説明

呼吸センサ

【課題】 被検者に負担をかけることなく、呼吸状態を簡便かつ正確に検出することのできる呼吸センサを提供する。
【解決手段】 呼吸センサ2を、エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体20と、センサ本体20に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極A、Bと、を備えて構成する。センサ本体20は、呼吸による被検者9の体の動きに伴って弾性変形し、センサ本体20の弾性変形に基づく該電気抵抗の経時変化から、被検者9の呼吸状態が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の呼吸状態を検出することのできる呼吸センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、無呼吸症候群の発見、治療のため、呼吸状態の測定が必要となる。通常、呼吸状態の測定は、被検者の鼻孔や口腔等に、マスクやチューブ等の器具を取り付けて行われている。しかし、この方法によると、器具の装着により、被検者が息苦しさ、圧迫感を感じてしまい、被検者の負担が大きい。また、被検者が器具を意識してしまい、普段の呼吸状態が再現されにくい。一方、アテトーゼ脳性麻痺の患者には、脳の運動中枢の病変により、呼吸がうまくできないといった症状が現れる。このような患者の呼吸状態は、意識的に呼吸させた時のスパイログラム(呼吸曲線)では、正しく把握することはできない。
【0003】
例えば、被検者に負担の少ない呼吸状態の測定方法として、特許文献1には、呼吸による胴体部周囲の長さの増減から呼吸状態を検出する着衣型センサが紹介されている。また、特許文献2には、マットに感圧パイプを内臓し、マット上に横になった被検者の体の動きによる圧力変化から無呼吸を検出する無呼吸検出装置が紹介されている。
【特許文献1】特開平10−99299号公報
【特許文献2】特開2000−107154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の着衣型センサによると、着衣を被検者の体格に合わせる必要があるため、測定時における着衣の調節が煩雑である。また、着衣の重さや違和感、胴体部の締め付け感等により、被験者に負担がかかる。さらに、歩行等の運動時には、呼吸以外の情報が支配的となり、呼吸状態の正確な測定は難しい。
【0005】
一方、上記特許文献2の無呼吸検出装置によると、被検者を寝かせた状態でしか測定することはできない。また、寝返り等の姿勢変化や、その他の体動による影響を受けやすく、呼吸状態の正確な測定は難しい。また、装置が大がかりで製造コストも高い。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、被検者に負担をかけることなく、呼吸状態を簡便かつ正確に検出することのできる呼吸センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の呼吸センサは、エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体と、該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、を備えてなり、該センサ本体は、呼吸による被検者の体の動きに伴って弾性変形し、該センサ本体の弾性変形に基づく該電気抵抗の経時変化から、該被検者の呼吸状態を検出可能なことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0008】
本発明の呼吸センサにおけるセンサ本体(以下、適宜「本発明におけるセンサ本体」と称す。)は、弾性変形可能であり、エラストマーと球状の導電性フィラーとを有する。本明細書において、「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。また、導電性フィラーは、エラストマー中に、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されている。ここで、「略単粒子状態」とは、導電性フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。
【0009】
このように、導電性フィラーが、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。したがって、本発明におけるセンサ本体は、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す。)、言い換えると、弾性変形していない自然状態で、高い導電性を有する。なお、本明細書における「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。
【0010】
例えば、従来からある感圧導電性樹脂は、非圧縮状態で電気抵抗が大きく、圧縮により変形すると電気抵抗が減少する。これは、感圧導電性樹脂の構成から次のように説明することができる。すなわち、感圧導電性樹脂は、樹脂と、該樹脂に配合された導電性フィラーと、からなる。ここで、導電性フィラーの充填率は低い。このため、無荷重状態において、導電性フィラー同士は離れている。つまり、無荷重状態では、感圧導電性樹脂の電気抵抗は大きい。また、荷重が印加され感圧導電性樹脂が変形すると、導電性フィラー同士が接触して、一次元的な導電パスが形成される。これにより、電気抵抗が減少する。
【0011】
これに対して、本発明におけるセンサ本体は、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。この理由は、次のように考えられる。図1、図2に、本発明におけるセンサ本体の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、センサ本体の一例であり、本発明におけるセンサ本体、導電性フィラーの形状、材質等を何ら限定するものではない。
【0012】
図1に示すように、センサ本体100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、センサ本体100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、センサ本体100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、センサ本体100に荷重が印加されると、センサ本体100は弾性変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、センサ本体100が弾性変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0013】
例えば、被検者の呼吸に伴う胸部の動きに着目すると、吸気時には、横隔膜が下がり胸部が膨張する。これに伴い、胸部表面は曲率が大きくなるように変位する。一方、呼気時には、横隔膜が上がり胸部が収縮する。これに伴い、胸部表面は曲率が小さくなるように変位する。したがって、例えば、上記センサ本体を備えた本発明の呼吸センサを、被検者の胸部表面に配置した場合、呼吸に伴う胸部表面の変位によって、センサ本体が弾性変形する。センサ本体が弾性変形すると、電極から出力される電気抵抗が変化する。センサ本体の電気抵抗の経時変化により、被検者の呼吸の周期や呼吸の深さ等、つまり呼吸状態を検出することができる。ここで、「電気抵抗を出力可能」とは、電気抵抗を直接あるいは間接的に出力可能なことをいう。すなわち、直接、電極から電気抵抗を出力する場合は勿論、電圧や電流など電気抵抗に関連する他の電気量を出力する場合を含む。
【0014】
このように、本発明の呼吸センサによると、被検者の呼吸により変位する部位に配置することで、簡便に呼吸状態を検出することができる。すなわち、従来のように鼻孔や口腔等にマスクやチューブ等の器具を取り付ける必要はない。このため、呼吸状態を測定する際に、被検者に息苦しさ、圧迫感等を感じさせずに済む。したがって、被検者への負担が小さい。また、測定する際の緊張感も少ないため、普段の呼吸状態を検出することができる。さらに、本発明の呼吸センサによると、スパイロメータを用いた呼気量、吸気量の測定とは異なり、被検者に意識的に呼吸させることなく呼吸状態を検出することができる。このため、例えば、アテトーゼ脳性麻痺の患者等の呼吸状態を、正確に把握することができる。
【0015】
また、本発明の呼吸センサを、被検者の呼吸により変位する部位に固定すると、測定時の姿勢、状態等によらず呼吸状態を測定することができる。したがって、安静時に加え、歩行等の運動時にも測定することができる。また、車椅子等で移動している間にも測定することができる。ここで、本発明の呼吸センサは、被検者の肌に直接的に固定してもよく、衣服等を介して間接的に固定してもよい。このように、本発明の呼吸センサは、例えば、家庭等で使用する医療診断補助器具として有用である。なお、本発明における「被検者」には、人間は勿論のこと、動物も含まれる。
【0016】
また、本発明におけるセンサ本体は、エラストマーを母材とする。このため、本発明の呼吸センサは、加工性に優れ、形状の自由度が高い。よって、平坦でない部位への配置も容易であり、呼吸により変位する部位の広い領域に配置することができる。
【0017】
本発明の呼吸センサでは、エラストマーや導電性フィラーの種類、導電性フィラーの充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な弾性変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、弾性変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0018】
また、本発明の呼吸センサは、無荷重状態において高い導電性を有する。つまり、本発明の呼吸センサは、無荷重状態において導電状態にある。このため、無荷重状態において、導電性の低いセンサ(例えば、従来の感圧導電性樹脂を用いたセンサ)と比較して、作動診断が容易である。すなわち、無荷重状態において導電性の低いセンサの場合、無荷重状態のままでは、正常なのか異常なのか(例えば回路に断線等が生じているのか)判別しにくい。このため、導電性が低いセンサに、敢えて、比較的高い電圧を印加して、通電させてみる必要がある。あるいは、センサを試験的に作動させて通電状態をチェックする必要がある。したがって、作動診断が煩雑である。これに対して、本発明の呼吸センサの場合、無荷重状態において高い導電性を有している。このため、無荷重状態のままで、正常、異常の判別がし易い。したがって、作動診断が容易である。例えば、呼吸状態の測定開始時に、本発明の呼吸センサが組み込まれている回路に電流を流すことで、容易に作動診断を行うことができる。
【0019】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記被検者の胸部および腹部の少なくとも一方を含む領域に配置されている構成とするとよい(請求項2に対応)。
【0020】
被検者が呼吸すると、主に胸部、腹部が膨張、収縮する。このため、胸部や腹部付近は、呼吸による変位量が大きい。したがって、本構成によると、センサ本体の弾性変形量を大きくすることができる。その結果、被検者の呼吸状態を、より高精度で検出することができる。
【0021】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記センサ本体は、弾性的に曲げ変形可能である構成とするとよい(請求項3に対応)。本構成によると、呼吸による被検者の体の動き、例えば、胸部、腹部等の膨張、収縮に追従して、センサ本体が曲げ変形する。このため、センサ本体の曲げ変形による電気抵抗の変化を検出することができる。センサ本体が曲げ変形した場合、単なる圧縮変形、伸張変形と比較して、より大きな弾性変形量を確保し易い。したがって、本構成によると、被検者の呼吸状態を高精度で検出することができる。
【0022】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、さらに、前記センサ本体と前記被検者の体との間に介装される基材を有する構成とするとよい(請求項4に対応)。
【0023】
ここで、「被検者の体」とは、被検者の肌は勿論、被験者が身に付けている衣服を含む(次の(5)、(6)の構成についても同じ)。本構成において、基材を、例えば絶縁性の高い材料から構成することにより、センサ本体から被検者への導電を遮断することができる。これにより、本発明の呼吸センサの安全性をより向上させることができる。また、基材を介装させることにより、本発明の呼吸センサを被検者の肌に直接的に固定した場合でも、被検者の肌表面の汗、油分等から、センサ本体を保護することができる。さらに、基材の材質を調整することにより、被検者の肌のかぶれ防止等が可能となり、被検者の体への負担をより少なくすることができる。
【0024】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記センサ本体は、前記被検者の体に固定される固定面と、該固定面に背向する背向面と、を有し、テープ部材で該背向面側から該被検者の体と共に被覆することにより、該被検者の体に固定されている構成とするとよい(請求項5に対応)。
【0025】
例えば、医療用のテープ部材として、サージカルテープ等が知られている。したがって、本構成によると、例えば、市販のテープ部材を利用して、本発明の呼吸センサを被検者の体に容易に固定することができる。また、本構成によると、センサ本体の背向面の変形が、テープ部材により規制される。これにより、固定面の変形量と、背向面の変形量と、の較差が大きくなる。その結果、センサ本体全体としての弾性変形量が大きくなり、電気抵抗の増加量も大きくなる。したがって、本構成によると、被検者の呼吸状態をより検出し易くなる。なお、「被検者の体に固定される固定面」とは、固定面が被検者の体に直接固定される態様と、基材等を介して間接的に固定される態様と、の両方を含む。
【0026】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記センサ本体と前記被検者の体との間には接着部材が配置され、該接着部材により該被検者の体に固定されている構成とするとよい(請求項6に対応)。
【0027】
本構成によると、両面テープ、接着ゲル等の接着部材を利用して、本発明の呼吸センサを被検者の体に容易に固定することができる。また、上記(5)の構成と組み合わせると、センサ本体をより強固に固定することができるため、センサ本体がはずれにくくなる。なお、上記(4)の構成により、センサ本体と被検者の体との間に基材が介装されている場合には、接着部材を基材と被検者の体との間に配置すればよい。すなわち、基材の被検者の体との接触面に、接着部材を配置すればよい。
【0028】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記センサ本体は、前記エラストマーと前記導電性フィラーとを必須成分とするエラストマー組成物からなり、該エラストマー組成物の、該導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該導電性フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である構成とするとよい(請求項7に対応)。
【0029】
一般に、絶縁性のエラストマーに導電性フィラーを混合してエラストマー組成物とした場合、エラストマー組成物の電気抵抗は、導電性フィラーの配合量によって変化する。図3に、エラストマー組成物における、導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を模式的に示す。
【0030】
図3に示すように、エラストマー101に導電性フィラー102を混合していくと、エラストマー組成物の電気抵抗は、はじめはエラストマー101の電気抵抗とほとんど変わらない。しかし、導電性フィラー102の配合量がある体積分率に達すると、電気抵抗が急激に低下して、絶縁体−導電体転移が起こる(第一変極点)。この第一変極点における導電性フィラー102の配合量を、臨界体積分率(φc)と称す。また、さらに導電性フィラー102を混合していくと、ある体積分率から、電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する(第二変極点)。この第二変極点における導電性フィラー102の配合量を、飽和体積分率(φs)と称す。このような電気抵抗の変化は、パーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー101中に導電性フィラー102による導電パスP1が形成されるためと考えられている。
【0031】
例えば、導電性フィラーの粒子径が小さい、導電性フィラーとエラストマーとの相溶性が悪い等の理由により、導電性フィラーが凝集し、凝集体が形成されている場合には、一次元的な導電パスが形成され易い。このような場合には、エラストマー組成物の臨界体積分率(φc)は、20vol%程度と比較的小さくなる。同様に、飽和体積分率(φs)も比較的小さくなる。言い換えると、臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)が小さい場合には、導電性フィラーは一次粒子として存在しにくく、二次粒子(凝集体)を形成し易い。よって、この場合、導電性フィラーをエラストマー中に多量に配合することは難しい。つまり、導電性フィラーを最密充填に近い状態で配合することは難しい。また、粒子径の小さな導電性フィラーを多量に配合すると、凝集構造が三次元的に成長するため、弾性変形に対する導電性の変化が乏しくなる。
【0032】
本構成によると、センサ本体は、飽和体積分率(φs)が35vol%以上であるエラストマー組成物からなる。飽和体積分率(φs)が35vol%以上と大きいため、導電性フィラーは、エラストマー中に略単粒子状態で安定に存在する。よって、導電性フィラーを、最密充填に近い状態で配合することができる。
【0033】
(8)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーの充填率は、前記センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である構成とするとよい(請求項8に対応)。
【0034】
本構成によると、エラストマー中に導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合される。よって、センサ本体に、導電性フィラーによる三次元的な導電パスが形成され易くなる。
【0035】
(9)好ましくは、上記(1)ないし(8)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーは、カーボンビーズである構成とするとよい(請求項9に対応)。
【0036】
カーボンビーズは、導電性が良好で、比較的安価である。また、略真球状を呈しているため、高充填率で配合することができる。
【0037】
(10)好ましくは、上記(1)ないし(9)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーの平均粒子径は、0.05μm以上100μm以下である構成とするとよい(請求項10に対応)。
【0038】
本構成によると、導電性フィラーは凝集しにくく、一次粒子の状態で存在し易い。なお、平均粒子径は、一次粒子の状態で存在する導電性フィラーの平均粒子径を意味する。
【0039】
(11)好ましくは、上記(1)ないし(10)のいずれかの構成において、前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む構成とするとよい(請求項11に対応)。
【0040】
本構成によると、エラストマーと導電性フィラーとの相溶性が良好である。このため、導電性フィラーが一次粒子の状態で存在し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の呼吸センサの実施形態について説明する。まず、本発明の呼吸センサの実施形態について説明し、次に、本発明の呼吸センサを構成するセンサ本体について詳しく説明する。
【0042】
〈呼吸センサ〉
まず、本実施形態の呼吸センサの配置について説明する。図4に、本実施形態の呼吸センサが配置された被検者の胸部付近の正面図を示す。図4において、方位は、被検者を基準に定義している。図4にハッチングで示すように、呼吸センサ2は、被検者9の左半身における胸部と腹部との境界付近に、左右方向に延在して配置されている。呼吸センサ2は、後述する制御装置(図略)と、導線(図略)により接続されている。
【0043】
次に、呼吸センサ2の構成について説明する。図5に、呼吸センサ2付近の正面図を示す。図5において、方位は、被検者9を基準に定義している。また、図6に、図5のVI−VI断面図を示す。なお、図6では、説明の便宜上、導線を省略して示す。図5、図6に示すように、呼吸センサ2は、センサ本体20と基材フィルム21とを備えている。
【0044】
基材フィルム21は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基材フィルム21の膜厚は、約0.1mmである。基材フィルム21の左端上部には、コネクタ22が取り付けられている。基材フィルム21の裏面(被検者9側の面)には、両面テープ80が配置されている。両面テープ80で貼り付けられることにより、基材フィルム21は、被検者9の肌に直接的に固定されている。基材フィルム21は、本発明における基材に含まれる。また、両面テープ80は、本発明における接着部材に含まれる。
【0045】
センサ本体20は、左右方向に延びる長尺板状を呈している。センサ本体20の大きさは、幅約5mm、長さ約100mm、厚さ約2mmである。センサ本体20は、基材フィルム21の表面に固定されている。センサ本体20は、息を吐ききった状態でちょうど無荷重状態(自然状態)になるよう、配置されている。
【0046】
センサ本体20は、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)中に、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズ(登録商標)ICB0520」、平均粒子径約5μm)が配合されたエラストマー複合材料からなる。カーボンビーズの充填率は、センサ本体20の体積を100vol%とした場合の48vol%である。また、EPDMにカーボンビーズを混合したエラストマー組成物のパーコレーションカーブにおいて、臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%である。
【0047】
センサ本体20の右端には電極Aが、左端には電極Bが、各々取り付けられている。詳しく説明すると、電極A、Bは、各々金属製であって、上下に延びる短冊状を呈している。電極A、Bは、その一部がセンサ本体20と基材フィルム21との間に介装されるよう配置されている。電極Aとコネクタ22とは導線23Aにより、電極Bとコネクタ22とは導線23Bにより、各々、結線されている。また、電極A、Bと、後述する制御装置(図略)とは、コネクタ22を介して、導線23A、23Bにより接続されている。
【0048】
次に、本実施形態の呼吸センサ2が組み込まれた呼吸測定装置の電気的構成について説明する。図7に、本実施形態の呼吸測定装置のブロック図を示す。図7に示すように、本実施形態の呼吸測定装置1は、呼吸センサ2と、制御装置3と、表示装置4と、を備えている。ここで、制御装置3は、ブリッジ回路30と、増幅回路31と、入力回路32と、波形処理部33と、記憶部34と、出力回路35と、を備えている。
【0049】
ブリッジ回路30には、抵抗R1〜R3が配置されている。抵抗R1〜R3と、センサ本体20の抵抗Rとにより、ホイーストンブリッジ回路が構成されている。電源Vin(詳しくは制御装置3の内部電源)の電圧、抵抗R1〜R3の電気抵抗値は、各々既知である。このため、抵抗R2と抵抗R3との中間電位V1と、抵抗Rと抵抗R1との中間電位V2と、の電位差を測定することにより、実質的にセンサ本体20の抵抗Rを測定することができる。
【0050】
増幅回路31には、中間電位V1、V2が入力される。中間電位V1、V2の電位差ΔVは、増幅回路31により増幅され、アナログの電圧データとして、入力回路32に入力される。入力回路32は、入力されるアナログの電圧データを、デジタルデータに変換する。デジタルデータは、波形処理部33に入力される。波形処理部33は、所定のフィルタリングを施すことにより、ノイズ等を除去する。記憶部34では、フィルタリング後のデジタルデータを格納する。記憶部34は、出力回路35を介して、表示装置4に接続されている。表示装置4は、記憶部34に格納されたデジタルデータを、電圧波形あるいは抵抗波形として、表示する。
【0051】
次に、本実施形態の呼吸測定装置1の動きについて説明する。前述したように、センサ本体20は、息を吐ききった状態(最大呼気状態)でちょうど自然状態になるように、配置されている。また、前出図1に示すように、自然状態のセンサ本体20において、導電性フィラー102は、最密充填に近い状態で充填されている。このため、多数の導電パスPが形成されている。したがって、最大呼気状態において、センサ本体20の電気抵抗値は、最小値である。この状態から、被検者が息を吸うと、胸部が膨張し、胸部と腹部との境界付近表面は曲率が大きくなるように変位する。これに伴い、センサ本体20は、被検者9の前方に撓むように湾曲変形する。すると、センサ本体20(抵抗R)の電気抵抗値が大きくなる。詳しく説明すると、吸気時にセンサ本体20が湾曲変形すると、前出図2に示すように、導電性フィラー102同士が反発し合う。このため、導電パスPが崩壊してしまう。したがって、抵抗Rの電気抵抗値は、最大呼気状態に対して大きくなる。このように、平常時においては、センサ本体20は、自然状態(最大呼気状態)→中湾曲状態→大湾曲状態(最大吸気状態)→中湾曲状態→自然状態という変化を、周期的に繰り返す。したがって、被検者9の呼吸周期に合わせて、センサ本体20の電気抵抗値は変化する。
【0052】
図8に、本実施形態の呼吸測定装置1により得られた電気抵抗値の変化の一例を示す。図8に示すように、被検者が息を吸うと(吸気)、抵抗Rの電気抵抗値は大きくなる。反対に、被検者が息を吐くと(呼気)、抵抗Rの電気抵抗値は小さくなる。吸気および呼気の1サイクル、つまり一呼吸が、一つの山型波形として示されている。ここで、図8中、白抜き両矢印で示すように、呼気から呼気までの時間(一山の幅。つまり一周期)が長い場合には、ゆっくりした呼吸状態であることがわかる。一方、周期が短い場合には、速い呼吸状態であることがわかる。
【0053】
次に、本実施形態の呼吸センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の呼吸センサ2によると、被検者9の胸部と腹部との境界付近に配置するだけで、従来のように鼻孔や口腔等に器具を取り付ける必要はない。このため、呼吸状態を測定する際に、被検者9に息苦しさ、圧迫感等を感じさせずに済む。また、センサ本体20の厚さは約2mmと薄い。このため、被検者9へ装着した際の違和感は少ない。このように、本実施形態の呼吸センサ2によると、被検者9へ負担をかけずに簡便に呼吸状態を測定することができる。加えて、測定する際の緊張感も少ないため、普段の呼吸状態を検出することができる。また、被検者9に意識的に呼吸させることなく、呼吸状態を検出することができる。このため、本実施形態の呼吸センサ2によると、例えば、アテトーゼ脳性麻痺の患者等の呼吸状態を、正確に把握することができる。
【0054】
また、胸部と腹部との境界付近は、呼吸による変位量が大きい。このため、呼吸に伴うセンサ本体20の弾性変形量が大きくなる。したがって、被検者9の胸部と腹部との境界付近に配置することにより、被検者9の呼吸状態を、より高精度で検出することができる。また、本実施形態の呼吸センサ2は、被検者9の肌に直接的に固定されている。このため、測定時の姿勢、状態等によらず呼吸状態を測定することができる。例えば、安静時、車椅子等による移動時、歩行等の運動時にも測定することができる。また、本実施形態の呼吸センサ2は、基材フィルム21裏面に貼着された両面テープ80により、被検者9の肌に固定されている。つまり、既存の両面テープ80により貼着するという簡便な作業で、呼吸センサ2を被検者9に装着することができる。
【0055】
また、センサ本体20と被検者9の肌との間には、ポリイミド製の基材フィルム21が介装されている。よって、センサ本体20から被検者9への導電を遮断することができる。つまり、本実施形態の呼吸センサ2の安全性は高い。また、被検者9の肌表面の汗、油分等から、センサ本体20を保護することができる。
【0056】
また、センサ本体20は、EPDMを母材とする。このため、本実施形態の呼吸センサ2は、加工性に優れ、形状の自由度が高い。よって、被検者9の体に沿うように配置しやすい。また、本実施形態の呼吸測定装置1を作動させると、呼吸センサ2に電流が流れ、常時通電状態となる。これにより、容易に作動診断を行うことができる。
【0057】
以上、本発明の呼吸センサの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、呼吸センサを、被検者の左半身における胸部と腹部との境界付近に配置した。しかし、本発明の呼吸センサの配置場所は、呼吸により変位する部位であれば、特に限定されるものではない。例えば、胸部、腹部等が好適である。ここで、配置するセンサ本体の数は、特に限定されるものではない。呼吸により変位する部位に2つ以上配置してもよい。複数箇所からデータを採取することで、検出精度を向上させることができる。例えば、呼吸センサを、被検者の左半身および右半身にそれぞれ一つずつ配置するとよい。左右両方からデータを採取することにより、例えば、寝返り等の姿勢の変化による影響を少なくすることができる。また、上記実施形態では、センサ本体を、最大呼気状態でちょうど自然状態になるように配置した。しかし、センサ本体の基準状態は、得られるデータの解析しやすさ等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、最大吸気状態でちょうど自然状態になるように配置してもよい。
【0059】
センサ本体の構成は、上記実施形態に限定されるものではない。これについては、後述する。また、センサ本体の大きさ、形状は、特に限定されるものではない。被検者の負担を少なくするという観点から、センサ本体を、被検者に違和感を与えない程度の大きさとするとよい。例えば、センサ本体の厚さを、3mm以下、さらには1mm以下とすると好適である。センサ本体の形状は、上記実施形態の長尺板状の他、四角板状、円板状等であってもよい。
【0060】
また、センサ本体に接続される電極数は特に限定されない。例えば、本実施形態のような長尺状のセンサ本体の場合、長手方向の所定間隔ごとに電極を配置すると、隣接する電極の間隔ごとに呼吸状態の検出を行うことができる。複数箇所からデータを採取することにより、例えば、姿勢等により呼吸状態を検出しにくい区間がある場合でも、それ以外の区間のデータから、呼吸状態を検出することができる。なお、電極をセンサ本体に加硫接着により固定すると、センサ本体の加硫成形と同時に、電極を配置することができる。
【0061】
上記実施形態では、呼吸センサを、被検者の肌に直接的に固定した。しかし、本発明の呼吸センサは、被検者の着衣の上から間接的に固定してもよい。また、上記実施形態では、センサ本体と被検者の肌との間に基材を介装させた。しかし、基材を介装させずに、被検者の体に配置してもよい。基材を介装させる場合、基材の材質は、特に限定されるものではない。絶縁性、被検者の皮膚への負担等を考慮して、適宜決定すればよい。また、被検者の負担を少なくするという観点から、基材の厚さを0.4mm以下、さらには0.2mm以下とすると好適である。
【0062】
また、被検者の体に対する呼吸センサの固定方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、サージカルテープ等のテープ部材を併用して、呼吸センサを固定してもよい。この場合、センサ本体の固定面と反対側の背向面側から、テープ部材を被覆して、被検者の体に呼吸センサを固定すればよい。また、上記実施形態の両面テープ(接着部材)に代えて、センサ本体の背向面側からテープ部材を被覆するだけでもよい。
【0063】
本発明の呼吸センサに接続される制御装置、表示装置の構成は、特に限定されるものではない。例えば、制御装置は、呼吸状態が正常か異常かを判別可能な演算部を備えていてもよい。この場合、呼吸状態が異常であると判別された場合には、警報装置により警報を鳴らす等して、被検者あるいは測定者に注意を喚起することができる。例えば、入力回路から演算部にデジタルデータを入力し、演算部にて、所定時間蓄積された電位差ΔV(デジタル変換後のΔV)から、呼吸振幅を算出する。一方、記憶部には、振幅下限しきい値および振幅上限しきい値を格納しておく。演算部は、算出された呼吸振幅と、これら振幅下限しきい値および振幅上限しきい値を比較する。平常時には、振幅下限しきい値<呼吸振幅<振幅上限しきい値となっている。例えば、呼吸が弱くなるような異常時には、呼吸一サイクルにおけるセンサ本体の湾曲量が小さくなる。このため、呼吸振幅が小さくなる。したがって、演算部における演算の結果、呼吸振幅≦振幅下限しきい値となる。この場合、速やかに警報装置から警報を出力する。このように、演算部の演算結果に応じて警報を出力する形態で実施してもよい。
【0064】
また、表示装置は、常に制御装置に接続されていなくても構わない。呼吸状態を知りたい時だけに、制御装置に接続してもよい。表示装置の種類は、特に限定されず、例えば、パソコン等の画面、データ出力シート等が挙げられる。
【0065】
〈センサ本体〉
本発明の呼吸センサを構成するセンサ本体は、エラストマーと導電性フィラーとを有する。エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。エラストマーは、絶縁性であることが望ましい。また、導電性フィラーとの混合物(エラストマー組成物)を調製した場合、パーコレーションカーブにおける飽和体積分率(φs)が35vol%以上となるものを用いることが望ましい。飽和体積分率(φs)が35vol%未満の場合には、導電性フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合することが難しいからである。また、飽和体積分率(φs)以上の領域においては、電気抵抗が低く、安定した導電性が発現される。よって、飽和体積分率(φs)が35vol%以上の場合には、弾性変形した際の導電体から絶縁体への電気抵抗の変化範囲が広くなる。さらに、飽和体積分率(φs)が40vol%以上となるものを用いると、より好適である。なお、本明細書における「エラストマー組成物」は、エラストマーと球状の導電性フィラーとを必須成分とする。つまり、エラストマーと球状の導電性フィラーとの混合物でもよく、エラストマー、球状の導電性フィラー、および他の添加剤等の混合物であってもよい。
【0066】
また、導電性フィラーとの親和性を考慮して、次式(1)で表されるゲル分率が15%以下のエラストマーを用いるとよい。ゲル分率が10%以下であるとより好適である。
ゲル分率(%)=(Wg−Wf)/Wf×100・・・(1)
[式(1)中、Wgは、エラストマーに導電性フィラーを混合したエラストマー組成物を、エラストマーの良溶媒に溶解した際に得られる溶媒不溶分(導電性フィラーとエラストマーとからなるゲル分)の重量である。Wfは、導電性フィラーの重量である。なお、エラストマーの良溶媒としては、溶媒とエラストマーとのSP値(溶解度パラメータ)が近いものが望ましく、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等が挙げられる。]
【0067】
ゲル分率の値は、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)の指標となる。すなわち、臨界体積分率(φc)が30vol%未満となる場合には、導電性フィラーの凝集体に吸着、結合したエラストマー分が多く存在するため、ゲル分率は比較的大きな値になる。反対に、臨界体積分率(φc)が30vol%以上となる場合には、導電性フィラーが略単粒子状態で存在するため、導電性フィラーの凝集体に吸着、結合したエラストマー分は少なく、ゲル分率は15%以下の比較的小さな値になる。
【0068】
エラストマーの具体例として、例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。なかでも、導電性フィラーとの相溶性が極めて良好なEPDMが好適である。また、導電性フィラーとの相溶性が良好なNBR、シリコーンゴムも好適である。
【0069】
導電性フィラーは、球状を呈する。なお、球状には、真球、略真球状は勿論、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)、部分球状、部分毎に半径の異なる球状、水滴形状等が含まれる。例えば、導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、導電性フィラー同士の接触により一次元的な導電パスが形成され易いからである。この場合、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。また、エラストマー中における導電性フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、導電性フィラーとして、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0070】
導電性フィラーは、導電性を有する粒子であれば、特に限定されるものではない。例えば、炭素材料、金属等の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。
【0071】
導電性フィラーは、できるだけ凝集せず、一次粒子の状態で存在することが望ましい。よって、導電性フィラーを選択する際には、平均粒子径やエラストマーとの相溶性等を考慮するとよい。例えば、導電性フィラーの平均粒子径(一次粒子)は、0.05μm以上100μm以下であることが望ましい。0.05μm未満の場合には、凝集して二次粒子を形成し易い。また、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。反対に、100μmを超えると、弾性変形による導電性フィラーの並進運動(平行運動)が、粒子径に比べて相対的に小さくなり、センサ本体の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢となる。好ましくは60μm以下、より好ましくは30μm以下である。なお、導電性フィラーとエラストマーとの組み合わせや、導電性フィラーの平均粒子径等を適宜調整することで、上記臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)を、所望の範囲内に調整することができる。
【0072】
また、導電性フィラーの粒度分布におけるD90/D10の値は、1以上30以下であることが望ましい。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径を、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、センサ本体の変形量に対する電気抵抗の増加挙動が不安定になる。これにより、検出の再現性が低下するおそれがある。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。なお、導電性フィラーとして、二種類以上の粒子を使用する場合には、D90/D10の値は100以下であればよい。
【0073】
このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンビーズが好適である。具体的には、大阪ガスケミカル社製のメソカーボンマイクロビーズ[MCMB6−28(平均粒子径約6μm)、MCMB10−28(平均粒子径約10μm)、MCMB25−28(平均粒子径約25μm)]、日本カーボン社製のカーボンマイクロビーズ:ニカビーズ(登録商標)ICB、ニカビーズPC、ニカビーズMC、ニカビーズMSB[ICB0320(平均粒子径約3μm)、ICB0520(平均粒子径約5μm)、ICB1020(平均粒子径約10μm)、PC0720(平均粒子径約7μm)、MC0520(平均粒子径約5μm)]、日清紡社製のカーボンビーズ(平均粒子径約10μm)等が挙げられる。
【0074】
導電性フィラーは、エラストマー中に高充填率で配合されている。所望の導電性を発現させるため、導電性フィラーは、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)以上の割合で配合されていることが望ましい。導電性フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合するという観点から、臨界体積分率(φc)は30vol%以上であることが望ましい。35vol%以上であるとより好適である。したがって、例えば、導電性フィラーの充填率は、センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下であることが望ましい。30vol%未満の場合には、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されないため、所望の導電性が発現しない。また、センサ本体の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、センサ本体が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0075】
センサ本体には、上記エラストマー、導電性フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。また、上記球状の導電性フィラーと共に、異形状(例えば、針状等)の導電性フィラーが配合されていても構わない。
【0076】
センサ本体は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、エラストマーに、加硫助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。続いて、導電性フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物をシート状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス加硫する。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の呼吸センサを用いた呼吸測定試験について説明する。
【0078】
〈試験方法〉
上記実施形態の呼吸センサ2(前出図5参照)を用いて、呼吸測定試験を行った。ここで、センサ本体は、以下のように作製した。まず、油展EPDM(住友化学社製「エスプレン(登録商標)6101」)85重量部(以下「部」と略称する)(85g)と、油展EPDM(住友化学社製「エスプレン601」)34部(34g)と、EPDM(住友化学社製「エスプレン505」)30部(30g)と、酸化亜鉛(白水化学工業社製)5部(5g)と、ステアリン酸(花王社製「ルナック(登録商標)S30」)1部(1g)と、パラフィン系プロセスオイル(日本サン石油社製「サンパー(登録商標)110」)20部(20g)と、をロール練り機にて素練りした。次に、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」、平均粒子径約5μm、粒度分布におけるD90/D10=3.2)270部(270g)を添加して、ロール練り機にて混合し、分散させた。さらに、加硫促進剤として、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学社製「ノクセラー(登録商標)PZ−P」)1.5部(1.5g)、テトラメチルチウラムジスルフィド(三新化学社製「サンセラー(登録商標)TT−G」)1.5部(1.5g)、2−メルカプトベンゾチアゾール(大内新興化学社製「ノクセラーM−P」)0.5部(0.5g)と、硫黄(鶴見化学工業社製「サルファックスT−10」)0.56部(0.56g)と、を添加して、ロール練り機にて混合し、分散させ、エラストマー組成物を調製した。
【0079】
調製したエラストマー組成物中のカーボンビーズの体積分率は、エラストマー組成物全体の体積を100vol%とした場合の約48vol%であった。また、エラストマー組成物のパーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)は、約43vol%、飽和体積分率(φs)は、約48vol%であった。また、エラストマー組成物を溶媒(トルエン)に溶解し、溶媒不溶分を測定したところ、ゲル分率は約3%であった。
【0080】
次に、エラストマー組成物を、所定の大きさの帯状に成形して成形体とした。その成形体を金型に充填し、長手方向両端に電極を配置して、170℃で30分間プレス加硫することにより、電極を備えたセンサ本体を得た。得られたセンサ本体におけるカーボンビーズの充填率は、センサ本体の体積を100vol%とした場合の約48vol%であった。
【0081】
作製されたセンサ本体および電極を、ポリイミド製の基材フィルム上に固定して呼吸センサを構成した。この呼吸センサを、前出図5に示すように、被検者の左半身における胸部と腹部との境界付近に配置した。一方、被検者の鼻孔下には、温度センサを配置した。
【0082】
呼吸測定試験は、次のようにして三種類行った。第一の試験は、被検者に通常の呼吸をしてもらい、通常時における呼吸センサの電気抵抗値の変化を測定した。第二の試験は、被検者に意識的に腹式で大きく呼吸をしてもらい、腹式呼吸時における呼吸センサの電気抵抗値の変化を測定した。第三の試験は、被検者に意識的に胸式で大きく呼吸をしてもらい、胸式呼吸時における呼吸センサの電気抵抗値の変化を測定した。また、第一〜第三のいずれの試験においても、温度センサにより、被検者の鼻孔下の温度を測定した。
【0083】
〈試験結果〉
各呼吸測定試験の結果を図9〜図11に示す。図9は、通常の呼吸時における呼吸センサ(抵抗R、以下図10、図11において同じ)の電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示す。図10は、腹式呼吸時における呼吸センサの電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示す。図11は、胸式呼吸時における呼吸センサの電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示す。
【0084】
図9〜図11に示すように、呼吸の種類によらず、電気抵抗値の変化は鼻孔下温度の変化と対応している。これより、本発明の呼吸センサによると、呼吸の種類に関わらず、呼吸周期の測定が可能であることがわかる。また、呼吸の種類に対応した波形が得られていることから、本発明の呼吸センサによると、呼吸周期や呼吸深さ、つまり呼吸状態を正確に把握できることがわかる。
【0085】
例えば、胸式あるいは腹式により大きく呼吸した場合には、心電計により得られた心電図波形、筋電計により得られた筋電図波形から、呼吸状態をある程度把握することができる。しかし、通常の呼吸の場合、心電図波形、筋電図波形では呼吸を示すピークが現れにくいため、呼吸状態を把握することは難しい。この点、本発明の呼吸センサによると、通常の呼吸時においても、呼吸状態を正確に測定することができる。また、得られた電気抵抗値データをフーリエ変換して規則性周期を求めることにより、呼吸周期を容易に求めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明におけるセンサ本体の荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同センサ本体の荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】エラストマー組成物におけるパーコレーションカーブの模式図である。
【図4】本発明の実施形態の呼吸センサが配置された被検者の胸部付近の正面図である。
【図5】同呼吸センサ付近の正面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】同呼吸センサが組み込まれた呼吸測定装置のブロック図である。
【図8】同呼吸測定装置により得られた電気抵抗値の変化の一例を示グラフである。
【図9】呼吸測定試験における呼吸センサの電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示すグラフである(通常時)。
【図10】呼吸測定試験における呼吸センサの電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示すグラフである(腹式呼吸時)。
【図11】呼吸測定試験における呼吸センサの電気抵抗値、および鼻孔下温度の経時変化を示すグラフである(胸式呼吸時)。
【符号の説明】
【0087】
1:呼吸測定装置
2:呼吸センサ 20:センサ本体 21:基材フィルム(基材) 22:コネクタ
23A、23B:導線
3:制御装置 30:ブリッジ回路 31:増幅回路 32:入力回路
33:波形処理部 34:記憶部 35:出力回路
4:表示装置 80:両面テープ(接着部材) 9:被検者
100:センサ本体 101:エラストマー 102:導電性フィラー
A、B:電極 ΔV:電位差 R:抵抗 R1〜R3:抵抗 V1、V2:中間電位
Vin:電源 P:導電パス P1:導電パス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体と、
該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、
を備えてなり、
該センサ本体は、呼吸による被検者の体の動きに伴って弾性変形し、該センサ本体の弾性変形に基づく該電気抵抗の経時変化から、該被検者の呼吸状態を検出可能な呼吸センサ。
【請求項2】
前記被検者の胸部および腹部の少なくとも一方を含む領域に配置されている請求項1に記載の呼吸センサ。
【請求項3】
前記センサ本体は、弾性的に曲げ変形可能である請求項1または請求項2に記載の呼吸センサ。
【請求項4】
さらに、前記センサ本体と前記被検者の体との間に介装される基材を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項5】
前記センサ本体は、前記被検者の体に固定される固定面と、該固定面に背向する背向面と、を有し、
テープ部材で該背向面側から該被検者の体と共に被覆することにより、該被検者の体に固定されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項6】
前記センサ本体と前記被検者の体との間には接着部材が配置され、
該接着部材により該被検者の体に固定されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項7】
前記センサ本体は、前記エラストマーと前記導電性フィラーとを必須成分とするエラストマー組成物からなり、
該エラストマー組成物の、該導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該導電性フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項8】
前記導電性フィラーの充填率は、前記センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項9】
前記導電性フィラーは、カーボンビーズである請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項10】
前記導電性フィラーの平均粒子径は、0.05μm以上100μm以下である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の呼吸センサ。
【請求項11】
前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の呼吸センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−229084(P2008−229084A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74069(P2007−74069)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】