説明

吸着剤

【課題】活性炭に銀または銀化合物あるいは銀化合物を添着する方法が提案されている。しかし実際の使用に当たっての処理水中への銀溶出量を適切に調整することが不可能であった。本発明は、水道水中の残留塩素、トリハロメタン、重金属類を効率よく除去できるのみならず、銀を徐々に水中に溶出させる吸着剤、特に浄水器へ適用し、長期間にわたり、安定して銀を徐放させることが可能な活性炭ベースの吸着剤を提供することを課題としている。
【解決手段】活性炭をあらかじめ塩酸水溶液によって処理し、塩化物イオンを活性炭に0.1〜2.0重量%吸着させた活性炭に銀または銀化合物を添着させた吸着剤が前記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀イオンを徐々に水中に溶出させ安定した抗菌効果を発揮する水処理用吸着剤及びその製法に関する。特に浄水器へ適用し、残留塩素、トリハロメタン、重金属イオン等を吸着除去するとともに、長期間にわたり、安定して銀イオンを水中に徐放させ、持続した抗菌効果を発揮する水処理用吸着剤およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭を吸着剤とする浄水器中に長期間水を滞留させていると、活性炭により残留塩素が分解されるために、浄水器中に細菌類が増殖することがある。これを抑止するために、活性炭に銀または銀化合物を添着することが知られている。
例えば、通常の活性炭に銀または銀化合物を添着する方法が提案されている(特許文献1)が、吸着剤として通常の活性炭を使用したのでは、活性炭により銀又は銀化合物の添着量や、結合状態が一定せず、処理水中への銀イオン溶出量を調整することができない。
また、活性炭の製造過程で銀または銀化合物を添加する方法も提案されている(特許文献2)が、製造工程が煩雑であるうえ、この文献も処理水中での銀イオン溶出状況や溶出量の調整については言及されていないし、その考慮もされていない。
【特許文献1】特開昭49−61950号公報
【特許文献2】特開平10−99678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述の文献に記載の吸着剤はいずれも通水の初期に高濃度の銀イオンが水中に放出されてしまって放出が長続きしない。そして、銀イオンの放出が止まると、吸着剤や浄水器内の滞留水は、細菌に汚染されやすくなる。
本発明の課題は、水中特に水道水中の残留塩素、トリハロメタン、重金属類(例;鉛、カドミウム、銅、水銀)を効率よく除去するのみならず、銀を通水初期から長期に亘り安定して溶出させることのできる吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
活性炭に銀または銀化合物を添着した場合、活性炭表面上の銀あるいは銀化合物は、微細な固体として活性炭の外表面や細孔表面に存在し、通水によって、これらの銀または銀化合物から銀イオンが徐々に放出される。ところが、本発明者らの研究により、銀又は銀化合物の添着前の活性炭に含まれている塩化物イオンの含有量が銀又は銀化合物の添着後の銀イオン放出量に影響を与えることが判明した。すなわち、銀又は銀化合物の添着前に活性炭中に含まれている塩化物イオンの濃度が高ければ高いほど銀添着活性炭は水処理中安定的に長期に亘り水中に銀イオンを放出することが明らかになった。
【0005】
そこで、活性炭に、銀または銀化合物と反応するに充分な塩化物イオンをあらかじめ吸着させておいて、その後銀または銀化合物を添着すると、通水初期に高濃度の銀イオンが一挙に放出することなく、終始ほぼ一定した濃度の銀イオンを長期に亘り水中に放出させることができることを知見し、その知見を基に更に研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)塩化物イオンを活性炭に対し0.1〜2重量%吸着させた活性炭に銀または銀化合物を添着してなる水処理用吸着剤、
(2)活性炭に対する銀または銀化合物の添着量が銀に換算して0.05〜2重量%である(1)記載の吸着剤、
(3)さらにイオン交換体を含んでなる(1)または(2)記載の吸着剤、
(4)活性炭とイオン交換体の重量比が、98:2〜50:50である(1)または(2)記載の吸着剤、
(5)イオン交換体がゼオライトである(3)または(4)記載の吸着剤、
(6)更に銀を添着していない活性炭を含有してなる(1)〜(5)のいずれかに記載の吸着剤、
(7)浄水器のろ材に用いられる(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着剤、
(8)活性炭を塩酸で処理して塩化物イオンを活性炭に対し0.1〜2重量%吸着させ、ついで銀または銀化合物含有液と混合して銀または銀化合物を添着し、必要によりイオン交換体をバインダーによって活性炭表面に固定化してなる(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着剤の製造法、及び
(9)活性炭に銀または銀化合物添着後さらに加熱乾燥して活性炭表面のpH値を上昇させる工程を含んでなる(8)記載の吸着剤の製造方法、
である。
【0007】
本発明の、塩化物イオンを吸着した活性炭に銀を添着して得られた吸着剤は、まず原料活性炭を塩酸水溶液と接触させることで塩化物イオンを吸着した活性炭とし、得られた活性炭にコロイド銀または水溶性銀化合物の水溶液を添加することにより製造することができる。
ここに、塩化物とは、塩素が陰性元素として、より陽性の他の元素と化合している化合物をいう。塩化物中の塩素の酸化数は、常に−1で陽性の高い金属元素との化合物中では、塩素は塩化物イオンClとなってイオン結合を形成している。塩化物イオンの活性炭への吸着は、単に塩化ナトリウム等の塩化物を活性炭に噴霧あるいは塩化物溶液に活性炭を含浸したのでは本発明に言う塩化物イオンの吸着とはならない。すなわち、塩化ナトリウム等の塩化物は塩化物イオンとして活性炭に吸着されるのではなく、塩化ナトリウムの結晶として活性炭上に付着するのみであり、その表面の一部に塩化銀が形成されたとしても摩耗等で容易に剥離し、あるいは通水初期に未反応の塩化物とともに流出してしまうからである。
したがって、本発明では、活性炭を塩酸と接触させることによりに活性炭に塩化物イオンを吸着させることができる。この場合は、塩化物イオンは結晶状態ではなく単独のイオンの状態で活性炭の全表面に存在するので、銀又は銀化合物を添着させた場合銀は活性炭面全体に亘って、微細な塩化銀となって添着させることができる。この吸着剤に通水した場合、塩化銀の溶解度平衡によって銀イオンは長期に亘り徐々に処理水中に放出される。この銀はイオン化しているので、浄水器に多く用いられる中空糸フィルター等のろ過材によっても抑留されることはない。
【0008】
本発明方法で使用される活性炭の原料は、ヤシ殻、石炭、コークス、木粉、おが屑、天然繊維(例、麻、綿等)、合成繊維(例、レーヨン、ポリエステル等)、合成樹脂(例、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール)など一般的に用いられるものであればいずれでも良い。特にヤシ殻が好ましい。
これらの原料を炭化、賦活して活性炭とするが、その賦活方法も特に限定されない。たとえば「活性炭工業」、重化学工業通信社(1974)、p.23〜p.37の方法で製造される、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガスでの賦活炭や、リン酸、塩化亜鉛などを用いた薬品賦活炭などハロゲンガスで賦活した以外の活性炭が用いられる。
賦活された活性炭のBET比表面積は、好ましくは500〜2000m/g、さらに好ましくは700〜1800m/gである。
粒度は特に限定されないが、通常は0.075〜5mm、好ましくは0.1〜3mmのものが用いられる。
平均粒径は、0.075〜5mmが好ましく、さらに、0.075〜1.0mmのものが好ましい。
【0009】
活性炭に塩化物イオンを吸着させるには、活性炭を塩酸と接触させ、次いでpH値を7.0以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下とすることにより、行うことができる。該接触は、活性炭を適当な濃度と量の塩酸水溶液に浸漬、あるいは該水溶液を活性炭に流通するなどして塩化物イオンの所望量を活性炭に吸着させることができる。
接触させる塩酸の濃度は特に限定されることはないが、0.1〜15%の塩酸が好ましい。このとき、活性炭は賦活したままの状態であってもよいし、あらかじめ水洗して、水溶性無機成分を除去しておいてもよい。
該活性炭と塩酸との接触は、通常5〜80℃、好ましくは5〜35℃で行う。接触時間は通常10分〜6時間が好ましいが、塩酸の濃度を適宜変更することで15分〜2時間程度とすることもできる。
塩酸との接触の後、活性炭を水洗いしてもよい。水洗いは、バッチ式、連続式のいずれの方法でもよく、この水洗いによって吸着されない塩酸を除去することができる。
このようにして活性炭に塩化物イオンを吸着させた後、公知の方法で水を切り、乾燥する。
塩化物イオンの吸着量は、活性炭に対し、通常0.1〜2重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%、更に好ましくは、0.1〜0.5重量%である。
塩化物イオンの吸着量は次の方法によって測定することができる。
塩化物イオン吸着量測定方法
活性炭3gを三角フラスコ200mlにはかり取り、硫酸ナトリウム水溶液(硫酸イオンを400ppm含有する)100mlを加え、穏やかに加熱し5分間沸騰を続け、冷却した後、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過したろ液中の塩化物イオン濃度を測定し、活性炭中の全塩化物イオン含有量を求めた。別に、JIS K1474の方法に従って活性炭中の塩化物イオンを求め、先に求めた全塩化物イオン含有量からそれを差し引き、塩化物イオン吸着量を計算する。
【0010】
銀または銀化合物の活性炭への添着は、コロイド銀または水溶性銀化合物を含む液を活性炭と混合し、次いで例えば80〜250℃、好ましくは100〜200℃で、通常0.1〜20時間、好ましくは0.5〜10時間加熱乾燥することにより行うことができる。液は通常水であるが、水と混和しうる有機溶媒を含んでいてもよい。
また、乾燥時間をたとえば、5時間以上と長く取ることによって塩化水素を揮発させ、活性炭のpH値を上昇させることができる。
銀または銀化合物の含有量は、活性炭の重量に対し、銀に換算して0.05〜2重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、最も好ましくは0.05〜0.2重量%である。
上記の銀化合物としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、酢酸銀などの水溶性銀化合物が挙げられる。
【0011】
また、鉛除去性能を付与するため、吸着剤に、さらに、イオン交換体を混合する、あるいは、吸着剤の表面に固定化させることもできる。
イオン交換体を用いる場合、吸着材中の活性炭とイオン交換体との比率は重量比で、98:2〜50:50、好ましくは90:10〜60:40である。イオン交換体としては、ゼオライト、イオン交換樹脂など公知のものを用いることができる。
【0012】
上記ゼオライトの例としては、菱沸石、エリオナイト、モルデナイト、クリノプチロライトなどの天然ゼオライトおよび合成ゼオライトのナトリウム置換型が挙げられる。合成ゼオライトとしては、たとえば「ゼオライトの最新応用技術」、(株)シーエムシー、p.11〜p.13に示されている、合成A型、X型、Y型ゼオライトを用いることができ、A型としては、4A型、5A型、X型として13X型が好ましい。特に13X型がより好ましい。このように、ゼオライトとしては天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれも使用することができるが、天然ゼオライトは合成ゼオライトよりイオン交換容量が低いため、より多い量を使用する必要がある。また微粉砕したものが好ましい。これらのゼオライトを、異なる種類のものの混合として用いることもできる。
用いられるゼオライトの粒径は通常45μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは5μm以下である。
イオン交換樹脂としては、例えば、「公害防止の技術と法則」、p.245(社)産業環境管理協会(1995)に記載されているイミノ二酢酸形、アルドキシム形、アミノリン酸形などのキレート樹脂等が挙げられる。
イオン交換体の活性炭への固定化は、好ましくは、バインダーを用いて、行われる。
【0013】
バインダーとしては、人体に害を及ぼさず、活性炭の細孔を閉塞せず、かつ加熱などの物理的手段でゼオライトを活性炭表面に固定化しうるものを用いればよい。
具体的にはポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなどのラテックス系樹脂といった有機系バインダーや水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、シリカアルミナセラミックスなどといった無機系バインダーが挙げられる。
水ガラスやシリカアルミナはバインダーの役目を果たすとともに、ゼオライトとの親和性が高いので特に好ましい。またバインダーは、1種類でもよいし、2種類以上の混合物を使用してもよい。
【0014】
使用するバインダー溶液の濃度は、通常1〜15重量%、好ましくは、3〜10重量%である。また、バインダーの使用量(重量)は、ゼオライトと活性炭の合計重量に対して、0.5〜25重量%好ましくは1〜15重量%である。
ゼオライトを活性炭表面に被覆する方法は特に限定されず、公知の方法が用いられる。例えば、ゼオライト粉末を含有するバインダー溶液に活性炭を浸し、その後乾燥する方法(含浸法)、ゼオライト粉末を含有するバインダー溶液を活性炭表面に噴霧し乾燥する方法(噴霧法)、または活性炭を流動させた状態で、ゼオライト粉末を含有するバインダー溶液を加えて乾燥する方法(流動法)などが挙げられる。
【0015】
本発明の吸着剤は、銀を添着していない活性炭を含んでいてもよい。銀を添着していない活性炭を含んでいる場合の混合割合は、吸着剤全体にたいして2〜98重量%、好ましくは、5〜95重量%程度である。この混合によって、吸着剤全体として、銀の溶出量を任意の範囲で安定させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸着剤は、水中、特に水道水中の残留塩素、トリハロメタン、重金属類を効率よく除去できるのみならず、銀を徐々に水中に溶出させることができ、浄水器へろ材として適用した場合、長期間にわたり、安定して銀を徐放させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に実施例および試験例をあげて、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
市販のヤシ殻活性炭(破砕炭)を、篩にかけ0.25〜0.106mmに粒径を揃えた。この活性炭100gを1000mlのビーカーに入れ、塩酸(試薬特級)5mlを水道水500mlに溶解して調製した塩酸水溶液を加え、20℃の室内で1時間攪拌したのち上澄み水を捨て、さらに水500mlを加え、1時間かくはん後、水切りし、115℃±5℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥した。この活性炭のpH値は6.2、塩化物イオン吸着量は0.11%、BET比表面積は1100m/gであった。
この活性炭を混合しながら蒸留水70mlに硝酸銀0.157g(銀として0.1g)を溶解した硝酸銀水溶液を噴霧し、115℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥し、銀添着吸着剤No.1を得た。吸着剤のpH値は6.4であった。
【実施例2】
【0019】
洗浄に用いる塩酸量を6mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.2を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.16%であり、活性炭のpH値は5.5であった。銀添着後の活性炭のpH値は5.9であった。
【実施例3】
【0020】
洗浄に用いる塩酸量を7mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.3を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.28%であり、活性炭のpH値は4.9であった。銀添着後の活性炭のpH値は5.6であった。
【実施例4】
【0021】
洗浄に用いる塩酸量を8mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.4を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.45%であり、活性炭のpH値は3.6であった。銀添着後の活性炭のpH値は4.4であった。
【実施例5】
【0022】
塩酸水溶液中のかくはん時間を2時間とした以外は実施例2と同様にして銀添着吸着剤No.5を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.27%であり、活性炭のpH値は5.0であった。銀添着後の活性炭のpH値は5.5であった。
【実施例6】
【0023】
塩酸水溶液中のかくはん時間を0.25時間とした以外は実施例2と同様にして銀添着吸着剤No.6を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.12%であり、活性炭のpH値は6.2であった。銀添着後の活性炭のpH値は6.5であった。
【実施例7】
【0024】
塩酸洗浄後の水洗を省略した以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.7を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.13%であり、活性炭のpH値は5.7であった。銀添着後の活性炭のpH値は6.3であった。
【実施例8】
【0025】
銀添着後の乾燥時間を5時間とした以外は実施例4と同様にして銀添着吸着剤No.8を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.45%であり、活性炭のpH値は3.6であった。銀添着後の活性炭のpH値は6.0であった。
【実施例9】
【0026】
洗浄に用いる塩酸量を9mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.9を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.50%であり、活性炭のpH値は3.0であった。銀添着後の活性炭のpH値は4.1であった。
【実施例10】
【0027】
洗浄に用いる塩酸量を11mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.10を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は1.0%であり、活性炭のpH値は1.9であった。銀添着後の活性炭のpH値は3.5であった。
【実施例11】
【0028】
洗浄に用いる塩酸量を15mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.11を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は2.0%であり、活性炭のpH値は1.5であった。銀添着後の活性炭のpH値は3.0であった。
【実施例12】
【0029】
硝酸銀の使用量を1.57g(銀として1.0g)とした以外は実施例8と同様にして銀添着吸着剤No.12を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.45%であり、活性炭のpH値は3.6であった。銀添着後の活性炭のpH値は5.8であった。
〔比較例1〕
【0030】
洗浄に用いる塩酸量を1mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.13を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.06%であり、活性炭のpH値は7.2であった。銀添着後の活性炭のpH値は7.3であった。
〔比較例2〕
【0031】
塩酸5mlのかわりに硫酸2mlを用いて洗浄した以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.14を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.0%であり、活性炭のpH値は5.7であった。銀添着後の活性炭のpH値は5.8であった。
〔比較例3〕
【0032】
塩酸5mlのかわりに硝酸3mlを用いて洗浄した以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.15を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.0%であり、活性炭のpH値は6.0であった。銀添着後の活性炭のpH値は6.2であった。
〔比較例4〕
【0033】
塩酸洗浄後の水洗に用いる水に塩化ナトリウム1.9gを加えた以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.16を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は0.07%であり、活性炭のpH値は7.4であった。銀添着後の活性炭のpH値は7.4であった。
〔比較例5〕
【0034】
洗浄に用いる塩酸量を20mlとした以外は実施例1と同様にして銀添着吸着剤No.17を得た。銀添着前の活性炭の塩化物イオン吸着量は3.0%であり、活性炭のpH値は1.0であった。銀添着後の活性炭のpH値は2.8であった。
〔試験例1〕
【0035】
実施例、比較例の吸着剤の銀溶解量を次の方法で測定した。
銀添着吸着剤No.1〜17をあらかじめ115℃±5℃に保った電気乾燥機中で乾燥し、デシケーター中で放冷した。この吸着剤2gを三角フラスコ200mlにはかり取り、蒸留水100mlを加え、25℃に保った恒温振とう機(振幅40mm、振動数120〜130回/分)で1時間振とう後、懸濁液を全量孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過して、ろ液中の銀濃度を原子吸光光度計で測定した。その結果を銀溶解量として表1に示した。
〔試験例2〕
【0036】
通水実験1
内容積60mlの浄水器カートリッジに銀添着吸着剤No.1〜17を充てんし、SV=500hr−1で通水した時の処理水中の銀濃度を測定した。実験終了後、溶出した銀の量を図積分によって求め、カートリッジ内の吸着剤に含まれていた銀に対する割合を求め、銀溶出割合とした。その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

表1から明らかなように、実施例の吸着剤からは通水初期から安定して銀が多く溶出している。
通水実験2
内容積60mlの浄水器カートリッジに銀添着吸着剤No.1(実施例1)、No.3(実施例3)、No.13(比較例1)、No.14(比較例2)を充てんし、SV=500hr−1で1200Lまで通水した時の処理水中の銀濃度を測定し、その結果を図1に示した。
この図1から明らかなように、比較例1及び2の吸着剤は、通水500Lまでに銀濃度は0又は0近くにまで低下するのに対して、実施例1及び3の吸着剤は、通水800Lを越えても防腐力を有するとされる10μg/L以上の濃度を有していた。
【実施例13】
【0038】
実施例1で得られた吸着剤82gにあらかじめ粒径が0.25〜0.106mmになるよう破砕、整粒した合成ゼオライト13Xの18gをよく混合して吸着剤No.18を得た。
【実施例14】
【0039】
実施例1で得られた吸着剤の使用量を60g、ゼオライト13Xの使用量を40gとした以外は実施例13と同様にして吸着剤No.19を得た。
【実施例15】
【0040】
実施例1で得られた吸着剤95gに、ゼオライト13X4gと水ガラス溶液(濃度55%)4gを水40mlに溶解した懸濁液を混合機中で噴霧添着し、115℃±5℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥して吸着剤No.20を得た。
〔試験例3〕
【0041】
溶解性鉛ろ過能力試験
内容積60mlの浄水器カートリッジに実施例2(吸着剤No.2)、実施例13〜15(吸着剤No.18〜20)の吸着剤を充てんし、硝酸鉛をもちいて鉛濃度0.050mg/Lに調整した水道水をSV=500hr−1で通水した時の処理水中の鉛濃度を測定した。活性炭処理後の鉛濃度を活性炭処理前の鉛濃度で除して鉛破過率を求め、鉛破過率が20%を上回るまでの処理水量を溶解性鉛ろ過能力とした。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から明らかなように、実施例13から15のゼオライトを混合および/または被覆した吸着剤は、ゼオライトで被覆されていない実施例2の吸着剤に比して鉛除去性能が優れている。
【実施例16】
【0044】
市販のヤシ殻活性炭(破砕炭)を、篩にかけ0.25〜0.106mmに粒径を揃えた。この活性炭300gを3000mlのビーカーに入れ、塩酸(試薬特級)21mlを水道水1500mlに溶解して調製した塩酸水溶液を加え、20℃の室内で1時間攪拌したのち上澄み水を捨て、さらに水1500mlを加え、1時間かくはん後、水切りし、115℃±5℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥した。この活性炭のpH値は4.9であり、塩化物イオン吸着量は0.28%であり、BET比表面積は1100m/gであった。
この活性炭を100gずつに分かち、それぞれ混合しながら硝酸銀水溶液(硝酸銀0.314g、0.785g、3.14gを蒸留水70mlに溶かしたもの)を噴霧した後、115℃±5℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥して銀添着活性炭No. 21-a、No. 22-a、No. 23-aを得た。これらの各活性炭1重量部に対し、同様に洗浄して調製した銀添着前の活性炭をそれぞれ1部、4部、19部の割合
で混合して銀添着吸着剤No. 21、No. 22、No. 23を得た。混合した吸着剤中にはそれぞれ銀が0.1%含まれていることになる。
〔試験例4〕
【0045】
銀添着吸着剤混合品の通水実験
内容積60mlの浄水器カートリッジに銀添着吸着剤No. 3、No. 21〜23を充てんし、SV=500hr−1で通水した時の処理水中の銀濃度を測定し、その結果を図2に示した。
図2から明らかなように、いずれの吸着剤においても銀イオンが40〜5μg/Lの範囲で安定して溶出していた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の吸着剤は、水中、特に水道水中の残留塩素、トリハロメタン、重金属類を効率よく除去できるのみならず、銀を長期間にわたり徐々に水中に溶出させることができるので、水道水用の浄水器の濾材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】銀添着吸着剤の通水実験結果
【図2】銀添着吸着剤の通水実験結果
【符号の説明】
【0048】
図1において
●は実施例1で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
■は実施例3で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
△は比較例1で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
▽は比較例2で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
図2において
実線は実施例3で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
破線は実施例21で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
太い点線は実施例22で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。
細い点線は実施例23で得られた吸着剤の銀溶出濃度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンを活性炭に対し0.1〜2重量%吸着させた活性炭に銀または銀化合物を添着してなる水処理用吸着剤。
【請求項2】
活性炭に対する銀または銀化合物の添着量が銀に換算して0.05〜2重量%である請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
さらにイオン交換体を含んでなる請求項1または2記載の吸着剤。
【請求項4】
活性炭とイオン交換体の重量比が、98:2〜50:50である請求項3記載の吸着剤。
【請求項5】
イオン交換体がゼオライトである請求項3または4記載の吸着剤。
【請求項6】
更に銀を添着していない活性炭を含有してなる請求項1〜5のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項7】
浄水器のろ材である請求項1〜6のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項8】
活性炭を塩酸で処理して塩化物イオンを活性炭に対し0.1〜2重量%吸着させ、ついで銀または銀化合物含有液と混合して銀または銀化合物を添着し、必要によりイオン交換体をバインダーによって活性炭表面に固定化してなる請求項1〜6のいずれかに記載の吸着剤の製造方法。
【請求項9】
活性炭に銀または銀化合物添着後、さらに加熱乾燥して活性炭表面のpH値を上昇させる工程を含んでなる請求項8記載の吸着剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−26598(P2006−26598A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212815(P2004−212815)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】