説明

呈色性化合物、色素化合物、および画像形成材料

【目的】 本発明は発色性の高いロイコ色素を提供するもので、これまでの用途の感熱紙や感圧紙あるいはリライタブル材料のほか電子写真、特にプリンター、複写機、FAX、熱転写記録、筆記具あるいは印刷に用いる画像形成材料にも用いることが出来る。またこの色素は熱履歴の制御もしくは消去溶媒の接触により画像消去可能な画像形成材料に用いることを目的とする。
【構成】 電子受容性の呈色性化合物に結合した直鎖アルキル基の先にアミノ基を有することを特徴とする呈色性化合物であって、直鎖アルキル基の炭素数が3〜6のものからなる呈色性化合物。この呈色性化合物と没食子酸エチルとの化合物からなる色素化合物。この色素化合物は、消去可能な画像形成材料に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素に用いるのに適した呈色性化合物、これを顕色剤と反応させた色素化合物、及びこの色素化合物を用いた画像形成材料に関する。

【背景技術】
【0002】
地球環境の保護およびCOによる温室効果を抑制するためには森林の保護は絶対条件であり、新たな伐採を最低限に維持し、植林を含めた森林再生とのバランスを保つためには現在すでに保有している紙資源を如何に効率よく利用していくかが大きな課題となっている。現在の紙資源の再利用は、画像形成材料を剥離させる脱墨工程を経た紙繊維を質の悪い紙に漉き直して目的別に使い分ける「リサイクル」であり、脱墨工程のコスト高の問題や廃液の処理による新たな環境汚染の可能性などが指摘されている。
【0003】
その一方で、これまでに古くは鉛筆とケシゴム、筆記用具に修正液にあるように、画像の修正によるハードコピーの再利用に関しては実用化がなされてきた。また、最近ではハードコピー用紙のリユースを目的とした特殊紙リライタブルペーパーなどが提案されてきた。ここで紙質の劣化を極力防ぎ同一の目的に複数回使用する「リユース」は、紙質を落としながら他の目的に使用する「リサイクル」とは異なる概念であり、紙資源の保護の観点からみればより重要な概念であるといえる。それぞれの「リサイクル」の段階で有効な「リユース」が行われれば新たな紙資源の浪費を最小限に抑えることができる。
【0004】
本発明者らは、すでに呈色性化合物と顕色剤との相互作用が増大すると発色状態となり、相互作用が減少すると消色状態になることに着目して、呈色性化合物及び顕色剤を含有する組成系に新たに顕色剤を捕獲する消色剤を加えることにより、室温付近の温度で発色状態が安定に存在し、かつ、熱や溶媒による処理で、実用温度において長期に消色状態を固定する画像形成材料と、画像消去プロセスと、画像消去装置を現行のリサイクル技術に代わる有効な紙のリユース技術として提案してきた。我々の提案する画像材料は、画像の発色・消色状態の安定性が高く、加えて材料的にも安全性が高く、また電子写真用トナー、液体インク、インクリボン、筆記用具全てに対応可能であり、更に大規模消去処理が可能であるという従来の技術にないメリットを有していた。
【0005】
このように、先願発明は紙のリユース・リサイクルを推進し、紙ゴミを著しく減少できることから、省資源に効果が大であった。我々は、更にこの消去可能インクの検討を進めていく過程で、画像記録媒体が紙を代表とする極性高分子であり、且つ画像形成材料のバインダーが温度上昇もしくは溶剤の接触により染料捕獲量が高まる性質を有する非極性材料である場合には、画像記録媒体の顕色剤捕獲能力により、顕色剤捕獲型の消色剤を画像形成材料に入れなくても、少数回ならば画像の消色ができることを発見し、顕色剤を捕獲する消色剤を内部に含まない画像形成材料とその消色方法についても開発した(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、この組成系の開発を進める途上で、いくつかの課題が浮上してきた。第一の問題は、熱消色における発色と消色のコントラストの限界である。この組成系では、発色も消色も軟化したバインダー内での染料と顕色剤の作用の平衡によって定まる。そのため、コントラストはバインダー内で平衡定数の温度依存性によって限界が決まり、画像形成材料の作成プロセス温度と消色プロセス温度で、その限界値は定まる。すなわち選んだ材料の組みあわせで発色濃度は一義的に決定されてしまう。
【0007】
これまで良く用いられるロイコ色素はトルエンなどの非極性溶媒に比較的良く溶けるが、顕色剤は溶けにくいのでこのままだと発色しにくいが、極性溶媒を加えることで溶解し発色することが判っている。しかし使用可能な製品樹脂中ではそのような極性溶媒に相当するものが発見されておらず、色素/顕色剤にとっては不利な条件で製品が作られている。
【特許文献1】特開2005−205625
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これら従来の消去可能な画像記録材料の問題点を改善するためになされたものであり、熱履歴の制御もしくは消去溶媒の接触により消色可能な画像形成材料において、鮮明な画像を形成し、かつ品質の良い画像消去をなす画像形成材料を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の呈色性化合物は、末端アミノ置換直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物であることを特徴とする。
この発明の化合物において、前記アルキル基が、炭素数3〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0010】
第2の発明の色素化合物は、末端アミノ置換直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物と、顕色剤との反応物であることを特徴とする。
この発明の前記顕色剤が、没食子酸エステルであることが好ましい。
【0011】
第3の本発明の画像形成材料は、末端アミノ置換基直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物と顕色剤との反応物と、前記顕色剤を捕捉することのできる消色剤とを含むことを特徴とする。

【発明の効果】
【0012】
以上記述したように、本発明の呈色性化合物を用いた消去可能な画像形成材料は、発色性に優れたものであり、画像濃度を大幅に改善できるため、その工業的価値は大である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は発色性の高いロイコ色素を提供するもので、これまでの用途の感熱紙や感圧紙あるいはリライタブル材料のほか電子写真、特にプリンター、複写機、FAX、熱転写記録、筆記具あるいは印刷に用いる画像形成材料にも用いることが出来る。
またこの色素は熱履歴の制御もしくは消去溶媒の接触により画像消去可能な画像形成材料に用いることができる。
【0014】
本発明は、鮮明な画像を形成することができ得ることができ、かつ、残像性能の改善された消色可能な色素を得るためになされたものであり、新規な呈色性電子受容性化合物からなる呈色性化合物を合成し、これを用い、顕色剤と反応させることによって形成する新規な色素、およびこの色素を用いた消色可能な画像形成材料を形成するものである。
以下、これらの発明の実施の形態について順次説明する。
【0015】
[ロイコ色素呈色性化合物]
本実施の形態の呈色性化合物は、いわゆるロイコ色素に属する化合物であって、ロイコラクトン環を有する呈色性の電子受容性化合物骨格に、末端にアミノ基を有する直鎖アルキル基を結合したものである。この呈色性化合物は、後述の顕色剤と反応させることによって発色させることができる。
【0016】
本実施の形態で用いることのできる呈色性電子受容性の呈色性化合物としては、ロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類等の電子供与性有機物が挙げられる。具体的には、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)、マラカイトグリーンラクトン、2−アニリノ−6−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−メチル−N−プロピルアミノ)フルオラン、3−[4−(4−フェニルアミノフェニル)アミノフェニル]アミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、2−アニリノ−6−(N−メチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−6−(ジブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、3−クロロ−6−(シクロヘキシルアミノ)フルオラン、2−クロロ−6−(ジエチルアミノ)フルオラン、7−(N,N−ジベンジルアミノ)−3−(N,N−ジエチルアミノ)フルオラン、3,6−Bis(ジエチルアミノ)フルオラン−γ−(4’−ニトロ)アニリノラクタム、3−ジエチルアミノベンゾ[a]−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−キシリジノフルオラン、3−(4−ジエチルアミノ−2−エソキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタライド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタライド、3−ジエチルアミノ−7−クロロアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、3,3−Bis(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタライド、3,6−ジメチルエソキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メソキシ−7−アミノフルオラン、DEPM、ATP,ETAC、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール、N−(2、3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−ベンゾイルオーラミン、ローダミンBラクタム、N−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン、2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8’−メトキシ−N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、3,6−ジ−p−トルイジノ−4,5−ジメチルフルオラン−フェニルヒドラジド−γ−ラクタム、3−アミノ−5−メチルフルオラン等が例示される。これらは1種または2種以上を混合して用いることが可能である。呈色性化合物を適宜選択すれば多様な色の発色状態が得られることからカラー対応も容易である。これらの中で、特に適している材料は、トリフェニルメタン系、フルオラン系、フェニル−インドール−フタライド系のカラーフォーマーである。
【0017】
本実施の形態の呈色性化合物は、上記骨格に、末端アミノ基置換直鎖アルキル基を導入したものであり、この直鎖アルキル基の炭素数は、3から6のものが好ましい。炭素数が、2以下のものは合成が極めて困難であり、一方、炭素数が7以上のものは、合成が困難である。
【0018】
かかる末端アミノ置換直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物としては、7-[2-(4-Amino-butoxy)-4-diethylamino-phenyl]-7-(1-ethyl-2-methyl-1H-indol-3yl)-7H-furo[3,4-b]pyridin-5-oneなどが挙げられる。
【0019】
[色素化合物]
本実施の形態の色素化合物は、前記呈色性化合物と、顕色剤とを反応させて得られるものである。以下、顕色剤について説明する。
【0020】
(顕色剤)
本実施の形態の色素化合物は、前述の末端アミノ基置換直鎖アルキル基を有する電子受容性化合物に、顕色剤を作用させることによって得られる。
本実施の形態の顕色剤としては、フェノール類、フェノール金属塩類、カルボン酸金属塩類、ベンゾフェノン類、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等が挙げられ、これらを1種または2種以上混合して用いる。この中でも特に好適な材料を具体的に記載すると、没色子酸、及び没色子酸メチル、没色子酸エチル、没色子酸n−プロピル、没色子酸i−プロピル、没色子酸ブチルなど没色子酸エステル、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルなどジヒドロキシ安息香酸及びそのエステル、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,6−ジヒドロキシアセトフェノン、3,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,3,4−トリヒドロキシアセトフェノンなどヒドロキシアセトフェノン類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4‘−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4‘−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4‘−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4‘−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどヒドロキシベンゾフェノン類、2,4’−ビフェノール、4,4’−ビフェノールなどビフェノール類、4−[(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4−[(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4,6−ビス[(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4,4‘−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビス(ベンゼン−1,2,3−トリオール)]、4,4‘−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビス(1,2−ベンゼンジオール)]、4,4’,4‘’−エチリデントリスフェノール、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレントリス−p−クレゾールなど多価フェノール類が挙げられる。
これらの中で、特に適している材料は、没食子酸エステル系、ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシアセトフェノン系材料であり、さらに、没食子酸エチル、あるいは没食子酸プロピルなどが適している。
この顕色剤は、前記色素化合物に対して、ほぼ当モル分配合することが好ましい。
【0021】
[画像形成材料]
本実施の形態の画像形成材料は、上記色素化合物に、消色剤、及び必要に応じてさらに他の添加剤を配合したものであり、常温において発色しており、加熱もしくは溶媒で処理することによって消色するものである。以下、これらの材料について説明する。
【0022】
(消色剤)
消色可能な画像形成材料を構成するには、上記色素化合物に、消色剤(消去剤と呼ばれることもある)を添加して形成される。本実施の形態で用いる消色剤は、上記呈色性化合物および顕色剤のいずれか一方と優先的に相溶性を示す材料であり、画像形成材料が高温に加熱された場合、この消色剤が、呈色性化合物もしくは顕色剤と優先的に相溶することによって画像形成材料を無職化するものである。
かかる消色剤としては、ステロール化合物、コール酸、リトコール酸、テストステロン、コルチゾン、ヒドロキシル基含有脂環式化合物などを挙げることが出来る。これらの消色剤(消去剤)としては、例えば特開平10−088046号公報に記載されているものを用いることができる。
【0023】
(他の添加剤)
上記色素を用いた消去可能トナーにおいては、必要に応じて、定着性を制御するためのワックス類などを配合してもよい。本発明に用いるワックス類としては、高級アルコール、高級ケトン、高級脂肪族エステルからなる成分で構成されていることが好ましく、酸価で規定するならば10以下が好ましい。また、これらは、重量平均分子量が102〜104のものが好ましく用いられる。このような範囲であるならば、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリブチレン、低分子量ポリアルカンなどを用いることもできる。これらの添加量は0.5〜10重量部が好ましく用いられる。
【0024】
(画像形成材料の使用方法)
上記本実施の形態の画像形成材料は、様々な形態で使用することができる。たとえば、サーマルプリンターのインク;インクジェットプリンターのインク;コピー機(PPC)、レーザービームプリンター、ファックスなどのトナー;スクリーン印刷や活字印刷などの印刷インク;ボールペンや万年筆などの筆記用具のインクとして用いることができる。サーマルプリンターのインクは、呈色性化合物、顕色剤、消色剤、ワックスなどを混合してプラスチックシートに塗布して使用される。インクジェットプリンターのインクは、呈色性化合物、顕色剤、消色剤などを溶媒に分散させて使用される。トナーは、呈色性化合物、顕色剤、消色剤、バインダーなどを含む組成物を粉砕することにより調製される。この場合、代表的なバインダーとしては、ポリスチレン、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、エポキシ樹脂などが挙げられる。
この画像形成材料で形成した画像は、加熱することによって消色することができ、画像を形成した紙の再利用を可能にする。

【実施例】
【0025】
(実施例1)
アルキル直鎖の先端にアミノ基を有する呈色性化合物を、下記化学式2で示す方法により合成した。
得られた化合物は、元素分析の結果、C3238の分子式を有するものであり、その分子量は526.68の淡黄色の粉末であった。
この化合物について、LC−MS分析(液体クロマトグラフィーマススペクトル分析)、及びIR(赤外吸収スペクトル)、NMRスペクトルで分析した。その結果、LC−MS分析では、親ピークが527であった。また、IR分析では、3420cm−1(ブロードNH)、1757cm−1(C=O:ロイコラクトン環のカルボニル)などの特徴のあるピークが検出された。
また、NMR分析の結果は以下の通りであった。

1H-NMR TMS基準 ppm
1.1 (m, 2H x 2, −OCH2CH2CH2−CH2−NH2)
1.1 (t, 3H x 2, J=7.0Hz)
1.2 (t, 3H x2, J=7.0Hz) :インドール環のN−エチル基に由来
2.4 (s, 3H) :インドール環のメチル基に由来
3.1 (q, 2H x2, J=7.0Hz) : ジエチルアミノ基に由来
3.2 (m, 2H x2, インドール環 N−CH2CH2−NH2)
2.2 (s, 3H, CH3)
4.1(q, 2H,O−CH2)
6.1−8.8(s, d, dd, mなどCH= x10)

13C{1H}
NMR TMS基準 ppm
11.2, 12.3, 14.7 = CH3 x4 内1本が等価
24.9, 25.5, 36.9, 43.5, 66.8, 67.0 = CH2 x7 内1本が等価
91.4 ラクトン環の4級炭素
95.9〜168.2 芳香環の炭素は19。内3級炭素x10, 4級炭素x9
95.9, 102.6, 108.9, 118.7, 120.1, 121.1,
123.3, 131.4, 133.4, 154.1 : 3級炭素
108.9, 111.7, 119.2, 125.9, 134.1, 134.9,
149.7, 158.4, 168.2 : 4級炭素
172.7
ラクトン環のC=O炭素

【0026】
これらの分析の結果、上記化合物は、化学式1で表される
7-[2-(4-Amino-butoxy)-4-diethylamino-phenyl]-7-(1-ethyl-2-methyl-1H-indol-3yl)-7H-furo[3,4-b]pyridin-5-oneであることが確認できた。
【0027】
【化1】

化学式1
【0028】
【化2】

化学式2
【0029】
この呈色性化合物をトルエン中で、顕色剤である没食子酸エチルと当モルで反応させ、色素化合物を得た。その可視スペクトルをトルエン中で測定したところ、最大吸光波長は590nmで、吸収強度は1.4であった。この色素と同じ発色の骨格を持つblue203(山田化学)の色素はトルエンのみではあまり発色せず、発色率は、1/13程度である。このblue203ではアセトンを少し加えると発色率があがり、一定量以上加えると消色することがわかっている。
この色素の系に、5%のアセトンを加えると同様に消色した。アセトン含有率と吸光度の関係を測定した。その結果を、図1に示す。
【0030】
なおこの色素が通常のフェノール性顕色剤で青に発色し、また加熱や溶剤で消去されることを確認した。
【0031】
この色素化合物は、顕色剤の没食子酸エチル(EGと略す)が直鎖アルキル基の先のアミノ基で水素結合することで安定化しているものと推測される。この例のように、この系統の化合物は、顕色材の溶解に対して、新たに導入した色素内のアミノ基が寄与しているものと考えられる。
【0032】
(比較例1)
上記実施例において、直鎖アルキル基の先端に導入したアミノ基に代えて、水酸基を有する呈色性化合物を、下記化学式4に示す方法により合成した。
得られた化合物は、元素分析の結果、分子式がC3237であり、分子量が527.67の白色粉末であった。

【0033】
【化3】

化学式3
【0034】
【化4】

化学式4
【0035】
この化合物について、LC−MS分析(液体クロマトグラフィーマススペクトル分析)、IR(赤外吸収スペクトル)、及びNMRスペクトルで分析を行った。
その結果、LC−MS分析では、親ピークが528であった。また、IR分析の結果、3438cm−1(ブロードOH)、1759cm−1(C=O:ロイコラクトン環のカルボニル)などの特徴のあるピークが検出された。
また、NMR分析の結果は以下の通りであった。
1H-NMR TMS基準 ppm
1.04〜1.09 (m, 4H, −OCH2CH2CH2−CH2−OH)
1.06 (t, 6H , J=7.0Hz, CH2 x2 : ジエチルアミノ基)
1.2 (t, 3H, J=7.0Hz, CH3)
1.2 (t, 3H x2, J=7.0Hz) :インドール環のN−エチル基に由来
2.4 (s, 3H) :インドール環のメチル基に由来
3.1 (q, 2H x2, J=7.0Hz) : ジエチルアミノ基に由来
3.2 〜3.3(m, 2H , インドール環 N−CH2CH2−NH2)
3.6 (m, 2H, CH2OH)
4.1 (m, 3H,O−CH2, OH)
6.1−8.8(s, d, dd, mなどCH= x10)

13C{1H}
NMR TMS基準 ppm
12.3, 12.3, 14.7 = CH3 x3内1本が等価
24.8, 28.5, 36.9, 43.5, 60.1, 67.1 = CH2 x7 内1本が等価
91.4 ラクトン環の4級炭素
95.8〜168.2 芳香環の炭素は19。内3級炭素x10, 4級炭素x9
95.8, 102.6, 108.9, 118.7, 120.1, 121.1,
123.2, 131.4, 133.4, 154.0 : 3級炭素
108.9, 111].7, 119.2, 125.9, 134.1, 134.9,
149.7, 158.4, 168.2 : 4級炭素
172.8
ラクトン環のC=O炭素

【0036】
これらの情報から、上記化合物は、上記化学式3で表される
7-[4-Diethylamino-2-(4-hydroxy-butoxy)-phenyl]-7-(1-ethyl-2-methyl-1H-indol-3yl)-7H-furo[3,4-b]pyridin-5-oneであることが確認できた。

【0037】
この色素はトルエン中で顕色剤のEGと反応してやや着色するが実施例1のような強い発色効果は観測されなかった。すなわちアミノ基のほうが効果的であることが判った。
【0038】
なおこの色素が通常のフェノール性顕色剤で青に発色し、また加熱や溶剤で消去されることを確認した。

【0039】
(実施例2)
上記実施例1と同様にして、下記表1に示すように、直鎖アルキル基の炭素数を変更して合成した呈色性化合物、比較のためのヒドロキシアルキル基含有化合物を合成しその特性を評価した。また併せて直鎖アルキル基を持たないロイコ色素化合物について特性の評価を行った。
表1において、各種ロイコ色素を「CnNH2」のように略すことがある。これは、電子受容性の呈色性化合物に、炭素数nの直鎖アルキル基が結合しており、その末端にアミノ基が結合していることを表している。また、「BlueC5OH」は、下記化学式5のロイコ色素化合物の骨格に炭素数の直鎖アルキル基が結合しており、その末端に水酸基が結合していることを表している。
【0040】
【化5】

化学式5
【0041】
なお、アミノアルキル基含有呈色性化合物について、アルキル基の炭素数が2の場合には、合成が不可能であり、一方、アルキル基の炭素数が7以上の場合には、合成が極めて困難で、その合成は実用的ではなかった。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1において、Blue203は、山田化学の市販品であり下記化学式5で示される化合物である。
【0044】
上記比較例で示したようにトルエン単独溶媒中でEGと反応して発色できるのは直鎖の先にアミノ基がついた本願発明の呈色性化合物で、水酸基を有する比較例の化合物では効果がないことが再確認された。またこの表からも、アルキル基の炭素数5のものがやや大きな吸収強度を持つことが分かる。また酢酸中の発色はεの大きさからしてもまったく別な条件に支配されていることが想像される。
【0045】
さらに直鎖アルキル基の炭素数が3,4,5,6のものに関して、温度による発色の状況を図2に示す。これによって温度変化に対しては、炭素数5の化合物が格別優れていることが分かる。
【0046】
これより、温度特性と平衡定数の関係を算出した。その結果を図3に示す。
上記の結果から、炭素数5のアルキル基を有する化合物が、EG結晶を溶解させる際に有利な長さであると推定できる。
【0047】
また、本願発明の呈色性化合物について、平衡の標準生成エンタルピー変化を得た。その結果、炭素数5の化合物の標準生成エンタルピーが他のものよりも絶対値が小さいことが分かり、発色体生成に有利であることが定量的に示された。

【0048】
(実施例3)
上記C4の色素[MW.526.68]を46.65g、顕色剤EG(没食子酸エチル)[MW:198.17]を22g、ポリスチレンブタジエン共重合樹脂を997g、電荷調整剤としてLR147(日本カーリット)、ポリプロピレンワックス55gを混合し、ニーダーで混錬した。混錬物を冷却し、粗粉砕後、ジェットミルで微粉砕し、分級して10ミクロン前後の青色粉体である画像形成材料を得た。粉体濃度をミノルタの色彩色差計で測定したところ0.85であり十分な濃度を示した。この粉体をアセトンにつけると消色したので、消去可能なトナーとして使用できることが確認できた。粉体濃度は予想より小さかった。
【0049】
(実施例4) 顕色剤と発色温度領域
前記実施例1で得られた呈色性化合物を用いて、発色の温度依存性を調べた。図4は没食子酸エチル(Ethyl Gallate、EG)と2,4-Dhydroxybenzophenon(DHBP) の2つの顕色剤を用いて発色させることによって、アミノ基の直鎖の長さを変えたロイコ色素による発色の温度依存性を測定した。
この結果より、いずれの顕色剤を用いた場合でも、温度上昇で急速に消色したが、EGを用いた場合のほうが、20K(ケルビン)ほど、高温領域でも発色することが明かとなった。
この結果から、EGの場合には直鎖の長さで炭素数5のものが、炭素数4もしくは炭素数6のものより発色していることから適度な長さが必要であり、顕色剤の構造の異なるDHBPの場合には炭素数4のものと、炭素数5のものがほぼ同じということから、直鎖アミノ基は発色において重要な役割を果たしていることが推定される。ロイコ色素の発色ではフェノール性水酸基がロイコラクトン環のCOに接近し、水素結合すると考えられ、色素と顕色剤との間で、少なくとも二箇所の相互作用があることが判明した。

【0050】
(実施例5) ベンゾエイト系での評価
前記数種類の新規ロイコ色素で最も発色したC5NH2を用いて、今度は顕色剤を変えてトルエン単独溶媒中で評価した。用いた顕色剤は下記に示すベンゾエイト系で、3,4,5−位にOH基があるのがEGである。EGのみ1桁少ない濃度で実施してこの値になることから性能の差が極めて大きいことが定量的に分かる。ロイコ色素の発色率は非線形の濃度依存性があるので複雑だが、発色しにくかった2,6−位や4−位の顕色剤は濃度を大きくしてもあまり発色しなかった。このグラフ上では4−の場合に4倍量も入れて測定している。2,6−は10倍量(0.1mol/l)入れても発色しなかった。
2,6−ジヒドロキシエチルベンゾエイト
2,4−ジヒドロキシエチルベンゾエイト
3,5−ジヒドロキシエチルベンゾエイト
4−ヒドロキシエチルベンゾエイト
3,4−ジヒドロキシエチルベンゾエイト
3,4,6−トリヒドロキシエチルベンゾエイト
3,4−ジヒドロキシエチルベンゾエイトを用いた色素の濃度と発色の関係を調べた。その結果を図5に示す。
【0051】
今回EGと類似構造の化合物をOH基の数と位置を変えて評価した。下記図6に温度変化を行って観測した発色率(%)変化の結果を示す。非常に顕著な結果は、OHが3つのEGが最も発色性が大きく2,6−位や4位に1個だけではほとんど発色に寄与しないことが分かった。2,6−の結果から同じOH基数でも置換位置が悪いと発色に寄与できないことが分かる。

【0052】
(実施例6)
実施例1の色素化合物において、顕色剤である没食子酸エチルに代えて、没食子酸プロピルを用いて色素化合物を形成した。
その結果、濃度1x10−3mol/lで、25℃で吸光度が1.32であることが確認された。これはEGに比較しても良い結果であった。


【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】混合溶媒中におけるアセトン含有量と吸光度の関係を示すグラフ。
【図2】温度と吸光度との関係を示すグラフ。
【図3】温度と平衡定数の関係を示すグラフ。
【図4】色素ごとの温度と吸光度との関係を示すグラフ。
【図5】3,4−ジヒドロキシエチルベンゾエイトを用いた色素濃度と吸光度との関係を示すグラフ。
【図6】BlueC5NH2ベンゾエイト系顕色剤による発色率の温度依存性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端アミノ置換直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物であることを特徴とする呈色性化合物。
【請求項2】
前記アルキル基が、炭素数3〜6のアルキル基であることを特徴とする請求項1記載の呈色性化合物。
【請求項3】
末端アミノ置換直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物と、顕色剤との反応物であることを特徴とする色素化合物。
【請求項4】
前記顕色剤が、没食子酸エステルであることを特徴とする請求項3記載の色素化合物。
【請求項5】
末端アミノ置換基直鎖アルキル基を有する電子受容性の呈色性化合物と顕色剤との反応物と、前記顕色剤を捕捉することのできる消色剤とを含むことを特徴とする画像形成材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−78483(P2009−78483A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250644(P2007−250644)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】