説明

吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法

【課題】特定の粒度の炭酸カルシウムと急結剤をセメントコンクリートに適用することで、温度応力および乾燥による収縮量の低減によるひび割れ抑制などが可能な吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】(1)ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム、急結剤、セメント、および骨材を含有する吹付け材料であり、(2)セメント100部に対して、ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム2〜50部である(1)記載の吹付け材料であり、(3)急結剤が、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、および硫酸アルミニウムから選ばれるいずれかの成分を含有する(1)または(2)の吹付け材料であり、(4)(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料を用いる吹付け工法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用される吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結剤をコンクリートに配合した急結コンクリートの吹付工法が行われている(特許文献1参照)。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
急結剤としては、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩とアルカリ金属炭酸塩等との混合物、並びに、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等の混合物や、カルシウムアルミネートと3CaO・SiOとの混合物等が知られている(特許文献2〜5参照)。
【0003】
急結剤は、地山の緩みを早期に抑えるために吹付けコンクリートに必要な混和剤であるが、急結剤を添加しないコンクリートに比べて、収縮量が大きくなる傾向があり、水セメント比が大きいほど大きな差として現れるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開昭64−051351号公報
【特許文献3】特公昭56−27457号公報
【特許文献4】特開昭61−026538号公報
【特許文献5】特開昭63−210050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特定の粒度の炭酸カルシウムと急結剤をセメントコンクリートに適用することで、温度応力および乾燥による収縮量の低減によるひび割れ抑制などが可能な吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム、急結剤、セメント、および骨材を含有する吹付け材料であり、(2)セメント100部に対して、ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム2〜50部である(1)記載の吹付け材料であり、(3)急結剤が、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、および硫酸アルミニウムから選ばれるいずれかの成分を含有する(1)または(2)の吹付け材料であり、(4)(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料を用いる吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吹付け材料を用いることで、温度応力および乾燥による収縮量の低減によるひび割れ抑制が可能となり、耐久性に優れた吹付けコンクリートを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
なお、本発明で使用する部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0009】
本発明で使用するセメントとは、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、ブレーン比表面積で2000cm/gを越える石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、ならびに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0010】
本発明で使用するブレーン比表面積で500〜2000cm/gの炭酸カルシウムは、特に限定するものではないが、石灰岩を原料とし粉砕し調整したものが挙げられる。
石灰岩中の炭酸カルシウムの純度は、特に限定するものではないが、95%以上が好ましい。
【0011】
ブレーン比表面積で500〜2000cm/gの炭酸カルシウムの使用量は、施工性や硬化後の物性に影響を与えない範囲であれば特に限定するものではないが、セメント100部に対して2〜50部が好ましく、5〜30部がより好ましい。2部未満では、ひび割れ抵抗性の向上効果が発揮できない可能性があり、50部を越えると強度発現性に影響を与える可能性がある。
【0012】
ブレーン比表面積で500〜2000cm/gの炭酸カルシウムは、コンクリートを吹付けるとき、コンクリート側と急結剤側のどちらか一方または双方に加えても構わない。
【0013】
本発明で使用する急結剤とは、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、硫酸アルミニウムから選ばれるいずれかの成分を含有するものであり、市販されているものが使用可能であり、上記成分を含有するものが好ましい。
例えば、カルシウムアルミネートを含有するものとしては、カルシウムアルミネート系粉体急結剤、カルシウムサルホアルミネート系粉体急結剤、それらに水や液体急結剤を混合しスラリー化した急結剤が挙げられる。アルカリ金属のアルミン酸塩を含有するものとしては、無機塩系粉体急結剤、無機塩系液体急結剤が挙げられる。アルカリ金属のケイ酸塩を含有するものとしては、ケイ酸ナトリウム、リチウム、カリウムの水溶液が挙げられる。硫酸アルミニウムを含有するものとしては、硫酸アルミニウムを含有する粉体急結剤、硫酸アルミニウムを含有する液体急結剤が挙げられる。
急結剤の使用量は、特に限定されるものではなく、製造元のカタログ、技術資料、施工要領書などに記載されたとおりに使用できる。
【0014】
本発明のセメントコンクリートは、吹付けが可能であれば特に配合は限定されるものではない。一般的な配合としては、例えば、スランプ10cm程度、W/C=60%程度、s/a=60%程度、セメント量360kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多い。高強度タイプでは、スランプ20cm程度、スランプフローで25〜35cm、W/C=40〜50%程度、s/a=60%程度、セメント量400〜500kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多い。
【0015】
本発明で使用する骨材は、特に限定されるものではなく、市販されている骨材が使用可能であり、吹付け施工に支障をきたさないものであればよい。
【0016】
本発明では、吹付け施工に支障をきたさない範囲で、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、セルロースエーテル類、ポリエチレンオキサイド類、多糖類などの増粘剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結促進剤、凝結遅延剤、高分子凝集剤、ベントナイトなどの粘土鉱物やハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などの各種添加剤、高炉水砕スラグ微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末、フライアッシュやシリカフュームなどの混和材料、無水セッコウなどのセッコウ類からなる群のうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0017】
本発明の吹付け方法は、特に限定されるものではないが、圧送されてくる水を加えて練り混ぜたセメントコンクリートに急結剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でコンクリートと急結剤を圧送し、ノズル手前で水を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が適用される。
【実施例】
【0018】
「実験例1」
各材料の単位量として、セメント400kg/m、細骨材1058kg/m、粗骨材710kg/m、水200kg/m、炭酸カルシウム(1)をセメント100部に対して表に示す量を細骨材と置換し、さらに、高性能減水剤4kg/mとして吹付けコンクリートを調製した。この吹付けコンクリートを吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」によりポンプ圧送した。急結剤を合流するY字管から3m後方の位置で圧縮空気を導入してコンクリート空気搬送した。Y字管の一方より、急結剤を圧送しセメントコンクリートに合流混合して、吹き付けた。この急結性吹付けコンクリートについて、コンクリートの圧縮強度、リバウンド率、長さ変化率、硬化体の最大温度を測定した。結果を表1および表2に示す。
【0019】
(使用材料)
高性能減水剤:ポリカルボン酸系、市販品
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.66、最大寸法13mm
細骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂、表乾状態、比重2.62、最大寸法5mm
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
炭酸カルシウム(1):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積1550cm/g、純度99.2%
急結剤A:カルシムアルミネート含有、電気化学工業社製、商品名「ナトミックTYPE−5」(粉体)、添加率:セメント100部に対して7%
急結剤B:カルシムアルミネート含有、電気化学工業社製、商品名「ナトミックTYPE−10」(粉体)、添加率:セメント100部に対して10%
急結剤C:アルカリ金属ケイ酸塩含有、市販品、3号水ガラス(液体)、添加率:セメント100部に対して液体として8%
急結剤D:アルカリ金属アルミン酸塩含有、電気化学工業社製、商品名「ナトミックTYPE−L」(液体)、添加率:セメント100部に対して液体として8%
急結剤E:硫酸アルミニウム含有、電気化学工業社製、商品名「ナトミックLSA」(液体)、添加率:セメント100部に対して液体として9%
【0020】
(測定方法)
圧縮強度:材齢24時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。
リバウンド率:吹付けコンクリートを10m/hの圧送速度で10分間、鉄板でアーチ状に作成した高さ3.5m、幅2.5mの模擬トンネルに吹付けた。その後、(リバウンド率)=(模擬トンネルに付着せずに落下した急結性吹付けコンクリートの量)/(模擬トンネルに吹付けた急結性吹付けコンクリートの量)×100(%)で算出した。
長さ変化率:専用型枠(10×10×36cm)に吹付けて供試体を作製した。材齢1日後脱型し基長を行い、温度20℃、湿度60%の室内で28日間養生後、収縮量を測定した。測定はJIS R 1129−3(ダイヤルゲージ法)に準拠した。
最大温度上昇率:幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠の中心部に温度センサーを取り付け、吹付けコンクリートを吹き付けた。吹き付ける前のフレッシュコンクリートの温度に対して、吹き付けたコンクリート硬化体中心部の最大温度を測定しその比を最大温度上昇率とした。なお、比較のために急結剤を加えないベースコンクリートの最大温度上昇率も測定した。
測定場所は屋内とし測定時期の外気の温度変化は最低が16℃、最高が22℃であった。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
「実験例2」
実験例1の実験No.1-15の配合を基に、炭酸カルシウムの種類を変えて実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。なお、比較のために、ブレーン比表面積が500cm/gを下回る炭酸カルシウムと2000cm/gを越える炭酸カルシウムも評価した。
【0024】
(使用材料)
炭酸カルシウム(2):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積450cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(3):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積500cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(4):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積720cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(5):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積1050cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(6):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積1800cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(7):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積2000cm/g、純度99.2%
炭酸カルシウム(8):採掘した石灰岩を粉砕し粒度調整したもの。ブレーン比表面積2150cm/g、純度99.2%
【0025】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の吹付け材料を用いることで、温度応力および乾燥による収縮量の低減によるひび割れ抑制が可能となり、耐久性に優れた吹付けコンクリートを得ることが可能となるので、例えば、吹付けコンクリートのみで覆工を行うようなトンネル工事の吹付け材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム、急結剤、セメント、および骨材を含有する吹付け材料。
【請求項2】
セメント100質量部に対して、ブレーン比表面積500〜2000cm/gの炭酸カルシウム2〜50質量部であることを特徴とする請求項1記載の吹付け材料。
【請求項3】
急結剤が、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩
および硫酸アルミニウムから選ばれるいずれかの成分を含有することを特徴とする請求項1または2記載の吹付け材料。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の吹付け材料を用いる吹付け工法。

【公開番号】特開2011−26178(P2011−26178A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176190(P2009−176190)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】