説明

吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法

【課題】トンネル等の作業性、粉塵低減効果をさらに良くし、湧水や地山面が悪化した状況下においても高い急結性が発揮される、石炭灰を大量に使用した、吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】セメントと石炭灰の合計量が360〜550kg/mであり、セメントと石炭灰の合計100質量部中、石炭灰が35〜60質量部である粉体100質量部に、水を42〜70質量部配合してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなる急結剤に、減水剤及び水を加えたスラリー急結剤とからなる吹付け材料であり、前記吹付け材料において、急結剤に連続的に加水してスラリー急結剤を調整し、セメントコンクリートと合流混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルや法面等において露出した地山面へ吹付ける急結剤、急結スラリー、吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法に関する。
なお、本発明のセメントコンクリートとは、ペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。また、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準である。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結剤をコンクリートに配合した急結コンクリートの吹付工法が行われている。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
急結剤としては、カルシウムアルミネートとアルカリ炭酸塩との混合物、カルシウムアルミネートと3CaO・SiOとの混合物、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ炭酸塩等との混合物、並びに、仮焼明バン、アルミン酸塩、炭酸塩の混合物、消石灰、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムの混合物等が知られている(特許文献1、2、3、4、5)。
急結剤は、セメントコンクリートと混合して地山面に吹付けられる。急結剤の添加方法は、通常、空気輸送による粉体混合のために、粉塵量が多くなる方法であった。そのため、作業環境が悪化する場合があり、吹付け時には保護眼鏡や防塵マスクなどを着用して作業する必要があり、粉塵量のより少ない工法が求められていた。
粉塵発生量が少ない工法として、急結剤をスラリー化してセメントコンクリートに添加混合した後、さらに、アルカリ金属アルミン酸塩の溶液を別途圧送し、混合し、吹付け施工する方法が提案されている(特許文献6)。この方法は、高アルカリの液体を使用するため、取り扱いにくく、吹付け時には保護眼鏡や手袋等が必要となり、作業性が低下するという課題があった。これに対して、急結剤をスラリー化し、かつ、セメントコンクリートにミョウバン類を配合することにより、作業環境を改善する急結施工方法が提案されている(特許文献7)。近年、作業性、粉塵低減効果をさらに良くし、工期短縮の面で、急結性を向上した急結施工方法が提案されている(特許文献8)。
【0003】
近年、廃棄物を再利用する廃棄物循環型社会構築の気運が高まっており、フライアッシュの使用が「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成三年法律第四十八号、指定副産物としての石炭灰の有効利用の促進)等の形で推奨されている。大量のフライアッシュを混合した混合セメントにおいても、急結性や初期強度発現性の優れる材料の開発が待たれている。
また、JIS記載のフライアッシュセメントを使用することでセメント中に最大30%までフライアッシュが混入されるが、大量使用は見込めず、さらなるフライアッシュの大量消費が求められている。
さらに、湧水や地山面が悪化した状況下において急結剤に対する要求は益々高まっており、従来のセメントコンクリート向け急結剤の要求性能である、初期凝結時間の確保、粉じん低減効果についてもさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開昭64−051351号公報
【特許文献3】特公昭56−27457号公報
【特許文献4】特開昭61−026538号公報
【特許文献5】特開昭63−210050号公報
【特許文献6】特開平5−139804号公報
【特許文献7】特開平5−097491号公報
【特許文献8】特開2003−81664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題や要求を種々検討した結果、特定の急結剤を使用して吹付け施工を行うことにより解決できるという知見を得て、トンネル等の作業性、粉塵低減効果をさらに良くし、湧水や地山面が悪化した状況下においても高い急結性が発揮される、吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)セメントと石炭灰の合計量が360〜550kg/mであり、セメントと石炭灰の合計100部中、石炭灰が35〜60部である粉体100部に、水を42〜70部配合してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなる急結剤に、減水剤及び水を加えたスラリー急結剤とからなる吹付け材料、(2)スラリー急結剤が、急結剤100部に対して水30〜100部である(1)の吹付け材料、(3)スラリー急結剤が、セメントコンクリート中のセメントと石炭灰の合計100部に対して固形分換算で3〜20部である(1)又は(2)の吹付け材料、(4)材齢7日の圧縮強度が、急結剤無添加のセメントコンクリートの圧縮強度に比べて80%以上である(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料、(5)材齢91日で圧縮強度値18N/mm以上である(1)〜(4)のいずれかの吹付け材料、(6)(1)〜(5)のいずれかの吹付け材料において、急結剤に連続的に加水してスラリー急結剤を調整し、セメントコンクリートと合流混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を採用することによって、トンネル等の吹付け作業で発生する粉塵の発生を抑えて作業性を向上し、湧水や地山面が悪化した状況下においても、高い急結性が得られ、石炭灰を大量に使用することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0009】
本発明の急結剤とは、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなるものである。
【0010】
本発明で使用するカルシウムアルミネート類とは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料等を混合して、キルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして得られ、CaOとAlとを主たる成分とする、水和活性を有する物質の総称である。CaOやAlの一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAlとを主成分とするものに、これらが少量固溶した物質である。
鉱物形態としては、結晶質、非晶質いずれであっても使用可能である。これらの中では、反応活性の面で、非晶質のカルシウムアルミネート類が好ましく、12CaO・7Al(以下、C12という)組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
カルシウムアルミネート類の粒度は、急結性や初期強度発現性の面で、ブレーン比表面積(以下、ブレーン値という)3,000cm/g以上が好ましく、5,000cm/g以上がより好ましい。3,000cm/g未満では、急結剤とセメントコンクリートを混合した吹付け材料の急結性や初期強度発現性が低下する場合がある。
【0011】
本発明で使用する硫酸塩類とは、吹付け材料の凝結性や強度発現性を向上し、例えば、急結剤と水(以下、スラリー水という)を混合した急結剤スラリーの硬化時間を遅延するために混合するものである。硫酸塩類とは、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、ミョウバン類、及び無水セッコウや半水セッコウや二水セッコウのセッコウ類等であり、使用する目的に応じてこれらのうちの一種又は二種以上の併用することが可能である。これらの中では、急結性を十分に得られることや初期強度発現性や現場施工に適している面で、硫酸ナトリウム、石膏類の使用が好ましい。
硫酸塩類の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、10〜50部が好ましく、25〜45部がより好ましい。10部未満では急結剤スラリーの粘度が上昇するため、吹付け材料の施工性や凝結性が低下して、長期強度発現性を促進しにくい場合があり、50部を超えると初期凝結が遅れ、初期強度発現性が低下する場合がある。
【0012】
本発明で使用するアルカリ金属アルミン酸塩(以下、アルミン酸塩という)とは、セメントの初期凝結を促進するものであり、水酸化アルミニウムとアルカリ金属水酸化物を混合溶解し、乾燥し、粉末状として得られるものである。アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウムなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することが可能である。これらの中では、急結性吹付けセメントコンクリートの凝結性や初期強度発現性の面で、アルミン酸ナトリウムの使用が好ましい。
アルカリ金属アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、3〜30部が好ましく、5〜15部がより好ましい。3部未満では初期凝結が遅れ、初期強度発現性が低下する場合があり、30部を超えると急結剤スラリーの粘度が上がり、吹付け材料の施工性や長期強度発現性が低下する場合がある。
【0013】
本発明で使用するアルカリ金属炭酸塩(以下、炭酸アルカリという)とは、セメントの初期凝結を促進するものであり、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムが挙げられる。これらの中では、初期凝結促進の面で、炭酸ナトリウムが好ましい。
炭酸アルカリの使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、5〜60部が好ましく、10〜50部がより好ましい。5部未満では吹付け材料の初期凝結が遅れ、初期強度発現性が低下する場合があり、60部を超えると急結剤スラリーの粘度が上がり、施工性や長期強度発現性が低下する場合がある。
【0014】
本発明で使用するオキシカルボン酸類(以下、オキシ酸類という)としては、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、サリチル酸、及び乳酸又はこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩等が挙げられる。これらの中では、初期強度発現性の面で、グルコン酸ナトリウムが好ましい。
オキシカルボン酸類の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、0.01〜2部が好ましく、0.1〜1部がより好ましい。0.01部未満では吹付け材料の凝結性や初期強度発現性を阻害し、2部を超えると凝結性や強度発現性を阻害する場合がある。
【0015】
本発明で使用する減水剤とは、急結剤の分散安定性を改善するためや吹付け時にセメントコンクリート適度な粘性を付与させて、吹付け材料のリバウンドや粉じん量を低減させるため、使用するものである。
減水剤としては、粉状のものが使用できる。減水剤としては、ポリオール誘導体、リグニンスルホン酸塩やその誘導体及び高性能減水剤等が挙げられ、これらの中から選ばれた一種又は二種以上が使用可能である。これらの中では、高強度発現性や分散安定性の点で、高性能減水剤が好ましい。高性能減水剤の使用により、急結材の使用量を少なくでき、粉塵の発生量及び/又はリバウンド率が極めて少なくできる。
高性能減水剤としては、アルキルアリルスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ビスフェノール酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物及びポリカルボン酸系高分子化合物等が挙げられ、液状や粉状のいずれの状態でも使用でき、これらの中から選ばれた一種又は二種以上が使用可能である。これらの中では、効果が大きい点で、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ビスフェノール酸のホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、又はポリカルボン酸系高分子化合物が好ましい。
減水剤の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、0.5〜10部が好ましく、1〜8部がより好ましい。0.5部未満では、急結剤と水を加えてスラリーにする際、うまく急結剤と水が混合できず、スラリー状態にならず、うまくセメントコンクリートに混合できない場合がある。10部を超えた場合、急結剤自体の反応を分散し、遅延し、強度発現性が低下する場合がある。
【0016】
本発明で使用する水の使用量は、急結剤100部に対して、30〜100部が好ましく、50〜80部がより好ましい。30部未満では急結剤がスラリー状態にならず、粉塵量が多くなる場合があり、100部を超えると凝結性や強度発現性が低下する場合がある。
【0017】
本発明で使用するスラリー急結剤の使用量は、セメントと石炭灰の合計100部に対して、固形分換算で3〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましく、10〜15部が最も好ましい。3部未満では吹付け材料の初期凝結を促進しにくい場合があり、20部を超えると長期強度発現性を阻害する場合がある。
【0018】
本発明で使用するセメントコンクリートは、セメント、石炭灰、水、骨材などから形成されており、温度条件や施工条件に合わせて、高炉スラグ、石灰石微粉末、シリカヒューム、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、遅延剤、凝結促進剤などが使用可能である。
【0019】
本発明で使用するセメントとは、通常市販されている普通、早強、中庸熱、及び超早強等の各種ポルトランドセメントや、これら各種ポルトランドセメントに高炉スラグを混合した各種混合セメントなどが挙げられ、これらを微粉末化して使用することも可能であり、ポルトランドセメントにフライアッシュを事前に配合されるフライアッシュセメントの使用も可能である。
【0020】
本発明で使用する石炭灰とは、JIS A6201の規定を満たすフライアッシュや分級されたもの、分級されていない原粉のものであり、石炭灰の種類及び石炭灰に含有される化学成分の含有割合や物理特性は特に限定されるものではない。
【0021】
本発明で使用する粉体とは、セメントと石炭灰からなり、セメントコンクリートにおいて、セメントと石炭灰の合計量は360〜550kg/mが好ましい。360kg/m未満では初期強度が低下する場合があり、550kg/m以上では、セメント量が増えてしまい、コスト高になる。
【0022】
本発明で使用する石炭灰は、セメントと石炭灰の合計100部中、35〜60部が好ましい。35部未満であると、フライアッシュ大量使用の観点から好ましくなく、60部を超えると、初期強度発現性の低下が大きい。
【0023】
本発明で使用する骨材としては、特に限定されるものではないが、吸水率が低くて、骨材強度が高いものが好ましい。骨材の最大寸法は、吹付けできれば特に限定されるものではない。細骨材としては、川砂、山砂、海砂、石灰砂、及び珪砂等が使用可能であり、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利等が使用可能であり、砕砂、砕石も使用可能である。
【0024】
本発明で使用するセメントコンクリート中の水の量は、セメントと石炭灰の合計100部の粉体に対して42〜70部が好ましい。70部を超えると、吹付け中の剥落や強度不足する場合があり、42部を下回ると、コンクリートが強く粘り、施工性が悪化し、スラリー急結剤がうまく混ざらず、粉じん量が増加する場合がある。
【0025】
本発明で使用するセメントコンクリートのスランプは、特に限定されるものではなく、良好な作業性が得られれば良い。一般的にスランプは6cm未満であると粘りが非常に強くなる傾向にあり、施工が困難となる。
【0026】
本発明の吹付け材料は、スラリー急結剤を添加しない材料と比べ、材齢7日の圧縮強度比が80%以上となり、材齢91日の圧縮強度が18N/mm以上となる。
【0027】
本発明の吹付け材料を用いた吹付け工法においては、従来使用の吹付け設備等が使用可能である。具体的には、例えば、吹付けセメントコンクリートの圧送にはシンテック社製、商品名「MKW−25SMT」などが、また、急結剤の圧送には急結剤圧送装置「ナトムクリート」などがそれぞれ使用可能である。
【0028】
本発明のスラリー急結剤を用いた吹付け工法としては、要求される物性、経済性、及び施工性等に応じた種々の吹付け工法が可能であるが、湿式吹付け工法が可能である。
湿式吹付け工法としては、例えば、セメント、細骨材、粗骨材、及び水を加えて混練したセメントコンクリートをポンプ圧送し、途中にY字管を設け、その一方から急結剤供給装置により圧送したスラリー急結剤を合流混合して得られる吹付け材料を吹付ける方法が挙げられる。
【0029】
本発明の急結剤スラリーを用いた吹付け工法においては、通常、吹付け圧力は0.2〜0.5MPaが好ましく、吹付け速度は4〜20m/hが好ましい。
急結剤を圧送する圧送空気の圧力は、セメントコンクリートが急結剤スラリーの圧送管内に混入した時に圧送管内が閉塞しないように、セメントコンクリートの圧送圧力より0.01〜0.3MPa大きいことが好ましい。
【0030】
本発明のスラリー急結剤を用いた吹付け工法においては、粉塵やリバウンドを低減するために、急結剤に水を加えて連続的に急結剤をスラリー化し、このスラリー急結剤を、吐出口先端で吹付けセメントコンクリートと混合して吹付けることが好ましい。急結剤を連続的にスラリー化する方法としては、例えば、粉体急結剤を空気圧送する圧送管の周囲に穴を開け、その穴から高圧水を圧送管内へ加水してスラリー化し、空気圧送する方法等が使用できる。
【実施例】
【0031】
「実験例1」
カルシウムアルミネート類100部、並びに、カルシウムアルミネート類100部に対して表1に示す量の硫酸塩、アルミン酸塩、炭酸アルカリ、オキシ酸類、及び減水剤と、急結剤100部に対して水70部とを混合撹拌してスラリー急結剤を調製した。また、セメントと石炭灰の合計量が400kg/mであり、セメントと石炭灰の合計100部中、石炭灰が55部である粉体、水がセメントと石炭灰の合計100部に対して56部のコンクリート配合αから粗骨材を除いてモルタルを調製し、そのセメントと石炭灰の合計100部に対してスラリー急結剤を12部添加し、急結モルタルとし、その凝結時間と圧縮強度を測定した。
なお、比較として、以下に示す条件でモルタル物性を測定した結果も表1に併記する。
【0032】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン値3,200cm/g、比重3.16
細骨材:新潟県糸魚川市姫川水系川砂、表乾状態、比重2.62
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.68、最大寸法20mm
石炭灰:JIS A6201コンクリート用フライアッシュ、フライアッシュの品質II種に相当する
石炭灰、市販品、ブレーン値4,500 cm/g、比重2.20
カルシウムアルミネート類:C12組成に対応するもの、非晶質、ブレーン値6,500cm/g
硫酸塩:市販無水石膏粉砕品、ブレーン値5,900cm/g
アルミン酸塩:アルミン酸ナトリウム、市販品
炭酸アルカリ:炭酸ナトリウム、市販品
オキシ酸類:グルコン酸ナトリウム、市販品
減水剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、市販品
比較用急結剤1:ナトミックTYPE−5、電気化学工業社製
比較用急結剤2:硫酸アルミニウムの固形分濃度が27%である酸性液体急結剤
【0033】
<コンクリート配合α>
セメント180kg/m、石炭灰220kg/m、水224kg/m、細骨材973kg/m、粗骨材664kg/m
【0034】
<測定方法>
凝結時間:モルタルを土木学会基準「吹付けコンクリート用急結剤品質規(JSCED−102)」に準じて測定
圧縮強度:モルタルをJIS R 5201に準じて測定
【0035】
<比較>
比較例1:セメント400kg/m、細骨材995kg/m、粗骨材679kg/m、水240kg/mのコンクリートから粗骨材を除いたモルタルに急結剤(ナトミックTYPE−5)をセメント100部に対して7部添加し、混合攪拌したもの
比較例2:セメント180kg/m、石炭灰220kg/m、水224kg/m、細骨材973kg/m、粗骨材664kg/mのコンクリートから粗骨材を除いたモルタルに急結剤を加えないもの
比較例3:セメント180kg/m、石炭灰220kg/m、水224kg/m、細骨材973kg/m、粗骨材664kg/mのコンクリートから粗骨材を除いたモルタルに急結剤(ナトミックTYPE−5)をセメントと石炭灰100部に対して7部添加し、混合攪拌したもの
比較例4:セメント180kg/m、石炭灰220kg/m、水224kg/m、細骨材973kg/m、粗骨材664kg/mのコンクリートから粗骨材を除いたモルタルに酸性液体急結剤をセメント100部に対して8部添加し、混合攪拌したもの
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、硫酸塩類を配合しないと、凝結の終結時間が遅れ、圧縮強度が低いことが分かる。アルミン酸塩や炭酸アルカリを配合しないと、凝結(始発又は終結)が遅れることが分かる。オキシ酸類を配合しないと、急結剤と水を合わせた際、すぐに固化が起こり、試験ができない状態となる。減水剤を配合しないと、急結剤と水を合わせてもスラリー状態にはならず、試験ができない状態となる。このため、本発明の急結剤の構成が一つでも欠けてしまうと、満足した吹付けはできない。
比較例1は石炭灰を加えないモルタルに粉体急結剤を添加したもので、凝結や材齢1日、7日の強度発現は高いが、実施例の物性に比べると、長期強度が低下する結果となった。比較例2はベースモルタルであるが、7日強度が低い。比較例3は実施例のモルタルに粉体急結剤を加えたものであるが、初期強度が低く、1、7日強度の伸びも少なく、本発明の急結剤構成にしないと、比較例1のセメント単味の粉体急結剤と同等にはならない。比較例4では、酸性液体急結剤を加えたが、物性は向上しない。
【0038】
「実験例2」
セメント、石炭灰、細骨材、粗骨材、水からなる表2に示す配合を用いてコンクリートを調製し、吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」によりポンプ圧送した。一方、実験例1の実験No.1-9の配合割合の急結剤をセメントと石炭灰の合計100部に対して12部になるように、圧送圧力0.5MPaの条件下で、急結剤添加装置「ナトムクリート」を用いて空気圧送し、途中に設けたY字管の一方の管の周囲数カ所に設けた穴から、カルシウムアルミネート類100部に対して減水剤5部と急結剤100部に対して水70部を添加して急結剤スラリーとした。この急結剤スラリーをY字管のもう一方から圧送された吹付けコンクリートに混合し、急結性吹付けコンクリートとした。この急結性吹付けコンクリートについてコンクリート圧縮強度、リバウンド率、粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0039】
<測定方法>
コンクリート圧縮強度:材齢1時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢1日以降の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。なお、材齢7日はベースコンクリートの供試体も採取し、ベースとの強度比を求めた。
リバウンド率:急結性吹付けコンクリートを10m/hの圧送速度で10分間、鉄板でアーチ状に作成した高さ3.5m、幅2.5mの模擬トンネルに吹付けた。その後、(リバウンド率)=(模擬トンネルに付着せずに落下した急結性吹付けコンクリートの量)/(模擬トンネルに吹付けた急結性吹付けコンクリートの量)×100(%)で算出した。
粉じん量:急結性吹付けコンクリートを10m/hの圧送速度で10分間、模擬トンネルに吹付けた。その後、吹付け場所より3mの定位置で粉塵量を測定した。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表2、表3より、セメントと石炭灰の合計100部中、石炭灰が35〜60部までは、圧縮強度発現性に影響は見られない。しかし、65部になると著しい強度発現性の低下を確認した。また、セメントと石炭灰の合計100部に対して水が42部未満であると、リバウンド、粉じん量が著しく増加し、75部であると、強度発現性、リバウンド、粉じん量が悪化した。本発明の範囲内で調製するコンクリートを用いることによって良好な物性が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を採用することによって、トンネル等の吹付け作業で発生する粉塵の発生を抑えて作業性を向上し、湧水や地山面が悪化した状況下においても、高い急結性、強度発現性が得られ、石炭灰を大量に使用することが可能となるという効果を奏するので土木分野等で幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと石炭灰の合計量が360〜550kg/mであり、セメントと石炭灰の合計100質量部中、石炭灰が35〜60質量部である粉体100質量部に、水を42〜70質量部配合してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなる急結剤に、減水剤及び水を加えたスラリー急結剤とからなる吹付け材料。
【請求項2】
スラリー急結剤が、急結剤100質量部に対して水30〜100質量部である請求項1記載の吹付け材料。
【請求項3】
スラリー急結剤が、セメントコンクリート中のセメントと石炭灰の合計100質量部に対して固形分換算で3〜20質量部である請求項1又は2に記載の吹付け材料。
【請求項4】
材齢7日の圧縮強度が、急結剤無添加のセメントコンクリートの圧縮強度に比べて80%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の吹付け材料。
【請求項5】
材齢91日で圧縮強度値18N/mm以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の吹付け材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の吹付け材料において、急結剤に連続的に加水してスラリー急結剤を調整し、セメントコンクリートと合流混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法。

【公開番号】特開2012−96933(P2012−96933A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243534(P2010−243534)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】