説明

吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法ならびにセラミックコンデンサの製造方法

【課題】通気経路となる、通気性を確保するための孔の径(開口径)を小さく保ちながら、従来よりも通気性を向上させた樹脂シートを吸着用シートとして用いた、吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法およびセラミックコンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の吸着方法および製造方法では、厚さ方向に通気性を有する樹脂シートを吸着用シートとして用いる。この樹脂シートは、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された、非多孔質のシートである。貫通孔は、直線状に樹脂シートを貫通するストレート孔である。貫通孔の径は20μm以下である。樹脂シートの厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下である。本発明の各方法において、この樹脂シートは、吸着ユニットの吸着面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着ユニットの吸着面と作業対象物との直接の接触を防ぐ樹脂シートを用いた、吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法に関する。また、本発明は、当該樹脂シートを用いたセラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの小型電子機器の普及に伴い、当該機器に使用されるセラミックコンデンサーの小型化、高容量化が求められている。セラミックコンデンサーは、通常、誘電体薄膜(セラミックグリーンシート)を積層して製造される。セラミックコンデンサーの小型化、高容量化の一手法としてセラミックグリーンシートの薄膜化があり、近年、1〜2μm厚にまで薄膜化を進めたセラミックグリーンシートが実用化されている。
【0003】
セラミックグリーンシートは、離型シート上に誘電体ペーストを塗工、乾燥することにより形成される。セラミックグリーンシートは、離型シートと一体となって、セラミックコンデンサー製造工程に供給される。供給されたセラミックグリーンシートは、必要に応じて電極膜の形成および/またはカッティングがなされた後、離型シートから剥離され、所定の位置に搬送されて積層される。セラミックグリーンシートの離型シートからの剥離および剥離したセラミックグリーンシートの搬送には、吸引によりセラミックグリーンシートを吸着する吸着ヘッド(suction head)の使用が一般的である(吸着搬送)。これにより、セラミックグリーンシートの安定した剥離および搬送、ならびに精度よい積層が可能となる。吸着ヘッドは、通常、金属からなるが、セラミックグリーンシートに含まれる微細なセラミック粉体によって、その吸着面(suction face)に傷が付きやすい。この傷は、後に吸着されるセラミックグリーンシートに傷が付く原因となり、セラミックコンデンサーの不良発生の原因となる。このため、吸着面の保護を目的として、通気性を有する樹脂シート(吸着用シート:suction sheet)が当該吸着面に配置される。また、吸着用シートを交換可能に配置することで、吸着ヘッド自体を取り外すことなくセラミックグリーンシート積層装置のメンテナンスが可能になるなどの効果も得られる。
【0004】
吸着用シートの一種に、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)からなる多孔質シートがある(例えば、特許文献1参照)。UHMWPEからなる多孔質シートは、通気性、表面平滑性、離型性に優れており、セラミックグリーンシートの剥離、吸着搬送、積層に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−26981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セラミックグリーンシートの薄膜化が進むと、セラミックグリーンシート自身が通気性を持つようになるとともに、離型シートとの間に働くファンデルワールス力の影響が大きくなるため、離型シートからの剥離および吸着搬送に必要な吸着力が増大する。このため、通気性をさらに向上させた吸着用シートの使用が望まれる。
【0007】
ところで、シートの通気性を向上させるためには、通気経路の容積を大きくして通気抵抗を減らす手法が一般的である。例えば、多孔質シートの場合、その平均孔径および/または気孔率を大きくすることでシートの通気性が向上する。しかし、多孔質シートを吸着用シートに用いる場合、平均孔径を大きくすると、セラミックグリーンシートが吸着用シート表面の孔に吸い込まれやすくなり、セラミックグリーンシートの変形および積層不良が誘発される。一方、気孔率を大きくすると、セラミックグリーンシートの吸着時に吸着用シートが変形しやすくなり、セラミックグリーンシートの変形および積層不良が誘発される。変形および積層不良の問題は、薄膜化されたセラミックグリーンシートで特に起きやすい。こうした事情のもと、本発明は、通気経路となる、通気性を確保するための孔の径(開口径)を小さく保ちながら、従来よりも通気性を向上させた樹脂シートを吸着用シートとして用いた、吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法およびセラミックコンデンサの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の吸着方法は、吸着ユニットへ作業対象物(吸着対象物)を吸着させる方法であって、吸着ユニットの吸着面に作業対象物を吸着させる工程を含む。前記吸着面に、前記作業対象物と前記吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する樹脂シート(吸着用シート)が配置されている。前記樹脂シートは、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された、非多孔質のシートである。前記貫通孔は、直線状に前記樹脂シートを貫通するストレート孔である。前記貫通孔の径が20μm以下である。前記樹脂シートの厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下である。
【0009】
本発明のセラミックコンデンサの製造方法は、離型フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートを、吸着ユニットの吸着面に吸着させて前記離型フィルムから剥離する剥離工程と、剥離した前記セラミックグリーンシートを、前記吸着面に吸着させたまま搬送し、搬送先で他のセラミックグリーンシートと積層する積層工程と、前記剥離工程および前記積層工程を複数回繰り返して得られた前記セラミックグリーンシートの積層体を焼成する焼成工程と、を含む。前記吸着面に、前記セラミックグリーンシートと前記吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する樹脂シート(吸着用シート)が配置されている。前記樹脂シートは、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された、非多孔質のシートである。前記貫通孔は、直線状に前記樹脂シートを貫通するストレート孔である。前記貫通孔の径が20μm以下である。前記樹脂シートの厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着方法では、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された非多孔質の樹脂シートであって、貫通孔が直線状に当該樹脂シートを貫通するストレート孔であり、貫通孔の径が20μm以下であり、厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして10秒/100mL以下である樹脂シートを、吸着ユニットの吸着面に配置して、吸着ユニットに作業対象物を吸着させる。この樹脂シートは、作業対象物と吸着ユニットの吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する吸着用シートである。作業対象物は、吸着用シートを介して、吸着面に吸着される。吸着用シートの配置により、吸着ユニットの吸着面が保護される。当該吸着用シートは、通気性を確保するための孔の径(開口径)が小さいながらも、従来の吸着用シートよりも高い通気性を有する。このため、本発明の吸着方法では、吸着用シートの表面に存在する孔(開口)への作業対象物の吸い込みが抑制されながら、当該対象物が効率よく吸着される。作業対象物が、セラミックコンデンサの製造に用いられるセラミックグリーンシートである場合、セラミックグリーンシートを離型シートから確実に剥離できるとともに、剥離時および吸着搬送時におけるセラミックグリーンシートの変形が抑制され、積層工程におけるセラミックグリーンシートの積層不良の発生が抑制される。この効果は、吸着用シートの表面に存在する孔(開口)への吸い込みが発生しやすく、剥離シートから剥離しにくい薄膜化セラミックグリーンシートが作業対象物である場合に、特に顕著となる。
【0011】
本発明の製造方法では、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された非多孔質の樹脂シートであって、貫通孔が直線状に当該樹脂シートを貫通するストレート孔であり、貫通孔の径が20μm以下であり、厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして10秒/100mL以下である樹脂シートを、吸着ユニットの吸着面に配置して、セラミックコンデンサを製造する。この樹脂シートは、セラミックグリーンシートと吸着ユニットの吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する吸着用シートである。吸着ユニットは、離型フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートを、吸着ユニットの吸着面に吸着させて離型フィルムから剥離する剥離工程、ならびに剥離したセラミックグリーンシートを、吸着面に吸着させたまま搬送(吸着搬送)し、搬送先で他のセラミックグリーンシートと積層する積層工程に使用される。吸着用シートの配置により、吸着ユニットの吸着面が保護される。当該吸着用シートは、通気性を確保するための孔の径(開口径)が小さいながらも、従来の吸着用シートよりも高い通気性を有する。このため、本発明の製造方法では、吸着用シートの表面に存在する孔(開口)へのセラミックグリーンシートの吸い込みが抑制されながら、セラミックグリーンシートが効率よく吸着される。これにより、剥離工程においてセラミックグリーンシートが離型シートから確実に剥離されるとともに、剥離時および吸着搬送時におけるセラミックグリーンシートの変形が抑制され、積層工程におけるセラミックグリーンシートの積層不良の発生が抑制される。この効果は、吸着用シート表面に存在する孔(開口)への吸い込みが発生しやすく、剥離シートから剥離しにくい薄膜化セラミックグリーンシートを使用する場合に、特に顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の吸着方法および製造方法に使用する樹脂シートの一例を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す樹脂シートの断面B−Bを示す断面図である。
【図3】本発明の吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図4A】本発明のセラミックコンデンサの製造方法の一例における剥離工程を示す模式図である。
【図4B】本発明のセラミックコンデンサの製造方法の一例における積層工程を示す模式図である。
【図4C】本発明のセラミックコンデンサの製造方法の一例における焼成工程を示す模式図である。
【図5】実施例において、吸着用シートの評価に用いた装置を示す模式図である。
【図6】実施例1で用いた吸着用シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図7】実施例2で用いた吸着用シート表面のSEM像を示す図である。
【図8】比較例で用いた吸着用シート表面のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の吸着方法および製造方法で使用する吸着用シートは、厚さ方向に貫通する多数の貫通孔が形成された、非多孔質の樹脂シートAである。樹脂シートAは、厚さ方向に通気性を有し、吸着用シートとして機能する。非多孔質とは、当該貫通孔以外に、厚さ方向の通気経路となる孔を有さないことをいう。樹脂シートAは、典型的には、当該貫通孔を除いて無孔の樹脂シートである。
【0014】
図1,2に、樹脂シートAの一例を示す。図2は、図1に示す樹脂シート11の断面B−Bを示す。樹脂シート11には、その厚さ方向に貫通する多数の貫通孔12が形成されている。樹脂シート11は、貫通孔12を除き、無孔である。
【0015】
樹脂シートAの貫通孔の径(開口径)は20μm以下である。これにより、樹脂シートAを吸着用シートとして使用した際に、当該シートの表面に存在する孔(開口)への作業対象物(例えば、セラミックグリーンシート)の吸い込みが抑制される。貫通孔の径が20μmを超えると、シートの表面に存在する開口への作業対象物の吸い込みが生じやすい。また、吸い込みが起こらないまでも、作業対象物の表面に開口の跡がつくことで、作業対象物の厚さにバラツキが生じやすい。作業対象物がセラミックグリーンシートである場合、シートの厚さのバラツキは、積層工程におけるセラミックグリーンシートの積層不良の発生につながる。貫通孔の径は10μm以下が好ましい。このような微細な貫通孔は、例えば、イオンビーム照射およびエッチングにより形成できる。貫通孔の径(開口径)の下限は、樹脂シートAの通気度がJIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして10秒/100mL以下である限り、特に限定されない。当該下限は、例えば、0.8μmである。
【0016】
貫通孔の形状は特に限定されず、例えば、その開口形状が円形であってもよいし、不定形であってもよい。図1,2に示す樹脂シート11において、貫通孔12の開口形状は円形である。
【0017】
貫通孔は、直線状に樹脂シートAを貫通するストレート孔である。その径は、樹脂シートAの一方の主面から他方の主面に至るまで、ほぼ変化しないことが好ましい。樹脂シートAは2以上の貫通孔を有するが、貫通孔同士は、典型的には、互いに独立している。このような貫通孔は、例えばイオンビーム照射およびエッチングにより形成できる。イオンビーム照射およびエッチングでは、開口径および軸線の方向が揃った多数の貫通孔を樹脂シートに形成できる。
【0018】
貫通孔の軸線は、通常、樹脂シートAの主面に垂直な方向である。当該貫通孔が樹脂シートAの厚さ方向に貫通する(当該貫通孔によって、樹脂シートAの厚さ方向の通気が確保される)限り、主面に垂直な方向から傾いていてもよい。
【0019】
従来、吸着用シートとして多孔質シートが使用されている。しかし、多孔質シートでは、通気経路となる孔の形状が不規則であり、通気経路に沿って常に変化しているとともに、孔同士が複雑に接続している。このため、樹脂シートAの貫通孔の径と同じ平均孔径を有する多孔質シートでは、当該樹脂シートAに比べて著しく通気抵抗が高く、通気性が悪くなる。これに加えて、多孔質シートは、当該シートの厚さ方向だけではなく平面方向への通気性も有するため、吸着用シートとして使用した際に、いわゆる吸着力の横漏れが発生する。通気性が低く、横漏れが発生する吸着用シートを使用すると、セラミックグリーンシートなどの作業対象物を吸着するために大きな吸引圧力が必要になるとともに、吸着用シートの場所によって吸着力が変化する(吸着用シートの端部で特に吸着力が低下する)ため、吸着時に作業対象物の変形が発生しやすい。
【0020】
これに対して樹脂シートAでは、通気経路となる貫通孔の貫通方向は樹脂シートAの厚さ方向であり、貫通孔の形状も通気経路上でほぼ変化しない。このため、厚さ方向の通気抵抗が非常に低く、良好な通気性を有する吸着用シートとなる。また、横漏れのない吸着用シートとなる。
【0021】
樹脂シートAを構成する材料は特に限定されない。樹脂シートAは、例えば、イオンビーム照射およびエッチングによって上記貫通孔が形成される材料から構成される。このような材料は、例えば、アルカリ物質および/または酸化剤を含んだエッチング処理液により分解される(加水分解性および/または酸化分解性を有する)材料である。アルカリ物質は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムである。酸化剤は、例えば、亜塩素酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウムである。
【0022】
樹脂シートAは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される。これらの樹脂は、アルカリ物質および/または酸化剤を含んだエッチング処理液により分解される材料である。PIは、次亜塩素酸ナトリウムを主成分として含むエッチング処理液により分解される。その他の樹脂は、水酸化ナトリウムを主成分として含むエッチング処理液により分解される。
【0023】
表面の平滑度が高いことから、樹脂シートAはPETから構成されることが好ましい。吸着用シート表面の平滑度が高い方が、吸着時における作業対象物の変形が抑制される。
【0024】
さらに、PETから構成される樹脂シートAの厚み精度は、シート厚が12.5〜100μmの範囲で、±2μm程度とすることができる。この厚み精度は、表面を平滑に調整したUHMWPE多孔質シートにおける厚み精度(±5μm)に比べて、非常に優れている。これに加えて、PETから構成される樹脂シートAの表面粗さは、JIS B0601に準拠して測定した算術平均粗さRaにして0.05μm程度、最大高さRmaxにして0.1μm程度とすることができる。これは、表面を平滑に調整したUHMWPE多孔質シートにおけるRa(=0.5μm)、Rmax(=15μm)に比べて非常に小さい。これらの特性は、本発明の効果をより強める。
【0025】
樹脂シートAの通気度(厚さ方向の通気度)は、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下であり、3秒/100mL以下が好ましい。樹脂シートAの通気度は、貫通孔の径および貫通孔の密度により調整できる。
【0026】
樹脂シートAの気孔率は特に限定されない。作業対象物の吸着時における樹脂シートAの変形を抑制する観点からは、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。樹脂シートAの気孔率がこのように低い場合においても、その通気経路の形状により、樹脂シートAは非常に高い通気性を有する。
【0027】
樹脂シートAの一方の面に、当該面の離型性を向上させるコーティングが施されていてもよい。コーティングは、例えば、フッ素化合物など、表面の摩擦係数を低下させる作用を有する化合物のコーティングである。このような樹脂シートAは、吸着ユニットが作業対象物を吸着した際に、当該一方の面(コーティング面)が作業対象物に接するように、吸着ユニットの吸着面に配置されて使用される。本発明の吸着方法では、吸着ユニットが作業対象物を吸着した際にコーティング面が作業対象物に接するように、樹脂シートAが吸着面に配置されていてもよい。本発明のセラミックコンデンサの製造方法では、吸着ユニットがセラミックグリーンシートを吸着した際にコーティング面がセラミックグリーンシートに接するように、樹脂シートAが吸着面に配置されていてもよい。これにより、吸着ユニットからの作業対象物(例えば、セラミックグリーンシート)の離型性が向上する。
【0028】
樹脂シートAの一方の面に、当該面における貫通孔の開口が露出するように、粘着剤が配置されていてもよい。粘着剤の種類は特に限定されない。貫通孔の開口は、樹脂シートAの通気度に関する上記規定が満たされる限り、少なくともその一部が露出していればよい。このような樹脂シートAは、当該一方の面(粘着面)が吸着面と接合するように、吸着面に配置されて使用される。本発明の吸着方法およびセラミックコンデンサの製造方法では、粘着面が吸着面と接合するように、樹脂シートAが吸着面に配置されていてもよい。
【0029】
吸着用シートである樹脂シートAを吸着ユニットの吸着面に配置する方法は特に限定されず、公知の方法に従えばよい。
【0030】
本発明の吸着方法は、吸着ユニットの吸着面に作業対象物を吸着させる工程を含む。ここで、吸着用シートである樹脂シートAが吸着用ユニットの吸着面に配置されている限り、当該工程の詳細は特に限定されない。
【0031】
図3に、本発明の吸着方法の一例を示す。図3に示す方法では、吸着ユニット14に作業対象物15が吸着されている。吸着ユニット14の吸着面13には、図1に示す樹脂シート11が配置されており、作業対象物15は、樹脂シート11を介して吸着面13に吸着される。吸着ユニット14は、吸着ユニット14に吸引力を発生させるポンプ(図示せず)に接続されている。なお、図3に示す吸着ユニット14の吸着面13には複数の孔16が形成されており、孔16によって、吸着ユニット14の吸着面13に吸引力が発生する。吸着ユニット14における孔16が形成されている範囲L1は、作業対象物15の範囲L2よりも狭いことが好ましい。
【0032】
本発明のセラミックコンデンサの製造方法は、離型フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートを、吸着ユニットの吸着面に吸着させて離型フィルムから剥離する剥離工程と、剥離したセラミックグリーンシートを、吸着面に吸着させたまま搬送し、搬送先で他のセラミックグリーンシートと積層する積層工程と、剥離工程および積層工程を複数回繰り返して得られたセラミックグリーンシート積層体を焼成する焼成工程と、を含む。ここで、吸着用シートである樹脂シートAが吸着ユニットの吸着面に配置されている限り、各工程の詳細は特に限定されず、公知の方法に従えばよい。
【0033】
図4A〜図4Cに、本発明のセラミックコンデンサの製造方法の一例における各工程を示す。図4Aは剥離工程を、図4Bは積層工程を、図4Cは焼成工程を、それぞれ示す。
【0034】
図4Aに示す剥離工程では、離型フィルム21上に形成されたセラミックグリーンシート22(図4Aの(1)参照)を、吸着ユニット14の吸着面13に吸着させて、離型フィルム21から剥離する(図4Aの(2),(3)参照)。吸着面13の表面には、上述した樹脂シート11が配置されており、セラミックグリーンシート22は、樹脂シート11を介して吸着面13に吸着される。
【0035】
図4Bに示す積層工程では、剥離工程において剥離したセラミックグリーンシート22を、吸着面13に吸着させたまま搬送し、搬送先で他のセラミックグリーンシート22と積層する(図4Bの(1)〜(3)参照)。
【0036】
図4Cに示す焼成工程では、図4Aに示す剥離工程および図4Bに示す積層工程を複数回繰り返して得られたセラミックグリーンシート22の積層体23を焼成して、焼成体24を得る。その後、焼成体24に電極を配置する工程などを経て、セラミックコンデンサが得られる。図4Cに示す積層体23は、図を分かり易くするために8層に過ぎないが、実際には、剥離工程および積層工程を繰り返すことによって、より多くのセラミックグリーンシート22が積層されてもよい。
【0037】
本発明のセラミックコンデンサの製造方法における剥離工程、積層工程および焼成工程の詳細は、公知のセラミックコンデンサの製造方法に従えばよい。
【0038】
本発明のセラミックコンデンサの製造方法は、必要に応じ、剥離工程、積層工程および焼成工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0040】
本実施例では、吸着用シートとして、樹脂シートA(実施例1、2)およびUHMWPE多孔質シート(比較例)を、それぞれ、図5に示す吸着ユニット1の吸着面2に配置し、吸着ユニット1に吸引力を発生させたときに、吸着ユニット1外部の外気と吸着ユニット1の内部との間に生じる差圧aを、圧力計3を用いて評価した。差圧が小さい方が吸着用シートの通気性が高い。吸着ユニット1の吸着面2よりも吸着用シート4が小さい場合は、図5に示すように、吸着面2における吸着用シート4が配置されていない部分をテープ5などにより閉塞させ、吸着用シート4のみを通して吸着ユニット1の内部に外気が吸引されるようにした。
【0041】
比較のために、吸着面2に何も配置しないときに外気と吸着ユニット1内部との間に生じる差圧bと、吸着面2を無孔の樹脂シートにより閉塞させたときに外気と吸着ユニット1内部との間に生じる差圧cとを併せて評価した。吸着用シートの通気性が高い場合、吸着面2に何も配置しないときの差圧bと、吸着用シートを配置したときの差圧aの値が近く、かつ吸着用シートを配置したときの差圧aと、吸着面2を閉塞させたときの差圧cとの差が大きい。差圧の測定は、吸着面2に何も配置しないときに吸着ユニット1が吸引する空気の流量が10SLM、20SLM、30SLMとなるように、調節バルブ6および流量計7を用いて吸着ユニット1の吸引力を設定することにより、吸着ユニット1の吸引力を変化させながら行った。SLMの基準温度は25℃である。図5の符号8は、真空ポンプである。
【0042】
(実施例1)
樹脂シートAとして、PETからなる無孔のベースシート(厚さ22μm)に、イオンビーム照射およびエッチングにより多数の貫通孔(開口径0.8μm)を形成した樹脂シート(オキシフェン社製、OxyDisk)を用いた。貫通孔は、ベースシートの厚さ方向に軸線を有する、内径がほぼ一定のストレート孔であった。当該樹脂シート表面のSEM像を図6に示す。JIS P8117に準拠して測定した当該樹脂シートのガーレー数(厚さ方向のガーレー数)は、2.7秒/100mLであった。当該樹脂シートの気孔率は29.8%(面積%)であった。樹脂シートの気孔率は、貫通孔の上記形状に基づき、樹脂シートの表面に占める貫通孔の開口の面積の割合とした。この割合は、樹脂シート表面のSEM像を画像処理により二値化して求めた。気孔率の測定方法は、以降の実施例2においても同様である。
【0043】
(実施例2)
樹脂シートAとして、PETからなる無孔のベースシート(厚さ22μm)に、イオンビーム照射およびエッチングにより多数の貫通孔(開口径10μm)を形成した樹脂シート(オキシフェン社製、OxyDisk)を用いた。貫通孔は、ベースシートの厚さ方向に軸線を有する、内径がほぼ一定のストレート孔であった。当該樹脂シート表面のSEM像を図7に示す。JIS P8117に準拠して測定した当該樹脂シートのガーレー数(厚さ方向のガーレー数)は、0.06秒/100mLであった。また、当該樹脂シートの気孔率は11.4%(面積%)であった。
【0044】
(比較例)
吸着用シートとして、UHMWPE多孔質シート(日東電工社製、サンマップLCT5320S、厚さ200μm)を用いた。当該多孔質シート表面のSEM像を図8に示す。この多孔質シートの平均孔径は、20μmであった。
【0045】
実施例1,2および比較例の評価結果を、それぞれ以下の表1〜3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1〜3に示すように、樹脂シートAを吸着用シートとして用いた実施例1,2では、UHMWPE多孔質シートを吸着用シートとして用いた比較例に比べて、通気経路となる孔の径が小さいながらも、非常に高い通気性が実現した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の吸着方法は、セラミックコンデンサの製造、半導体ウェハーの製造、微小部品の吸引固定など、幅広い用途に応用できる。
【0051】
本発明の各方法において吸着用シートとして使用する樹脂シートは、吸着ユニットの吸着面に配置してセラミックグリーンシートと吸着面との接触を防ぐ目的以外にも、半導体ウェハーをカットあるいは吸引する際の固定ユニット、および微小部品の吸引固定ユニットなど、幅広い吸着ユニットに対して使用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 吸着ユニット
2 吸着面
3 圧力計
4 吸着用シート
5 テープ
6 調節バルブ
7 流量計
8 真空ポンプ
11 樹脂シート
12 貫通孔
13 吸着面
14 吸着ユニット
15 作業対象物
16 孔
21 離型フィルム
22 セラミックグリーンシート
23 積層体
24 焼成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着ユニットの吸着面に作業対象物を吸着させる工程を含み、
前記吸着面に、前記作業対象物と前記吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する樹脂シートが配置されており、
前記樹脂シートは、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された、非多孔質のシートであり、
前記貫通孔は、直線状に前記樹脂シートを貫通するストレート孔であり、
前記貫通孔の径が20μm以下であり、
前記樹脂シートの厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下である、
吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法。
【請求項2】
前記作業対象物が、セラミックグリーンシートである請求項1に記載の吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法。
【請求項3】
前記樹脂シートが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される請求項1に記載の吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法。
【請求項4】
前記樹脂シートの一方の面に、当該面の離型性を向上させるコーティングが施されており、
前記吸着ユニットが前記作業対象物を吸着した際に前記一方の面が当該作業対象物に接するように、前記樹脂シートが前記吸着面に配置されている請求項1に記載の吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法。
【請求項5】
前記樹脂シートの一方の面に、当該面における前記貫通孔の開口が露出するように、粘着剤が配置されており、
前記一方の面が前記吸着面と接合するように、前記樹脂シートが前記吸着面に配置されている請求項1に記載の吸着ユニットへの作業対象物の吸着方法。
【請求項6】
離型フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートを、吸着ユニットの吸着面に吸着させて前記離型フィルムから剥離する剥離工程と、
剥離した前記セラミックグリーンシートを、前記吸着面に吸着させたまま搬送し、搬送先で他のセラミックグリーンシートと積層する積層工程と、
前記剥離工程および前記積層工程を複数回繰り返して得られた前記セラミックグリーンシートの積層体を焼成する焼成工程と、を含み、
前記吸着面に、前記セラミックグリーンシートと前記吸着面との直接の接触を防ぐ、厚さ方向に通気性を有する樹脂シートが配置されており、
前記樹脂シートは、厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔が形成された、非多孔質のシートであり、
前記貫通孔は、直線状に前記樹脂シートを貫通するストレート孔であり、
前記貫通孔の径が20μm以下であり、
前記樹脂シートの厚さ方向の通気度が、JIS P8117に準拠して測定したガーレー数にして、10秒/100mL以下である、セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂シートが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される請求項6に記載のセラミックコンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂シートの一方の面に、当該面の離型性を向上させるコーティングが施されており、
前記吸着ユニットが前記セラミックグリーンシートを吸着した際に前記一方の面が前記セラミックグリーンシートに接するように、前記樹脂シートが前記吸着面に配置されている請求項6に記載のセラミックコンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂シートの一方の面に、当該面における前記貫通孔の開口が露出するように、粘着剤が配置されており、
前記一方の面が前記吸着面と接合するように、前記樹脂シートが前記吸着面に配置されている請求項6に記載のセラミックコンデンサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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