繊維をパルプと混合して抄造する湿式抄紙法が最も安価で、抄紙性が良好であるが、吸着フィルターなどに使用すると、活性炭素繊維の脱落や、使用環境によるシート厚さの変化や、耐薬品性がないために損傷を受けるなどの問題が生じる。これらの問題を解決するために、活性炭素繊維を含有する吸着フィルター原紙の開発がさまざまに試みられている。
例えば、脱臭を目的としたフィルターろ材として利用できる活性炭素繊維を含有する低密度の通気性のよいシートとして、高融点合成樹脂を芯成分、低融点合成樹脂を鞘成分とする複合繊維と活性炭素繊維を含有する水性スラリーを湿式抄紙法により抄紙し、鞘成分の融点より高く芯成分の融点より低い温度で乾燥し、得られたシートを乾燥温度より高く、芯成分の融点より低い温度で熱処理して得られる活性炭素繊維含有量50〜97質量%、坪量50〜300g/m2、密度0.08g/cm3以下の脱臭用フィルターろ材が提案されている(特許文献1)。また、後加工における成型時や施工時などに折れや割れがなく、取扱い性に優れた高密度の活性炭繊維シートとして、活性炭繊維と、高融点ポリマーを芯成分、低融点ポリマーを鞘成分とする複合繊維とを主成分とするシートであって、活性炭繊維は複合繊維の鞘成分との融着により結合されており、活性炭繊維を10〜90質量%含有し、坪量が20〜300g/m2、密度が0.10g/cm3以上である活性炭繊維シートが提案されている(特許文献2)。しかし、高融点樹脂を芯成分、低融点樹脂を鞘成分とする複合繊維を主体とするシートは抄紙性が悪く、熱処理するまでの活性炭素繊維の脱落が多い。また、その後の熱処理においても、熱収縮が大きいために、最終製品としての坪量や厚さを安定して管理することが困難である。
青果物の鮮度に悪影響を及ぼすエチレンを除去するのに好適な繊維状活性炭含有複合シートとして、繊維状活性炭100質量部が、均一に混合された熱融着性繊維10〜100質量部と合成パルプ0.5〜15質量部との混合物と均一な分散状態で熱融着性繊維の融着により結合されており、気孔率が20〜95体積%である繊維状活性炭含有複合シートが提案されている(特許文献3)。しかし、この複合シートは、熱処理時に熱プレスしたままで室温まで冷却する必要があるために生産性が悪く、また、金型や熱板を用いた熱処理ではシートの厚さ方向での熱のかかり方が均一でないために、吸着能に悪影響を与えたり、フィルターとして使用した際に、経時的に厚さ変化によるトラブルを引き起こすおそれがある。
【特許文献1】特許第3046347号公報
【特許文献2】特開2002−138386号公報
【特許文献3】特開平11−100792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、抄紙時の活性炭素繊維の脱落が少なく、又通気性が良好であり、加熱による収縮の少ない吸着フィルター原紙、及び、該原紙を高い生産性で製造することができる吸着フィルター原紙の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%と多分岐状合成パルプ20〜70質量%を含有する吸着フィルター原紙は、通気性が良好であり、活性炭素繊維の高い吸着性能を保持し、また、このような吸着フィルター原紙は、活性炭素繊維と多分岐状パルプを含むパルプスラリーを湿式抄紙法により抄紙し、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させて繊維を融着させることにより、安定して製造し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%と多分岐状合成パルプ20〜70質量%とを含有し、坪量が20〜200g/m2であり、ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーターを用い、設定圧力125Paで測定した通気度が50cm3/(cm2・s)以上であることを特徴とする吸着フィルター原紙、
(2)繊維成分として活性炭素繊維と多分岐状合成パルプを含むパルプスラリーを、湿式抄紙法により抄紙し、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させることにより、繊維を融着させることを特徴とする吸着フィルター原紙の製造方法、及び、
(3)抄紙された長尺のシートを2枚の網コンベアの間に挟み、該シートに対して略垂直方向に熱風を通過させる(2)記載の吸着フィルター原紙の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の吸着フィルター原紙は、抄紙時の活性炭素繊維の脱落が少なく、又通気性が良好であり、活性炭素繊維の優れた吸着性能を保持しているので、工業用吸着フィルターの原紙として好適に用いることができる。本発明の製造方法によれば、このような吸着フィルター原紙を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の吸着フィルター原紙は、繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%と多分岐状合成パルプ20〜70質量%とを含有し、坪量が20〜200g/m2であり、ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーターを用い、設定圧力125Paで測定した通気度が50cm3/(cm2・s)以上である。
本発明に用いる活性炭素繊維に特に制限はなく、例えば、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、フェノール系、レーヨン系などの繊維を炭化し、賦活した活性炭素繊維を挙げることができる。活性炭素繊維は、粒状又は粉末状の活性炭に比べて10〜100倍の吸着速度を有するので、吸着フィルターに加工して用いると、気体のフラックスを高めても気体に含有される不純物を高い効率で吸着除去することができる。
本発明に用いる活性炭素繊維は、比表面積が700m2/g以上であることが好ましく、1,000m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が700m2/g未満であると、吸着フィルター原紙の吸着性能が不十分となるおそれがある。活性炭素繊維の繊維長は、1〜20mmであることが好ましく、2〜10mmであることがより好ましい。繊維長が1mm未満であると、吸着フィルターまでの各製造工程又は吸着フィルターの使用時において、活性炭素繊維が脱落しやすくなるおそれがある。繊維長が20mmを超えると、抄紙工程においてスラリーへの均一な分散が困難となるおそれがある。活性炭素繊維の繊維径は、1〜50μmであることが好ましく、5〜25μmであることがより好ましい。繊維径が1μm未満であると、吸着フィルター原紙が緻密になって通気性が低下するおそれがある。繊維径が50μmを超えると、抄紙工程においてスラリーへの均一な分散が困難になるおそれがある。
本発明の吸着フィルター原紙は、繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%、より好ましくは50〜70質量%を含有する。活性炭素繊維の含有量が30質量%未満であると、吸着フィルター原紙としての吸着性能が不足するおそれがある。活性炭素繊維の含有量が80質量%を超えると、吸着フィルター原紙としての厚さが厚くなって圧力損失が大きくなるとともに、活性炭素繊維の脱落が起こりやすくなるおそれがある。
【0007】
本発明に用いる多分岐状合成パルプは、幹繊維と幹繊維から枝分かれした分岐繊維とからなる合成パルプである。多分岐状合成パルプと活性炭素繊維を混合して湿式抄紙法により抄紙することにより、多分岐状合成パルプの分岐繊維間の絡み合いが起こり、活性炭素繊維が保持され、抄紙時の活性炭素繊維の脱落やプレス工程での毛布への取られを防止することができ、十分な強度を有する湿紙シートが形成されるので抄紙が良好となる。
本発明に用いる多分岐状合成パルプの材質に特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアミドなどを挙げることができる。これらの中で、ポリエチレン系合成パルプ及びポリプロピレン系合成パルプは、耐薬品性が良好なので、好適に用いることができる。
本発明に用いる多分岐状合成パルプのカナダ標準ろ水度は、250〜800mlであることが好ましく、300〜700mlであることがより好ましい。カナダ標準ろ水度が250ml未満であると、繊維の水切れが悪くなってろ水抵抗が増加するとともに、得られる吸着フィルター原紙の通気性が低下するおそれがある。カナダ標準ろ水度が800mlを超えると、吸着フィルター原紙の強度が低下するおそれがある。
本発明に用いる多分岐状合成パルプの平均繊維長は、0.5〜5mmであることが好ましく、0.7〜3mmであることがより好ましい。平均繊維長が0.5mm未満であると、活性炭素繊維が脱落しやすくなるおそれがある。平均繊維長が5mmを超えると、抄紙工程においてスラリーへの均一な分散が困難になるおそれがある。
本発明の吸着フィルター原紙は、繊維成分として、多分岐状合成パルプを20〜70質量%、より好ましくは25〜50質量%含有する。多分岐状合成パルプの含有量が20質量%未満であると、抄紙性が低下し、加熱により繊維を融着するときに、活性炭素繊維が脱落し、熱収縮が大きくなるおそれがある。多分岐状合成パルプの含有量が70質量%を超えると、紙の緊度が高くなり、吸着フィルター原紙の通気性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明の吸着フィルター原紙は、繊維成分として更に熱接着性複合繊維0〜20質量%を含有することが好ましい。熱接着性複合繊維の含有量は、5〜15質量%であることがより好ましい。熱接着性複合繊維を含有させることにより、吸着フィルター原紙の強度を高めることができる。熱接着性複合繊維の含有量が3質量%未満であると、強度向上効果が十分に発現しないおそれがある。熱接着性複合繊維の含有量が20質量%を超えると、加熱により繊維を融着させるときの熱収縮が大きくなるおそれがある。熱接着性複合繊維としては、例えば、芯成分が融点160〜260℃からなる高融点合成樹脂であり、鞘成分が融点80〜160℃であり、芯成分より融点が30℃以上低い低融点合成樹脂である芯鞘複合繊維、芯成分が断面の中心より偏っている並列型複合繊維、高融点合成樹脂と低融点合成樹脂が断面の左右で分かれている複合繊維、断面を複数個に分割して高融点合成樹脂と低融点合成樹脂が交互に存在する複合繊維などを挙げることができる。芯鞘複合繊維としては、例えば、芯成分にポリプロピレン、鞘成分にポリエチレンや変性ポリエチレンなどを用いたポリオレフィン系複合繊維、芯成分にポリエチレンテレフタレート、鞘成分に変性ポリエステルを用いたポリエステル系複合繊維などを挙げることができる。これらの中で、ポリオレフィン系複合繊維は、耐薬品性が良好なので、好適に用いることができる。
本発明に用いる熱接着性複合繊維の平均繊維長は3〜20mmであることが好ましい。3mm未満だと強度向上効果が充分に発現しないおそれがある。20mmを超えるとスラリーへの均一な分散が困難となるおそれがある。太さは1.0〜10.0dtexであることが好ましい。1.0dtex未満だと吸着フィルター原紙の通気性が低下するおそれがある。10.0dtexを超えるとスラリーへの均一な分散が困難となるおそれがある。
尚、本発明の吸着フィルター原紙には、スラリーを均一に分散させる為にポリアクリルアミドやポリエチレンオキサイドなどの粘剤や、非イオン界面活性剤や陰イオン界面活性剤などの繊維分散剤をスラリーの固形分に対して0〜1.0質量%添加することができる。
本発明の吸着フィルター原紙は、坪量が20〜200g/m2、より好ましくは50〜150g/m2である。坪量が20g/m2未満であると、吸着フィルター原紙として単位面積あたりの吸着容量が小さくなり、また、吸着フィルター原紙としての剛性が不足するおそれがある。坪量が200g/m2を超えると、吸着フィルター原紙として圧力損失が大きくなるおそれがある。また、熱処理による熱収縮率は0〜20%、好しくは0〜12%が望ましい。20%以上であると製造時の坪量や厚さの管理が難しいだけでなく、フィルターに加工する際、加熱による変形が大きくなり、フィルターとしての形状を損なったり、圧力損失が大きくなるおそれがある。本発明の吸着フィルター原紙の厚さは求められる製品により異なるが通常200〜2,000μm程度である。
本発明の吸着フィルター原紙は、ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーターを用い、設定圧力125Paで測定した通気度が50cm3/(cm2・s)以上であり、より好ましくは70cm3/(cm2・s)以上である。該通気度が50cm3/(cm2・s)未満であると、吸着フィルター原紙としての圧力損失が大きくなるおそれがある。
【0009】
本発明の吸着フィルター原紙の製造方法においては、繊維成分として活性炭素繊維と多分岐状合成パルプを含むパルプスラリーを、湿式抄紙法により抄紙し、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させることにより繊維を融着させる。
本発明の製造方法においては、抄紙された長尺のシートを2枚の網コンベアの間に挟み、該シートに対して略垂直方向に熱風を通過させることが好ましい。
本発明の製造方法において、湿式抄紙法に特に制限はなく、例えば、繊維成分として活性炭素繊維と多分岐状合成パルプを水に均一に分散させたパルプスラリーを、単層傾斜抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機などを単独又は複合(抄合わせて)して抄紙することができる。湿紙シートの水分率は50〜90質量%、より好ましくは70〜85質量%が望ましい。水分率が50質量%以下であると湿紙シートの強度が十分に発現せず、断紙や毛布への取られが多くなる。水分率が90質量%以上だと乾燥工程に負荷がかかり生産効率が悪くなる。湿紙シートの引張り強度は抄紙性の点から50g/25mm以上が望ましい。50g/25mm以下であると抄紙性が悪く、断紙するおそれがある。パルプスラリーには、必要に応じて、熱接着性複合繊維、繊維分散剤、粘剤などを添加することができる。また、必要に応じて活性炭素繊維の吸着性能を向上させる為に、リン酸化合物やアミン系化合物などの添着薬品などをサイズプレスで塗布することができる。
本発明方法において、抄紙されたシートの乾燥方法は、例えば、シリンダードライヤー、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、エアードライヤーなどを用いて乾燥温度90〜150℃、乾燥時間30秒〜5分で乾燥することができる。
【0010】
図1は、本発明方法の実施の一態様の説明図である。本態様においては、巻出ロール1から巻き出された抄紙され乾燥されたシート2が、エンドレスの網コンベア3に載置されるとともにエンドレスの網コンベア4に挟まれて、矢印の方向に移送される。本図においては、理解を容易にするために、シート2と網コンベア3及び4を離して表示しているが、実際にはシート2は網コンベア3及び4に密着して挟まれる。本態様においては、2台の熱風処理機5、6及び送風機7が設けられ、熱風処理機5によりシート2に対して垂直方向に上方から下方に熱風を通過させ、熱風処理機6によりシート2に対して垂直方向に下方から上方に熱風を通過させる。熱風はシート2の中を貫通するので、シートの組織全体が均一な温度になり、熱板プレスのようにプレス板に接触している部分と接触していない部分に温度差が生じることや、プレスによる熱融着状態に不均一性が生じることがない。また、シートの組織に大きい圧力がかからないので、組織が押しつぶされることがなく、良好な通気性が保たれ、溶融樹脂により覆われる活性炭素繊維の表面が少ない。熱風の通過により繊維が融着して吸着フィルター原紙が形成されたのち、送風機7により原紙に対して垂直方向に冷風を通過させて冷却し、吸着フィルター原紙8を巻取ロ−ル9に巻き取る。通常熱風の温度は130〜160℃、風速0.5〜5m/s、処理時間は30秒〜5分である。図1に示す態様の製造方法においては、抄紙され乾燥されたシートをいったん巻き取るので、抄紙工程と繊維の融着工程の速度が異なる場合にも柔軟に対応することができる。また、熱風をシートの上方から下方へと、下方から上方へと通過させることができるので、より均一にシートを加熱することができる。さらに、シートを2枚の網コンベアで挟むので、シートの熱収縮を防止することができる。尚、図1では熱風処理機2台を用いて説明したが、1台であっても3台以上でも良い。又、抄紙後いったん巻き取らず、抄紙から繊維の融着までを連続して行うこともできる。
本発明の製造方法において、網コンベアの材質に特に制限はないが、錆の発生のないステンレス鋼製の網コンベアを好適に用いることができる。抄紙されたシートを2枚の網コンベアで挟んで移送し、熱風を通過させることにより、抄紙されたシートの熱収縮を抑え、形状の変化や断紙を防ぎ、吸着フィルター原紙の厚さを制御することができる。
【実施例】
【0011】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、評価は下記の方法により行った。
(1)毛布からの剥離性・取られ
スラリーを角形シートマシンで抄紙し、得られた湿紙シートの両面を毛布で挟み、980kPaで10秒間プレスしたのち毛布を剥がし、剥離性と原料の取られを目視により判定した。
○:剥離性が良好で湿紙シートが得られ、毛布への原料取られが殆ど見られない。
△:剥離性が良好で湿紙シートが得られるが、毛布への原料取られが若干見られる。
×:剥離性が悪く湿紙シートが綺麗に得られず、毛布への原料取られが見られる。
(2)湿紙シート引張強度及び水分率
スラリーを角形シートマシンで抄紙し、得られた湿紙シートの両面を毛布で挟み、980kPaで10秒間プレスしたのち毛布を剥がし、得られた湿紙シートを25mm巾に裁断し、オートグラフ[(株)島津製作所、登録商標、AGS−100A]を用いて、引張速度300mm/minで測定した。
同時に、湿紙シートを105℃で1時間乾燥し、質量減から水分率を算出した。
(3)熱収縮率
抄紙、乾燥して得られたシートから10cm×10cmの試験片を切り出し、150℃の熱風乾燥機中に1分間放置して熱処理したのち、熱処理後の面積を測定し、下式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)={(熱処理前面積−熱処理後面積)/熱処理前面積}×100
(4)厚さ
JIS P 8118にしたがって測定した。
(5)坪量
JIS P 8124にしたがって測定した。
(6)通気度
ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーター[(株)東洋精機製作所、型式P]を用い、設定圧力125Pa、温度20℃、相対湿度50%で測定した。
【0012】
実施例1
ポリエチレン系多分岐状合成パルプ[三井化学(株)、SWP E400、平均繊維長0.9mm、ろ水度580mlCSF]2.50gを水1,250mlに添加し、5分間撹拌して分散させ、次いで、活性炭素繊維[日本カイノール(株)、Kynol ACF1603−15、繊維長3mm、繊維径9μm、比表面積1,500m2/g]3.75gと、粘剤として事前に0.1質量%濃度に水に溶解させたポリアクリルアミド[住友精化(株)、PAM F−30]水溶液12.5gを添加し、0.5質量%スラリーを調製した。
このスラリーを、角型シートマシン[熊谷理機工業(株)、金網80メッシュ、25cm×25cm]を用いて抄紙し、両面を毛布で挟み、圧力980kPaで10秒間プレスして湿紙シートを得た。剥離性は良好で湿紙シートが得られ、毛布への原料取られは殆ど見られなかった。湿紙シートの水分率は80.2質量%であり、湿紙シートの引張強度は100g/25mmであった。
得られた湿紙シートを130℃に設定したシリンダードライヤーを用いて1分間乾燥し、乾燥シートを得た。次いで、乾燥シートを2枚の金網で挟み、150℃の熱風を下方から上方に風速1.5m/sで垂直に1分間通過させて繊維を融着させ、吸着フィルター原紙を得た。
得られた吸着フィルター原紙の性状、性能を第1表に示す。
実施例2
実施例1の多分岐状合成パルプ2.50gの代わりに、実施例1の多分岐状合成パルプ1.875gと、芯成分にポリプロピレン、鞘成分にポリエチレンを使用した熱接着性複合繊維[チッソ(株)、ESC872、繊維長5mm、太さ2.2dtex]0.625gとを水1,250mlに添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。
剥離性は良好で湿紙シートが得られ、毛布への原料取られは殆ど見られなかった。湿紙シート及び得られた吸着フィルター原紙の性状、性能を第1表に示す。
比較例1
実施例1と同様にして、乾燥シートを作製した。得られた乾燥シートを、厚さ0.6mmのスペーサーを配し、150℃に設定した熱板プレスを用いて、圧力490kPaで1分間プレスして吸着フィルター原紙を得た。
得られた吸着フィルター原紙の性状、性能を第1表に示す。
比較例2
多分岐状合成パルプ2.50gの代わりに、熱接着性複合繊維[チッソ(株)、ESC872、繊維長5mm、太さ2.2dtex]2.50gを水1,250mlに添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。
毛布からの剥離性が悪く湿紙シートが綺麗に得られず、毛布への原料取られが見られた。湿紙シート及び得られた吸着フィルター原紙の性状、性能を第1表に示す。
実施例1〜2及び比較例1〜2の結果を、第1表に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
第1表に見られるように、活性炭素繊維60質量%と多分岐状合成パルプ40質量%とを用いた実施例1、活性炭素繊維60質量%と多分岐状合成パルプ30質量%と熱接着性複合繊維10質量%とを用いた実施例2では、毛布からの剥離性がいずれも良好で湿紙シートが得られ、毛布への原料取られも殆ど見られず、結果として活性炭素繊維の脱落が少ない。また、湿紙シートの強度も高く、連続操業が容易であることが期待される。これに対して、活性炭素繊維60質量%と熱接着性複合繊維40質量%とを用いた比較例2では、剥離性が悪く湿紙シートが綺麗に得られず、毛布への原料取られが見られ、結果として活性炭素繊維の脱落が多い。また、湿紙シートの強度が低く、連続操業において困難が生じることが予想される。
実施例1の乾燥シートは熱収縮が小さいが、熱接着性複合繊維10質量%を含む実施例2の乾燥シートは熱収縮が少し大きくなり、熱接着性複合繊維40質量%を含む比較例2の乾燥シートは熱収縮が非常に大きい。この為、坪量や厚さの管理が難しいうえ、フィルターへの加工性が悪く、圧力損失が大きくなる。
熱風処理機を用いて、抄紙乾燥シートに対して垂直方向に熱風を通過させて繊維を融着させた実施例1〜2の吸着フィルター原紙は、略設計どおりの厚さと坪量を有し、通気性が良好である。これに対して、実施例1と同じ乾燥シートを用いても、熱板プレスにより熱処理した比較例1の吸着フィルター原紙は、厚さと坪量は実施例1と略同等であるが、通気性が低く、表面の繊維状態を観察すると、熱溶融物が表面の活性炭素繊維間を潰しているような状態であった。
比較例2の吸着フィルター原紙は、熱風処理機を用いても、熱収縮により坪量が増え、厚さも実施例1〜2と比べると2倍程度になり、熱処理による繊維の融着の管理が非常に困難である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の吸着フィルター原紙は、通気性が良好であり、加熱による収縮が少なく、コルゲート構造などに加工して、工業用の吸着フィルターとして好適に用いることができる。本発明の製造方法においては、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させるので、良好な通気性を保持したまま繊維を融着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明方法の実施の一態様の説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 巻出ロール
2 シート
3 網コンベア
4 網コンベア
5 熱風処理機
6 熱風処理機
7 送風機
8 吸着フィルター原紙
9 巻取ロ−ル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成分として、活性炭素繊維30〜80質量%と多分岐状合成パルプ20〜70質量%とを含有し、坪量が20〜200g/m2であり、ISO9237に準拠し、フラジール・パーミヤメーターを用い、設定圧力125Paで測定した通気度が50cm3/(cm2・s)以上であることを特徴とする吸着フィルター原紙。
【請求項2】
繊維成分として活性炭素繊維と多分岐状合成パルプを含むパルプスラリーを、湿式抄紙法により抄紙し、抄紙された長尺のシートに対して略垂直方向に熱風を通過させることにより、繊維を融着させることを特徴とする吸着フィルター原紙の製造方法。
【請求項3】
抄紙された長尺のシートを2枚の網コンベアの間に挟み、該シートに対して略垂直方向に熱風を通過させる請求項2記載の吸着フィルター原紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−132058(P2006−132058A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325124(P2004−325124)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】