説明

吸着剤およびその処理物。

【課題】 食品素材にスズ(Sn)、鉛(Pb)などの両性金属が含まれていると、毒性を生じるなどの品質低下を招く。例えば、スズのヒトに対する中毒症状としては、高濃度のスズによる急性胃腸炎と、良性の塵肺症であるスズ肺が知られている。他に有機スズは、近年「内分泌かく乱物質」の1つとして問題視されている。本発明は食品素材に含まれる両性金属を簡単に低減、除去することができる両性金属除去用組成物を含有することを特徴とする両性金属除去用組成物および組成物により処理された食品素材を提供することを目的とする。
【解決手段】 金属酸化物を含有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を含有することを特徴とする食品素材の両性金属除去用組成物およびその処理物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品素材にスズ(Sn)、鉛(Pb)などの両性金属が含まれていると、毒性を生じるなどの品質低下を招く。例えば、スズのヒトに対する中毒症状としては、高濃度のスズによる急性胃腸炎と、良性の塵肺症であるスズ肺が知られている。他に有機スズは、近年「内分泌かく乱物質」の1つとして問題視されている。
【0003】
鉛は神経毒性、腎毒性、タンパク親和性が非常に強く、消化管から吸収された鉛の約85%は赤血球に沈着しやがて骨に沈着する。人体への影響としては、血液中の鉛濃度が1.0ppm以上で、脳炎・痴呆・腎臓障害、0.5ppm以上で、神経障害、消化管障害、疲労感、不眠、頭痛、関節痛や便秘、0.3ppm以上で知能低下の原因になるといわれている。特に、小児の場合は明らかに脳の成長を阻害する恐れがあるといわれている。また、知能(IQ)や行動に重大な影響を与えるともいわれている。従来、両性金属の除去方法としては、一般に陽イオン交換樹脂による精製法が知られている。しかしながら、イオン交換樹脂単独による除去方法では、処理後に液pHが下がるため再度pHを調整しなければならない。また、極端にpHが下がった場合には、処理物が分解される問題も起こる。さらに残留両性金属濃度の低い天然生理活性物質を安定して得るという点で十分に満足できるものでなかった。
【0004】
他に両性金属の除去方法としてキレート樹脂を用いる方法もあるが、問題点として、除去効率が低いため両性金属除去に時間がかかる。また、キレート樹脂の両性金属吸着量は少ないので、大きな容器に多量のキレート樹脂を充填する必要があり、両性金属除去装置が大型化する。さらには、キレート樹脂は高価であるため、両性金属除去装置が高価なものとなる。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
そこで、食品素材の両性金属を簡単に低減、除去する両性金属除去用組成物が強く望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−54991号公報(第1頁−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品素材に含まれる両性金属を簡単に低減、除去することができる両性金属除去用組成物を含有することを特徴とする両性金属除去用組成物および組成物により処理された食品素材を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題について鋭意研究を行った結果、食品素材に金属酸化物を含有する両性金属除去用組成物を接触させることで高い両性金属除去効果が得られるとの知見を得て発明を完成した。
【0009】
本発明の両性金属とは、アルカリ・酸にも容易に反応し溶解する金属であり一般にスズ(Sn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)である。
本発明の金属酸化物としては、例えばNaO、SiO、B3、Al3、Ga3、In3、Tiが挙げられる。好ましくは、B3、Alである。さらに好ましくは、Alである。
【0010】
本発明方法の実施に際し、磨耗率が10%以下、好ましくは5.0%以下、平均粒子径が0.01mm〜15.0mm、さらに好ましくは3〜8.0mmの金属酸化物が使用される。磨耗率が10%以下である金属酸化物を用いることにより、処理後の液の白濁が実質的になく、またこれに加え、平均粒子径を上記範囲に設定することにより、長時間に渡り所望とする低濃度域の両性金属除去効果を維持することができる。本願における磨耗率とは、表面の相対運動の結果として起きる物体の操作面からの物質の逐次損失の割合を示すものである。なお、磨耗率はJIS−K0102、平均粒子径はJIS−K1464に準じて測定できる。
【0011】
金属酸化物のBET表面積は、50m/g以上、好ましくは200m/g以上である。なお、BET表面積はBET法に準じて測定できる。
【0012】
BET法は、具体的には粉体粒子表面に吸着占有面積の判った分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法である。最も良く利用されるのが不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法である。
【0013】
本発明における両性金属除去組成物を用いた処理とは、特に限定されるものではないが、バッチ式、両性金属除去組成物をカラムに固定化するカラム法などがあげられる。
【0014】
金属酸化物の添加量は、重量比で食品素材に対して金属酸化物0.0001〜5の範囲がよい。特に望ましくは0.003〜0.01の範囲である。また、5以上の添加量になるとランニングコストが大きくなり経済的でない。
【0015】
接触時間は、10分〜180分、好ましくは30〜60分である。この値以下であると除去効率が悪くなり、この値以上であるとランニングコストが大きくなり経済的でない。
【0016】
本発明における食品素材とは、食品及び食品添加物として使用できるものであれば、特に限定されるものではないが、安全性を強く求められる点より好ましくは、天然から得られる生理活性を持つ物質である。例えば、β−カロチン、リコピン、大豆イソフラボン、カカオ豆ポリフェノール、緑茶ポリフェノール、ウコン、マンゴスチン抽出物、大豆タンパク質、大豆ペプチド、大豆グロブリン、テアニン、GABA,ショ糖、澱粉、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトールラクチトール、エリスリトール、ホモオリゴ糖、ヘテロオリゴ糖、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、セスバニアガム、ガラクトマンナン分解物等があげられる。
【0017】
本発明の両性金属を低減化した食品素材の摂取形態としては、例えば、飲料、クッキー、スナック菓子、乳製品などの種々の食品とすることができるほか、例えば適当な増量剤、賦形剤などを用いて錠剤状、液状、シロップ状、顆粒状などの医薬品や健康食品の形態にすることもできる。本発明で得られる処理物は両性金属が低減化されており様々な食品に添加することが可能であることから容易に摂取することが可能である。
【0018】
両性金属の測定法については、特に限定されるものではないが原子吸光光度法、比色法、ICP発光分析(ICP−OES)や質量分析(ICP−MS・同位体希釈法)がある。好ましくは感度問題からICP−OESとICP−MS・同位体希釈法である。さらに好ましくはICP−MS・同位体希釈法である。この方法は、米カリフォルニア州法 プロポジション65に対応したWEST COAST ANALISIS SENTER(WCAS)にて測定が可能である。
【実施例】
【0019】
以下、調製例及び試験例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0020】
実施例1
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.5に調製し、これにアスペルギルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー社製)0.2gとグァーガム粉末(Lucid社製 高グレード品)100gを添加混合して40〜45℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato社製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機社製)し、ガラクトマンナン分解物(平均分子量 約20,000)の粉末65gが得られた。
【0021】
試験例1
実施例1で得られたガラクトマンナン分解物の10%溶液500gに金属酸化物5gを添加し60分間放置した。その後、この処理液を、ろ過、濃縮後、噴霧乾燥し両性金属を低減化したガラクトマンナン分解物を得た。なお、金属酸化物としてAl(和光純薬工業社製):平均粒子径は0.8mm、磨耗率は0.6%、BET表面積は290m/g、Ga(和光純薬工業社製:平均粒子径は0.7mm、磨耗率は1.0%、BET表面積は250m/g)、B(和光純薬工業社製):平均粒子径は0.6mm、磨耗率は1.5%、BET表面積は210m/gを用いた。
【0022】
得られたガラクトマンナン分解物のSn、Pb、Zn、Alの含量をICP−MSにより測定した。同じ処理を5回行いその結果の平均値を表1に示す。
【0023】
磨耗率:JIS−K0102に準じて測定した。
平均粒子径:JIS−K1464に準じて測定した。
BET:BET法に準じて測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示したようにSn、Pb、Zn、Alの含量が有意に減少した。特にAlの低減効果が高かった。
【0026】
試験例2
実施例1で得られたガラクトマンナン分解物の20%溶液500gにAl(和光純薬工業社製)0.0005g(食品素材:Al=1:0.00005)と0.001g(食品素材:Al=1:0.0001)を添加し60分間放置した。その後、この処理液をろ過、濃縮後、噴霧乾燥し両性金属を低減化したガラクトマンナン分解物を得た。
【0027】
得られたガラクトマンナン分解物のSn、Pb、Zn、Alの含量をICP−MSにより測定した。同じ処理を5回行いその結果の平均値を表2に示す。
【0028】
磨耗率:JIS−K0102に準じて測定した。
平均粒子径:JIS−K1464に準じて測定した。
BET:BET法に準じて測定した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示したように食品素材に対して、金属酸化物を重量比0.0005以上添加することで低減効果がよくなることが確認された。
【0031】
試験例3
キサンタンガム(三栄原エフ−エフ・アイ社製)の1%溶液500gに金属酸化物1gを添加し60分間放置した。その後、この処理液をろ過、濃縮後、噴霧乾燥し両性金属を低減化したキサンタンガムを得た。なお、金属酸化物としてAl(和光純薬工業社製):平均粒子径は0.8mm、磨耗率は0.6%、BET表面積は290m/g、を用いた。
【0032】
得られたキサンタンガムのSn、Pb、Zn、Alの含量をICP−MSにより測定した。同じ処理を5回行いその結果の平均値を表3に示す。
磨耗率:JIS−K0102に準じて測定した。
平均粒子径:JIS−K1464に準じて測定した。
BET:BET法に準じて測定した。
【0033】
【表3】

【0034】
試験例4
大豆ペプチド(不二製油社製)の1%溶液500gに金属酸化物1gを添加し60分間放置した。その後、この処理液をろ過、濃縮後、噴霧乾燥し両性金属を低減化した大豆ペプチドを得た。なお、金属酸化物としてAl(和光純薬工業社製):平均粒子径は0.8mm、磨耗率は0.6%、BET表面積は290m/g、を用いた。
【0035】
得られた大豆ペプチドのSn、Pb、Zn、Alの含量をICP−MSにより測定した。同じ処理を5回行いその結果の平均値を表4に示す。
【0036】
磨耗率:JIS−K0102に準じて測定した。
平均粒子径:JIS−K1464に準じて測定した。
BET:BET法に準じて測定した。
【0037】
【表4】

【0038】
表4に示したようにSn、Pb、Zn、Alの含量が有意に減少した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明で得られる食品素材は両性金属が低減化されており様々な食品に添加することが可能であり、また、両性金属による人体への問題もないため安全かつ安心して摂取することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含有することを特徴とする食品素材の両性金属除去用組成物。
【請求項2】
食品素材に含まれる両性金属を両性金属除去用組成物使用前と比較して1/5以下まで低減することを特徴とする請求項1記載の食品素材の両性金属除去用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の食品素材の両性金属除去用組成物を用い処理された食品素材。

【公開番号】特開2008−110273(P2008−110273A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293084(P2006−293084)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】