説明

吸着炭及び吸着剤

【課題】終末糖化産物(AGEs)等の生体内毒素を効果的に吸着可能な吸着炭、及びそのような吸着炭を有効成分として含有する吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る吸着炭は、全細孔容積が0.10〜1.0mL/g、平均細孔直径が1.0〜2.0nmであり、1650−1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度が0.005以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内毒素を効果的に吸着可能な吸着炭、及びそのような吸着炭を有効成分として含有する吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内毒素の多くは腸内で産生、吸収されて血液中へ移行し、臓器障害を引き起こす原因となることが知られている。通常、生体内毒素は肝臓で解毒され、腎臓で排泄される。しかしながら、腎機能や肝機能の低下した患者では、これらの臓器機能障害に伴って、生体内毒素を排泄できず体内に蓄積するため、尿毒症や意識障害等の重篤な症状を呈することがある。糖尿病をはじめとする生活習慣病の増加によって、腎機能障害や肝機能障害の患者数は年々増加しているため、これらの臓器機能を代償し生体内毒素を体外へ除去する臓器代用機器あるいは治療薬の開発、腸内から生体内毒素が血液中に吸収されるのを抑制する治療薬あるいは食品の開発が重要な課題となっている。
【0003】
生体内毒素の除去方法としては、現在、血液透析が最も普及しているが、基本的にサイズ分画法による除去であり、アルブミンに吸着した生体内毒素や、β2ミクログロブリン等の病気の原因になり得る分子を除去することは困難であった。
また、近年、血液透析の透析液を浄化再生して使用する透析治療法やウェアラブル透析が注目を集めている。これらの治療法の普及には、血液透析時に血液から透析液に移動した生体内毒素を効率的に除去する技術が必要とされている。
【0004】
ところで、経口投与用の活性炭(吸着炭)は、薬用炭等として日本薬局方にも収載されており、薬物中毒時や食中毒時に毒性物質を消化管器官の中で吸着させ、便として排泄させる目的で使用されてきた。また、このような薬物中毒症状の解毒のほかにも、腎機能の低下した患者に活性炭を投与すると、腎臓への負担を軽減できる上に血液透析への導入時期を遅らせ、透析頻度を低減することができる。血液透析は患者にとって精神的、肉体的、及び経済的な負担が大きいことから、経口投与できる活性炭製剤は非常にメリットが大きい。
【0005】
このような経口投与用の活性炭製剤としては、石油ピッチ等のピッチ類やフェノール樹脂を炭素原料とし、これを不燃ガスによって焼成して得たものが知られている(特許文献1〜7等を参照)。これらの活性炭製剤は、生体に対する安全性や安定性が高く、便秘等の副作用が少ない等の利点を有しており、例えば商品名「クレメジン」(登録商標)として細粒剤、カプセル剤等が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭62−11611号公報
【特許文献2】特開2002−253649号公報
【特許文献3】特開2002−308785号公報
【特許文献4】特開2004−244414号公報
【特許文献5】特開2004−123673号公報
【特許文献6】特開2006−36734号公報
【特許文献7】特開2008−303193号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takeuchi M. et al., Mol. Med 5: 393−4405(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで近年、食生活の変化により終末糖化産物(Advanced Glycation End products:AGEs)のような新たな食品由来の毒素が血中に吸収され、様々な臓器障害を引き起こす可能性が示唆されている(非特許文献1等を参照)。
【0009】
そこで、このような終末糖化産物についても活性炭製剤によって吸着除去することが望まれるが、クレメジン(登録商標)等の従来の活性炭製剤はこの終末糖化産物に対する吸着能が低かった。
【0010】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、終末糖化産物等の生体内毒素を効果的に吸着可能な吸着炭、及びそのような吸着炭を有効成分として含有する吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、焼成条件を検討し、吸着炭の細孔構造等を制御することで上記課題を解決可能な吸着炭が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下の通りである。
【0012】
(1) 全細孔容積が0.10〜1.0mL/g、平均細孔直径が1.0〜2.0nmであり、1650−1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度が0.005以上である吸着炭。
(2) 炭素原料を電気炉にて焼成して得られる上記(1)に記載の吸着炭。
(3) 前記炭素原料が純度90%以上の高純度セルロースである上記(2)に記載の吸着炭。
(4) 上記炭素原料がセルロース微粒子又はセルロース不織布である上記(2)又は(3)に記載の吸着炭。
(5) 上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の吸着炭を有効成分として含有する吸着剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、終末糖化産物等の生体内毒素を効果的に吸着可能な吸着炭、及びそのような吸着炭を有効成分として含有する吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2の吸着炭の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1の吸着炭を用いた終末糖化産物に対する吸着実験の結果を示す図である。
【図3】実施例4及び比較例1の吸着炭を用いたインドキシル硫酸に対する吸着実験の結果を示す図である。
【図4】実施例2の吸着炭を用いたアンモニアに対する吸着実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[吸着炭]
本発明に係る吸着炭は、全細孔容積が0.10〜1.0mL/g、平均細孔直径が1.0〜2.0nmであり、1650−1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度が0.005以上であることを特徴とするものである。
【0016】
全細孔容積は、Gurvitschの法則を適用し、相対圧0.98における液体窒素置換したN吸着量から算出することができる。また、平均細孔直径は、BET法比表面積及び全細孔容積から、下記式に従って算出することができる。
【0017】
【数1】

【0018】
本発明に係る吸着炭の原料となる炭素原料としては、オガ屑、木材、ヤシ穀、オイルカーボン、フェノール樹脂、セルロース、アクリロニトリル、石炭ピッチ、石油ピッチ等の公知の原料を用いることができる。
【0019】
この中でも、実質的にリンやカリウムを含まない、純度90%以上の高純度セルロースが好ましく、純度95%以上の高純度セルロースがより好ましい。高純度セルロースの素材としては、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、コットン、パルプ、リンター、ポリノジック、リヨセル(テンセル)等の公知の素材を用いることができる。
特に、本発明に係る吸着炭を経口吸着剤に用いる場合、炭素原料としてはセルロース微粒子を用いることが好ましく、粒径が0.1〜1000μmであるセルロース微粒子を用いることがより好ましい。
また、本発明に係る吸着炭を血液や透析液の浄化に用いる場合、炭素原料としてはセルロース不織布を用いることが好ましく、繊維の単糸太さが0.1〜3dtexであるセルロース不織布を用いることがより好ましい。なお、血液や透析液の浄化には紐状や織布状のセルロースも好適に使用できる。
【0020】
本発明に係る吸着炭を製造するには、上記の炭素原料を電気炉等により焼成する。従来、吸着炭を得るには炭素原料を不燃ガスによって焼成することが一般的であったが、本発明ではガスを用いず、電気炉等によって焼成する。これにより、上記のような細孔構造等を有する吸着炭を得ることができる。
また、ガスを用いないため、炭素材料として上記のような不織布状、紐状、織布状のセルロースを用いた場合であっても、その構造が維持された吸着炭を得ることができる。したがって、吸着炭を血液や透析液の浄化に用いる場合に有用である。
【0021】
焼成温度としては300〜1500℃が好ましい。この際、焼成温度まで連続的に昇温するのではなく段階的に昇温する。具体的には、まず1時間あたり10〜100℃の割合で300〜500℃まで昇温し、その温度で1〜6時間維持する。その後は、1時間あたり10〜100℃の割合で昇温し、100〜500℃上昇する毎に1〜6時間維持する。
【0022】
このようにして得られる吸着炭によれば、生体内毒素を効果的に吸着除去することができる。吸着除去可能な生体内毒素としては、体内で糖質やタンパク質等から代謝産生されるもの、食物と共に経口摂取されるものがあるが、具体的には、終末糖化産物、インドール、インドキシル硫酸、硫化水素、アンモニア、p−クレゾール、ダイオキシン、尿素、クレアチニン等が挙げられる。
【0023】
[吸着剤]
本発明に係る吸着剤は、本発明に係る吸着炭を有効成分として含有するものである。この吸着剤は、医療用途に用いられるものであってもよく、健康補助食品等の他の用途に用いられるものであってもよい。その形態は、散剤、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁剤、スティック剤、分包包装体、乳剤等とすることができる。
例えば錠剤の場合、本発明に係る吸着炭に、結合剤、賦形剤、潤沢剤、着色剤、崩壊剤、脱酸素剤等の添加剤が加えられ、定法により成型される。
吸着剤の投与量、服用量は、対象がヒトであるかその他の動物であるかにより、また、年令、個人差、病状等によっても異なるが、一般にヒトを対象とする場合の経口投与量は1日あたり1〜20gを3〜4回に分けて服用し、さらに症状によって適宜増減することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、吸着炭の全細孔容積、平均細孔直径、吸着炭の赤外吸収スペクトルは以下のようにして測定した。
【0025】
[全細孔容積、平均細孔直径の測定]
約0.lgの吸着炭を標準セルに採り、装置の前処理部において、温度約200℃で約15時間の脱ガス処理(減圧乾燥)を行った後、島津−マイクロメトリックスASAP 2010(Nガス吸着法、比表面積/細孔分布測定)を用いて測定した。不織布状の吸着炭については裁断した後に測定した。全細孔容積は相対圧0.98で、平均細孔直径はBET法比表面積及び全細孔容積から算出した。結果は各実施例、比較例に記載する。
【0026】
[吸着炭の赤外吸収スペクトルの測定]
フーリエ変換型赤外分光光度計(バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド社製)にて分析を実施した。顕微IR測定条件は以下の通りである。
透過法による測定で、アパーチャーサイズ100×100μm、積算回数100回、測定波数範囲4000〜650cm−1、MCT検出器、分解能4cm−1にて測定した。顕微IR試料台(Ge結晶板)上に吸着炭を載せ、採取針を用いて、赤外光が透過するように薄く延ばし、赤外吸収スペクトルを測定した。この際、測定波数範囲において赤外吸収スペクトルが飽和していないことを確認した。赤外吸収バンドの吸光度は、無機物に特徴的なベースラインの傾きを利用し、4000cm−1の吸光度を基準とすることにより算出した。ただし、無機物に特徴的なベースラインの形状は、試料の形状により変動する可能性があることから、赤外吸収スペクトルをn=5で測定し、吸光度を算出し、さらに平均化した値をもって測定値とした。結果は各実施例、比較例に記載する。
【0027】
<実施例1>
セオラス(登録商標)PH−101(旭化成ケミカルズ社製、平均粒径50μm)100gをるつぼに入れ、電気炉にて焼成することにより、吸着炭を調製した。焼成条件は以下の通りとした。
1時間あたり50℃の割合で300℃まで昇温し、300℃で1時間30分維持する。
次に、同様の割合で600℃まで昇温し、600℃で2時間維持する。
その後、同様の割合で800℃まで昇温し、800℃で2時間維持する。
その後、1時間あたり30℃の割合で1000℃まで昇温し、1000℃で2時間維持する。
その後、1時間あたり25℃の割合で1200℃まで昇温し、1200℃で2時間維持する。
さらに、1時間あたり20℃の割合で1300℃まで昇温し、1300℃で3時間維持する。
最後に、7時間かけて1000℃まで降温し、さらに4時間かけて800℃まで降温し、その後自然冷却する。
【0028】
得られた吸着炭の全細孔容積は0.723mL/g、平均細孔直径は1.7nm、フーリエ変換型赤外分光による1650〜1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度は0.006であった。
【0029】
<実施例2>
セオラス(登録商標)PH−101(旭化成ケミカルズ社製、平均粒径50μm)100gをるつぼに入れ、電気炉にて焼成することにより、吸着炭を調製した。焼成条件は以下の通りとした。
1時間あたり20℃の割合で300℃まで昇温し、300℃で5時間30分維持する。
次に、1時間あたり15℃の割合で500℃まで昇温し、500℃で4時間維持する。
最後に、自然冷却する。
【0030】
得られた吸着炭の全細孔容積は0.188mL/g、平均細孔直径は1.8nm、フーリエ変換型赤外分光による1650〜1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度は0.086であった。実施例2の吸着炭の赤外吸収スペクトルを図1に示す。
【0031】
<実施例3>
セオラス(登録商標)PH−101(旭化成ケミカルズ社製、平均粒径50μm)100gをるつぼに入れ、電気炉にて焼成することにより、吸着炭を調製した。焼成条件は以下の通りとした。
1時間あたり25℃の割合で300℃まで昇温し、300℃で2時間30分維持する。
次に、同様の割合で600℃まで昇温し、600℃で4時間維持する。
その後、同様の割合で800℃まで昇温し、800℃で3時間維持する。
さらに、同様の割合で1000℃まで昇温し、1000℃で3時間維持する。
最後に、4時間かけて800℃まで降温し、その後自然冷却する。
【0032】
得られた吸着炭の全細孔容積は0.407mL/g、平均細孔直径は1.7nm、フーリエ変換型赤外分光による1650〜1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度は0.007であった。
【0033】
<実施例4>
ベンリーゼSC282(旭化成せんい社製、繊維の単糸太さ1.5dtex)100gをるつぼに入れ、電気炉にて焼成することにより、吸着炭を調製した。焼成条件は以下の通りとした。
1時間あたり50℃の割合で300℃まで昇温し、300℃で1時間30分維持する。
次に、同様の割合で600℃まで昇温し、600℃で2時間維持する。
その後、同様の割合で800℃まで昇温し、800℃で2時間維持する。
その後、1時間あたり30℃の割合で1000℃まで昇温し、1000℃で2時間維持する。
さらに、1時間あたり25℃の割合で1200℃まで昇温し、1200℃で3時間維持する。
最後に、5時間かけて1000℃まで降温し、さらに4時間かけて800℃まで降温し、その後自然冷却する。
【0034】
得られた吸着炭の全細孔容積は0.854mL/g、平均細孔直径は1.9nm、フーリエ変換型赤外分光による1650〜1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度は0.062であった。
【0035】
<比較例1>
市販の医療用吸着炭であるクレメジン(登録商標)(呉羽化学工業社製)をそのまま用いた。
全細孔容積は0.784mL/g、平均細孔直径は1.9nm、フーリエ変換型赤外分光による1650〜1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度は0.004であった。
【0036】
[終末糖化産物(AGEs)に対する吸着実験]
チューブ中の吸着炭各0.1gに50mMリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈したグルコース由来AGE(AGE−1)を1mL(140U)加え、チューブローテーターを用いてチューブを37℃で3時間回転させることにより、各吸着炭にAGE−1を吸着させた。その後、10,000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
そして、AGE−1−BSA及び抗AGE−1抗体を用いた競合ELISA法により、上清中のAGE−1量を測定し、吸着炭の非存在下及び存在下におけるAGE−1量を比較して吸着率(%)を算出した。
【0037】
AGE−1の競合ELISA法による定量は以下の方法に従った。
まず、AGE−1−BSAをコーティング液に1μg/mLになるように溶解後、96ウェルの高結合性EIA/RIAマイクロプレートの各ウェルに100μLずつ加え、4℃で一晩吸着させて固相化した。そして、プレートウォッシャー(Auto mini washer、Model AMW−8)を用いて洗浄液で3回洗浄後、ブロッキング液200μLを加え、室温で1時間インキュベートしてブロッキングを行った。さらに、洗浄液で3回洗浄後、希釈用緩衝液で希釈した上清50μLと1mg/mL BSAを含む希釈用緩衝液で希釈したAGE−1抗体50μLとを加え、30℃、振盪条件下で2時間インキュベートした。
その後、洗浄液で3回洗浄し、希釈用緩衝液で希釈したアルカリホスファターゼ(AP)標識ヒツジ抗ウサギIgG抗体100μLを加え、37℃で1時間インキュベートした。洗浄液で3回洗浄後、AP基質キット溶液100μLを加え、37℃で約1時間インキュベート後、マイクロプレートリーダー(Labsystems multiskan ascent、Model No.354)で405nmの吸光度を測定した。AGE−1−BSAの検量線から、各上清中のAGE−1量を算出した。
なお、1μgのAGE−1−BSA標準品に相当するAGEs量を1Uと定義した。
【0038】
上記の実験で使用したコーティング液、ブロッキング液、及び希釈用緩衝液の組成は以下の通りである。
・コーティング液;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、0.05%アジ化ナトリウムを含む溶液(pH9.6〜9.8)
・ブロッキング液:1%BSA、0.05%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)
・希釈用緩衝液:0.1%グリセロール、0.1%Tween20、0.05%アジ化ナトリウムを含む50mM 2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]緩衝液(pH7.4)
【0039】
実施例1及び比較例1の吸着炭を用いた結果を図2に示す。図2に示すように、実施例1の吸着炭はAGE−1の97.4%を吸着できたものの、比較例1の吸着炭はAGE−1の13.8%しか吸着できなかった。このことから、実施例1の吸着炭は、比較例1の吸着炭よりもAGE−1を効果的に吸着除去できることが分かる。
【0040】
[生体内毒素を含む血清に対する吸着実験]
チューブ中の吸着炭各50mgに血液透析患者血清0.5mLを加え、チューブローテーターを用いてチューブを室温にて3時間回転させた。その後、10,000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
そして、上清中のアルブミン(ALB)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、無機リン(IP)、総コレステロール(T−CHO)、トリグリセライド(TG)の濃度を日立自動分析装置にて測定した。
【0041】
実施例3及び比較例1の吸着炭を用いた結果を下記表1に示す。表1に示すように、実施例1の吸着炭は、生体の恒常性に関与しているALB、Na、K、Cl、IP、T−CHO、TGに影響を与えることなく、尿素やクレアチニンを選択的に除去できた。また、尿素の除去特性において、実施例3の吸着炭は比較例1の吸着炭よりも高い特性を有することが示された。
【0042】
【表1】

【0043】
[インドキシル硫酸に対する吸着実験]
チューブ中の吸着炭各50mgに、インドキシル硫酸を20μg/mLになるように添加した健常人血清0.5mLを加え、チューブローテーターを用いてチューブを室温にて5分間回転させることにより、各吸着炭にインドキシル硫酸を吸着させた。その後、10,000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
そして、上清を4%トリクロロ酢酸溶液で除タンパクした後、液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS/MS)にてインドキシル硫酸濃度を測定した。なお、吸着炭を用いないものを対照とした。
【0044】
実施例4及び比較例1の吸着炭を用いた結果を図3に示す。図3に示すように、対照では上清中のインドキシル硫酸濃度が4.1911μg/mLであったが、実施例4の吸着炭を用いた場合には0.1866μg/mLまで低下した。一方、比較例1の吸着炭を用いた場合には2.8487μg/mLまでしか低下しなかった。このことから、実施例4の吸着炭は、比較例1の吸着炭よりもインドキシル硫酸を効果的に吸着除去できることが分かる。
【0045】
[アンモニアに対する吸着実験]
吸着炭250mgを、500ppmのアンモニアを含む1Lの試料空気中に90分間放置した後に、ガステック社製ガス検知管(アンモニアガス検知管No.3M)で100mlの試料空気を吸引し、アンモニア濃度を測定した。なお、吸着炭を用いないものを対照とし、それぞれ4回測定した。
【0046】
実施例2の吸着炭を用いた結果を図4に示す。図4に示すように、対照ではアンモニア濃度が455±50.0ppmであったが、実施例2の吸着炭を用いた場合には138±47.9ppmまで低下した。このことから、実施例2の吸着炭はアンモニアを効果的に吸着除去できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の吸着炭は、終末糖化産物等の生体内毒素を効果的に吸着することができる。したがって、この吸着炭を経口吸着剤に用いた場合、終末糖化産物等を消化管内で吸着し、体外に排出させることができる。これにより、腎機能障害患者のみならずメタボリックシンドローム患者に対して、各種臓器障害を予防・遅延させる効果が期待できる。
また、炭素原料を焼成する際にガスを用いないため、炭素原料としてセルロース不織布を用いた場合には、不織布の構造が維持された吸着炭を得ることができる。したがって、この吸着炭をそのまま血漿交換療法(Double Filtration Plasmapheresis:DFPP)に利用することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全細孔容積が0.10〜1.0mL/g、平均細孔直径が1.0〜2.0nmであり、1650−1800cm−1における赤外吸収バンドの吸光度が0.005以上である吸着炭。
【請求項2】
炭素原料を電気炉にて焼成して得られる請求項1に記載の吸着炭。
【請求項3】
前記炭素原料が純度90%以上の高純度セルロースである請求項2に記載の吸着炭。
【請求項4】
前記炭素原料がセルロース微粒子又はセルロース不織布である請求項2又は3に記載の吸着炭。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の吸着炭を有効成分として含有する吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184403(P2011−184403A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53604(P2010−53604)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(309033921)株式会社ダステック (1)
【Fターム(参考)】