説明

吸音パネルの製造方法

【課題】優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】吸音パネル10の製造方法は、骨材15とセメント14との混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計工程と、骨材/セメント混合割合設計工程によって定めた所定量のセメント14および骨材15に所定量の水16を加えてセメントペースト17を作るセメントペースト作成工程と、セメントペースト17を所定量に計量しつつ、そのセメントペースト17を所定容積の型枠18に充填するセメントペースト計量充填工程と、セメントペースト17を所定温度下に養生するセメントペースト養生工程とを有する。この製造方法によって製造された吸音パネル10では、その内部に複数の空隙が形成され、それら骨材表面の略全域が略均一の厚みを有するセメント14によって包被されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントと複数の骨材とに水を加えて作られたセメントペーストを養生することで製造され、内部に複数の空隙が形成された吸音パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラスコンクリートによってパネル状の吸音部材が成形され、その吸音部材の周囲を構造枠部材で覆うことで、吸音部材が構造枠部材に保持されたコンクリート吸音パネルがある(特許文献1参照)。構造枠部材は、普通コンクリートから作られている。この吸音部材の製造方法は、以下のとおりである。矩形の型枠内に複数の砕石を敷き詰めた後、水とセメントとを混合したセメントペーストを型枠内に充填し、セメントペーストが硬化するまで養生する。吸音部材では、その下層に位置する砕石の粒径が一番小さく、その中間層に位置する砕石の粒径が下層に位置する砕石のそれよりも大きく、その上層に位置する砕石の粒径が中間層に位置する砕石のそれよりも大きい。
【特許文献1】特開2004−52480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記公報に開示の吸音部材のように、骨材(砕石)の粒度分布が下層から上層に向かって大きく変化すると、セメントと骨材と水との混練時における性状が著しく変化する。それらの混練時における性状変化の一例として、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が小さくなる(細粒分が多い)と、骨材の表面の湿気が減少し、セメントと骨材との接着強度が不十分となり、吸音部材の圧縮強度が低下する場合がある。また、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が大きくなる(細粒分が少ない)と、骨材表面の湿気が増加し、吸音部材に形成されるべき空隙がセメントによって塞がれ、吸音率が著しく低下する場合がある。このような現象が生ずる原因の1つとして、骨材の粒度分布が変化することにより、骨材の単位質量当たりの表面積(比表面積)が変化し、骨材表面を包被するセメントの厚みが不均一になるためと考えられる。
【0004】
前記公報に開示の吸音部材では、下層に位置する砕石の粗粒率が上層や中間層に位置する砕石のそれよりも小さいから、下層におけるセメントと砕石との接着強度が不十分となり、下層における圧縮強度が上層および中間層のそれよりも低下し、吸音部材全体の強度バランスが不均一になる場合がある。また、上層や中間層に位置する砕石の粗粒率が下層に位置する砕石のそれよりも大きいから、上層や中間層においてそれら砕石の間にセメントペーストが容易に進入し、それら砕石の間に形成されるべき空隙がセメントによって塞がれ、上層や中間層における吸音率が低下する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、骨材の粒度分布が変化したとしても、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面を包被するセメントの厚みを略一定にすることができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の前提は、セメントと所定範囲の粒度を有する複数の骨材とに水を加えて作られたセメントペーストを養生することで製造される吸音パネルの製造方法である。
【0007】
前記前提における本発明の特徴としては、製造方法が、骨材とセメントとの混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計工程と、骨材/セメント混合割合設計工程によって定めた所定量のセメントおよび骨材に所定量の水を加えてセメントペーストを作るセメントペースト作成工程と、セメントペースト作成工程によって作られたセメントペーストを所定量に計量しつつ、所定量のセメントペーストを所定容積の型枠に充填するセメントペースト計量充填工程と、セメントペーストを所定温度下に養生するセメントペースト養生工程とを含み、セメントペースト養生工程を経過した後の吸音パネルでは、その内部に複数の空隙が形成され、それら骨材のうちの過半数の骨材が局所的に当接するとともに、それら骨材表面の略全域が略均一の厚みを有するセメントによって包被されていることにある。
【0008】
本発明の一例としては、骨材/セメント混合割合設計工程において、骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材表面におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、標準化比率(S/C)が、骨材量とセメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出され、比表面積比率(R)が、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することによって算出される。
【0009】
本発明の他の一例としては、骨材/セメント混合割合設計工程において、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とが、
W1=SW2=ΣSi
Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
Pi=M・(4.π・ri/3)・ni
Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)
ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
によって算出される。
【0010】
本発明の他の一例としては、骨材/セメント混合割合設計工程において、第2比表面積(SW2)が、2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が、2.0〜4.0の範囲にある。
【0011】
本発明の他の一例として、セメントペースト計量充填工程では、1cm中に含まれるセメントと骨材と水との合計重量W(g)に型枠の容積V(cm)を乗ずることによって該型枠に対するセメントペーストの充填量G(g)を算出し、かつ、型枠の容積が該型枠に充填するセメントペーストの充填前の容積よりも小さくなるように、セメントペーストの充填量を決定する。
【0012】
本発明の他の一例としては、骨材の粗粒率が2.0〜5.0の範囲にある。
【0013】
本発明の他の一例としては、骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90%以上を占めている。
【0014】
本発明の他の一例としては、セメントと水との混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある。
【0015】
本発明の他の一例としては、骨材が、クリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる吸音パネルの製造方法によれば、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを作ることができる。この製造方法によって作られた吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されているから、パネルの内部に進入した音がそれら空隙を拡散し、音のエネルギーが振動をともなった熱エネルギーに確実に変換される。この製造方法によって作られた吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙によって音を確実に吸収することができるから、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを小さくすることができ、優れた吸音性能を発揮する。さらに、骨材表面を包被するセメントの厚みが略一定であり、骨材表面におけるセメントの厚みの偏りが少なく、略均一の接着強度で骨材どうしが連結されるから、パネルの圧縮強度が局所的に低下することはなく、優れた圧縮強度を有する。
【0017】
各骨材表面を包被するセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて骨材量とセメント量との混合割合が定められる吸音パネルの製造方法では、それら骨材の粒度分布が変化することによって、各骨材の比表面積が変化した場合であっても、骨材とセメントとの混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができる。この吸音パネルの製造方法は、骨材の粒度分布の変化にともなう骨材の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材の粒度分布の変化に対応した骨材とセメントとの混合割合を確実かつ容易に算出することができる。この吸音パネルの製造方法は、粒度分布の異なる骨材において算出した各標準化比率(S/C)が略同一の値になることから、設計者の経験と感覚とに頼ることなく、現場において骨材とセメントとの混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。また、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを作ることができる。
【0018】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とがSW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4・π・ri/3)・niの式で算出される吸音パネルの製造方法では、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを求めることができるから、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、現場において手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。この吸音パネルの製造方法は、前記式に基づいて第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを算出するとともに、算出した第1および第2比表面積(SW1,SW2)を使用して標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)に基づいて骨材とセメントとの混合割合を設計するから、現場において骨材とセメントとの混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。また、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを作ることができる。
【0019】
第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にある吸音パネルの製造方法では、その範囲の第2比表面積(SW2)を用いて標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)に基づいて骨材とセメントとの混合割合を設計するから、現場において骨材とセメントとの混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。この吸音パネルの製造方法は、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを作ることができる。
【0020】
セメントペースト計量充填工程において、1cm中に含まれるセメントと骨材と水との合計重量W(g)に型枠の容積V(cm)を乗ずることによってセメントペーストの量を算出し、かつ、型枠の容積が該型枠に充填するセメントペーストの容積よりも小さくなるように、セメントペーストの量を決定する吸音パネルの製造方法は、型枠の容積に対してセメントペーストの量が定まり、製造されたパネルの内部に所定割合の空隙を確実に作ることができる。型枠の容積に対してセメントペーストの量を調整することにより、吸音パネルの内部に形成される空隙の割合(空隙率)を調節することができるから、所期した空隙率の吸音パネルを確実に作ることができる。
【0021】
骨材の粗粒率が2.0〜4.0の範囲にある吸音パネルの製造方法は、粒度分布が略一定の範囲にある骨材を使用することで、骨材の粒度分布のばらつきを防ぐことができ、セメントと骨材と水との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができる。この吸音パネルの製造方法は、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを確実に作ることができる。
【0022】
骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90%以上を占めている吸音パネルの製造方法は、粒径が前記範囲にあるとともに10mm以下の粒径の骨材が90%以上を占める骨材を使用することで、骨材の粒度分布のばらつきを防ぐことができ、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができる。この吸音パネルの製造方法は、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを確実に作ることができる。
【0023】
セメントと水との混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある吸音パネルの製造方法は、水セメント比(W/C)が前記範囲にあるから、セメントペーストが適度な流動性を有し、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができる。この吸音パネルの製造方法は、セメントが骨材の間に形成される間隙を塞ぐことはなく、かつ、骨材表面を略均一の厚みのセメントで包被することができるから、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを有する吸音パネルを確実に作ることができる。
【0024】
骨材がクリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである吸音パネルの製造方法は、骨材にそれら廃材を使用することで、廃材の再利用の促進を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
添付の図面を参照し、本発明に係る吸音パネルの製造方法を説明すると、以下のとおりである。図1は、この製造方法によって作られた一例として示す吸音パネル10の斜視図であり、図2は、図1のA−A線部分拡大断面図である。図3は、吸音パネル10の製造手順の説明図であり、図4は、吸音パネル10の製造手順の一例を示すフローチャートである。図1では、縦方向を矢印X、横方向を矢印Yで示し、上下方向を矢印Zで示す、吸音パネル10は、縦方向へ長い四角柱状を呈し、矩形の上壁11および下壁12と、上下壁11,12の間に位置する矩形の各側壁13とを有する六面体である。なお、吸音パネル10を図示の四角柱状に限定するものではなく、型枠18の形状によって円柱状や多角柱状等の他のあらゆる形状に成形することができる。吸音パネル10の製造方法(手順)の概要は、原料セメント14と複数の骨材15とに水16を加え、それらを攪拌混練してセメントペースト17を作る。次に、そのセメントペースト17を所定容積の型枠18に充填し、充填直後に型枠18を外すか、または、型枠18を付けたままセメントペースト17が硬化するまで養生する。
【0026】
吸音パネル10では、それら骨材15のうちの過半が局所的に当接し、残りの骨材15が非当接状態にある。局所的に当接する骨材15どうしは、それらの当接部位19を除く表面20全域が略均一の厚みを有するセメント14によって包被され、固結したセメント14を介して互いに連結されている。非当接状態にある骨材15は、その表面20全域が略均一の厚みを有するセメント14によって包被され、固結したセメント14を介して局所的に当接する骨材15と連結されているとともに、固結したセメント14を介して非当接状態にある骨材15と連結されている。吸音パネル10は、骨材15の表面20を包被するセメント14が骨材15と結合し、かつ、固結したセメント14どうしが互いに結合することで、その形態が保持されている。
【0027】
吸音パネル10には、図2に示すように、セメント14や骨材15が存在しない多数の空隙21(空間)が形成されている。それら空隙21は、パネル10の内部に形成されているのみならず、各壁11,12,13の表面20からパネル10の内部に向かって不規則に延びている。それら空隙21は、互いに独立して存在して不規則に延びる独立空隙22と、それら空隙21どうしが互いにつながって不規則に延びる連続空隙23とから形成されている。独立空隙22の1つは、互いに連結された3つの骨材15の間に画成され、それら骨材15に囲繞されている。独立空隙22の他の1つは、互いに連結された4つの骨材15の間に画成され、それら骨材15に囲繞されている。連続空隙23は、一方向へ隣接する骨材15のうちの少なくとも3つの骨材15に跨っている。吸音パネル10では、連続空隙23がすべての空隙21のうちの過半を占めている。具体的には、すべての空隙21に対する連続空隙23の割合は、55〜85%の範囲にある。なお、連続空隙23の好ましい割合は60〜80%であり、連続空隙23のより好ましい割合は65〜75%である。吸音パネル10は、上下方向の厚み寸法が50〜80mmの範囲にある。
【0028】
以下、図3,4に基づき、吸音パネル10の製造方法の詳細を説明する。最初に原料セメント14と骨材15とを調達する(S−10)。原料セメント14には、プレミックスセメント,ポルトランドセメント,高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントのうちの少なくとも1つが使用されている。原料セメント14には、固化対象物に有効に作用する固化材が添加されている。原料セメント14は、カルシウムイオン交換による土粒子の凝集団粒化、また、水を取り込んで水和反応を生じ、針状結晶エトリンガイト(CA・3CaSO・32HO)を含む多くの水和鉱物の生成等の複数の固化反応を連続的に促進する。原料セメント14を水16で錬り混ぜると、直ちに水和反応を起こし、セメント14中の化合物が水16と反応して新しい水和物が次々と生成されることで水和反応が促進される。時間が経過(養生)すると、流動性を失い凝結し、硬化が進み、強度が発現する。
【0029】
骨材15には、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちの少なくとも1つが使用されている。それらの骨材15は、その形状が一定ではなく、多種多様な立体形状を有する骨材15の集合物である。骨材15としては、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちのいずれかを単独で用いてもよく、それら骨材15を所定の割合で混合した混合骨材を用いてもよい。クリンカアッシュは、石炭火力発電所において微粉砕した石炭をボイラで燃焼させることによって作ることができる。ボイラの内部では、燃焼によって生じた石炭灰の粒子が相互に凝縮し、多孔質な塊となってボイラ底部のクリンカホッパに落下堆積する。その堆積物を破砕機によって砂状に破砕して所定粒度のクリンカアッシュを作る。クリンカアッシュは、高温(約1300℃)で焼成されているから、化学的に安定し、締め固まり難く、締圧に強いという性質を有するとともに、優れた通気性と保水性とを有する。
【0030】
溶融スラグは、1200℃以上の高温条件下において加熱された焼却灰等が溶融した後、冷却固化してできるガラス質の物質である。このガラス質の物質を粉砕機によって破砕して所定粒度の溶融スラグを作る。溶融スラグは、二酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化カルシウムを主成分とし、重金属類(水銀,鉛,カドミウム等)の含有量が極めて少ない。溶融スラグに残存する重金属類は、溶融スラグの主成分である二酸化ケイ素のSi−O2の網目構造に包被されるから、その溶出が防止される。なお、焼却灰に含まれるダイオキシン類は、焼却灰溶融時の高温条件によって熱分解するから、溶融スラグ中に残存しない。廃ガラスは、使用済みのガラスを粉砕機によって所定粒度に粉砕して作ることができる。廃ガラスは、ガラスを一次粉砕した後、金属類を除き、さらに、二次粉砕して作られる。廃ガラスは、ふるい機で粒度毎に区分される。粉砕機には、ジョークラッシャ,ジャイレトリークラッシャ,コーンクラッシャ,ハンマークラッシャ,ロールクラッシャ等の粗粉砕機やボールミル,媒体攪拌ミル,ローラミル等の微粉砕機を使用することができる。
【0031】
原料セメント14や骨材15を調達した後、骨材15の粒度分布を確認する(S−11)。骨材15の粒度は、JIS A 1102「骨材の篩い分け試験」によって試験し、その結果を粒度曲線や粗粒率等で表す。篩い分け試験は、0.15,0.3,0.6,1.2,2.5,5.0mmの網ふるいを使用し、各ふるいにおける骨材試料の通過量または残留量を求める。この製造方法において使用されるそれら骨材15は、その粒径中央値が0.6〜2.5mmの範囲にあり、骨材15のうちの10mm以下の粒径を有する骨材15がすべての骨材15のうちの90%以上を占めている。
【0032】
骨材15は、その粗粒率が2.0〜4.0の範囲にある。骨材15の粗粒率が2.0未満かつ4.0を超過すると、骨材15の粒度分布が大きくなり、骨材15周囲のセメントペースト17の形成状態や空隙21の形成状態が大きく変化し、後記するセメント量と骨材量との混合割合を画一的に求めることができず、原料セメント14と骨材15との適正な混合割合を設計することができない。なお、粗粒率は、80,40,20,10,5,2.5,1.2,0.6,0.3,0.15mmのふるいの一組を用いて篩い分け試験を行った場合、各ふるいを通らない全部の量の全骨材試料に対する質量百分率(整数)の和を100で除した値である。
【0033】
骨材15の粒度分布を確認した後、原料セメント14と骨材15との配合条件を決定する(骨材/セメント混合割合設計工程)(S−12)。配合条件の決定では、骨材量(S)(kg)とセメント量(C)(kg)との混合割合を検討し、原料セメント14と骨材15との混合割合を設計する。なお、骨材量とセメント量との混合割合一定の条件下において、骨材15の粒度分布が変化すると、各骨材15の単位質量当たりの比表面積が変化し、骨材15の表面20を包被するセメントペースト17の厚みが不均一になる。したがって、骨材15の粒度分布の変化とそれにともなう骨材15の比表面積の変化とに対応させて、骨材15と原料セメント14との混合割合を補正することにより、骨材15の表面20を包被するセメントペースト17の厚みを略一定にすることができる。これをふまえ、この製造方法におけるセメント量と骨材量との混合割合は、原料セメント14と骨材15とに水16を加えて攪拌混練した後、各骨材15の表面20におけるセメントペースト17の厚みを略一定と仮定し得るように、骨材15の比表面積を補正して求めた標準化比率S/Cに基づいて設計される。標準化比率S/Cは、以下の式によって算出される。
(1)S/C=S/(C・R
(2)R=SW2/SW1
(a)S/C:骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率
(b)SW1:あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの比表面積(第1比表面積)(m/kg)
(c)SW2:骨材の粒度分布の変化に対する見かけの比表面積(第2比表面積)(m/kg)
(d)R:第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率
【0034】
標準化比率S/Cは、前記式に示すように、骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材15の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずる(乗算)ことによって算出される。比表面積比率(R)は、前記式に示すように、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除する(除算)ことによって算出される。
【0035】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とは、以下の式によって算出される。
(3)SW1=SW2=ΣSi
(4)Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
(5)Pi=M・(4.π・ri/3)・ni
(e)Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材(実際に用いる骨材)における見かけの比表面積(m/kg)
(f)ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
(g)ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
(h)Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
(i)M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
【0036】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との計算では、骨材15の形状を球形と仮定して計算する。骨材15の平均半径は、骨材15の粒径幅両端間長さの中間を2で除(除算)した値とする。たとえば、骨材15の粒径が0.6〜1.2mmの場合における平均半径(ri)は、ri=[〔{(0.6+1.2)/1000}/2〕/2]=0.00045(m)となる。また、同種類の骨材15であれば、同じ粒径範囲の比表面積は同じであると仮定し、粒度10mm以上の骨材15は、その粒度を10〜20mmとして計算する。このように定義した第1および第2比表面積(SW1,SW2)は、骨材15の実際の比表面積とは同一の値ではないが、比表面積に比例した値であると考えられるから、標準化比率S/Cを決定するパラメータとして利用することができる。
【0037】
それら式による標準化比率(S/C)の算出、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率の算出、第1比表面積(SW1)の算出には、CPUとメモリとを有するコンピュータ(コンピュータ資源)(図示せず)が利用される。コンピュータのメモリには、前記式に基づいた各種の計算をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。アプリケーションプログラムは、それを記憶した記憶媒体からコンピュータのメモリにインストールされる。CPUは、ハードディスクに記憶されたオペレーティングシステムによる制御に基づいて、メモリからアプリケーションプログラムを起動し、起動したアプリケーションプログラムに従って、第1および第2比表面積(SW1,SW2)を算出し、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率を算出するとともに、標準化比率(S/C)を算出する。なお、それらの算出に必要な各数値は、コンピュータに接続されたキーボードやマウス等の入力装置を介してコンピュータに入力する。
【0038】
原料セメント14と骨材15との混合割合の設計では、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められる。また、第1比表面積(SW1)が10×10(m2/kg)に設定されている。第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)は、2.0〜4.0の範囲にある。このように、粒度分布の異なる骨材15においてそれぞれ算出した各標準化比率(S/C)の値は略同一となる。第2比表面積(SW2)が2×10(m2/kg)未満かつ20×10(m2/kg)を超過すると、骨材15周囲のセメントペースト17の形成状態や空隙21の形成状態が大きく変化し、セメント量と骨材量との混合割合を画一的に求めることができず、原料セメント14と骨材15との適正な混合割合を設計することができない。なお、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)以外の数値に設定することもできる。
【0039】
原料セメント14と骨材15との混合割合の設計では、第2比表面積(SW2)を前記範囲に設定することで、標準化比率S/Cの値が略一定し、セメント量と骨材量との混合割合を画一的に求めることができ、原料セメント14と骨材15との適正な混合割合を確実に設計することができる。さらに、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、原料セメント14と骨材15と水16との混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材15の表面20を包被するセメントペースト17の厚みを略一定に保持することができる。原料セメント14と骨材15との混合割合の設計した後は、設計した混合割合に基づいて、原料セメント14の量を計量し、骨材15の量を計量する(S−13)。
【0040】
次に、計量した分量の原料セメント14および骨材15をミキサ24に投入するとともに、ミキサ24に水16を注入し、ミキサ24によってそれらを攪拌混練してセメントペースト17を作る(セメントペースト作成工程)(S−14)。具体的には、最初に骨材15と水16(水16の全重量の4分の3)をミキサ24に入れ、所定時間攪拌混合する。次に、原料セメント14をミキサ24に入れ、骨材15および水16とともに所定時間攪拌混練する。さらに、水16(水16の全重量の4分の1)をミキサ24に入れ、所定時間攪拌混練する。水16には、水道水、河川水、湖沼水、井戸水、地下水等を使用する。セメントペースト17は、原料セメント14と骨材15とに所定量の水16を加えることで作られ、所定の粘度と流動性とを有する。原料セメント14と骨材15と水16との混練には、傾胴式ミキサ24を使用しているが、強制練りミキサ、水平2軸ミキサ等のコンクリートミキサを使用することもできる。
【0041】
原料セメント14と水16との混合割合(W/C)(%)は、30〜80%の範囲にある。水セメント比(W/C)が30%未満では、原料セメント14と骨材15との結合力やセメント14どうしの結合力が弱く、吸音パネル10の圧縮強度が低下するから、耐衝撃性に優れたパネル10を作ることができない。水セメント比が80%を超過すると、セメントペースト17によって骨材15どうしの間の空隙21が塞がれ、パネル10に複数の空隙21を形成することができず、パネル10の吸音性能が低下する。この製造方法では、前記標準化S/Cを採用しつつ、水セメント比(W/C)(%)を前記範囲にすることで、セメントペースト17が適度な流動性を有し、骨材15の表面20に対するセメントペースト17の厚みを略一定に保持することができ、骨材15の表面20を略均一の厚みのセメント14で包被することができる。また、セメントペースト17が骨材15の間に形成される間隙21を塞ぐことはなく、複数の独立空隙22と複数の連続空隙23とが形成された吸音パネル10を作ることができる。
【0042】
セメントペースト17を作った後は、型枠18に対するセメントペースト17の充填量(空気を含んだ嵩容積)を決定し、決定した量のセメントペースト17を型枠18内に充填する(セメントペースト計量充填工程)(S−15、S−16)。具体的には、1cm中に含まれるセメント14と骨材15と水16との合計重量W(g)に型枠18の容積V(cm)を乗ずることによってセメントペースト17の充填量G(g)を算出し、さらに、型枠18の容積が型枠18に充填するセメントペースト17の容積よりも小さくなるように、セメントペースト17の充填量を決定する。次に、決定した充填量となるようにセメントペースト17を計量した後、その量のセメントペースト17を型枠18内に充填する。型枠18に充填するセメントペースト17の充填量は、以下の式によって算出することができる。
【0043】
充填量G(g)=W・V、W(g)=Wc+Wca+Ww
(j)G:型枠に充填するセメントペースト(原料セメント、骨材、水の混合物)の充填量(g)
(k)W:1cm中に含まれるセメントと骨材と水との合計重量(g)
(l)V:型枠の容積(cm
(m)Wc:1cm中に含まれる原料セメントの重量(g)
(n)Wca:1cm中に含まれる骨材の重量(g)
(o)Ww:1cm中に含まれる水の重量(g)
【0044】
セメントペースト17を型枠18内に充填した後は、直ちに型枠18を外すか、または、型枠18を付けたままセメントペースト17が硬化するまで養生する(セメントペースト養生工程)(S−17)。セメントペースト17の養生は、所定温度(15〜25℃)下かつ温度を略一定にした状態で行われる。セメントペースト17を養生させると、図1に示す吸音パネル10が完成する。なお、パネル10に形成される空隙21の割合(空隙率)は、以下の式によって算出することができる。
【0045】
空隙率=1−{Wc/(Mc+Wca)/[(Mca+Ww)/Mw]}
(p)Mc:原料セメントの密度=3.15(g/cm
(q)Mca:骨材の密度=1.82(g/cm
(r)Mw:水の密度=1.0(g/cm
【0046】
吸音パネル10の製造方法では、空隙率の前記算出式を利用することで、空隙率を先に設定し、設定した空隙率になるように型枠18に充填するセメントペースト17の充填量(g)を算出することができるから、吸音パネル10の空隙率を自由に調節することができ、所期した空隙率のパネル10を作ることができる。この製造方法は、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、セメント14と骨材15と水16との混練時における性状を略一定に維持することができるとともに、骨材15の表面20に対するセメントペースト17の厚みを略一定に保持することができ、必要かつ十分な圧縮強度と耐衝撃性とを有するとともに、複数の独立空隙22と複数の連続空隙23とが形成されて優れた吸音性能を有する吸音パネル10を作ることができる。
【0047】
この製造方法では、骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材15の表面20におけるセメントペースト17の厚みを略一定と仮定し得るように、骨材15の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められる。ゆえに、それら骨材15の粒度分布が変化することによって、各骨材15の単位質量当たりの比表面積が変化した場合であっても、原料セメント14と骨材15との混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができ、原料セメント14と骨材15との混合割合を誤ることはない。この製造方法では、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように原料セメント14と骨材15との混合割合が設計されるから、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、原料セメント14と骨材15との攪拌混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材15の表面20を包被するセメント14の厚みを略一定にすることができる。
【0048】
この製造方法では、骨材15の粒度分布の変化にともなう骨材15の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材15の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材15の粒度分布の変化に対応した原料セメント14と骨材15との混合割合を確実かつ容易に算出することができる。また、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とがSW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4・π・ri/3)・niの式で算出され、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを求めることができるから、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。
【0049】
この製造方法では、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にあり、その範囲の第2比表面積(SW2)を用いて標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように原料セメント14と骨材15との混合割合を設計する。ゆえに、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、原料セメント14と骨材15との攪拌混練時における性状変化を確実に防ぐことができる。さらに、粒度分布の異なる骨材15において算出した各標準化比率(S/C)が略同一の値になることから、設計者の経験と感覚とに頼ることなく、現場において原料セメント14と骨材15との混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。
【0050】
図5は、吸音率測定システム25の一例を示すブロック図である。この製造方法によって製造された吸音パネル10は、その吸音率が0.4〜0.75の範囲にある。パネル10は、それに形成された連続空隙23が全空隙21の過半を占め、連続空隙23において音を拡散させて音を効率的に吸収することができるから、高い吸音率を発現する。吸音率測定システム25は、図5に示すように、音響管26、FFTアナライザ(CF−900)27、コンピュータ(PC−9801T)28、パワーアンプ(BOSE1702)29とから形成される。吸音率の測定は、2マイクロホン法に基づいて行った。音響管26の中に入る大きさの吸音率測定用試験体パネルを作り、試験体パネルを試験体支持部の中心軸に垂直になるように音響管26の中に収容した後、音響管26の主管内にできる定常波の音圧の極大値と極小値との比(定在波比)を測定し、コンピュータ28を使用して定在波比から垂直入射吸音率を算出した。垂直入射吸音率をパネル10の吸音率とした。
【0051】
この製造方法によって製造された吸音パネル10は、その空隙率が30〜50%の範囲にある。空隙率が大きくなると、吸音する周波数帯域のピークが高周波側にシフトする。この吸音パネル10は、その空隙率が前記範囲にあるから、発生する音の周波数にあわせてその空隙率を変えることで、低周波から高周波までの広い周波数帯域の音を吸収するように設計することができる。なお、空隙率は、前記算出式によって算出した。
【0052】
この製造方法によって製造された吸音パネル10は、その圧縮強度が1.1〜5.0N/mmの範囲、好ましくは0.8〜6.0N/mmの範囲にある。吸音パネル10は、それに衝撃が加えられたとしても、損壊し難く、その形態を確実に保持する。圧縮強度は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験」に準拠して測定した。具体的には、JIS A 1132「コンクリートの強度試験用試験体の作り方」に準拠して直径約50mm、厚み約50〜53mmの円柱状に加工した圧縮強度測定用試験体パネルを作った。試験体パネルの円形上下面が圧縮試験機の可圧板に当接するように、それら可圧板で試験体パネルを挟持し、圧縮試験機の圧力を次第に上げ、試験体パネルが座屈する瞬間の圧力指示計の値を採用し、以下の式により算出した。算出した試験体パネルの圧縮強度をパネルの圧縮強度とした。
【0053】
fc=P/π(d/2)
(s)fc:圧縮強度(N/mm
(t)P:圧力指示計から読み取った最大荷重(N)
(u)d:試験体パネルの直径(mm)
【0054】
図6は、空気流れ抵抗測定システム30の一例を示すブロック図である。この製造方法によって製造された吸音パネル10は、その内部における空気流れ抵抗が1000〜150000(N・s/m)の範囲にある。吸音パネル10は、空気流れ抵抗が前記範囲にあるから、それに形成された独立空隙22や連続空隙23に所定時間音を閉じ込めることができ、それら空隙22,23において音を十分に拡散させて音を吸収する。
【0055】
空気流れ抵抗は、ISO 9053の直流法に基づいて、測定システム30を構築し、そのシステム30を使用して測定を行った。空気流れ抵抗測定システム30は、図6に示すように、デジタル微差圧計31、測定管32、マスフローコントローラ33、圧力計34、レギュレータ+エアーフィルタ35、エアータンク36、エアーコンプレッサー37とから形成される。具体的には、空気流れ抵抗測定用試験体パネルを複数個作り、試験体パネル2〜3個を空気漏れがないようにビニルテープで連結し、それを内径厚み10cmの測定管に収容した。測定は、マスフローコントローラ33を用い、試験体パネルの内部を流れる単位時間当たりの空気流量を100〜500ml/minの範囲で、10〜50ml/min毎に変化させ、流量と試験体パネルの両面の微差圧をデジタル微差圧計31で測定し、下記の式に基づいて算出した。算出した試験体パネルの空気流れ抵抗をパネル10の空気流れ抵抗とした。
【0056】
R=Δρ/(q・v)
(v)R:空気流れ抵抗(N・s/m
(w)Δρ:試験体パネル両面の圧力差(N/m
(x)q:試験体パネルの厚み(m)
(y)v:試験体パネルを流れる空気の流速(m/s)
【0057】
図7,8は、吸音パネル10を取り付けた壁材38の斜視図である。吸音パネル10は、高速道路や鉄道の防音壁、無響室や半無響室の吸音壁として使用することができる。図7では、吸音パネル10の複数個が壁材38の内側に配置され、壁材38の表面39にパネル10の下面12が当接した状態で、パネル10が壁材38に接着剤やビス(図示せず)によって固着されている。なお、パネル10は、壁材38の外側に配置され、壁材38に接着剤やビスによって固着されていてもよく、壁材38の間に収納した状態でそれら壁材38に固着されていてもよい。また、パネル10は、床や天井に取り付けられてもよい。図8では、壁材38の内側表面39に縦方向と横方向とへ延びる支持材40が取り付けられ、それら支持材40にパネル10の下面12が当接した状態で、パネル10が支持材40に接着剤やビスによって固着されている。図8の態様では、壁材38の表面39とパネル10の下面12との間に隙間41が形成され、パネル10を透過した透過音が壁材38の表面39で反射し、再度パネル10に進入するから、パネル10と支持材40との間で音を十分に減衰させることができる。
【0058】
この製造方法によって製造された吸音パネル10は、それを形成する骨材15の表面20の略全域が略均一の厚みを有するセメント14に包被され、その内部に略均一に分布する複数の独立空隙22と連続空隙23とが形成されているから、パネル10の内部に進入した音がそれら空隙22,23を拡散し、音のエネルギーが振動をともなった熱エネルギーに確実に変換される。吸音パネル10は、その内部に略均一に分布するそれら空隙22,23によって音を確実に吸収することができ、パネル10を透過する透過音エネルギーやパネル10から反射する反射音エネルギーを小さくすることができる。特に、連続空隙23において音を拡散させて音を効率よく吸収させることができるから、それら連続空隙23が全空隙21の過半を占めることで、優れた吸音性能を発揮する。
【0059】
この製造方法によって製造された吸音パネル10は、骨材15の表面20を包被するセメント14の厚みが略一定であり、骨材15の表面20におけるセメント14の厚みの偏りが少なく、略均一の接着強度で骨材15どうしが連結されるから、パネル10の圧縮強度が局所的に低下することはなく、優れた圧縮強度を有する。また、パネル10は、それに独立空隙22が形成され、独立空隙22において隣接する骨材15どうしが固結したセメント14を介して互いに連結されるから、連続空隙23のみが形成されたパネルと比較し、高い圧縮強度を維持することができる。
【0060】
この製造方法によって製造された吸音パネル10は、その吸音率が0.4〜0.75の範囲、その空隙率が30〜50%の範囲にあり、その内部における空気流れ抵抗が1000〜150000N・s/mの範囲にあるから、パネル10に形成された空隙21に所定時間音を閉じ込めることができ、それら空隙21において音を確実に拡散させることができ、パネル10の内部に進入した音を確実に吸収することができる。なお、圧縮強度が高いことはセメント14が骨材15どうしの間に十分に充填されて骨材15どうしが固結したセメント14を介して確実に連結されていることであり、内部に空隙21がわずかしか形成されず、その分吸音性能が低下してしまう。しかし、この製造方法で製造された吸音パネル10は、その空隙率が前記範囲にあり、内部に空隙21が十分に形成されているにもかかわらず、圧縮強度が1.1〜5.0N/mmの範囲にあり、高い圧縮強度を有するとともに、吸音率が0.4〜0.75の範囲にあり、優れた吸音性能を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】一例として示す吸音パネルの斜視図。
【図2】図1のA−A線部分拡大断面図。
【図3】吸音パネルの製造手順の説明図。
【図4】吸音パネルの製造手順の一例を示すフローチャート。
【図5】吸音率測定システムの一例を示すブロック図。
【図6】空気流れ抵抗測定システムの一例を示すブロック図。
【図7】吸音パネルを取り付けた壁の斜視図。
【図8】吸音パネルを取り付けた壁の斜視図。
【符号の説明】
【0062】
10 吸音パネル
14 原料セメント、セメント
15 骨材
16 水
17 セメントペースト
18 型枠
20 表面
21 空隙
22 独立空隙
23 連続空隙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと所定範囲の粒度を有する複数の骨材とに水を加えて作られたセメントペーストを養生することで製造される吸音パネルの製造方法において、
前記製造方法が、前記骨材と前記セメントとの混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計工程と、前記骨材/セメント混合割合設計工程によって定めた所定量の前記セメントおよび前記骨材に所定量の水を加えてセメントペーストを作るセメントペースト作成工程と、前記セメントペースト作成工程によって作られたセメントペーストを所定量に計量しつつ、所定量のセメントペーストを所定容積の型枠に充填するセメントペースト計量充填工程と、前記セメントペーストを所定温度下に養生するセメントペースト養生工程とを含み、前記セメントペースト養生工程を経過した後の前記吸音パネルでは、その内部に複数の空隙が形成され、それら骨材のうちの過半数の骨材が局所的に当接するとともに、それら骨材表面の略全域が略均一の厚みを有する前記セメントによって包被されていることを特徴とする吸音パネルの製造方法。
【請求項2】
前記骨材/セメント混合割合設計工程において、骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材表面における前記セメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、前記骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、前記標準化比率(S/C)が、前記骨材量と前記セメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と前記骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出され、前記比表面積比率(R)が、前記第2比表面積(SW2)を前記第1比表面積(SW1)で除することによって算出される請求項1記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項3】
前記骨材/セメント混合割合設計工程において、前記第1比表面積(SW1)と前記第2比表面積(SW2)とが、
W1=SW2=ΣSi
Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
Pi=M・(4.π・ri/3)・ni
Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)
ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
によって算出される請求項2記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項4】
前記骨材/セメント混合割合設計工程において、前記第2比表面積(SW2)が、2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、前記第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、前記第2比表面積(SW2)を前記範囲で定めた場合における前記標準化比率(S/C)が、2.0〜4.0の範囲にある請求項2または請求項3に記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項5】
前記セメントペースト計量充填工程では、1cm中に含まれるセメントと骨材と水との合計重量W(g)に前記型枠の容積V(cm)を乗ずることによって該型枠に対する前記セメントペーストの充填量G(g)を算出し、かつ、前記型枠の容積が該型枠に充填する前記セメントペーストの充填前の容積よりも小さくなるように、前記セメントペーストの充填量を決定する請求項1ないし請求項4いずれかに記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項6】
前記骨材の粗粒率が、2.0〜5.0の範囲にある請求項1ないし請求項5いずれかに記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項7】
前記骨材の粒径中央値が、0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、前記骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材が、すべての骨材のうちの90%以上を占めている請求項1ないし請求項6いずれかに記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項8】
前記セメントと前記水との混合割合(W/C)(%)が、30〜80(%)の範囲にある請求項1ないし請求項6いずれかに記載の吸音パネルの製造方法。
【請求項9】
前記骨材が、クリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである請求項1ないし請求項8いずれかに記載の吸音パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−169097(P2008−169097A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5479(P2007−5479)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】