説明

周波数選択性電磁波シールド材

【課題】特定周波数の電磁波を遮蔽するときの遮蔽性能を容易に向上させることを実現する。
【解決手段】基材11の一の平面上に、導電性を持つループ形状1が複数形成されるとともに間隔dを置いて規則的に配置され、導電性を持つループ形状1は、長さの等しい4つの弧がループ状に連結されて成り、それぞれの弧がループ形状の内側に凹のくぼみをなしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を反射、散乱または吸収する周波数選択性電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話網や無線LAN等の無線通信システムの利用が拡大するに伴い、情報の乗った電波の伝搬を抑制することが必要になってきている。例えば、業務情報の機密性保護のために事務所内の無線LAN端末機から放射された電波が外部に伝搬しないよう遮断したり、或いは、周波数利用効率の向上のために干渉となり得る電波を遮断したりすることが要望されている。このため、特定の周波数の電磁波を遮蔽する周波数選択性電磁波シールド材が検討されている。
【0003】
従来の周波数選択性電磁波シールド材としては、例えば、特許文献1,2に開示されている。特許文献1の周波数選択性電磁波シールド材は、透明基材の少なくとも片面に幅50マイクロメートル以下の導電体の集合体によるアンテナパターンが形成されている。特許文献2の周波数選択性電磁波シールド材は、一の平面上に規則的に導電性を持つループ形状が複数配置された導電性ループパターンを有し、少なくとも導電性を持つループ形状を4個有する導電性ループブロックが複数個形成されている。その導電性ループパターンとしては、導電性を持つ、特に正方形のループ形状を格子状に配置したものが好ましいとしている。
【特許文献1】特開2003−258487号公報
【特許文献2】特開2001−177293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の周波数選択性電磁波シールド材では、特定周波数の電磁波を遮蔽するときの遮蔽性能を向上させ難いという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、特定周波数の電磁波を遮蔽するときの遮蔽性能の向上を容易に図ることのできる周波数選択性電磁波シールド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材は、基材の一の平面上に、導電性を持つループ形状が複数形成されるとともに間隔を置いて規則的に配置され、前記ループ形状は、長さの等しい4つの弧がループ状に連結されて成り、それぞれの弧がループ形状の内側に凹のくぼみをなしていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材においては、格子状に配置された第1の導電性を持つループ形状間の隙間にさらに第2の導電性を持つループ形状が配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材においては、前記第1の導電性を持つループ形状と前記第2の導電性を持つループ形状とでは弧の長さが異なることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材においては、前記弧の曲率半径は一定ではないことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材においては、弧の長さが異なる複数の種類の前記導電性を持つループ形状が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る周波数選択性電磁波シールド材においては、一の前記導電性を持つループ形状において、前記弧の連結部に関して対向する連結部間の距離が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定周波数の電磁波を遮蔽するときの遮蔽性能を容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る導電性を持つループ形状1を示す平面図である。図1において、導電性を持つループ形状1は、長さの等しい4つの弧2がループ状に連結されて成る。それぞれの弧2は、導電性を持つループ形状1においてループ形状の内側に凹のくぼみをなしている。弧2の曲率半径Rは一定である。その曲率半径Rに対応する曲率中心3は、導電性を持つループ形状1の外側にある。導電性を持つループ形状1は線幅Wを有する。また、図1には図示されないが、導電性を持つループ形状1は厚さDを有する。導電性を持つループ形状1は導電性材料(例えば、銅、アルミニウム等の金属)で構成される。
【0015】
図2は、本発明の第1実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材10の構成例を示す模式図である。図2において、周波数選択性電磁波シールド材10は、基材11の一の平面上に、導電性を持つループ形状1が複数形成されて成る。それら導電性を持つループ形状1は、基材11の一の平面上に、間隔dを置いて格子状に配置される。間隔dは、隣り合う導電性を持つループ形状1における弧2の連結部間の距離である。間隔dは、導電性を持つループ形状1の線幅Wの2倍の長さを目安にして決定すればよい。基材11は、絶縁性材料(例えば、プラスチックフィルム、ガラス等)で構成される。それぞれの導電性を持つループ形状1同士は電気的に絶縁されている。
【0016】
なお、基材の一平面上に導電性を持つループ形状を複数形成する方法としては、従来の公知技術を利用すればよい。例えば、印刷、エッチング、無電解メッキ若しくは蒸着のいずれかの方法を用いてもよく、又は、それらのうち複数を組み合わせた方法を用いてもよい。
【0017】
次に、導電性を持つループ形状1の詳細な構成要件(弧の長さ、線幅および厚さ)を説明する。
【0018】
遮断したい電磁波の周波数をf(単位はヘルツ(Hz))、波長をλ(単位はメートル(m))とする。また、基材11の誘電率と空気の誘電率に基づいた実効誘電率をεとすると、波長短縮率Nは、「N=1÷√ε」なる式で算出することができる。このとき、導電性を持つループ形状1を構成する弧2の長さL(単位はメートル)は、次式で算出することができる。
L=λ×N/4
【0019】
また、導電性を持つループ形状1の線幅W(単位はメートル)および厚さD(単位はメートル)は、次式で表される表皮深さδ(単位はメートル)以上にすればよい。
δ=√(2÷(ω×μ×σ))
但し、ω=2×π×f、μは透磁率、σは導電率である。
【0020】
本実施形態によれば、従来の導電性を持つ正方形のループ形状に比して、同じ周波数の電磁波を遮蔽する場合に、導電性を持つループ形状を配置するために要する面積を小さくすることができる。この点を説明する。
導電性を持つ正方形のループ形状を1個配置するために要する面積は、一辺の長さLから、「L×L」である。これに対して、本実施形態に係る導電性を持つループ形状1を1個配置するために要する最小の面積は、曲率半径Rが最小となる条件「R=2×L÷π」から、「√2×R×√2×R=8×L×L÷(π×π)」となる。但し、πは円周率である。
【0021】
従って、本実施形態に係る導電性を持つループ形状1は、導電性を持つ正方形のループ形状に比して、「8÷(π×π)」(約0.81)倍の面積で済む。言い換えれば、本実施形態に係る導電性を持つループ形状1は、導電性を持つ正方形のループ形状に比して、単位面積あたり「(π×π)÷8」(約1.23)倍の密度で配置することができる。
【0022】
上述したように本実施形態によれば、基材の一の平面上に導電性を持つループ形状を格子状に配置すると、単位面積あたりの導電性を持つループ形状の個数を従来よりも多くすることができる。単位面積あたりの導電性を持つループ形状の個数が多くなれば、その分、電磁波の遮蔽性能が向上する。つまり、本実施形態に係る導電性を持つループ形状1を用いることにより、単位面積あたりの導電性を持つループ形状の個数を増加させることができ、特定周波数の電磁波を遮蔽するときの遮蔽性能を容易に向上させることができるという格別の効果が得られる。
【0023】
また、電磁波の偏波方向は伝搬によってバラツクことが考えられるが、本実施形態に係る導電性を持つループ形状1によれば、偏波方向がばらついていたとしても、弧2によって複数の偏波方向の成分に対して遮蔽効果をあげることができる。これは、電磁波遮蔽性能の向上に貢献する。
【0024】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材20の構成例を示す模式図である。図3に示される周波数選択性電磁波シールド材20は、図2の周波数選択性電磁波シールド材10に対して、さらに単位面積あたりの導電性を持つループ形状1の密度を上げたものである。図3においては、図2の周波数選択性電磁波シールド材10において格子状に配置された導電性を持つループ形状1間の隙間に、さらに導電性を持つループ形状1を配置している。この配置は、導電性を持つループ形状1が弧2によってループのくぼみを有することにより隙間が得られ、実現可能となったものである。なお、導電性を持つループ形状1間には、間隔dが設けられ、それぞれの導電性を持つループ形状1同士は電気的に絶縁されている。
【0025】
上述の第2実施形態によれば、単位面積あたりの導電性を持つループ形状1の密度を一層高めることができる。これにより、電磁波遮蔽性能がさらに向上する。
【0026】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る導電性を持つループ形状1aを示す平面図である。図4に示される導電性を持つループ形状1aは、図1の導電性を持つループ形状1と同様の構成であるが、弧2aの曲率半径は一定ではない。このため、図1の導電性を持つループ形状1では弧2の連結部に関して対向する連結部間の距離は全て等しいが、図4の導電性を持つループ形状1aでは弧2aの連結部に関して対向する連結部間の距離は異なる。
【0027】
図5は、本発明の第3実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材30の構成例を示す模式図である。図5に示される周波数選択性電磁波シールド材30は、図2の周波数選択性電磁波シールド材10と同様に、基材11の一の平面上に、導電性を持つループ形状1aが複数形成されるとともに間隔dを置いて格子状に配置されている。導電性を持つループ形状1a同士は電気的に絶縁されている。
【0028】
[第4実施形態]
図6は、本発明の第4実施形態に係る導電性を持つループ形状1bを示す平面図である。図6に示される導電性を持つループ形状1bは、図4の導電性を持つループ形状1aと同様に図1の導電性を持つループ形状1の変形であり、弧2bの曲率半径は一定ではない。
【0029】
図7は、本発明の第4実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材40の構成例を示す模式図である。図7に示される周波数選択性電磁波シールド材40は、導電性を持つループ形状1a及び導電性を持つループ形状1bが、基材11の一の平面上に、複数形成されている。それら導電性を持つループ形状1aと導電性を持つループ形状1bは、基材11の一の平面上に、交互に間隔dを置いて格子状に配置されている。導電性を持つループ形状1a,1b間は電気的に絶縁されている。
【0030】
なお、上述の第3,第4実施形態に係る導電性を持つループ形状1a,1bについても、その構成要件(弧の長さ、導電性を持つループ形状の線幅Wおよび厚さD)は上述の導電性を持つループ形状1と同じである。
【0031】
[第5実施形態]
図8は、本発明の第5実施形態に係る導電性を持つループ形状1c,1dを示す平面図である。図8に示される導電性を持つループ形状1c,1dは、図1の導電性を持つループ形状1と同様の構成であるが、それぞれの弧2c,2dは長さが異なっている。上述した導電性を持つループ形状1の構成要件で示したように、弧2c,2dの長さは遮断したい電磁波の周波数から決まる。従って、弧の長さが異なる導電性を持つループ形状1c,1dは、それぞれ異なる周波数f1,f2を遮蔽するものである。
【0032】
図8の例では、導電性を持つループ形状1cの方が導電性を持つループ形状1dよりも、弧の長さが短い。従って、導電性を持つループ形状1cが遮蔽する電磁波の周波数f1は、導電性を持つループ形状1dが遮蔽する電磁波の周波数f2よりも、高い。
【0033】
図9は、本発明の第5実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材50の構成例を示す模式図である。図9に示される周波数選択性電磁波シールド材50は、図3の周波数選択性電磁波シールド材20と同様に、格子状に配置された導電性を持つループ形状1d間の隙間に、さらに導電性を持つループ形状1cを配置している。導電性を持つループ形状1d間には、間隔d1が設けられている。導電性を持つループ形状1c間には、間隔d2が設けられている。それぞれの導電性を持つループ形状1c,1d間は電気的に絶縁されている。
【0034】
上述の第5実施形態によれば、異なる周波数の電磁波を遮断することが可能になる。
【0035】
図10は、本発明に係るシミュレーション結果のグラフ図である。図10において、横軸は周波数(Hz)、縦軸は電界強度(デシベル(dB))である。波形101は、周波数選択性電磁波シールド材を使用しない場合の周波数特性である。波形102は、図2に示される周波数選択性電磁波シールド材10を使用した場合の周波数特性である。シミュレーション条件は、遮断対象周波数が2.4ギガヘルツ、導電性を持つループ形状1の弧2の長さLが24.31ミリメートル、導電性を持つループ形状1の線幅Wが0.25ミリメートル、導電性を持つループ形状1の厚さDが6ミリメートル、導電性を持つループ形状1の弧2の曲率半径Rが16.75ミリメートル、基材11の比誘電率が7.4、基材11上の導電性を持つループ形状1間の間隔dが2ミリメートルである。
【0036】
図10に示されるように、第1実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材10によれば、約25dBの減衰効果が得られる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る導電性を持つループ形状1を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材10の構成例を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材20の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る導電性を持つループ形状1aを示す平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材30の構成例を示す模式図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る導電性を持つループ形状1bを示す平面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材40の構成例を示す模式図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係る導電性を持つループ形状1c,1dを示す平面図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る周波数選択性電磁波シールド材50の構成例を示す模式図である。
【図10】本発明に係るシミュレーション結果のグラフ図である。
【符号の説明】
【0039】
1,1a,1b,1c,1d…導電性を持つループ形状、2,2a,2b,2c,2d…弧、10,20,30,40,50…周波数選択性電磁波シールド材、11…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一の平面上に、導電性を持つループ形状が複数形成されるとともに間隔を置いて規則的に配置され、
前記ループ形状は、長さの等しい4つの弧がループ状に連結されて成り、それぞれの弧がループ形状の内側に凹のくぼみをなしている、
ことを特徴とする周波数選択性電磁波シールド材。
【請求項2】
格子状に配置された第1の導電性を持つループ形状間の隙間にさらに第2の導電性を持つループ形状が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の周波数選択性電磁波シールド材。
【請求項3】
前記第1の導電性を持つループ形状と前記第2の導電性を持つループ形状とでは弧の長さが異なることを特徴とする請求項2に記載の周波数選択性電磁波シールド材。
【請求項4】
前記弧の曲率半径は一定ではないことを特徴とする請求項1に記載の周波数選択性電磁波シールド材。
【請求項5】
弧の長さが異なる複数の種類の前記導電性を持つループ形状が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の周波数選択性電磁波シールド材。
【請求項6】
一の前記導電性を持つループ形状において、前記弧の連結部に関して対向する連結部間の距離が異なることを特徴とする請求項1に記載の周波数選択性電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−243906(P2008−243906A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78728(P2007−78728)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】