説明

吸着盤と、吸着盤付きグリップ体

【課題】リップ本体が持つ吸着作用と粘着作用とで吸着リップを被着面に強固に固定でき、たとえ被着面に凹凸やうねりなどの不整面があっても確実に固定状態を維持できて、安全性と信頼性に優れた吸着盤を提供する。
【解決手段】ホルダー1のリップ凹部3に吸着リップ4が収容されている。吸着リップ4は、台座2の外に設けた減圧カム5で、操作軸15を介して減圧操作される。吸着リップ4は、平板状のリップ本体14と、リップ本体14の中央部に埋設固定される操作軸15とを含む。リップ本体14は、エラストマー層14aと、エラストマー層14aの少なくとも吸着面側に一体に積層形成した粘着層14bとを有する。被着面に凹凸があっても、粘着層14bが凹凸に沿って変形した状態で接着し、不整面の有無にかかわらずリップ本体14を被着面に対して確実に吸着固定して、その状態を長期間にわたって維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着盤と、吸着盤を固着要素とするグリップ体とに関する。グリップ体は、例えば手摺やハンドリング用の把手に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
本発明の吸着盤に関して、吸着リップの吸着面に感圧性接着剤を保持して、吸着リップの真空吸着作用と、接着剤の接着力との協同作用で吸着力の向上を図ることが、特許文献1、2に公知である。前者では、吸着リップを中空円錐台状に形成し、その内面の外周縁寄りに接着剤を帯状に塗布している。後者では、吸着リップの内面2箇所に、リング状の窪みを形成し、窪みに粘着性のある柔軟物質を充填し、その一部を吸着面に露出させている。
【0003】
本発明の吸着盤に関して、リップ本体の成形時に操作軸を埋設固定することは、特許文献3に公知である。そのリップ本体はポリウレタンエラストマーで形成されている。
【0004】
この種の吸着盤を固着要素とする手摺は、特許文献4、5に公知である。特許文献4では、一対のブラケットと、両ブラケット間に固定支持される吸着盤棒とで吸着盤が構成されている。ブラケットは、吸着リップと、吸着リップを引き上げて吸着面を減圧状態にするカムと、これらが組み込まれるブラケット本体などで構成してある。使用時には、吸着面に接着剤を塗布した状態で吸着リップを壁面に接着し、さらに吸着リップをカムで減圧状態に引き上げ操作する。特許文献5の吸着盤における吸着リップは、シート状磁石と、その表面に塗布される再接着性の接着剤とを固定要素にして構成されている。
【0005】
【特許文献1】実公昭39−19524号公報(第1頁右欄中段、第2図)
【特許文献2】実公昭40−31850号公報(第1頁右欄上段、第3図)
【特許文献3】特開平8−93743号公報(段落番号0012、図1)
【特許文献4】特開平9−209539号公報(段落番号0035、図4)
【特許文献5】特開平11−293884号公報(段落番号0020、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接着剤を併用する特許文献1の吸着盤によれば、固着力が向上する。さらに、吸着リップの外面に設けたつまみを引っ張り操作することにより、剥離痕を生じることなく接着剤層を分離できる。しかし、中空円錐台状に成形された吸着リップの内面に、感圧型の接着剤を帯状に塗布するので、吸着リップを平板状に押し付けることと、接着剤層を接着することとを円滑に行うことが難しい。吸着リップは、中空円錐台状のリップ壁が平板状に弾性変形しながら被着面に吸着する。このときリップ外周縁は径方向に滑り移動するが、この滑り移動が接着剤によって阻害されるからである。特許文献2の吸着盤においても同様の不具合がある。
【0007】
特許文献2の吸着盤においても、接着剤を併用する分だけ固着力が向上する。しかし、被着面に凹凸やうねりなどの不整面がある場合には、不整面がリップ壁の窪みに充填した柔軟物質を横断する使用形態において、吸着面の減圧状態を確実に維持するのが難しい。
【0008】
特許文献3の手摺は、接着剤を併用する分だけ固着力が向上する。しかし実質的には、接着剤のみを使用してブラケットを壁面に固定するのと同じことになるので、いったんブラケットを取り付けてしまうと、その位置や角度を変更することができない。もちろん、ブラケットを壁面から無理やり引き剥がすことはできるが、接着痕が残るなど体裁が損なわれる。
【0009】
その点、特許文献4の手摺は、シート状の磁石と、再接着性を有する弱粘性の接着剤とを固定要素としているので、壁面に取り付けた後でもブラケットの位置や角度を簡便に変更できる。問題は、ブラケットをタイル壁などに装着した場合に、シート状磁石による吸着作用が得られないため、弱粘性の接着剤の接着力のみでブラケットの接着姿勢を維持しなければならない。したがって、吸着盤の許容荷重を大きく設定することが困難であり、使用者の体重を支えるうえで安全性に懸念が残る。
【0010】
本発明の目的は、リップ本体の構造を改良することにより、その吸着作用と粘着作用とによって吸着盤を強固に固定でき、たとえ被着面に凹凸やうねりなどの不整面があっても確実に固定状態を維持できて、安全性と信頼性に優れた吸着盤を提供することにある。本発明の目的は、吸着盤を被着面に対して強固に吸着固定できるにもかかわらず、必要があれば容易に着脱でき、したがって、必要時にのみ吸着盤を所望位置に吸着固定し、あるいは吸着位置を簡単に変更できる吸着盤と、この種の吸着盤付きグリップ体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の吸着盤は、図1に示すごとくホルダー1と、ホルダー1の台座2に設けたリップ凹部3に収容される吸着リップ4と、吸着リップ4を減圧操作する減圧カム5とを含む。吸着リップ4は、平板状のリップ本体14と、リップ本体14の中央部に埋設固定される操作軸15とを含む。台座2の上部に配置した減圧カム5と、台座2の上方に突出する操作軸15とは、ピン21で連結されていて、減圧カム5で操作軸15を引き上げ操作することによってリップ本体14の吸着面を減圧操作できる。このような前提構成の吸着盤において、本発明では、図1に示すごとくリップ本体14が、エラストマー層14aと、エラストマー層14aの少なくとも吸着面側に一体に設けられた粘着層14bとで構成されていることを特徴とする。
【0012】
図3においてリップ本体14は、エラストマー層14aと、エラストマー層14aの外表面を全面的に覆う粘着層14bとで構成することができる。
【0013】
操作軸15は、縦向きの軸体15bと、軸体15bの下端に固定される円盤状の座板15aとを有し、座板15aと軸体15bの下部とが、エラストマー層14の中央部に埋設固定されている。
【0014】
リップ本体14のエラストマー層14aは、イソシアネートプレポリマー(B)と、低分子量ポリオールとを触媒の存在下で反応させ、硬化させて形成される。リップ本体14の粘着層14bは、イソシアネートプレポリマー(B)と、ポリエーテルポリオール(C)とを反応させて形成する。
【0015】
リップ本体14の上面の外周縁部には、分離シート10を装着する。台座2に形成したリップ凹部3の内面周縁には、図2に示すごとく分離シート10を介して吸着リップ4の外周縁部を受け止める第1環状壁8と、吸着リップ4の外周囲を囲む第2環状壁9とを多段状に形成し、第2環状壁9の下面に再接着性の粘着シート11を貼り付けることができる。
【0016】
本発明の吸着盤を備えたグリップ体は、図4および図5に示すごとく吸着盤30と、吸着盤30で支持される握り棒31とを備えている。吸着盤30は、ホルダー1と、ホルダー1の台座2に設けたリップ凹部3に収容される吸着リップ4と、吸着リップ4を減圧操作する減圧カム5と、握り棒(手摺棒)31を連結するためにホルダー1の外部に設けられた連結部34とを備えている。吸着リップ4は、平板状のリップ本体14と、リップ本体14の中央部に埋設固定される操作軸15とを含む。リップ本体14は、エラストマー層14aと、エラストマー層14aの少なくとも吸着面側に一体に設けられる粘着層14bとで構成してある。
【0017】
具体的には、複数個の吸着盤30と、両端が吸着盤30で固定支持される手摺棒31とで、グリップ体を手摺用として構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の吸着盤においては、ホルダー1と、リップ凹部3に収容される吸着リップ4と、吸着リップ4を減圧操作する減圧カム5を有し、減圧カム5で吸着リップ4の操作軸15を引き上げ操作することにより、リップ本体14の吸着面を減圧操作できる。そのうえで、エラストマー層14aと、エラストマー層14aの少なくとも吸着面側に設けられる粘着層14bとでリップ本体14を構成して、リップ本体14の減圧吸着作用と、粘着層14bの粘着作用との協同作用で被着面に吸着盤を強固に吸着固定できる。しかも、粘着層14bの粘着作用で減圧空間を確実に封止して固定状態を確実に維持できるので、安全性と信頼性とが格段に向上する。
【0019】
粘着層14bは、被着面が平坦な場合はもちろんのこと、たとえ被着面に凹凸やうねりなどの不整面があっても、凹凸に沿って弾性変形した状態で不整面に接着し、減圧空間を封止するので、不整面を含むより多様な被着面に吸着盤を吸着固定でき、その適用対象を拡大できる。さらに、減圧カム5を切り換え操作することにより、リップ本体14を吸着状態と吸着解除状態とに変更できるので、必要に応じて吸着盤を容易に着脱できる。したがって、必要時にのみ吸着盤を所望位置に吸着固定し、あるいは吸着位置を簡単に変更できる。リップ本体に接着剤を塗布して固着力を高めていた従来の吸着盤とは異なり、接着痕が残らないので被着面を適正な状態に保持できるうえ、吸着盤を吸着固定するための手間も省くことができる。
【0020】
エラストマー層14aの外表面が粘着層14bで全面的に覆われていると、リップ本体14の吸着面側の外周縁部分に位置する粘着層14bが、エラストマー層14aの周側面や上面側に位置する粘着層14bと連続することで補強される。また、粘着層14bとエラストマー層14aとの接着強度を向上して、粘着層14bがエラストマー層14aから剥離するのを確実に阻止できる。したがって、被着面に吸着した粘着層14bの強度を向上し、吸着盤を被着面に対してさらに確実に吸着固定できる。
【0021】
操作軸15が、軸体15bと、円盤状の座板15aとで構成されていて、座板15aと軸体15bの下部とがエラストマー層14の中央部に埋設固定されている吸着リップ4によれば、減圧カム5によって加えられる操作力を、座板15aを介してエラストマー層14aの中央部分に集中して伝えることができるので、リップ本体14を無理なく適切な減圧状態に変形操作できる。粘着層14bに比べて強靭なエラストマー層14を座板15aで変形操作するので、粘着層14bに過大な操作力が作用するのを防止できるうえ、リップ本体14を確実に平板状態に戻すことができる。
【0022】
イソシアネートプレポリマー(B)と、低分子量ポリオールとを触媒の存在下で反応させてエラストマー層14aを形成し、イソシアネートプレポリマー(B)と、ポリエーテルポリオール(C)とを反応させて粘着層14bを形成すると、イソシアネートプレポリマー(B)を共通原料にして、両層14a・14bを一体に積層できる。
【0023】
リップ本体14の上面の外周縁部に装着の分離シート10は、吸着リップ4の外周縁が第1環状壁8の接着するのを阻止して、減圧カム5を待機状態に戻したとき、リップ本体14を平板状の自由状態に確実に復帰させる。吸着リップ4の外周囲を囲む第2環状壁9に再接着性の粘着シート11が貼付してあると、リップ本体14の吸着面の外周囲を粘着シート11で囲んで接着封止でき、例えば壁面に沿って流下する水滴がリップ本体14の吸着面に染み込むのを防止して、吸着盤を安定した吸着固定状態に維持できる。もちろん、粘着シート11の接着力の分だけ、吸着盤の固着力を大きくできる。
【0024】
上記構成の吸着盤30と、吸着盤30で支持される握り棒31とで構成した本発明のグリップ体によれば、被着面に対して吸着盤30を強固に吸着固定できる一方、減圧カム5を切り換え操作するだけで、吸着盤30を被着面から容易に着脱できる。
【0025】
複数個の吸着盤30と、両端が吸着盤30で固定支持される手摺棒31とで構成した手摺用のグリップ体によれば、吸着盤30の装着位置を簡単に変更できるので、使用者の身体の事情や、手摺の設置個所の建物構造などに応じて、最適の位置に手摺を設置できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施例1) 図1および図2は本発明に係る吸着盤の実施例1を示しており、プラスチック製のホルダー1と、ホルダー1の台座2と、台座2に設けたリップ凹部3に収容される吸着リップ4と、台座2の上部に配置されて吸着リップ4を減圧操作する減圧カム5と、ホルダー1にねじ込み装着される掛止具6とを有する。
【0027】
リップ凹部3の内面周縁には、吸着リップ4の外周縁部の上面を受け止めるために円形に形成された下向きの第1環状壁8と、吸着リップ4の外周囲を囲む円形の第2環状壁9とが多段状に形成されている。第1環状壁8は、吸着状態におけるリップ本体14の外周縁部分を被着面に密着させるよう押さえ付けて、リップ本体14の吸着面の封止力を向上するよう作用する。
【0028】
吸着状態において、リップ本体14の外周縁部が第1環状壁8に接着するのを避けるために、リップ本体14の外周縁部の上面には分離シート10が装着されている。分離シート10はポリプロピレンシートを打ち抜いてリング状に形成してある。第2環状壁9の下面には、リング状に打ち抜かれた再接着性の粘着シート11を貼付してある。粘着シート11は、吸着リップ4の吸着面の外周囲を囲んで、液滴や塵埃がリップ本体14の吸着面に進入するのを阻止する。吸着リップ4が吸着している状態において、台座2の周縁は図2に示すように被着面から僅かに浮き離れている。
【0029】
吸着リップ4は、円形平板状のリップ本体14と、リップ本体14の中央部に埋設固定される操作軸15とを含む。リップ本体14は、ポリウレタンエラストマーからなる上面側のエラストマー層14aと、エラストマー層14aの吸着面側に設けられる下側の粘着層14bとを有する。エラストマー層14aは適度の弾性を備えていながら強靭さを備えている。粘着層14bは、エラストマー層14aに比べてより柔らかな粘弾性と、より強力な粘着力とを備えている。したがって、被着面に凹凸があるような場合でも、その凹凸に沿って変形しながら接着して減圧空間を確実に封止する。
【0030】
操作軸15は、プレス金具からなる円盤状の座板15aと、鋼材製の丸軸からなる縦長の軸体15bとを含み、軸体15bの下端に座板15bを一体に組んだ状態で、座板15aと軸体15bの基部とがエラストマー層14aの中央部に埋設固定されている。吸着リップ4は、リップ凹部3に収容されていて、その操作軸15の上端が台座2の上部に突出する。
【0031】
エラストマー層14aは、イソシアネートプレポリマー(B)と、低分子量ポリオールとを触媒の存在下で反応させ、硬化させて形成する。
【0032】
具体的には、OH当量が1000〜2000、OH基数が2.5〜4のポリエーテルポリオール(A)と、ジイソシアネートとを反応して得られる、NCO含量が6〜10%のイソシアネートプレポリマー(B)と、
OH当量が50〜150、OH基数が2〜3の低分子量ポリオールとを、
NCO/OH比が、1.0〜1.1になるようにして、
両者(イソシアネートプレポリマー(B)と低分子量ポリオール)とを触媒の存在下で反応させ、硬化させてエラストマー層14aを形成した。
【0033】
ポリエーテルポリオール(A)は、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加させたものである。多価アルコールとしては、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類、ペンタエリスリトールなどの4価アルコール類の単独、あるいはこれらの混合物を適用できる。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどを適用できる。
【0034】
ポリエーテルポリオール(A)のOH当量は、1000〜2000が好ましく、さらに好ましくは1200〜1700とする。OH当量が1000未満であるとエラストマー層14aが過度に硬くなり、2000を越えると過度に軟らかくなり、いずれの場合もエラストマー層14aとして適さない。また、OH基数が2.5未満であると、エラストマー層14aの弾性が損なわれ、4を越えると硬くなりすぎ、いずれの場合もエラストマー層14aとして適さない。
【0035】
ポリエーテルポリオール(A)と反応するジイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを適用できる。好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびその誘導体を適用する。
【0036】
イソシアネートプレポリマー(B)のNCO含量を6〜10%としたのは、NCO含量が6%未満であると、イソシアネートプレポリマーの粘度が高くなり、さらに10%を越えると、エラストマー層14aが硬くしかも脆くなるからである。
【0037】
低分子量ポリオールは、1.4ブタンジオール、エチレングリコールなどのグリコール類と、グリセリン、トリメチロールプロパンに、アルキレンオキシドを付加させたポリオール単独、あるいはこれらの混合物からなる。低分子量ポリオールのOH当量が50未満であるとエラストマー層14aが硬くなりすぎ、150を越えると軟らかくなりすぎる。また、低分子量ポリオールのOH基数を2〜3としてのは、2未満ではエラストマー層14aの強度が不足し、3を越えると硬くなりすぎるからである。
【0038】
イソシアネートプレポリマー(B)と低分子量ポリオールとのNCO/OH比が1.0未満であると、エラストマー層14aの強度が不足し、粘着性が不必要に増す。NCO/OH比が1.1を越えると、エラストマー層14aが硬くなりすぎる。以上の理由から、先に述べた反応条件でイソシアネートプレポリマー(B)と低分子量ポリオールとを反応させ、硬化させてエラストマー層14aを形成した。
【0039】
粘着層14bは、前記イソシアネートプレポリマー(B)と、ポリエーテルポリオール(C)とを、NCO/OH比が0.7〜1.1になるようにして得られる反応物とした。
【0040】
ポリエーテルポリオール(C)は、ポリエーテルポリオール(A)に、3〜10重量%のモノオールを添加して得られる。モノオールは、メタノール、ブタノール、2エチルヘキシルアルコールなどの1価の飽和アルコール、あるいはオレイルアルコールなどの1価の不飽和アルコール、あるいは飽和、不飽和脂肪酸類に、アルキレンオキシドを付加したものを適用できる。
【0041】
モノオールの添加量が3重量%未満であると、粘着層14bの粘着性が不足し、10重量%を越えると、粘着性が強すぎて粘着面から剥がしにくくなる。
【0042】
イソシアネートプレポリマー(B)とポリエーテルポリオール(C)とのNCO/OH比が0.7未満であると、粘着性が強すぎて粘着面から剥がしにくくなり、無理に剥がすと粘着層14bの一部が粘着面に残って体裁を損なう。NCO/OH比が1.1を越えると充分な粘着性が得られず、減圧状態を維持しきれない。イソシアネートプレポリマー(B)とポリエーテルポリオール(C)とのNCO/OH比は、0.8〜1.1にすることが好ましい。
【0043】
上記のように、エラストマー層14aと粘着層14bとは、イソシアネートプレポリマー(B)を共通原料とする2液性のポリウレタン原液を成形型に注入して形成するので、両層14a・14bは強固に密着する。図2に示すように、粘着層14bをエラストマー層14aの吸着面側に限って形成する場合には、例えば、予め成形した粘着層14bを、エラストマー層14aを成形する金型に操作軸15とともに装填して、先の溶融樹脂を注入して形成することができる。また、図3に示すように、エラストマー層14aの外表面の全体を粘着層14bで覆う場合には、予めエラストマー層14aに操作軸15を埋設しておき、これを粘着層14b用の成形金型に装填した状態で、溶融樹脂を注入して形成することができる。
【0044】
減圧カム5は、直交する状態で隣接形成された第1カム面18と第2カム面19とを備えており、第1カム面33と正対する周面に、鍵穴状の連結穴20を形成してある。減圧カム5と吸着リップ4の操作軸15とは、ロールピン21で連結する。連結穴20に係合した操作棒22で、減圧カム5をロールピン21まわりに90度回動操作することにより、第1カム面18が台座2の上受面2aに当たる待機姿勢と、図1に示すように第2カム面19が台座2の上面に当たる作動姿勢とに切り換え操作できる。
【0045】
減圧カム5を待機姿勢から作動姿勢に切り換えると、操作軸15が上向きに引き上げられるので、リップ本体14の中央部分が上凸状に弾性変形して、吸着リップ4の吸着面を減圧し、第1環状壁8で受け止められたリップ本体14の外周縁部を被着面に強固に吸着させることができる。被着面に凹凸があっても、リップ本体14の粘着層14bが凹凸に沿って変形した状態で接着するので、減圧空間を確実に封止できる。減圧カム5を作動姿勢から待機姿勢に戻すと、操作軸15が下降して減圧状態が解除されるので、粘着シート11およびリップ本体14を吸着面から引き剥がして、吸着盤を取り外すことができる。
【0046】
図1に示す掛止具6は、台座2に設けたボス23にねじ込まれる筒基部24と、断面C字状の受腕25とを一体に備えたプラスチック成形品である。受腕25には、例えばシャワーヘッドや、浴室用の清掃具などを掛け止めることができる。フック状の掛止具や、クリップ状の掛止具、あるいはリング状の掛止具などを複数種用意しておけば、吸着盤の用途を拡大できるうえ、掛止具を交換することで吸着盤の用途を変更できる。掛止具6をホルダー1にねじ込み装着した状態では、台座2の上面全体が筒基部24で覆われるので、水の進入や塵埃の付着を確実に防ぐことができる。
【0047】
(実施例2) 図3はリップ本体14に関する本発明の実施例2を示す。そこでは、エラストマー層14aの外表面の全体が粘着層14bで覆われている。こうしたリップ本体14によれば、先に説明したリップ本体14に比べて、リップ本体14の吸着面側の外周縁部分に位置する粘着層14bの部分が、エラストマー層14aの周側面や上面側に位置する粘着層14bの部分と連続することで補強されるので、被着面に吸着した粘着層14bの強度を向上できる。とくに、粘着層14bとエラストマー層14aとの接着強度が向上して、粘着層14bがエラストマー層14aから剥離するのを確実に防止できる。
【0048】
(実施例3) 図4ないし図7は、上記の吸着盤を手摺に適用した本発明のグリップ体の実施例3を示す。図4の手摺は、一対の吸着盤30と、隣接する吸着盤30に両端が固定支持される手摺棒(握り棒)31と、吸着盤30と手摺棒31とを連結するジョイント32とを含む。
【0049】
実施例3における吸着盤30は、先に説明した吸着盤と基本構造が同じであるが、ホルダー1の構造が若干異なるので、この相違点のみを説明し、他は同じ部材に同じ符号を付して説明を省略する。図4に示すようにホルダー1の台座2の外郭形状はトンネル断面形に形成してある。台座2の外側上部には、丸筒状の連結部34を一体に形成してあり、連結部34内に装填したジョイント32と調整リング35とを介して手摺棒31が連結される。
【0050】
ジョイント32は、調整リング35および手摺棒31に内嵌係合する筒状のケース36と、ケース36に嵌め込まれる締結ピース37とを有する。連結部34の外面から筒中心に沿って挿通した第1ボルト38を、締結ピース37に装着したナット39にねじ込むことにより、ケース36が連結部34に締結固定されている。さらに、手摺棒31の外面からケース36の周壁に挿通した第2ボルト40を、締結ピース37に設けたインサートナット41にねじ込むことにより、手摺棒31とジョイント32とを締結固定している。
【0051】
調整リング35の内面と、ケース36の内外面と、締結ピース37の端部嵌合壁の外面とは、それぞれ円形周面の一部が平坦な非円形断面状に形成してあって、互いに相対回転できない状態で係合している。したがって、手摺棒31に形成したボルト挿通孔と、ケース36のボルト挿通孔を一致させるだけで、第2ボルト40はインサートナット41に確実にねじ込むことができる。
【0052】
ホルダー1の外観をすっきりさせると同時に、いたずらなどによって減圧カム5が切り換え操作されるのを防止するために、台座2の上面側において減圧カム5まわりがカバー44で覆われている。カバー44は花弁状のプラスチック成形品であり、図6に示すように、台座2の上面側に露出する減圧カム5と、第1ボルト38の操作頭部との外面を覆う状態で、ホルダー1に圧嵌係合される。手摺棒31は、アルミニウム製の丸パイプ45と、丸パイプ45の外面を被覆する軟質樹脂製の外層体46とで構成した。
【0053】
上記構成の手摺は、カバー44をホルダー1から外した状態で減圧カム5を操作棒22で回動操作して、図6に示すようにリップ本体14をリップ凹部3の奥壁側へ引き寄せ操作することにより、その吸着面を減圧して、第1環状壁8で受け止められたリップ本体14の周縁部を被着面に強固に吸着させることができる。
【0054】
手摺は、例えば図7に示すように構築できる。図7(a)では手摺棒31の棒端支持用の2個の吸着盤30・30と、中間支持用の吸着盤30Aとで2個の手摺棒31を直線状に固定支持した。図7(b)では、手摺棒31の棒端支持用の2個の吸着盤30・30と、エルボ状の中間支持用の吸着盤30Bとで2個の手摺棒31を直交状に固定支持した。中間支持用の吸着盤30Aと、エルボ状の中間支持用の吸着盤30Bとは、基本構造が棒端支持用の吸着盤30と同じであるが、ホルダー1に2個の連結部34を直線状あるいは直交状に設けた点が異なる。
【0055】
上記以外に減圧カム5には、操作棒22に相当するレバーが一体に形成してあってもよい。ホルダーはアルミニウムなどの軽金属を素材にして、さらに精密に形成することができる。本発明のグリップ体は、手摺以外にハンドリング用の把手として構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】吸着盤の吸着状態を示す実施例1の縦断面図である。
【図2】図1におけるE部の拡大断面図である。
【図3】吸着盤の実施例2を示す縦断面図である。
【図4】吸着盤を利用して形成した手摺(実施例3)の正面図である。
【図5】実施例3の手摺における吸着盤の分解断面図である。
【図6】実施例3の手摺における吸着盤の吸着状態を示す縦断面図である。
【図7】実施例3の手摺の構築例を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ホルダー
2 台座
3 リップ凹部
4 吸着リップ
5 減圧カム
14 リップ本体
14a リップ本体のエラストマー層
14b リップ本体の粘着層
15 操作軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルダー(1)と、ホルダー(1)の台座(2)に設けたリップ凹部(3)に収容される吸着リップ(4)と、吸着リップ(4)を減圧操作する減圧カム(5)とを含み、
吸着リップ(4)は、平板状のリップ本体(14)と、リップ本体(14)の中央部に埋設固定される操作軸(15)とを含み、
台座(2)の上部に配置した減圧カム(5)と、台座(2)の上方に突出する操作軸(15)とがピン(21)で連結されていて、減圧カム(5)で操作軸(15)を引き上げ操作することによってリップ本体(14)の吸着面を減圧操作できる吸着盤であって、
リップ本体(14)が、エラストマー層(14a)と、エラストマー層(14a)の少なくとも吸着面側に一体に設けられた粘着層(14b)とで構成されていることを特徴とする吸着盤。
【請求項2】
リップ本体(14)が、エラストマー層(14a)と、エラストマー層(14a)の外表面を全面的に覆う粘着層(14b)とで構成されている請求項1記載の吸着盤。
【請求項3】
操作軸(15)が、縦向きの軸体(15b)と、軸体(15b)の下端に固定される円盤状の座板(15a)とを有し、座板(15a)と軸体(15b)の下部とが、エラストマー層(14)の中央部に埋設固定されている請求項1または2記載の吸着盤。
【請求項4】
リップ本体(14)のエラストマー層(14a)が、イソシアネートプレポリマー(B)と、低分子量ポリオールとを触媒の存在下で反応させ、硬化させて形成されており、
リップ本体(14)の粘着層(14b)が、イソシアネートプレポリマー(B)と、ポリエーテルポリオール(C)とを反応させて形成してある請求項1ないし3のいずれかに記載の吸着盤。
【請求項5】
リップ本体(14)の上面の外周縁部には、分離シート(10)が装着されており、
台座(2)に形成したリップ凹部(3)の内面周縁には、分離シート(10)を介して吸着リップ(4)の外周縁部を受け止める第1環状壁(8)と、吸着リップ(4)の周囲を囲む第2環状壁(9)とが多段状に形成されており、
第2環状壁(9)の下面に、再接着性の粘着シート(11)を貼り付けてある請求項4記載の吸着盤。
【請求項6】
吸着盤(30)と、吸着盤(30)で支持される握り棒(31)とを備えているグリップ体であって、
吸着盤(30)は、ホルダー(1)と、ホルダー(1)の台座(2)に設けたリップ凹部(3)に収容される吸着リップ(4)と、吸着リップ(4)を減圧操作する減圧カム(5)と、握り棒(31)を連結するためにホルダー(1)の外部に設けられた連結部(34)とを備えており、
吸着リップ(4)は、平板状のリップ本体(14)と、リップ本体(14)の中央部に埋設固定される操作軸(15)とを含み、
リップ本体(14)が、エラストマー層(14a)と、エラストマー層(14a)の少なくとも吸着面側に一体に設けられた粘着層(14b)とで構成されていることを特徴とする吸着盤付きグリップ体。
【請求項7】
複数個の吸着盤(30)と、両端が吸着盤(30)で固定支持される手摺棒(31)とを含む請求項6記載の吸着盤付きグリップ体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−308025(P2006−308025A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133284(P2005−133284)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(592113717)ホクメイ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】