説明

吸着自走式壁面塗装剥離装置

【課題】貯油タンクや、船舶などの壁面に吸着し、壁面に沿って移動しながら壁面の塗装を剥離する吸着自走式壁面塗装剥離装置。
【解決手段】壁面に吸着されつつ壁面にジェット水を吹き付けて塗装剥離処理を行う剥離処理部。剥離処理部を中心にして対称的に剥離処理部の両側に配備される補助吸着手段。剥離処理部及び/又は補助吸着手段に支持されて壁面に接触し駆動手段によって転動する複数個の車輪を備えている。剥離処理部は壁面に面する側が開口している本体ハウジングと、当該開口の周縁に配備されていて壁面に対向する本体当接面に5〜10mm長の合成樹脂製の毛体が植設されている本体環状弾性部材と、本体ハウジング内から排気して負圧状態にすることにより本体ハウジングを壁面に吸着させる本体排気手段と、本体ハウジング内に配備されていて壁面にジェット水を吹き付けるジェットノズルを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯油タンクや、船舶などの壁面に吸着し、壁面に沿って移動しながら壁面の塗装を剥離する吸着自走式壁面塗装剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着式の壁面塗装剥離装置に関しては従来から種々の提案がされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来公知の吸着式の壁面塗装剥離装置は、塗装剥離処理が施される壁面に面する側が開口しているハウジングと、前記ハウジング内から排気して前記ハウジング内を負圧状態にすることによって前記ハウジングを前記壁面に吸着させる排気手段と、ハウジングの開口の周縁に配備されていて、前記ハウジング内が負圧状態にされる際に、ハウジング外からハウジング内への通気を可能にする通気性の仕切り部材と、前記ハウジングに支持されていて前記壁面に接触して転動する複数個の車輪と、前記ハウジングに具備されていて前記壁面の塗装の剥離を行う作業器(剥離手段)とを備えている構成からなるものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−26752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来公知の一般的な吸着式の壁面塗装剥離装置では、ハウジングを壁面に吸着させるべく、排気手段によってハウジング内から排気してハウジング内に形成する負圧が大きすぎるとハウジングを壁面に沿って移動させることが難しくなる。一方で、負圧が小さくなると吸着力が小さくなり、垂直あるいは、傾斜している壁面からハウジングが落下してしまう。
【0006】
そこで、両者を両立させ、作業性を改善することが吸着式の壁面塗装剥離装置には要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、この発明が提案する吸着自走式壁面塗装剥離装置は以下の通りのものである。
【0008】
請求項1記載の発明は、
壁面の塗装剥離を行う吸着自走式壁面塗装剥離装置であって、
塗装剥離処理が施される壁面に対して吸着されつつ当該壁面に対してジェット水を吹き付けて塗装剥離処理を行う剥離処理部と、
当該剥離処理部を中心にして対称的に当該剥離処理部の両側に配備されている2個の補助吸着手段と、
前記剥離処理部及び/又は前記2個の補助吸着手段に支持されていて前記壁面に接触し、駆動手段によって車軸を中心に転動する複数個の車輪とを備えていて、
前記剥離処理部は、
塗装剥離処理が施される前記壁面に面する側が開口している本体ハウジングと、
前記本体ハウジングの開口の周縁に配備されていて、前記壁面に対向する本体当接面に5〜10mm長の合成樹脂製の毛体が植設されている、本体環状弾性部材と、
前記本体ハウジング内から排気して前記本体ハウジング内を負圧状態にすることによって前記本体ハウジングを前記壁面に吸着させる本体排気手段と、
前記本体ハウジング内に配備されていて前記壁面に対してジェット水を吹き付けるジェットノズルとを備えており、
前記2個の補助吸着手段は、それぞれ、
前記壁面に面する側が開口している補助ハウジングと、
前記補助ハウジングの開口の周縁に配備されている補助環状弾性部材と、
前記補助ハウジング内から排気して前記補助ハウジング内を負圧状態にすることによって前記補助ハウジングを前記壁面に吸着させる補助排気手段とを備えている
ことを特徴とする吸着自走式壁面塗装剥離装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、
前記本体ハウジングは前記2個の補助ハウジングと接続パイプによって接続されており、前記本体排気手段が前記補助排気手段を兼用していることを特徴とする請求項1記載の吸着自走式壁面塗装剥離装置である。
【0010】
請求項3記載の発明は、
前記本体ハウジングに圧力センサーが配備されており、当該圧力センサーによって前記本体ハウジング内の負圧が所定の大きさになったことが検知されたときに前記ジェットノズルによる前記壁面に対するジェット水吹き付けを停止することを特徴とする請求項1又は2記載の吸着自走式壁面塗装剥離装置である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、貯油タンクや、船舶などの壁面に吸着し、壁面に沿って移動しながら壁面の塗装を剥離する吸着自走式壁面塗装剥離装置の処理能力、操作性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置の一部を省略した概略平面図。
【図2】本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置が壁面に吸着し、剥離作業を行なっている状態の一例を説明する図1の断面図。
【図3】本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置における補助吸着部の一例を説明する一部を省略した断面図。
【図4】(a)本体環状弾性部材の一部を省略した拡大断面図、(b)補助環状弾性部材の一部を省略した拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0014】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1は、壁面100に塗布されている塗装の剥離に用いられる。
【0015】
吸着自走式壁面塗装剥離装置1は、剥離処理部2と、2個の補助吸着手段3a、3bとを備えている。
【0016】
剥離処理部2は、塗装剥離処理が施される壁面100に対して吸着されつつ壁面100に対してジェット水20を吹き付けて塗装剥離処理を行う。
【0017】
2個の補助吸着手段3a、3bは、剥離処理部2を中心にして対称的に剥離処理部2の両側に配備されている。
【0018】
複数個の車輪が、剥離処理部2、又は、補助吸着手段3a、3b、あるいは、剥離処理部2及び補助吸着手段3a、3bに支持されていて壁面100に接触し、駆動手段によって車軸を中心に転動するようになっており、この車輪の回転運動により、吸着自走式壁面塗装剥離装置1が壁面100上を移動するようになっている。
【0019】
図示の実施形態では、サーボモータ23によって駆動され、車軸25を中心に転動する車輪27a、27bが垂直な壁面100の下側(図1、図2中、左側)に位置する補助吸着手段3aに支持され、サーボモータ24によって駆動され、車軸26を中心に転動する車輪28a、28bが垂直な壁面100の上側(図1、図2中、右側)に位置する補助吸着手段3bに支持されている。そして、剥離処理部2の構成部材である本体ハウジング4と、補助吸着手段3aの構成部材である補助ハウジング10との間が剛直なパイプ8によって接続され、本体ハウジング4と、補助吸着手段3bの構成部材である補助ハウジング11との間が剛直なパイプ9によって接続されている。これによって、駆動手段であるサーボモータ23によって車軸25を中心に転動する車輪27a、27b及び、サーボモータ24によって車軸26を中心に転動する車輪28a、28bが、剥離処理部2及び補助吸着手段3a、3bに支持されて壁面100に接触し、回転運動を行って、吸着自走式壁面塗装剥離装置1を壁面100上で移動させるようになっている。
【0020】
図示の実施形態では、サーボモータ23、24を、無線制御式で、耐圧防爆対策がなされている交流サーボモータ、すなわち、無線制御式の耐圧防爆形ACサーボモータにしている。電気式のサーボモータであるので操作性に優れており、サーボモータ23、24の測度制御、車輪27a、27bと、車輪28a、28bとの同期させた回転駆動制御が可能である。また無線式であるので、操作者の安全な位置を確保した上で、本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1による自動的な塗装剥離を行うことができる。
【0021】
サーボモータ23、24をそれぞれ減速機30、31を介してチェーン32、33駆動にて車輪27a、27b、28a、28bに回転力を与えるようになっている。
【0022】
図示の実施形態では、本体ハウジング4と補助ハウジング11とを接続しているパイプ9の本体ハウジング4側の端部は、本体ハウジング4の外周に周方向にスライド可能に接続されていて、矢印58、59で示すように、本体ハウジング4の周方向に回動できるようになっている。
【0023】
また、本体ハウジング4の上部に操舵用シリンダ50、51が、本体ハウジング4の中心に対して対象的に配備されており(図1)、操舵用シリンダ50、51は無線による指示によってロッド52、53を矢印54、55方向、矢印56、57方向に進退移動させるようになっている。
【0024】
これによって、吸着自走式壁面塗装剥離装置1を図1中の右側方向(鉛直線上で上側に向かう方向)に前進させるべく車輪27a、27b、28a、28bを矢印60、61(図2)方向に回転させているときに、ロッド52、53の矢印54、55方向、矢印56、57方向への進退移動を制御し、例えば、車輪28a、28bを図1に実線で示している位置から一点鎖線で示している位置まで矢印58方向に回動させ、前進方向を変更させることができる。また、吸着自走式壁面塗装剥離装置1を図1中の左側方向(鉛直線上で下側に向かう方向)に後進させるべく車輪27a、27b、28a、28bを矢印60、61(図2)とは反対の方向に回転させているときにも、車輪28a、28bを矢印58方向、あるいは矢印59方向に回動させて後進方向を変更させることができる。
【0025】
剥離処理部2を構成する本体ハウジング4には、排気パイプ7を介して本体排気手段(不図示)が接続されている。本体排気手段(不図示)は、本体ハウジング4内から排気して、符号4a(図2)で示す、本体ハウジング4内を負圧状態にすることにより、本体ハウジング4を壁面100に吸着させる働きを行う。
【0026】
本体ハウジング4は、本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内を排気し、本体ハウジング4内を負圧状態にすることによって本体ハウジング4を壁面100に吸着させることができるように、剛性を有する部材で形成されており(例えば、鉄製)、図2図示のように、塗装剥離処理が施される壁面100に面する側が開口している。
【0027】
本体ハウジング4の壁面100側の外周には本体ハウジング4と同一の部材により環状の鍔部5が形成されており、この下側(壁面100側)に、本体環状弾性部材6が配備されている。これによって、本体ハウジング4の壁面100に面する側の開口周縁に本体環状弾性部材6が配備される構造になっている。
【0028】
本体環状弾性部材6は、本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内を排気し、本体ハウジング4内を負圧状態にすることによって本体ハウジング4を壁面100に吸着させる際に、この吸着が弾性的に行われるように弾性を有する部材で形成されていることが望ましい。この実施例ではクロロプレンゴム製にしている。
【0029】
本体環状弾性部材6の壁面100に対向する本体当接面37aには、5〜10mm長の合成樹脂製の毛体36(図4(a))が植設されている。
【0030】
本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内を排気し、本体ハウジング4内を負圧状態にすることによって本体ハウジング4を壁面100に吸着させようとすると、弾性部材(クロロプレンゴム)からなる本体環状弾性部材6が弾性変形し、本体ハウジング4は壁面100に接近し、壁面100に吸着する。
【0031】
この際、本体環状弾性部材6の壁面100に対向する本体当接面37aに5〜10mm長の合成樹脂製の毛体36(図4(a))が植設されていることから、本体ハウジング4外から符号4aで示す本体ハウジング4内に大気が吸引される。また、合成樹脂製の毛体36が存在していることにより、前述した車輪27a、27b、28a、28bの回転運動による本体ハウジング4の壁面100上の移動、即ち、吸着自走式壁面塗装剥離装置1の壁面100上の移動をスムーズに行わせることができる。
【0032】
本体環状弾性部材6の壁面100に対向する本体当接面37aに植設されている5〜10mm長の合成樹脂製の毛体36(図4(a))は、前述したように、本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内を排気し、本体ハウジング4内を負圧状態にすることによって本体ハウジング4を壁面100に吸着させるときに本体当接面37aと、壁面100との間を介して本体ハウジング4外から符号4aで示す本体ハウジング4内に大気が吸引されることを可能にし、なおかつ、車輪27a、27b、28a、28bの回転運動による本体ハウジング4の壁面100上の円滑な移動を可能にするものである。このような機能を果たす合成樹脂製の毛体はどのようなものも採用可能である。例えば、合成樹脂製の人工芝を本体当接面37aに貼り付けて毛体36にすることができる。
【0033】
なお、合成樹脂製の毛体は短すぎても長すぎても前述した機能を効果的に発揮することが難しくなるので、5〜10mmの長さで本体当接面37aに植設することが望ましい。
【0034】
本体ハウジング4内には、壁面100に対してジェット水20を吹き付けるジェットノズル19が配備されている。図示の実施形態では、平面視(図1に表される状態)で円形である円筒状の本体ハウジング4の中心に回転中心軸17を有し、この回転中心軸17を中心に矢印17a方向に回転するノズルロッド18が両端外径側にそれぞれ3個ずつのジェットノズル19を備えている。これによって、剥離むらをなくし、綺麗に壁面100から塗装を剥離することができる。
【0035】
図示していないが、ノズルロッド18に直交し、回転中心軸17を中心に矢印17a方向に回転するもう一本の同一構造からなるノズルロッドを配備させ、周方向に90度間隔で配備されている複数個のジェットノズルから、壁面100に対してジェット水20を吹き付ける構成にすることができる。このような構造にした方がより良好な塗装剥離を行い、剥離むらをより少なくし、剥離効率を向上させる上で望ましい。
【0036】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1では、このように負圧が形成されて、塗装剥離が行われる壁面100に吸着する本体ハウジング4内に、壁面100に向けて高圧のジェット水20を吹き付けて塗装剥離を行うジェットノズル19が配備されている。
【0037】
塗装剥離処理が行われる壁面100は一般的に、傾斜している、あるいは、垂直である。傾斜している、あるいは垂直な壁面100に本体ハウジング4、補助ハウジング10、11の開口側を押し当て、本体ハウジング4内、補助ハウジング10、11内を負圧状態にし、本体ハウジング4、補助ハウジング10、11を壁面100に吸着させて塗装剥離を行う。そこで、このような傾斜している、あるいは垂直な壁面100に吸着している本体ハウジング4の垂直方向下側(図1、図2における左側)における、本体当接面37aと、壁面100との間からは、ジェットノズル19から壁面100に吹き付けられたジェット水20が剥離された塗膜片(剥離カス)と共に、垂直方向下側(図1、図2における左側)に流出していく。この場合にも、本体当接面37aに植設されている成樹脂製の毛体36が本体当接面37aと壁面100との間に存在することにより、このような、ジェット水20と剥離された塗膜片(剥離カスとの、本体当接面37aと壁面100との間の隙間を介した垂直方向下側(図1、図2における左側)への流出を可能にしている。
【0038】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1では、作業後、剥離カスの片付けに要する清掃期間・時間を短縮化することができる。
【0039】
本体ハウジング4の上側には圧力センサ22が配備されており(図1)、符号4aで示される本体ハウジング4の内部空間の圧力を検知している。圧力センサ22の出力は、本体ハウジング4の上側に配備されているウォータージェット回転ユニット16及び、バキュームブレーカー21に入力されるようになっている。
【0040】
これによって、圧力センサ22によって本体ハウジング4内の負圧が所定の大きさになったことを検知したときに、ウォータージェット回転ユニット16によって行われているジェットノズル19による壁面100に対するジェット水吹き付けを停止する。すなわち、本体ハウジング4の内部空間4a内の負圧が破壊された場合に、ジェットノズル19による壁面100に対するジェット水吹き付けを停止して安全を確保するようになっている。
【0041】
また、圧力センサ22によって本体ハウジング4内の負圧が所定の大きさになったことを検知したときにバキュームブレーカー21が作動して本体ハウジング4内の負圧の大きさを任意に制御できるようになっている。
【0042】
更に、本体環状弾性部材6を図示のように中空にし、この本体環状弾性部材6の内部空間37b(図2、図4(a))に対して気体の給気、あるいは排気、若しくは給排気を行う手段(不図示)を配備しておき、圧力センサ22の出力に応じて本体環状弾性部材6の内部空間3b内に気体の給気、あるいは排気を行うようにし、内部空間37bの圧力を、本体ハウジング4の内部空間51内の圧力に応じて制御することによって、傾斜している、あるいは垂直状態になっている壁面100に吸着している本体ハウジング4が、壁面100から離脱、落下することを効果的に防止することができる。なお、本体ハウジング4の内部空間4a内の圧力変動とは別個独立に内部空間37b内に気体の給気、あるいは排気を行って、内部空間37bの圧力を制御し、これによって、傾斜している、あるいは垂直状態になっている壁面100に吸着している本体ハウジング4が、壁面100から離脱、落下することを効果的に防止することもできる。
【0043】
圧力センサ22は防爆対策がなされている防爆圧力センサを採用することができる。
【0044】
補助吸着手段3a、3bは、それぞれ、補助ハウジング10、11を備えている。補助吸着手段3a、3bは両者の間に位置する本体ハウジング4を挟んで対称構造になっている(図1)。
【0045】
補助吸着手段3a、3bを構成する補助ハウジング10、11は、本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内が排気され、本体ハウジング4内が負圧状態にされる際に、本体ハウジング4と補助ハウジング10、11とを接続している剛直なパイプ、例えば、鉄製のパイプ8、9を介して補助ハウジング10、11内も排気され、補助ハウジング10、11内が負圧状態にされることによって補助ハウジング10、11を壁面100に吸着させることができるように、剛性を有する部材で形成されており(例えば、鉄製)、図3図示のように、塗装剥離処理が施される壁面100に面する側が開口している。
【0046】
補助ハウジング10、11の下端側(すなわち、壁面100側)の外周には補助ハウジング10、11と同一の部材により環状の鍔部12、13が形成されており、この下側(壁面100側)に、補助環状弾性部材14、15が配備されている。これによって、補助ハウジング10、11の壁面100に面する側の開口周縁に補助環状弾性部材14、15が配備されている。
【0047】
補助環状弾性部材14、15は、本体排気手段(不図示)により本体ハウジング4内が排気され、本体ハウジング4内が負圧状態にされる際に、本体ハウジング4と補助ハウジング10、11とを接続している剛直なパイプ8、9を介して補助ハウジング10、11内も排気され、補助ハウジング10、11内が負圧状態にされることによって補助ハウジング10、11を壁面100に吸着させる際に、この吸着が弾性的に行われるように弾性を有する部材で形成されていることが望ましく、この実施例では、クロロプレンゴム製にしている。
【0048】
なお、本体ハウジング4と補助ハウジング10、11とを、パイプ等によって接続する形態にせず、図示していないが、補助ハウジング10、11をそれぞれ排気する補助排気手段を補助吸着手段3a、3bに配備する形態にすることもできる。
【0049】
この場合には、本体ハウジング4の上側に配備されている圧力センサ22、バキュームブレーカー21と同様のものを、それぞれ、補助ハウジング10、11にも配備し、補助ハウジング10、11内の負圧が所定の大きさになったことが検知されたときにバキュームブレーカーが作動して、補助ハウジング10、11内の負圧状態を解消する構成にすることができる。
【0050】
図示の実施形態は、補助排気手段を採用せず、本体ハウジング4と補助ハウジング10、11とをパイプ8、9で接続し、本体排気手段に補助排気手段を兼用させている。
【0051】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1においては、前述したように、負圧が形成されて、塗装剥離が行われる壁面100に吸着する本体ハウジング4内に、壁面100に向けて高圧のジェット水20を吹き付けて塗装剥離を行うジェットノズル19が配備されている。そこで、補助吸着手段3a、3bによる壁面100への吸着により、吸着自走式壁面塗装剥離装置1の壁面100への着実な吸着を行うようにしている。
【0052】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1においては、補助ハウジング10、11の壁面側の端縁と、壁面100との間から大気を吸引する必要は特に無いので、補助ハウジング10、11の壁面側の端縁には、本体環状弾性部材6の本体当接面37aのように成樹脂製の毛体36を植設しておく必要はない。
【0053】
ただし、壁面100に吸着されている補助ハウジング10、11の壁面100上の移動、即ち、補助吸着手段3a、3bの壁面100上の移動をスムーズに行わせるため、弾性部材(クロロプレンゴム)製の補助環状弾性部材14、15の、壁面100に当接する面を、図4(b)に示すように平坦面にしておくことが望ましい。
【0054】
図4(b)図示の実施形態では、補助ハウジング11の壁面100側の外周に形成されている環状の鍔部13の下側(壁面100側)に配備されている補助環状弾性部材15は、補助ハウジング11の外周より外側に向かいつつ、下側方向に向かって斜めに延びる傾斜部41と、これが、折り返し部43で折り返されて、補助ハウジング11の外周より外側に向かいつつ、上側方向に向かって斜めに延びる傾斜部42とを備えている。そして、折り返し部43における壁面100に当接する面が平坦面44に形成されている。
【0055】
なお、本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1においては、前述したように高圧のジェット水20を壁面100に吹き付けて塗装剥離を行うので、吸着自走式壁面塗装剥離装置1がその表面を走行移動する壁面100は濡れている。そこで、車輪27a、27b、28a、28bの壁面100に対するグリップ力を高めるために、車輪27a、27b、28a、28bの表面はゴム製(例えば、ウレタンゴム製)にすることができる。また、車輪27a、27b、28a、28bの表面に水きり用の断面V字状の溝を適宜に刻設しておけば、雨天での作業においてもスリップなしで剥離作業を行なう上で有利である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1は周囲の環境に優しいロボット作業での壁面塗装剥離を可能にするものである。これにより、作業員の高所作業時間を激減させ、安全性を高めることができる。本発明の吸着自走式壁面塗装剥離装置1は、無線制御式で、電気式のサーボモータであるので操作性に優れており、作業能力が非常に高い。また、足場の組み立て、ばらし期間を短縮化することができる。強風、雨天時でも作業を行うことができる。吸着式のため、剥離後、ただちに塗装作業に入ることができる。また、剥離作業時でも周囲で他の作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 吸着自走式壁面塗装剥離装置
2 剥離処理部
3a、3b 補助吸着手段
4 本体ハウジング
6 本体環状弾性部材
7 排気パイプ
8、9 パイプ
10、11 補助ハウジング
14、15 補助環状弾性部材
19 ジェットノズル
20 ジェット水
21 バキュームブレーカー
22 圧力センサ
23、24 サーボモータ
25、26 車軸
27a、27b、28a、28b 車輪
37a 本体当接面
36 毛体
51 本体ハウジングの内部空間
100 壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面の塗装剥離を行う吸着自走式壁面塗装剥離装置であって、
塗装剥離処理が施される壁面に対して吸着されつつ当該壁面に対してジェット水を吹き付けて塗装剥離処理を行う剥離処理部と、
当該剥離処理部を中心にして対称的に当該剥離処理部の両側に配備されている2個の補助吸着手段と、
前記剥離処理部及び/又は前記2個の補助吸着手段に支持されていて前記壁面に接触し、駆動手段によって車軸を中心に転動する複数個の車輪とを備えていて、
前記剥離処理部は、
塗装剥離処理が施される前記壁面に面する側が開口している本体ハウジングと、
前記本体ハウジングの開口の周縁に配備されていて、前記壁面に対向する本体当接面に5〜10mm長の合成樹脂製の毛体が植設されている、本体環状弾性部材と、
前記本体ハウジング内から排気して前記本体ハウジング内を負圧状態にすることによって前記本体ハウジングを前記壁面に吸着させる本体排気手段と、
前記本体ハウジング内に配備されていて前記壁面に対してジェット水を吹き付けるジェットノズルとを備えており、
前記2個の補助吸着手段は、それぞれ、
前記壁面に面する側が開口している補助ハウジングと、
前記補助ハウジングの開口の周縁に配備されている補助環状弾性部材と、
前記補助ハウジング内から排気して前記補助ハウジング内を負圧状態にすることによって前記補助ハウジングを前記壁面に吸着させる補助排気手段とを備えている
ことを特徴とする吸着自走式壁面塗装剥離装置。
【請求項2】
前記本体ハウジングは前記2個の補助ハウジングと接続パイプによって接続されており、前記本体排気手段が前記補助排気手段を兼用していることを特徴とする請求項1記載の吸着自走式壁面塗装剥離装置。
【請求項3】
前記本体ハウジングに圧力センサーが配備されており、当該圧力センサーによって前記本体ハウジング内の負圧が所定の大きさになったことが検知されたときに前記ジェットノズルによる前記壁面に対するジェット水吹き付けを停止することを特徴とする請求項1又は2記載の吸着自走式壁面塗装剥離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−213293(P2011−213293A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85276(P2010−85276)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(309015640)株式会社西部川崎 (3)
【Fターム(参考)】